山口地方裁判所徳山支部 平成2年(ワ)126号 判決 1992年5月27日
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告らに対し、それぞれ金二九九五万八九六七円及びこれに対する平成元年一〇月一三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
主文同旨
第二当事者の主張
一 請求原因
1 被告は、後記交通事故の加害車両ある普通貨物自動車(広島四五せ四六四八)(以下、「本件加害車両」という。)の保有者である。
被告は、本件加害車両を平成元年一〇月一一日から同月一二日にかけて訴外小林敬三(以下、「小林」という。)に貸し与えることにより本件加害車両を運行の用に供していた。
2 (本件交通事故の発生)
(一) 事故発生日時場所
平成元年一〇月一二日午前一時一〇分ころ
山口県熊毛郡熊毛町大字大河内二〇〇四 瀬戸数馬方前国道二号線
(二) 事故当事者(車)
(1) 加害車両 小林運転の本件加害車両
(2) 第二加害車両 阿比留和昭運転の大型貨物自動車(山一一あ六一)
(3) 被害者 小林運転の本件加害車両の助手席に同乗していた亡菅野幸二(以下「幸二」という。)
(三) 事故態様
本件加害車両を小林が運転し、同車両に幸二が同乗して、前記事故発生日時に前記場所を広島方面に向けて走行中、小林が居眠り運転をして対向車線に進入し、おりから対向車線を徳山方面に向かい走行してきた前記第二加害車両に正面衝突し、幸二は右交通事故により顔面及び胸部打撲による内蔵出血のため、同日午前一時一〇分ころ死亡した。
3 (被告の責任)
被告は、本件加害車両を小林をして運行の用に供させていたものであり、運行供用者であり、右運行供用中の本件交通事故によつて幸二を死亡に至らせたものであり、自賠法三条により、幸二の本件交通事故による後記損害を賠償する責任がある。
4 (損害)
(一) 慰謝料 金一六〇〇万円
(二) 逸失利益 金三七九一万七九三五円
内訳 (1) 年収 金三四五万一七九二円
(2) 死亡時二六歳 新ホフマン係数二一・九七〇
(3) 生活費控除 五割
5(一) 原告菅野幸好は幸二の父、原告菅野貞子は同母であり、幸二は独身で子供がなく、原告両名が相続分各二分の一の相続人であり、右4項の損害賠償金を二分の一宛て相続したので、原告両名はそれぞれ金二六九五万八九六七円宛ての損害賠償請求権を相続した。
(二) 原告両名は、幸二の葬儀費用として、各人金五〇万円宛て支出した。
(三) 原告両名は、本件訴訟追行を山口県弁護士会所属弁護士吉川五男、同中村覚に依頼し、その弁護士報酬として各金二五〇万円宛ての支払いを約した。
よつて、原告らは被告に対し、本件交通事故に基づく損害賠償として自賠法三条に基づき、各金二九九五万八九六七円及びこれに対する本件交通事故の翌日である平成元年一〇月一三日から各支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1の事実中、被告が普通貨物自動車(広島四五せ四六四八)の保有者であることは認め、被告が右車両を小林に貸したことは否認する。
被告は右車両を幸二に貸したものである。
2 同2は認める。
3 同3は争う。
本件加害車両の運行供用者は、幸二及び小林であつて、被告ではない。したがつて、被告には自賠法に基づく損害賠償責任はない。
4 同4は否認または知らない。
三 抗弁
1 (幸二の運行供用者性)
本件交通事故当時の加害車両の運行に対する支配は、幸二の方が直接的、顕在的、具体的であつたから、幸二は自賠法三条の「他人」には当たらない。
(一) 本件交通事故当時、被告は訴外羽沢建設株式会社の下請業者(重機オペレーター)であり、幸二及び小林はともに右会社の従業員(幸二は現場監督、小林はその補助者)で、いずれも右会社の山陽自動車道小松原工事現場の仕事に従事し、熊毛郡熊毛町所在の宿舎に居住していた。
(二) 本件加害車両は被告が所有していたものであるが、本件交通事故日の前日である平成元年一〇月一一日、被告は幸二から同人所有車両のナンバープレートの変更手続を依頼され同車両を運転して広島に行くこととなり、その間の代車として本件加害車両を幸二に貸与した。
(三) 幸二は、本件加害車両を被告から借り受けた当日の午後八時ころ、小林に本件加害車両を運転させて前記宿舎から徳山市内に飲食に赴き、同人とともに午後九時ころから翌日の午前〇時ころまで徳山市内の料理屋やスナツク等にて飲食し、同人に本件加害車両を運転させて宿舎に帰る途中、本件交通事故に遭遇した。
以上のような事実によれば、本件の具体的な運行に対する支配は、幸二の支配が直接的、顕在的、具体的であり、幸二及びその相続人が被告に対し、自賠法三条の「他人」であることを主張することは許されない。
2 (運行供用者の割合的認定)
仮に被告に運行供用者としての側面があつたとしても、幸二も運行供用者の立場にあり、運行供用者性に応じて割合的な減額をすべきである。
3 (過失相殺)
本件は小林の居眠り運転が原因であるが
(一) 本件は同僚である小林と酒を飲みに行つてその帰りの事故であること、特に、幸二は、大学出立ての小林より四歳年上であり、先輩として色々指示できる立場にあることから考えると、酒の飲めない小林が少しでも酒を飲んでいたら車を運転させるべきでなかつたこと
(二) 日頃は既に寝ている時刻である午後一〇時をとうに過ぎていることを知つていて小林に運転させていること
(三) 小林と飲みに行つた理由として、あまり飲めない小林に、熊毛町と徳山の行き帰りの運転をさせる便宜のためという面があること
を鑑みると幸二にも相当の過失がある。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は争う。
本件加害車両の運行についての幸二の自賠法三条の「他人性」を検討すると、次のとおりである。
運転者である小林は、所有者である被告から本件加害車両を貸与され、その権限に基づいて運行をしていものである。
幸二も一応被告から本件加害車両を貸与されていたのではあるが、現実には小林が運転しており、小林と幸二が共同運行者だとしても、現実の運行についての支配の程度は小林が優勢である現実的なものである。
幸二は運行支配につき、小林より劣つているものであり、また被告から車を共同で借りたという関係であることからして、小林の運行は幸二の使用権限に基づくものではなく、独自の使用権限に基づくものであり、この点からして、幸二は小林の運行につき指揮、命令する関係にもない。
以上からして、本件事故当時の本件加害車両の運行は、被告が小林に貸与し、その小林によつて運行の用に供されていたものといえるのであり、幸二は「他人」に該当する。
好意同乗的な関係に擬せられるものである。
2 抗弁2及び3は争う。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 本件請求原因1の事実のうち、本件加害車両を被告が保有していたこと及び請求原因2(本件交通事故の発生)の事実は当事者間に争いがない。
二 そこで請求原因3(被告の責任)について判断する。
証拠(被告本人、証人小林敬三、乙一の一一、一二、一四及び二三)によれば、次の事実が認められる。
1 被告は羽沢建設の下請業者として、幸二は羽沢建設の社員として、小林は羽沢建設への出向社員として、本件交通事故当時、山陽自動車道の建設に従事し、山口県熊毛郡熊毛町の現場宿舎に宿泊していた。
2 本件交通事故の前日である平成元年一〇月一一日、被告が広島県安芸郡の妻子のもとに帰るに際し、幸二は被告に対し、幸二所有車両のナンバープレートの変更手続きを広島ですることを依頼し、そのため被告が幸二所有車両に乗つて広島に帰ることとなり、そこで、被告は、被告所有の本件加害車両の鍵を幸二に渡し、その使用を許すとともに保管を依頼した。
3 幸二は、右同日の午後八時ころ、小林とともに、本件加害車両で徳山市内に飲食に行くことにし、その際運転は小林にさせた。
幸二と小林は、徳山市内で本件交通事故当日の平成元年一〇月一二日午前〇時すぎころまで、小料理屋、スナツク等で飲食した後、小林が本件加害車両を運転し、幸二がそれに同乗して前記宿舎に帰る途中本件交通事故に遭遇した。
以上の事実が認められる。
以上の事実によると、幸二は、本件加害車両を被告から借受けていたものであり、本件交通事故当時加害車両を現実に運転していたのは小林であつたとしても、これは幸二の支配のもとに小林が運転していたものであつて、被告に対する関係では、幸二の本件の運行における支配の程度が直接的、顕在的、具体的であるから、幸二は(ひいては原告ら)被告に対し、自賠法三条にいう「他人」には該当しないものである。
なお、前掲証人小林敬三の証言及び乙第一号証の二三中には、被告が、本件加害車両を小林が運転することは分かつていたと思う旨の部分があるが、これは、小林が以前本件加害車両を運転したことがあることを前提にしているのであるが、その際は、常に被告が同乗していたものであり、本件交通事故の際には、被告が幸二所有車両を使用する代わりとして、本件加害車両を幸二に貸したものであつて、被告が、幸二の指示のもとに小林が本件加害車両を運転することはあるとは予想したとしても、小林に対して本件加害車両の自由な使用を許したものとは考えられない。
また、仮に被告が幸二及び小林両名に対し、本件加害車両を貸し渡したとしても、本件の運行における支配の程度は幸二の方が直接的、顕在的、具体的であるというべきであるから、前記判断に差異をもたらさない。
三 以上の次第で、原告らの本訴請求は、その余の点につき判断するまでもなく理由がないから、いずれも棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 吉波佳希)