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山形地方裁判所 昭和33年(ワ)80号 判決 1958年11月05日

原告 国

訴訟代理人 東海林実 外一名

被告 河村恒二

主文

被告は原告に対し金十七万七千二百八十一円およびこれに対する昭和二十九年十一月三十日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告指定代理人らは、主文同旨の判決を求め、その請求原因として、

一、被告は自動車運転者であるところ、昭和二十九年七月二十八日午前九時二十分ころ、ニツサン普通貨物自動車(山形県一ノ二九五四号)を運転し、山形市六日町方面から同市宮町方面に通ずる国道上を時速約二十五粁で宮町方面に向けて進行し、同市四日町五十二番地株式会社両羽銀行北支店前付近に差しかかつたところ進行方向右側に反対方向から進行して来た自動三輪車の停止したのを認めたので、これが傍を通過しようとしたが、かかる場合には自動車運転者としては、右停車中の自動三輪車の背後から、いつ通行人が出て来るやも測り難いのであるから、前方に対し特に注意を払い、かつ絶えず警笛を吹鳴して通行人に注意をあたえるのはもちろん、いつでも急停車しうる程度に徐行すべき業務上の注意義務があるにもかかわらず、被告においてこれを怠り漫然同一速度で右三輪車の傍を通過しようとした不注意により、右三輪車の背後から自転車に乗つて六日町方面に向けて進行して来た鈴木辰夫に右貨物自動車の右側面を激突させて同人を転倒させ、よつて同人に対し顔面骨複雑骨折、右下腿擦過傷等の傷害を与えたものである。従つて被告は右鈴木辰夫に対して不法行為に基く損害賠償義務を免れない。

二、右鈴木は、右負傷によつて金十七万七千二百八十一円余の損害を蒙つたが、同人は山形市宮町三百七十三番地ハツピーミシン製造株式会社の事務員であつて、松板乾燥材の受入検収のため同会社の外注工場である同市鉄砲町土田木工場に赴く途上本件事故に遭遇したものであるから、右は業務上の負傷であるところ、同会社は労働者災害補償保険法による労災保険加入事業場であるため原告は同法に基いて右鈴木に対し、昭和二十九年十一月三十日までに療養補償費をして金五万一千百六十三円、休業補償費として金二万四千四百十円、傷害補償費として金十万千七百八円合計金十七万七千二百八十一円の災害補償費を支給した。

三、原告は、右鈴木に対し、右災害補償費を支給したので労働者災害補償保険法第二十条により、右支給額の限度で前記鈴木の被告に対する損害賠償請求権を取得したのであるが、被告はこれが支払に応じないので、右金十七万七千二百八十一円およびこれに対する昭和二十九年十一月三十日から完済に至るまで年五分の割合の遅延損害金の支払を求めるために本訴請求におよんだ、と陳述し、

被告訴訟代理人は、請求棄却の判決を求め、答弁として、

原告の主張事実中、被告は自動車運転者であること、昭和二十九年七月二十八日午前九時二十分ころ、ニツサン普通貨物自動車(山形県一ノ二九五四号)を運転し、山形市六日町方面から同市宮町方面に通ずる国道上を時速約二十五粁で宮町方面に向けて進行し、同市四日町五十二番地株式会社両羽銀行北支店前付近において、進行方向右側に停止していた自動三輪車の傍を通過しようとした際、右三輪車の背後から自転車に乗つて六日町方面に向けて進行して来た鈴木辰夫に右貨物自動車の右側を激突させて同人を転倒させ、よつて同人に対し原告主張の傷害を与えたことは認めるが、右鈴木が右負傷によつて金十七万七千二百八十一円余の損失を蒙つたこと、同人は原告主張会社の事務員で同会社の業務執行の途上の事故であること、同会社が労災保険加入事業場であること、右鈴木が原告から原告主張の災害補償費を支給されたことは不知、その余は否認する、当時被告には過失がなかつたものであると述べた、

立証<省略>

理由

一、昭和二十九年七月二十八日午前九時二十分ころ、山形市四日町五十二番地株式会社両羽銀行北支店前付近路上において、被告の運転するニツサン普通貨物自動車(山形県一ノ二九五四号)が訴外鈴木辰夫に触れ、よつて同人は顔面骨複雑骨折、右下腿擦過傷等の傷害を蒙つたことは当事者間に争いがない。

二、原告は、被告の右運転上の不注意によつて右事故が発生したものであると主張し、被告はこれを否認するので判断する。

成立に争いない甲第一、十二ないし十四号各証の記載並びに被告本人の供述の一部および弁論の全趣旨を総合すれば、

被告は、昭和二十五年九月ころから訴外父三郎と共に砂利採取販売および士木建築請負業を営み、貨物自動車等の運転に従事していたこと、前記日時ころ、右三郎所有の前記貨物自動車を空車のままで運転し、山形市六日町方面から同市宮町方面に通ずる舗装された国道上を時速約二十五粁で宮町方面に向けて進行し、前記両羽銀行北支店前付近に差しかかつたところ反対方向から進行して来た自動三輪車が右手前方約五十米の地点に停止するのを認めたこと、同所付近は巾員七、七五米の直線道路ではあるが、右三輪車が停止しているために、通行可能巾員は約四、五米の状況であること、しかし右貨物自動車の巾員二、七米、長さ六、八米であるうえに、同所は交通量も多いのであるから、この場合自動車運転者としては、徐行して右三輪車の背後から進行路上に現われる車馬等のないことを確認したうえ進行を続けるか、またはかかる車馬等を認めた場合にはいつでも停車しうるよう減速したうえ進行するなどの措置を講じ、もつて事故の発生を未然に防止すべき業務上の注意義務があるのに被告はこれを怠り、右三輪車と自己の貨物自動車とは約一米の間隔を保つて行違いうるうえに同三輪車は右貨物自動車の通過を待つために停止しているのだから同三輪車の背後からこれを追越して自己の進行路上に現われる車馬等はないものと軽信し、漫然同一速度で進行したために、同三輪車と行違えようとした矢先、同三輪車の右手前方約三米の地点において、自転車にのつて同三輪車の背後からこの右側を追越して進行して来た右鈴木辰夫(当時四十九年)に右貨物自動車の右側面を触れてこれを転倒せしめ、よつて同人に対し治療約二、五月を要する前記傷害を与えたことが認められ、これに反する被告本人の供述部分にたやすく措信しがたく他に右認定を覆えすに足る証拠はない。

されば、被告は右鈴木に対して右不法行為の責任を免れない。

三、そこで、右鈴木の負傷が業務中のものであるか否かについて考えるに成立に争いない甲第二号証の記載によれば、右鈴木は昭和二十年九月二十一日から山形市宮町三百七十三番地ハツピーミシン製造株式会社の事務員として勤務しているところ、同会社の外注工場である同市鉄砲町土田木工所へ松板乾燥材の受入検収のため赴く途上、本件事故が発生したことが認められ、これを左右する証拠は一つもない以上、右は業務上の負傷というべきである。

四、次に災害補償費の支給について考えるに、成立に争いない甲第二号ないし第九号各証(第三、第四、第七号証は各一ないし四、第八号証は一、二)によれば、右ハツピーミシン製造株式会社は、労働者災害補償保険法による労災保険事業場であること、右鈴木は、原告から右負傷に基く災害補償費として昭和二十九年十一月三十日までに合計金十七万七千二百八十一円の支給をうけたことが認められ、これを左右する証拠は一もない。

五、そこで右不法行為に基く損害額について考えるに、

(1)  右甲第三号証の二、三第四号証の二、三第五および第六号各証の記載によれば右鈴木は右負傷治療のため金五万千百六十三円の治療費を要したことが認められ、

(2)  右甲第七号証の一ないし四の記載によれば、右負傷のため昭和二十九年七月二十九日から同年十月十六日まで前記会社を休んだため、同期間中の賃金の支給をうけなかつたので、一日平均賃金五百八円五十四銭、合計二万四千四百十円の得べかりし利益を喪失したことが認められ、

(3)  右甲第八号証の一、二第九号証の記載によれば、同二十九年十月十六日ころ右負傷に対する医療効果がなくなつたこと、しかも左眼複視眼球運動障害が存在し、かつ涙のう裂傷のため流涙著しいうえに、顔面に著しい醜状を残していること、従つてこのために労働者災害補償保険法第十二条第一項第三号、同施行規則第十五条、別表第一ノ第十二級一号および第十三号等に照らし平均賃金五百八円五十四銭の二百日分合計金十万千七百八円の損害を蒙つていることが認められ、以上を左右するに足る証拠は一もない。

(4)  なお本件事故の発生については右鈴木にも若干過失のあることを認められないではないが右鈴木および被告の資産状態、その他諸般の事情をしんしやくすれば右過失を斟酌するのは相当ではなく右(1) 、(2) 、(3) 項の損失額の合計金十七万七千二百八十一円をもつて右鈴木の損害額というべきである。

よつて右鈴木は被告に対し金十七万七千二百八十一円の損害賠償請求権を有するところ、原告は前記認定のごとく昭和二十九年十一月三十日までに労働者災害補償保険法に基いて同額の金員を右鈴木に対して支給したのであるから、同法第二十条により原告は右金額を限度として、右鈴木の被告に対する損害賠償請求権を取得したものというべきである。

よつて原告が被告に対し右金員およびこれに対する昭和二十九年十一月三十日から完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める本訴請求は、正当としてこれを認容すべく訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 西口権四郎 藤本久 古館清吾)

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