山形地方裁判所 昭和29年(行)16号 判決
原告 鈴木栄蔵
被告 山形県知事
一、主 文
原告の訴を却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
二、事 実
原告訴訟代理人は、被告が訴外遠藤みよ所有にかかる別紙目録記載の(一)の田及び訴外鈴木はな所有にかかる別紙目録記載の(二)の田につき、夫々昭和二十三年八月三十一日附買収令書を以てなしたる農地買収処分並びに右(一)の田につき訴外斎藤善徳に、右(二)の田につき訴外寒河江キヨに対し夫々売渡の時期を昭和二十三年二月二日と定めてなした農地売渡処分はいずれも無効であることを確認する。被告は、被告が右(一)(二)の農地につき昭和二十六年八月十日山形県地方法務局糠野目出張所受附第九一六号を以て自作農創設特別措置法第三条の規定による買収に基く権利者農林省のためになした嘱託による所有権取得登記並びに右(一)の田につき訴外斉藤善徳のため、右(二)の田につき訴外寒河江キヨのため夫々同日同出張所受附第九一八号を以てなした嘱託による所有権移転登記の抹消登記手続をしなければならない。訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求め、請求の原因として、原告は同居の親族訴外鈴木栄喜逸、同鈴木はな、同遠藤みよと共に一世帯を形成し、農地四町六畝十五歩を保有し農業に精進するものであり、請求の趣旨記載の(一)の田は右訴外遠藤みよの、同(二)の田は右訴外鈴木はなの各所有である。被告は右(一)(二)の田につき、請求の趣旨記載の買収処分及び売渡処分をなし、更に請求の趣旨記載の嘱託による所有権取得登記及び所有権移転登記をなした。然し被告が右(一)(二)の農地合計六反九畝九歩の買収処分をなしたのは、訴外鈴木栄男を原告の同居の親族であるとなし、同訴外人が売渡を受けた田四反二畝十一歩及び原告が売渡を受けることに計画された田六反十一歩を元来原告の所有していた農地四町六畝十五歩と合せると、合計五町九畝九歩となり、山形県における農地の保有限度である四町四反を六反九畝九歩超過するから、右超過分として本件(一)(二)の農地を買収すると云う理由に基くのである。ところが右訴外鈴木栄男は原告と同居する親族ではないから、同人が売渡を受けた前記田四反二畝十一歩を加算したのは違法である。又原告に売渡計画がたてられた前記六反十一歩の田は、訴外青木栄次より国が買収した三筆の田のうちの一部を分筆して、これを原告に売渡す計画のものであつたが、同訴外人に対する買収処分は行政訴訟によつて争われていたところ、先頃最高裁判所の判決によつて被告の敗訴が確定し、右買収処分は全部取消されるに至り、従つて原告に対する右売渡計画も水泡に帰した。以上の次第であるから、原告の保有農地の面積は訴外遠藤みよ、同鈴木はな所有の本件(一)(二)の田を加算しても、法令に定める保有限度を超過していない。然るに保有限度を超過するものとして、右(一)(二)の田について、被告がなした請求の趣旨記載の買収処分及びこれに基く売渡処分はいずれも無効であり、右処分の有効であることを前提とする請求の趣旨記載の嘱託による所有権取得登記及び所有権移転登記はいずれも抹消されるべきものであると陳述した。(立証省略)
被告指定代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする旨の判決を求め、答弁として、訴外鈴木栄男が原告の同居の親族でないとの事実はこれを否認するが、その余の事実はいずれも認めると答え、訴外鈴木栄男に売渡した田四反二畝十一歩を加算して保有農地面積を計算したことが、違法であると仮定し、且つ、訴外青木栄次に対する買収処分が取消された事実を考慮しても、本件買収処分は結果的に自作農創設特別措置法(以下単に自創法と略称する)第三条第一項第三号の農地の保有限度を割つた買収処分であると云うにとどまり、違法ではあるが当然無効のものではない。従つて亦本件売渡処分も無効ではない。而して本件農地は既に従来からの小作人である訴外斉藤喜徳、同寒河江キヨに対し、適法に売渡したものであるから、右訴外人等の既得の権利を無視して本件売渡処分及び買収処分を取消しえないと述べた。(立証省略)
三、理 由
先ず原告が本件訴について原告として当事者適格を有するか否かについて、職権で審査する。
本件(一)(二)の農地につき被告が原告主張の買収処分及び売渡処分をなしたこと、右買収処分は自創法第三条第一項第三号、第四条第一項により保有限度を超過する農地としてなされたこと、右農地について被告が原告主張の嘱託による所有権取得登記及び所有権移転登記をなしたことはいずれも当事者間に争いがない。そこで原告が本件訴について当事者適格を有するためには、原告が右行政処分の無効を主張するについて、法律上の利益を有することが必要である。ところが、右(一)(二)の農地は訴外遠藤みよ、同訴外鈴木はなの所有に属するもので、原告はこれについて所有権又はその他の権利を有するものでないことは当事者間に争いがない。又自創法第四条第一項によれば右(一)(二)の農地の買収については、原告所有の農地は右(一)(二)の農地の所有者である右訴外人等の所有する農地とみなされて、これらを合算して保有限度が決定されるわけであるが、このことによつて直ちに原告が本件(一)(二)の農地について具体的な法律上の利害関係を有するに至るものとは考えられない。又右農地は原告の同居の親族の所有にかかるものであるから、原告は右農地について経済上の利害関係を有することは考えられるけれども、これを以て右農地につき原告に訴権を与えて保護するに足る法律上の利害関係ありとなすことはできない。そうすると原告は右農地について被告がなした前記行政処分の効力を争い、更に右農地についてなされた前記の登記の抹消を求める法律上の利益を有せず、本件訴について原告たる当事者適格を有しないものと云わなければならない。
よつて本件訴は不適法としてこれを却下すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 松本晃平 藤本久 岡田安雄)
(目録省略)