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山形地方裁判所 昭和52年(ワ)211号 判決 1979年8月09日

主文

一  被告らは、各自、原告山形三菱自動車販売株式会社に対し金九五八万三、一六〇円、原告土屋武雄に対し金三三五万三、二六〇円、原告中島則義に対し金二六二万〇、九二〇円、原告志田悦郎に対し金二二〇万八、八六〇円及右各金員に対する昭和五二年一〇月二六日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

二  原告らのその余の各請求を棄却する。

三  訴訟費用のうち、原告会社と被告らとの間に生じた分は、被告らの負担とし、原告土屋武雄と被告らとの間に生じた分は、これを三等分してその二を同原告のその余を被告らの負担とし、原告中島則義と被告らとの間に生じた分は、これを二等分してその一を同原告のその余を被告らの負担とし、原告志田悦郎と被告らとの間に生じた分は被告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、既に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自、原告山形三菱自動車販売株式会社(以下「原告会社」という。)に対し金九七〇万八、〇〇〇円、同土屋武雄に対し金一、〇三七万四、〇七〇円、同中島則義に対し金五六三万〇、〇五〇円、同志田悦郎に対し金二六二万四、九二〇円及び右各金員に対する昭和五二年一〇月二六日から完済まで年五分の割合による金員を各支払え。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

3  仮執行宜言

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告らの請求を棄却する。

2  訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  交通事故の発生(以下「本件事故」という。)

(一) 日時 昭和五二年五月二五日午前六時三五分頃

(二) 場所 国道一三号線山形バイパス道路山形県天童市大字芳賀地内交差点付近

(三) 加害車両 普通貨物自動車(富山一一い一六九三)

運転者 被告高崎利之

(四) 被害車両 普通乗用自動車(山形三三さ一〇〇〇)

運転者 原告志田悦郎

同乗者 原告土屋武雄及び同中島則義

(五) 態様 被害車両は、右道路を天童方面に向かい北進中右交差点手前の交通信号機が赤色表示であつたため、それに従つて先行車二台とともに交差点直前で停車していたところ、後続進行してきた加害車が制動措置を講じないまま被害車両の後部に激突し、その衝撃により被害車両及び先行者二台をして順次後方から激突せしめて大破する三重衝突事故となつた。

2  責任原因

(一) 被告高崎利之の不法行為責任(民法七〇九条)

被告高崎は、積荷を満載した四トン積普通貨物自動車である加害車両を居眠り運転し、制動措置も講じないまま暴走させた過失により本件事故を発生させた。

(二) 被告三尚運輸有限会社(以下「被告会社」という。)の使用者責任(民法七一五条一項)

被告会社は、被告高崎を自己の営む運送業務に従事させ、同被告が被告会社の業務の執行として加害車両を運転中に本件事故を発生させた。

3  損害

(一) 原告土屋、同中島及び同志田に対する関係

(1) 受傷

原告土屋 外傷性頸腕症候群、頭部打撲、右下腿挫傷、眼底出血

原告中島 外傷性頸腕症候群、腰部捻挫

原告志田 外傷性頸部症候群、両下腿挫傷

(2) 治療経過

原告土屋及び同中島

昭和五二年五月二五日から笠原整形外科医院、米沢市最上整体治療院、天童市高橋接骨院で(通院)加療中。

原告土屋については、さらに同五三年三月一日から同月末まで仙台市厚生病院に入院。

原告志田 昭和五二年五月二五日から同五四年二月末日まで笠原整形外科医院に通院

(3) 後遺症

原告土屋 頸腕部充血・疼痛

原告中島 左根性坐骨疼痛・左足膝下の痛みとしびれによる歩行障害

原告志田 不定愁訴

(4) 損害額

イ 治療関係費

原告土屋 金三七万四、〇七〇円(治療費三六万四、七六〇円、通院交通費九、三一〇円)

原告中島 金六三万〇、〇五〇円(治療費六二万八、四二〇円、通院交通費一、六三〇円)

原告志田 金四三万五、七〇〇円(治療費四三万五、一四〇円、通院交通費五六〇円)

ロ 休業損害

原告志田は原告会社に勤務し一カ月平均九万二、〇〇〇円の給与を受けていたものであるところ、昭和五二年五月二六日から同年八月三一日まで治療のため休勤したので、右休業期間の給与額にあたる金一八万九、二二〇円の損害を受けた。

原告土屋及び同中島は、原告会社の代表取締役社長、専務取締役として、その業務執行に関し同社からそれぞれ一カ月当り金一七二万円、金五八万七、〇〇〇円の取締役報酬を受けていたものであるところ、昭和五二年五月二五日から同年八月末日までの三カ月間は本件受傷による心身の障害が著しく、業務の執行が全く不可能になつたので、右期間中の休業により原告土屋は金五八六万円、同中島は金一七六万一、〇〇〇円の損害を受けた。

ハ 慰謝料

右原告らの傷害は長期の加療によるも回復せず、後遺症のため業務の執行が極度に制約され、日夜懊悩しているに比し、加害者たる被告らには見舞の誠意すら見受けられない。事故の態様、原告らの社会的地位、後遺障害の現況及びその回復見通し等一切の事情を勘案すると、その精神的苦痛に対する慰謝料は、原告土屋につき金一、〇〇〇万円、同中島につき金五〇〇万円、同志田につき金二〇〇万円が相当である。

(二) 原告会社の車両損害

原告会社は、被害車両にかかる三菱デボネア型普通乗用自動車を所有し、その仕様は

年式型式 五一年式A三二

車台番号 A三二KWB―〇〇二八〇

登録番号 山形三三さ一〇〇〇

車両価格合計 二七九万七、〇〇〇円

であり、昭和五一年一〇月に新規登録を受けて運行の用に供してから、本件事故に至るまで満七カ月しか経過しておらず、走行距離も少なく新車同様の品質を保つていたものであつたところ、本件事故により使用不能の大破に帰しこれを廃車処分にしたので、原告会社は右車両価格から廃車時の車両評価額一万円を控除した金二七八万七、〇〇〇円相当の車両損害を受けた。

4  原告会社の事務管理による費用償還請求権

(民法七〇二条一項)

前記3損害(一)、(4)、ロ記載の原告土屋及び同中島の休業損害(取締役報酬)計金六九二万一、〇〇〇円については、被告らにこれを賠償すべき債務があつたところ、原告会社は法律上の義務なくして、かつ、被告らのためにする意思で、右債務の立替払をした。

5  本訴請求

よつて、被告ら各自に対し、原告会社は前記三、(二)の車両損害額と前記四の事務管理費用との合計金九七〇万八、〇〇〇円及びこれに対する本件訴状送達の翌日である昭和五二年一〇月二六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金、原告土屋は前記三、(一)、(4)の損害合計額から休業損害額を控除した金一、〇三七万四、〇七〇円及びこれに対する前同様昭和五二年一〇月二六日から完済まで前同割合による遅延損害金、原告中島は前記三、(一)、(4)の損害合計額から休業損害額を控除した金五六三万〇、〇五〇円及びこれに対する前同様昭和五二年一〇月二六日から完済まで前同割合による遅延損害金、原告志田は前記三、(一)、(4)の損害合計額二六二万四、九二〇円及びこれに対する前同様昭和五二年一〇月二六日から完済まで前同割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  同2(一)の事実中、被告高崎が居眠り運転をした点は否認し、その余は認める。

同2(二)の事実は認める。

3  同3(一)の各事実中、(4)イの治療関係費については不知、その余は争う。

同3(二)の事実については争う。

4  同4、5の各事実については争う。

三  被告らの主張

1  被害車両の損害額について

被害車両の破壊による損害額を算定するための車両価格は、新車購入価格から使用によつて減耗した減価分を償却した本件事故発生直前の時価とすべきである。

2  事務管理費用の償還請求について

原告会社が原告土屋及び同中島に対して支払つたという取締役報酬は、原告会社と右両名との間の取締役報酬契約に基く義務的支出によるものであつて、「義務ナクシテ」支払つたものではないから、右支払いにつき事務管理は成立しない。

3  慰謝料額について

原告らの請求する慰謝料額は、いずれも明らかに誇大なもので失当である。

四  抗弁

被告会社は、昭和五二年五月二六日、原告らに対し(原告会社総務課長酒井弘を受領者として)、合計金三万円を支払つた。

第三証拠〔略〕

理由

一  事故の発生

請求原因1の事実は、当事者間に争いがない

二  責任原因(請求原因2について)

同2の事実のうち、被告高崎の過失に関する原告の主張は、要するに同被告には前方注視義務の解怠があつたというにあると解されるので、この点を検討すると、成立について争いのない甲第一七ないし第二一号証、第二三号証、第二五号証、第三一号証及び原告中島本人尋問の結果によれば、当時被告高崎が一瞬もの思いにふけつたり脇見をしていたかそれとも居眠りしていたのか、そのいずれにあつたと認定すべきかについてはかならずしも判然とし難いものがあるけれども、右両者のいずれかにはありその結果として前方不注視の状態となつたこと、しかるに自動車の運転を継続するという過失により本件事故を起した事実は十分に認めることができる。そして、その余の事実については、当事者間に争いがない。そうすると、被告高崎は民法七〇九条に基き、被告会社は民法七一五条一項に基き、原告らが本件事故によつて被つた後記損害について、これを賠償する責任がある。

三  損害(請求原因3について)

(一)  原告土屋、同中島及び同志田関係

(1)  治療関係費の出捐(同3(一)の(1)ないし(3)及び(4)のイについて)

成立に争いのない甲第二ないし第四号証、第一一号証。第一二号証の一ないし六、第一三号証、第一四号証の一ないし七、第一五号証、第一六号証の一ないし六、第三三ないし第四四号証、証人酒井弘の証言及び原告土屋、同中島ならびに同志田各本人尋問の結果を総合すると、原告ら主張のとおりの受傷、治療経過及び後遺症があつたこと、治療費として原告土屋につき金三六万三、二六〇円、同中島につき金六三万〇、九二〇円、同志田につき金四三万七、六四〇円を支出したことが認められる。通院のための交通費支出については、これを算定するに足るだけの資料がない。

(2)  休業損害(同(4)ロについて)

証人酒井弘の証言により成立を認める甲第八ないし第一〇号証及び同証言、原告土屋、同中島、同志田の各本人尋問の結果によれば、本件事故直前に原告会社において、原告土屋は代表取締役に任じて業務を執行し、取締役報酬として月額金一七二万円の支給を受け、同中島は専務取締役に任じて業務を執行し、取締役報酬として月額金五八万七、〇〇〇円の支給を受け、同志田は従業員として雇用され運転手勤務に従事し、賃金として月額金九万二、〇〇〇円の支給を受けていたところ、右原告三名は、本件事故による受傷の結果として、昭和五二年八月末日に至るまでは前記業務執行又は就労が全く不可能となるほどの身障状況に陥つて、その間にはいずれも休業のやむなきとなり、しかも右休業中において、原告土屋、同中島に対しては引き続き取締役報酬を支給されたが、同志田に対しては賃金を支給されず従つてもし就労しておれば支給せられたはずの賃金二八万一、二二〇円相当の得べかりし利益を逸失した、との事実が認められる。

(3)  慰謝料(同(4)ハについて)

前掲各証拠によれば、原告土屋は、明治四三年九月一四日生れの山形県内でも屈指の実業家であり、原告会社をはじめ多数の系列会社の代表取締役や取締役に任じて会社の主宰や経営にあたり、原告中島は、大正九年一二月一〇日生れで原告土屋の事業遂行を補佐し、原告会社をはじめ多数の系列会社の取締役に任じて会社経営にあたり、原告志田は、大正八年一月一三日生れで原告会社の従業員として原告土屋の専用自動車の運転手を勤めていたところ、右原告三名の傷害結果は昭和五二年八月末までかなり重症であり、ことに原告土屋、同中島は自宅で寝たきり同然で過しその後も年末まではおおむね足腰の立たない状態にあり、その結果、発展途上にあつた前記事業の進ちよくを著しく阻害した事実が認められ、さらに前認定にかかる傷害内容や治療経過及び後遺障害の程度、その他諸般の事情を考えあわせると、原告らの慰謝料額は原告土屋につき金三〇〇万円、同中島につき金二〇〇万円、同志田につき一五〇万円とするのが相当である。

(二)  原告会社の車両損害(同3の(二)について)

成立について争いのない甲第三二号証、証人酒井弘の証言により成立を認める甲第六、第七号証及び同証言、原告中島本人尋問の結果によれば、原告会社は、被害車両にかかる三菱デボネア型普通乗用自動車(山形三三さ一〇〇〇)の新車を付属品等も含めて代金二七九万七、〇〇〇円で取得し、社長専用車両として約七ケ月間、走行距離約一万キロメートル余の運行に供していたところ、同車は本件事故により使用不能の全損扱いとなり車両評価額金一万円に減損してしまつたことが認められる。

そこで、右車両破損によつて原告会社が受けた損害額を判断するに、被害車両については右七カ月間の供用により減耗した減価分が新車価格の一〇パーセントを超えてはいないと認められるので、これを最大限の一〇パーセントと見積つて前記取得価格から償却して算出すると、事故当時における被害車両の現存価額は金二五一万七、三〇〇円となり、それに登録関係諸費用金一五万四、八六〇円(弁論の全趣旨により認定する)を加えると、金二六七万二、一六〇円となり、結局これから事故後の車両評価額金一万円を控除した金二六六万二、一六〇円が原告会社の受けた損害額となる。

四  原告会社の事務管理費用の償還請求(請求原因四について)

原告土屋、同中島は、本件事故により早くとも昭和五二年八月末日までの間は休業のやむなきに至つたものである。そして、同原告らは、特段の事情がない限りは、右休業により取締役報酬相当額の損害を被つたと認められ、被告らは同原告らに対して右損害を賠償すべき債務を負うところ、それに関しては原告会社が原告土屋、同中島に対して取締役報酬を支給しているので、その金額の限度では原告会社の出損により右休業損害が填補される結果になるから、原告会社は、原告土屋、同中島の有する損害賠償請求権について代位する関係となる。

ところで、原告会社は、事務管理による有益費償還請求権に基いて右損害賠償金相当額の支払を求めるものであるから、この観点から考えてみよう。原告中島本人尋問の結果及び弁論の全趣旨に照らせば、原告会社は、株主総会決議に基いて原告土屋、同中島に対し取締役報酬を支給したと認められるから、右給付自体はたしかに法律上の原因に基いてなされている。しかしながら、右給付は、同時に右原告両名の休業損害を填補し、同原告らの有する損害賠償請求権を満足せしめる効果を生ずるものであるところ原告会社においては被告らの与えた損害を填補するために自己が出損しなければならない。という法律上の義務があるわけではないし、また右損害填補による利益を被告らに終局的に帰属せしめる結果に導くならば、公平の理念にも反する。従つて、原告会社の右給付は、原告土屋、同中島との間の前記法律原因の存在にはかかわらず、被告らとの関係では、義務なくして被告らのために損害賠償の事務を管理し有益費を出したもの、と評価されるべきである。そして、原告会社は、原告土屋、同中島に対して支給した休業期間中の取締役報酬合計金六九二万一、〇〇〇円について民法七〇二条に基きこれを被告らに対して償還請求なしうるというべきである。

五  一部弁済(抗弁について)

被告会社が原告会社総務課長酒井弘に対して金三万円弁済した事実について、原告は弁論において明らかに争つてはいないのでこれを自白したものとみなされるところ、被告代表者本人尋問の結果によれば、被告会社は受傷した原告三名の見舞いにあたり車代の名目で右金員を交付したことが認められるから、右金員は各一万円宛を右原告らに対する慰謝料の弁済に充当されると解するのが相当である。

六  結論

以上の事実によれば、被告らは各自、原告会社に対し金九五八万三、一六〇円、原告土屋に対し金三三五万三、二六〇円、原告中島に対し金二六二万〇、九二〇円、原告志田に対し金二二〇万八、八六〇円及び右各金員に対する本件訴状送達の翌日である昭和五二年一〇月二六日から完済まで民法所定年五分の割合による遅延損害金を各支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条、九三条、仮執行の宣言につき同法一九六条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 木原幹郎)

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