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山口地方裁判所 昭和47年(行ウ)4号 判決 1980年11月27日

原告 有限会社 藤井商店

被告 国

代理人 有吉一郎 高田資生 山口英雄 浜田孝 ほか三名

主文

本件訴えを却下する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

原告の被告に対する昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度の法人税三九万四六〇〇円及び重加算税一一万八二〇〇円、昭和三九年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度の法人税四一万四七〇〇円及び重加算税一二万四二〇〇円、並びに昭和四〇年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度の法人税五六万三四〇〇円及び重加算税一六万七七〇〇円の各租税債務が、いずれも存在しないことを確認する。

二  答弁

(本案前の答弁)

主文と同旨

(請求の趣旨に対する答弁)

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、貸衣裳を業とする会社であるところ、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日まで、同年八月一日から昭和四〇年七月三一日まで、及び同年八月一日から昭和四一年七月三一日までの各事業年度(以下「本件各係争事業年度」という。)の法人税につき、それぞれ税額を零とする確定申告をした。

2  下関税務署長は、昭和四二年六月三〇日、原告に対し、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度について、法人税五一万八一〇〇円・重加算税一五万五四〇〇円、同年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度について、法人税五五万〇五〇〇円・重加算税一六万五〇〇〇円、及び同年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度について、法人税七一万八六〇〇円・重加算税二一万五四〇〇円とする課税処分(以下「本件課税処分」という。)をなし、これを原告に通知した。

3  原告は、本件課税処分に対して、昭和四二年七月七日、異議申立をした。

4  下関税務署長は、右異議申立に対して、昭和四二年九月二六日、棄却の決定をなし、これを原告に通知した。

5  原告は、右決定を不服として、昭和四二年九月二九日、広島国税局長に審査請求をした。

6  広島国税局長は、右審査請求に対して昭和四三年二月一四日その一部を認容したものの、なお、昭和三八年八月一日から昭和三九年七月三一日までの事業年度につき法人税三九万四六〇〇円・重加算税一一万八二〇〇円、同年八月一日から昭和四〇年七月三一日までの事業年度につき法人税四一万四七〇〇円・重加算税一二万四二〇〇円、及び同年八月一日から昭和四一年七月三一日までの事業年度につき法人税五六万三四〇〇円・重加算税一六万七七〇〇円(以下「本件租税債務」という。)については、下関税務署長のなした本件課税処分を維持する旨の裁決をなした。

7  しかし、本件課税処分(広島国税局長の裁決でも維持された分)は、以下のとおり重大かつ明白な瑕疵があつて無効である。

(一) 下関税務署長は、原告の昭和四一年一〇月三日から同年一一月六日までの内二二日間の原告の売上メモ(以下「本件メモ」という。)を基礎として原告の本件各係争事業年度の所得金額を認定して法人税額及び重加算税額を決定しているが、右二二日間は、原告が店舗を大改造し、展示会等も行ない、大々的に宣伝した時であり、しかも結婚シーズンの最盛期であるから、本件メモを基準として本件各係争事業年度の所得金額を認定することは、結果として実体と全くかけ離れた不正確なものとなる。

(二) 下関税務署長は、架空名義の預金について、実際はこのうちに借入金、個人財産及び従前からの繰越金等も混在しているにも拘らず、これらに対する調査を怠り、全て会社の脱漏した売上げの一部であると認定している。

8  従つて、本件租税債務は存在しないにも拘らず被告はこれが存在すると主張して争う。

9  よつて、原告は、被告に対して、本件租税債務が存在しないことの確認を求める。

二  被告の本案前の主張

本件租税債務は、既に第二次納税義務者による完納によつて消滅しているので、原告は、納付済みの税金の返還を求める訴訟によつてその目的を達成することができ、それ以外に本件租税債務の不存在を確認しても意味がないので、本件訴えは確認の利益を欠く不適法なものである。

三  請求原因に対する認否及び被告の主張

(請求原因に対する認否)

1 請求原因1ないし6の事実は認める。

2 同7のうち、下関税務署長が本件メモを基礎として原告の所得額を認定し、それに基づき原告の法人税額及び重加算税額を決定した事実、並びに架空名義の預金を原告の売上げの一部であると認定した事実は認め、その余は否認ないし争う。

3 同8は争う。

(被告の主張)

1 原告は、公表帳簿以外に、脱漏した取引についてメモを別途記帳していたが、本件メモ以外は全て破棄したため、下関税務署長は、原告が脱漏している収入金額及び経費の額を実額によつて把握することが不可能であり、一方、原告が偽名預金口座を有していることが確認され、原告には貸衣裳による収入以外に殆ど収入がないことから、右預金の源泉は原告の脱漏売上げ金の一部であることが推測されたにも拘らず、なお原告は課税調査に対して全く非協力的であつた。

2 そこで、下関税務署長は、やむを得ず、本件メモに記載された二二日分の実際収入金額に対する同日分の公表記帳額の割合により本件各係争事業年度の収入金額の脱漏額を、また、右期間の実際収入金額に対する簿外経費の割合により本件各係争事業年度の簿外経費をそれぞれ認定して、本件各係争事業年度における原告の所得金額を認定したものである。

四  被告の本案前の主張に対する原告の認否

被告の本案前の主張のうち、本件租税債務が第二次納税義務者によつて完納されている事実は認めるが、その余の主張は争う。

第三証拠 <略>

理由

一  請求原因1項及び6項は当事者間で争いがない。

二  ところで、原告は本訴において、本件課税処分(広島国税局長の裁決でも維持された分)の無効確認を求めるのではなく、その無効を前提として、右課税処分により原告が負担するとされた本件租税債務が存在しないことの確認を求めるものであるから、本件訴えが適法であるためには、まず、原・被告間において本件租税債務の存否について争いが存在することが必要である。

しかるに、被告は、自ら本件租税債務が既に第二次納税義務者による納税により消滅していると主張するのであるから、当初より存在しなかつたか第二次納税義務者の納付により消滅したかは別として、結局現時点において本件租税債務が存在しないことについては、原・被告間において争いがない。

従つて、原告の本件訴えは、確認の利益がなく、不適法な訴えであるといわざるを得ない。

なお、仮に原告の本件訴えが第二次納税義務者による納税前において本件租税債務が存在しなかつたとの確認、すなわち、いわゆる過去の法律関係の確認を求めるものであるとしても、過去の法律関係の確認を求め得るためには、過去の法律関係を確認することが、その後多岐にわたる権利関係の変動により複雑化した法律関係を抜本的に解決することになる等の特段の事情が認められることを要するところ、本件において、あえて過去の法律関係の確認を要する特段の事情は見い出すことはできない。

また、第二次納税義務者による納税があつた場合、納税した第二次納税義務者は、主たる納税義務者に対し求償権を取得することとなるので、将来主たる納税義務者は第二次納税義務者から求償権を行使されることも予想されるが、その場合、主たる納税義務者は、求償を求めた第二次納税義務者に対し、租税債務の不存在を理由として求償を拒むことが可能であり、訴訟の形態によつて求償権を行使された場合には、国に対して訴訟告知(民訴法七六条)をしたり、課税庁に対して参加(行政事件訴訟法第四五条、第二三条一項)させるなどの方法が可能であり、いずれにしても現時点において、被告との間で本件租税債務不存在確認を求める利益はないといわざるを得ない。

三  以上の次第で、本件訴えは確認の利益を欠き不適法であるからこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 西岡宜兄 紙浦健二 大谷辰雄)

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