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山形地方裁判所 昭和52年(行ウ)1号 判決 1980年3月17日

原告 芳賀亀雄

<ほか六名>

右原告ら七名訴訟代理人弁護士 赤谷孝士

同 飯野信昭

原告 小関明子

右原告訴訟代理人弁護士 赤谷孝士

被告 羽黒町農業共済組合

右代表者理事 百瀬忠雄

右訴訟代理人弁護士 加藤次郎

主文

一  本件訴をいずれも却下する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告ら

1  被告が昭和五一年一二月二〇日行った、原告芳賀亀雄に対する金一二万五、八四〇円、同小関伊勢蔵に対する金六万九、三〇〇円、同大川鎮に対する金四万二、〇二〇円及び同原田敏雄に対する金二万二、〇〇〇円の各水稲共済金支払い決定処分並びに同星野三男、同太田繁雄、同小関明子及び同斎藤真に対する各水稲共済金不払い決定処分を、いずれも取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  被告

1  本案前の申立て

主文同旨

2  本案につき

(一) 原告らの請求をいずれも棄却する。

(二) 訴訟費用は原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一  原告ら

1  被告は、山形県東田川郡羽黒町を区域とし、農業災害補償法(以下、「農災法」と略称する。)に基づき設立された農業共済組合であり、原告らはいずれも同町内に住所を有し、農災法一五条、一六条に基づく被告羽黒町農業共済組合(以下「被告」あるいは「被告組合」と略称する。)の当然加入組合員である。

2  被告は、公の行政を行うことをその存在目的とし(農災法第一章)、「農林大臣の所管に属する公益法人の設立及び監督に関する規則」により規制される公共組合=公法人であって、「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律」(以下、「権限法」と略称する。)及び「国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律第七条第一項の公法人を定める政令」によれば、農業共済組合及び同連合会の事務に関する訴訟について、組合等から請求があった場合には、法務大臣は所部の職員でその指定するものにその訴訟を行わせることができるとされており、これらによれば、被告は行政事件訴訟法(以下、「行訴法」と略称する。)三条二項所定の「行政庁」に該当する。

3  被告は、昭和五一年九月中旬から下旬にかけて、被告組合定款(以下、「定款」と略称する。)七〇条の立入調査権に基づき、昭和五一年産水稲共済金支払いのため、被告組合所属組合員の耕地について、共済事故にかかる水稲の損害の調査を行い、右調査結果に基づき、同年九月二四日、同年一〇月二三日及び同年一一月一〇日、一一日に開催された損害評価会(定款四七条)の損害認定の答申をうけて、同年一二月二〇日原告らを含む被告組合の各組合員について、個別に、同年産水稲についての共済事故にかかる損害の認定を行ったうえ同日総額三億九、七四七万円の同年産水稲共済金の支払いについての決定をなしたのであるが、うち原告らに対しては、原告芳賀亀雄に対し金一二万五、八四〇円を、同小関伊勢蔵に対し金六万九、三〇〇円を、同大川鎮に対し金四万二、〇二〇円を、同原田敏雄に対し金二万二、〇〇〇円を支払う旨の各決定を、同星野三男、同太田繁雄、同小関明子及び同斎藤真に対してはこれを支払わない旨の各決定をし、同月二四日共済金支払いの対象となった各組合員に対し、いずれも各組合員名義の羽黒町農業協同組合、農協貯金口座への振り替えの方法で各水稲共済金を支払った。

しかるところ被告の行った昭和五一年産水稲共済金支払いについての右の各決定は、「具体的な行為が行政争訟の対象としてとりあげるに値するだけの表象を備えているかどうか、換言すれば、権限ある行政庁又は裁判所が公の権威をもってこれを取り消し(又は無効の確認をなし)その存在を否定するのでなければ、あたかも人民を拘束する力を有する行政行為が存在するかのごとく誤解させるだけの外観上の表象を備えているかどうかについて客観的に社会通念に従って判断するほかない」行為であって、右は行訴法三条二項所定の「処分」に該当する。

また前記権限法及び権限法七条一項の公法人を定める政令によっても、右の各決定行為の「処分性」は明らかである。

4  被告の行った右の各処分は、次の事由により違法である。

(一) 被告組合と原告ら被告組合所属の組合員との間の共済関係は、半相殺農家単位方式を採用しており、そのために組合員らに対する共済金額に不公平が生じた。

(二) 共済事故にかかる損害の認定は、農災法九八条の二に基づく「農作物共済により支払うべき共済金及び農業共済組合連合会がその行う農作物共済に係る保険事業により支払うべき保険金に係る損害の額の認定に関する準則」(昭和三三年四月三〇日農林省告示第三〇七号、以下、「農作物共済損害認定準則」と略称する。)により行なわれるものであるが、同準則は「農家単位引受け方式による農作物共済については、実収穫量が基準収穫量を下回る耕地については全筆評価をする必要があり、それに多大の労力を要することとなって適期に評価できなくなることもあるので、そうした場合は農家ごとに一定数の耕地につき検見又は実測の調査を行うことにより、その農家の全損害耕地についての損害を推定することができる。」旨規定され、いわゆる「悉皆調査」(部分をみて全体を推定する方法で場合により、いわば『よしのずいから天井をのぞく』危険性がある。)を認めている。

被告は右の規定に基づき、評価地区一班については一三筆中六筆、同二班については一二筆中六筆、同三班については一四筆中七筆、同四班については一三筆中六筆、同五班については一一筆中六筆、同六班については一三筆中六筆、同七班については一五筆中六筆、同八班については一三筆中五筆、同九班については一二筆中五筆、同一〇班については一三筆中五筆、同一一班については一二筆中五筆、同一二班については一三筆中六筆、同一三班については一一筆中五筆という少数の抜取筆数をもってする調査の結果により組合員らごとの全損害を推定した。

加えて、昭和五一年産の水稲の被害状況によれば、被害の著しかった耕地ほど検見時期(同年九月中旬ないし下旬)から実際の刈取期(同年一〇月上旬)までの間に被害が昂進し、そのため検見時の推定以上に、より実収穫量が低下した。

そのため、組合員らごとの損害額の認定と実収穫量との間の誤差の程度が組合員らの間で大きく異なることとなり、その結果、組合員らに対する共済金の支払いに不公平が生じた。

例えば、被告は、被告組合員に支払われた昭和五一年産水稲共済金総額三億九、七四七万円の損害評価の認定について、被告組合の総共済引受面積一、五四六ヘクタールのうち六七・六パーセントにあたる一、〇四四ヘクタールが基準収穫量の二〇パーセント超過被害面積であったからだとしているが泉地区八森部落は一一九・二パーセントに対し六〇七万円、泉地区地元組部落一〇五・一パーセントに対し四〇六万円、広瀬地区東山部落一〇三・六パーセントに対し七二万円などのように、政府買入基準数量に対し一〇〇パーセント以上の産米量の出荷をした被告組合区域内部落にも共済金が支払われている。

一方、組合員らを個別にみた場合でも、政府買入基準数量をはるかに超過して産米量を出荷した組合員らに対して共済金が支払われている。例えば、百瀬忠雄は四四〇俵(一俵単位六〇キログラム、以下、同じ)の政府買入基準数量に対し三三俵超過出荷し一〇〇万円以上の、同様に、松井千世松は七一俵に対し一四俵超過出荷し約三〇万円の、原田久吉は六八俵に対し三俵超過出荷し約一九万円の、成沢幸雄は二九九俵に対し四八俵超過出荷し約一〇二万円の、大塚貢は五俵に対し一俵超過出荷し約七万円の各共済金の支払いを受けている。

他方、被告が認定した原告らについての共済減収量は原告らの実収穫量を反映したものではなく、従って、被告が原告らについて行った共済金支払いについての決定は、実際に支払うべき共済金額を下まわっている。例えば、原告芳賀亀雄の基準収穫量は七、二三六キログラムであったが、現実の出荷量は四、〇八〇キログラムであったにもかかわらず、損害額の評価においては共済減収量を五七二キログラムと認定され、共済金の支払いは前記のとおり一二万五、八四〇円にとどまった。

これらの事実は、被告組合と原告ら被告組合所属の組合員との間の共済関係が半相殺農家単位方式によっているということだけでは説明しきれないものである。

(三) 以上のように、被告の原告らに対する水稲共済金支払いについての決定は、共済金支払い額について「水稲の減収量の合計が当該耕地ごとの基準収穫量の合計の一〇〇分の二〇を越えた場合に、単位当り共済金額に、その越えた部分の数量に相当する数を乗じて得た金額に相当する金額とする。」旨規定する定款九〇条に反して、原告らに対して支払うべき共済金額を過少に決定し、又は共済金を支払うべき原告らに対して共済金を支払わない旨の決定をし、かつ共済金支払いについて原告らを含む被告組合員ら間に不公平な取扱いをした違法がある。

5  以上のとおり原告らは前記定款九〇条に定める共済金額の支払いを受けていないのであるが、本件訴により、被告が原告らに行った前記の共済金支払い決定ないし不払い決定の取消しを求めることにより、右定款に定める額の共済金の支払いを受けることが可能となるから、本件訴の利益がある。

6  被告は、共済金支払いの対象となった組合員に対しては、「昭和五一年度水稲共済金支払い通知書」と題する書面により、「組合定款第九〇条、第九三条並びに共済金支払規程の定めるところにより支払致しましたから通知します。」という文面で、当該組合員についての引受面積、基準収穫量、基準収穫量の二〇パーセント、被害申告面積、減収量、共済減収量及び支払い共済金額を記載したうえ、昭和五一年一二月二四日農協貯金口座への振替の方法で共済金を支払った旨個別に通知した。しかしながら、定款九三条は支払い共済金額、認定共済減収量等につき、公告する旨定めており、このように行政処分が公告の方法により行われる場合には、その公告が適法に行われたときに「処分を知った」ものとして、その日から行訴法一四条一項所定の出訴期間を起算すべきものであるところ、被告は右の公告をしていない。従って、同項所定の出訴期間は進行していない。

7  よって、原告らは、被告が原告らに対し行った前記行政処分の取り消しを求めるべく本訴に及んだ。

二  被告

1  原告ら主張の1の事実のうち、原告斎藤真が被告組合の組合員であることは否認し、その余の事実は認める。

原告斎藤真家の組合員は、斎藤光井である。

2  同2の事実のうち、被告が行訴法三条二項所定の「行政庁」に該当するとの主張は争う。

3  同3の事実のうち、被告が昭和五一年九月中旬から下旬にかけて昭和五一年産水稲共済金支払いのため被告組合所属組合員の耕地について損害の調査を行ったこと、昭和五一年産水稲共済金支払いのための損害認定の答申のため損害評価会が同年一〇月二三日開催されたこと、被告は損害評価会の答申をうけて各組合員についての損害の認定を行ったこと、そして被告は総額三億九、七四七万円の昭和五一年産水稲共済金の支払いについての決定をなしたが、原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、同大川鎮及び同原田敏雄に対しては原告ら主張のとおりの共済金の支払額の決定をしたうえ、それぞれ水稲共済金を支払ったことは認める。昭和五一年産水稲共済金支払いのための損害認定を答申すべく損害評価会が同年九月二四日、同年一一月一〇日、一一日にも開催されたこと並びに原告星野三男らその余の原告に対して水稲共済金を支払わない旨の各決定を行ったことは否認する。原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、同大川鎮及び同原田敏雄に対する共済金支払い額の決定が行訴法三条二項所定の「処分」に該当するとの点は争う。

被告は、農災法九八条の二、定款七二条に規定する前記農作物共済損害認定準則の定めるところに従い、組合員らの耕地について、昭和五一年九月二二日から同年一〇月五日までの間に悉皆調査を実施し、同年九月二七日から同年一〇月五日までの間に抜取調査を、同月三日から同月一一日までの間に再抜取調査を各実施し、その間、同年九月二八日及び同年一〇月九日の山形県農業共済組合連合会の抜取調査を経て、損害評価会に対し損害の認定についての諮問をし、同年一〇月二三日損害評価会からの答申をうけたうえ、同年一一月一〇日に開催された被告組合理事会において「評価地区別平均単収差計算書」に基づいて共済減収量を認定して、これを山形県農業共済組合連合会に報告し、同年一二月一一日被告組合に対する同連合会の共済減収量の認定(同連合会は農林大臣の認定した数量のとおり組合等ごとに共済減収量を認定した。)をうけて、最終的に組合員らごとの共済減収量を認定したものである。

原告らは、被告は原告星野三男、同太田繁雄、同小関明子及び同斎藤真に対して水稲共済金を支払わない旨の各決定を行ったと主張するが、被告が組合員らに対して共済金を支払うか否か、支払う場合の金額如何は、前記農作物共済損害認定準則所定の手続と被告が農災法及び定款に基づき組合員との間に設定している共済関係により、一定の要件を充足するか否か等により、自動的に決まるのであって、右の原告らに対しては右の要件に該当しなかったから共済金を支払わなかったものであって、同人らに対し、共済金を支払わない旨の「決定」というような行為はしていない。

また、右のように、一定の要件に該当すれば、支払い対象組合員は、農災法及び定款上当然に被告に対する共済金支払い請求権を取得し、被告はその支払い義務を負うのであるから、個々の組合員の共済金支払い請求権の発生に被告の何らかの「処分」が行われるものではなく、被告が一定金額の支払いを行うこと、あるいは支払わないことにより組合員の共済金支払い請求権の有無及びその内容に何らの変動が生じるものではない。従って、被告の行った共済金の支払い額の決定は「法令に基づき優越的立場において国民に対し権利を設定し、義務を課し、その他具体的に法律上の効果を発生させる行為」ではないから、行訴法三条二項所定の「行政庁の処分その他公権力の行使に当る行為」に該当しない。

被告の共済金支払い額の決定に不服がある組合員は、被告に対し直接給付の訴を提起することにより自らの共済金支払い請求権の実現を図れば足りるのである。

4(一)  同4(一)の事実のうち、被告と被告組合所属の組合員との間の共済関係が半相殺農家単位方式に拠っている事実は認める。

(二) 同4(二)の事実のうち、共済事故にかかる損害の認定は農災法九八条の二に基づく農作物共済損害認定準則にしたがって行われるものであること、被告の行った評価地区別の抜取調査筆数、泉地区八森部落ほか二部落の組合員に対して支払った共済金の各合計金額並びに原告芳賀亀雄の基準収穫量、認定共済減収量及び支払い共済金額がいずれも原告ら主張のとおりであることは認めるが、被告が原告ら主張のような方法で組合員らごとの損害を推定したこと、組合員らごとの損害額の認定と実収穫量との間の誤差の程度が組合員ら間で大きく異なったため組合員らに対する共済金の支払いに不公平が生じたことは否認する。泉地区八森部落ほか二部落の各出荷産米量の政府買入基準数量に対する各割合及び百瀬忠雄ほか四名の各出荷数量は不知。

なお被告組合の総共済引受面積、超過被害面積及びその割合並びに百瀬忠雄ほか四名に対し被告組合が支払った共済金額についての原告らの主張を争う。すなわち被告の総共済引受面積は二、七三八ヘクタールであり、二〇パーセント超過被害組合員の被害面積はその六八パーセントにあたる一、八八二ヘクタールである。また、百瀬忠雄、松井千代松、原田久吉、成沢幸雄及び大塚貢に対する共済金額は、それぞれ六四万二、六二〇円、一七万三、八〇〇円、一九万五二〇円、一二五万七、〇八〇円、七万二、六〇〇円である。

(三) 被告の共済金支払いについての決定行為が、仮に原告ら主張のように「処分」に該当するとしても、被告の昭和五一年産水稲共済金支払いについての手続は次のとおりであって、何ら違法な点はない。

(1) 被告と被告組合員との間の農作物共済の共済方式は、前記のとおり半相殺農家単位方式を採用しており(農災法一〇六条、定款八七条、九〇条)、この方式による共済金額は、組合員ごとに、単位あたり共済金額に、耕地ごとの基準収穫量の合計の一〇〇分の八〇に相当する数を乗じて得た金額であり、その共済金は、組合員ごとに、耕地ごとの減収量の合計が耕地ごとの基準収穫量の合計の一〇〇分の二〇を越えた場合に単位当り共済金額にその越えた部分の数量に相当する数を乗じて得た金額に相当する金額とされる。即ち、半相殺農家単位方式は、基準収穫量以上の増収耕地の増収分をもって、被害耕地の減収分と相殺せず、被害耕地の減収分を農家単位に積み上げ、その減収量の合計が総基準収穫量の二〇パーセントを越えた場合に共済金を支払う方式である。

(2) 原告らは各組合員に対する支払い共済金額とその組合員にかかる実収穫量ないし出荷数量を単純に比較して被告の行った共済金支払い行為についての不公平、違法を主張しているが、被告の採用している水稲共済方式とその損害認定及び共済金の計算は次の二点を前提としていることを明確にしておく必要がある。その一は、共済金支払いの対象となるのは各組合員の耕地のうち被告が水稲耕作細目書附属明細書によって具体的に引き受けた耕地(具体的共済関係耕地)のみであり(定款八四条)、その二は、損害の認定は水稲の収穫前に検見又は実測の方法で行った調査に基づく数値のみを計算の基礎とするものであって収穫後の実収穫量ないしは出荷数量は計算の基礎とはならないということである。換言すれば被告の水稲共済方式は各組合員が具体的共済関係耕地以外の耕地からどれほどの収穫を得たとしてもこれとは全く無関係のものであり、また各組合員が具体的共済関係耕地からどれほどの収穫を得たか、それが損害認定の数値と合致するか否かを問わない制度である。なぜならば、水稲耕作では各組合員の収穫後においては、組合において各組合員ごとに具体的共済関係耕地からの収穫とそれ以外の耕地からの収穫とを区別して正確に把握することができないのみならず、各組合員により収穫の時期、方法も異なるから実収穫量の数値をもってしては損害を適正かつ公平なものとして認定することは不可能であるので、前記農作物共済損害認定準則は現時の農作物耕作の実態と共済制度の目的から最も適正かつ公平な損害認定の方法として、収穫前立毛状態における調査に基づく数値を基礎とすることにしているからである。

(3) 被告の行った昭和五一年産水稲にかかる損害の認定は、被告が前記3で主張したとおり、被告の悉皆調査、抜取調査、再抜取調査、山形県農業共済組合連合会の抜取調査、被告組合の損害評価会に対する損害高認定についての諮問及び同会の答申という一連の手続で行われたのであるが、右のうち連合会の抜取調査並びに損害評価会に対する諮問及び同会の答申は被告組合全体にかかるものであるので、被告組合が専ら原告らの具体的共済関係耕地について行う損害認定の調査に関する手続は、右のうち前者三つの調査であって、その調査は次のとおり行われた。

(イ) 被告は「悉皆・抜取調査班の編成並びに日程表(案)」に基づき昭和五一年九月二二日から同年一〇月五日までの間悉皆調査を実施したが、原告らの具体的共済関係耕地については、原告らから損害通知のあった耕地全筆につき(損害通知書)、同年九月二八日、二九日、三〇日及び同年一〇月四日の四日間にわたり行われた悉皆調査第一二班による評価地区手向下地区の調査の中で評価員芳賀留雄(手向第七部落共済部長)、同手塚末五郎(手向第八部落共済部長)、同渡辺留三郎(手向第九部落共済部長)及び同落合与市(手向第一〇部落共済部長)の四名により検見の方法で行われ、その調査結果は損害評価野帳中の「悉皆調査単収」欄に記入されている。

なお、原告らは、悉皆調査ということを誤解し、被告が損害通知を受けた耕地のうちから一部の耕地のみを抜き取り調査して全体の損害高を推定した如く批難するが、悉皆調査はその字の如く損害通知のあった耕地全筆について洩れなく調査を行うのであって、現に被告は右のとおり、原告らから損害の通知のあった耕地全筆について調査しているのである。被告の現地評価は農作物共済損害認定準則第一、第一項の規定による悉皆調査(収穫期前に組合員から損害通知のあった耕地全筆について一筆ごとに検見により単当り収穫量を見積る調査方法)と当該悉皆調査終了後の同準則第一、第六項の規定による抜取調査(損害評価地区ごとに悉皆調査対象耕地の一部につき、悉皆調査の結果を検定するための調査)により行われており、原告らの主張するような同準則第一、第二項に規定する方法により損害を調査した事実はない。

(ロ) 次に、被告による抜取調査は、悉皆調査終了後昭和五一年九月二七日から同年一〇月五日までの間に行われたが、その後も被害の高進が認められたことから、再度同年一〇月三日から同月一一日までの間に第二回の抜取調査が行われた。原告らの具体的共済関係耕地については、その耕地を含む評価地区である手向下地区の抜取調査の中で、評価会委員四名による調査班第一班庄司文太郎(被告組合、農作物評価委員)、本間幸男(同上)、丸山源作(被告組合事務職員)、鈴木保(同上)により昭和五一年一〇月五日及び同月八日に行われた。右の抜取調査は、評価会委員による検見の方法と、実際に耕地より立毛を一筆につき六〇株あるいは一二〇株刈り取り、これを脱穀、調整して玄米に精製し、その収穫量からその耕地の単位当りの収穫量を測定する実測の方法により行われる。前者の検見による調査は評価委員の各人が「水稲組合抜取調査野帳」を携帯し、各自抜取調査対象耕地の一〇アール当りの収穫見込み量を検見し、右野帳の「見込単収」欄に記入し、評価委員全体の見込み単収の平均は「抜取筆の抜取評価見込単収算定表」により計算されたうえ、「抜取単収差計算表」の「検見単収」欄に転記される。また、後者の実測による調査の単収は同じく「抜取単収差計算表」の「実測単収」欄に記入される。

(ハ) 次に、抜取調査のうち検見による単収の予測と実測による単収との調整及び抜取調査対象耕地についての悉皆調査による見込み単収と抜取調査の単収との調整により評価地区別に平均の単収が計算され、さらにその平均単収と損害通知があって悉皆調査を行った耕地ごとの悉皆見込み単収との間に評価地区別にどれほどの単収差があるか、換言すれば、耕地ごとの悉皆見込み単収を抜取調査の結果どれほど修正すればよいかが評価地区別平均単収差の計算表によりまとめられる。

(ニ) 被告は、昭和五一年水稲にかかる損害の認定について、前記悉皆調査、抜取調査の結果を「昭和五一年度評価地区別平均単収差の計算表」にまとめ、平均単収差の数値の端数処理については、農作物共済損害評価要綱第一章第一一節共済減収量等の端数の取扱い(原則として、一キログラム未満の端数は四捨五入の方法により処理する。)に従い、端数処理後の単当り修正量案の数値を記入して、昭和五一年一〇月二三日に開催された被告組合の損害評価会に諮問した。損害評価会は右の修正量案どおり単当り修正量を決議し答申したので、被告は同年一一月一〇日開催の理事会において右答申どおり共済減収量を認定したものである。

(ホ) 原告らの共済減収量は、損害評価野帳の上に、水稲耕作細目書附属明細書から転記された引受面積と基準単収、前記悉皆調査の際評価員らによって記入された悉皆調査単収、昭和五一年度評価地区別平均単収差の計算表から転記された単当り修正量の各数値から、原告らが損害通知をした引受耕地一筆ごとに減収量が計算され、最終的に組合員等別計算表により全筆の減収量が集計され、半相殺農家単位方式が定める基準収穫量の一〇〇分の二〇を越える減収があったか否か、あったとすればどの程度の量かが計算されるのである。ちなみに原告芳賀亀雄にかかる共済減収量の計算は別表二のとおりであり、他の原告らについての共済減収量の有無及びその数量も同様の方式で計算されたものである。

(ヘ) 最後に共済金額は、右の共済減収量に農災法一〇六条五項に基づく農林省告示(昭和五一年度産の水稲及び陸稲に適用するキログラム当りの共済金額の範囲、最高金二二〇円、最低金一五〇円)の中から、被告が定款八七条二項の定め(右のうちの最高額と同額とする。)により選択した最高金二二〇円を乗じて算定されるのである。

なお、原告らについての耕地筆数、引受筆数、水田面積、引受面積及び基準収穫量は別表一のとおりである。

5  同5の、原告らについて本件訴を行う利益があるとの主張は争う。

前記のとおり、被告は共済金を支払わない旨の決定は行っておらず、また、共済金の支払い額の決定は前記農作物共済損害認定準則所定の手続により認定された損害に対する事務的な支払手続であり、それ自体抗告訴訟の対象となる「処分」に該当しないのであるから、結局、原告らの本訴請求は、被告が昭和五一年産水稲にかかる共済金支払いの前提として行った損害の認定のうち、原告らの耕地ごと組合員ごとにかかる損害認定部分を取り消せという主張としか理解できないところ、農災法及び定款は損害認定に対する不服申立の手続を(それが、組合員に対する損害認定全体に対するものにしろ、あるいは個別的組合員にかかるものにしろ)規定しておらず、また、再度の損害認定の方法もないのであるから、原告らの請求どおり原告らにかかる損害の認定を取り消すことになれば、その取り消された認定に基づく共済金の支払いは根拠を失うとともに、原告らについてはもはや再び損害の認定を行うことはできず、結局、原告らには共済金の支払いは行われないこととなる。

従って、原告らの本訴請求を損害認定部分の取り消しを含む支払い(不払い)決定処分の取り消しの請求と解釈しても、原告らにとって何ら実益のないものであり、本件訴は訴の利益を有しない。

6  同6の事実のうち、共済金支払いの対象となった組合員に対して原告ら主張のとおり書面により個別通知をしたこと及び定款九三条が共済金支払いの対象となった組合員についてその支払額、認定共済減収量等について公告する旨定めていることは認め、昭和五一年産水稲共済金支払いに関して定款九三条に基づく公告をしていないとの点は否認する。行訴法一四条一項所定の出訴期間が進行していないとの点は争う。

被告は、昭和五一年産水稲共済金支払いについて、定款九三条に基づき、同年一二月二二日から同月二八日までの間、被告組合事務所の所在する羽黒町役場掲示板に「公告」と題する文書を掲示し、同文書において、共済金支払の対象となる組合員ごとにその耕地筆数、被害面積、共済減収量、支払い共済金額を一覧表にまとめ、その共済金の支払い期日及び支払い方法とともに全組合員に対し公告した。

そして被告が右の公告をしたほかに、共済金支払い対象となった組合員に対し個別通知をしたことは原告ら主張のとおりであるが、被告は右の書面を同月二五日に各部落組合員ごとにまとめて、各部落の共済部長に手交し、各共済部長から各組合員に配布する方法をとり、原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、原田敏雄及び同大川鎮に対しても、同原告らに対する右書面は遅くとも同年一二月末日までには羽黒町大字手向字手向三四八番地手向第九部落の共済部長渡辺留三郎により配布された。

また、被告の定款及び同附属書共済金支払規程には、損害評価の結果共済金支払いの対象とならなかった組合員に対し、共済金の支払い要件に該当しないことの通知をすべき旨の規定はないが、被告は、同月二七日、非対象組合員に対しても個別的に「昭和五一年産水稲の損害評価結果のお知らせ」と題する書面を郵送し、右書面により引受面積、基準収穫量、基準収穫量の二〇パーセント、被害申告面積、減収量の記載とともに、共済金支払いの要件に該当しない旨を通知したので、原告星野三男、同太田繁男、同小関明子及び同斎藤真もそのころ、その趣旨を了知した。

従って、原告らは右の公告及び個別的通知により、遅くとも同五一年一二月末日までには本件共済金支払いに関する各内容を了知したものというべく、仮に被告の本件共済金支払いに関する行為が行政処分であるとしても、同日から三ヶ月を経過した後である昭和五二年四月二三日に提起された本件訴は行訴法一四条一項所定の出訴期間を徒過した不適法なものである。

第三証拠《省略》

理由

一  被告が農災法に基づき設立された法人格を有する農業共済組合であり、原告斎藤真を除くその余の原告らが農災法一五条、一六条に基づく被告組合の組合員であることは当事者間に争いがない。

二  本件請求は、被告が原告らに対して行った昭和五一年産水稲共済金支払いについての決定に関し、原告らに対して支払うべき共済金額を過少に決定し、又は共済金を支払うべき原告らに対して共済金を支払わない旨の決定をし、かつ共済金支払いについて原告らを含む被告組合組合員らの間に不公平な取扱いをした違法があることを理由として、原告らに対する水稲共済金額の支払決定ないしは水稲共済金を支払わない旨の決定の取消しを求めるものであるところ、まず原告斎藤真の原告適格等につき争いがあるので検討する。

農災法一六条によれば、農業共済組合が成立したときは、水稲、麦等の農作物の耕作をなし、養蚕の業務を営む者であって、当該農業共済組合の区域内に住所を有する者は、その時から当然に組合員となるとされる。しかしながらかようにして成立する農業共済組合と農業者との共済関係はいわば抽象的な共済関係に過ぎず右農業者が所定の諸手続をとってはじめて農業共済組合との間に具体的な共済関係が成立し、かくして組合員は共済掛金の支払義務を負い、組合は共済事故発生の場合に組合員に対し共済金を給付すべき義務を負うに至るのである。しかるところ同原告が被告組合の組合員であるかどうかの点については必らずしも明らかでないのみならず、被告組合との間に具体的共済関係の前提となる諸手続をとった事実については何らの立証はなく、従って同原告と被告組合との間には、いまだ右にいう具体的共済関係の成立はなかったものと認めざるを得ない。

してみると同原告は被告組合のなした本件共済金不払いの決定(その存在及び処分性についてはさておくとして)については、その相手方ではなく、またこれによってそのいかなる権利、利益が侵害されたかについては何らの主張も立証もないので、同原告は右決定の取消しを求めるについて、行訴法九条所定の「法律上の利益」を有するものには該当しない。

よって、同原告の被告組合に対する本訴請求は、その余について判断するまでもなく、不適法であり却下を免れない。

三  被告組合が、農災法に基づく農業共済組合であることは前記のとおりである。そこで次に被告組合が行訴法一一条一項所定の「行政庁」であるか否かについて、検討する。

なお、以下( )内に単に法条を記載したものは農災法の法条である。

1  農業共済組合の目的及びその行う事業について

農業共済組合(以下、単に「組合」と略称する。)は、原則として一又は二以上の市町村の区域を地区として、その地区内に住所を有する農業者が不慮の事故により受けることのある損失を補填して農業経営の安定を図り、農業生産力の維持、発展に資するため、共済事業を行うことを目的として農災法に基づき設立される法人であり、その行う事業には必ずしなければならない必須共済事業として農作物共済、蚕繭共済及び家畜共済の三種があり、そのほかに果樹共済及び任意共済がある(一条、三条、五条一項、八三条ないし八五条)。

農作物共済にあってはその目的は水稲、麦等であり(八四条一項一号)、その共済事故は風水害、干害、冷害、雪害その他の気象上の原因(地震及び噴火を含む。)による災害のみならず、病虫害、鳥獣害をも含んでいる(八四条一項一号)。

2  組合の設立、解散及び組合員の加入等について

組合の設立は発起人による任意設立であるが、行政庁の認可が必要であり(認可主義)、この認可権は農災法により拘束されており、また組合が任意の解散をするについては行政庁の認可を受けなければその効力を生じないこととされ、これらの認可についてはその自然発効等の制度も採られている(二〇条ないし二六条、四六条)。

組合が成立した場合には、当該組合の区域内に住所を有し、水稲、麦等の耕作又は養蚕の業務を営む者のうち、その組合が現に行っている農作物共済又は蚕繭共済において共済目的の種類とされている農作物又は蚕繭のいずれか一以上につき、政令の定めるところにより都道府県知事が当該地方の農業事情に応じて定める一定の規模(当然加入基準)以上の耕作の業務を営む者(一号加入資格者)又は養蚕の業務を営む者(二号加入資格者)は当然加入組合員となり、また組合が成立した後に、組合員でない者が右の一号又は二号資格者となったときは、そのときに当然加入組合員となる(一五条一項、一六条一項二項)。また、共済事業の一部廃止を行っている組合が廃止事業を再開したときに、その組合に加入しておらず、かつその事業再開により共済目的の種類とされることとなった農作物又は蚕繭の、耕作又は養蚕の業務を営む右の一号又は二号加入資格者は、事業再開のときに、当然加入組合員となる(一六条三項)。

農災法一五条所定の、組合の組合員たる資格を有する者で、当然加入組合員以外の者は、その旨の申込みをして、組合に加入することができ(任意加入)、組合は組合員たる資格を有する者から加入の申込みを受けたときは、正当な理由がなければ、その加入を拒むことはできない(オープンメンバーシップの原則・一六条五項)。

組合からの脱退については、当然加入組合員が任意脱退できないのは当然であり、任意加入組合員でも共済関係を存続させたまま脱退することは認められず、任意脱退できるのはその組合との間に共済関係の存しない組合員に限られ、また組合からの当然脱退事由は法定されている(一九条)。

農作物共済及び蚕繭共済については、当然加入の場合には加入と同時に組合員と組合との間に(抽象的)共済関係が成立し(一〇四条)、任意加入の場合には、任意加入資格者が組合に対して共済関係の成立の申出をすることにより、申出の効果として(抽象的)共済関係が成立する(一〇四条の二)。

家畜共済の場合は、農作物共済及び蚕繭共済の場合と異なり、当該組合の組合員がその飼育する家畜共済の共済目的たる家畜を当該組合の家畜共済に付することを申込み、組合がその申込みを承諾することにより共済関係が成立するが(一一一条)、組合員は右の申込みを義務づけられる場合があり(一一一条の二)、また組合は組合員から右の申込みがあった場合には、省令で定める正当な理由がある場合を除いては、その承諾を拒むことはできない(一一一条の四)。

3  組合の権限等

組合は、国庫が負担する事務費以外の事務費を組合員に賦課することができ(八七条)、右の賦課金及び共済掛金等を組合員が滞納した場合には、市町村に対し地方税の滞納処分の例によりその徴収を請求することができ、市町村が一定の期間内にその処分に着手せず、又はこれを終了しないときは、都道府県知事の認可を受けて地方税の滞納処分の例により自らこれを処分することができる(八六条、八七条、八七条の二)。

組合員は共済目的について損害発生防止義務を負い(九四条一項)、組合は右の損害発生防止のため組合員に対し指導及び必要な処置をすべきことを指示することができるのみならず(九四条二項、九五条)、損害発生防止のため必要な施設をすることができ(九六条)、また損害発生の防止又は損害認定のため必要があるときは、何時でも、共済目的のある土地又は工作物に立ち入り、必要な事項を調査することができる(九七条)。

また、後記のとおり、組合―農業共済組合連合会―農林大臣という重層的段階的手続構造という制約のなかで、組合員ごとの、組合員に支払うべき共済金にかかる損害の額を認定する(九八条の二、農作物共済損害認定準則)。

4  共済掛金、共済金額及び共済金について

組合は、組合員から一定の共済掛金を徴収し(八六条一項)、組合員に対し共済事故の発生によって生じた損害につき一定の共済金を交付する(八四条一項)。

農作物共済の共済掛金、共済金額及び共済金は次のとおりである。

共済掛金は、組合ごとに、共済金額にその定款で定めた共済掛金率を乗じて計算することになっているが、この共済掛金率は、省令及び主務大臣が定める数値(被害率、農作物通常標準被害率、農作物通常共済掛金基準率、農作物異常共済掛金基準率)により決定される農作物基準共済掛金率を下らない範囲内において組合が定款で定めることとされている(一〇七条)。

しかし、共済掛金は、その全部を組合員が支払うのではなく、国がその一部を負担している(一二条)。

共済金額は、農災法及び省令で定まる場合と組合が定款で定める場合とがあるが、前者の場合は組合員ごとに単位当り共済金額(収穫物の単位当り価格に相当する額を限度として、主務大臣が定める二以上の金額につき、組合が定款で定める額。以下、同じ。)に基準収穫量(主務大臣が定める準則に従い、組合が定める。以下、同じ。)の合計の一〇〇分の九〇に相当する額を乗じて得た金額であり(いわゆる全相殺方式の場合)、後者の場合は、耕地ごとに単位当り共済金額に基準収穫量の一〇〇分の七〇に相当する額を乗じて得た金額(いわゆる一筆方式の場合)、又は、組合員ごとに、単位当り共済金額に基準収穫量の合計の一〇〇分の八〇に相当する額を乗じて得た金額である(いわゆる半相殺方式の場合、一〇六条、一〇九条六項)。

組合員に支払われる共済金は、右の三方式によって異なり、全相殺方式の場合は、共済目的の種類ごと及び組合員らごとに、共済事故にかかる共済目的の減収量(当該組合員らの当該共済目的の種類にかかる基準収穫量の合計から農災法九八条の二の準則に従い認定されたその年における当該組合員らの当該共済目的の種類にかかる農作物の収穫量を控除して得た数量をいい、同法一一〇条一号の本田移植期又は発芽期において共済事故により移植できなかったこと又は発芽しなかったことその他省令で定める事由のある耕地については、その控除して得た数量を、実損害額を勘案して主務大臣が定める方法により調整して得た数量をいう。法一〇九条三項)が当該組合員の当該共済目的の種類にかかる基準収穫量の合計の一〇〇分の一〇を越えた場合に、単位当り共済金額に、その越えた部分の数量に相当する数を乗じて得た金額に相当する金額であり、一筆方式の場合は共済目的の種類ごと及び共済目的の種類たる農作物の耕作を行う耕地ごとに、共済事故による共済目的の減収量(その耕地の基準収穫量から農災法九八条の二の準則に従い認定されたその年におけるその耕地の収穫量を控除して得た数量をいい、同法一一〇条一号の本田移植期又は発芽期において共済事故により移植できなかったこと又は発芽しなかったことその他省令で定める事由のある耕地については、その控除して得た数量を、実損害額を勘案して主務大臣が定める方法により調整して得た数量をいう。法一〇九条一項)がその基準収穫量の一〇〇分の三〇を越えた場合に、単位当り共済金額に、その越えた部分の数量に相当する数を乗じて得た金額に相当する金額であり、半相殺方式の場合は、共済目的の種類ごと及び組合員らごとに、当該共済目的の種類たる農作物の耕作を行う耕地ごとの共済事故にかかる共済目的の減収量(一筆方式の場合と同じ。)の合計が当該耕地ごとの当該共済目的の種類にかかる基準収穫量の合計の一〇〇分の二〇を越えた場合(以下、「二割超過被害」と略称する。)、単位当り共済金額に、その越えた部分の数量に相当する数を乗じて得た金額に相当する金額である(一〇九条一項ないし三項、六項)。

5  組合に対する国の監督等

(一)  報告の徴取と検査

行政庁は、組合が法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款等を守っているかどうかを知るため必要があるときは、組合からその業務若しくは会計に関し必要な報告を徴し、又はその業務若しくは会計の状況を検査することができる(一四二条の二)。

なお、行政庁は組合の業務又は会計の状況につき、毎年一回を常例として検査しなければならない(一四二条の三)。

(二)  法令等の違反に対する措置

行政庁は、組合の業務又は会計が、法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款等に違反すると認めるときは、当該組合に対して必要な措置を採るべき旨を命ずることができ、また共済事業を適正且つ効率的に行わせるため特に必要があるときは、業務の執行方法の変更その他監督上必要な命令をすることができる(一四二条の五)。

(三)  役員の改選、解任、解散命令

行政庁は組合が右の(二)の命令に違反したときは、組合に対して、期間を指定して、その役員の全部又は一部の改選を命ずることができ、この命令に違反したときは右の命令に係る役員を解任することができるのみならず、右の(二)の命令に違反した場合に、組合の解散を命ずることもできる(一四二条の六)。

(四)  決議、選挙、当選の取消

行政庁は、組合員が総組合員の一〇分の一以上の同意を得て、組合の総会若しくは総代会の招集手続若しくは議決の方法又は役員若しくは総代の選挙が法令、法令に基いてする行政庁の処分又は定款に違反することを理由として、その決議又は選挙若しくは当選の取消しを請求した場合に、その違反の事実があると認めるときは、当該決議又は選挙若しくは当選を取消すことができる(一四二条の七)。

(五)  報告又は検査についての罰則

右(一)の報告をせず若しくは虚偽の報告をし、又は検査を拒み、妨げ若しくは忌避した者に対しては三万円以下の罰金刑が、組合の代表者又は代理人、使用人その他の従業員が組合の業務に関して右の行為をしたときは、行為者以外に組合に対しても同様の刑が科されることとなっている(一四六条)。

6  農業共済組合連合会及び国による保険事業

前記のように、農業共済制度は、農業者が不慮の事故によって受けることのある損失を同様の危険を負う農業者が一定の共済掛金を出し合って、右の損失を補填し、農業経営の安定を図り、農業生産力の維持、発展に資することを目的とするものであるが、共済事業はその種類によっては、その災害の頻度、内容及び範囲からして市町村の単位や都道府県の単位だけでは完全な危険分散ができないおそれがあるため市町村段階における農業共済組合及び市町村が負う共済責任のうち一定部分を都道府県段階の農業共済組合連合会の保険に付し、更に農業共済組合連合会の負う保険責任の大部分を国の再保険に付すという重層的構造を採っている。

右の保険及び再保険関係の成立等は、共済事業の種類によって、その態様を異にしている(八五条一〇項、一四項、一二一条、一二二条、一三三条、一三四条)。

7  国の財政措置等

農業災害補償制度が円滑にその効果を挙げ得るように、前記のような規制措置のほかに、前に触れたように共済掛金及び事務費の一部の国庫負担(一二条、一三条の二、一三条の三、一四条)、水稲病虫害防止費補助金及び家畜共済損害防止費の交付(一四条の二、一五〇条の三)その他所得税法、地方税法、法人税法などにより税制上の種々の措置等が講じられている。

8  以上のとおり被告は農災法に基づき、「農業者が不慮の事故によって受けることのある損失を補填して農業経営の安定を図り、農業生産力の発展に資する」という公益的、国家的目的を実現するために設立された農業共済組合で、国庫の経済的負担等のもとに、都道府県及び国との間の保険及び再保険によりその危険を分散しつつ共済事業を行う目的で、組合員の強制加入を原則として、国の認可により設立された法人であり、組合員に対し種々の義務を課するとともに、共済事業遂行のために公権的権能を付与され、またその遂行する共済事業の適正を期するために刑罰及び国の広範な監督に服することとされているのである。

右によれば、被告は、法により公権力を賦与されている行政機関であり、行訴法一一条一項所定の「行政庁」に当ると解するのが相当である。

四  被告が昭和五一年産水稲について被告組合所属の組合員である原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、同大川鎮、同原田敏雄に対しその主張のとおりの水稲共済金を支払った事実は当事者間に争いがない。同原告らは右の支払いに先立ち被告組合が昭和五一年一二月二〇日になした原告らに対する共済金支払額の決定が違法であるとしてその取り消しを求めるものであるところ、右決定の処分性について争いがあるので、以下検討する。

1  被告の水稲共済金の支払い手続について

農災法(同法九八条の二に基づく準則も含めて)、定款、農作物共済損害評価要綱、「農業災害補償法に基づく農作物共済」と題する冊子によれば、被告のなす水稲共済金支払い手続の概要は次のとおりである。

(一)  前記のように、農業共済制度は、単に組合員と農業共済組合との間の共済関係にのみ尽きるものではなく、農業共済組合と同連合会との間の保険関係及び同連合会と国との間の再保険関係といった重層的構造を有するところから、水稲共済金の支払い手続は農業共済組合限りで完結することなく、各組合員、農業共済組合、同連合会そして国といういわば段階的手続の中で行われることとなっている。

そして、被告は昭和五一年産水稲について半相殺農家単位方式を採用していた(この事実は当事者間に争いがない)ことから、被告の組合員に対する水稲共済金支払いの有無及びその支払うべき共済金額については、被告が具体的に共済関係を引き受けた耕地(具体的共済関係耕地)ごとの推定収穫量と当該耕地ごとについて被告が設定した基準収穫量との多寡及びその程度、割合、農災法一〇六条五項に定める単位当り共済金額等の要素により、決せられることとなる。

(二)  右の単位当り共済金額については、農災法一〇六条五項に基づき定款八七条二項において、主務大臣が定めた二以上の金額のうちの最高額の金額とする旨定められているから、主務大臣が右の金額を定めることにより(農林省の告示という形式で外部的表示が行われている。)、その額は自動的に確定することとなる。

(三)  農作物共済の場合、前記三方式のいずれの方式を採用するかによりその算出方法は異なるが、いずれの場合においても共済事故により被害を受けた耕地についての推定収穫量と当該耕地の基準収穫量を主たる要素として共済金支払いの対象となるべき減収量(共済減収量)を算出するものであるから、耕地についての基準収穫量は、後記の収穫量の推定とともに、共済金支払いについての基本的要素となるものである。

右の基準収穫量は、農林大臣が定める農作物共済基準収穫量設定準則(昭和三九年四月一八日農林省告示第四〇五号)に従って組合が定めることとなっている(一〇九条六項)。

右準則による耕地ごとの基準収穫量の決定は概ね次のとおりである。

まず、組合は、各耕地ごとに、その単位当り基準収穫量を、前年度の基準収穫量や組合員の申告する当該耕地の収穫量又は当該耕地の地力その他の土地条件等を参酌して定めるが、この場合各耕地の単位当り基準収穫量にその耕地面積を重みとするその組合全体の算術平均値(加重算術平均値)が、都道府県知事から通知されたその年の単位当り収穫量に、別に農林大臣が定めた異なる二つの割合(水稲については、一〇〇分の九五ないし一〇〇分の一〇五)を乗じて得た数量の範囲内となるようにしなければならない。都道府県知事は、右の組合ごとの単位当り収穫量を、作物統計調査規則(昭和四六年農林省令第四〇号)の規定による調査に基づく資料による当該都道府県の市町村ごとの平均単位当り収穫量を基礎として定めるが、この場合も、その都道府県内の各組合等ごとの単位当り収穫量の当該組合等の区域内の耕地の耕作面積を重みとする当該都道府県についての算術平均値(加重算術平均値)は、原則として農林大臣が定める当該都道府県の単位当り収穫量に一致しなければならないこととされている。

右のように、農林大臣が定めた都道府県ごとの単位当り収穫量及び都道府県知事の定めた組合ごとの単位当り収穫量という段階的枠づけの中で、組合は、組合員の耕地ごとの単位当り基準収穫量を定めることとなり、右の基準収穫量に当該耕地の面積を乗じて当該耕地の基準収穫量が算出されることとなる。

(四)  耕地ごとの収穫量の推定は、農災法九八条の二に基づく農作物共済損害認定準則により行われるが、同準則に基づく損害評価の実際は、農林省農林経済局が農作物共済の損害評価の業務を適正かつ円滑に行うことを目的として作成した「農作物共済損害評価要綱」(昭和四七年三月二三日四七農経B第四六六号)に準拠して行われており、その具体的内容は、共済方式により異なるが、その詳細は別紙「農作物共済損害評価要綱抜粋」記載のとおりである。

しかして農災法、農作物共済損害認定準則及び農作物共済損害評価要綱に基づく、半相殺農家単位方式の場合の、損害評価の概略は、次のとおりである(用語の定義等については、右抜粋参照但し本事例に即し「組合等」「組合員等」とあるを単に「組合」「組合員」とする。)。

(1) 損害通知

二割超過被害(昭和五一年当時、農作物共済における農家単位方式としては半相殺方式のみであり、全相殺方式は認められていなかった。)があると認めた場合組合員は、速かに、災害の種類、発生の年月日等その他災害の状況を組合に対し通知する(九八条二項、定款七一条二項)。

(2) 組合による悉皆調査

組合は、組合員から右の損害通知を受けた場合、評価地区別に、損害評価員(三名が標準)により、右の通知に係る耕地のすべてにつき、収穫前に、当該耕地につき生じた共済事故による損害を検見又は実測の方法により調査する(全筆調査)。

右の全筆調査により、一筆の耕地ごとに、検見又は実測により単当り収量(全筆調査単収)を見積るが、検見の場合は評価員の合議又は投票により決定し、実測の場合は実測値とする。この場合において、共済事故以外の原因により生じたと認められる減収量がある場合には必らず分割評価を行う。

悉皆調査は、右の全筆調査を原則とするが、損害通知に係る耕地数が著しく多いこと等の理由により、全筆調査を適期に行うことが困難であると見込まれる場合であって、当該通知をした各組合員に対し、被害耕地ごとの損害の額を申告させたうえ、当該耕地の一部について検見又は実測の方法により調査を行い、右調査結果により右の申告に係る損害の額を修正することにより、損害の額を適正に把握できると認められる場合に限り、あらかじめ農業共済組合連合会の同意を得て、右の申告の徴求及び調査(農単申告抜取調査)をもって、全筆調査に代えることができる。

右の農単申告抜取調査の場合においては、評価地区内の二割超過被害組合員ごとに五筆以上の被害筆を任意に抽出して行う。但し、右の調査を二回以上に分けて行う場合には、各回ごとに三筆以上を任意に抽出して行う。右の調査が終了したときは、組合員ごとに農単申告抜取筆について農単申告抜取調査における見込み単収の平均と申告単収の平均の差を算定し、その平均の差に基づき、損害通知のあった耕地の申告単収を組合員ごとに修正する。これは、農単申告抜取調査を二回以上に分けて行った場合には各回ごとに行う。

(3) 組合による抜取調査

組合は、前項の悉皆調査終了後、損害評価会の委員及び組合の職員ら(三名以上)によって、遅滞なく、損害評価地区ごとに、悉皆調査を行った耕地の一部につき、悉皆調査の結果を検定するための調査(抜取調査)を検見若しくは実測又は乾燥調整施設における計量結果を確認する方法により行う。

右の抜取調査は、評価地区ごとに、悉皆調査をした耕地のうち一〇筆以上を任意に抽出して行う。但し、抜取調査を二回以上に分けて行う場合又は対象耕地の階層分け(悉皆調査単収の高低又は災害の種類等による階層分け)をして行う場合は、各回ごと又は各階層ごとに五筆以上を任意に抽出して行う。

(4) 組合による損害高の当初認定

組合は、右の悉皆調査及び抜取調査を終了したときは、損害評価会の意見を聴いたうえ、共済金の支払いの対象となるべき組合員及び当該組合員に係る共済金の支払いの対象となるべき減収量(共済減収量)を認定し、当該認定に係る共済金支払い対象組合員及びその組合員ごとの共済減収量(組合当初評価高)を評価地区別の平均単収差及び単当り修正量、支払共済金見込額等の事項とあわせて農業共済組合連合会に報告する。

組合の行う、悉皆調査及び抜取調査に基づく損害の認定方法は、右の調査結果により、(イ)評価地区別の悉皆調査における二割超過被害組合員の数、被害面積及び共済減収量の概数(ロ)評価地区別の抜取調査筆についての悉皆調査の単収の平均(ハ)評価地区別の抜取調査筆の抜取調査における見込み単収(抜取調査単収)及びその平均(ニ)右の悉皆調査単収の平均と抜取調査単収の平均の差(平均単収差)(ホ)評価地区別損害高(評価地区別の二割超過被害面積及び共済減収量をいう。)を整理、算出し、これらの資料を損害評価会に提出して、損害高認定についての損害評価会の意見を求め、その内容を検討参酌したうえ、右の資料等により、評価地区別の単当り修正量を決定して、共済金支払い対象組合員及びその組合員ごとの共済減収量を認定するのである。

右の(ホ)の評価地区別損害高は、右の(イ)ないし(ニ)の資料に基づいて、評価地区ごとの単当り修正量案を定め、これによってそれぞれの評価地区に属する耕地の悉皆調査単収を修正する方法により算出するが、右の単当り修正量案は評価地区ごとの平均単収差を基準として、悉皆調査における二割超過被害組合員の数とその被害面積及び共済減収量等を勘案して定め、評価地区ごとの単当り修正量案の平均(悉皆調査における二割超過被害組合員の被害面積を重みとする加重平均)は、その平均単収差の平均(同上の加重平均)を下回ってはならないとされている。

(5) 農業共済組合連合会による損害の調査

連合会は、収穫期において、原則として組合の現地評価終了後、組合ごとに連合会抜取調査を行なうとともに、必要がある場合には評価会委員、評価員及び連合会の職員により見回り調査を行う。

連合会抜取調査は、原則として実測により調査をし、災害状況により必要がある場合には適宜検見のみによる調査を補足的に行なうが、被害筆数が少ない等の一定の事由がある場合には実測による調査を省略して検見による調査のみとして差支えない。

見回り調査は、評価会委員が中心となって行なうものは評価地区ごとに、高、中、低の被害程度の区分別に一組合につき達観的な調査を行ない、被害程度が中である組合については二ないし三評価地区を任意に抽出して、この抽出した評価地区につき各一〇筆程度の被害耕地を検見により調査し、また評価員が中心となって行なうものは、前記の連合会抜取調査に併行して行ない、引受け面積に対する被害面積の割合を見積るとともに、被害程度又は種類別に若干筆を抽出し検見を行ない、基準収穫量に対する被害割合を見積る等の方法により調査し、二割超過被害組合員数を把握して被害面積及び共済減収量を推算する。

(6) 連合会による損害高の当初認定

連合会は、組合当初評価高の報告における評価地区別の単当り修正量(階層別に単当り修正量が異なる場合にはその階層ごとの単当り修正量)を連合会実測調査野帳に記入された組合の悉皆調査単収に加えて、連合会抜取筆について、組合評価単収を算定し、この組合評価単収、組合当初評価高並びに連合会抜取調査及び見回り調査の結果等から、実測平均単収差、検見修正平均単収差及び見回り平均単収差を算定し、これらの資料に基づいて、都道府県の指導を受け、組合別単当り修正量案を作成して、組合当初評価高を修正して、組合別の二割超過被害組合員数とその被害面積及びその共済減収量を算定する。

右の単当り修正量案は、実測平均単収差(実測による調査を行なわない組合については検見平均単収差。以下同じ。)を基礎として、これによる損害高の算定結果を参考とし、検見による調査又は見回り調査を行なったときは、これらのほか、検見修正平均単収差及びこれに基づく損害高の算定結果又は見回り平均単収差及びこれに基づく損害高の算定結果をも参考として作成するが、この場合、都道府県における農家単位方式組合ら別の単当り修正量案の平均(農家単位方式の組合、当初評価高における二割超過被害面積を重みとする加重平均)は、その実測平均単収差の平均(同上の加重平均)を下回ってはならないものとされる。

なお、組合別の損害高の算定にあたっては、右の評価会委員らが中心となって行う見回り調査の結果から算出される共済減収率をも使用できるものとし、この場合は、都道府県の指導を受け、組合別単当り修正量案の作成に代えて共済減収率(共済減収量の引受収量に対する割合)を算出し、これを適用して、組合の二割超過被害組合員数と被害面積及びその共済減収量を算定することも認められており、この共済減収率案は実測による調査の結果から算出される率を基礎とし、見回り調査の結果から算出される率を参考とし、検見による調査を行ったときは、これらのほか、検見による調査結果から算出される率をも参考として作成するものとするが、この場合には、都道府県における農家単位方式の組合別の当該共済減収率案から算出される共済減収量の合計は、実測による調査の結果から算出されるその共済減収量の合計を越えてはならないものとされている。

連合会は、以上の損害高の算定結果を、その資料とともに、連合会の損害評価会に提出して損害認定についての意見を求めたうえ、その内容等を検討参酌して、組合ごとの共済減収量を決定する。

なお、右の損害高の算定結果を修正して認定する場合は、農家単位方式組合のその共済減収量の都道府県合計は、右の算定した組合のその共済減収量の合計を上回ってはならないものとされている。

(7) 連合会の農林大臣に対する申請等

連合会は、右のとおり認定した組合ごとの共済減収量に基づき組合ごとに支払い共済金見込額を算定したうえ、これにより、組合を通常災害見込組合と異常災害見込組合とに区分して、組合別に農林大臣に対して、通常災害見込組合に関する共済減収量の承認及び異常災害見込組合に関する共済減収量の認定を、二割超過被害組合員数とその被害面積及び共済減収量並びに組合当初評価高等(連合会当初評価高等)を報告するとともに、申請する。

但し、すべての組合が通常災害見込組合であるときは、農林大臣に対し、組合ごとの共済減収量を報告するものとする。

(8) 連合会による組合ごとの共済減収量の最終的認定

連合会は、通常災害見込組合については、連合会当初評価高のとおり農林大臣の承認を得た場合には組合ごとにその共済減収量を認定し、その旨を評価会に報告するとともに組合に通知する。農林大臣の承認を得るために連合会当初評価高を修正する必要がある場合には、原則として通常災害見込組合ごとの連合会当初評価高を一律に修正し、あらためて農林大臣の承認を求め、右の修正により農林大臣の承認を得た場合には組合ごとにその共済減収量を認定し、その旨評価会に報告するとともに組合に通知する。

但し、すべての組合が通常災害見込組合である場合には、連合会当初評価高どおり、組合ごとにその共済減収量を認定し、その旨を評価会に報告するとともに組合に通知する。

農林大臣が異常災害見込組合と認めた組合については、連合会は農林大臣の認定した数量のとおり組合ごとに共済減収量を認定し、これを評価会に報告するとともに組合に通知する。

なお連合会が異常災害見込組合として共済減収量の認定を求めた組合であって、農林大臣が異常災害見込組合と認めなかったものについての取扱いは、右の修正の場合に準ずるものとする。

(9) 組合による損害高の最終的認定

(イ) 組合は、連合会が認定した共済減収量と組合当初評価高とを対比して、修正をする必要がないときは、そのまま共済金支払い対象組合員及びその組合員ごとの共済減収量を認定する。

(ロ) 組合は、連合会が認定した共済減収量と組合当初評価高におけるそれを対比して修正をする必要があるときは、連合会が認定した共済減収量を越えない範囲内で次により修正し、評価会に諮って共済金支払い対象組合員及びその組合員ごとの共済減収量を認定する。

(ⅰ) 共済金支払対象組合員の認定

(a) 共済金支払い対象組合員は、組合当初評価高における共済金支払対象組合員とする。

(b) 連合会の認定した共済減収量と組合当初評価高における共済減収量との関係等により、(a)により共済金支払い対象組合員を認定することが適当でないと認められる場合は、連合会に対して必要な資料を求めて、評価会において検討し、その意見に基づいて組合当初評価高におけるそれと異なる認定をしてもさしつかえないものとする。この場合には、その共済金支払い対象組合員の数の合計は、組合当初評価高における共済金支払い対象の組合員の数と連合会から示された組合員数との範囲内におさまるように次により共済金支払い対象組合員数を認定する。

① まず、連合会から示された単当り修正量によって、組合員ごとの当初評価高における共済減収量を修正する。

② 共済金支払い対象組合員を組合当初評価高におけるその数より小さくなるように認定する場合には、①により修正した単当り共済減収量の小さい組合員から順次対象外の組合員として除外し、共済金支払い対象組合員を組合当初評価高におけるそれより大きくなるよう認定する場合には、①により修正した単当り共済減収量の大きい組合員から順次対象とするものとする。但し、皆無等耕地共済減収量を有する組合員は、必ず対象とするものとする。

③ ①により組合当初評価高における共済減収量を修正する場合は、収穫皆無、移植不能又は発芽不能及び転作等耕地については修正を行なわないものとする。

(ⅱ) 組合員ごとの共済減収量の認定

組合員ごとの共済減収量は、次により認定する。但し、修正して得た共済減収量が、組合員から損害通知のあった耕地の基準収穫量(収穫皆無、移植不能又は発芽不能の耕地及び転作等耕地については、その減収量に相当する量)の合計から、組合員ごとのその耕作に係る耕地の基準収穫量の合計の一〇〇分の二〇に相当する数量を差し引いた数量(修正限度共済減収量)より大きくなる組合員については、修正限度共済減収量をもって共済減収量とする。また、皆無等耕地共済減収量は、修正を行なわないものとする。

(a) 共済金支払い対象組合員数が組合当初評価高におけるそれと等しいか又はそれより小さい場合

連合会が認定した共済減収量を共済金支払対象組合員についての組合当初評価高における共済減収量の合計で除して得た比率により、一律に共済金支払い対象組合員ごとの組合当初評価高における共済減収量を修正し、これを共済減収量とする。

(b) 共済金支払対象組合員数が組合当初評価高におけるそれより大きい場合

連合会が認定した共済減収量を共済金支払い対象組合員の(ⅰ)の(b)の①により得られた共済減収量の合計で除して得た比率により、一律に共済金支払い対象組合員ごとの(ⅰ)の(b)の①により得られた共済減収量を修正し、これを共済減収量とする。

(c) 組合員ごとの共済減収量を一律の修正率によらないで修正する場合

組合員ごとの共済減収量の認定にあたって特別の理由により一律に修正することが適当でないと認められるときは、評価会に諮ったうえ、組合当初評価高における共済減収量の大きさ等を基礎として、修正率に差をつけることができるものとする。但し、この場合、単当り共済減収量の大きい組合員に適用される修正率は、単当り共済減収量の小さい組合員に適用される修正率を下回ってはならない。

(ハ) 分割減収量のある組合員についての共済減収量は、(イ)及び(ロ)により得られた共済減収量に相当するものから分割減収量を差し引き認定する。

(五)  組合は、組合員ごとの共済減収量を最終的に決定したときは、これを単位当り共済金額に乗じて支払い共済金の額を算出し、支払い共済金の額を決定する。但し、共済金支払いの免責事由(九九条、定款九二条)がある場合には、その免責の金額を決定し、右の支払い共済額からこれを控除する。

また、共済金の支払いに不足を生じるときは、組合は共済金額を削減することができる(九二条、農災法施行規則一九条、定款九一条)。

組合は以上の手続過程を経て最終的な支払い共済金額を決定し、その後、遅滞なく、組合員ごとに、共済金の支払い額、共済減収量、共済金の支払い期日及び支払い方法を公告したうえ、右公告に係る方法に拠って共済金を支払うこととなる(定款九三条所定の「共済金の支払い額の決定」は、右にいう最終的な支払い共済金額の決定の意であると解せられる。)。

2  そこで原告芳賀亀雄らが本訴においてその取り消しの対象としている共済金支払額の決定なるものを右に認定した共済金支払手続の実際に即して考究すれば、右支払手続のうち被告組合のなす支払い共済金額の決定若しくは最終的な支払い共済金額の決定をいうものと解せられる。

そして被告組合定款には、「組合は共済金の支払額の決定後、組合員ごとに共済金の支払額等を公告する」(定款九三条)旨の定めがあり、右にいう「共済金の支払額の決定」とは最終的な支払い共済金額の決定を指すものと解せられるので、いかにも被告組合が右最終的な支払い共済金額の決定において共済金の支払いについて実質的な意思決定をなすかの如くであるが、しかしここにいう最終的な支払い共済金額の決定の実態は、組合員ごとに決定された共済減収量を単位当り共済金額に乗ずる算出方法によってなされる支払い共済金額決定の段階までに確定された支払い共済金額について、前記の共済金支払いの免責ないしは削減の有無及びその控除後の数額の単純な確認行為に過ぎないのであって、右の決定行為がなければ組合員は被告に対して具体的な共済金支払い請求権を取得しないものと解する法的根拠は見出せない。

してみると、右の最終的な支払い共済金額の決定は、右原告ら組合員の取得する共済金支払い請求権その他の法律上の地位に対し何らの影響を及ぼすものではないから、行訴法三条二項所定の「処分」にはあたらないと解するのが相当である。

次に農作物共済損害評価要綱によれば、前記のとおり、被告農業共済組合は、組合員ごとの共済減収量を決定したときは、これを単位当り共済金額に乗じて支払い共済金額を算出し支払い共済金額を決定する旨の定めがあるが、組合員ごとの共済減収量と単位当り共済金額が決定されれば、それらを乗じて得た額に相当する金額が当該組合員に対して支払われるべき共済金額として算術的かつ自動的に確定するのであり、農災法以下の農業災害補償制度上、これまた右の決定行為がなければ組合員は被告組合に対し具体的な共済金支払い請求権を取得しないと解する理由は全くなく、むしろ、右の共済減収量と単位当り共済金額とが決定されれば、組合員は具体的な共済金支払い請求権を取得する(一〇九条二項)のであって、前記共済金支払の免責、削減は事後的に右の請求権を削減ないしは減額せしめるに過ぎないものと解すべきである。

してみると、右の決定行為もまた共済減収量と単位当り共済金額により算術的に確定される支払い共済金額の確認的な意味をもつに過ぎず、原告ら組合員の取得する具体的な共済金支払い請求権その他の原告らの法律上の地位に対し何ら影響を及ぼすものではないのであって、前同様行訴法三条二項所定の「処分」には該当しないものと解するのが相当である。

そこでもし原告芳賀亀雄らが本訴請求においてその取り消しを求める共済金支払額の決定なるものが、前記支払手続のうち、被告組合のなす支払い共済金額の決定若しくは最終的な支払い共済金額の決定をいうにとどまるものとするならば、右に説示したとおり被告の同原告らに対する前記共済金支払い決定行為は、行訴法三条二項所定の「処分」に該当しないと解せられるのであるから、同原告らの本訴請求はいずれも不適法として却下を免れない。

しかしながら前示のとおり、共済金支払い対象組合員に対する支払い共済金額は被告の認定した組合員ごとの共済減収量と単位当り共済金額により算術的に決定されるものであるところ、右の単位当り共済金額は主務大臣(農林大臣)の定めた二以上の金額の中から組合が定款で定めることとなっており(法一〇六条五項)、そして被告定款八七条二項によれば単位当り共済金額は右の主務大臣が定めた金額のうちの最高額の金額と同額とする旨被告の具体的な行為を要せずして決定するように定められていることからすれば、同原告らが不服として攻撃するものは、組合が同原告らについて行った昭和五一年産水稲についての共済減収量の認定にほかならず、従って同原告らがその取り消しを求める被告の行為は、右共済減収量の認定であると解する余地がある。

そこですすんで被告のなす共済減収量の認定がはたして行訴法三条二項の「処分」に該当するかどうかについて検討する。

(一)  前示のとおり、損害認定のために行なわれる現地評価には、組合段階の悉皆調査(前記のとおり、原則として全筆調査)及び一部耕地についての抜取調査並びに連合会段階の抜取調査があるが、これら調査は、水稲共済においては水稲の収穫(収穫の適期に刈り取り、ほ場より搬出すること。)後においては、組合員ごとの具体的共済関係耕地からの収穫量を適正に把握できない(具体的共済関係耕地以外の耕地からの収穫との区別ができなくなる。)し、共済事故に係る減収量と共済事故以外の原因に係る減収量との区別もできなくなり、更には組合員ごとにその収穫の時期及び方法を異にするので、実収穫量の数値をもってしては組合員に係る損害を適正かつ公平に把握することは不可能であることの理由から収穫前に行なわれることとされる。そして前掲川口健幸の証言によれば、右の調査のうち、検見による調査は文字どおり通常の場合は立毛状態(刈り取り後、ほ場に存置している状態の場合もあり得るが)の水稲の状態を目で観察することにより当該耕地の水稲の単位当り収量を推定するのであり、右の推定はこれに熟練した者によってもその数量は一義的に確定することは不可能であり、それゆえにこそ、複数の担当者によりこれを行い、単当り収量はこれらの者による合議又は投票により決定されることとされているのであり、また実測の場合は、一耕地から約六〇株くらいの立毛を採取してその採取にかかる水稲を乾燥、脱穀等してその収量を実測し、その結果により当該耕地に係る水稲の単位当り収量を推定するものであり、いずれにしても共済減収量認定の基礎となる現地評価の結果たる数値には評価担当者の主観的判断が混入してくることは避けられない。このように損害の調査は極めて専門的かつ技術的なものであり、またある程度の裁量を肯認せざるを得ないし、また損害評価の方法及びそれらに基づく数値による損害高算出過程においても、組合及び連合会に一定の裁量が認められていることからすれば、前記の重層的、段階的手続を経由して、組合の行なう組合員ごとの共済減収量の認定も極めて専門的かつ技術的なものであり、またある程度の裁量を肯認せざるを得ない。

(二)  農災法、農作物共済損害認定準則及びこれを実質的に補完するものとしての農作物共済損害評価要綱等の定める損害評価手続規定は、農災法一条所定の国家的、公共的目的の下に、共済金支払い請求権の有無についての根幹となる組合員ごとの共済減収量の認定について、その基礎となる損害高の評価の必要性が短期間において大量に生じしかもその評価は、各組合及び組合員間の公平な扱いという要請からできるだけ同一時期に行なわれる必要があることから、その認定手続を明確ならしめるとともに共済減収量認定が適正かつ平等に行われるよう共済金支払いについての法律関係を全体として統一を保って処理するという目的に出でたものであり、従って、右の法律関係は右の規定等の規制に服し、それらにより法的統制の実行性が保障されているものと解される。

(三)  前記のとおり、損害評価に基づく共済減収量の認定については、組合は連合会の認定した当該組合全体に係る共済減収量によって拘束を受け、連合会はその認定にかかる組合ごとの共済減収量についてはその数値等によって異なるものの農林大臣の承認ないしは認定を得ることが必要とされているのであって、連合会の認定に不服がある組合は都道府県農業共済保険審査会に審査の請求を行なうことができ、また農林大臣の行った認定に不服がある組合は農林漁業審査会に対し審査の請求ができることとなっており(一三一条、一四一条、一四三条の二、一四四条、都道府県農業共済保険審査会規程、農林漁業保険審査会令)、(また農災法一三一条、一四一条は保険ないし再保険に関する事項について、連合会の組合員である組合による連合会に対する、また連合会の国に対する訴訟を予定している。

ところで前記のように保険に関する事項についての根幹的な問題は共済減収量の認定であり、また再保険についてのそれは組合が通常災害見込み組合であるのか異常災害見込み組合であるのかの認定及び共済減収量の認定等であることからすれば、右の保険に関する事項ないしは再保険に関する事項中には共済減収量の認定も含まれると解するのが相当である。

してみると保険及び再保険関係においては共済減収量の認定の当否について裁判所の司法的判断が予想されているものと解されるのであるが、この点において右の保険及び再保険関係と共済関係とを区別して取り扱うべき合理的理由を見い出すことはできないのである。

(四)  以上を総合考慮すれば、原告ら組合員の組合に対する具体的な共済金支払い請求権は組合の当該組合員に対する共済減収量の認定が行われてはじめて発生するものであり、かつその共済減収量の認定は、それが仮に濫用にわたり違法なものであるとしても、正当な権限を有する機関によって取り消され、または無効が確認されるまでは法律上又は事実上有効なものとして取り扱われるべきものであり、右に不服を有する者は裁判所に対しその取り消しを求め得るものと解するのが相当である。

それゆえ組合の行う共済減収量の認定は行訴法三条二項所定の「処分」に該当し原告ら組合員は自己に対する共済減収量の認定を不服としてその取り消しを訴求し、その救済を求め得るものといわなければならない。

3  次に原告星野三男ほか二名の原告らは、被告が同原告らに対し昭和五一年産水稲共済金を支払わない旨の決定をなしたとして、本訴においてその取り消しを求めるのであるが、農作物共済を定める農災法関係諸法規及び農作物共済損害認定準則(農作物共済損害評価要綱を含めて)には、被告が共済金支払い手続において右のような不払い決定行為を行なう旨の規定はなく、かえって農災法一〇九条二項、九八条の二によれば、被告が同法九八条の二に基づく農作物共済損害認定準則に従って、組合員ごとの共済減収量を認定すれば、その数量を単位当り共済金額に乗じることにより、組合員に対し支払うべき共済金額は算定され、これにより当然組合員は被告に対し右金額に相当する共済金支払い請求権を取得し、その反面被告により共済減収量が零である、すなわち共済減収量がないと認定された組合員については当然に共済金は支払われないこととなるのであって、実際の運営においても特に原告らの主張するような意味での不払い決定行為と目されるものは認められない。

しかしながら、前認定の共済金支払い手続、特に損害高の認定の実際を勘案すると、被告は当初の損害認定において共済金支払い対象組合員及びその共済減収量を認定し、そしてその最終的認定においても右同様に共済金支払い対象組合員及びその共済減収量を認定するものであるが、右の共済金支払い対象組合員の認定は、共済金を支払う組合員とこれを支払わない組合員とを選別決定する行為であるから、被告は共済金を支払わない組合員であると決定された組合員に対しては、ひっ竟当該組合員に対しては共済金を支払わない旨の決定をなすものと認められるのである。従って原告星野三男ほか二名の原告らに対しては、被告が同原告らを共済金支払いの対象外組合員である旨の認定行為をなすことにより、右の不払い決定行為を行っているものということができる。

そこで次に被告が星野三男ほか三名の原告らに対して同原告らを共済金支払い対象外組合員である旨認定した行為の「処分性」について検討をすすめるに農作物共済損害評価要綱によれば、組合は損害通知をした組合員について、共済金支払い対象組合員であるのか否か、またその共済減収量について認定することとなっているが、前示のように、保険及び再保険関係における農林大臣及び連合会による拘束性は共済減収量の認定について認められており、さらに組合の行なう共済金支払い対象外組合員である旨の認定は、当該組合員について共済減収量は皆無であるとの認定の結果を組合員名で表示するものに過ぎず、それ自体独自の意味を有するものではないことが認められる。右のことは、農災法一〇九条二項が、共済減収量を単位当り共済金額に乗じて得た金額に相当する共済金を当該共済減収量が認められた組合員に対して支払う旨を規定していることからも窺い知ることができる。

してみれが被告のなした共済金支払い対象外組合員である旨の認定行為は共済減収量の認定とは別個独立の独自性を有する行為としてこれを把握することはできず、右の行為は行訴法三条二項所定の「処分」と解することはできない。

そこでもし原告星野三男らが本訴請求においてその取り消しを求める共済金不払いの決定なるものが、被告のなした共済金支払い対象外組合員との認定行為を意味するものとするならば、本訴請求は不適法として却下を免れないのであるが、同原告らの本訴請求も原告芳賀亀雄らと同様に被告のなした原告星野三男らに対する共済減収量の認定行為をその取り消しの対象としているものと解する余地がある。

六  そこで原告らが水稲共済金の支払い又は不払い決定としてその取り消しを求める被告の処分行為が、右共済減収量の認定であると解し検討をすすめることとする。

1  行政処分は、それが行政庁の内部的決定に止まるときはいまだ成立したものと解することはできず、右の処分が外部に表示されるか、あるいは少くとも外部的に認識されうる表象を具えるに至ったときにはじめて成立し、また法令ないしは一般処分等以外の行政処分は相手方に到達したとき、すなわち相手方が現実にこれを了知し又はこれを了知し得べき状態におかれたときにその効力を生ずるものと解されるところ、農災法関係諸法規は、本件の共済減収量の認定という行政処分を組合員に対し了知させる方法については何ら定めるところがない。

《証拠省略》によれば、被告組合はその定款において共済金支払いの対象となった組合員についてはその認定にかかる共済減収量を公告する旨定めているが、他方共済減収量が零と認定されたため共済金支払いの対象外となった組合員については定款上何らの定めもない。

右定款の趣旨とするところは、共済減収量が認められた組合員に対しては、公告をもってその記載のとおりの減収量があった旨を了知させるのであるが、その反面共済減収量が零と認定され共済金支払いの対象外となった組合員に対しても(消極的な形ではあるが)その旨了知させるにあるものと思料され、従って、本件の場合、共済減収量の認定という行政処分は右の定款所定の公告がなされたときに、成立すると同時にその効力を生じるものと解するのが相当である。

《証拠省略》によれば、被告は、昭和五一年一二月二一日昭和五一年産水稲共済金の支払い公示をするために山形県東田川郡羽黒町長から同町掲示板の使用の許可を得たうえ、同町役場掲示板に、同月二二日から二八日までの間、昭和五一年産水稲共済金を同月二四日付をもって同町農業協同組合の当該組合員名義の個人預金口座に振替の方法で支払う旨及びこれにあわせて、被告組合に所属する部落ごとに「昭和五一年産水稲共済金個人別内訳書」と題して、共済金支払いの対象となった組合員別に、その氏名、被害耕地筆数、被害面積、共済減収量及び支払い共済金額をも公告したこと、なお右の公告中には、原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、同原田敏雄及び同大川鎮についてはその主張のとおりの共済金額等の記載がなされていたが、その余の原告らについては、何らの記載がなかったこと、以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

してみれば右共済減収量の認定という行政処分は、右公告と同時に、すなわち昭和五一年一二月二二日に成立し、その効力を生じたものと認めることができる。

2  問題は出訴期間との関連において原告らが右共済減収量の認定という行政処分を何時知ったかにある。

行訴法一四条一項は「取消訴訟は処分……を知った日から三箇月以内に提起しなければならない。」と規定しているが、同条項所定の「処分のあったことを知った日」とは、抽象的な知り得べかりし日を意味するのではなく、当事者が書類の受領、口頭の告知その他の方法により処分の存在を現実に知った日を指すものとするのが相当である(最高裁判所昭和二七年四月二五日判決民集六巻四号四六二頁、同昭和二七年一一月二〇日判決民集六巻一〇号一〇三八頁参照)。

本件につきこれをみるに、《証拠省略》を総合すると、

(1)  被告は前記の公告をなした後、共済金支払いの対象となった組合員に対し、昭和五一年一二月二五日、組合員ごとに認定減収量とともに支払い共済金額等を記載した「昭和五一年度水稲共済金支払通知書」と題する書面(同年一二月二〇日付)を各部落ごとに当該部落の共済部長宅へ一括して届け、翌二六日ころ、各共済部長らを介して右各組合員方に届けさせたこと、

(2)  一方被告は、共済金支払いの対象外となった組合員全員に対しても、同五一年一二月二三日ころ、個別的に当該組合員ごとに算定した減収量の数量等を記載した「昭和五一年度水稲の損害評価結果のお知らせ」と題する書面(同五一年一二月二〇日付)を郵送し、右書面をもって対象外組合員全員に算定減収量とともに共済金支払いの対象とならなかった旨を通知したことの各事実を認めることができ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

従って、共済金支払いの対象となった原告芳賀亀雄、同小関伊勢蔵、同大川鎮及び同原田敏雄は、遅くとも同月二六日ころにはそれぞれ自己に対し右の処分のあった事実を知っていたものということができるし、また、共済金支払い対象外となった原告小関明子は遅くとも同月二三日ころには自己に対し右処分のあった事実を知るに至ったものということができる。

また原告星野三男、同太田繁男の両名については、

(1)  原告星野三男本人の供述によれば、同原告は昭和五一年一二月二八日ころから翌五二年一月四日ころまでを除いて昭和五一年一二月ころから翌五二年二月五日ころまでの間は出羽三山の檀家への挨拶回りのために新潟県にでかけており、住所地に不在であった事実が認められる。しかし前認定のとおり、同原告に対する認定共済減収量を記載した書面は、昭和五一年一二月二三日ころには同原告方に配達されているのであるから、たとい同原告が右書面配達当時自宅に不在であったとしても、同原告は右配達後の同月二八日ころから翌五二年一月四日ころまでの間帰宅しているので、少くとも右日時ころまでには、同原告は自己に対する右認定処分を知ったものと認めるのが相当である。

(2)  また、原告太田繁雄の供述によれば、同原告も原告星野三男と同様の目的で昭和五一年一二月末ごろから翌五二年一月五日ころまでを除いて昭和五一年一二月ころから翌五二年三月初めころまでの間、福島県へでかけており、住所地に不在であった事実が認められる。しかし前認定のとおり、同原告に対する認定共済減収量を記載した書面は昭和五一年一二月二三日ころには同原告方に配達されているのであるから、たとい同原告が右書面配達当時自宅に不在であったとしても同原告は右配達後である同月末ころから翌五二年一月五日ころまでの間帰宅しているので、同原告もまた少くとも右日時ころまでには自己に対する右認定処分のあったことを知ったものと認めるのが相当である。

3  原告らが本訴において、被告が原告らに対し行った共済減収量の認定の違法を理由としてその取消を求めているものと解されるにしても、前記のとおり原告らは右の各処分の存在を、遅くとも昭和五二年一月五日までには知ったのであるから、原告らは右処分取り消しの訴を、右の日から三ヶ月以内すなわち同年四月四日までに提起されなければならない。しかるに本訴は右出訴期間を経過した同年四月二三日(ただし原告小関明子については任意的当事者変更があったものと解せられるので同原告については、行訴法一四条一項所定の出訴期間の関係ではこれより後の日に訴の提起がなされたことになる。)に提起されたのであるから本件訴はいずれも行訴法一四条一項所定の出訴期間を遵守しない不適法なものである。

七  よって原告らの本件訴はその余について判断するまでもなくいずれも不適法として却下すべく民事訴訟法八九条、九三条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 武藤冬士己 裁判官 木原幹郎 服部廣志)

<以下省略>

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