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山口地方裁判所下関支部 昭和36年(ワ)66号 判決 1964年1月22日

原告 清水義夫

被告 大和油脂工業株式会社

主文

一、昭和三六年二月九日下関市大字南部町一七番地訴外大和油脂株式会社で開催された被告会社の臨時株主総会においてなされた別紙目録第一(二)(三)記載の決議は無効であることを確認する。

二、同目録第一(四)記載の内取締役原告、同高橋寿夫を解任し、新たに取締役として大和新八、同内田一夫を選任する、という点の決議はこれを取消す。

三、原告の同目録第一(一)記載の決議無効確認を求める請求はこれを棄却し、その余の訴はこれを却下する。

四、訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担としその余を被告の負担とする。

事実

(請求の趣旨)

一、昭和三六年二月九日下関市大字南部町一七番地訴外大和油脂株式会社で開催された被告会社の臨時株主総会においてなされた別紙目録第一(一)乃至(三)記載の決議は無効であることを確認する。

二、同目録第一(四)記載の決議はこれを取消す。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

(原告の主張事実)

一、被告会社は昭和三二年一一月八日設立された株式会社で資本金は三七万五、〇〇〇円で発行済株式総数は一株金五〇〇円の額面株式七五〇株であり原告はその内、一二五株の株主で、且つ現在の被告会社代表清算人大和新八(以下単に大和新八と略称。)とともに右設立当時の被告会社代表取締役であつた。又訴外大和油脂株式会社(以下単に油脂会社と略称する。)は被告会社の親会社とでもいうべきもので当時原告は大和新八とともに同会社の代表取締役を勤め、且つ原告は、右大和新八の女婿であり、同結婚以来右両会社のために献心し、同会社の業績向上に努めて来たものである。

二、ところが原告は昭和三四年頃から家庭に不和を生じ、同年秋頃その妻澄子とも別居するに至り、遂に昭和三五年六月七日同女と離婚して後妻洋子と同棲するに至つていたが、大和新八は原告多年の功績を認めた結果、右事態にも拘らず、今後は油脂会社は自ら主宰して原告をその無関係者とするが、他面被告会社は専ら原告に主宰させるべくその腹案を樹て、ついで油脂会社の大株主訴外高見京介の仲介により右離婚前である昭和三五年三月四日原告との間に原告は、原告及びその兄訴外清水新治郎所有名義の油脂会社の株式各八〇〇株合計一、六〇〇株を大和新八に譲渡し、一方大和新八は被告会社の株式総数の六〇%に達するまでの株式を原告に譲渡し、且つ原告が希望するときは残四〇%の株式も額面金額を以て原告に譲渡する旨の双方申し合せが成立し、結局被告会社は原告が又油脂会社は大和新八が各主宰することとなつた。しかして原告は右約定の一、六〇〇株を大和新八に譲渡して油脂会社の取締役を辞任したが訴外大和新八は右約旨に反して株式の譲渡をせず、依然として被告会社の大多数の株式を実質上所有して原告を被告会社から追出すべく画策し、悪宣伝をなして業務遂行を困難ならしめ、剰え被告会社が油脂会社に対して有していた(イ)昭和三五年二月一日貸金六五万円、及び(ロ)昭和三四年一二月三〇日より同三五年二月一〇日までの間の売掛代金二六万一、七〇〇円合計金九一万一、七〇〇円の債権につきその支払をせず、被告会社を倒産に陥入れる策に出たので原告はその運営に窮した。その上被告会社は訴外高見工業株式会社からその所有の工事を賃借して石鹸の製造販売を主業としていたのであるが、同訴外会社も被告会社が右の如き状況下では最早工場の賃貸を継続しない意向を示し、又主取引先ニツカ石鹸株式会社も被告会社名義では今後取引をしないというのでやむなく、原告は訴外高橋寿夫と主唱の上昭和三五年四月一日別個に協和物産株式会社を設立して右営業の継続を計つたが、なおも被告会社が当時銀行及びニツカ石鹸株式会社その他に対し有していた一五四万七、一七一円もの負債を整理しなければ協和物産株式会社の取引開始も出来ない状況であつたので同会社としては被告会社のため右債務の代払をなし、その代り被告会社より同会社所有の計算器一台を金二万六、三九七円、自転車一台を金四、二三三円、長府局電話三一八番を金七万円と見積り計金一〇万〇、六三〇円相当の内入弁済を受け、且つその外右代払金の内金九一万一、七〇〇円につき被告会社より被告会社が油脂会社に対して有していた同額の前記(イ)(ロ)の各債権の譲渡を受けることとし、昭和三五年九月二八日当時の被告会社代表取締役原告と、協和物産株式会社代表取締役高橋寿夫との間に適法に右債権譲渡契約を締結し、ついで翌二九日被告会社において油脂会社に対し右譲渡の通知をなしたもので同債権譲渡が有効なものであることはいうまでもない。

三、しかして原告は被告会社につきその昭和三四年一一月一日より同三五年一〇月三一日までの営業年度の営業報告書、貸借対照表、損益計算書等を作成し、その取締役会においても昭和三五年一二月二七日に定時株主総会を開催する旨の決議をなし、その予定で監査役に右決算書類の監査を求めていたが、再三の請求にも拘らず大和新八の意を受けた監査役は言を左右にして右監査をしないので、右総会招集の運びに至らず困つていたところ、被告会社株主大和新八外五名は山口地方裁判所下関支部に申請して、昭和三六年一月一七日別紙目録第二記載の如き事項を会議の目的とする被告会社の株主総会招集許可決定を得て間もなく同総会を招集し同年二月九日本件臨時株主総会を開催し、同総会で別紙目録第一記載の如き決議をなすに至つたものである。右許可決定の申請に当つては被告会社の取締役で定時株主総会の招集を取決めた際の取締役会にも参加し、又決算書類の審議にも加わつたものである訴外三好乙一が右申請人の一人である上且つ前記のとおりすでに定時株主総会招集の段取りも順次進行途上、大和新八等はやたらと決算書類の監査を拒否して置いて反面いきなり右決定申請に及んだもので右申請及び本件総会の開催も甚だ不純な動機に基くものであると推認せざるを得ず、そのような経緯でなされた本件決議もその内容において当然不法不当な性質を帯びるに至るものといわざるを得ない。

四、ところで本件臨時株主総会の決議の内別紙目録第一(二)(三)はその本旨は油脂会社がその協和物産株式会社に対して負担する前記債務(被告会社より譲渡された前記(イ)(ロ)の債権で、当時すでに協和物産株式会社より油脂会社に対し同請求の訴訟が係属中であつた。)の支払を免れるためのもので、つまり右債務に対し、相殺を主張するための方便としてなされたものであり、専ら油脂会社のために被告会社に不当な支出を強要するものであり、これを是認するにおいては油脂会社は法外な利益を得るとともに被告会社は不測な損失を蒙る結果となり、被告会社の株主総会において全く被告会社の不利益のみを意図した決議をなしたものといわざるを得ず、不当な内容の決議というべきである。以下それ等の点について詳述する。

(1)  元来被告会社の事務所は下関市豊浦村二一五四番地にあり油脂会社を事務所としたことはない。従つて油脂会社にその看板を掲げたこともないので被告会社宛郵便物も右豊浦村の事務所の方え配達されていたものである。只当時便宜上帳簿を油脂会社に置いていたような事実があるにすぎず、それも使用貸借によるもので室料を支払うべきものとして一ケ月金二万円と総会で定めたことは根拠のない不当なことである。

(2)  電話使用料は油脂会社において負担すべきもので被告会社は小倉市にあるニツカ石鹸株式会社と油脂会社との取引が主で大阪方面には年数回通話する程度で、電話の必要も殆んどなく、月一万円の通話料は甚だ不当である。

(3)  通信費、文房具使用料は被告会社は油脂会社とは別途に支弁しており、只油脂会社が古くて使用していない便箋紙を何冊か使用し又同会社の通信先と被告会社のそれとは大体同一であるため油脂会社が発信の際ついでに同封したようなことがある位で、いずれも計算の対象とするに足らぬ程度のものである。しかるに月五、〇〇〇円もの支払を定めたことは不当である。

(4)  自動車及びガソリン使用料については被告会社において自動車を使用したことはない。つまり被告会社の製品はその長府工場庭先渡しで主取引先訴外ニツカ石鹸株式会社は同社所有の自動車で原料を搬入し、又製品も同社の所有車で運搬していたような実状であつた。従つて被告会社の右料金の負担は不当である。

(5)  油脂会社、被告会社兼務者に対する給料は親会社たる油脂会社において従来全額負担して来たもので、将来のことなら格別、既往に遡つてまでその一部を被告会社に負担させることは不当である。

五、以上のような次第で先ず別紙目録第一、(一)の決議はすでに適法になされた債権譲渡契約の効力につきそれを株主総会の決議で一方的に無効を宣言するものであり法律上意味のないことであることはいうまでもなく、仮に右決議を取消の意味に理解するとしても何ら取消原因のない右譲渡契約につき右の如き決議をなすことは相当でなく、いずれにしても右決議が無効であることはいうまでもない。又別紙目録第一(二)(三)の決議は前記のとおりその内容が甚しく不当であるから無効なものというべく、次いで同目録(四)の決議については総会招集の際会議の目的事項としてその旨の通知がなく、且つ総会当日株主でない傍聴者訴外内田一夫の緊急動議により突如として提案可決されたもので総会招集の手続及びその決議の方法が著しく不公正なものであつたというべく、しかも現に右解任理由も存在しなかつたことは前記のとおり明らかであるから、いずれにしても右決議は違法なものとして取消さるべきものである。よつて原告は別紙目録第一(一)乃至(三)の決議についてはその無効確認を、又同目録(四)の決議についてはその取消を求めるため本訴に及んだ。

六、なお被告は被告会社がすでに解散したので原告が別紙目録第一(四)の決議取消を求めることはその訴の利益を欠く旨抗争しているが(A)原告は本件決議がなかつたとすれば商法四一七条により当然清算人となるべき地位にあつたのにこれを失い、(B)従つて清算人としての権利、被告会社に対する清算人としての報酬請求権を失い(C)且つ本件解任の決議がなされた昭和三六年二月九日より被告会社解散の決議がなされた昭和三六年九月三日まで原告は形式上取締役でないことになつたので本件訴訟により右決議の取消を求めなければその間の取締役としての報酬請求権を行使することができないので、右取消を求めることは充分訴の利益があるものと言える。

(答弁の趣旨)

原告の請求を棄却する。

(被告の主張事実)

一、被告会社が原告主張の如き資本金を有し、同主張の如き株式構成の会社であること、及び大和新八等が原告主張のとおり株主総会招集の許可決定を得て同総会を招集し、原告主張の日別紙目録第一記載の如き総会の決議をなしたこと、並びに原告と大和新八との間に原告主張の如き双方株式譲渡についての申し合せがなされたこと、又原告等が原告主張のとおり訴外協和物産株式会社を設立し、同訴外会社が被告会社より原告主張の前記(一)(二)の債権譲渡を受けたこと、は認めるが、その余の点は全て争う。

二、ところで原告は昭和三五年四月一日被告会社と同一の営業目的を有する協和物産株式会社を設立しその代表取締役となつて以来被告会社の業務を等閑にして昭和三五年一〇月三一日の決算期より二ケ月以内に招集すべき定時株主総会も招集せず、被告会社の経営状況も不明も帳簿さえ見せない状況であつたため、被告会社株主たる大和新八等において本件株主総会招集の許可決定を得て同総会開催に及んだもので同総会招集の手続には何ら違法はない。

三、しかして別紙目録第一(一)の決議は次に述べるような理由で有効なものというべきである。つまり原告が代表取締役である被告会社において同じく原告が代表取締役である訴外協和物産株式会社に対し被告会社の営業部類に属する商品販売代金決済等のため前受金勘定を起し、右訴外会社より金員の貸付を受けたりしていたところ、協和物産株式会社は右前受金勘定の債務弁済に代え被告会社より右目録(一)(イ)(ロ)記載の債権譲渡を受けたもので、もとより同譲渡につき取締役会、株主総会の承諾もなく、従つて該譲渡行為は商法二六四条第一項又は同法二六五条に違反する無効なものであるから株主総会としても右目録(一)の決議により右譲渡行為が無効であることを明らかにし、且つこれらの行為による取締役たる原告の責任に関しては商法二六六条一項三号四号同条二項規定のとおりであるから、原告は先ず株主総会において右事実を開示する必要があり、又株主総会としても右原告の責任を決議によつて明らかにする必要があるので、結局実質的には右決議は原告が右譲渡行為をなしそれについての右開示措置も採らないことに対する取締役としての責任を免除せず(商法二六六条四項)従つて右行為の有効を前提としてなされた決算も承認できない趣旨を明らかにし、併せてその善処を求めた趣旨のもので、そのように解すると同決議も正当な内容を有する法律上意味のある決議であるといえるから有効なものというべきである。

四、次に別紙目録第一(二)(三)の決議は、油脂会社と被告会社との経理上のことであるが、従来両会社の代表取締役は大和新八と原告がともに兼務していた関係上帳簿上明確を欠き、原告は決算書類を事前に全然提示しない上株主総会の席上提出閲覧を求めた結果も被告会社の帳簿上には一切これらのことが記載されていなかつたので、大和新八等被告会社株主としてはこれ等計算関係を明確にして置く必要があり、株主総会としてもその決議により原告等取締役がそれを明確にしなければ決算の承認もしない旨を明らかにしたもので、又特に取締役会、株主総会の承認も得ない儘なされた右両会社の取引行為ともいうべき行為によつて発生した右経理上の債権債務につき原告としてはその事実を開示すべき責任(商法二六五条、二六六条五項)のあることを総会の決議によつて明確にしたものである。従つてその意味で右決議も有効なものというべきである。

五、又別紙目録第一(四)の決議も次のような訳で有効である。つまり右決議は別紙目録第二(本件株主総会招集許可決定中会議の目的たる事項)(七)項所定の緊急議案に含まれるもので、右目的事項のその他の事項を見れば原告は最早代表取締役の地位に留り得ない状況で当然解任の動議がなされて解任されるであろうことは充分予想され得るところであるから原告主張の如く株主総会招集通知に右議題を具体的に明記しなかつたとしても右決議をなすことに何ら支障はなく、同決議は有効なものというべきである。仮にそうでないとしても被告会社はすでに昭和三六年九月三日の株主総会において解散決議を行い同日清算人に大和新八、三好乙一が、又代表清算人に大和新八がそれぞれ就任し、同月七日いずれもその旨の登記をなしているので右決議の取消を求める本件訴はその利益なく却下さるべきものである。

よつて原告の本訴請求は全て理由がない。

<立証省略>

理由

被告会社は昭和三二年一一月八日設立された株式会社で資本金は三七万五、〇〇〇円、発行済株式総数は一株金五〇〇円の額面株式七五〇株であり、原告はその内一二五株の株主であること、又被告会社株主大和新八外五名は山口地方裁判所下関支部に対し商法二三七条二項所定の被告会社株主総会招集許可決定の申請をなし昭和三六年一月一七日別紙目録第二記載の如き事項を会議の目的とする右総会招集許可決定を得て、同総会を招集し、同年二月九日下関市大字南部町一七番地油脂会社において被告会社の臨時株主総会が開催され、同総会で別紙目録第一記載の如き内容の決議がなされたことは当事者間に争のないところである。

ところで原告は右決議の効力につき別紙目録第一(一)(二)(三)の決議は無効なものであり、(四)の決議は取消すべきものであると主張し、被告は全て有効な決議である旨主張しているので以下順次これ等の点について判断する。

一、(別紙目録第一(一)の決議の効力について)成立につき争のない甲第一号証、甲第二号証、甲第七号証、甲第八号証、甲第一〇号証の一、二、甲第一一号証の一、二、乙第三号証、乙第四号証、乙第五号証、証人高橋寿夫の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一乃至三並びに証人高橋寿夫の証言、原告及び被告会社代表者大和新八各本人尋問の結果その他弁論の全趣旨を併せ考えると、(一)原告は油脂製品の販売等を目的とする油脂会社の大株主である大和新八の女婿で、同人とともにかねてより右油脂会社の取締役を勤め、昭和三二年五月三〇日頃からはその代表取締役をも勤めていたが、同年一一月八日右油脂会社の全額立替出資により石鹸及び油脂製品の製造販売を目的とする被告会社が設立されるや、右大和新八とともに被告会社の代表取締役をも兼ね、右両会社の業務に従事していたものであるところ、昭和三四年頃より大和新八の長女で原告の妻である大和澄子との間に女性問題で仲違いを生じ、同年秋頃同女と別居するに至り、延いては右大和新八との間も円満を欠くようになつたが、元来被告会社は経済的には油脂会社の所謂子会社であり、油脂会社の販売商品の下請製造のために設立されたような会社で、被告会社の長府工場で製造された油脂製品は訴外ニツカ石鹸株式会社の外は大半右油脂会社に売渡され、被告会社としてもその売渡代金の収納及び油脂会社よりの前記出資金の外、屡々なされた多くの借入金、その他日常諸経費についての経済的援助のもとにその経営を維持していたもので、勢い前記仲違いの後は被告会社と油脂会社の取引関係も中断し、他面従来問題とされなかつたような債権債務を主張し、しかも双方その債務の支払を躊躇するような状態となり剰え大和新八の原告に対する不信感は募り創立以来殆んど欠損続きの被告会社の経理にも疑念を抱くようになり、諸経費の出費、資産、在庫商品の処理等その経営、財産管理に関し積極的に容喙するようになつたため、右両名の対立は一層激化し、被告会社も当時すでに多大の負債を抱えてその営業は事実上ストツプし、ニツカ石鹸株式会社、銀行等に対する信用も失い、殆んど解散同然の状態にまで追い込まれるに至つていたこと、(二)ところがその頃原告は訴外高見京介の仲介で、大和新八と折衝の末同人との間に昭和三五年三月四日申合書なるものを作成して両者間に一応の和解をなし、その結果要するに双方その所有株式の譲渡により原告は油脂会社から又大和新八は被告会社からそれぞれ手を引いて被告会社はいずれ大和新八の関与なく原告において専ら主宰し得るようなものとし、且つ又別紙目録第一(一)(イ)(ロ)各記載の油脂会社の負債も早晩被告会社に対して支払うようにすることに双方諒解をなしたが、大和新八はなおも被告会社を原告に任せることを危惧し右負債の支払を渋り右約旨に従わなかつたため、被告会社の存続は殆んど望みがなくなり、そのため原告は最早被告会社の存続を諦め、現に被告会社の代表取締役の地位に残留した侭でしかも被告会社の残存資材等も利用して、被告会社と同種の営業を目的とする別会社を創立し、同会社で右営業の継続を計ろうと目論み、昭和三五年四月一日、石鹸、油脂製品等の製造販売を目的とする訴外協和物産株式会社を資本金五〇万円(原告一五万円、訴外高橋寿夫一〇万円、他は五万円宛)で設立し、原告は訴外高橋寿夫とともに同会社の代表取締役となつて、事実上同会社の経営を主宰し、次いで間もなく右訴外会社においてその営業開始のための必要上被告会社のニツカ石鹸等取引先に対する負債を立替支払つたことの代償として、被告会社の計算器、自転車等残存資産の譲渡を受け又昭和三五年九月二八日別紙目録第一(一)(イ)(ロ)各記載の被告会社の油脂会社に対する債権につきその回収を容易にすることをも企図してその譲渡を受けるに至つたものであること、が認められる。しかして原告は右譲渡契約は当時の被告会社代表取締役原告と、協和物産株式会社代表取締役高橋寿夫との間に締結された旨主張しているが、右認定のとおり協和物産株式会社は事実上原告が主宰する会社であることからして右主張事実はたやすく肯認し難く、むしろ右譲渡は双方の代表取締役たる原告の単独行為によつてなされたものと推認すべき余地も多分にあり、しかも右譲渡につき事前又は事後に取締役会又は株主総会の承諾を得たような事実は全く認められない。原告本人尋問の結果の内右認定に反する部分は措信し難く他に右認定を左右するに足る証拠はない右認定事実からすると原告は被告会社と明らかに競業関係にある訴外協和物産株式会社を設立してその代表取締役となり、ついで被告会社の代表取締役でもあることを利用して代償とはいえその貴重な資産とでもいうべき本件債権の譲渡を受けるに至つたことは明らかに被告会社の解滅を予定し、他会社の利益を計つたもので、被告会社に対し、取締役としての義務(商法第二五四条ノ二、同法二六四条)を忠実に尽くしたものとは到底言えず、且つ又右債権譲渡は原告が取締役会の承認を得ないで協和物産株式会社のために被告会社と取引をなしたものと認める余地もあり、(商法二六五条)、本件決議は成程その表明の形式が直接的で些か不適当であるとの譏を免れないとしても、要するにその本旨は被告会社の株主として右債権譲渡はこれを容認できないこと、従つて決算においてもその関係が計算上明らかにされることが望ましく、且つ又それに関して何らかの損害があればその行為取締役たる原告に対しその責任を追及する途を鎖さない(商法二六六条一項、五項)旨の意思を表明したものと理解することができ、右内容の決議としてなら法律上も充分意味があり且つ又その内容も相当であるから本件決議は有効なものといえる。この点についての原告の請求は理由がない。

二、(別紙目録第一(二)(三)の決議の効力について)右認定事実の外、成立につき争のない甲第七号証甲第一〇号証の一、二、甲第一一号証の一、二証人高橋寿夫の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第三号証の一乃至三、甲第四号証、甲第五号証の一、二、甲第六号証、甲第九号証並びに証人高橋寿夫の証言、原告及び被告会社代表者各本人尋問の結果、弁論の全趣旨を併せ考えると、訴外協和物産株式会社は被告会社よりその債権譲渡を受けるや同債権に基いて油脂会社の商品を仮差押し、且つ間もなく同請求訴訟にまで及んだが、油脂会社としても前記事情のためたやすく右支払に応ずることは釈然とせず、原告に対する憤情も手伝つて、右債務の支払も何とか何らかの反対債権による相殺勘定ででも実質的にはその支払を免れるような結果を計ろうとの意図もあつて前記の如く大和新八等において本件臨時株主総会開催に及んだものであるところ、もともと前記認定事実において明らかな如く、油脂会社は被告会社を少くとも創立後その経営が軌道に乗るまで数年間は、実質的にも相当な経済的援助をする建前で設立したもので、その事務所も同じ場所を使い、電話、自動車も油脂会社のものを幾分共用し、油脂会社の文房具類も或る程度利用した形跡がうかがわれ、又被告会社のために時には油脂会社の社員を利用したような事実がうかがわれなくもないが、これらについては油脂会社としては当初から被告会社に対し、右対価として何らかの金銭的請求をなすことを予定せず、従つてもとより右支払についての具体的な取決めもなく、又油脂会社の帳簿上も右関係につき油脂会社の未収金、立替金、仮払金等何らかの勘定科目が設定されてその記載がなされているような形跡は全くなく、そのため、却つて油脂会社としては前記譲渡債権の支払に窺し、併せて原告に対する感情的な縺れから今迄全く予定しなかつた事柄を持ち出して右債務に対する反対債権の作出を目論むに至つたものとしか推測し難く、又被告会社の帳簿(元帳の営業費勘定)を検討すると、その支出を全面的には信用できないとしても被告会社としても電話料、文房具代その他諸経費に少くとも相当程度の出費をなしている事実が容易に推認され、従つて反面油脂会社の立替支弁した出費も格別取立てて問題とすべき程の金額ではなかつたものと認められるが、本件総会においてはその出席株主(委任状も含む)一〇名株式総数七〇〇株で、内大和新八外五名(四二五株)の株主が、油脂会社の株主であり就中その内株主五名(三二五株)は明らかに油脂会社の利益を擁護しようとするもので、右決議には特別の利害関係を有するものであることをも(商法二三九条五項)顧みず、右総会が被告会社の株主総会であることを故意に看過して油脂会社の利益のみを慮り、もとより何ら具体的な算定資料に基くことなく単なる推算で強引に、被告会社に甚しく不利益な本件決議をなすに至つたものであることが認められ、被告会社代表者大和新八本人尋問の結果の内右認定に反する部分は措信し難く、他に右認定を左右するに足る証拠はない。

そうだとすると右認定事実からして本件決議は株主の議決権の不当な行使によつてなされたもので、しかもその結果甚しく不公正(民法九〇条)な内容を有するに至つたものというべく、(若し右の如き議決権の行使を容認するとすれば結局は被告会社の財産につき何ら特別担保を有しないその一般債権者の利益を犠牲にして株主の出資金を優先的に回収せしめるような結果にもなり、その不当なことは明白である。)違法な決議として無効なものというべきである。被告は右決議は被告会社がその決算において油脂会社に対する被告会社の責任を計算上明確化して置くべきことを要求し且つその点が書類上明らかにされなければ決算も承認できない趣旨を表明したにすぎないものである旨主張しているが、右決議の内容は単にそのようなものとだけは受けとれず、仮にそのような意味にすぎないものとしても被告会社として結局において謂われなき債務の負担を要求されるものである点には変りなく、元来業務担当取締役がそれを問題としていないのに株主において進んで自社の負債の存在を強く主張するのも甚だ不可解である。いずれにしても右被告の主張は採用できない。

三、(別紙目録第一(四)の決議の効力について)本件総会の招集に当つてはその会議の目的事項として被告会社の取締役、監査役の解、選任についてその通知が各株主に対してなされなかつたことは被告もこれを明らかに争わないところである上証拠上も右通知のあつたことをうかがわしめるようなものは全くない。成程本件の如く商法二三七条所定の裁判所の許可に基く総会招集は通常現職取締役の業務執行に対する不満から一部少数株主が右取締役の解任を目的としてなす場合が一般であり、現に本件招集も別紙目録第二記載のその会議の目的たる事項からすると、明示の文言こそないが結局において右取締役の解任等をも右目的事項として意図したものであることを窺知するに足り、更に前記各認定事実からすると原告も本件臨時株主総会において自己の取締役としての地位が問題とされ得るやも知れないことを予期していたものと推認されなくもない。しかしながら取締役、監査役の解任、選任は商法もそれぞれその決議の要件を厳格化しているように(商法二五六条ノ二、同法二五七条、二八〇条参照。)株主総会の決議事項としては重大であり、各株主に右解、選任につき予め充分考慮させる必要があり、就中本件の如く不信任を問題とされるような現職取締役としては予め自己の責任について充分な釈明をなすべき準備の余地が認められてもしかるべきであり、その他決議の方法についても特別な利害関係を有する者の議決権の排除、累積投票(定款一七条)の要否等各株主にその権利の行使につき充分な準備をなさしめる必要もあり、且つその結果が従前と同一となるか必しも予断を許さず、そのためには前記会議の目的事項の通知は本件の場合実質的にも必要なものであつたといえる。被告会社の如きその実体は極く同族的な株主によつて構成された規模の小さい有限会社程度の会社であつてもやはり株式会社としての組織形態を有する以上余り右招集の要件を緩和して解釈することは結局は株式会社としての看板を掲げる被告会社に会社運営上その看板と異なる脱法的行為を容認する結果ともなり株式会社としての特質を全く骨抜きにしてしまうことになる。

そうだとすると右各事実からして本件決議はその総会招集の手続が法令に違反してなされたものというべく、従つて取消し得べきものである。しかして本件決議の日より三ケ月内である昭和三六年三月二二日に本訴が提起されたものであることは一件記録上明白であるから右取消を求める本訴請求は正当なものと言える。なお、被告は被告会社はすでに昭和三六年九月三日解散しているので原告は右取消を求める訴の利益がない旨主張しているので考えてみるに成立につき争のない乙第四号証によると被告会社は昭和三六年九月三日その株主総会の決議により解散し、同月七日その旨の登記をなし、大和新八がその代表清算人に就任している事実をうかがうことができるが、株主総会の決議取消の効力はその取消の判決によつて初めて遡及的に生ずるもので無効の場合と異り同取消がない限り他の関係で右決議の効力を当然には否定し得ないものであるところ、新たに選任された取締役の職務執行により右解散までに会社の外部内部において生ずる色々な法律関係につき場合によつては株主としてその効力を否定する必要があり且つ否定し得べき場合もあり(商法一二条、一四条参照)、これ等のためには会社解散後といえども右決議取消のための訴を認める必要があり、又監査役は会社の解散決議によつては同解散結了までは当然にはその職務がなくなる訳のものではないから(商法四二〇条参照)右解散決議によつては当然に本件訴の利益を欠くに至るものではない。もつとも成立につき争のない甲第七号証、乙第四号証によると本件決議当時の被告会社の取締役は原告、高橋寿夫、三好乙一の三名で監査役は勇士保、魚住義雄の二名であつたところ、本件決議の結果従前と変つた点は従前の取締役原告、高橋寿夫の両名が解任されて新たに取締役として大和新八、内田一夫が選任された点のみであるから、実質的に従前と異ならない他の点については少くとも取締役に関する限りその訴の利益がないことは明らかである。又監査役についても現在すでにその任期(一年)も満了しているものとうかがわれる上本来同一体をなす解選任決議の取消を同時に求めている以上従前と全く異ならない右決議の取消を求める訴の利益はないものと認めるのが相当である従つて被告の前記主張は右の点のみ理由がある。

よつて本件決議は別紙第一(二)(三)は無効で、(四)の内取締役原告、同高橋寿夫を解任し、新たに取締役大和新八、同内田一夫を選任する点は取消すべきものというべく、従つて原告の本訴請求は右の限度で理由があるからこれを認容し、原告の別紙目録第一(一)の決議無効確認を求める請求は理由がないのでこれを棄却することとし、その余は訴の利益がないのでこれを却下すべく、訴訟費用の負担につき民訴法第九二条本文を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 渡辺伸平)

別紙

目録第一

(一) 被告会社の訴外大和油脂株式会社に対して有する(イ)昭和三五年二月一日貸金六五万円、(ロ)同三四年一二月三〇日以降同三五年二月一〇日までの間の売掛代金二六万一、七〇〇円、以上合計金九一万一、七〇〇円の債権につき昭和三五年九月二八日付をもつて下関市田中町四番地の二訴外協和物産株式会社に対してなした債権譲渡は無効とする。

(二) 被告会社は昭和三二年一一月八日同会社設立以来同社事務所を下関市大字南部町一二〇番地訴外大和油脂株式会社内に設置し始終その事務を執行したことに関し同訴外会社に対し左記債務を認めその支払をなすこと。

(イ) 事務所賃借料一ケ月につき金二万円宛二八ケ月分金五六万円、

(ロ) 電話使用料一ケ月につき金一万円宛二八ケ月分金二八万円、

(ハ) 通信費文房具その他一切の消耗品費一ケ月につき金五、〇〇〇円宛二八ケ月分金一四万円、

(ニ) 自動車及びガソリン使用料一ケ月につき金二万円宛二八ケ月分金五六万円、

(三) 被告会社は訴外大和油脂株式会社及び被告会社に兼務した者の給料二八ケ月分金四七万六、〇〇〇円を右訴外会社に支払うこと。

(四) 被告会社の役員全員を不信任により解任し、新たに取締役として三好乙一、内田一夫、大和新八を、又監査役として魚住義雄、勇士保を、それぞれ選任する。

目録第二

(一) 被告会社が油脂会社に対して有する左記債権につき昭和三五年九月二八日付を以つて下関市田中町四番地の二協和物産株式会社に対しなした債権譲渡に関する件につき再審議をなしこれが可否につき決議をなすこと。

(イ) 昭和三五年二月一日貸付元金六五万円

(ロ) 同三四年一二月三〇日以降同三五年二月一〇日までの間の売掛代金二六万一、七〇〇円

(二) 被告会社が昭和三二年一一月八日正式に設立以降その事務所を前記下関市大字西南部町一二〇番地油脂会社内に設置し始終その事務を執行したるにより油脂会社に支払うべき左記債務の支払額を算定承認する決議をなすこと。

(イ) 事務所に対する一ケ月の賃料

(ロ) 電話使用料額の算定

(ハ) 通信費及文房具使用料金その他一切の消耗費等の算定

(三) 油脂会社、被告会社に兼務したる者の給料その他これに伴う費用の公平なる分担額の算定をし、前項(イ)(ロ)(ハ)と合算したるものの双方会社の決済方法に関する決議をなすこと。

(四) 現在の被告会社の資産負債状態につき被告会社代表取締役をして厳密正確なる報告をなさしめ、これが可否につき審議して決議をなすこと。

(五) 被告会社の株主名簿につきこれの可否を決議すること。

(六) 被告会社の登記手続に違反なきや否やを検査してこれが決議をなすこと。

(七) その他右に関連する緊急議案の提出を求めてこれにつき決議をなすこと。

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