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山口地方裁判所 平成11年(レ)12号 判決 2000年3月28日

控訴人 山口県

右代表者知事 二井関成

右訴訟代理人弁護士 平岡雅紘

右指定代理人 重冨泰雄

<他4名>

被控訴人 A野太郎

右訴訟代理人弁護士 小澤克介

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一控訴の趣旨

一  原判決を取り消す。

二  被控訴人の請求を棄却する。

三  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

第二事案の概要及び争点

一  概要

本件は、暴行罪の被疑事実で徳山警察署所属の警察官らにより留置され、それに続き勾留された被控訴人が、右留置・勾留は、それらの前提となる別紙被疑事実の要旨(以下、「本件被疑事実」という。)記載に係る暴行の事実、現行犯逮捕の事実及び右逮捕に伴う手続なしに行われたもので違法であり、右違法行為により精神的損害を被ったとして、右警察官らの任用者である控訴人に対し、国家賠償法一条一項に基づき慰謝料金一万円の支払を求めたところ、原審が、右請求を認容する判決をしたので、控訴人において、これを不服として当審へ控訴した事案である。

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実(なお、証拠の掲記のないものは、前者である。)

1  当事者等

(一) 河野恒弘(以下、「河野」という。)、兼田芳昭(以下、「兼田」という。)及び山本和彦(以下、「山本」という。)は、平成八年四月当時、いずれも、徳山警察署に所属する警察官であり、控訴人の地方公務員として、犯罪捜査等に従事する者であった(なお、当時の役職は、河野につき、同署生活安全課課長、兼田につき、同署刑事第二課主任、山本につき、同署刑事官兼刑事第一課長。《証拠省略》)。

(二) 被控訴人は、空手の有段者(二段)であるところ、昭和六三年六月六日、売春防止法違反の疑いで、当時山口警察署所属の警察官であった河野によって逮捕され、同署において取り調べを受けたが、結局、不起訴処分となったことがあり(以下、「前件」という。)、このことから、同人とは顔見知りであった(前件につき、《証拠省略》により、これを認める。)。

2  本件事件の概要

被控訴人は、平成八年四月二一日午後一〇時四〇分ころ、山口県徳山市《番地省略》所在の長崎ちゃんめん徳山バイパス店(以下、「本件店舗」という。)入口付近で河野と出会った際、前件のことで口論となり、その後、両者共、同店入口付近から同店西側の駐車場(以下、「本件駐車場」という。)に移動し、同所において、両者間で、本件被疑事実に当たるかどうかが問題となる争いが生じた(以下、「本件事件」という。《証拠省略》)。

3  本件事件後の経緯

(一) 河野は、同日午後一〇時五〇分ころ、本件駐車場から西方に約三〇メートル離れた周陽二丁目のバス停近くの電話ボックス(以下、「本件電話ボックス」という。)内の公衆電話を用いて、徳山警察署の警ら用無線自動車(以下、「パトカー」という。)の手配を依頼した(《証拠省略》)。

(二) 河野は、右(一)の依頼により、本件電話ボックス付近路上に到着したパトカーの後部座席に、被控訴人及び右パトカーに乗車してきた警察官吉本房之(以下、「吉本」という。)と共に乗り込み、徳山警察署に向かった(右警察官名につき、《証拠省略》により、これを認める。)。

(三) 被控訴人は、同日午後一一時ころ、徳山警察署に到着した後、同署二階にある刑事課の第四取調室(以下、「本件取調室」という。)において、兼田から本件事件に関する取調べを受けた。

なお、被控訴人は、右取調べの間、トイレに行ったり、所持していた携帯電話で外部の人間と通話したりした(右時刻及び取調場所につき、《証拠省略》により、これを認める。)。

(四) 被控訴人は、右取調べ終了後の翌二二日午前四時〇三分、山本の指示により、徳山警察署の係官により、同署の留置場に留置され(以下、「本件留置」という。)、同月二三日、本件被疑事実により勾留されたが、平成八年五月八日、起訴猶予処分となり、釈放された(本件留置時刻につき、《証拠省略》)。

三  争点

1  本件留置は、本件被疑事実に係る暴行(以下、「本件暴行」という。)が存在しないのになされたものであるので違法か(本件暴行の事実は認められるか。)。

2  本件留置は、河野による本件被疑事実に係る現行犯逮捕行為(以下、「本件逮捕」という。)がなされないまま行われたものであるので違法か。

3  本件逮捕から本件留置に至る間の手続は違法か。

4  右1ないし3のいずれかが肯定されるとして、それにより、被控訴人に精神的損害が発生したか否か、発生したとすれば、それに係る慰謝料の額はいくらか。

四  争点に対する当事者の主張

1  争点1について

(一) 被控訴人の主張

本件事件は、被控訴人と河野が約五分間お互いの胸倉を掴み合ったという私的な喧嘩であり、同所にいた被控訴人の友人であるB山松夫(以下、「B山」という。)が二人の争いに気付き、仲裁に入った後は、両者間の身体的接触はなく、被控訴人が、B山の肩越しに河野の上着の襟を掴もうとした際、被控訴人の指が河野の左耳の辺りに触れたことがあるにすぎない。

よって、本件暴行の事実はない。

(二) 控訴人の主張

本件事件は、被控訴人が、河野に対し、前件につき、河野が被控訴人を無実の罪で逮捕したとして、同人の上着の胸や腕を握って離さず、執拗に謝罪を強要したため、これを拒否した同人と押し問答となり、その際、同人が、「根拠があって逮捕した。謝ることはできない。」と言ったのに対し、被控訴人が、いきなり本件暴行、すなわち、河野の左顔面(左耳上部)を手拳で殴ったものである。

2  争点2について

(一) 被控訴人の主張

被疑者を事件現場から任意で警察署に同行しておきながら、後で右現場で現行犯逮捕をしたとする違法を許さないための身体の拘束の有無の判断基準は、まさに物理的な強制による身体の拘束があったか否かに求めるべきであるところ、本件においては、被控訴人が本件留置に至るまでの間、次のとおり、河野が被控訴人の身体を物理的に強制した事実はないから、本件逮捕は存在しないというべきであり、したがって、これの存在を前提とする本件留置は違法である。

(1) 被控訴人は、本件事件後からパトカーに乗車するまでの間、河野から何ら物理的な力による身体の継続的な拘束を受けておらず、携帯電話で自宅に電話するなど全く自由に振る舞っていた。

(2) また、被控訴人は、本件事件が河野との掴み合いのトラブルであったとの認識しかなく、その際、河野の口から何度も聞いた逮捕するとの言葉が、現行犯逮捕の告知であるとの意識を全く持たなかった。

(3) 被控訴人が、パリカーに乗車して徳山警察署に行ったのは、河野が、「警察に行って話をしよう。」と言うので、その提案に同意し、警察で話の決着をつけるつもりで、やって来たパトカーに乗車したものにすぎず、したがって、被控訴人は、徳山警察署に到着した後も、自ら同署二階刑事課に行き、兼田による事情聴取を受けたもので、河野により身柄の拘束を受け、同署に連れて行かれたものではない。

(4) 被控訴人は、本件留置を受けるまで、徳山警察署刑事課内を自由に歩き回ることができる状態にあり、自らトイレに行ったり、所持していた携帯電話で外部と数度連絡をとるなどした。

(二) 控訴人の主張

逮捕については、被疑者に対する物理的拘束は必ずしも要件ではない。

本件の場合、河野は、次のとおり、本件暴行を受けた際、被控訴人に対し、逮捕する旨を告知し、以後、被控訴人が逃走すれば直ちに捕捉できるよう監視下に置いていたものであり、右告知時点で本件逮捕があったというべきである。

(1) 河野は、被控訴人から本件暴行を受けた際、被控訴人に対し、「お前、俺を殴ったのお、現行犯じゃ、逮捕する。四五分ぞ、署へ行こう。」と告げて本件逮捕をしたものであり、その際、被控訴人は、「おお、分かった。そんならええ、逮捕せいや。今から、徳山署でもどこでも連れて行けや。」と本件逮捕を認めている。

(2) その後、河野は、B山の妨害行為により、被控訴人の両腕を離した後、パトカーが到着するまでの間、被控訴人の身体に対する直接の拘束は行っていないが、本件逮捕時における被控訴人の言動から、被控訴人が連行に応じる意志を有していることがわかったので、強制力を行使することなく、その間、被控訴人が逃走すれば直ちに捕捉できるよう、自らの監視下に置いていたものである。

(3) なお、河野は、右のとおり被控訴人の両腕を離した際、「A野逃げるなよ、警察署に来い。」と告げたことはあるが、「警察署に行って話しをしよう。」とは言っていない。その後、河野は、被控訴人から、「わしの車で行こう。」と言われたが、それを断り、手配したパトカーに被控訴人を乗り込ませ、物理的にも身体を拘束し、徳山警察署に連行したものである。

(4) 河野は、徳山警察署到着後、被控訴人を兼田に引致したところ、被控訴人は、その後も、本件取調室内で身柄の拘束を受けていたものであり、被控訴人がトイレに行った際も監視下にあったし、携帯電話の使用についても、被控訴人において、兼田らが右取調室にいない間や、いたときも、同人らの制止を振り切ってしたものにすぎない。

3  争点3について

(一) 被控訴人の主張

本件留置は、次の(1)ないし(4)のとおり適法な逮捕手続をとることなく行われたものであり、違法である。

(1) 被控訴人は、パトカーで徳山警察署に到着後、自ら、先頭に立って二階の刑事課に行き、兼田に本件事件の経緯を説明し、事情聴取を受けたにすぎず、自らの身柄を河野から兼田に引致されていない。

(2) 被控訴人は、右事情聴取を受けるに当たり、所持品検査を受けてもいない。

(3) また、被控訴人は、右事情聴取を受けるに当たり、兼田から本件被疑事実の告知や右告知に係る弁解録取を受けてはいないので、兼田が作成した本件被疑事実に係る弁解録取書は虚偽のものである。

なお、右弁解録取書記載の弁解内容によれば、本件暴行を含む本件被疑事実の告知を受けていないことは明らかである。

(4) 被控訴人は、右事情聴取の間、前記2(一)(4)のとおりの状況にあり、身柄の拘束を受けず、あるいは、仮にこれがあったとしても、一旦身柄の拘束から解放された後であるのに、平成八年四月二二日午前四時〇三分過ぎになって初めて、山本の指示を受けた兼田から、「暴行容疑で逮捕する。」との告知を受け、本件留置をされるに至ったものである。

(二) 控訴人の主張

(1) 河野は、パトカーで徳山警察署に到着後、一番先に下車し、その後に下車した被控訴人に付き添って同署二階の刑事課に上がり、同所で勤務中であった兼田に対し、本件逮捕の経緯を説明し、同人に被控訴人の身柄を引致した。

(2) 警察官が、被逮捕者に対し、何処ででも身体検査を行うことには疑義があり、刑事訴訟法(以下、「刑訴法」という。)二二〇条一項と警察官職務執行法二条四項による場合以外は、被逮捕者の承諾を得て行うべきところ、本件において、被控訴人は、服の上から軽く身体に触れる以上の身体検査を承諾しなかったため、兼田は、それ以上の右検査を行わなかったにすぎない。

(3) 兼田は、本件取調室において、引致を受けた被控訴人に対し、「長崎ちゃんめん付近で刑事の胸倉を掴んで頭部を殴るという暴行を振るった。」ことにより逮捕された旨を告げて弁解の機会を与えたところ、被控訴人が、「河野という刑事の胸倉を掴んで暴力を振るったことは間違いない。」旨を述べたので、そのとおり記載した弁解録取書を作成したが、被控訴人は、右書面に対する署名指印を拒否したものである。

なお、被疑事実の告知は、被疑事実のすべてを告知する必要はなく、被疑者が身柄を拘束される理由を理解できる程度の告知で足りるものと解されるから、本件における兼田の右告知は適法である。

(4) その後、兼田は、平成八年四月二二日午前零時三〇分ころから、当時同署刑事第二課巡査部長であった西村一正(以下、「西村」という。)と共に、被控訴人に対して本件被疑事実に係る取調べを行ったが、被控訴人が自己の主張を行うのみで取調べに応じなかったため、右状況報告を受けた山本が、このまま釈放すれば証拠隠滅を図るおそれが強いと判断し、本件留置を決めたものである。

なお、その間における被控訴人の身柄の拘束状況は、前記2(二)(4)のとおりである。

また、山本から指示を受けた兼田は、右取調べ終了後に、被控訴人に対し、「今から留置場に入れる。」と告げ、同署当直員をして、同署留置場に留置したものである。

4  争点4について

被控訴人の損害

(一) 被控訴人の主張

被控訴人は、河野、兼田及び山本らの行為により、本件暴行の事実がなく、本件逮捕の事実が存在せず、かつ、その後の適法な逮捕手続も存在しないのに、本件留置を受け、その後、情を知らない検察官による勾留請求、及び情を知らない裁判官の裁判による勾留を経て不起訴処分により釈放となるまで違法な身柄の拘束を受けた結果、著しい精神的及び肉体的苦痛の損害を受けたところ、右損害に対する慰謝料は、少なくとも金一万円を下るものではない。

(二) 控訴人の主張

被控訴人の主張は、否認ないし争う。

第三当裁判所の判断

一  争点1について

1  前記第二、二2で認定した事実に加えて、《証拠省略》によれば、河野は、平成八年四月二一日午後一〇時四〇分ころ、本件事件の間、本件駐車場で被控訴人と向かい合っていたところ、B山が自らの約七、八〇センチメートル前に相対して立つ形で割り込み、河野に対し、被控訴人に加勢する格好で文句を言い始め、そのすきに、B山の背後右側の位置にいた被控訴人が、右腕を大きく振りかぶるようにして右手のげんこつで、河野の左耳の上付近を一回殴った旨の供述をなしていることが認められる。

そして、《証拠省略》によれば、同日午後一一時四五分ころ、徳山警察署刑事課写場において、河野の左顔面の写真が撮影され、これによれば、その左耳辺りに発赤の跡が認められること、乙第三二号証の署通報受理簿には、前記第二、二3(一)のとおり河野がパトカーの手配依頼をした際、「私が手拳でなぐられた。」と通報した旨の記載が認められること、《証拠省略》によれば、本件暴行時に、そのそばにいた、被控訴人側に立つ人物とみてよいB山が、本件事件後、同日における徳山警察署警察官の取調べ及び平成八年四月二五日における山口地方検察庁検察官の取調べのいずれにおいても、「社長(被控訴人)が、右手をこぶしにして、フックのような感じで、河野を殴った。」と、右暴行を目撃した旨の証言をしていること、以上が認められることに照らすと、前記河野の各供述には信用性が認められる。

2(一)  この点、《証拠省略》によれば(ただし、《証拠省略》については、いずれもその一部。)、被控訴人は、本件暴行の事実を否認しており、証人B山も、その証言中において、乙第一四号証及び第二六号証中に記載がある本件暴行を目撃した旨の供述は虚偽である旨述べている。

(二) しかし、一方で、被控訴人は、平成八年五月七日における山口地方検察庁検察官の取り調べに対し、自己の右手が河野の左顔部か左ほほに当たったこと自体は認めており、また、前記1のとおり、乙第一四号証及び第二六号証中の各内容は詳細であり、現場を実際に見た者でなければできない表現であることに加え、B山においては被控訴人側に立つ人物であることや、乙第一四号証を作成した警察官である証人波多野稔久の証言に照らした場合、前記2(一)に掲記した各証拠及び証人B山の右の証言の一部は、前記1掲記の各証拠に対比して客観性に欠けるので、いずれも信用することはできない。

3  よって、本件暴行は存在したものと認定されるのであり、したがって、右暴行のなかったことを前提にして、本件留置は違法であるとする争点1に関する被控訴人の主張は理由がない。

二  争点2について

1  本件留置に至る経過

前記第二、二及び第三、一で認定した各事実に加えるに、《証拠省略》によれば(右各証拠中、左の認定に反する各部分は、その余の各証拠に対比した場合、信用性に乏しく、いずれも採用し得ない。)、本件事件及びその後の経緯は、次のとおりと認められる。

(一)(1) 河野は、平成八年四月二一日、勤務終了後、食事をとるため本件店舗に立ち寄り、午後一〇時四〇分ころ、食事を済ませた後、同店を出て、その西側にある本件駐車場に向かって歩き始めたところ、同店内にいた被控訴人と目が合い、被控訴人が手招きをしているように見えたため、被控訴人に対し、山口警察署から徳山警察署に転勤になったことなどを伝えておこうと思い、同店内に引き返した。

(2) 他方、被控訴人は、同日、下関市で開催された空手道選手権大会に参加後、B山及びC川花子(以下、「C川」という。)ら三名の友人と食事をとるため、同日午後一〇時三〇分ころ、本件店舗に入っていたところ、右(1)のとおり、外を歩いている河野を見つけたことから、自分の方も同店入口に向かったものである。

(3) 河野は、本件店舗入口付近で相対した被控訴人に対し、異動で、徳山警察署に勤務することになった旨を伝えたところ、被控訴人が、「そうかね、徳山の暴力団が堂々と売春しているので捕えやあ。」などと言いだしたので、相手にならないようにと思い、「わかった、その話は署で聞くけい、また署においでいやあ。」と言って帰ろうとした。

(4) すると、被控訴人は、河野の右手首付近を強く握り、「ちょっと待ち、以前わしが無実の罪で捕まり新聞やテレビに出され、女房にも逃げられた。」などと言って、前件に関する謝罪を要求したが、河野からこれを断わられたため憤慨し、同人の上着の襟元を引っ張るようにして掴んだ。

(5) かくして、右襟元を掴まれたことから、河野は、被控訴人とお互いに胸倉を掴み合うような状態となったので、被控訴人に対し、「何をするのか、そんなことをすると公務執行妨害になるぞ、つまらんことをするな。」と言ったところ、被控訴人は、「ちゃんめんを食うのが公務か、わしが無実の罪で捕まってどれだけ苦労したか、わかっているかねえ。」と言い返した。

(6) そこで、河野は、「手を離し、その件については、立ち話もなんじゃけい、署へおいで、そこで話そう。」と言ったが、被控訴人の方は、なおも、「いや、わしは絶対許さん。ここで一言謝り、そしたら許すけい。」と執拗に追るので、「あの件は、根拠があって、裁判官の令状を得て逮捕したことだから謝る必要はない。今日は忙しいから、また署に来て話そう。」と言いながら店外に出て、本件駐車場へ向かった。

(二)(1) しかし、被控訴人は、河野の右手首付近を強く握って離そうとしなかったので、河野において自己の右手首を掴んでいる被控訴人の指を一本一本引きはがしたところ、そうするとまた、被控訴人が河野の右手首を握り返すという行為を繰り返しながら、両名は、本件駐車場へ移動して行った。その際、被控訴人は、「あの時の女も店の者も、わしが売春をやらせていたとは言っていないと言っているぞ、なんなら連れてこようかあ。」などと少し声を荒げて、再度、謝罪を求めたが、河野は、「そんなことはない。ちゃんと根拠があって逮捕したことで、取り調べる時、その根拠を話して追求しているだろうが、どっちにしても今日は忙しいから帰るぞ。」などと言いながら、やはり、被控訴人の手を振りほどこうとした。

(2) 被控訴人は、それでも、河野の右手首を握って離そうとせず、謝罪を重ねて要求したため、押し問答となり、双方が襟首を掴み合った状態になっていたところへ、被控訴人の帰りがあまりにも遅いため様子を見ようとして、B山が本件駐車場にやって来た。

(3) B山は、右二人の中に割って入った上、「社長なにをしよってんかね。」と被控訴人に尋ねたところ、被控訴人から相手の男が前件で自己を逮捕した警察官であると聞き、以前、被控訴人から前件について、無実の罪で警察に捕まったと聞いていたため、河野に対し、「その話は社長(被控訴人)から聞いている。あんたは警察の権力によって無実の者を捕まえてもええのかあ。」と口を出した。

(4) 河野は、被控訴人と掴み合いの状態を続けながら、被控訴人とB山に対し、「根拠があって、法に基づいてやったことだから、根拠もなく逮捕ができるわけがないじゃないか。A野に恨みがあるわけじゃないし。」と応答したところ、それを聞いて、再度、B山が中に入って両者を引き離した。

(5) その直後の同日午後一〇時四五分ころ、河野において、なおも、執拗に謝罪を求める被控訴人とB山に向かって、「謝ることはできん、法に基づいてやったことだから。」と言った途端、B山の右背後に位置していた被控訴人が、いきなり右手拳で河野の左耳の上辺りを殴るという本件暴行に及んだ。

(三)(1) 本件暴行を受けて直ぐ、河野は、被控訴人の両手を握り、「お前俺を殴ったのお、現行犯じゃ逮捕する。四五分ぞ、署に行こう。」と言ったところ、被控訴人は、「何、言いよるんか、何が逮捕か。」と言い返した。

(2) このような状態になった被控訴人と河野の間に、更にB山が割って入ったため、河野は、被控訴人の手を離して、B山に対し、「お前には関係ない。」と言ったところ、これを聞いた被控訴人において、「おお、分かった。そんならええ、逮捕せいや。今から、徳山署でもどこでも連れて行けいや。」とくってかかるように言った。

(3) そこで、河野は、被控訴人を徳山警察署に連行しようと思い、被控訴人が口にした自分の車で行こうという提案を断り、被控訴人に対し、「A野、逃げるなよ。殴ったことは事実じゃけえ。署へ来いよ。」と言った上で、タクシーを使うべく、本件駐車場の西方にある周陽二丁目のバス停付近まで行ったが、なかなかタクシーが通りかからなかった。そして、この間も、何回か、河野において、「逮捕する。」と言ったのに対し、被控訴人の方は、「逮捕せえや。」と言い返す状態が続いた。

(4) その後、河野は、被控訴人に、「車を呼ぶから待っちょけ。」と言っておいて、右バス停の東方にある本件電話ボックスまで行き、その中にある公衆電話で、徳山警察署の通常電話にかけ、パトカーの手配を依頼した。一方、被控訴人は、その間の同日午後一〇時四六分一三秒から二〇・五秒間、所持していた携帯電話で他へ電話をするなどしながら、B山やこれもその場にやって来たC川と共に、前記(3)で認定したバス停付近にとどまっていた。

(5) 右依頼後、河野は、パトカーの到着を待つ間、被控訴人が逃げてはいけないと思って、被控訴人の側に行こうとしたが、これを阻止しようとしたB山から、二度、その左肩で右胸に体当たりされたため、これを制止すべく、同人の胸を突いたところ、同人から、殴ったので訴えると言われて、口論となった。この間、被控訴人は、河野とB山の争いをそばで見ながら、警察に行って河野との件の話をつけるつもりで、同人の呼んだパトカーが到着するのを待った。

(五)(1) そして、間もなくの同日午後一〇時五〇分ころ、パトカーが、赤色灯を点滅させたりサイレンを鳴らしたりしないで、河野や被控訴人らがいた本件電話ボックス前付近に到着した。

(2) 河野は、被控訴人に対し、「これで行こう。」とパトカーに乗るように指示したため、パトカー後部左(助手席)側から、被控訴人がその右側の座席に乗り込み、ついで、パトカーに乗って臨場した吉本、河野の順に乗り込んだ。その際、河野は、パトカーに乗務していた吉本らを含む警察官らに対し、被控訴人を逮捕した旨を告げることはなく、右警察官らも、所持していた手錠を、被控訴人の身柄拘束のために用いることはしなかった。

(六)(1) パトカーは、右場所から出発して通常走行し、三、四分程度たった同日午後一一時ちょっと前ころ、その左(助手席)側を徳山警察署の玄関側に面する状態で同署に到着した。

なお、右走行中に、パトカー内で、河野を含む警察官らから、被控訴人を現行犯逮捕して徳山警察署へ連行するためにパトカーに乗車させたものであることを被控訴人が認識し得るような言動は、何らなされなかった。

(2) 被控訴人は、パトカーの後部右(運転席)側から降り、後部左(助手席)側から降りた河野が、その後ろに続くかたちで徳山警察署内に入り、両者共、同署二階の刑事課に上がった。この間、河野の方から、被控訴人に対し、右刑事課に向かうように指示したことはなかった。

(3) 被控訴人は、右刑事課に入室した際、変死事件の書類を作成していた兼田らに向かって、「河野という刑事に、以前、逮捕されたが無実だったことから、口論となり、頭にきて刑事の胸倉を掴んだ。河野もわしの胸を掴んだ。わしを逮捕するんなら、河野も逮捕しろ。」などとまくしたてた。

(4) その後、被控訴人の後ろから右刑事課に入室していた河野は、被控訴人を空いていた本件取調室に入れたが、その際、被控訴人の身体検査まではしなかった。

(5) そして、兼田は、本件取調室から出てきた河野から、長崎ちゃんめんの所で暴行を受けたため、被控訴人を現行犯逮捕してきた旨の説明を受けた。一方、被控訴人は、本件取調室に入室後、右室内で一人になった間の同日午後一〇時五九分一五秒から一三・五秒間と同日午後一一時〇二分五六秒から四四秒間の二回、所持していた携帯電話でC川と連絡をとった。

(6) 河野から右説明を受けた兼田は、被控訴人の取調べを担当することとなり、本件取調室に入って、被控訴人に対し、河野に対する暴行の有無につき尋ねた。それに対し、被控訴人は、長崎ちゃんめんで河野の胸ぐらを掴む暴行に及んだことを認める旨の供述をしたため、兼田は、右供述を記載した弁解録取書を作成した。

なお、兼田は、本件取調室に入った際、被控訴人に対し、その服の上から軽く触る程度の方法による身体検査しかしなかった。

(7) そして、兼田は、被控訴人に対し、右書面への署名指印を求めたが、被控訴人は、「話し合いに来たのになぜ逮捕か。おれを逮捕するなら河野も逮捕せえ。」などと言ってこれを拒否した上、その後の取調べにも応じようとしなかった。

(七)(1) そのため、兼田は、在署していた山本に対し、右取調べ状況を報告して、応援を求め、これにより出署してきた西村と共に、翌二二日午前零時三〇分ころから、再度、本件取調室にいる被控訴人に対する取調べを試みたが、被控訴人は、河野から胸倉を掴まれたことにつき被害届を出すと繰返し述べて、自らの暴行に関する取調べにはやはり応じなかった。

(2) そうするうち、被控訴人は、同日午前一時二〇分ころ、用便を訴え、兼田及び西村と共に、本件取調室を出て便所に行き、再び、刑事課内に帰ってきた際、河野が同課内で現行犯人逮捕手続書を作成しているのを眼にしたことから、兼田に対し、「河野課長もわしに暴行を働いたので逮捕しろ、河野課長はどうしているのか。」などと質問したところ、兼田は、「河野課長は、お前の逮捕の書類を書いている。」と応答した。

(3) その後も、被控訴人は、本件取調室内で、兼田らに対し、「あれが逮捕か、おれは被害届を出しにきたんだ。逮捕するなら河野も逮捕しろ。」などと繰返し口にした。

(4) そのうち、被控訴人は、本件取調室内の兼田及び西村の眼前で、同日午前一時二八分二三秒から四四分二二・五秒の間、同人らの制止を振り切って前記(六)(5)で認定した携帯電話を使って、兄に電話し、警察官とのやり取りを録音するように依頼した上で、右携帯電話を通話状態にした。

(5) また、兼田は、被控訴人が、同日午前二時四九分二秒から二分四三秒間、右同様に兄に電話した際、その通話に出て、長崎ちゃんめん前で事件があり被控訴人を取り調べている旨の説明をした。

(6) その後も、被控訴人は、兼田らの取調べに応じなかったことから、兼田は、山本の指示により、同日午前三時ころから、被控訴人との間で、問答形式により、「問、貴男は、現行犯逮捕されていますが、どうですか。」、「答、被害届を持って来て下さい。」などといった九項目の内容のやりとりを行い、これらに基づく問答式の供述調書を作成した上で、被控訴人に署名指印を求めたが、これも拒否された。

(八)(1) 同日午前三時三〇分過ぎころ、兼田は、山本の指示を受けた徳山警察署の係官が、被控訴人の留置手続のため本件取調室に入室して来たので、取調べを打ち切り、被控訴人に対し、「今から留置場に入れる。」旨を告げた。

(2) すると、被控訴人は、「俺を逮捕するなら河野も逮捕せい。」と言い、これに応じようとしなかったため、徳山警察署の係官において、被控訴人を、同署留置場入口まで連行し、所持品検査や身体検査の後、同日午前四時〇三分、本件留置をなした。

(3) なお、被控訴人が徳山警察署に到着後、本件留置に至るまでの間、同署の警察官らは、被控訴人が乗ったパトカーを追って同署に来たB山やC川に対し、事情聴取を行った際、同人らから、被控訴人が逮捕されて取調べを受けているのか否かといったたぐいの質問を受け、また、被控訴人が逮捕されるのはおかしいとの抗議もなされたが、その折には、河野の本件暴行部位に係る写真撮影はしたものの、それ以上、同人からは、本件事件の経緯や本件逮捕の状況に関する具体的な事情聴取をすることはなく、同人が自ら作成した現行犯人逮捕手続書の内容を確認することもなかった。

2  判断

如上認定したところに基づき、以下判断する。

(一)(1) 刑訴法上、被疑者を留置・勾留する前提として、逮捕を必要とした(逮捕前置主義)趣旨は、被疑者に対する身柄拘束の初期の段階では、嫌疑及び身柄拘束の必要性についての判断は多分に不確定的な要素が含まれることから、まず第一段階として四八時間ないし七二時間という比較的短期の拘束である逮捕による身柄拘束を先行させ、その間の捜査によってもなお嫌疑及び身柄拘束の必要性が認められる場合に限り、裁判官の判断を経て、第二段階としての一〇日間の勾留を認めるという慎重な手続をとることが、被疑者の人身保護の要請に適うからであると解される。そして、特に、現行犯逮捕(刑訴法二一三条)につき、これが、犯罪と被疑者の結びつきが高く、明白で誤認逮捕のおそれがないこと、及びその場で被疑者を逮捕する必要性が高く、かつその機会を逃すと今後いつ被疑者の身柄を保全することができるか分からないことを理由に、刑訴法二一二条の要件を充たすことを条件に、裁判官の発付した逮捕状によらないいわゆる令状主義の例外として認められていることからすると、同条の要件を充たしていた被疑者であっても、現に犯罪が行われた直後、直ちに身柄の拘束を受けないまま、任意同行の形態により伴われた警察署等における取調べを経た結果、初めてその必要性が認められたような場合には、当該時点に至るまでの時間的経過により、既に同条の要件を欠いてしまっているといわざるを得ない。したがって、かかる事案においては、被疑者に対する通常逮捕又は緊急逮捕の手続を経た上で留置・勾留をすべきであり、かかる手続を欠いた留置・勾留は、令状主義の精神を没却する重大な瑕疵があるものとして、刑訴法のみならず、国家賠償法においても、違法と解するのが相当である。

(2) ところで、刑訴法上にいう逮捕とは、捜査機関が実力をもって被疑者の身体の自由を拘束し、引致した上で、引き継き一定の時間右拘束状態を続ける強制処分をいうところ、右身体の自由の拘束とは、常に物理的に身体を拘束することや被逮捕者自身がそれを認識することまで必要とするものではないが、少なくとも、客観的に見て、逮捕者が、被逮捕者の自由な意思に基づく行動を支配したといえるに足りる状況の存することが必要と解される。

(二) かくして、右見地から、本件につき検討するに、前記第二、二及び第三、二1で認定した各事実並びに弁論の全趣旨に照らせば、

本件暴行を受けた後、河野は、被控訴人の手首を掴んではいるが、直ぐに離しており、その後も、現場に到着したパトカーに被控訴人が乗るまでの間、被控訴人に対して、何ら物理的な身体の拘束を伴う処置をとってはいなかったこと、

本件事件における一連の経過を見るに、本件暴行の前後、被控訴人は、河野との間で、終始、口論や掴み合いといったけんかといってもよい状態にあったことから、当時、同人には、仮に、被控訴人に対し、現行犯逮捕を含むなんらかの処置をとらんとしても、被控訴人がそれに従った行動をとらないことは容易に認識し得たと思料されること、

現に、パトカーが到着するまでの間、河野は、被控訴人に対し、数回にわたり逮捕する旨を口にしてはいるものの、これに対し、被控訴人は、「逮捕するならしてみい。」と、挑発的な言動を繰り返しており、到底、河野の右言のみによって、その自由に意思に基づく行動を支配されているとはいえない状況にあったし、同人も、それ以上、控訴人の身体を物理的に拘束すべく積極的な行動には出ていなかったこと、

河野が、右行動に出なかったのは、主として、B山による一連の妨害行為が一つの原因をなしてはいたが、それにしても、河野は、パトカー到着後は、同車に乗務していた吉本ら三名の警察官の協力を得て、被控訴人の身柄をB山らから隔離して確保する(この時点でも、刑訴法二一二条の要件が備わっていたことは間違いないところである。)といった処置が可能であったと思われるのに、ここでもそのような行動には出ていないこと、

パトカー乗車時における右警察官ら、及び被控訴人に対する河野の言動や、被疑者を逮捕して警察署に連行する際、被疑者を、パトカーの後部座席中央で、警察官らにより挟まれるような位置関係にして乗せるという通常の態様ではなく、被控訴人を促すようにしてパトカーの運転席側の後部座席に座らせたという状況を見ても、(この点、河野と被控訴人が右パトカー内でトラブルを起こすことを防止したいというのであれば、被控訴人の一方の側に座る者は、別の警察官でもよく、河野は、助手席に座ればよかったはずである。)被控訴人を逮捕し、その身柄を拘束して連行するという意図のあらわれが、客観的に見受けられないこと、

徳山警察署到着後も、被控訴人は、自らが先頭に立つようにして同署二階の刑事課に向かっていること、

本件取調室において被控訴人の取調べを開始するに際しても、被控訴人に対する所持品検査や身体検査は行われていないこと、

兼田が弁解録取書を作成するより前に、同人において、河野から、現行犯逮捕に係る本件被疑事実の内容につき具体的に説明を受け、これを被控訴人に告知していたという状況はなかったと思料されること、

被控訴人、B山及びC川は、それぞれに対するその後の取調べにおいて、いずれも、本件暴行により被控訴人が現行犯逮捕されたということに抗議していたので、兼田ら徳山警察署の警察官らは、被控訴人自身には、河野による現行犯逮捕に基づき同署に連行されたとの認識はないのではないかということに思いを至し得たにもかかわらず、同人に対し、右現行犯逮捕をしたという際の具体的な状況に関する説明を求めた形跡がないこと、

本件留置は、被控訴人が、本件取調室における本件暴行に関する取調べに応じることなく、かえって、自らが河野から暴行を受けたとして、同人の逮捕を要求する態度に終始したことから行われたものであり、そのため、本件留置直前になって初めて、被控訴人に対する本格的な所持品検査や身体検査が行われたこと

以上のとおり認定判断することができる。

(三) 右認定判断に照らせば、本件暴行後、被控訴人が本件取調室における取調べを受けるに至るまでの間、河野において、被控訴人と出会った当時、非番の日で公務にたずさわっておらず、手錠を携行していなかったことや、パトカーが臨場するまで、自分の方は一人だけであるのに、相手の被控訴人は空手の有段者であることを知っており、そばにB山ら被控訴人の連れがいたことから無理からぬ面があったことは理解できるものの、やはり、被控訴人の自由な意思に基づく行動を支配する程の処置をとっていたと見得る客観的状況があったとは、認め難いところである。

かえって、右(二)で認定した本件暴行後の一連の経過や、前記1(六)(5)並びに同(七)(4)及び(5)で各認定した携帯電話の件をみると、河野自身の主観はともかく、客観的には、同人が徳山警察署に任意同行した被控訴人を、兼田らにおいて、本件暴行に関する容疑で取り調べた結果、今後の捜査のためには、被控訴人を留置する必要性があると判断し、本件留置に至ったものとみるのが相当である。

(四) してみると、本件の場合、本件留置の必要性を認めた時点において、被控訴人に対し、通常逮捕又は緊急逮捕の手続を経た上で右留置を行うべきであったといわざるを得ないのに、本件全証拠によるもかかる手続がとられているとは認められないので、結局、本件留置、ひいてはこれに続いた被控訴人の勾留は、本件逮捕がなされないまま行われたもので、逮捕前置主義に反し、違法というべきである。

したがって、争点2に関する被控訴人の主張は理由がある。

3  ところで、如上認定したところによれば、右2(四)の違法行為は、控訴人の地方公務員として公権力の行使に当たる徳山警察署の警察官らが、その職務としてなした犯罪捜査に関わるものであるところ、この場合、本件留置を行うに際し、右警察官らにおいて、河野が申告し、あるいは、その作成した現行犯人逮捕手続書記載の本件逮捕状況に係る内容を吟味、検討した上で、これをなすべきであったにもかかわらず、そのようにしないまま、漫然と、本件逮捕があったとの前提の下に本件留置をしたことが、右違法行為の原因をなしたものと解される。

したがって、本件においては、右に指摘した点につき徳山警察署の右警察官らに過失が認められるから、争点3につき判断するまでもなく、控訴人の国家賠償法一条一項に基づく責任を肯定することができる。

四  争点4について

既に認定した各事実及び弁論の全趣旨によれば、被控訴人の被った右違法な本件留置とそれに続いた勾留による精神的苦痛を慰謝するに足りる賠償額は、金一万円を下ることはないものと認められる。

第四結語

以上によれば、原判決は結論において正当であり、したがって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき、民訴法六一条、六七条一項本文を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石村太郎 裁判官 阿多麻子 坂上文一)

<以下省略>

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