山形地方裁判所 昭和59年(ワ)260号 判決 1989年4月18日
原告
小川貞治
原告
早坂英夫
原告
高橋栄五郎
原告
宮崎信三
右原告ら訴訟代理人弁護士
早川忠孝
同
松坂祐輔
右代理人早川訴訟復代理人弁護士
登坂真人
被告
山形交通株式会社
右代表者代表取締役
柏倉信幸
被告
服部敬雄
被告
藤井俊雄
右被告ら訴訟代理人弁護士
坂口昇
同
高山克英
主文
一 原告らの請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1
(主位的)
被告山形交通株式会社(以下「被告会社」という。)の昭和五九年六月二九日開催の株主総会(以下「本件総会」という。)における原告ら提案にかかわる次の各議案についての決議が存在しないことを確認する。
(一) 監査役一名選任の件
(二) 取締役の報酬減額の件
(予備的)
被告会社の本件総会における原告ら提案にかかる次の各議案を否決する旨の決議を取消す。
(一) 監査役一名選任の件
(二) 取締役の報酬減額の件
2 被告服部敬雄(以下「被告服部」という。)は原告ら各自に対し、一〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一四日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告藤井俊雄(以下「被告藤井」という。)は原告ら各自に対し、一〇万円及びこれに対する昭和五九年九月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
4 訴訟費用は被告らの負担とする。
5 2及び3につき仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
(本案前の答弁)
1 請求の趣旨1の訴をいずれも却下する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(本案の答弁)
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告小川貞治(以下「原告小川」という。)は被告会社の株式三万七五三四株を、同早坂英夫(以下「原告早坂」という。)は同三一〇〇株を、同高橋栄五郎(以下「原告高橋」という。)は同三〇〇〇株を、同宮崎信三(以下「原告宮崎」という。)は同三一〇〇株を、それぞれ保有する同社の株主である。
2 被告会社は、昭和五九年六月二九日午後一時ころから、山形市香澄町三丁目二番一号所在の山交ビル七階大ホールにおいて、本件総会を開催した。
3 被告藤井は、被告会社の代表取締役社長の地位にあり、本件総会の議長となった。
4 原告らは、本件総会に先立ち、別紙1記載のとおり各議案を提案した。
5 本件総会の議案は、第六一期利益処分案承認の件(以下「第一号議案」という。)、原告ら提案の監査役選任の件(以下「第二号議案」という。)及び原告ら提案の取締役の報酬減額の件(以下「第三号議案」という。)であった。
6 本件総会手続の瑕疵
(一) 原告らの発言を困難にすることを意図した総会会場の設営
(1) 原告らが本件株主総会の会場に入場した際、同会場にはその前部に提案者席が設けられており、その周囲を一般株主の入場前に入場していた社員株主及び会社関係株主が二重に取り囲んでいた。
(2) 被告会社の通常の株主総会においては株主の発言の便宜をはかるため、議場の要所に数本のスタンドマイクが備えられていたのに、本件総会ではこれが全く設置されていなかった。
(二) 第一号議案審議前の状況
(1) 本件総会では、まず、被告服部が後記7(一)(1)のとおりの挨拶をした後、被告藤井が議長に就任したが、同被告は、場内から緊急動議が出されたのに、これを無視して直ちに議事に入り、自ら「六一期の営業概況」を報告し、次いで、渋江常務取締役に貸借対照表及び損益計算書の説明を、後藤監査役に監査報告をさせ、その後、ようやく株主からの質問を受け付けた。
(2) 原告早坂、同高橋及び同宮崎は、被告藤井に対し、本件総会は株主から議題提案の行われている総会であるから、株主の発言を妨害することがないよう要請し、また、委任状及び議決権行使書の数の明確化を求める動議を提出したが、同被告は、これを議場において審議せず、自らまず反対意見を述べた上、否決の取扱いをした後に少なくとも二回は否決の採決をした。
(三) 第一号議案の審議状況
(1) 原告高橋は、同議案に関連して予め被告服部宛に提出していた質問書に基づき、同被告に対し、被告会社の大幅な経常損失や、赤字会社への出資等につき、被告会社の最高責任者として、株主に謝罪し、身を挺しても業績改善に立ち向かう気があるのかと質問したが、議長である被告藤井は、被告服部本人はおろか、他の取締役にも右質問に対する説明や回答をさせず、同原告の右質問終了後、直ちに、会社側の青山吉充郎株主を指名して、右質問と全く関わりのない発言をさせ、事実上、同原告の右質問に対する答弁を拒否した。
(2) 原告小川は、同議案に関連した質問書を被告藤井に予め提出し、本件総会においても、再三再四質問の挙手をして発言を求めたが、議長である被告藤井は、これを無視し、同原告に発言を許可せず、第一号議案についての賛成株式数を読み上げて、採決があったものとした。
(3) 原告小川は、右採決の後、同被告からようやく質問の許可を得、ア 被告会社が経常利益で大幅な赤字を出しながら、被告服部の関連会社である山形グランドホテルに対して昭和五五年度に二〇〇〇万円、同五七年度に三〇〇〇万円の各出資をした件、イ 被告会社がマイヨールの彫刻に共同出資し、同ホテルに飾っている件、ウ 寄付金の件につき、それぞれ、その理由及び経営陣の責任の所在の如何について質問したが、被告藤井は、被告会社の代表取締役副社長柏倉信幸及び同社常務取締役渋江忠に、それぞれ、スキーヤー獲得のため、文化の振興のため、あるいは企業の社会的責任を果たすためなどといったありきたりの回答をさせ、その後は、引き続き挙手して発言を求めた同原告を無視し、質問を許可しなかった。
(4) そこで、原告早坂は、会社が三年間にわたり大幅な経常赤字を出し、税金から四億円もの補助金をもらいながら、赤字会社への出資、美術品の購入及び政治献金をするのは、補助金制度の趣旨に反するのではないか、また、川口専務取締役が担当する以前は、乗合バス事業、貸切バス事業の双方または一方が黒字であったのに、同専務担当後は双方共に赤字となっているのはなぜか、について質問したが、被告藤井は、同専務に、補助金の使途は制限されていない、ミニバイクの普及と燃料費の値上がりにより乗合バス事業は巨額の赤字を出している旨、同原告の質問に何ら正面から答えない虚偽の回答をさせ、原告早坂や同宮崎らがこの回答を不満としてさらに質問しようとしたのに、これを無視した。
(5) その後、原告早坂は、企業結合や連結決算の状況について質問したが、柏倉副社長及び渋江常務取締役は、本件総会と関係がなく回答の必要がないとか、本件総会の招集通知書の記載で十分であると述べ、全く説明をしなかったのに、被告藤井は、さらに質問しようとした同原告を無視し、また、同常務に適切な回答をさせることもせず、第一号議案の審議を打ち切った。
(四) 第二号議案の審議状況
(1) 被告藤井が、第一号議案の審議を打ち切って、第二号議案の審議に入る旨を宣し、「提案者を代表してどなたかにご説明をお願いします。もし、代表者からのご説明がなければ採決に入ります。」と述べたので、原告早坂は、止むを得ず、「私がやります。」と申し出たが、同被告は、これを無視し、「会社の方から反対の理由をお願します。」と述べて、柏倉副社長に会社の反対意見を陳述させた。
(2) 同副社長は、右反対意見中で、原告小川が提起した山形地方裁判所昭和五九年(ヒ)第三号取締役会議事録閲覧謄写許可申請事件に関し、真実は、同原告請求の取締役会議事録を被告会社が任意に閲覧謄写させるという事実上の和解により終結したものであったのに、「会社は山形地方裁判所の取締役会議事録閲覧謄写許可申請事件において、証拠書類に基づきまして、小川氏らの業績悪化の責任等に関する主張は、原因を無視し数字のみを比較した短絡した発想であることを明確にし、また、小川氏らの指摘する事項はすべて事実誤認、無知、歪曲によるものであり、不正など一切なかったことを明らかにいたしました。」と述べ、あたかも、同裁判で原告らの主張が全く認められず、原告らが敗訴したかのような発言をし、原告らの提案に対する反対の理由とした。
(3) そこで、原告早坂は、同被告の不公正な議事運営に対し議長不信任の動議を提出したが、同被告は、不信任動議が出された当該議長がそのままその動議に関する議事運営を行うことはできないのに、これに違反し、自ら即座に「賛成の方ご起立をお願いします。大多数が反対とみられますので。」と述べ、この動議が否決されたものとした。
(4) そして、同被告は、原告らが提案理由を説明したいと求めていたのに、これを無視し、すぐさま「第二号議案の提案ご説明されますか。採決をいたします。」と述べ、議場に同議案についての賛否も求めず、予め用意していた議決権数及び賛否の株数に関するメモを読み上げ、もって同議案についての採決を終了したとした。
(5) その後、同被告は、原告早坂を指名したが、同原告が第二号議案の提案理由を説明しようとすると、これを遮り、「三号議案の提案理由を説明して下さい。」と繰り返した。
(五) 第三号議案の審議状況
被告藤井は、第二号議案におけると同様、柏倉副社長に会社の反対意見を言わせ、原告らが同議案の提案理由を説明したいと求めていたのに、これさせず、かつ、反対意見に対する質問もさせないで、議場に諮ることなく、予め用意した議決権数に関するメモを棒読みし、もって同議案についての審議を終了させた。
(六) 社員及び会社関係株主の動員による質問、発言の妨害
(1) 本件総会の成立宣言によると、同総会の出席株主は一九六名であったのに、議場には三〇〇名近い人数が着席していたもので、被告会社は、原告らの発言や質問を妨害して会社側の一方的な議事進行を図って、予め相当数の従業員ないし会社関係者を入場させていた。
(2) 原告ら以外の株主で本件総会で発言した者は、いずれも、これまでの株主総会で原案賛成の議事進行役をつとめてきた会社側株主であった。
(3) 被告会社は、全国的に有名なプロ株主の島崎栄治に、原告らの発言を妨害する野次を積極的に行わさせた。
(七) 出席株主数や議決権数の不明朗性
(1) 被告会社は、本件総会において、被告藤井等が、何回かにわたり議決権数等を発表したが、その数は、総会成立宣言時には、出席株主数一六三万三一五七株、うち議決権行使書、委任状によるものが七六万二一二一株と説明され、本件総会初期における原告宮崎の株数確認を求める動議に際しては、出席株式数一二七万一九六七株、反対株数八六万七七八四株と述べられ、第一号議案の採決時には、総議決権数一八八万八九五〇株、賛成一二二万八八四九株と述べられたり、出席株式数一二七万一九六七株、賛成株数八六万七七八四株と述べられたりし、第二号議案の審議に際し被告藤井がメモを読み上げたときには、出席株式数一九七万一〇九七株、賛成株式数三八万二〇八二株、反対株式数一二二万三〇二三株と述べられ、第三号議案の審議を打ち切るにあたり同被告がメモを読み上げたときには、出席株式数一八八万三三七四株、賛成株式数三三万余株、反対株式数一一八万余株と述べられるなど、その度ごとに違っていたもので、本件総会の議決権数は極めて不明確であり、一体どのような根拠に基づき、いかなる方法で計算したのか疑問であるばかりか、委任状及び議決権行使書による議決権数が確定したのは第二号議案の採決後の午後三時二五分ころであったから、少なくとも、第二号議案採決時までの右各発表にかかる数は全て虚偽である。
(2) 被告会社は、本件総会において、山交社員会の四五万株、同社役員の一二万四五〇八株及び議長宛委任状の二九万三二七六株を合計した八六万七七八四株の議決権数ないしこれに議決権行使書による議決権数を加えた数をもって多数とし、各採決において正確なカウントをしていないが、原告らは合計約四九万一〇〇〇株分の委任状を持参していたのであり、また、他の出席株主の議決権数は開会時で二四万九七九四株、最高時には三五万一七二九株主であったから、右議長宛委任状分や議決権行使書による議決権数について出席株主及び原告ら持参の委任状による株式と照合すれば、採決の結果が異なったかもしれなかった。特に動議についての採決では議決権行使書による議決権数は含まれないから、右照合及び出席株主の賛否の正確なカウントを行えば、採決の結果が逆になった可能性が大きい。
ところが、被告藤井は、原告宮崎の委任状及び議決権行使書の数の明確化を求める動議、第一号議案の採決及び原告早坂の議長不信任の動議に際し、その当時は、いずれも、未だ原告ら持参の委任状の照合が終わっていない段階であり、したがってまた、議長宛委任状の確認もできていなかった段階であったのに、右各動議については否決されたとし、第一号議案については可決されたとした。
(3) 原告早坂の議長不信任の動議については、公正な議事運営が求める会議体の一般原則からして、当該議長である被告藤井がその採決に参加することはできなかったものであり、したがって、同被告に委任されていた山交社員会の四五万株の議決権も採決に加えることができなかったのであるから、前記(2)の照合及び出席株主の賛否の正確なカウントを行えば、この動議が可決された可能性は大きかったのに、同被告は、議場を見渡しただけで、この動議が否決されたものとした。
(八) 第二及び第三号議案の審議時間
第二号議案の審議時間は七分間、第三号議案のそれは実質八分間に過ぎず、この時間の短さからしても右各議案について実質審議がなされなかったことが明らかである。
(九) 議決権行使の取扱いに関する違法
(1) 被告会社は、自社に不利益な議決権行使書を提出した株主に対し、右意思表示の撤回を求め、議決権行使書により議決権を行使した株主一〇七三名の一割以上にあたる一二一名分、合計株数三万三八五〇株について、意思表示を撤回した再発行の議決権行使書の提出を受けた。
(2) 被告会社は、捺印のない原告ら宛委任状を無効としたのに、捺印欄が設けられ、かつ、捺印を要請する文言が印刷されていたにもかかわらず捺印を欠いた被告会社に賛成の議決権行使書五名分、合計株数一一一七株を有効とする差別的取扱をした。
(3) 被告会社は、本件総会に先立ち、「端株整理のご案内」、「株主安定化についてお願い」及び「株主総会における議決権行使についてのお願い」と題する各書面を株主に配布し、株式の売買斡旋等に名をかりて、原告らの株主活動に対する妨害、干渉行為を行った。
(4) 被告会社により有効と扱われた議決権行使書の中には印のあるものが四三名分、合計株数二万五四八二株存在するが、印とは、被告会社が、本件総会の会場受付において、同社のバス回数券を茶菓料として出席株主に交付し、その際押印していた印であるから、その印が押印されていることは、株主総会の前日までに送付されねばならないと法定されている議決権行使書が当日になって提出されたことを意味するのであって、被告会社は無効としなければならない議決権行使書を有効としたものである。
(5) 山交社員会の代表者及び被告会社役員は、本件総会に出席しながら、議案により、議長に一任する旨の口頭の意思表示、事前に提出した議長宛委任状というように、立場を使い分けて議決権を行使したもので、これは不公正な議決権行使方法に該当する。
(6) 被告会社は、住所の記載を欠いた議長宛の委任状三〇名分、合計株数七万五九一八株を有効とした。
住所の記載がなければ株主を特定できないのであるから、右措置は違法であり、他方で被告会社が、原告ら宛委任状を捺印がないとか、株主名簿にないなどの理由で無効とする扱いをしていることと対比すると、その違法性は一層顕著である。
(7) 被告会社は、別紙2の原告ら宛委任状五通につき、委任状記載の氏名が株主名簿記載の氏名と食い違うとして、これを無効としながら、同様の別紙3の議長宛委任状七通を有効とする差別的取扱をした。
(8) 被告会社は、株主名「小野正三郎」と記載されていたものを無権限者が「小野みよし」に改変したものであることが名下の捺印と訂正印との対照により一見して明らかで無効な議長宛委任状と、株主名「小野みよし」の原告小川宛委任状とを、同日付委任状であるとして、両方とも無効とした。
(9) 被告会社は、住所、氏名が自書されている民事上有効な原告ら宛委任状を、捺印がないことを理由に無効とした。
(10) 被告会社は、株主名「大沼計逸」及び同「村岡茂志」の原告小川宛各委任状を、前者は「逸」は「イチ」とも読む上、その住所及び捺印が同社宛に別途提出されていた「オオヌマケイイチ」名義の議決権行使書と同一であったのであり、後者はその住所が同社宛に別途提出されていた「ムラオカモイチ」名義の議決権行使書と同一であったから、いずれも有効としなければならず、同社自身、右各議決権行使書に「委任状」なるスタンプを押して、同一株主から右各委任状が提出されていることを認識していたのに、株主名簿に記載なしとして無効とした。
(11) 本件総会では、途中退場した株主が少なくとも七八名いたが、被告会社は、各採決に際し、これら途中退場者の議決権数を把握していなかった。
(12) 被告会社は、株主でない者が会場に入れないようにするため予め出席票を発行しておきながら、これを持たずに会場に現れた一八名、合計三万一四八三株の株主に対し、出席票を再発行して入場を許し、株主を差別的に扱った。
(13) 本件総会の出席票中には、印のないものが一九名、合計五四万九三二四株分存在するが、これは、総会受付における通常のチエックを受けないで会場に入場したことを意味するものであり、被告会社は株主を差別的に取り扱ったものである。
(一〇) 以上のとおり、本件総会においては決議の方法が著しく不公正であったものであるから、原告ら提案の第二及び第三号議案についての決議は法律上不存在というべきであり、そうでないとしても右各決議には取消事由があるというべきである。
そして、本件総会では議決権数も極めて不明確であって、原告ら提案の各議案について議決権の一〇分の一以上の賛成がえられたかどうかが判然としないため、原告らは次期株主総会に同一の議案を提案できるか明らかでないから、原告らには右各議案についての決議不存在の確認ないし決議取消を求める利益がある。
7 被告服部の不法行為責任
(一) 同被告の挨拶における不法行為
(1) 同被告は、本件総会の冒頭、被告会社の代表取締役会長として挨拶をしたが、その中で、原告らが同被告ら被告会社の経営陣の恣意的経営を改めて経営の健全化を図るために、他の株主に呼びかけたり、本件第二及び第三号議案を提案するにつき自己の発言力を強化しようとして委任状の勧誘をしたことなどをとりあげて、「昨年夏以来、小川貞治、高橋栄五郎、早坂英夫、宮崎信三の四君名義の会社を誹謗する反社会的文書が頻繁に配布されております。」、「この三人は、(中略)委任状集めに奔走するという、一般常識では考えられぬ行動を起こしているのであります。」、「この四人の株主は、いずれも前社長鈴木恒吉君が実質的に支配している日米商事、山形トヨタの役員であります。文書については、すべて日米商事の支出によるものであって、」、「これは今日バス事業が置かれている社会環境や、需要構造の変化と時代の趨勢を無視した極めて幼稚な発想といってよいでしょう。」、「小川君ら四名は、(中略)。鈴木元社長と四人は、昨年から手段を選ばず、常識を、株式を買い集めております。当社の如く大衆資本の会社は、事あるごとに反社会的言動で挑戦している特定の個人に、」と虚偽をとりまぜて述べ、原告らを誹謗、中傷し、さらに、「挨拶の範囲で述べなさい。」と言った原告らを、「余計なこと言うな。何だおまえら。黙って聞け。」と面罵した。
(2) 右挨拶以前から原告らが述べていたことは、被告会社の極端な業績の悪化が当時の経営陣の経営姿勢によるものであるということであり、これに対し、被告服部らは同じく株主への文書により、充分に反論していたのであるから、原告らが反論ないし質問をする機会のない本件総会の冒頭における同被告の右発言は、反論の手段として相当性を欠くものである上、発言内容自体も相当性がないから、同発言が適法な反論にあたらないことは明らかである。また、同発言は、被告会社という私企業内部の問題であって、公共的な問題ではないし、発言内容も虚偽であるから、違法性を阻却しない。
(3) 右発言は、原告らの名誉及び社会的信用を失墜させ、その名誉感情を著しく傷つけたばかりか、正式な議事が開始されていない時期を利用して自己を正当化しようとし、その後の議事進行、特に原告ら提案の各議案の審議を混乱させたものであるから、原告らの株主としての提案権及び質問権をも侵害したものである。
(二) 本件総会の混乱に関する不法行為
本件総会において著しく不公正な審議が行われたことは、前記6のとおりであるが、同被告は被告会社の最高権力者である代表取締役会長として、右不公正な議事運営を指示したものであって、原告らの株主としての提案権、質問権を侵害した。
(三) 以上の各不法行為による原告らの精神的損害は、各自一〇万円を下らない。
7 被告藤井の不法行為責任
(一) 同被告は、自己の名で、多数の被告会社株主に対し、昭和五九年三月二四日ころ、「株式安定化についてお願い」と題する文書を、また、同年四月二八日ころ、「株主総会における議決権行使についてお願い」と題する文書を、それぞれ送付し、その中で、原告らの正当な株主権行使を指して、「極めて非常識なもの」とか「このような鈴木恒吉氏一派の言動を放置しておきますと、鈴木恒吉氏とそのグループの発言力が強まり、(中略)鈴木恒吉氏の野望を断固阻止し、会社を護るには、株式安定化が絶対条件であり、(後略)」と記載し、あたかも原告らの行為が私利私欲のためのものであるかのように誹謗、中傷を加えるとともに、原告らの株主権行使を不当に妨害した。
(二) 同被告は、前記6のとおり、本件総会の議長として著しく不公正な議事運営をし、原告らの株主としての質問権、株主提案権の行使を妨げた。
(三) 原告らは、同被告の右各行為により、その名誉を毀損された上、株主としての権利行使を妨げられたもであり、その精神的損害は、各自一〇万円を下らない。
よって、原告らは、被告会社に対し、主位的に、本件総会における原告ら提案の各議案についての決議が存在しないことの確認を、予備的に、本件総会における原告ら提案の各議案を否決する旨の決議の取消を、被告服部に対し、不法行為の損害賠償請求権に基づき、原告ら各自に一〇万円及びこれに対する不法行為日の後である昭和五九年九月一四日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を、被告藤井に対し、不法行為の損害賠償請求権に基づき、原告ら各自に一〇万円及びこれに対する不法行為日の後である昭和五九年九月一五日から支払済みに至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。
二 請求の趣旨1の訴に関する被告会社の本案前の主張
1 請求の趣旨1の訴のうち主位的請求は、鈴木恒吉による原告らの名義を借りた任意的訴訟担当である。
すなわち、鈴木は、被告会社の代表取締役社長の地位から追放された者であるところ、右追放の経緯及び同人の性格から、自らが原告となることを回避するため、その所有にかかる同社の株式を原告らの名義とし、原告らに訴訟を担当させているものである。
したがって、原告らには当事者適格がない。
2 請求の趣旨1の主位的及び予備的各訴において原告らが不存在の確認ないし取消を求める決議は、いずれも、否決の決議であって、承認の決議におけると異なり、その決議が登記されることも、その有効を前提として法律関係が展開されたり、そこから派生して種々の紛争が生じたりして法律関係が将来においてより複雑化することも、また、外見上、あたかも適法に被告会社その他利害関係人を拘束するかのように取り扱われることもないから、その不存在を確認したり、それを取消したりする利益がない。
原告らは、再提案のために確認の利益があると主張するが、再提案は否決の決議がなされたことを前提とするものであって、仮に決議が不存在であるなら再提案の必要はないのであるから、右主張には理由がない。
3 請求の趣旨1の訴のうち予備的請求は、主位的請求の訴を提訴してから三年以上経過して追加されたものであるところ、この間、被告会社は三回の定時株主総会を開催していたのであるから、原告らは、右各総会において取消を求めているのと同一議案を提案して採決を求めることが容易にできたのであり、その方が判決を得るよりもはるかに簡明であったのに、請求を追加したものであって、裁判手続を玩ぶ訴権の濫用たるを免れない。
4 本件総会後、予備的請求が追加されるまでに三年以上経過し、この間、被告会社では三回の株主総会が開催されたが、このうち昭和六〇年と同六二年の各総会では、原告らが第二号議案を提案するに際し不適任であるとした監査役二名全員の任期満了に伴う選任がなされたが、いずれの総会においても、監査役は二名とも重任の決議がされたのであり、また、三回の総会では、原告らが第三号議案で減額を提案した取締役報酬支給後の数値を内容とする計算書類が報告され、利益金処分案が可決されている。右各議決は、原告ら提案の第二及び三号議案が右各総会で提案されたとすれば否決されたことを明らかに示しているのであって、もはや、右各議案の決議を取消しても何ら実益がないから、予備的請求は却下されるべきである。
三 右本案前の主張に対する原告らの認否、反論
同主張はすべて争う。
四 請求原因に対する認否及び反論
1 請求原因1の事実は否認する。
2 同2ないし3の事実は認める。
3 同6について
(一) 同(一)について
(1) 同(1)の事実は否認する。
本件総会閉会時点における株主席の株主二二八名中、被告会社従業員である株主は一七名、関係会社役職員であるそれは二三名であった一方、原告らの関係者は、原告ら、その親族、鈴木恒吉の親族、同人が支配する会社の役員及び原告ら訴訟代理人である早川弁護士の合計一四名が着席していた。
(2) 同(2)の事実は認める。
被告会社は、同時発言やマイクの奪い合いを避けるため、前年までのスタンドマイクに代えて、ワイヤレスマイク四個を用意し、議長の指定により係員が発言者の許へ持参することにしたもので、原告らの発言を困難にすることを意図したものではなく、原告らもこのマイクを使って発言した。
(二) 同(二)について
(1) 同(1)の事実は認める。
しかし、緊急動議は、原告宮崎と同高橋とによるものであったが、その内容は委任状の点検や議決権行使書の数の明確化を求めるというもので、何ら緊急のものでないばかりか、末梢的で無意味なものであった。
(2) 同(2)のうち、原告高橋及び同宮崎が委任状の点検や議決権行使書の数の明確化を求める動議を提出したことは認める。
(三) 同(三)について
同(1)のうち、原告高橋が質問し、その後、被告藤井が青山株主を指名したことは認める。
(四) 原告らが不存在や取消を求めているのは原告ら提案の第二及び第三号議案についての決議であるから、その審議に入る以前の出来事に関する請求原因6(一)ないし(三)の主張事実は、決議不存在や取消の事由ではない。
(五) 同(四)について
(1) 同(1)のうち、被告藤井が第二号議案の審議に入る旨を宣し、原告らに提案理由の説明を求めたこと、原告早坂が「私がやります。」と述べたこと及び同被告が柏倉副社長に被告会社の反対意見を陳述させたことは認め、その余の事実は否認する。
第二号議案の審議に入った後、議長である被告藤井は、提案者である原告らに対し再三提案理由の説明を求めたが、原告らは、第一号議案について質問があるとして、こもごも発言し、提案理由の説明をしなかったため、他の株主から、質疑打ち切り、提案理由の説明を求める動議が提出されて可決され、同被告はまたも提案理由の説明を求めたが、原告らが説明をしなかったので、同被告はその旨を議場に告げ、被告会社に反対意見の説明を求め、同社は、取締役会の反対意見を述べたのである。
原告早坂が「私がやる。」と述べた時点では、被告藤井は別の方向を向いてその発言を聞いていたため、同原告の右発言を聞き取れなかったもので、喧騒を極めた議場において多数の者が発言を求めていた本件総会の状況の中では、議長がすべての株主の挙動を把握することは物理的に不可能であった。
また、原告の右発言後、議長は二回も提案理由の説明を求めたのであり、原告らはこの機会に説明することができたのに、これをしなかった。
(2) 同(3)のうち、原告早坂が議長不信任の動議を提出したが、被告藤井がこの動議は否決されたとしたことは認め、不信任の動議を提出された議長はその動議に関する議事運営を行うことができないとの主張は争う。
(3) 同(4)の事実は否認する。
同被告は、被告会社の反対意見陳述の後、さらに、原告らに提案理由の説明を促したが、説明をしなかったので採決したものであり、採決にあたっては、議決権行使書による反対、山交社員会と被告会社役員からの予めの反対の意思表示及び議長宛の委任状を合計すると議決権総数の過半数に達していたため、その旨を告げ、議場内の株主席の株主の賛否を集計することなく、同議案は否決されたと述べた。
(4) 同(5)の事実は認める。
(六) 同(五)のうち、被告藤井が、柏倉副社長に会社の反対意見を言わせたことは認め、その余の事実は否認する。
第三号議案の審議に入り、議長である被告藤井は、提案者である原告らに対し再三提案理由の説明を求めたが、原告らは、同早坂が第二号議案の提案理由を説明するというのみで、第三号議案の提案理由を説明しなかったため、他の株主から議事進行の発言がなされ、同被告はさらに提案理由の説明を促したが、原告らが説明をしなかったので、同被告はその旨を議場に告げ、被告会社に反対意見の説明を求め、同社は取締役会の反対意見を述べた、その後、他の株主から、提案理由の説明がなく会社の反対意見の説明があったので採決を求める旨提案があり、被告藤井はこの提案を採択して採決した。採決にあたっては、議決権行使書による反対、山交社員会と被告会社役員からの予めの反対の意思表示及び議長宛の委任状を合計すると議決権総数の過半数に達していたため、その旨を告げ、議場内の株主席の株主の賛否を集計することなく、同議案は否決されたと述べた。
(七) 同(六)について
(1) 同(1)のうち、本件総会の成立宣言では同総会の出席株主は一九六名であったことは認め、その余の事実は否認する。
本件総会の出席株主は、開会時点では一九六名であったが、その後第三号議案採決時までに、途中入場者が一〇九名、退場者が七九名あったため、閉会時点では二二八名であった。
(2) 同(2)の事実は否認する。
原告ら以外で発言した株主は合計六名であり、うち黒木好太郎及び村井清彦の両株主は被告会社とは関係がなく、山形市議会議員である。
本件総会における審議手続の間、株主の質問、発言は、原告らにより大部分が占められ、他の株主は、議案毎に一、二名宛短時間の発言または議事進行を求める発言の機会を得たにすぎず、しかも、その中には、被告会社従業員の株主は一名もいなかったもので、原告らは何ら質問、発言を妨害されていない。むしろ、本件総会では、原告高橋は議場を行きつ戻りつしながら無意味に緊急動議と怒鳴り続け、同宮崎は緊急動議と前置きしながら、議決権数の再確認、議事録の録取場所や賛否の議決権数の明示などの末梢的で総会荒しに常用される質問を多発し、また、同早坂、同宮崎及び同高橋は議長席に再三詰め寄ったもので、本件総会混乱の原因は原告らが仕組んだものである。
(3) 同(3)は否認する。
(八) 同(七)について
(1) 同(1)のうち、委任状及び議決権行使書による議決権数が確定したのは第二号議案採決後であったことは認め、本件総会の議決権数が極めて不明確で、どのような根拠に基づき、いかなる方法で計算したのか疑問であるばかりか、第二号議案採決時までの各発表にかかる数が虚偽であるとの主張は争う。
採決によって議決権数が異なるのは、議事運営に関する動議の採決には議決権行使書による議決権数を算入することができないためと、原告ら宛四四九名分、三九万〇三九四株の委任状が開会時刻直前に提出され、この委任状提出者のうち、出席している者、議長宛委任状や議決権行使書と重複するものが予想された上、株主でない者による委任状や同一人の原告小川に対する二通の委任状などがあって、逐一株主名簿と照合点検する必要があったことから、当該決議時点で集計し得た議決権数によって採決するほかなかったためである。
株主総会における採決の方式については、議案に対する賛成あるいは反対が所定の多数に達することが出席者に明らかであれば、賛成者または反対者の有する議決権の数を精密に計算する必要はない。本件総会においては、山交社員会及び被告会社役員の所有株式、議長宛委任状並びに議決権行使書により、第一号議案に賛成し、第二及び第三号議案に反対する意思が予め明確な議決権数が確定していて、しかも、その中には原告ら宛委任状と照合することによって無効となる可能性のあるのものもあったが、それは少数であることが当初から判明しており、確定株式数の判明を待つまでもなく、右意思の確定した議決権数が出席総議決権数の過半数を超えていることが明らかであった。また、原告ら名義の株式数並びに原告ら及びその同調者と目される揚妻政志の受任株数及び議決権行使書により第一号議案に反対し、第二及び第三号議案に賛成する意思が予め明確な議決権数も確定していて、第二及び第三号議案についてのそれは再提案に必要な株式数を超えていた。さらに、動議についても、山交社員会及び被告会社役員は予め議長と同一行動をとる旨意思を表示しており、これに議長宛委任状を加えると、動議について議決権を行使し得る出席株式総数の過半数であったため、これ以外の出席株主の議決権を算入することなく各採決をしたものである。そこには何ら瑕疵はない。
本件総会における経過時間と決議毎の出席株主数、出席株式数及び賛否株式数は別紙4のとおりであり、第二号議案採決以前の原告早坂の動議に対する採決以外の各採決を有効確定議決権数で逆算してみると、各動議については山交社員会及び被告会社役員の所有株式並びに議長宛委任状を合計した株式数が、第一及び第二号議案についてはこれらに議決権行使書を加えた株式数が、いずれも、それだけで、議決権を行使し得た出席株式総数の過半数を超えていたものであり、また、原告早坂の動議採決時の株式数を第一号議案採決時点の株式数に基づき逆算すると、議決権を行使し得た出席株式総数は一五七万六七四八株で、このうち反対の意思が明確であったものは過半数を超える八四万八六一四株となるのであって、決議の結果に変化はない。
(2) 同(2)のうち、被告会社が、本件総会において、山交社員会及び同社役員の所有株式並びに議長宛委任状ないしこれに議決権行使書による議決権数をもって多数としたこと、他の出席株主の議決権数が開会時で二四万九七九四株、最高時には三五万一七二九株であったこと、原告宮崎の動議、第一号議案及び原告早坂の動議の各採決当時は、いずれも、未だ原告ら持参の委任状の照合が終わっていなかったのに、被告藤井が右各動議については否決されたとし、第一号議案については可決されたとしたことは認め、原告らが合計四九万一〇〇〇株分の委任状を持参していたことは否認し、その余の主張は争う。
そもそも、原告宮崎及び同早坂の各動議や第一号議案の採決の適否は、本件で決議不存在ないし取消を求められている第二及び第三号議案の決議に影響を及ぼすものではないから、同(2)の主張は失当である。
また、有効確定議決数で計算しても、決議の結果に変化のないことは前記(1)のとおりである。
(3) 同(3)の主張は争う。
(九) 同(八)の主張は争う。
そもそも、審議時間が短いことは瑕疵ではない。
(一〇) 同(九)について
(1) 同(九)の主張は、本件総会後三年以上経過した後になされた新たな主張であるから、提訴期間経過により取消事由として考慮することは許されない。
(2) 同(1)の事実は否認する。
なお、議決権行使書の再発行は一〇〇名前後が通例である。
(3) 同(2)の事実は認めるが、これは何ら不当な差別的取扱にあたらない。
すなわち、捺印がない議決権行使書も、会社に提出された場合には、会社から株主に送付したものである以上、それは株主の意思に基づいて会社に提出されものと推定されるから、会社は反対の証拠がない限り、有効な議決権行使書があったものとして扱わなければならないのであり、このような事情のない原告ら宛委任状と取扱を異にするのは当然である。
(4) 同(3)のうち、被告会社が本件総会に先立ち原告ら主張の各文書を株主に送付したことは認め、それが株式売買の斡旋に名をかりた原告らの株主活動に対する妨害、干渉行為であるとの主張は争う。
(5) 同(4)のうち、被告会社により有効と扱われた議決権行使書の中に印のあるものが存在すること、印は、同社が本件総会の会場受付において同社のバス回数券を茶菓料として交付した際に押印していた印であることは認め、その余の主張は争う。
議決権行使書は、当日提出されたものであっても、会社が公平に有効と扱うことができるところ、被告会社は当日提出された議決権行使書を第三号議案に賛成のものも公平に有効と扱った。
(6) 同(5)の事実は否認する。
山交社員会及び被告会社役員は、本人出席であるから、委任状による議決権行使はあり得ず、単に、動議の採決などの議事運営については議長と同一行動をとるとの意思表示を予めし、第二及び第三号議案については、予め議長に反対の意思を伝えていたにすぎず、立場を使い分けて議決権を行使したものではない。
(7) 同(6)のうち、被告会社が住所の記載を欠いた議長宛の議決権行使書を有効とし、また、捺印がないものや株主名簿にない原告ら宛委任状を無効としたことは認め、その余の主張は争う。
委任状の真正の確認は、住所の記載がなくとも可能であるところ、住所の記載のない議長宛委任状で被告会社が有効としたものは、いずれも、被告会社従業員が株主から直接手渡されたものであったから、住所の記載がないことは何ら支障となるものではない。これに対し、原告ら宛委任状は、株主名簿の氏名、住所と一致し、捺印があって初めて一応有効なものと推定されるのであるから、取扱を異にするのは当然である。
(8) 同(7)の事実は認めるが、それが差別的取扱であるとの主張は争う。
別紙5のとおり、原告らが株主名簿の記載と不一致であると主張する議長宛委任状七通の委任状の表示は、いずれも、株主名簿、株式台帳の記載と完全に一致するか、または、正しい表示である。
(9) 同(8)の事実は否認する。
(10) 同(9)のうち、被告会社が捺印のない原告ら宛委任状を無効としたことは認め、その余の主張は争う。
原告ら宛委任状については、捺印のあることが一応有効なものと推定するための要素であることは、前記(7)のとおりである。
(11) 同(10)の主張は争う。
姓は同じでも、名前が違えば、別人と判断するのが当然である。
なお、議決権行使書の「委任状」なるスタンプは、本件総会の後日、整理した際、同一人からと思われる委任状のあるものについて押印したものにすぎない。
(12) 同(11)の主張は争う。
本件総会における採決の仕方は、前記3(八)(1)のとおりであって、途中退場者の議決権数を減じても決議の結果に変化はない
(13) 同(12)のうち、被告会社が出席票を再発行して入場を許したことは認め、それが差別的取扱であるとの主張は争う。
運転免許証等で本人と確認できた場合に出席票の再発行をしているものである。
(14) 同(13)の主張は争う。
印はエレベーター前でバス回数券を受領した株主について押印していたものであるから、エレベーターを使用せずに階段を利用した株主や被告会社役員のようにバス回数券を受領しない者には押印されないのであり、また、株主受付はエレベーター前からずっと議場に近づいた別の場所に設けられていたのであるから、印がなかったからといって、通常のチェックを受けなかったことにはならない。
(15) 原告らの提案に賛成する株式数は、被告会社が無効としたものを含めても四八万四九五五株にすぎなかったから、仮に、右提案に反対とする委任状ないし議決権行使書の中に一部有効性に疑問があるものがあったとしても、なお、決議の結論に変化はない
(二) 同(一〇)の主張は争う。
決議不存在とは、総会開催の事実が全くないか、決議が事実上存在しない場合または決議の成立態様に著しい瑕疵があるため法律上決議不存在と評価される場合をいうところ、原告らの請求原因によっても、総会が開催されたことはもとより、原告ら提案にかかる各議案についても、少なくとも外形的には審議がなされ、議決権数と賛否の株数が発表され、審議終了とされたというのであって、ただ、その手続には瑕疵があったというにすぎないのであるから、決議不存在の事由を何ら主張していないものであって、主張自体失当である。
また、本件総会の経緯等は前記のとおりであって、そこには何ら瑕疵はない。
4 同7について
(一) 同(一)について
(1) 同(1)のうち、被告服部が、本件総会の冒頭、被告会社の代表取締役会長として挨拶したこと、その中で同被告が「文書については全て日米商事の支出によるものであって」と述べたことを除く、その余の原告ら主張の供述をしたことは認め、その余の事実は否認し、主張は争う。
同被告が「余計なこと言うな。何だおまえら。黙って聞け。」と述べたのは、場内からの激しい野次に対する制止であって、原告らに対して述べたものではない。当時、議場内には二〇〇名もの株主がおり、そのうちの誰が野次ったのかも判明しない状況であったもので、離れ離れに着席していた原告らを面罵するなど物理的に不可能であった。
(2) 同(2)の主張は争う。
原告らは、昭和五八年一〇月から同五九年六月までの間、一〇回にわたり、被告会社とその役員ことに被告服部を中傷、誹謗し、被告会社株式の売却を勧誘する文書を三〇〇〇名近い株主宅へ郵送したが、右一連の文書のうち、特に被告服部を名指しで誹謗した部分は次のとおりである。
ア 昭和五九年四月付「株主提案権行使についてご協力お願い」と題する書面中「(前略)これこそ現経営陣が服部氏一派の専横支配下にあることの一つの証拠(後略)」及びその添付資料3「株主提案権行使に至った経緯」の「質問3(寄付金)」の中の「服部敬雄氏の慈善家としての個人的評価(虚名にすぎない)を高めるためのものとして利用されて(後略)」
イ 昭和五九年五月二八日付「株主総会委任状協力お願い」と題する書面中「(前略)服部氏一派の公私混同専横支配の経営によってもたらされた大幅な業績悪化(後略)」、「服部氏の公私混同専横支配の経営の典型」及び「服部氏一派の公私混同専横支配の経営姿勢を(後略)」
ウ 昭和五九年六月付「総会委任状ご協力お願い」と題する書面中「服部・藤井体制七つの問題点」として「(前略)自分の独善的考えを主張し居直っている」、「(前略)業績を改善した等と吹聴し株主を愚弄し(後略)」及び「(前略)批判を許さぬ言論弾圧、権力独裁を続け(後略)」
エ 昭和五九年六月付「株主総会委任状ご協力お願い」と題する書面中「服部氏一派の公私混同専横支配の経営姿勢を(後略)」
被告服部が本件総会における挨拶中で請求原因7(一)(1)のとおり述べたのは、原告らの前記名誉毀損行為に対し反論したものであり、前記名誉毀損行為は、表現、執拗さ、その規模の点において同被告の右挨拶における発言の比ではないから、同被告の右発言は、正当な反論の範囲内であって、違法でないというべきである。
(3) 同(3)の主張は争う。
被告服部の挨拶は議事に入る直前のものであるから、議事とは何ら関係がない。
また、本件総会では、原告らが発言・質問を独占し、議事の混乱は原告らが仕組んだものであることは前記3(七)(2)のとおりであって、原告らの質問権等は、何ら侵害されていないし、議事の混乱と同被告の挨拶とは因果関係もない。
(二) 同(二)の主張は争う。
(三) 同(三)の主張は争う。
5 同8について
(一) 同(一)のうち、被告会社取締役社長としての被告藤井名義で「株式安定化についてお願い」及び「株主総会における議決権行使についてお願い」と題する各文書を被告会社の株主宛に送付したこと、その中には原告ら主張の記載もあることは認め、その余の主張は争う。
右「株主安定化についてお願い」と題する文書は、鈴木恒吉が、原告らを使って、前記4(一)(2)のとおり、一〇回にわたり、被告会社とその役員ことに被告服部を中傷、誹謗する文書を株主宅へと郵送した際、あわせて被告会社株式の売却を勧誘する文書を三〇〇〇名近い株主宅へ郵送し、さらに、継続的に株主宅を訪問して、発行済株式総数の4.4パーセントに相当する八万八二八二株の株式を買い集めたことから、これに対抗するために発信したもので、右株式買い集めにより、被告会社を混乱の極に陥れた末追放された鈴木に被告会社の株式が集中すると、会社運営が混乱する懸念があるので、株式安定化が必要であること、株主各位が引き続き株主であることを希望し、もし売却の場合は安定株主へ斡旋、仲介する旨を訴えたものであって、原告らを中傷、誹謗したものではない。
また、右「株主総会における議決権行使についてお願い」と題する文書は、被告会社において決算作業中であり、決算数字も議題も議案も未決定であるのに、原告らが招集予定の株主総会の委任状を集約しようとしているのは「極めて非常識」であるとの当然のことを記載しているにすぎない。
仮に、右各文書中に原告らに対する誹謗、中傷にあたる部分があったとしても、原告らが株主に送付した文書における被告藤井に対する誹謗、中傷はその比ではないから、右各文書は正当な反論の範囲内のもので、違法でないというべきである。
(二) 同(二)の主張は争う。
本件総会の経緯は前記3のとおりであって、被告藤井の議事運営に不公正なところはないし、原告らの質問権、株主提案権も何ら侵害されていない。
(三) 同(三)は争う。
第三 証拠<省略>
理由
一請求の趣旨1の訴の主位的請求(以下「本件不存在確認請求」という。)について
1 被告会社の本案前の主張1(任意的訴訟担当)の事実は、本件全証拠によるも、これを認めることができない。
かえって、<証拠>によれば、請求原因1の事実(原告らが被告会社の株主であること)が認められる。
2 被告会社の本案前の主張2(訴の利益の不存在)について
原告らが本訴において不存在の確認を求める決議は、いずれも、原告ら提案にかかる議案を否決する決議であるが、原告らは右決議が著しく不公正な手続によりなされた法律上存在しえないものであると主張しているのであり、右請求を認容する判決がなされた場合、会社は改めて株主総会を招集して当該議案を審議し、公正な方法により決議をしなければならない義務を負うものであるから、かかる公正な審議の場を求めることついて原告らに法律上の利益がないとはなし難いというべきである(本訴に関する昭和六〇年(ラ)第五一号担保提供申立棄却決定に対する即時抗告事件についての仙台高等裁判所昭和六一年一月二〇日決定参照)。
したがって、同3の主張はこれを採用することができない。
3 そこで、本案について判断するに、株主総会決議が物理的には存在するのにそれが法律上不存在であるというためには、当該決議の成立要件を欠き、物理的に不存在な場合と同視し得るような重大な瑕疵があって、決議取消の訴における提訴期間の制限に服させるのが不相当であると認められる場合であることを要するところ、原告らが請求原因6において主張する本件総会における種々の瑕疵は、それらを全て総合しても、なお、右の程度の著しい瑕疵ということができないから、本件不存在確認請求は、主張自体失当といわざるをえない。
4 以上のとおりであるから、本件不存在確認請求は、その余の点につき判断するまでもなく、理由がない。
二請求の趣旨1の訴の予備的請求(以下「本件取消請求」という。)について
1 被告会社の本案前の主張1(任意的訴訟担当)の事実を認めることができず、かえって、請求原因1の事実(原告らが被告会社の株主であること)が認められることは前記一1のとおりである。
2 被告会社の本案前の主張2(訴の利益の不存在)について
否決の決議に対する決議不存在確認の訴について、原告らにその訴の利益がないとはいえないことは、前記一2のとおりであり、その理は決議取消の訴についても異なるところはないというべきであるから、本件取消請求の訴につき原告らに訴の利益がないとの右主張は、これを採用することができない。
3 被告会社の本案前の主張3(訴権の濫用)について
本件取消請求が、本件不存在確認請求の訴を提起してから三年以上経過して追加されたものであることは当裁判所に顕著であり、また、その間に、被告会社が三回の定時株主総会を開催したことは、<証拠>により、これを認めることができる。
しかしながら、本件取消請求を追加してその判決を得るよりも右各株主総会において第二及び第三号議案と同一の議案を再提案するほうが簡明ではあっても、原告らにおいて、そのようにしなければならないという性質のものではないし、本件では、被告会社の申立にかかる担保提供申立事件及びその抗告事件の審理に期間を要したため、本件訴訟について実質的に審理に入ったのが昭和六一年六月であり、原告らが右請求を追加したのは同六二年九月であること、本件不存在確認の訴は本件総会の手続的瑕疵を理由として株主総会決議取消の訴の出訴期間内に提起されたものであって、右期間内に主張された瑕疵については本件取消請求の関係においても右期間を遵守したものとして扱われるものであることにも照らすと、右請求の追加をもって訴権の濫用とまでいうことはできない。
したがって、右主張はこれを採用することができない。
4 被告会社の本案前の主張4(事情の変化による訴訟要件の欠如)について
<証拠>によれば、同主張にかかる事実が認められるが、それが本件取扱請求についての裁量棄却事由になるかどうかはともかく、この事実があるからといって同請求の訴につき訴訟要件が欠如することになったとみることはできないから、右主張を採用することはできない。
5 そこで、本案について判断する。
(一) 請求原因2ないし5(本件総会の開催、その議案など)の事実は当事者間に争いがない。
(二) 請求原因6(本件総会の瑕疵)について
(1) 同請求原因(一)の各主張(本件総会会場設置の瑕疵)は、昭和六一年九月八日付の原告ら準備書面において初めて主張されたものであるから、提訴期間経過後の主張として、それ自体失当というほかない。
(2) 同(二)(第一号議案審議前の状況)及び(三)(第一号議案の審議状況)の各主張事実は、同(二)(2)のうちの動議についての手続の瑕疵に関する部分を除き、本件で原告らが取消を求める第二及び第三号議案の審議に関係する手続の瑕疵ではないから、右各決議の取消事由たりえない。
また、同(二)(2)の右部分のうち、提訴期間経過前に主張されていたのは、右動議の採決にあたり被告藤井が議長であるのに反対意見を述べたという点のみであるから、その余の主張部分は、提訴期間の制限に反する失当なものといわざるをえない。
そこで、右提訴期間経過前の主張について検討するに、<証拠>によれば、原告宮崎は議決権行使数の確認を求める緊急動議を提案したところ、議長の被告藤井は、議長宛の委任状と、動議については議長に一任する旨予め意思を表示している山交社員会及び被告会社役員の持ち株数とを合計する(以下、右三者の株式をあわせて「議長派株式」という。)と、八六万七七八四株となって、出席株式総数一二七万九〇六七株の過半数に達しており、自分はこの動議に反対であるから、動議は否決されるなどと述べたことが認められる。
そうすると、被告藤井は、単に、右動議が否決された旨を宣言するにあたり、その理由を示したにすぎないから、これをもって瑕疵とはいえないものというべきである。
(3) 同(四)(第二号議案の審議状況)について
同(1)のうち、被告藤井が第二号議案の審議に入る旨を宣し、原告らに提案理由の説明を求めたこと、原告早坂が「私がやります。」と述べたこと及び同被告が柏倉副社長に被告会社の反対意見を陳述させたこと並びに同(3)のうち、同原告が議長不信任の動議を提出したが、被告藤井がこの動議は否決されたとしたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、第二号議案の審議状況は要旨次のとおりであったと認められる。
ア 被告藤井は、一旦第一号議案の採決をした後、原告小川を指名したが、同原告は第一号議案に関係する請求原因6(三)(3)に記載の質問をし、柏倉副社長及び渋江常務がこれに回答した。
イ 次いで、被告藤井が木村株主を指名したところ、同株主は、原告小川の前記質問は前年度の株主総会で審議され尽くしている事柄についてのものであるから、第二号議案に移ってほしいと述べた。そこで、被告藤井は、第一号議案については既に採決済みであるから、第二号議案に入ることとする旨を宣し、提案者を代表して誰かが提案理由を説明するよう求めた。
ウ すると、原告早坂が手を挙げながら立ち上がったので、被告藤井が同原告を指名したところ、同原告は、第二号議案の提案理由を説明せず、第一号議案に関する請求原因6(三)(4)に記載の質問をし、これに対し、川口専務が回答した。
エ そこで、被告藤井は、再度、第二号議案の提案理由を説明するよう求めた後、立ち上がって手を挙げた原告宮崎を指名したところ、同原告は、自分が預かってきた委任状による議決権の数についての被告会社の照合の結果を教えてほしいとか、自己の提案にかかる緊急動議について賛否の数をカウントしなかった旨を議事録に記載してほしいなどと発言し、阿部総務課長が照合の結果を回答した。
オ そこで、被告藤井は、再度、第二号議案についての提案理由の説明をするよう求め、その上で、再度、原告早坂を指名したところ、同原告は、またも提案理由の説明をせず、第一号議案に関する請求原因6(三)(5)記載の質問をし、柏倉副社長及び渋江常務がこれに回答した。
カ 次いで、被告藤井が再度、原告宮崎を指名したところ、同原告は、阿部総務課長の前記回答と自分の集計の結果に差があるとか、動議についての挙手による採決について賛成数を数えてほしいなどと述べ、高山総務部長が、これに反論した。
キ 次いで、被告藤井が黒木株主を指名したところ、同株主は、被告会社の株主の構成、議決権行使数、委任状の数は、絶対的に被告会社の側の数が多いことは出席者全員に明白である旨を述べ、その上で、被告藤井に対し、質疑を打ち切って第二号議案の提案理由の説明に早く入ってほしいと要望し、この発言に対して、場内から多数の拍手がなされた。
ク この要望を受けて、被告藤井は、議事を進行する旨を宣言し、再度、第二号議案の提案理由の説明をするよう求めた。
ケ その直後、議場内は、被告藤井の右発言に賛成の拍手をする者、質問を求める者、質問が続いているのに多数決で採決してはならないと述べる者などが入り乱れ、騒然とした状態となったが、一呼吸置いても、提案理由を自分が述べると言う者は現れなかったので、被告藤井は、説明のない場合には採決に入ると述べた。その時、原告早坂は、同被告の右発言と一部重なる形で、「私がやります。」と述べたが、このとき、場内は、怒号が飛びかい非常に騒然とした状態となったため、同原告の右発言は聞き取りにくい状況であり、そのためか、同被告は同原告を指名しなかった。
コ その後、被告藤井は、「提案者からのご説明がございませんので、会社の方から反対の理由を説明いたします。」と述べ、柏倉副社長が被告会社の反対意見を述べた。
サ その後、被告藤井は、再度、第二号議案の提案理由の説明を求め、その上で、再度、原告早坂を指名したところ、同原告は、被告会社の側の株数が多数であるからといって、少数派の質問を充分させない議事進行には異議があるなどと述べて、議長不信任の動議を提出した。そこで、被告藤井は、賛成者の起立の方法により右動議の採決をして、否決された旨を宣言し、次いで、再度、第二号議案の提案理由の説明を求めた。
シ これに対し、議場からは、「説明はいらない。」などの野次が出たが、原告らは、同早坂が提案理由説明を放棄してはいないなどと述べたものの、誰もこの機会に提案理由を説明するとは述べなかった。
ス そこで、被告藤井は、採決をする旨を宣言し、引き続き、賛成三八万二〇三四株、反対一二二万三〇二三株、議決権数一九七万一〇九七株で、第二号議案は否決されたと述べた。
以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。
ところで、株主提案にかかる議案については、議長は提案者たる株主に対し、提案理由を説明する機会を付与すべきであるが、その機会を与えた以上、その機会に提案株主が提案理由を説明しようとしない場合には、右説明のないまま手続を進行させても違法でないというべきところ、右認定事実によれば、被告藤井は、第一号議案の採決を終えた後、何度も、提案者である原告らに対し、第二号議案の提案理由説明の機会を付与したのであり、これに対し、原告らは、原告早坂が、途中に一度だけ提案理由を説明すると述べたものの、被告藤井が指名しないと、その後、同被告の求めに応じて提案理由を説明することができたのにこれをせず、むしろ、自分達の気が済むまで質問した上でなければ提案理由を説明しない態度に出たため、同被告は、右説明を省略して採決をしたものであると認められるから、この一連の同被告の議事進行に、決議を取り消すべき瑕疵はないというべきである。
また、採決方法(同請求原因(4))について検討するに、前記認定によれば、被告藤井は、採決する旨を宣言した後、議場に諮ることなく、議決権及び賛否の数を述べて否決した旨を述べたというのであり、また、証人高山克郎の証言、これにより成立を認める乙第一六号証及び弁論の全趣旨によれば、本件総会後の正確な集計の結果では、右当時、右採決に加わることのできた議決権総数は一八八万三三七四株、このうち山交社員会及び被告会社役員の所有株式、議長宛委任状並びに同議案に反対する旨の議決権行使書を併せた株式数(以下「反対株式数」という。)は一一八万八九九一株、原告らの株式数、原告ら及びその同調者と被告会社が思料する者に対する委任状による株式数並びに同議案に賛成する旨の議決権行使書による株式数を合計した数(以下「賛成株式数」という。)は三八万六〇四〇株で、採決の結果自体には影響がないものの、いずれも被告藤井が述べた数とは異なっていること、右当時、本件総会開始直前に原告らが多数の委任状を提出したため、議決権数の再確認作業をしている途中であったが、右提出以前に一旦は確認し終えていた反対株式数は、右再確認によっても議決権総数の過半数を超えることが確実であったため、右再確認が終了するのを待つことなく、採決の時点で判明していた数値でもって採決をしたことが認められる。
ところで、株主総会における採決は、議案に対する賛成あるいは反対が所定の多数に達することが出席者に明らかであれば、賛否の数を精密に計算する必要はないというべきであるところ、黒木株主が、被告会社の株主の構成、議決権行使数、委任状の数は、絶対的に被告会社の側の数が多いことは出席者全員に明白である旨を発言し、この発言に場内から多数の拍手があったこと、右発言に対しては、原告らを含め出席者の誰も反論を言う者はなく、かえって、原告早坂は、第二号議案の審議途中に議長不信任の動議を提出した際、被告会社の側の株数が過半数であるからといって、小数派の質問を充分させない議事進行には異議がある旨を発言したことは前記認定のとおりであるから、本件総会においては、いずれの議案についても、被告会社の意見に賛成する株式が過半数を占めることは出席株主にも明らかであったと認めることができる。
また、第二号議案について、原告らが再提案をするに足るだけの賛成の議決権数を得たことを議長である被告藤井が発表し、この結論部分には本件総会後の正確な集計によっても変化がなかったことは前記認定のとおりである。
そうすると、第二号議案の採決方法についても、決議を取り消すべき瑕疵はないというべきである。
また、原告らは、柏倉副社長による被告会社の反対意見の内容及び原告早坂の議長不信任案の動議に対する採決手続に関し瑕疵があると主張(前者は請求原因6(四)(2)、後者は同(3))するが、前者の主張は昭和六三年八月一一日に、後者は同六一年九月八日に、初めてなされたものであるから、いずれも提訴期間経過後の主張として、それ自体失当というほかない。
(4) 同(五)(第三号議案の審議状況)について
同請求原因中、被告藤井が柏倉副社長に被告会社の反対意見を言わせたことは当事者間に争いがなく、この事実に、<証拠>を総合すると、第三号議案の審議状況は要旨次のとおりであったと認められる。
ア 被告藤井は、第二号議案の採決後、直ちに、第三号議案の審議に入る旨を宣言し、提案者に提案理由の説明をするよう求めた。
イ これに対し、原告早坂は、未だ第二号議案の提案理由を説明していないから、これを説明すると述べ、同議案の審議は終わったから第三号議案の提案理由を説明するよう何度も求める被告藤井との間で、押し問答になった。
ウ そこで、村井株主が被告藤井の指名を受けて、原告早坂が議長の発言許可も得ないで一人だけ発言するのは少数横暴であるから、厳重に注意してほしいこと、第二号議案については、議長から提案理由の説明をするよう求められたのに原告らは説明をしなかったものであり、こういうことではルールに則った議事進行とはいえないから、全ての株主が納得できるような議事進行をしてほしいことを述べた。
エ これを受けて、被告藤井は、再度、第三号議案の提案理由を説明するよう求め、さらに、説明を辞退するのであれば、会社側の説明だけで進行させる旨を宣言した。
オ しかし、議場からは、説明を辞退していないとの野次はあったものの、原告らから、この機会に提案理由を説明するとの発言はされなかった。
カ そこで、被告藤井は、柏倉副社長を指名し、同副社長が被告会社の反対意見を述べた。
キ 次いで、伊藤株主が、被告藤井の指名を受け、提案理由の説明がなく、被告会社の反対意見が述べられたので、議決権行使書ないし委任状の数がどうなっているのか伺いたいとして、採決を求めた。
ク そこで、被告藤井は、議決権数が一八八万三三七四株、賛成の株数が三九万一六四二株、反対の株数が一一八万三三八九株であり、反対多数で第三号議案は否決されたと述べ、閉会を宣言した。以上のとおり認められ、右認定を左右する証拠はない。
しかして、右認定事実によれば、被告藤井は、原告らに第三号議案についても提案理由を説明する機会を何度も付与したのに、原告らが、その機会に説明しなかったため、説明を省略して手続を進行させて採決したというのであるから、同被告の議事進行に決議を取り消すべき瑕疵はないというべきである。
また、採決手続については、<証拠>によれば、第三号議案の採決時点では、既に議決権の再確認を終了していて、被告藤井は、このうち、山交社員会及び被告会社役員の所有株式、議長宛委任状並びに同議案に反対する旨の議決権行使書を併せた株式数をもって議案への反対株式数とし、原告らの株式数、原告ら及びその同調者と被告会社が思料する者に対する委任状による株式数並びに同議案に賛成する旨の議決権行使書による株式数を合計した数をもって議案への賛成株式数として、それぞれ、その数を議場に報告したものであると認められるところ、同議案に反対する株式数が多数を占めることが出席株主に明らかであったことは前記(3)のとおりであり、また、右報告にかかる賛成株式数自体で再提案の要件を満たしていることも明らかであるから、被告藤井が、出席株主の株式数を計算することなく採決したことも、決議を取り消すべき瑕疵にはあたらないというべきである。
(5) 同(六)(社員及び会社関係株主の動員による質問、発言の妨害)について
第二及び第三号議案の審議状況は前記(3)及び(4)にそれぞれ認定したとおりであり、これによれば、右各審議における発言の大半を原告らが独占していたのであるから、右請求原因事実を個別に検討するまでもなく、それが右各議案に対する決議の取消をすべき瑕疵となるものでないことは明らかというべきである。
(6) 同(七)(1)(本件総会で発表された株数が不明確であること)について
第二及び第三号議案の各採決手続並びにそれが右各議案の決議を取り消すべき瑕疵にあたらないことは前記(3)及び(4)にそれぞれ認定、判示したとおりであり、また、その余の同請求原因事実は、右各議案の決議の取消事由足りえない。
(7) 同(2)(採決方法の瑕疵)は昭和六一年一二月二二日に、また、同(3)(議長不信任動議の審議手続の瑕疵)は同六二年五月一一日付準備書面で、初めて主張されたものであるから、いずれも提訴期間経過後の主張として、それ自体失当というほかない。
(8) 同(八)(審議時間)は昭和六一年一二月二二日に初めて主張されたものであるから、提訴期間経過後の主張として、それ自体失当というほかない。
(9) 同(九)(議決権行使の取扱いに関する違法)は昭和六三年四月一一日に初めて主張されたものであるから、提訴期間経過後の主張として、それ自体失当というほかない。
(10) 以上のとおりであって、請求原因6の主張はいずれもこれを採用することができない。
(三) したがって、本件取消請求は理由がない。
三被告服部に対する損害賠償請求について
1 同被告の挨拶における不法行為の成否について
(一) 請求原因7(一)(1)のうち、同被告が、本件総会の冒頭、被告会社の代表取締役会長として挨拶したこと、その中で同被告が「文書については全て日米商事の支出によるものであって」と述べたことを除く、その余の原告ら主張の供述をしたことは当事者間に争いがなく、右争いのない事実に、<証拠>を総合すると、同被告の本件総会における挨拶のうち、原告らが問題とする部分の詳細は次のとおりであったと認められ、<証拠>中この認定に反する部分は、右各証拠に照らすと、反訳の誤りと認められ、他にこの認定を左右する証拠はない。
(1) ところで、昨年夏以来、小川貞治、高橋栄五郎、早坂英夫、宮崎信三の四君名義の、会社を誹謗する反社会的文書が株主に頻繁に配布されております。また、彼らは本総会に二つの議案を出しております。株主提案権に基づく提案であって、違法ではありませんが、余り例のない、もちろん県内では初めてのケースであります。余計なこと言うな、何だおまえら。余計なこというな。黙って聞け。この三人は、今回の総会に報告する決算報告や提出議題の議案を株主各位に通知する前から委任状集めに奔走するという一般の常識では到底考えられぬ行動を起こしているのであります。この四人の株主は、いずれも、前社長鈴木恒吉君が実質的に支配している日米商事、山形トヨタの役員であります。文書については全て鈴木前社長の指示によるものであって、大多数の株主宛に会社が出した文書の中で詳しく述べていますので省略いたしますが、彼らの一連の文書は、ここ数年間の業績悪化の原因が経費の乱費、黙って聞け、にあるかのように書き立てています。これは、今日バス事業がおかれている社会環境や需要構造の変化など、時代の趨勢を無視した極めて幼稚な発想といってよいでしょう。彼らが主張するところの前体制時の黒字は、つまるところ、各種車両や施設の更新など、必要不可欠の投資を後に延ばして、償却費や金利負担を浮かして作った見せかけの利益であり、あるいは運賃改定などで生まれた一過性の黒字であります。
(2) また、小川君ら四人は、会社が自社株を買っているとか、不公正な方法で役員の持ち株を増やしていると非難しております。鈴木社長と四人は昨年から手段を選ばず、常識を、株式を買い集めております。既にある程度の数がその手に渡っておりますことは、はっきりいたしております。当社のごとく大衆資本の会社は、事あるごとに、反社会的言動で挑戦している特定の個人に、特に追放された元社長に株式が集中されることは、経営を不安定にする以外の何者でもありません。株式の安定化は経営の基盤であります。会社はやむを得ず、株主が株式を売却される場合は、安定株主へ仲介、斡旋をいたしております。鈴木君らの手段を選ばない株買い集めにより株価が高騰しており、そのために引き受け手が限られている訳であります。これを自社株とか不公正とかいうのは根拠のない中傷にすぎません。
(二) また、<証拠>を総合すると、被告服部の挨拶中、原告ら及びこれに同調する出席者のうちの一部の者が、こもごも、大声を張り上げて、同被告の挨拶内容を批判し、これを止めるよう求める野次を発したことから、これに対し、同被告は、「余計なこと言うな。何だおまえら。黙って聞け。」などと発言したことが認められる。
(三) ところで、<証拠>を総合すると、被告服部が右認定にかかる発言を含んだ挨拶をするに至るについては次の経緯があったことが認められ、この認定を左右する証拠はない。
(1) 被告会社では、もと鈴木恒吉が代表取締役社長の地位にあったが、昭和五四年、同人の経営方針に対し同社内で強い非難の声が起こり、労働組合、管理職及び関係会社の役員から退陣要求が出され、同年一一月一七日開催の取締役会で、同人を代表取締役社長から解任する旨の決議がなされ、同月一九日開催の臨時株主総会で、同人を取締役から解任する旨の決議がなされ、新社長に被告藤井が選任された。
(2) 被告会社は、鈴木前社長当時の昭和五四年七月期の決算では経常利益が八億円を超えていたが、被告藤井が社長に就任した後は経常収支が毎年悪化し、昭和五八年三月期の決算では、経常損失が四億円を超える結果となった。
(3) こうした中で、鈴木前社長は、昭和五八年六月一四日ころ、被告会社取締役会長被告服部宛に、被告会社の右経常収支の悪化は、被告服部が鈴木前社長時代の経営方針を否定して「出ずるをはかって入るを拡大する」との経営方針を打ち出し、さらには、寄付金等に濫費を重ねてきたためであるから、この際、同被告が被告会社の黒字経営、補助金等に頼らない自主経営に向けて身を挺して専念するか、さもなくば、自身の責任を明らかにしてけじめをつけるよう求める書簡を送り、さらに、同社の同年度の株主総会が終了した後の同年七月一一日ころ、同社取締役会長被告服部宛に、右総会において同被告が前回の書簡の趣旨に沿う具体的措置を講じなかったのは遺憾であり、同社の経常収支が昭和五四年七月の水準に回復するまで、被告服部が率先して取締役報酬を辞退するか、大幅に減額し、業績改善に向けて不退転の決意で専念するよう求める旨の書簡を送った。
(4) その後の同年八月二五日ころ、原告小川は、被告会社取締役社長被告藤井宛に、同社の同年三月期の業績が悪化したのは遺憾であり、ついては、ア 昭和五四年一二月以降、山形グランドホテルの第三者割り当て増資に応じた出資明細とその理由、イ 同ホテルに展示してあるマイヨールの彫像に支出された金額、所有形態及びその理由、ウ 昭和五四年一二月以降支出された寄付金、政治献金及び会社の目的外に支払われた金額の明細とその理由を明らかにするよう求める質問書を送ったが、被告会社は、同年九月一六日ころ、右要求を拒絶する旨回答した。
(5) 同年一〇月、原告らは、被告会社の各株主宛に、昭和五四年一二月一九日の臨時株主総会で自分達が鈴木前社長の取締役解任を不当であるとして反対したのに、主張が認められず、現経営陣が誕生したこと、現経営陣は鈴木前社長時代の堅実な経営方針を否定して「出ずるをはかって入るを拡大する」との経営方針を打ち出し、さらには、寄付金等に濫費を重ねてきたため、同社は前記(2)のとおりの経常収支の悪化を招いたこと、この業績悪化は異常なことであるのに、現経営陣は同年度の株主総会で陳謝はおろか、この点に一言も言及しなかったこと、そこで、自分達を代表して原告小川が前記(4)のとおりの質問書を提出したが、現経営陣は回答を拒否したこと、自分達は被告会社株主のため、また、同社の健全な発展のために努力する所存であるので一層の支援を賜わりたいことなどを記載した書簡を送った。
さらに、原告らは、同年一一月、現経営陣が、前回の書簡で触れたとおり、株主の疑問に謙虚に答えようともしなかったばかりか、業績悪化の責任を糊塗するため、不当に力で抑えようとしていることが明らかとなったとし、このようなことを看過することはできないこと、自分達は被告会社株主のため、また、同社の健全な発展のために努力する所存であるので格別の支援を賜わりたいこと、被告会社に自己株式の取得と思われる行為があったときには、同封の葉書にて知らせてほしいこと、同社の株式を売りたいときには自分達に連絡してほしいことなどを記載した書簡を被告会社の各株主宛に送った。
その後、原告らは、被告会社の複数の株主宅を訪問して株式を譲り受けるなどした。
(6) これに対し、被告会社は、同社取締役社長被告藤井名義で、昭和五九年三月二四日ころ、同社の株主に対し、原告らの前記のような行動は、「事実を歪曲して喧伝のうえ、株式を買い集め、同社への復帰を企図する鈴木恒吉元社長の意を体して行っているものと思われます。このような鈴木恒吉氏一派の言動を放置しておきますと、鈴木恒吉氏とそのグループの発言力が強まり、追放前のように、会社運営が混乱する事態に陥るやも知れません。鈴木恒吉氏の野望を断固阻止し、会社を護るには株式安定化が絶対条件であり、ここに株主の皆様にご協力をお願いする次第であります。」とし、鈴木が同社取締役を解任されるに至った経緯や、原告らの主張に対する反論を詳細に記載し、都合により株式を売却する場合には、被告会社において安定株主への相当額での売却を斡旋、仲介するので、同社へ連絡してほしい旨を述べた「株式安定化についてお願い」と題する書面を送った(なお、このうち、被告会社取締役社長被告藤井の名義で「株式安定化についてお願い」を送り、その中には、請求原因8(一)で原告らが主張する記載のあることは当事者間に争いがない。)。
(7) これに対し、原告らは、同年四月、被告会社の各株主に対し、第二及び第三号議案を株主提案したこと、本件株主総会に欠席する場合には、同封の原告ら宛委任状に記名・捺印の上、返送してほしいこと、先日、被告藤井名義の「株式安定化についてお願い」という文書が配られたが、その内容をみると、「現経営陣は自らには少しも反省するところがなく、かえって開き直りを続け、株主を株主とも思わず「会社」を「現経営陣」の私物とする態度が明白に表れていると思われます。これこそ、現経営陣が服部氏一派の専横支配下にあることの一つの証拠ではないでしょうか。」などと記載し、被告会社が「株式安定化についてお願い」の中でした原告らの主張に対する反論に対する詳細な再反論などを資料として添付した「株主提案権行使につきご協力お願い」と題する文書を送った。
なお、原告らは、右資料として添付した原告らの再反論中で、被告会社が寄付や政治献金をしていることについて、「殊更に山形新聞紙上、YBC、YTS等で報道することにより、服部敬雄氏の「慈善家」としての個人的評価(虚名にすぎない)を高めるためのものとして利用されていることは納得し難い。」と記載した。
(8) これに対し、被告会社は、同月、同社取締役社長被告藤井名義で、原告らを除く同社の株主に対し、同社は現在決算作業中であって、本件総会に報告する決算数字も、付議する議題、議案も未確定であるのに、原告らが「株主提案権行使につきご協力お願い」を株主各位に送付し、委任状を集約しようとしているのは極めて非常識であり、株主においては、原告らの委任状返送の要請に応じることなく、同社が六月中旬に発送予定の本件総会招集通知書を検討の上で、本件総会に出席するか、欠席する場合には、同通知書に同封する議決権行使書に議案ごとに賛否を表示して同社宛返送してほしい旨記載し、原告らの右文書における主張に対する反論を添付した「株主総会における議決権行使についてのお願い」と題する書面を送った(なお、被告会社取締役社長被告藤井名義で「株主総会における議決権行使についてのお願い」と題する書面を送付し、その中に「極めて非常識」という記載があることは当事者間に争いがない。)。
なお、被告服部が本件総会における挨拶で原告らの言動に関して述べた部分の具体的内容は、右書面及び前記「株式安定化についてお願い」に記載されたものを要約した内容となっている。
(9) これに対し、原告らは、被告会社の各株主に対し、同年五月二八日ころ、自分達は昨年より被告服部一派の公私混同・専横支配の経営によってもたらされた大巾な業績悪化について、その責任を追求してきたが、現経営陣は反省するどころか、法律を無視し、従業員を懐柔し、あるいは株主を欺瞞して、自社株買い集めをし、私的な利益をはかっていること、また、被告服部は、同人が支配する山形グランドホテルの欠損補填や、自己の個人的趣味である美術品の購入をするため、取締役会の事前の承認すら経ないで、被告会社に多額の出費をさせており、これらは同被告の公私混同・専横支配の典型というほかないが、他の取締役や監査役は、右同被告の行動を抑制する機能を果たしていないこと、このような状況下で同社の業績回復と一層の発展を期するためには、先ず従来の被告服部一派の公私混同・専横支配の経営姿勢を改めさせる必要があること、そこで、自分達は、被告服部の支配下にない公正な、物の言える監査役の選任を本件総会の議案として提案し、また、これまでの業績悪化の責任を明確にするため、取締役の報酬の一部減額の提案も併せて行ったので、各株主には、その主旨を理解して、本件総会に欠席する場合には委任状を送付してほしいこと、などを記載した「株主総会委任状ご協力お願い」と題する書面を送った。
さらに、原告らは、同年六月にも、「服部・藤井体制七つの問題点」として、「経営の失敗を続けながら、株主に陳謝し、再建計画を約束するどころか、逆に自分の独善的考えを主張し居直っていること。」、「しかも、自分が記録した最悪の状況より良くなったからとして、業績を改善した等と吹聴し、株主を愚弄していること。」、「自らは、言論即実行、反三猿主義、民主的で開かれた経営等と宣伝しながら、実は批判を許さぬ言論弾圧、権力独裁を続けていること。」などと記載し、原告らの第二及び第三号議案の提案に賛同して本件総会に欠席する場合には委任状を送付してほしいことを求めた書簡を被告会社の各株主に送った。
(四) そこで、以上に認定の各事実を総合して検討するに、被告服部は、株主総会という公開の場で原告ら四名を名指しで非難するという挨拶の域を超える行為をしたものであって、その中には、「反社会的」とか「極めて幼稚な発想」といった、措辞に著しく適切を欠く文言も含まれており、その内容からみても、原告らの名誉感情を逆撫でするところがあったといわねばならないが、同被告が右挨拶に至るまでには、原告らも、被告会社の各株主に対し、数回にわたって、これまた措辞に著しく適切を欠く文言を含んだ、同社の当時の経営陣、特に被告服部の企業運営を強く非難する文書を配布していたのであり、そのうちの最後の二回は、被告会社が二回にわたって反論文書を各株主に配布した後になされたものであったこと、被告服部の前記(一)に認定した挨拶内容自体は、既に被告会社が二度にわたって各株主に送付していた各文書における記載を要約したものであること、出席株主は予め原告らと被告会社の双方から文書の送付を受けていて、両者間における論争ないし非難合戦の内容を了知していたことなども併せ考えると、被告服部の右挨拶をもって、原告らに慰謝料を支払わねばならぬほど違法なものとまでいうことはできない。
また、右挨拶中の、「余計なこというな。何だおまえら。黙って聞け。」などの発言は、これが山形県でも有数の会社の経営者の発言かと思わざるを得ないけれども、これは原告ら及びこれに同調する出席者のうちの一部の者が前記認定の野次を発したために、これに対抗してされたもので、原告ら全員に向けられたものとはいえないし、右経緯に鑑みると、右発言をもって、その前提となる野次を発した者に対して慰謝料を支払わなければならない違法なものとまでいうことはできない。
なお、原告らは、同被告の挨拶により、原告らの株主としての提案権及び質問権が侵害されたとも主張するが、本件全証拠によるも、そのような事実は認められない。
したがって、本件総会における被告服部の発言が原告らに対する不法行為を構成するとの原告らの主張はこれを採用することができない。
2 本件総会の混乱に関する不法行為の成否について
原告らは、被告服部が本件総会における不公正な議事運営を指示して原告らの提案権及び質問権を侵害したと主張するが本件全証拠によるも、原告らの提案権や質問権が具体的に侵害された事実は認められないから、原告らの右主張は前提を欠き、これを採用することができない。
3 以上のとおりであるから、原告らの被告服部に対する請求は、その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がない。
四被告藤井に対する損害賠償請求について
1 文書の送付による不法行為の成否について
被告会社が同社取締役社長被告藤井の名義で「株式安定化についてお願い」及び「株主総会における議決権行使についてのお願い」と題する各書面を、原告らを除く同社の各株主に送付したこと、右各文書の内容、右各文書を送付するに至るまでの経緯は、いずれも、前記三1(三)に認定したとおりである。
そして、右各認定にかかる各文書の内容、それらを発するに至った経緯に照らすと、右各文書に原告らが請求原因8(一)で主張する記載があるからといって、これをもって、原告らに慰謝料を支払わねばならぬほどの違法性があるとはいえないというべきである。
また、原告らは、右各文書の送付により原告らの株主権行使が不当に妨害されたと主張するが、本件全証拠によるも、そのような事実は認められない。
したがって、右各文書の送付が、原告らに対する不法行為を構成するとの主張は、これを採用することができない。
2 本件総会の混乱に関する不法行為の成否について
原告らは、被告藤井が本件総会において不公正な議事運営をなし、原告らの提案権及び質問権を侵害したと主張するが、本件全証拠によるも、原告らの提案権や質問権が具体的に侵害された事実は認められないから、原告らの右主張は前提を欠き、これを採用することができない。
3 以上のとおりであるから、原告らの被告藤井に対する請求は、その余の点の判断に及ぶまでもなく理由がない。
五結論
以上の次第で、原告らの被告らに対する請求はいずれも理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官斎藤清實 裁判官小野田禮宏 裁判官始関正光)
別紙株主提案議案
一 提案事項1 監査役一名選任の件
(1) 業務執行の正常化と自浄作用を強化するため監査役を一名増員する。
(2) 候補者として、高橋一郎氏(弁護士)を推薦する。
(3) 提案理由
原告小川は、山形交通監査役後藤祐一氏に対して、前記のような山形交通取締役による適切妥当な業務執行とは思われない行為につき、再三差止めその他適切な措置を講じるよう要請したにもかかわらず、何等適切な措置が講じられない。従って、現経営陣の姿勢を正すとともに、業務執行の正常化と自浄機能を強化するため監査役の増強を提案する。
二 提案事項2 取締役の報酬減額の件
(1) 取締役の報酬を月額金五〇〇〇円以内とする。
(2) 提案理由
山形交通の昭和五四年七月期の経常利益は、八億二一八六万円で、その当時の取締役報酬は、月額四七五万円(使用人兼務の場合は使用人給与は零)であった。しかるに、昭和五八年三月期では、経常損失が四億〇四四五万八千円に達し、減配せざるをえない事態に立ち至ったにもかかわらず、取締役報酬は月額八八一万四千円(使用人兼務の場合の使用人給与は不明)となっている。
従って、県からの補助金を受けながら、このような報酬を受けていることは、社会的に見ても妥当なこととはいいがたく、また、株主としての立場からは、業務執行者としての取締役が、率先して業績改善に立ち向かう姿勢を示してもらうため、経常利益が昭和五四年七月期の水準に回復するまで、取締役の報酬を、昭和五四年当時の金額に減額改訂することを提案する。
別紙2
委任状記載の住所
委任状の氏名
株主台帳の
ナンバー
株主台帳の株主名
株数
1
寒河江市大字宮内250
設楽真
30054
シタラガンタ
2
2
寒河江市西根2-6-1
大沼計逸
39075
オオヌマケイイチ
478
3
大江町左沢436
高橋健一郎
33873
タカハシキウゾウ
6
4
西川町大字沼山233
荒木辰
34885
アラキヨシヤ
1
5
川西町大字玉庭
村岡茂志
14258
ムラオカモイチ
33
5名
520
別紙4
別紙3
別紙5
委任状
株主名簿
株式台帳
住所
氏名
住所
氏名
氏名
1
山形市蔵王温泉54
岡崎博弥
ヤマガタシザオウオンセン54
オカザキヒロミ
岡崎博弥
2
山形市緑町3の2の3
丹野臣子
ヤマガタシミドリチョウ3-2-3
タンノシゲコ
丹野臣子
3
赤湯温泉旅館協同組合
代表者 石岡與市
ナンヨウシアカユ393
アカユオンセンリョカン
キョウドウクミアイリジチョウ
イシオカヨイチ
赤湯温泉旅館
協同組合理事長
石岡与市
4
山形県南陽市三間通
436番地の1
赤湯財産区管理者
山形県南陽市長
新山昌孝
ナンヨウシミツマドオリ436-1
ナンヨウシアカユザイサンク
カンリシャ ナンヨウシチョウ
シンヤママサタカ
南陽市赤湯財産区
管理者南陽市長
新山昌孝
5
上山市八日町2-9
堀野きみ子
カミノヤマシヨウカマチ2-9
ホリノキミ
堀野きみ
6
尾花沢市銀山新畑417
名義人小関宏相続人
小関ノエ
オバナザワシオオアザギンザンシンハタ417
コセキヒロシ
小関宏
7
山形市大字中野目
107ノ1
阿部良啓
ヤマガタシオオアザナカノメ107-1
アベヨシヒロ
阿部良啓