大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

山口地方裁判所 昭和36年(行)5号 判決 1966年10月17日

下関市唐戸町二番三号

原告

川崎幸子こと 梁基福

右訴訟代理人弁護士

大本利一

岩本憲二

同市上田中町山ノ口

被告

下関税務署長

木村貞明

右指定代理人

村重慶一

久保田義明

中本兼三

石田金之助

吉富正輝

常本一三

岸田雄三

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立および主張

別表要約書記載のとおり

第二、証拠

一、原告

甲第一号証の一ないし一〇、第二号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一ないし二、四ないし六、第六号証の一、二、第七号証の一ないし三、第八、九号証提出。

証人森次正夫、同二村邦美、同沖見定助、同梁瀬茂男、同川崎正雄、同朴奇雲の各証言、原告本人尋問の結果援用。

乙第三ないし第七号証、第九ないし第一六号証、第二五、二六号証、第二八、二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一号証の一、二成立認、その余の乙号各証成立不知。

二、被告

乙第一号証の一ないし三、第二ないし第一六号証、第一七号証の一、二、第一八号証、第一九号証の一ないし三、第二〇号証の一ないし三、第二一、二二号証の各一、二、第二三号証の一ないし七、第二四ないし第二六号証、第二七ないし第二九号証の各一、二、第三〇号証、第三一号証の一、二、第三二号証提出。

証人森次正夫、同二村邦美、同小川悟司、戸島酉夫、同浅田和男、同柳井健三、同伊藤巌、同三河照夫、同吉村悟の各証言援用。

甲第一号証の五、第二号証の二、三成立不知、その余の甲号各証成立認。

理由

一、被告が原告主張の日時にその主張のような昭和三四年分贈与税および無申告加算税の課税決定をしたこと、原告がこれに対し再調査請求をし、その主張のような再調査決定をうけ、さらに広島国税局長に対し審査請求をしたがその主張の日時にこれを棄却されたことは当事者間に争いがない。

二、成立に争いがない乙第三、四号証、原告本人尋問の結果によれば別紙目録記載の土地建物(以下本件不動産という)を原告が二村邦美から買受けたものとして昭和三四年七月四日付で所有権移転登記手続がなされ、原告が現にこれを所有(建物はとりこわして新築)していることが認められる。ところが被告は原告がその夫川崎正雄こと李秉文から本件不動産の贈与をうけたと主張し、原告はこれを争い自己が二村から右土地建物を買受けたと主張しているので以下判断する。

(一)  証人川崎正雄、同森次正夫、同沖見定助の各証言およびこれによりその成立が認められる乙第一号証の二によれば本件不動産の売買契約は売主森次正夫(当時の所有者二村からその債務整理のため本件不動産の処分権限を与えられていた)買主川崎正雄としてなされていることが認められる。

(二)  成立に争いがない乙第一六号証、証人浅田和男の証言およびこれによりその成立が認められる乙第一七号証の一、第一八号証、第一九号証の二、三、第二〇号証の一ないし三、第二一、二二号証の各一、二、第二三号証の一ないし七、証人森次正夫の証言によれば正雄は株式会社福岡相互銀行から昭和三四年六月八日一七〇万円を借受け、これをその長男川崎雅博名義の同銀行当座預金に振替入金し、本件不動産買入代金八四〇万円のうち一五〇万円を同日に、うち五〇万円を同月一八日にそれぞれ右預金から支払い、さらに同年七月四日同銀行から七五〇万円を借受け、同日右残代金六四〇万円を右借入金から支払つたことが認められ、本件不動産買受代金は正雄が支払つたものと考えられる。

(三)  証人川崎正雄の証言、原告本人尋問の結果によれば本件不動産の買入はパチンコ営業のためであることが認められるところ、前出乙第一六号証、第一七号証の一成立に争いがない同第六、七号証、第九号証、第二八、二九号証の各一、第三〇号証、第三一号証の一、二証人浅田和男の証言によりその成立が認められる同第八号証、第一七号証の二によれば本件不動産買入当時正雄はその名義でパチンコ営業による所得に対する所得税の確定申告をなし、その際原告をその扶養親族として申告し、また右所得にもとづく市県民税の賦課をうけていたこと、また当時原告の外国人登録原票にはその職業を無職と、正雄の同票にはその職業が遊技業とそれぞれ右各人の申請によつて記載されていること、正雄は当時前記銀行に対しパチンコ経営者として金員借入を申込み、同銀行も正雄をパチンコ経営者、原告を無職と取扱つていたことが認められ、正雄がパチンコ経営者と考えられる。

以上の各事実を総合して考察すると正雄が二村から本件不動産を買受けたと認めるほかはなく、しかも前述したように二村から正雄の妻である原告に対する本件不動産の所有権移転登記手続がなされているのであるから特段の事情がないかぎり右登記手続のなされた日に正雄から原告に対して本件不動産の贈与がなされたものと認めて贈与税を賦課するのが相続税の補完税たる本質に照らし妥当であり、右特段の事情を認めるべき証拠はない。

三、もつとも

(一)  証人沖見定助、同梁瀬茂男、同川崎正雄、同朴奇雲の各証言原告本人尋問の結果中には本件不動産の売買契約書の正雄名義の記名押印は右売買を仲介した沖見定助がほしいままになしたもので本件不動産の買主は原告である旨の供述があるが、成立に争いがない乙第二六号証、公文書であるからその成立が推定される同第一号証の一、第二号証、証人森次正夫、同小川悟司、同二村邦美の各証言に前記各証言を総合すれば沖見は正雄の経営するパチンコ営業のためにその代理人として本件不動産買入れにあたつたもので、正雄は原告にその買入方指示したほか自ら直接交渉に当り契約成立後仲介者と値引の交渉をしたことが認められるから本件不動産の買主は原告である旨の前記各供述部分は措信できない。(尤も成立に争いがない乙第二五号証、証人川崎正雄の証言、原告本人尋問の結果によれば正雄は本件不動産買入当時軽症結核のため健康状態が良くなかつたことが認められるが、特に入院を必要とする程のものでなかつたことが明らかで、証人朴奇雲の証言に徴しても、日常原告と同居し、経営全般の指示をしていたことが窺知される。)

(二)  成立に争いがない甲第一号証の三、証人戸島酉夫、同川崎正雄の各証言中には原告は当時前記銀行から取引を停止されていたため正雄の名義を使用して同銀行から本件不動産買入資金を借受けたものであるとの記載および供述があるが証人浅田和男の証言によりその成立が認められる乙第二四号証によれば原告はそのころ同銀行から五〇万円を借受けていることが認められるし、右戸島酉夫の証言によつても原告に対する取引停止は当座取引の停止にかぎられ、他の取引はあつたようであり、本件不動産買入資金借入れを正雄名義でしたことが右取引停止と関係がないことは原告がその本人尋問中で自認しているところであつて結局前記甲号証、各証言中の記載、供述部分は右浅田和男の証言に照らすも到底措信できない。

(三)  成立に争いがない甲第一号証の四、同号証の六ないし一〇、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一ないし二、四ないし六によれば原告名義で山口県公安委員会のパチンコ営業許可がなされ、山口県からの娯楽施設利用税、下関市からの償却資産固定資産税の各賦課がなされていることが認められるが営業許可の名義人と実際の経営者が必ずしも一致しないことは公知の事実というべきであり、また前記各税の賦課は原告が右営業許可の名義人であることから形式的になされたものであると考えられる。

なお成立に争いがない甲第八、九号証によれば昭和三七年一〇月に原告の外国人登録原票記載の職業が遊技業と正雄のそれが飲食業とそれぞれ変更されていることが認められるが、右変更がなされたのは本訴が提起され被告から原告、正雄の外国人登録原票が証拠として提出された後であることが本件訴訟記録に照し明らかであるから、これらはいずれも正雄がパチンコ経営者であるとの前記認定に影響をおよぼすものではない。

四、成立に争いがない乙第五号証公文書であるからその成立が推定される同第二七号証の一ならびに証人川崎正雄の証言によれば右贈与の直後別紙目録記載の建物が改造されたことが認められ、前出乙第八号証によれば当時原告の収入はほとんどなかつたことが認められるから右改造費は正雄が支出したものと考えられ、結局正雄から原告に右改造費が贈与されたと考えるほかはない。

五、以上のように昭和三四年中に原告は正雄から本件不動産、および前記改造費の贈与をうけたものと認められ、他に右認定を覆すに足る証拠がないところ前出乙第二七号証の一、証人吉村悟、同伊藤巌、同柳井健三の各証言によれば当時の別紙目録記載の土地の価格は三五五万一、〇〇〇円、同建物の価格は九八万八、一四八円、前記改造費の価格は七六万五、〇〇〇円であることが認められるので、右合計五三〇万四、一四八円を課税価格(ただし基礎控除二〇万円)として相続税法第二一条の五により贈与税二一〇万七、二五〇円(一〇〇円未満を切捨て計算)を賦課した被告の処分(再調査決定により一部変更されたもの)および右贈与税の申告期限(原告が右期限前に法定の申告をしなかつたことは弁論の全趣旨により明らかである。)から被告が前記賦課処分をした日まで三ケ月を超えているから同法第五三条第二項により無申告加算税五二万六七五〇円(一〇〇円未満を切捨て計算)を賦課した被告の処分(再調査決定により一部変更されたもの)はいずれも適法であつてなんらの取消理由も存しない。

六、よつて原告の本訴請求は失当であるのでこれを棄却することとし訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 岡村旦 裁判官 平山雅也 裁判官 竹重誠夫)

要約書

(原告)

第一、申立

被告下関税務署長が原告に対し昭和三六年一月一三日付昭和三四年度分贈与税(加算税)決定通知書を以つてなした昭和三四年分贈与税同上加算税課税決定を取消す。

訴訟費用は被告の負担とする。

第二、主張

(請求原因)

(一) 被告は、原告が昭和三四年七月四日原告の夫である訴外川崎正雄こと李秉文から別紙目録記載の土地及び建物の贈与を受けたとして、同三六年一月一五日送達の同三四年分贈与税・加算税決定通知書をもつて、別表「当初決定額」欄記載の金額の同三四年分贈与税及び無申告加算税の課税決定をした。

(二) 原告は昭和三六年二月八日、右被告に対し右課税決定を不服として、その旨記載した書面をもつて再調査の請求をした。

(三) これに対し、右被告は、原告が前記土地及び建物の贈与を受けたころ更に前記川崎正雄から右建物改造費として現金七六五、〇〇〇円の贈与を受けたとした上、別表「調査額」記載の金額に前記各税額を減少する旨の決定を同三六年五月八日付、同三四年分贈与税・加算税一部取消通知書によりなした。

(四) 原告は同三六年六月七日、広島国税局長に対し、右再調査決定を不服として、その旨を記載した書面をもつて審査請求をした。

(五) 広島国税局長は広協第四八三号昭和三六年八月一八日付審査決定通知書をもつて、右審査請求を棄却する旨の決定をした。

(六) しかしながら、前記課税決定の基礎となつたような贈与を、原告は訴外川崎正雄から受けた事実はない。

(被告)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(答弁並びに主張)

請求原因事実中(六)を除きその余の事実を全て認める。

(一) 原告は訴外川崎正雄より

(1) 昭和三四年七月四日原告主張の土地及び建物を贈与され

(2) その直後頃、右建物の改造費として現金七六五、〇〇〇円を贈与された。

(二) しかるに、原告は贈与税の申告期限である昭和三五年二月末日までに法定の申告をしなかつた。

(三) よつて、原告主張の課税決定を再調査した上原告主張の額に減少した再調査決定をしたが、その計算関係は次のとおりである。

(1) 3,551,000円+988,148円+765,000円=5,304,148円

(土地評価額) (建物評価額) (建物改造費) (課税価格)

(2) 5,304,148円-200,000円×税率=2,107,250円

(課税価格) (基礎控除) (相続税法21条の5) (贈与税額)

(3) <省略>

(贈与税額) (無申告加算税)

但し、上記(2)(3)の計算においては100円未満切捨

(四) 原告が前記各贈与を受けたと認めた根拠は次のとおりである。

(1) 前記土地及び建物について売主訴外二村邦美と売買契約を結んだのは原告の夫訴外川崎正雄である。

(2) 右売買代金の支払者も訴外川崎正雄である。

(3) パチンコ営業の営業主は訴外川崎正雄であり、右土地及び建物は、この営業拡張の目的で同人が購入したものである。

(4) 改造費(金七六五、〇〇〇円)は訴外川崎正雄が支払つている。

(5) 前記土地及び建物の移転登記手続費用(金二一八、七八〇円)は訴外川崎正雄が支払つている。

別紙目録

下関市大字唐戸町字唐戸町

第五番の一〇

一、宅地 五三坪

同 所字同

同 番

家屋番号第五番の一八

一、木造瓦葺二階建店舗兼居宅

建坪 二二坪五合五勺

外二階 二一坪八合四勺

別表

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例