山口家庭裁判所 平成3年(家)422号 審判 1992年12月16日
申立人 小山大蔵
相手方 中川美子
事件本人 中川美智代 外2名
主文
当事者双方間の当庁昭和61年(家イ)第×××号財産分与調停事件につき、昭和63年4月21日成立した調停の調停条項により、申立人が相手方に支払うべきものとされる事件本人らの養育費1人宛月額金35,000円(中学校入学の月から金50,000円宛)を平成3年3月以降1人宛月額金30,000円に変更する。
理由
第一申立の趣旨
当事者双方間の山口家庭裁判所昭和61年(家イ)第×××号財産分与調停事件につき、昭和63年4月21日成立した調停の調停条項により、申立人が相手方に支払うこととされる事件本人らの養育費1人宛月額金35,000円(中学校入学の月から金50,000円宛)を、相当額減額することを求める。
第二当事者双方の主張
1 申立人
当事者双方間において昭和63年4月21日調停が成立し、その結果申立人は相手方に対し事件本人らの教育費1人宛月額金35,000円(中学校入学の月より金50,000円宛)を各人が満18才に達した翌年3月まで、毎月5日限り支払う旨定められた。従って当初は月額計金105,000円、長女美智代が中学校に入る平成元年4月以降は計金120,000円、更に長男大介が中学校に入る平成2年4月以降は月額計金135,000円、二女千尋も中学生となる平成5年4月以降は月額計金150,000円を支払うべきこととなる。
以上のような金額が算出された根拠は、申立人の昭和61年中の所得金15,237,922円、昭和62年同金15,165,523円を基準にしたものである。
しかしながらその頃から申立人が役員をしている株式会社○○○○○が極度の営業不振に陥り、それまで申立人の受けていた役員報酬月額金1,000,000円が昭和63年から月額金300,000円に減らされ、不動産収入を併せても申立人の年収総合計は昭和63年が金4,778,143円、平成元年が金5,562,378円と激減してしまった。そのうえ申立人には○○信用金庫○○○支店から借り入れた金員の返済が毎月金290,000円余ある。そのため申立人は前記養育費の支払いを平成元年5月より平成2年8月まで滞納してしまい、相手方から役員報酬債権の差押を受け、ようやく会社から借金をして支払うような破目に陥ってしまった。この窮状は上記○○信用金庫に対する支払いが終る平成9年5月末までは続く見通しである。
また申立人は昭和62年妻ふみこと再婚し、二子を儲けたのでその為の生活費も必要である。
以上の次第で、前記調停により定められた養育費の金額はとうてい支払不可能であるから、減額を求めるものである。
2 相手方
申立人の主張はとうてい承服できない。申立人は調停成立後極めて不誠意で、任意で支払ったことはなく、常に相手方の強い督促を受けて始めて履行する有様であるから、支払う意志がないのである。経済的状況が変化したとの点も払わぬための口実に過ぎないと思われる。なぜなら平成2年申立人は現住居地に二階建家屋を新築しており、そのことからも支払能力が無い筈がない。高校入学等これから事件本人らの学資も増すから減額請求には応じられない。
第三当裁判所の判断
1 認定した事実
本件につき、申立人相手方双方提出の各資料並びに家庭裁判所調査官○○○作成の各調停期日出席報告書及び調査報告書等を総合すると、次の各事実が認められる。
(1) 申立人と相手方は昭和61年4月28日、事件本人らの親権者をいずれも相手方と定め協議離婚したが、事件本人らの教育費については昭和63年4月21日当裁判所において、前第二1記載の内容の調停が成立した。
(2) 上記調停での合意は昭和62年までの申立人の収入から支払可能と予測され、それを根拠に成立したものである。当時申立人は株式会社○○○○○から役員報酬月額金1,000,000円を受け、不動産賃貸収入等を併せた年収総合計は昭和61年が金15,237,922円、昭和62年が金15,165,523円であったから、相手方と婚姻中始めた弁当店(昭和62年中に経営不振で閉店)のための借金等の返済を行いながらでも支払可能との見通しであった。
(3) ところが上記○○○○○は昭和62年頃から次第に業績が振るわなくなり、減収となって来たことに加え、公害問題を引起し、工場移転を余儀なくされ、その為の借入金が更に経営を圧迫する状況となった、結局同会社は役員報酬を減額し、申立人は月額金300,000円となり、不動産収入と併せても昭和63年の総収入は金4,778,143円、平成元年金5,562,378円、平成2年金5,719,290円と激減した。この状況は今日なお大差なく、平成3年以降役員報酬月額金300,000円、不動産収入月額金400,000円が申立人の定収入である。
(4) 申立人は昭和62年6月3日現在の妻ふみこと再婚し、同女との間に長男(昭和63年3月11日生)、二男(平成2年8月4日生)の二子があるが、妻ふみこは家計を助けるため看護婦として稼働し、月額金168,330円の可処分所得がある。
(5) 申立人の定期的な支出は、大口が○○信用金庫○○○支店に対する返済が月額金291,869円(相手方と婚姻中借入た弁当店開業資金等を、昭和62年5月2日債権額金25,800,000円と確定して組替えたもの)、住宅ローン月額金115,755円、公租公課年額金541,500円、社会保険年額金408,300円があり、その他生命保険料月額金17,307円が認められる。
また申立人の妻ふみこは稼働するため二子を保育園に預け、その費用合計月額金82,660円を支出している。
(6) 相手方は、現在事件本人ら3名及び相手方の母と、亡父名義の家屋で生活しているが、母は亡父の遺族年金を受給しており、相手方が扶養しているものではない。
相手方は株式会社○○○○○○に勤務し、平成2年中の総収入は金2,460,980円、ここから社会保険料金218,332円及び地方税金2,200円を差引いて月割にすると金186,704円が認められる。そして定期的な支出としては毎月生命保険料金42,921円を支払っている。
なお、相手方は事件本人らに肩身の狭い思いをさせたくないとの考えから、児童手当の支給は受けていない。従って相手方の収入は、上記給与所得と申立人から支払われる養育料のみとなる。
2 結論
以上認定の事実によれば、本件申立時においては調停の成立した昭和63年当時とは申立人の収入が著しく変化したばかりでなく、新たな家庭が出来、そのための生活費を確保せねばならない等、生活状況が大きく変化したことは明らかであるから、そのような事情変更を考慮し、事件本人らの養育費の額を相当額減ずることは己むを得ないというべきである。
そこで減額すべき具体的な金額を生活保護基準を用いて次のように算出する。
(1) 申立人側の状況
申立人の妻ふみこの収入は、専ら同人とその2人の子の生活費に充当するが、同人らの最低生活費は
31,560+21,290+17,200+41,633+86,660 = 194,343
(第一類、妻と子2人)(第二類、同)(保育料)
で月額金194,343円必要で、ふみこの月収金168,330円では金26,013円不足するが、この不足は申立人の収入から優先的に充当すべきものと考える。
申立人の月額可処分所得は次のとおり算出する。但し、特別経費として○○信用金庫○○○支店への返済金、生命保険料は全額控除するが、住宅ローンは山口市内の平均的住宅賃貸料等を考慮し、半額のみ控除する。
(年収総額8,400,000-社会保険料.地方税949,800)÷12 = 620,850620,850-(生命保険17,307+○○信金返済291,869+住宅ローン57,877) = 253,797
253,797-妻ふみこの不足分26,013 = 227,784(月額可処分所得)
そこで更に申立人の可処分所得月額金227,784円から、事件本人らが申立人と生計を共にした場合配分を受けるべき額を、生活保護基準第一類で算出すると50.2%であるから、次のとおり月額金114,348円である。
227,784×0.502 = 114,348
なお申立人は同会社役員で株式を保有しており、妻ふみこも上記の他賞与があるので、ともに職業費は控除しない。
(2) 相手方の状況
相手方については平成2年の総収入から社会保険料、地方税を差引いた額より、経費として申立人同様生命保険料を控除し、更に職業費15%を控除し、月額可処分所得を算出すると次のとおりとなる。
(2,460,980-社会保険料・地方税220,532)÷12 = 186,704
(186,704-生命保険42,921)×0.85 = 122,216(月額可処分所得)
(3) 次に事件本人らが申立人の許で生活したとして算出した月額金114,348円を申立人、相手方それぞれの生活余力で按分し、申立人の負担分を算出する。
227,784-(申立人の最低生活費30,150+32,680+992) = 163,962
122,216-(相手方の最低生活費28,280+29,290+892) = 63,754
114,348×163,962÷(163,962+63,754) = 82,334(申立人分)
以上算定のとおり申立人の按分による負担額は、計算上月額金82,334円となる。しかし申立人の○○信用金庫○○○支店に対する返済額は僅かづゝではあるが月毎に減少して行くこと、事件本人らの学資はこれから次第に増加することが予想されること等、諸般の事情を考慮すると同金額まで下げることは相当ではなく、申立人の減額請求は全額で月額金90,000円を超える部分について認めることが相当である。
なお右金90,000円の配分については,事件本人ら間に特に差異を設ける必要はないと思われるので、等分に1人宛月額金30,000円とすることとし、本件申立の時点以後支払われるべき分につき(平成3年3月分以降)変更するものとする。
よって主文のとおり審判する。
(家事審判官 千葉庸子)