山口地方裁判所 昭和56年(行ウ)4号 判決 1982年11月25日
原告 原史憲
被告 防府市長 外二名
主文
本件訴をいずれも却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 原告
1 被告防府市長原田孝三との間で、防府市と川崎重工業株式会社との間の防府市大字新田三六四番地上に代金二億八八〇〇万円で粗大ごみ破砕処理施設一式を設置する旨の工事請負契約が無効であることを確認する。
2 被告鈴木覚及び被告富田宝一は防府市に対し、各自金七四三四万円とこれに対する昭和五六年五月二日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告防府市長原田孝三は、防府市大字新田三六四番地上に設置の粗大ごみ破砕処理施設を使用してはならない。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 1ないし3項につき仮執行宣言。
二 被告ら
(本案前の答弁)
主文同旨
(本案に対する答弁)
1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は防府市の住民である。
2 防府市は、粗大ごみ破砕処理施設一式の設置を代金二億八八〇〇万円で川崎重工業株式会社に請負わせ、昭和五四年一一月三〇日、防府市大字新田三六四番地にこれを設置(以下「本件粗大ごみ破砕処理施設」という)した。
3 しかしながら、防府市と川崎重工業株式会社との間に締結された本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約は、次のとおり違法無効である。
(一) 被告鈴木は右契約締結当時防府市長であつた者、被告富田は防府市市民生活部長として本件粗大ごみ破砕処理施設設置に関する事務上の窓口となり、機種選定その他に中心的役割を果たし事実上の決定権を有していた者であり、かついずれも本件粗大ごみ破砕処理施設に関する機種選定審査委員会の委員でもあつた者であるところ、右被告両名は、右請負契約が指名入札業者とされた手塚興産株式会社、石川島播磨重工業株式会社、三菱重工業株式会社、川崎重工業株式会社の四業者による公正な指名競争入札によりなされなければならないのに、前記立場を利用し、手塚興産株式会社が提出した仕様書等を鍵のかからない保管庫に放置し、これを防府市の発注する仕様書との検討のため財団法人日本環境衛生センター九州支局に送付するのを遅らせるなどして公正な入札を妨害し、更に右契約は指名競争入札ではなく随意契約であつたと称し、これを不当に川崎重工業株式会社に落札させた。
(二) 仮に右請負契約が随意契約であつたとして、地方自治法施行令一六七条の二は随意契約をなし得る場合を規定しているところ、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約は右規定のいずれにも該当せず、右契約は随意契約により得ないものであつた。
(三) 被告鈴木、同富田は、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約締結にあたつて、地方自治法二条一三項により最少の経費で最大の効果をあげるようにしなければならないところ、ギロチン式破砕機に比較し横型回転式破砕機が性能、維持管理費共に劣ることを知りながら、横型回転式破砕機を選定し、川崎重工業株式会社との間に前記のとおり工事請負契約を締結した。
4 前記3(三)のとおり被告鈴木、同富田は故意に機種選定を誤り、性能劣悪で維持管理費のかさむ本件粗大ごみ破砕処理施設を防府市に購入設置させたものであるが、右の結果防府市は次のとおり金七四三四万円も余分に維持管理費を支出している。
即ち、防府市は本件粗大ごみ破砕処理施設の稼働に防府市職員七名、下請業者三名、合計一〇名もの人員を要し、かつ実際の処理能力は五時間当り一四トン程度にとどまつているが、仕様書によれば、本件粗大ごみ破砕処理施設は運転要員四名で稼働し、五時間当り五〇トンの処理能力を有することとなつているのであり、受付係として一名を要するとしても人員は防府市職員五名で足りるはずであつて、その余の防府市職員二名、下請業者三名の計五名は本来あつてはならない不要な人員である。防府市職員の昭和五六年四月一日現在における平均賃金月額は約二七万円であり、右不要な職員二名に支払われる賃金は年間金六四八万円(27万円×12か月×2名=648万円)であり、防府市が右下請業者三名に支払う業務委託料月額が金三四万五〇〇〇円でありその年額四一四万円であるところ、本件粗大ごみ破砕処理施設の法定耐用年数は七年であるので、右余分な五名への支出金合計は七四三四万円((648万円+414万円)×7年=7434万円)となる
右金七四三四万円の支出は違法な公金の支出であり、防府市は右同額の損害を蒙つているし、本件粗大ごみ破砕処理施設の使用を継続するときは右違法な公金の支出が増大し、防府市に回復困難な損害が生ずるおそれがあり、右違法な公金の支出を防止するには、本件粗大ごみ破砕処理施設の使用を差止める外ない。
5 原告は、昭和五六年二月一六日、防府市監査委員に対し、右違法な契約締結と右違法な公金の支出により防府市の蒙る損害につきその是正等の措置を求める監査請求をしたが、同監査委員は、同年四月一五日付で原告に対し、右監査請求は理由がない旨の監査結果を通知し、右通知は翌一六日原告に到達した。
6 よつて原告は、地方自治法二四二条の二第一項二号に基づき被告防府市長に対し、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約の無効確認を、同項四号に基づき防府市に代位して被告鈴木、同富田各自に対し、防府市の蒙つた損害金七四三四万円とこれに対する本件訴状送達の翌日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを、同項一号に基づき被告防府市長に対し、本件粗大ごみ破砕処理施設の使用の差止めをそれぞれ求める。
二 本案前の被告らの主張
1 原告は本訴提起前、昭和五五年九月二二日及び昭和五六年二月一六日防府市監査委員に対し、住民監査請求をなし(以下前者を「第一回監査請求」、後者を「第二回監査請求」という)、防府市監査委員は第一回監査請求につき昭和五五年一一月二〇日付で理由がない旨の監査結果を原告に通知し、右通知は翌二一日原告に到達し、第二回監査請求については昭和五六年四月一五日付で理由がない旨の監査結果を原告に通知し、右通知は翌一六日到達した。
右第一回監査請求と第二回監査請求とは、次のとおり全くの同一請求であり、防府市監査委員は第二回監査請求については一事不再議として却下すべきものであつたのであるから、原告は、第一回監査請求の監査結果の通知を受けた昭和五五年一一月二一日から起算して三〇日以内に本件訴を提起しなければならなかつたもので、本件訴は出訴期間を徒過した不適法な訴である。
即ち、右第一回監査請求と第二回監査請求における請求の要旨はいずれも、防府市が設置した本件粗大ごみ破砕処理施設は、機種選定を誤り、性能劣悪で維持管理費がかかり過ぎ、そのため市は損害を蒙つている、そこで被告鈴木に対する損害賠償請求及び維持管理費のかからない優秀な性能を有する切断型処理装置の導入の勧告を求めるというものであり、かつその理由とするところも、第一回、第二回監査請求ともいずれも、本件粗大ごみ破砕処理施設は性能劣悪でこれを設置したのは公金の不当な支出である、運転要員四名以外に前選別のための要員の人件費は公金の不要な支出で防府市に損害を与えているというもので、全く同一である。また第二回監査請求において原告は本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が随意契約によつたことは違法である旨主張しているが、既に第一回監査請求において原告は、右契約の違法についても「購入に誤りがあつたことを正し」と述べ、監査請求をなし、現に防府市監査委員は、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が随意契約であり違法はない旨判断しているのであつて、右は何ら新たな請求ではない。
2 本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約の無効確認を求める訴は、その無効確認を求める対象が行政処分であることを要するので、不適法である。
3 被告富田に対する訴については、原告は監査請求の対象に被告富田に対し損害を補填するため必要な措置を講ずべきことを求めておらず、これを本件訴訟において新たに請求することは不適法である。
三 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 同3の冒頭の主張は争う。同3(一)のうち、被告鈴木が防府市長であつたこと及び被告富田が防府市市民生活部長であつたことは認めるが、その余は否認する。同3(二)、(三)は否認する。
防府市が、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約につき随意契約に至つたのは、右工事が通常の建築、土木工事と異なり、プラント工事であるため特殊な技術を要し、かつ特許又は実用新案があるので、品質、内容を加味し有利な条件を持つ者と契約を締結するには随意契約による外なく、地方自治法施行令一六七条の二第一項二号にいう「契約の性質又は目的が競争入札に適しない」場合に該当したからであつて、随意契約によつたことは適法である。
また、機種選定についても、粗大ごみ処理施設機種選定審査会において、当初の指名登録業者であつた九社の機種性能について比較検討し、その結果横型回転式メーカー二社とギロチン式メーカー二社の二機種合計四業者の機種を選考対象とし、当該四業者から提出された見積仕様書を、日本環境衛生センター九州支局に内容検討を依頼し、その仕様書検討報告書、各業者の実績、先進都市への調査及び前記センターの意見をふまえ慎重に検討した結果、機種については、防府市の埋立処理目的に適応していると認められる横型回転式を採用することに決定し、右方式のメーカーであり実績も多い川崎重工業株式会社と三菱重工業株式会社を指名し最終見積合せを行つた結果、川崎重工業株式会社が低額であつたので工事請負契約を締結したもので、何ら違法な点はない。
3 同4のうち、仕様書によれば本件粗大ごみ破砕処理施設は運転要員四名で稼動し、五時間当り五〇トンの処理能力を有することとなつていること、昭和五六年四月一日現在の防府市職員の平均賃金及び下請業者に対する業務委託料が原告主張のとおりであることは認めるが、その余は否認ないし争う。
本件粗大ごみ破砕処理施設は仕様書どおり五時間当り五〇トンの処理能力を有しているし、その人員配置は次のとおりであつて原告主張のような不必要な人員の配置はない。即ち、本件粗大ごみ破砕処理施設そのものの稼動のための運転要員は仕様書どおり四名であるところ、右施設の運転に際しては、危険物除去のための前選別が必要であることから、これを防府市は防府資源回収業組合に月額三四万五〇〇〇円で業務委託しているのであつて、原告が主張する下請業者三名とは右前選別に従事している人員であるし、その他には破砕した物を焼却場または埋立地に運搬するため必要な貨物自動車二台の運転手二名と受付及び計量事務担当者として一名を配置しているのである。なお右受付及び計量事務担当者一名は防府市公営施設管理公社の職員である。
4 同5のうち、原告が、昭和五六年二月一六日、第二回監査請求をなし、防府市監査委員が右請求を理由なしとする監査結果を同年四月一五日付で原告に通知し、これが翌一六日原告に到達したことは認める。
なお原告が既に第一回監査請求を経ていることは、本案前の被告らの主張1で述べたとおりである。
四 本案前の被告らの主張に対する認否及び反論
1 本案前の被告らの主張1のうち、原告が被告ら主張の日にそれぞれ第一回及び第二回監査請求をなし、防府市監査委員がいずれも被告ら主張のような監査結果の通知をなし、これがいずれもその主張の日に原告に到達したことは認めるが、その余は争う。
原告は、第二回監査請求において、新たな事項、即ち本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が随意契約によるものであつたとする点及び関連事項を付しており、第一回監査請求と第二回監査請求は同一ではないし、現に防府市監査委員は第二回監査請求を正式受理し監査をしており、一事不再議として却下していない。
また仮に第一回監査請求と第二回監査請求とが同一請求であるとしても、原告は第二回監査請求の監査結果の通知を受けた日から三〇日以内の昭和五六年四月二七日本訴を提起しており、出所期間徒過の不適法は何ら存しない。
2 同2は争う。
本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約は、住民の福利に密接な関係を持つ公共事務の執行であり、二億八八〇〇万円の巨費を投じて行われる公共用施設契約に係るもので、その性質上議会の議決を必要とするものであり、明白な行政上の契約であるから、行政行為即ち行政処分に該当するというべきである。
3 同3は争う。
住民訴訟において出訴の要件とされているのは、監査請求の対象となつた行為又は事実と訴訟の対象とする行為又は事実が一致することであつて、必要な措置までが一致することは要求されていない。被告富田に対する訴が、原告の監査請求の対象とした行為又は事実を対象とするものであることは明らかである。
第三証拠<省略>
理由
一 出訴期間の徒過について
住民訴訟を規定した地方自治法二四二条の二は、その一項及び二項において、住民訴訟による訴を提起するには、その対象たる違法な財務会計上の行為ないし怠る事実につき住民監査請求を経ることを要し、かつ右監査結果に不服のある場合には、右監査結果の通知があつた日から三〇日以内に提訴しなければならない旨の住民監査請求の前置と出訴期間の制限を定めているが、右出訴期間の制限を設けた趣旨は、住民訴訟の対象となる行為の多くは私法行為であるとしても、その効力がいつまでも未確定のままであるときは、普通地方公共団体の行政運営の安定性の確保に欠けるとの公益的要請に基づくものと解されるところ、同一の行為ないし怠る事実につき同一の違法事由を理由とする監査請求を繰り返し行なうことができるとすれば、右出訴期間の制限を定めた趣旨は没却されてしまうこととなるし、地方自治法には監査請求の結果に不服がある場合に再度の監査請求をなし得る旨の規定の存しないことにも鑑みれば、前記地方自治法の規定は、監査結果に不服がある場合には直ちに住民訴訟を提起すべく、既に監査請求の対象とした行為ないし怠る事実につき同一の違法事由を理由として再度にわたつて監査請求をなすことは、特段の事情がない限りこれを認めない趣旨であると解するのが相当である。
本件においては、原告が、昭和五五年九月二二日防府市監査委員に第一回監査請求を、昭和五六年二月一六日第二回監査請求をそれぞれなし、防府市監査委員が、第一回監査請求については昭和五五年一一月二〇日付で、第二回監査請求については昭和五六年四月一五日付で、いずれも理由がない旨の監査結果を原告に通知し、右通知はいずれもその翌日原告に到達したことは当事者間に争いがないところ、被告は右第一回監査請求と第二回監査請求とは全くの同一請求であり、原告の訴はいずれも出訴期間を徒過した不適法な訴である旨主張するので、この点につき検討する。
成立に争いのない甲第一号証によれば、原告の第一回監査請求は、前選別不要、廃棄物切断不要、無差別破砕可能でしかも安価な施設をもつ優秀な業者があることを知りながら、機種選定を誤って性能劣悪で維持管理費がかかり高価な本件粗大ごみ破砕処理施設を購入し、防府市に損害を与えているのは、公金の不当支出であること、本件粗大ごみ破砕処理施設は性能劣悪なためごみの前選別、施設の維持管理に多人数を要し、無駄な人件費を必要とし、その支出により防府市に損害を与えていることを理由として、これらを是正のため、本件粗大ごみ破砕処理施設の購入に誤りがあつたことをただし、維持管理費のかかりすぎる前選別にたずさわる者を排除し、経費のかからない優秀な機械装置を導入すること、性能劣悪な本件粗大ごみ破砕処理施設購入の責任者である被告鈴木に防府市の蒙つた損害を賠償させること、川崎重工業株式会社に仕様書どおりの性能を具備する施設に手直しさせるか防府市の損害を賠償させることの勧告を求めたものであることが認められ、成立に争いのない甲第三号証の一、二によれば、第二回監査請求は、最少の経費で最大限の効果をあげなければならない旨規定する地方自治法二条一三項に違反し、性能劣悪で維持管理費の高くつく本件粗大ごみ破砕処理施設を購入設置したことは違法であること、このためごみの前選別が必要となり業者に年間三〇〇万円余りもの支出をし、更に仕様書によれば本件粗大ごみ破砕処理施設の運転要員は四名とされているのに、これを超える人員が配置されており、これらに要する人件費は公金の不当支出であり、防府市に多額の損害を与えていること、防府市は、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が随意契約であつた旨主張するが、右契約は随意契約をなし得る場合を規定した地方自治法施行令一六七条の二のいずれにも該当せず、違法な契約であること、右契約は随意契約でなく指名競争入札であつたものであるが、不正に川崎重工業株式会社に落札された違法な契約であることを理由に、前防府市長被告鈴木に対し損害賠償請求すること、防府市市民生活部長、施設課長を転任又は解任すること、維持管理費の軽減措置として切断前処理装置を導入することの勧告を求めたものであることが認められる。
ところで、原告の本件訴のうち、被告鈴木、同富田に対する損害賠償を求める訴及び被告防府市長に対する本件粗大ごみ破砕処理施設の使用差止めを求める訴は、いずれも本件粗大ごみ破砕処理施設の維持管理のために要する余分な人件費の支出が違法な公金の支出であることを理由とするものであり、かつその違法事由として主張するところは、要するに右公金の支出は、本件粗大ごみ破砕処理施設の機種選定に関与した被告鈴木、同富田が、最少の経費で最大の効果をあげるようにしなければらない旨規定する地方自治法二条一三項に違反し、機種選定を誤って性能劣悪で維持管理費の高くつく施設を購入設置した結果に外ならないというものであるところ(なお原告は、その訴状、準備書面によれば、右の外、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約締結行為に関する違法事由として請求原因3項(一)(二)で主張の事由をも、右公金支出行為に関する違法事由として主張するようでもあるが、原告が違法であると主張する公金支出行為である本件粗大ごみ破砕処理施設の維持管理のための人件費の余分な支出は、性能劣悪で維持管理費の高くつく施設を購入設置したため生じたものとは言い得るとしても、右購入に際し、指名競争入札手続が不正に行なわれ、あるいは随意契約をなし得ない場合であるのに随意契約がなされたからといつて、その手続違法の存在から直ちに前記人件費の余分な支出が生ずるものでないことは明らかであるから、右請求原因3項(一)(二)の事由は、原告の被告鈴木、同富田に対する損害賠償を求める訴及び被告防府市長に対する本件粗大ごみ破砕処理施設使用の差止を求める訴において、原告がその対象としている公金支出行為に関する違法事由の主張とは認めることができないものである)、前記認定事実によれば、原告が右各訴で対象としている公金支出行為及びその違法事由については、第二回監査請求においても対象とされてはいるものの、既に第一回監査請求において対象とされており、これを理由なしとする監査結果の通知は、昭和五五年一一月二一日原告に到達していることが明らかであり、そうすると、原告の被告鈴木、同富田に対する損害賠償の訴及び被告防府市長に対する本件粗大ごみ破砕処理施設の使用差止めを求める訴は、いずれも右昭和五五年一一月二一日から起算して三〇日以内に提起しなければならなかつたものであつて、右訴提起がいずれも昭和五六年四月二七日であることが記録上明らかな本件においては、いずれも出訴期間を徒過した不適法な訴として却下すべきものである。
なお、原告は、第二回監査請求において新たな事項を附加しており、第一回監査請求と同一請求ではないし、現に防府市監査委員は第二回監査請求を一事不再議として却下していないのであるから、何ら出訴期間徒過の不適法は存しない旨反論し、なるほど前記認定事実によれば、原告は、第二回監査請求において新たな事項として、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が随意契約によつたことが地方自治法施行令一六二条の二に該当しない違法なものであること、右契約は指名競争入札に基づくが不正な手段で川崎重工業株式会社に落札させたものであることを新たに附加したことが認められる(なおその余の事項については、第一回監査請求における主張を具体化した等の点はあるとしても、新たな違法事由の主張と認めるに足るものはない)が、右はいずれも本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約の締結行為に関する違法事由を新たに附加したものとは言い得ても、前記のとおり右事由が存したからといつて、そのことから直ちに本件粗大ごみ破砕処理施設の維持管理のための人件費が余分にかかることが帰結される訳ではなく、右余分な人件費の支出は、性能劣悪で維持管理費の高くつく施設を購入設置したがためであるから、本件粗大ごみ破砕処理施設の維持管理のための余分な人件費の支出行為に関する違法事由を新たに附加したものとみることはできないものである。従って、原告の本件訴のうち、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約の無効確認を求める訴の関係では、第二回監査請求において新たな違法事由が附加されていると認められるから、これに対する監査結果の通知があつた日をその出訴期間の起算日とすることはできるとしても、原告の被告鈴木、同富田に対する損害賠償を求める訴及び被告防府市長に対する本件粗大ごみ破砕処理施設使用の差止めを求める訴の関係では、結局第一回監査請求と第二回監査請求とでは同一の監査請求に外ならないから、その出訴期間につき第二回監査請求の結果の通知があつた日を基準とすることはできないと言うべきである。また、第二回監査請求につき、防府市監査委員が一事不再議として却下しなかつたことは前記争いない事実から明らかであるが、だからといつて、その場合に限り再度にわたる監査請求であつても、後になされた監査の結果の通知のあつた日を基準として出訴期間を算定すべきであるとする合理的理由を見出すことはできないし、他に原告の被告鈴木、同富田に対する損害賠償を求める訴及び被告防府市長に対する本件粗大ごみ破砕処理施設の使用差止めを求める訴の出訴期間につき、第二回監査請求に対する監査結果の通知のあつた日を起算日とすべき特段の事情の主張、立証もない。
二 本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約の無効確認を求める訴について
地方自治法二四二条の二第一項二号に基づく無効確認の訴は、その対象が行政処分でなければならないところ、本件粗大ごみ破砕処理施設工事請負契約が行政処分でないことは明らかであるから、右契約の無効確確認を求める原告の訴は不適法として却下を免れない。
三 以上の次第で、原告の訴はいずれも不適法であるのでこれを却下することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 西岡宜兄 紙浦健二 上田昭典)