山形地方裁判所 昭和44年(ワ)66号 判決
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〔判決理由〕<証拠>を総合すると次の如き事実が認められる。
(一) 本件自動車は、昭和三八年六月一二日、被告から原告に引渡されたが、同日から同年七月末日までの間原告から被告に対し、同自動車につき、その引渡し当初、ドアのハンドルに若干不完全な点が存した以外、格別、欠陥が存する旨の申し入れはなかつた。
(二) 被告は、本件自動車の如く、所謂新車を売渡した場合は、売渡し後、走行距離二、五〇〇キロメートル及び五、〇〇〇キロメートルの時点においてサービスにより、当該自動車につき、定期整備点検を実施しているところ、本件自動車については、昭和三八年七月一〇日頃右前者の、同年八月中旬頃右後者の、各点検を、被告会社山形整備工場において施行したが、その当時同自動車に格別の異状は存しなかつた。
(三) 昭和三八年八月二〇日頃、原告から被告会社従業員で、本件自動車についての売買契約を直接担当した訴外土屋雅志に対し、はじめて、同自動車のハンドルにぶれがある旨の告知がなされたので、同訴外人は、即日本件自動車を、被告のサービス指定店である訴外大河原自動車整備工場に運び同工場の経営者等その整備士に対し、ハンドルのぶれの有無の調査点検及びその原因となり得る部分の整備等を依頼した。
(四) 右(三)の整備士は、通常、ハンドルのぶれの原因とされているタイヤの空気圧の平衡性、タイロット連結接合の状態、ハンドルぶれを押える部分の具合及び新車のため生じ易い各種ボルトのゆるみ等につき、総合的、かつ精密に点検、調査したが異状は発見されなかつた。
(五) 右(四)の点検後、その整備士は、自ら本件自動車を運転し、時速八〇キロメートル位まで出して、所謂ロードテストを施行したが、ハンドルぶれは惹起しなかつた。
(六) 昭和三八年八月下旬頃、右(三)の訴外土屋雅志は、再度本件自動車のハンドルにぶれが生ずる旨の原告の言辞に基づき、右(二)自動車を、右の整備工場に運び、同工場の整備士に、ハンドルのぶれの有無についての点検を依頼した。
(七) 右(六)の依頼に基づき、同工場の責任者的地位にあつた整備士訴外鈴木政雄は、本件自動車の点検前同自動車を運転し、時速を四〇キロメートル、五〇キロメートル、六〇キロメートルの各段階に区分して走行したが、ハンドルのぶれは発生せず、次いで車輪の回転状態、ホイルの狂いの有無、操縦装置の状態、タイロット接合状況等、ハンドルぶれの発生する原因とされる箇所についての精密点検を施行したが、いずれにもその異状は見当らず、更にその直後、右と同一内容の試運転をしたが、ハンドルのぶれは生じなかつた。
(八) 右(七)の訴外鈴木政雄は、同項の如き点検の翌日、本件自動車を自ら、運転し、原告宅において、同自動車を原告に引渡したが、その際、原告は右訴外人を同乗させて右自動車を運転した結果ハンドルのぶれが生じないことを確認した。
(九) 昭和三八年九月一八日、本件自動車の分割支払代金の関係で、右(三)の訴外土屋雅志が、原告方に訪れた際、原告から同訴外人に対し、右(三)と同様の告知がなされたため、同訴外人は同日午後三時頃から右の整備工場の整備士訴外大河原巌と本件自動車に同乗し、右両名交互に運転して、舗装、非舗装道路において時速六〇キロメートルないし八〇キロメートルを出し、約三〇分間、走行してハンドルのぶれの発生を試したが、その間右ぶれは生ぜず、同人らは、同自動車につきなんらの異状も感得しなかつたので、右土屋は原告に対し、右異状のない旨を告げて同自動車を返還した。
(十) 右(九)の直後の同日午後四時頃原告は、本件自動車の助手席に、右(九)の訴外土屋雅志を同乗させて同自動車を運転し、その肩書住所を出発し、山形県東置賜郡高畠町大字糠の目字仲町車一、二九四番地付近国道一三号線道路に到達した。
(十一) 右(十)の道路において原告は、時速七〇キロメートル位で同道路中央線に出てその先行するバイクと小型四輪自動車を順次追越した上、引続きバスの追越しにかかつたところ、追越しの挙に出ている本件自動車を避けるため、既に最徐行し、右道路の左側端を進行して対向する普通貨物自動車(ジープ)を発見した。
(十二) 原告は右(十一)の発見後急停止の装置をとつたため、本件自動車は、その後部を数回左右に振動させて蛇行し、右道路の中央線を越え、右対向車と正面衝突し、同自動車を同道路脇の田に転落せしめた。
(十三) 右(十)の道路は、平担で舗装されているが右(十一)の当時降雨のため、路面は滑走し易い状態にあつた。
(十四) 右(十)ないし(十二)の、原告の本件自動車運転中、右(九)の訴外土屋雅志は、その助手席において、終始、同自動車のハンドルのぶれにつき特に留意し観察していたが、右(十二)の衝突事故発生時まで、右ぶれの発生を認識しなかつた。
(十五) 右(九)の訴外土屋雅志は、右(十四)の、原告の運転中原告に対し再三、速度を落すよう注意したが、その直前の右(九)の、同訴外人の原告に対する本件自動車に異状がない旨の言辞等からなかば興奮状態にあつた原告はこれを聞入れようとしなかつた。
(十六) 右(十二)の衝突事故後被告は、本件自動車を引取つた上、そのハンドルのぶれ等の存在につき、ロードテストその他の点検を施行したが、格別の異状は認められず、昭和三八年一二月頃、本件自動車を中古車として他に売却したが、以後その買受人から、ハンドルのぶれの存在等一切の苦情が出ていない。
(十七) 本件自動車は、三菱自動車株式会社製であるところ、同会社は昭和三七年から昭和四三年までの間本件自動車と同一の自動車を五、〇〇〇台製造し、その内二、一〇〇台は国内にその余の一部は輸出して外国に各販売したが、本件自動車以外、ハンドルのぶれの存在等、クレームは全く出ていない。
右認定の事実を総合すると次の如き判断に到達する。
(一) 本件自動車の衝突事故は、直接的には原告の無理の追越し(前方不注視も含む)と、滑走し易い道路状況における速度の出し過ぎがその原因を構成しているものと認めるのが相当である。
(二) 本件自動車に、ハンドルのぶれを惹起するに足る構造上の欠陥の存在は認定し難い。仮に右欠陥が存したとしても、本件自動車の衝突事故は右の如き原因によるもので、少くとも右衝突時は、ハンドルのぶれが発生していなかつたから、同欠陥の存在は、右事故の原因にはならない。
(三) 右(一)(二)によると、本件自動車に構造上の欠陥が存することを理由とする、契約の所謂不完全履行による被告の債務不履行は存在しないことに帰着する。
(伊藤俊光)