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山口家庭裁判所 昭和46年(家)924号 審判 1974年12月27日

申立人 桜井規子(仮名)

被相続人 今井忠義(仮名)

主文

被相続人亡今井忠義の相続財産である別紙目録記載の不動産(抵当債務付)、動産及び電話加入権をいずれも申立人に分与する。

理由

申立人は被相続人亡今井忠義の相続財産について、被相続人との特別縁故を⑩理由とする分与の審判を申立てた。

そこで、当裁判所は昭和四二年(家)第自三〇六至三〇九、三四七、自五五二至五五八号相続放棄申述・昭和四五年(家)第六七三号相続財産管理人選任・昭和四六年(家)第三一〇号相続人捜索各審判事件の記録および申立人、被相続人の各戸籍謄本、⑦主文記載の不動産の登記謄本並びに相続財産管理人作成の財産目録、同各種報告書、申立人と被相続人の各債権者間の契約書等各資料をそれぞれ調査し、且つ家庭裁判所調査官の調査報告、申立人本人・相続財産管理人・上記債権者などの各審問の結果を総合すると次の事実を認定することができる。

一  申立人は昭和三三年頃から夫の碁友達であつた被相続人今井忠義と知合い夫石原俊雄との協議離婚(昭和三四年五月一五日)後夫婦関係が破綻を来たしていた忠義と同居し事実上の夫婦生活に入いり、思義の妻則子との正式離婚(昭和三八年一二月一八日)の後は内縁の妻として旅館経営を援助し、忠義と生計を共にしてきた。その間両者に婚姻の合意が見られたが、諸般の事情により漫然と届出を廷期している内被相続人が昭和四一年一二月胃がんに倒れその機会を失つてしまつた。

申立人の療養看護の効なく被相続人は昭和四二年三月四日死亡、同人死亡後申立人はその葬祭一切を執行し、現在も被相続人の遺志を継ぎ旅館業を営み、その祭祀を主宰し今後も継続する決意である。

二  主文記載の旅館土地の不動産はすべて被相続人名義であるが、申立人もその建築・購入資金の一部を支出し被相続人を援助していることが認められる。電話加入権・寝具等の動産は被相続人が質屋・旅館経営のため取得、購入したもので、相続債務は主として旅館新築等業務上の負債であり、いずれも本件の相続財産である。

なお、前記不動産の現在評価額は相続債務額を上回り、申立人は相続債権者の保護に留意し双方間に家庭裁判所において申立人を特別縁故者と認め相続財産の分与の審判があれば、被相続人の債務を免責的に引受けて弁済の責に任ずる旨の契約書を交わしている。また各債権者も被相続人および申立人に対する従来の取引関係により申立人に同相続財産を分与し、同人よりの弁済を望んでいる。

申立人は既に元本の一部・相続債務の利息等の弁済をしており、今後も相続債務の返済に最大の努力を払うことを約している。

三  被相続人の法定相続人はいずれも相続放棄の申述をなし当裁判所において受理された結果相続人不存在となつたため、申立人は相続財産整理の必要上、当裁判所に相続財産管理人の選任を求め、昭和四五年一〇月一日、山口市○○町○○番地服部美登一がその管理人に選任された。

同管理人は昭和四六年二月六日相続債権申出の公告をなし、更に同管理人の申立により当裁判所は同年四月三〇日相続権主張の催告をなし、同年一二年一五日同催告期間が満了したが相続人の申出はなかつた。その後、昭和四八年二月二日山口市○○町○○○番地藤原富行が相続財産管理人に追加選任されている。

特別縁故者に対する財産分与の方法として、相続財産である不動産を換価せず、その現物を相続債務と一括して分与することについては若干の問題点が考えられるが、

本件の場合、申立人が営業を続けている旅館及び同敷地等を換価し相続債務を清算すれば、被相続人と長年辛苦を共にし、同人の特別功労者ともいうべき申立人の生活基盤を根本的に破壊することになり、被相続人の意思にも反し、市民感情にも合致しないことを考慮し、当裁判所は前記の事実関係からして、申立人と相続債権者間の円満な清算を期待し、各債権者の意見等諸般の事情を考慮し、相続財産管理人の各意見をきき申立人を民法九五八条の三にいう被相続人の特別縁故者として、また分与の方法についても主文のとおり種々の権利義務を随伴した相続財産を分与するのが相当であると認める。

なお、申立人は本件審判を機会に一日も早く相続債権者に対する負債の完済のために努力することを要望する。

よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 態佐義里)

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