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山口地方裁判所徳山支部 昭和47年(ワ)26号 判決 1974年5月14日

原告

神戸清

ほか一名

被告

稲垣耕治

ほか一名

主文

被告らは、各自原告神戸清に対し金六九万九九九一円、原告神戸美代に対し金五八万五六八三円、およびみぎ各金員に対する昭和四六年三月七日からいずれも支払ずみまで年五分の割合による各金員をそれぞれ支払え。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告それぞれと被告らとの間に生じた分をいずれも六分し、その各一を原告らそれぞれの負担、その余は、いずれも被告らの連帯負担とする。

この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(請求の趣旨)

原告ら訴訟代理人は、被告らは各自原告神戸清に対し金七九万七九九九円、原告神戸美代に対し金六七万七五三一円およびそれぞれの金員に対する昭和四六年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え、訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

との判決ならびに仮執行の宣言を求めた。

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求原因として、次のとおり述べた。

一  昭和四六年三月六日午後五時一〇分頃、徳山市遠石一丁目国道二号線で原告神戸清運転の乗用車(以下「原告車」という)に被告稲垣耕治の運転する乗用車(以下「被告車」という)が追突した。そのため原告神戸清は治療四ケ月半を要する頸椎捻挫の傷害を、原告車に同乗していた原告神戸美代は治療約五ケ月を要する頸椎捻挫の傷害を、それぞれ受けた。

二  被告稲垣は被告車の保有者であり、原告車に追従して被告車を運転していたが、前方注視義務に違反して、右側車両に気をとられ後方を振向いたときギヤーの入つていたクラツチより足を離したため、原告車に追突したものである。したがつて同被告は自賠法三条および民法七〇九条にもとずき原告らの被つた損害を賠償する責任がある。

三  被告会社は被告稲垣の使用者であつて、本件事故は被告稲垣が被告会社の業務のため徳山市に出張しその仕事を終えての帰途にこれを惹起したものであるから、被告会社は使用者として、同じく損害賠償義務がある。

四  原告神戸清のこうむつた損害は次のとおりである。

(一)  原告車の修理代 金一万八六八〇円

(二)  治療費 金四七万五三〇三円

(三)  入院中の雑費 金一万八六〇〇円

昭和四六年三月一六日から同年五月一五日まで一日三〇〇円の割合による六二日分

(四)  逸失利益 金二七万三五五六円

同原告は事故当時、徳山電業株式会社に勤務し月額七万九〇〇〇円の給与を得ていたが、本件事故により昭和四六年三月七日から同年五月二三日まで欠勤を余儀なくされ、その間の給与および同年六月支給される賞与の支給を受けることができなくなり、このため合計金二七万三五五六円の損失を受けた。

(五)  慰藉料

同原告は本件事故のため、頸椎捻挫の傷害を負い昭和四六年三月六日から同月一五日まで今村整形外科に通院し、同月一六日から同年五月一五日まで入院治療し同月一六日から同年七月一九日まで通院治療したが、自賠責保険後遺障害等級一四級の後遺症が残つた。ことに胸椎刺突起が延長し、内一個は離断しており疼痛が続いている。そのため昭和四六年一一月二二日から昭和四七年二月一九日まで入院治療をした程である。仮に、この点にのみ限つて同原告のうくべき慰藉料を算出すると、これを金四九万円とすべきものであるほかに、同原告は、本件事故のため、その生活上も、次のような不保を被むり、支出を余儀なくなされたもので、同原告が被つた苦痛を慰藉するには、みぎとこれらの支出額を合した額金六四万五八六〇円をもつて相当とする。

すなわち、原告清は昭和四六年三月一六日今村整形外科医院に入院し、原告美代は同年同月六日同医院に入院したため、長女(当時小学校六年生)、長男(当時小学校四年生)の世話、および家事手伝を他に依頼せざるを得なかつた。そして、まず(1)同年三月八日より三月二〇日まで西宮市在住の親下塚弥に依頼し、同人において徳山に赴いたうえ、また同年三月三一日から同年四月二八日まで同様にして、みぎの家事をみてもらい、その謝礼として金五万三三〇〇円を支払つたほか、(2)同人の西宮市・徳山市間の往復交通費一万一八〇〇円を負担し、(3)昭和四六年三月二一日から同年三月三〇日まで長女、長男を西宮市内の下塚美智子方でその世話を依頼し、そのため右長女、長男の同市までの往復交通費九九六〇円を支出し、(4)みぎ下塚美智子に対し長女、長男の世話料および食費として金二万円を支払い、(5)また同年四月二九日から同年六月五日まで平岡よし子に前同様の家事を手伝つて貰いその謝礼として金六万〇八〇〇円を支払つたものである。

(六)  損益相殺

原告清は自動車損害賠償責任保険から金五〇万円を受領し、被告稲垣から金一万六〇〇〇円を受領し、また自賠責保険から後遺症の補障として金一九万円の支払を受けたので、これらを控除すると金七二万五九九九円となる。

(七)  弁護士費用 金七二、〇〇〇円

同原告は被告らが損害賠償につき、なんらの誠意を示さないので本件訴訟を弁護士斎藤義信に委任し、報酬として損害額の一割を支払うことを約したが、その額は金七万二〇〇〇円である。

以上の合計は金七九万七九九九円となる。

五  原告神戸美代のこうむつた損害は次のとおりである。

(一)  治療費 金五六万八二三一円

(二)  入院雑費 金二万一三〇〇円

昭和四六年三月六日から同年五月一五日まで一日三〇〇円の割合による七一日分

(三)  逸失利益 金一七万七〇〇〇円

同原告は、事故当時家事のかたわら手芸の教授をし、一日金一〇〇〇円の収入を得ていたが、本件事故のため昭和四六年三月七日から同年八月三一日まで一七七日間休業を余儀なくされ金一七万七〇〇〇円の得べかりし利益を失つた。

(四)  慰藉料 金五四万円

同原告は本件事故のため頸椎捻挫の傷害を負い、昭和四六年三月六日から同年五月一五日まで今村整形外科医院に入院治療し、同年八月二日まで通院治療したが自賠責保険後遺障害等級一四級の後遺症が残つた。原告美代は頭痛、左腕前腕以下の鈍痛、右難聴、視野が狭い、流涙が多い等になやまされ、甚しい精神的苦痛をうけているもので、その慰藉料は金五四万円が相当である。

(五)  損益相殺

自動車損害賠償責任保険から金五〇万円を、後遺症の補償として一九万円を受領したので、これを控除すると損害額は金六一万六五三一円となる。

(六)  弁護士費用 金六万一〇〇〇円

同原告は被告らが損害賠償につき、なんらの誠意を示さないので本件訴訟を弁護士斎藤義信に委任し、報酬として損害額の一割を支払うことを約したが、その額は金六万一〇〇〇円である。

以上の合計は金六七万七五三一円となる。

六  よつて被告ら各自に対し、原告清は前記四の損害賠償金七九万七九九九円、原告美代は前記五の損害賠償金六七万七五三一円およびそれぞれの金員に対する不法行為の日の翌日である昭和四六年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

(被告稲垣の答弁・主張)

被告稲垣耕治訴訟代理人は、原告らの請求をいずれも棄却する、訴訟費用は原告らの負担とする、との判決を求め、請求の原因に対し次のとおり述べた。

一  請求原因一記載の事実のうち、原告主張の日時・場所において原告主張のような交通事故があつたことは認めるが、原告らの傷害の程度、部位については知らない。

二  同二、のうち、被告稲垣が被告車の保有者であること、本件事故当時、被告稲垣が被告株式会社テンソウに使用されていたこと、本件事故は被告稲垣が被告会社の業務のため徳山に出張した帰りに生じた事故であつたことは認めるが、その余の点は争う。

三  同三、四、記載のうち原告神戸清が自賠責保険から金五〇万円および被告稲垣から一万六〇〇〇円を受領していること、原告美代が自賠責保険から金五〇万円を受領していることは認めるが、その余の損害の発生額に関する事実はすべて争う。

(被告会社の答弁・主張)

被告株式会社テンソウ訴訟代理人は、原告らの請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。との判決を求め、請求原因に対し、次のとおり述べた。

一  請求原因一、記載の事実は認める。

二  同二、三、記載のうち、保有者の点、本件事故が追突であること、被告会社が被告稲垣の使用者であつたことは認める、その余は不知、否認ないし争う。なお本件事故発生当時の事情は後記のとおりである。

三  同四、五、記載の原告ら主張の損害の発生・額は争う。

四  本件事故について、被告株式会社テンソウは、責任を負うものではない。

(一)  被告会社は室内装飾の設計施行等を目的とするところ、被告稲垣は被告会社広島営業所に勤め、徳山市有楽町所在の焼肉大伸の現場に出張し、室内装飾の設計をしたものであるが、被告会社としては、みぎの出張に対しては汽車で出張することを命じ、被告稲垣所有の自動車で出張することをかたく禁止し、事故を起こすと困るから会社の出張の場合は自分の自動車に乗用するなと命じてあるものである。しかるに被告稲垣は昭和四六年三月六日、本件事故当日のみは、妻の商売たるカツラの販売をするために、自分の妹を同乗させて徳山に出張し、現場の隣家にカツラを売りに行かせている。本件事故は稲垣が事業場を去り、前記のとおり妻の商売のために自己車に乗せて来た妻の妹を再度自己車に乗せて帰路についている間に起きた事故である。

(二)  以上のように、被告会社としては被告稲垣に対し、出張の場合は汽車で出張することを命じ、被告稲垣としては自己の自動車で出張することを厳に禁止されていたのであるから「被告稲垣がそのような運転行為をなし得べき地位に置かれていた場合」には該当しない。したがつて本件は被告会社の「事業の執行に関する行為」とはいえない。

また被用者たる被告会社としては、前記のとおり自己車の使用を禁じ、その監督につき相当の注意をなしていたもので、本件は被告稲垣が被告会社の禁止に違反して自車に乗つて起こした事故であるから、被告会社は監督につき相当の注意をなしたものというべく損害賠償の義務はない。

(証拠)〔略〕

理由

一  請求原因一記載の事実は、被告会社との関係で争いがない。そして、〔証拠略〕によると、原告らが本件事故のため主張のとおりの傷害をうけたことが認められる。

二  つぎに被告稲垣耕治の責任について検討する。

同被告が、請求原因一記載の被告車の保有者であることは当事者間に争いがない。

そして、〔証拠略〕を総合すると、本件事故の生じたには、同被告に原告主張のとおりの過失があつたことが認められる。

そうすると、同被告は、本件事故のため原告らが受傷したことによる損害、および本件事故による損害を賠償すべき責任がある。

三  被告株式会社テンソウの責任について検討する。

(一)  被告稲垣が、事故当時、被告会社に雇用されていたこと、本件事故は、被告稲垣が徳山市に出むいたその帰途に惹起したものであることは争いがなく、〔証拠略〕によると、本件事故が生じたには被用者被告稲垣に原告ら主張の過失があつたことが認められる。

(二)  〔証拠略〕によると、被告会社は、室内装飾の設計・施工を業とし、広島市に出張所を設けているところ、被告稲垣は、同出張所に勤務するものであるが、担当業務の都合から、うち四分の一程度を柳井市の被告会社本社に出張して勤務する実状にあつたこと、同被告は、設計のほか、施工・管理をも担当し、このために工程施工の状況に応じて現場に出むく労務態様であつたこと、ところで同被告は入社後自ら車両を購入し、みぎの出張には、鉄道等を利用することのほか、自車を運転して、これをすることも少くなかつたこと、本件事故当時、被告稲垣は、被告会社が請負つていた徳山市内の焼肉店の室内装飾を設計し、この施工管理に従事していたところ、事故当日、出張する旨を本社に連絡のうえ、自己所有の自動車を運転して広島市からみぎ現場に出張し、業務を終えて現場から自己の勤務する出張所所在の広島市に向う帰途に、本件事故を惹起したものであることが認められ、丙号各証もみぎ認定を妨げるものではなく、これに反する証拠はない。

(三)  ところで、被告会社は、被告稲垣に対し、会社業務に関して自己車を使用することは、これを禁じていた、という。〔証拠略〕によると、被告会社として、被告稲垣に対し被告会社の業務執行には、会社所有車両を用い、個人所有の車両を用いないように指示したことは一応認められる。しかし、他方、前項(二)掲記の各証拠によると、みぎの指示は、被告稲垣ほか一名の広島出張所勤務の者に対して、個別にこれをなしたに過ぎないものであつて、被告会社の被用者全員に対し一般的な命令としてこれをなしていたものでなく、しかも、みぎの指示は、同出張所に車両を配置しようとしたに対し、同出張所側でこれを不要とした際に、告知したとするものであること他方、被告会社は被告稲垣が自動車を購入する際、いわゆる頭金にあてる金員を貸与しており、また、被告会社では、狭義の交通費の名目で、おおよその金額の目安を定める程度で、社員が各個に購入するガソリン代を負担していたことが認められ、被告会社の業務態様からして事務所外の現場に赴き執務するのも常態であることをあわせ、みぎの指示をなした前記の事情、前記認定の便宜またはガソリン代の負担の実情をあわせ考えると、被告会社としては、みぎ指示をなした当時にも、被告稲垣らが、業務にかかる現場出張ないし本社出張にあたり自己所有の車両を使用するであろうことは、これを十分に予測していたと推認して妨げなく、かつ、被告稲垣らが現に使用していたことを了知していたと推認できるのに、みぎ程度の告知にとどまり、他には格段の禁止の指示・命令をなしたことを認め得る証拠はないことから考えると、前記認定の指示を被告主張のごとき趣旨の職務上の命令がなされていたものと解することは困難であり、証人松本定江の証言もみぎ判断を覆えすに足りないところであつて、被告稲垣が自己所有車を使用していたことから被告の主張にいわゆる被用者の地位を離脱していたものであつたとも、これをいうことはできない。のみならず、被告稲垣が本社出張、あるいは現場出張に際し、自己所有車両を用いることも少くなく、みぎか、他の交通機関を使用するとならんで、通常の出張等の方法であつたと解されること、被告稲垣に対し車両購入の際に与えた便宜、前記ガソリン代の会社負担が名目にもかかわらず、出張に伴う実費負担の実質にあつたことと、前記認定の事故当時の事情から考えると、本件事故は、被告会社の業務を行うにつき被告稲垣がこれを惹起したものというべきである。

また、被告会社は事故当時、他の同乗者が居たことを指摘する。しかし、被告会社主張の事情があるとしても、事故当時の運転が、もつぱら、いうところの同乗車の用務のためにこれを運行していたもので全くの私用運転であると評価し得る事情はこれを認めるに困難であるから、被告のこの点に関する主張は採用し得ない。

(四)  更に、被告会社は、被告稲垣に対する監督につき注意を怠らなかつた旨を述べるところ、前記(二)・(三)に認定の事情によつては、いまだ、被告会社が、本件事故にかかる被告稲垣の業務の監督につき相当の注意をなしたものとは認められないし、更に他に被告会社のみぎの主張を肯認するに足る証拠はない。

したがつて、被告会社は、民法七一五条の使用者として被用者たる被告稲垣が被告会社の業務執行にあたつて惹起した本件事故のため原告らの被つた損害を、賠償する責任がある。

四  そこで、原告神戸清の損害について検討する。

(一)  〔証拠略〕によると、本件事故のため同原告所有の原告車が損傷し、その修理に同原告主張のとおり金一万八六八〇円を要することが認められ、被告稲垣本人尋問の結果はこれを覆えすに足らず、他にみぎに反する証拠はないから、同原告は、みぎ同額の損害を被つたものということができる。

(二)  〔証拠略〕を総合すると、原告清は、本件事故のため被つた頸椎捻挫の治療のために、請求原因四の(三)記載のとおり入・通院して治療をうけたことが認められる。

そして、みぎ事実と前記各証拠によると、同原告は、みぎの治療のためおよび昭和四六年九月二七日、日赤病院でうけた治療のため、原告主張のとおり医療費計四七万五三〇三円を要したことが認められる。

つぎに、〔証拠略〕によると、同原告は、前記の入院期日・六二日につき、少くなくとも一日三〇〇円の割による諸雑費の支出を要したものと推認でき、そのため金一万八六〇〇円を支出し、同額の損害を被つたものというべきである。

(三)  〔証拠略〕によると、同原告は、事故当時、原告主張の請求原因四の(四)記載のとおりの労務に従事し、主張のとおりの収入を得ていたこと、しかるに主張のとおり欠勤したもので、みぎは、同原告が本件事故により被つた傷害のため稼働し得なかつたことによるものであること、そして、従前同様に勤務していた場合に比して、給与・賞与につき合計二七万三五五六円、(三月分六万〇七七〇円四月分七万九〇〇〇円、五月分六万八七八五円、六月分計六万五〇〇一円)が減じたことの事実が認められ、これに反する証拠はない。みぎによると、同原告は本件事故のため得べかりしであつたみぎ同額の収入を失い、同額の損害を被むつたもので原告主張の基準時に支払をうけるものとして、毎月末を支払期として、ホフマン式計算方法により月毎に年五分の割合による中間利息を控除して合算すると、金二七万三四〇八円となる。

(四)  つぎに、慰藉料について判断する。

同原告が本件事故のため被つた傷害は、前記のとおりで、〔証拠略〕によると主張のとおりの後遺症を残したものであることが認められる。

そして、〔証拠略〕によると、本件事故により、原告両名が入院した間に、その子女の生活・養護のため、主張のとおりの依頼をなし、このために主張のとおりの各金員を支払つたことが認められ、みぎ子女らの年令、両親が共に入院したこと、養護等の依頼の便宜からして、原告清がみぎ依頼をし、ために前記各金員を支出することとなつたのは、やむを得ないものであつたと認められこの点からして、同原告が本件事故のため被つた経済的負担を決して少くないものということができる。

みぎの各事実のほか、本件弁論にあらわれた一切の事情を考慮すると、同原告のうくべき慰藉料は、これを金五五万円とするを相当とする。

(五)  〔証拠略〕によると、同原告は、本件の損害の賠償を訴求するため、主張の訴訟委任・報酬契約をなしたことが認められ、本訴の弁論にあらわれた一切の事情を考慮すると、前記により同原告が支払うべきうち金七万円の限度で、これを弁護士費用としての損害というべきである。

(六)  ところで、同原告が責任保険金六九万円(うち後遺症補償一九万円)を受領したことは自ら述べるところであるから、これを前記(一)・(五)を除くその他の損害に(ただし後遺症補償は(四)の慰藉料に)、また被告稲垣から一万六〇〇〇円を受領したことは自ら述べるものであるから、これを前記の損害の補填にあてる。そうすると、その残余は金六九万九九九一円となる。

五  つぎに、原告神戸美代の損害について検討する。

(一)  〔証拠略〕を総合すると、原告美代は、本件事故のため被つた頸椎捻挫の治療のために、請求原因五の(四)記載のとおり入・通院して治療をうけたことが認められる。

みぎ事実と〔証拠略〕によると、同原告は、みぎ傷害の治療のため、および有田医院・広田眼科医院に治療のため、同原告主張のとおり医療費計五六万八二三一円を要したことが認められる。

つぎに、〔証拠略〕によると、同原告は、前記入院期日・七一日につき、少くとも一日三〇〇円の割による諸雑費の支出を要したものと推認できるから、このため二万一〇〇〇円を支出し、同額の損害を被つたものということができる。

(二)  〔証拠略〕によると同原告は事故前の昭和四五年四月頃より、夫の転職に伴い、自らも収入の得る必要があつたことから、自宅で、人形、フラワー造りの手芸の個人教授をしており、事故当時、ほゞ三万円余りの月謝収入を得ていたほか、教授教材の購入にかかるいわゆるリベートを得ていたことしかるに、本件事故でうけた傷害のためみぎ教授は、原告主張の期間は、これをなし得なかつたことが認められ、みぎ証拠とみぎ事実を総合すると、同原告は、本件事故にあうことがなければ、従前同様の手芸教授をし、前記同様の収入を得ることができたものと推認できるから、同原告は、前記の期間、主張のとおり得べかりし一七万七〇〇〇円の収入を失い同額の損害を被つたものというべく、同原告主張の基準時に支払を求めるものとして、ホフマン式計算方法により月毎(三月から八月まで末日に得るとする)に年五分の割合による中間利息を控除して合算すると、金一七万六一五二円となる。

(三)  慰藉料について検討する。

同原告が本件事故のため被つた傷害は前記(一)認定のとおりであり、〔証拠略〕によると同原告は、主張のとおりの後遺症障害があるものであることが認められ、みぎのほか、本件弁論にあらわれた一切の事情を考慮すると、同原告が被つた苦痛を慰藉するには、金四五万円をもつて相当とする。

(四)  〔証拠略〕によると、同原告は、本件損害の賠償を訴求するため、主張のとおりの訴訟委任・報酬契約をなしたことが認められ、本訴の弁論にあらわれた一切の事情を考慮すると、前記により同原告が支払うべきうち金六万円の限度では、これを本件事故と相当因果関係ある弁護士費用としての損害とみることができる。

(五)  同原告が責任保険金六九万円を受領したことは自ら述べるところ、これを前記の(四)を除くその他の損害の補填(ただし、後遺症補償は(三)の慰藉料の補填)にあてる。そうすると、その残余は金五八万五六八三円となる。

六  そうすると、被告らは、各自、原告神戸清に対し前記四の(六)の補填後の損害と同(五)の合計金六九万九九九一円とこれに対する遅滞の事故の日の翌日・昭和四六年三月七日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金を、原告神戸美代に対し、前記五の(五)補填後の損害合計金五八万五六八三円とこれに対する同じく前同日から支払ずみまで同率の損害金を、それぞれ支払う義務あるものというべきである。

よつて原告らの本訴各請求は、みぎ各金員の支払を求める限度において理由があるから、これを認容するが、その余は失当として棄却することとし、訴訟費用につき民訴法八九条・九二条・九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 北村恬夫)

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