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山口地方裁判所 昭和24年(行)34号 判決 1953年1月09日

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告委員会が昭和二十四年二月二十五日徳山市大字戸田字降神二八六一番地宅地四十九坪の買収計画に関し原告の訴願を排斥した裁決はこれを取消す訴訟費用は被告の負担とするとの判決を求めその請求原因として徳山市戸田地区農地委員会は昭和二十三年十月二十六日原告所有の右宅地につき自作農創設特別措置法第十五条に基き買収計画を定めたので原告が異議を申立てたところ右地区委員会はこれを排斥したそこで原告は同年十一月二十三日被告委員会に訴願したのであるが、被告委員会は昭和二十四年二月二十五日原告の訴願を排斥し裁決書は同年六月十六日原告に交付された。しかしながら前記地区委員会の定めた右買収計画には左の違法があり該計画を正当とした本件裁決も亦違法であるから取消さるべきものである。

(一)  右計画は訴外田中利彦の申請によつて樹立されたものであるが同訴外人は右宅地につき賃借権その他の権利なく今次農地改革によつて買収農地の売渡を受けた者でもない。もつとも右訴外人の父田中利八は右土地の賃借人であり利彦と世帯を同一にしているけれども親子関係や世帯関係の故に賃借権なき者の申請が賃借権ある者の申請となる筈がないから右利彦の申請は効力なく従つて前記買収計画は違法である。

(二)  仮に右利八が買収を申請していたとしても買収の申請が相当でない。蓋し宅地の買収は当該宅地が買収申請者の自作地就中今次農地改革によつて売渡を受けた農地に近接しその耕作に便利である場合で而も所有者にとつて左程重要でない場合に限られるべきものである。然るに本件宅地は(イ)原告宅地に接続する原告所有土地の真中に孤立的に存在し原告がその所有土地を管理経営する上には是非とも原告の所有に留めなければならぬ絶対に必要の土地である。(ロ)訴外田中利八が本件宅地の近隣に耕作する農地は僅かに二反余の小作地のみであつてこの外徳山市戸田地区と湯野地区との境界附近に五反余の農地を耕作しているが右は本件宅地から遠距離に所在し適当の耕道を欠き本件宅地からの耕作は甚だ不便である。右訴外人が売渡を受けた農地は右五反歩の中であるから同訴外人は右売渡農地附近に宅地を求めるのが相当である。(ハ)右訴外人は本件宅地の近隣に約十一坪余の宅地、四十二坪余の畑を所有しているから同訴外人において本件宅地附近に宅地が必要であれば右の宅地及び畑を利用するのが相当である。(ニ)同訴外人が今次農地改革によつて売渡を受けた農地は僅々一反余に過ぎない。右の程度の自作化された者に対し本件宅地買収を認容するのは相当でない。(ホ)本件宅地はその面積が狭く且つその大部分が建物の敷地となつており農業経営上欠くことを得ない籾乾場すらないから農家の宅地として適当でない。以上主張に反する被告答弁事実はこれを否認すると述べた。(立証省略)

被告指定代理人は主文同旨の判決を求め答弁として原告主張事実中徳山市戸田地区農地委員会が原告主張の日その主張の宅地につき買収計画を定めたこと及び原告が異議を申立て排斥せられたので訴願したところ被告委員会が原告主張の日訴願を排斥し裁決書が原告主張の日原告に交付せられたことは認めるがその余の請求原因事実は全部これを争う。

(一)  本件宅地の買収申請者は訴外田中利八であつて田中利彦ではない。

仮に申請が田中利彦の名においてなされたとしてもそれは実父たる利八の代理人としてなされたものであつて而も相手方たる戸田地区農地委員会は右申請が利八の代理行為としてされたことを知りもしくは知り得べき状態にあつたものである。自作農創設特別措置法第十五条第一項の申請は地区農地委員会の宅地等に対する買収計画の樹立と云う行政行為の発動を促す意味を有するに過ぎない。従つて地区委員会が当該申請の真意を客観的に判断し得るならば換言すれば買収行為の発動についての要件が充たされているならばこれを以て十分である。

然らずとしても利彦は利八の子であり利八と同居しその農業経営を継承すべき者である。前記法律第四条第一項の規定の趣旨並びに農家における従来からの慣習に鑑みれば右利彦も亦本件宅地の買収を申請する権利があるとするのが相当である。

(二)  田中利八は田六反八畝二十歩畑一反三畝六歩計八反一畝二十六歩を耕作し従農家族四名、牛一頭を有し今次農地改革により農地一反五畝の売渡を受けた專業農家であるが既に数十年前から本件宅地を賃借し、その上にその住家を所有しその耕作上の地位を安定させるためには本件宅地が必要である。原告はその所有土地の管理経営のため本件土地が絶対に必要であると主張するけれども右主張は全然当を失している。原告が本件宅地を近く使用するが如き意思表示も具体的準備もない。而して右宅地はその位置環境より見て農業以外には全く不適当である。

(三)  本件宅地は小道路に面しているから訴外田中利八がその耕作地に往来するためには必ずしも原告所有地を通過する必要はない。同訴外人が本件宅地近隣に耕作する農地が小作地であり売渡を受けた農地が遠距離にあるがため買収の申請が相当でないとの原告主張も何等根拠がない。

(四)  同訴外人が本件宅地の近隣に所有する宅地は僅かに十一坪であり、而もその地上には納屋が存在し農具置場となつている。畑四十二坪は農地であり右訴外人が本件宅地を措いてこれらの土地に移転することは社会通念上も不可能である。

要するに自作農創設特別措置法第十五条の規定は当事者の申請が相当であるか否かの判断を地区農地委員会の広汎な裁量に委せているのであるから同条の規定する形式的要件が具備する以上前記地区委員会の定めた買収計画を違法とすることはできない。従つて被告委員会のなした本件裁決も亦適法であるから原告の請求に応ずることはできないと述べた。

(立証省略)

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