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富山地方裁判所高岡支部 昭和32年(わ)81号 判決 1958年2月07日

被告人 宮田辰雄

主文

被告人を

判示第一の事実につき懲役二月に

判示第二の事実につき懲役六月に

各処する。

但し本裁判確定の日から四年間右各刑の執行を猶予する。

被告人から金十万円を追徴する。

本件訴訟費用中弁護人に支給した分の二分の一、並びに証人柳沢与造、同毛利源蔵、に各支給した分は被告人の負担とする。

本件公訴事実中

弁護士でないのに報酬を得る目的で

(一)  梶仙一から高田忠義に対する約束手形金九万円の取立方委任を受け

(二)  長柄米次郎から米納某に耕作せしめていた田地約五百坪の引揚方委任を受け、これが接渉をなし

(三)  四津川清二から中条清造に賃貸していた建物の明渡方委任を受け

以て夫々委任者の代理人として法律事務を取り扱つた

との各事実については、被告人を免訴する。

本件公訴事実中詐欺の点はいずれも無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、

第一、弁護士でないのに報酬を得る目的で、昭和二十九年六月十五日、肩書自宅において、富山市南田町百十一番地桃塚文から同市西三番町毛利源蔵に対する貸金七、八万円の取立方委任を受け、同年八月頃までの間、約三回にわたり、右毛利源蔵方に赴いて接渉をなし、よつて、同人より前記桃塚に対する債務の月賦弁済契約を締結し、以て一般の法律事件に関し委任者の代理人として法律事務を取り扱い、

第二、(一)弁護士でないのに報酬を得る目的で、昭和三十一年一月中旬頃、肩書自宅において、富山市神通町二区結城久子から同市袋町二番地稲田徳兵衛に対する条件付債権金二十万円の取立方委任を受け、その頃数回にわたり同人並びにその実弟稲田平二と接渉を重ね、よつて、同三十二年四月頃、同人より額面金二万円の約束手形三通を受け取り、以て一般の法律事件に関し委任者の代理人として法律事務を取り扱い、

(二)昭和三十二年四月十日富山地方裁判所高岡支部で行われた高木義雄所有の高岡市末広町九百八十六番地所在鉄筋コンクリート三階建建坪九坪に対する抵当権実行競売手続において、河合志郎が競落するにあたり、その競売から手を引き、同人に競落させることを約し、その対価として同所において現金十万円の供与を受け、以て不正の利益を得る目的を以て談合をなし

たものである。

(証拠)(略)

(併合罪となるべき確定裁判)

被告人は昭和三十年十月四日高岡簡易裁判所において公職選挙法違反罪により罰金二万円に処せられ、右裁判は同三十一年七月十七日確定したものであるが、右は検察事務官作成の前科調書によりこれを認める。

(法律の適用)

法律に照すと被告人の判示第一及び第二の(一)の各所為は、いずれも弁護士法第七二条本文前段、第七七条に、判示第二の(二)の所為は刑法第九六条の三第二項、第一項に夫々あたるが、いずれも所定刑中懲役刑を選択し、また判示第一の罪は、前示確定裁判の罪と同法第四五条後段の併合罪の関係にあるので、同法第五〇条により未だ裁判を経ざる本件の罪につき更に処断することとし、(なお前示確定裁判の罪は、昭和三一年一二月一九日政令第三五五号大赦令により赦免せられたものではあるが、本件判示第一の罪と併合罪になるとの点については、東京高等裁判所昭和二六年一一月二六日判決、高裁刑集四巻一三号一九六九頁、仙台高等裁判所同二八年三月三一日判決、高裁刑集六巻三号三〇七頁各参照)判示第二の各罪は同法第四五条前段の併合罪であるから、同法第四七条本文、第一〇条により、犯情の重い判示第二の(二)の罪の刑に併合加重をなし、その各刑期範囲内において被告人を主文第一項掲記の刑に処し、また情状刑の執行猶予を相当と認め、同法第二五条第一項に従い、主文第二項掲記の期間右各刑の執行を猶予することとし、なお金十万円については被告人が判示第二の(二)のとおり、犯罪行為の報酬として得たものであつて、その全部を没収することが出来ないので同法第一九条第一項第三号、第一九条の二により、これを主文第三項のとおり被告人より追徴することとし、(なお被告人の検察官に対する供述調書によれば、被告人自身も前記高木義雄に対して約五十万円の債権を有していたことが認められるが、これは債務名義を得て、強制執行法に基ずき補償されるべきものであり、また河合から受け取つた本件金十万円もその後同人に同額を返還したことが認められるがこれは全然筋違いである)訴訟費用については、刑事訴訟法第一八一条第一項本文に則り、主文第四項掲記の分のみ被告人に負担させることとする。

なお、本件公訴事実中

被告人は弁護士でないのに報酬を得る目的で、

(一)  昭和二十七年三月二十一日、自宅において、西礪波郡立野村立野梶仙一から富山市清水町東区南部一番地高田忠義に対する約束手形金合計九万円の取立方委任を受け、

(二)  同二十七年十二月頃、高岡市江尻四十一番地長柄米次郎方において、同人から同市湶町米納某に耕作せしめていた同所彌生町五十番、五十一番、五十二番、田地約五百坪の引揚方委任を受け、その頃右米納に対し、これが明渡方の接渉をなし(昭和三十二年十一月十四日付起訴状訂正申立書により訂正したもの)

(三)  同二十八年三月三十一日、同市大工町三十九番地四津川清二方において、同人から同人が中条清造に賃貸していた同市大工町三十一番地所在の建物明渡方委任を受け、

以て夫々委任者の代理人となり業として法律事務を取り扱いたるものである

との各点については、いずれも弁護士法第七二条本文前段、第七七条に該当するものとして起訴されたことは明白であり、而うして右は同法第七二条本文後段に規定するごとき営業犯として包括一罪となるものではなく、夫々一罪を構成し併合罪の関係にあるものと解すべきところ、

右弁護士法違反の法定刑は二年以下の懲役又は五万円以下の罰金となつており、且つその公訴時効は、刑事訴訟法第二五〇条第五号によれば三年となつているのである。そこで今本件についてみるに、証人梶仙一、同高田忠義、同米納正二、同中条清衛、同長柄外次郎の当公廷における各供述、及び長柄米次郎、四津川清二、四津川与四郎の検察官に対する各供述調書並びに被告人の検察官に対する昭和三十二年六月二十七日付供述調書を綜合して考察すれば、被告人の前示公訴事実記載の犯罪行為の終了時はいずれも本件公訴提起の日たる昭和三十二年六月二十七日の三年前、即ち昭和二十九年六月二十七日以前であることが認められる。従つて前示公訴事実はいずれも時効が完成したものとして刑事訴訟法第三三七条第四号に則り、主文第五項掲記のごとく免訴の言渡をなすこととする。

(詐欺に関する無罪の理由)(略)

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 日野原昌)

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