山形地方裁判所 昭和44年(ワ)250号 判決 1970年7月16日
原告 坂野二三郎
被告 国
右代表者法務大臣 小林武治
被告指定代理人 宮村素之
<ほか四名>
主文
原告の請求は、棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、原告
(一) 国は原告に対し金二十五万三千九百円及びこれに対する昭和四十四年十月十四日から完済までの年六分の割合による金員を支払え。
(二) 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決。
二、被告
(一) 原告の請求を棄却する。
(二) 訴訟費用は原告の負担とする。
との判決。
第二、当事者の事実上の主張
一、請求原因
(一) 原告は当庁昭和四二年(ワ)第三六六号土地代金請求事件につき控訴し、仙台高等裁判所昭和四四年(ネ)第五六号事件として繋属したが同年五月十九日控訴棄却の判決正本の送達を受けた。それで原告は同年六月二日上告状を郵送したところ、翌六月三日右裁判所に到達したため、上告申立期間を一日経過した不適法なものとして右高等裁判所は同庁同年(ネオ)第三八号事件により却下の決定をし原告の敗訴に確定した。
(二) しかし、原告が右上告状を提出したのは同年六月二日午前八時山形郵便局窓口にて速達書留郵便に付し、右高等裁判所宛に提出したものであるから同日の午後十二時までには当然配達になるべきなのに、仙台中央郵便局員の過失により提出期限を一日過ぎた六月三日に配達された。
(三) 右遅配により原告の上告は却下され、そのため訴外石山文夫に対する金二十五万三千九百円の訴は敗訴に確定し、結局同額の損害をうけたから、民法第七百十五条及び国家賠償法第一条により国に対し右金額とこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和四十四年十月十四日から完済までの年六分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、答弁及び主張
(一) 請求原因につき、
1、その(一)は不知、
2、その(二)は、原告が昭和四十四年六月二日山形郵便局の窓口に、仙台高等裁判所宛の書留郵便物を差出した事実のみを認め、その余は争う。
3、その(三)は争う。
(二) 主張
本件は権力行使によるものでもなく、又公の営造物の設置又は管理に瑕疵があった場合でもないので国家賠償法の適用外である。国家賠償法第五条によれば国の損害賠償の責任について民法以外の他の法律に別段の定があるときは、その定めるところによると規定して居り、国が郵便物を取り扱うに当り生じた損害を賠償することにつき、郵便法第六十八条に規定しているから、同規定が別段の定めに当り、これが民法の適用を排除するものである。よって民法第七百十五条は適用されない。よって原告の本訴請求は失当である。
第三、証拠≪省略≫
理由
≪証拠省略≫によれば請求原因(一)の事実及び同(二)中右郵便物は同年六月二日山形郵便局窓口で速達書留郵便に付され、仙台高等裁判所宛に郵送され、これが同日十七時十五分頃仙台中央郵便局に到着、輸送係より特殊係に授受されたのが十九時頃であること、同係では十八時頃業務を終え休憩し右郵便物は六月三日一号便で配達したことが認められ、他に右認定を左右する証拠がない。
右の事実によれば右上告状は郵便局係員の取扱如何によっては六月二日中に右高等裁判所に到達し得たものと認められる。
しかしながら、郵便物の配達行為は公権力の行使に当る公務員の行為ではなく又公の営造物の設置管理の瑕疵に関するものでもないから国家賠償法第一、二、三条の適用外のものである。そこで同法第四条により、民法の規定によるべきものか否かをみなければならないところ、同法はその第五条において民法以外の他の法律に別段の定めがあるときはその定めるところによる、として特別法の優先適用を定め民法の規定の適用を排除している。そして国が郵便物を取扱うに当り生じた損害を賠償することについては郵便法第六十八条に規定しているが、同条が、右賠償すべき場合と賠償すべき額とを限定的に規定していることと郵便事業が、その役務を安く、公平に提供することによって公共の福祉を増進することを目的として行われるものであることを考えると同条は国家賠償法第五条にいわゆる別段の規定に当り、国は郵便物を取扱うに当り損害が生じた場合右郵便法第六十八条によってのみ賠償の責任を負うべきものと解すべく、民法の適用は排除さるべきである、とすれば本件速達による書留郵便の延着による損害賠償の請求は理由がない。しかも、付言すれば本件は、損害発生の事実について何の証拠もない(損害賠償の訴を出したこと自体では訴状記載の損害が発生したものとは認められない)場合であるから、この点からも本訴請求は失当である。
よって原告の本訴請求を棄却すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 藤巻曻)