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山口地方裁判所 平成3年(行ウ)5号 判決 1992年7月30日

原告

甲野太郎

被告

山口県公安委員会

右代表者委員長

北村義人

右指定代理人

稲葉一人

外一三名

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告が原告に対して平成三年五月二二日付けでなした運転免許取消処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、被告が原告に対し、原告が八か所の信号無視(赤色等)をしたことを理由として、平成三年五月二二日付けでなした運転免許取消処分(以下「本件取消処分」という。)について、原告が、右信号無視をしたことはないし、また、右信号無視をしたとしても、その当時、精神分裂症で心神喪失の状態にあり責任無能力であったから、本件取消処分は違法であるとしてその取消を求めた行政訴訟である。

一原告の違反行為と本件取消処分の経緯等について

1  運転免許の取得

原告は、被告から運転免許(第一種普通自動車免許、運転免許証番号第○○○○○号。以下「本件免許」という。)を受けていた(弁論の全趣旨)。

2  原告の違反行為(赤色信号無視)について(<書証番号略>、証人刀禰剛志、弁論の全趣旨)

(一) 原告に対する職務質問

(1) 機動警ら勤務を終えて山口警察署所属のパトカー山口一号(登録番号山八八そ五〇二九。以下「山口一号」という。)を同警察署本署員に引き継ぐ予定となっていた同警察署竪小路警察官派出所勤務の刀禰剛志巡査(以下「刀禰巡査」という。)は、平成三年一月四日午前二時三〇分ころ、次に機動警ら勤務に就く予定であった同警察署湯田警察官派出所(以下「湯田派出所」という。)勤務の奈良澄人巡査(以下「奈良巡査」という。)と連絡を取り合って、湯田派出所を出発し、同警察署本署に向かった。奈良巡査の運転する同人所有の私有車両が先行し、刀禰巡査が一人で運転する山口一号が追従する形で出発した。

(2) 両車両は、湯田派出所前の市道を北進し、同日午前二時三二分ころ、国道九号線と交差する交差点(山口市熊野町<番地略>所在の朝銀山口信用組合山口支店前交差点。以下「朝倉口交差点」という。)に差しかかり、同交差点の赤信号により停止したところ、停止線の直前に原告運転の軽四貨物自動車(以下「原告車両」という。)が停止していた。

原告車両は、対面信号が青色になると、時速五キロメートル程度のスピードで右交差点に進入し、同交差点内で停止しそうになった後、そのまま右交差点を横断して、楠木町方面に北進した。刀禰巡査は、原告車両の尾灯が破損している上、交差点内で停止しそうになったりしたので飲酒運転及び整備不良車両の疑いがあると考え、山口一号の赤色灯をつけたところ、原告車両は、同交差点を通過して約三〇メートル進行し、山口市湯田温泉<番地略>所在の喫茶・美容シャレード前路上に車両の前部を道路と斜めにした状態で停止した。刀禰巡査は、原告車両を追い越して、その前方約三メートルの位置に山口一号を停止させた。そして、原告車両を観察したところ、右側前照灯も破損していた。

(3) 山口一号から降りた刀禰巡査は、前方に停止していた奈良巡査に応援に来るよう合図をするとともに、原告車両に近づき、運転席にいる原告に対し、「窓を開けて免許証を見せてください。この車はずいぶん壊れていますが、どうしたのですか。前照灯も左側しかついていませんよ。車から降りて確認してください。」と職務質問を開始した。ところが、原告は、約一〇センチメートル開いていた運転席側窓ガラスを閉めてドアロックし、免許証をちらつかせただけで、車内で葉巻タバコを吸い始めて質問に応ずる気配が全くなかった。

このまま二人だけでは対応できないと考えた刀禰巡査は、無線機で山口県警察本部防犯部機動警察隊(以下「機動警察隊」という。)総合通信指令室を通じて応援要請を行い、奈良巡査も、無線機で湯田派出所に応援要請を行った。

そして、刀禰巡査らは、原告に対し、職務質問に応ずるよう説得を続けていたが、そのうち、原告は、車を後退させ、逃走しようとした。そこで、刀禰巡査が車両後部に立ちふさがり逃走を制止しようとしたところ、原告は、今度は車を前進させたので、奈良巡査が山口一号の手前に立ちふさがってこれを制止した。この時、奈良巡査の応援要請により、湯田派出所から宇野巡査が到着した。

(二) 原告の違反行為(赤色信号無視)(以下「本件違反行為」という。)

(1) 刀禰巡査らは、原告に対し、車を動かすのをやめるよう警告したが、原告は、これを無視して時速約二〇キロメートルの速度で後退を始め、同日午前二時四〇分ころ、朝倉口交差点において、赤色信号で信号待ちをしていた車両の側方を進行して信号無視をし、朝銀前の歩道に乗り上げて方向転換をしようとした。

そこで、刀禰巡査らは、すぐに駆け寄り、原告車両を取り囲み、原告車両の逃走を防ごうとした。ところが、奈良巡査が原告車両の進行方向に立ちふさがり逃走防止を試みたにもかかわらず、原告は、朝倉口交差点に進入し逃走しようとした。そのため、刀禰巡査らは、原告に対し、何度も停止するよう警告したが、原告は停止しなかった。刀禰巡査は、このまま原告車両を発進させると、通行量の多い国道九号線に進出して国道上で交通事故を引き起こすおそれがあり、しかも原告車両の進行方向に立って逃走を防止しようとしていた奈良巡査にも危険が及ぶと考え、原告車両を停止させるため、同車両の運転席側フロントガラスを特殊警棒の先端で一回叩いた。ところが、ガラスに少しひびが入った程度にとどまり、車も停止しなかったので、刀禰巡査は、特殊警棒を持ち替えて、柄の台尻部分で原告車両の運転席側のサイドガラスを強く叩いて割った。原告は、これにより、一瞬ひるんで減速したが、そのまま国道九号線に出て、山口県吉敷郡小郡町方面(以下「小郡町方面」という。)に逃走を開始した。

(2) 刀禰巡査は、山口一号の助手席に宇野巡査を乗車させ、赤色灯を点灯しサイレンを鳴らして、原告車両の追跡を開始した。

原告車両は、同日午前二時四一分ころ、山口市湯田温泉<番地略>所在の温泉堂ビル付近の交差点において、同交差点の赤色信号を無視して、小郡町方面に進行した。

(3) さらに、原告車両は、時速約六〇キロメートル前後で、国道九号線を小郡町方面に向かって進行し、山口一号のマイクによる停止要請にも応じず、停止しなかった。

そして、山口県吉敷郡小郡町<番地略>所在の山口芸術短期大学付近の国道九号線路上には、無線での応援要請により、機動警察隊山口地区隊車両山口一五号(以下「山口一五号」という。)が赤色灯を点灯させて待機し、原告車両を停止させようとしたが、原告車両は、その左側を通過して検問を突破した。そこで、山口一五号も原告車両の追跡に加わった。

原告車両は、同日午前二時五一分ごろ、山口県吉敷郡小郡町<番地略>所在のトヨタカローラ山口付近の交差点において、右交差点の対面信号が赤色であったにもかかわらず、時速約五〇キロメートルで通過した。

(4) さらに、原告車両は、同日午前二時五二分ころ、山口県吉敷郡小郡町<番地略>所在の田中石油柳井田給油所付近の交差点において、右交差点の対面信号が赤色であったにもかかわらず、時速約六〇キロメートルで通過した。

(5) その後、山口県吉敷郡小郡町大字下郷の小郡警察署前で、同署員が原告車両を停止させるために検問していたが、原告車両は、停止に応じることなく進行した。

そして、原告車両は、同日午前二時五五分ころ、山口県吉敷郡小郡町<番地略>所在の出光石油小郡町農協給油所付近交差点(以下「農協会館入口交差点」という。)において、右交差点の対面信号が赤色であったにもかかわらず、停止することなく、時速約六〇キロメートルの速度で同交差点に進入し、通過した。

(6) 農協会館入口交差点を通過した後、山口一五号が原告車両の前に出て同車両を停止させようとしたが、原告車両は、山口一五号を追い越して逃走を続けた。そして、原告車両は同日午前二時五六分ころ、山口市<番地略>所在の田中方付近の赤色表示している押しボタン信号機の信号を無視して通過した。

(7) さらに、原告車両は、同日午前二時五九分ころ、山口市<番地略>所在のひかり美容室付近の交差点において、右交差点の赤色信号を無視して走行した。

(8) その後、原告車両は、国道一九〇号線に入って宇部方面に進行し、同日午前三時三分ころ、山口県吉敷郡阿知須町<番地略>所在の山本理容付近の交差点において、右交差点の対面信号機の灯火が赤色であったにもかかわらず、速度を落とすことなく右交差点に進入し、そのまま通過して逃走した。

(9) 原告車両が停止に応じないため、宇部警察署、機動警察隊宇部地区隊所属のパトカーが、山口県宇部市西岐波所在の宇部興産中央病院付近において、セーフティコーンを道路に並べて検問体制をとったが、原告車両は、セーフティコーンの間をすり抜け検問を突破し、そのまま逃走を続けた。その後、原告車両は、同日午前三時一八分ころ、山口県宇部市大字宇部芝中埠頭の水のない斜面となった場所に転落し、車体を上下逆さまにして停止した。

3  本件取消処分の存在と不服申立ての経由(争いがない。)

(一) 被告は、平成三年五月二二日、原告に対し、公開の聴聞を行った上で、原告が同年一月四日に八か所の信号無視(赤色等)をしたことにつき、道路交通法(以下「道交法」という。)一〇三条二項二号、同法施行令三八条、同別表第一の一(信号無視)、同表第二(処分前歴〇回、累積点数一六点)により本件免許を取り消す旨の処分(本件取消処分)を決定し、その旨原告に通知した。

(二) 原告は、同年六月一一日、被告に対し、本件取消処分に対する異議申立てをしたところ、被告は、同年八月七日付けでこれを棄却する旨の決定をし、同決定書はそのころ原告に送達された。

二当事者双方の主張

1  原告は、①本件違反行為(赤色信号無視)を行ったことはないし、また、②右行為を行ったとしても、平成三年一月四日当時、精神分裂症で完全に精神状態がおかしく、心神喪失状態にあったのであるから、本件取消処分をすることはできない旨主張した。

なお、原告が本件違反行為を行ったことは、前記認定のとおり認めることができる。

2  被告は、右②の主張に対し、概略次のとおり主張した。

運転免許取消処分は、道交法一一五条ないし一二三条で規定する刑法に刑名のある刑罰としての刑事訴訟法に定める手続によって裁判所が科する行政刑罰権の行使(刑事処分)とは、本質的にその性格を異にする別個のものであり、右取消処分に刑法総則の規定を適用する余地がない。したがって、公安委員会は、刑事処分の有無、刑事裁判の結果に関係なく、その責任と権限に基づき、処分の前提となるべき被免許者の違反行為を認定して、独自の立場で、右取消処分をなしうるのである。さらに、道路交通行政の目的、運転免許制度、運転免許取消制度及び点数制度の立法趣旨からすると、運転免許取消の要件である「違反行為」に、刑事処分の前提となるような責任能力は不要である。

また、原告が本件違反行為を行いながら逃走した時の状況、本件違反行為後の事故後における応答や記憶状況等の事実関係からすると、原告は、本件違反行為を行った当時、具体的な道路交通の場面において、客観的状況を正しく認識し、その認識に基づいて、当時の状況に応じた適正な行動を決定しこれを速やかに実践し得る能力があったのであり、責任能力を欠いていたとはいえない。

三主たる争点、

1  本件取消処分は、本件違反行為時に原告が責任能力を有していなければなしえないか。

2  原告は、本件違反行為当時、心神喪失状態であったか。

第三主たる争点に対する判断

一主たる争点1について

1  道交法六四条は、「運転免許を受けないで、自動車又は原動機付自転車を運転してはならない。」旨規定し、同法八四条は「自動車及び原動機付自転車(以下「自動車等」という。)を運転しようとする者は、公安委員会の運転免許を受けなければならない。」旨規定している。右各規定の趣旨は、一般人が自由に自動車等を運転することができることとすると、道路における危険その他社会公共の安全を害する等のおそれが生ずることがあることから、一般的には運転行為を禁止するとともに、一定水準の身体的、精神的な能力を備え、かつ、自動車等の安全な運転に必要な知識、技能を有している者として運転免許試験に合格し、免許の拒否等の事由に該当しない場合等には、その禁止を解除して、個別的に自動車等の運転を許可することとするところにあるものと解される。したがって、運転免許は、いわゆる警察許可の一種であると解するのが相当である。

2  このような警察許可の一種と解される運転免許が付与された場合にも、公益上その効力を存続せしめ得ない新たな事情が発生したときには、これを撤回(取消)することができる。しかし、右警察許可は、自由に撤回することが許されるのではなく、法令の定める要件を充足する場合に限り撤回することができ、かつ、それ以上の要件の充足を要するものでないと解するのが相当である。

これを運転免許の撤回(取消)について見てみるに、道交法一〇三条一項は、公安委員会は、運転免許を受けた者について、同法八八条一項二号ないし四号所定の身体的欠格事由が生じたときは、その者の免許を取り消さなければならない旨を、また、同法一〇三条二項は、免許を受けた者が、①同法八八条一項三号に該当するに至らない程度の身体的障害で自動車等の運転に支障を及ぼすおそれのあるものが生じたとき、②自動車等の運転に関しこの法律若しくはこの法律に基づく命令の規定又はこの法律の規定に基づく処分に違反したとき、③前二号に掲げるもののほか、免許を受けた者が自動車等を運転することが著しく道路における交通の危険を生じさせるおそれがあるときのいずれかに該当することとなったときは、政令の定める基準に従い、その者の免許を取り消すことができる旨規定している。そして、右政令の定める基準として、道交法施行令三八条は、免許を受けた者が右②の交通法令に違反した場合の免許取消等の基準につき、交通違反に対する「点数制度」採用の下に、当該交通違反をした日を起算日とする累積点数が、それぞれ一定の基準点に達したときに行う旨定めている(同条一項一号イ)。

そこで、信号無視を理由とする本件取消処分との関係で道交法が定める運転免許取消要件を見てみると、道交法七条は、「道路を通行する…車両等は、信号機の表示する信号又は手信号等に従わなければならない。」旨規定し、車両等の信号機の信号等に従う義務に関する命令規定を定めている。右命令規定は、車両等の信号機の信号等に従う義務を定めるに過ぎず、それ以上の処分要件等は何も定めていないというべきである。そして、信号無視との関係における道交法一〇三条二項二号が定める自動車等の運転に関し道交法の規定に違反したときとは、道交法七条が定める右命令規定に違反することであって、決して右規定に違反したことを原因として刑事罰を科することを規定した道交法一一九条に違反することではないのである。さらに、道交法一〇三条二項が定めるところを見ても、道交法令の規定等に違反したときと定めているのみであり、右以上に責任能力等に関する要件を加重する旨の規定は道交法令を精査しても見当たらない。したがって、道交法が定める、信号無視等交通違反をした者の運転免許取消処分の要件としては、運転免許を受けた者が右道交法令が定める命令規定等に違反したことであり、その者の累積点数が一定の基準点に達したときは適法に運転免許取消処分を行うことができ、それ以上に右の者が右違反をした当時、精神状態が正常であるなど責任能力を有するものであったとの要件を要するものではないというべきである。

3 もっとも、刑法八条は、「本法ノ総則ハ他ノ法ニ於テ刑ヲ定メタルモノニ亦適用ス」と規定している。右の規定自体は、刑事罰に関する規定であるから、右規定が行政処分に直ちに適用されるものでないことはいうまでもない。それは、道交法のような行政法規によって、一方では道交法違反の行為に対し刑罰を科し、他方では警察許可の撤回(取消)という行政処分を行う場合においても同様であるというべきである。しかし、利益付与というべき警察許可である運転免許の撤回(取消)という不利益処分については、右刑法の規定が準用されるのではないかとの疑問があるかもしれないので検討を加える。

道交法は、運転免許取消処分等の行政処分に関する規定とともに刑事処分に関する規定をも併せて規定しているのであるが、右各規定は、車両運転者等の遵守義務規定を前提とし、それぞれの法目的を実現するために別個に行政処分に関する規定をし、また、刑事処分に関する処罰規定を置いているのである。すなわち、運転免許取消処分は、一般的禁止を解除して運転免許を受けた者について、交通違反等の道交法一〇三条二項所定の事由が生じたとき、そのような危険運転者を排除するという公益の要請・目的の下に行われるものであるということができるのに対し、刑事処分は、過去の道交法違反等の違反行為に対し、刑罰を科すというものであって、その法目的は本質的に異なるものというべきである。したがって、運転免許取消処分が不利益処分であるとしても、そのことをもって刑法総則の規定が準用されるとの結論に直ちには至らないというべきである。

よって、本件取消処分に対し、本件違反行為時に心神喪失状態にあったことを理由として、その取消を求めることはできないものというべきである。

二なお、原告は、本件違反行為当時、原告が心神喪失状態にあった旨主張して抗争するので検討を加える。

1  精神科医師今泉潤一作成の診断書(<書証番号略>)には、原告が精神分裂症であり、本件違反行為を行った平成三年一月四日当時、幻覚・妄想状態にあり、現実的判断能力が著しく障害されていたと推察される旨の記載があり、また、証人今泉潤一は、原告の従前の症状等に徴し、原告が平成二年の一一月ころ、三隅病院(精神科の病院)に入院したころから平成三年二月六日までずっと病的な状態が続いていたと考えるのが妥当であると判断した旨を証言し、さらに、本件違反行為当時、原告は、自分が今自動車を運転しているとか、パトカーが追いかけてくるとか、交差点の信号が赤色である等の事実を認識することや、赤色信号であるから停止しなければならないという判断能力には問題がなく、ただ、追いかけてくるパトカーが自分を殺すためにやってくるのだというように、その意味付け、関連付けが病的なものに支配されていたと判断されることから、前掲の診断書(<書証番号略>)を作成した旨証言する。そして、原告は、「にせ警察官だから逃げんと殺されるという幻聴が入って来たので、窓を閉めてドアロックをしたし、一生懸命逃げた。」旨供述している。

2  しかしながら、原告は、右のような供述をする一方で、刀禰巡査らに職務質問された際にドアロックした理由として、「車が壊れているから、なんで修理せんかと追及されて面倒になると思いましたし」とか「整備不良で捕まると反則金になるんじゃないかと思った」旨、原告が右職務質問を拒否した理由について合理的な説明をしていること、原告が山口県宇部市内で転落した際に救出に来た制服警察官である刀禰巡査らを拒絶するような態度を示していないこと(<書証番号略>、証人刀禰剛志、原告)、この点について、原告は「転落してからは幻聴がなくなった」旨供述しているが、このように妄想に支配された状態が一時間とか二時間とかの時間単位で出たり出なかったりすることは通常では考えられないし、また、本件違反行為当時、原告は、自分が今自動車を運転しているとか、パトカーが追いかけてくるとか、交差点の信号が赤色である等の事実を認識することや、赤色信号であるから停止しなければならないという判断能力には問題がないこと(証人今泉潤一)、を総合考慮すると、原告は、本件違反行為当時、多少の精神異常の状態にあったことを窺うことはできるものの、赤色信号であることを認識しながら、それに従って停止することを全く妨げられた精神状態にあったとまでは認めることはできない。

したがって、本件違反行為当時、原告が心神喪失状態にあったとの主張は認めることができない。

第四結論

よって、いずれにしても原告の主張は理由がなく、被告の本件取消処分は適法であるから、原告の請求を認容することはできない。

(裁判長裁判官松山恒昭 裁判官内藤紘二 裁判官藤田昌宏)

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