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山形地方裁判所 昭和60年(わ)64号 判決 1985年12月11日

本籍及び住居

山形県寒河江市字下河原一九六第地の三〇

会社役員

伊藤謙一

昭和四年一一月二〇日生

本店所在地

山形県寒河江市字下河原一九六番地の三〇

伊藤建設株式会社

右代表者

伊藤茂夫

右伊藤謙一に対する贈賄、法人税法違反、右伊藤建設株式会社に対する法人税法違反各被告事件について、当裁判所は、検察官太田文保出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人伊藤謙一を懲役一年六月に、被告人伊藤建設株式会社を罰金一三〇〇万円に処する。

被告人伊藤謙一に対し、この裁判確定の日から三年間その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人伊藤建設株式会社(以下「被告人会社」という。)は、山形県寒河江市字下河原一九六番地の三〇に本店を置き、総合建設業等を営む資本金五〇〇〇万円の株式会社であり、被告人伊藤謙一(以下「被告人伊藤」という。)は、昭和四六年四月一日の右被告人会社の設立当初から同六〇年五月二六日までの間同会社の代表取締役の地位にあり、同会社の業務全般を統括していたものであるところ、

第一  被告人伊藤は、昭和五四年四月から同五八年三月までの間、山形県土木部寒河江建設事務所(以下「建設事務所」という。)所長として在任し、建設事務所が発注する土木建築工事に関し、指名競争入札における入札参加業者の指名選定、工事予定価格の決定、並びに、山形県本庁が発注する建設事務所管轄区域内の土木建築工事に関し、指名競争入札における入札参加業者の指名人に関する意見書及び工事設計書等の山形県本庁への提出等の事務を統括掌理していた平吹健次郎に対し、

一  昭和五七年五月二八日、山形県寒河江市大字西根字石川西三五五番地所在の山形県西村山合同庁宿舎の建設事務所所長室前廊下において、建設事務所が発注した昭和五七年度行沢川荒廃砂防工事等の指名競争入札参加業者の選定に関して被告人会社が入札参加業者として指名され、また工事設計金額の教示を受ける等便宜かつ有利な取扱いを受けたことに対する謝礼及び将来も同様の取扱いを受けたいとの依頼の趣旨の下に、現金一〇万円を贈与し

二  同年七月八日、宮城県名取郡秋保町湯元字薬師一〇七番地岩沼屋ホテル三六七号客室内において、前記一記載と同様の趣旨の下に、現金五万円を贈与し

三  山形県寒河江市大字宮内一番地に本店を置き、土木建築の請負業等を営む楳津建設株式会社(以下「楳津建設」という。)の代表取締役である楳津泰正(以下単に「楳津」という。)と共謀のうえ、被告人伊藤においては、前記一記載と同様の趣旨の下に、楳津においては、建設事務所が発注した新庄・大江線稲沢橋架設工事(第一工区)、同道路改良工事等の指名競争入札参加業者の選定に関して楳津建設が入札参加業者として指名され、また工事設計金額の教示を受ける等便宜かつ有利な取扱いを受けたことに対する謝礼及び将来も同様の取扱いを受けたいとの依頼の趣旨の下に、宿泊飲食等金一万九八五九円相当(同宿した女性三名を含む六名の総額を頭割りした金額)の饗応接待をし

四  前記の楳津と共謀のうえ、同年一一月一一日から同月一三日にかけて、石川県金沢市下堤町一七番地旅館三竹屋及び同県加賀市山代温泉一九区五四番地山代グランドホテル等において、被告人伊藤においては、建設事務所が発注した同事務所車輌基地新築屋外整備工事及び山形県本庁が発注した右車輌基地(建築)工事の各指名競争入札参加業者の選定等に関して被告人会社が入札参加業者として指名され、また工事設計金額の教示を受ける等便宜かつ有利な取扱いを受けたことに対する謝礼及び将来も同様の取扱いを受けたいとの依頼の趣旨の下に、楳津においては、建設事務所が発注した新庄・大江線路の改良、維持修繕、舗装工事等の指名競争入札等参加業者の選定に関して楳津建設が入札参加業者として指名され、また一部の工事について設計金額の教示を受ける等便宜かつ有利な取扱いを受けたいとの依頼の趣旨の下に、宿泊飲食等金四万四〇八一円相当(同宿した女性三名を含む六名の総額を頭割りした金額)、金沢市内等のタクシーによる観光として金六六六六円相当(同行した女性三名を含む六名の総額を頭割りした金額)、石川県小松空港から東京都羽田空港までの航空機による連行の利益として金一万五六〇〇円相当、合計金六万六三四七円相当の各饗応接待をし

五  同年一一月一二日、前記山代グランドホテル四二〇号客室内において、前記四記載と同様の趣旨の下に、現金一〇万円を贈与し

六  昭和五八年二月二二日、前記一記載の建設事務所所長室において、山形県本庁が発注した昭和五七年度寒河江川災害合併工事等の指名競争入札参加業者の選定に関して被告人会社が入札参加業者として指名され、また工事設計金額の教示を受ける等便宜かつ有利な労扱いを受けたことに対する謝礼の趣旨の下に、現金一〇万円を贈与し

もって右平吹健次郎の職務に関して賄賂を供与し

第二  被告人伊藤は、被告人会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、生コンクリート・骨材等の仕入単価及び数量の水増し計上、未成工事支出金の完成工事原価への付替え並びに重機の架空賃借料等の計上等の方法により所得を秘匿したうえ、山形県寒河江市中央二丁目二番三五号所在の寒河江税務署において、同税務署長に対し、

一  昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得額が九二五〇万八五五三円あったのにかかわらず、同五七年八月三一日、その所得金額が六九五四万九二一七円でこれに対する法人税額が二六〇四万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第二四号の四)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額三五六八万五四〇〇円と右申告税額との差額九六三万八二〇〇円の法人税を免れ

二  同五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得額が一億七一四九万九六六一円あったのにかかわらず、同五八年八月三一日、その所得金額が九五八二万四七三七円でこれに対する法人税額が三六四六万五八〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第二四号の五)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額六八二三万七八〇〇円と右申告税額三一七七万二〇〇〇円の法人税を免れ

三  同五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度における被告人会社の実際所得額が一億四四二三万九四三二円あったのにかかわらず、同五九年八月三一日、その所得金額が一億二〇四四万二五七七円でこれに対する法人税額が四八三一万四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(昭和六〇年押第二四号の六)を提出し、もって不正の行為により被告人会社の右事業年度における正規の法人税額五八五八万九五〇〇円と右申告税額との差額一〇二七万九一〇〇円の法人税を免れ

たものである。

(証拠の標目)

判示全事実について

一  被告人伊藤(以下証拠関係の表示については、単に「被告人」とのみ記載する。)の当公判廷における供述判示冒頭の事実について

一  登記官作成の昭和六〇年四月六日付(被告人会社についてのもの)商業登記簿謄本の写及び同年七月二九日付商業登記簿謄本

判示第一の全事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年四月一八日付及び同月二九日付(一八丁のもの)各供述調書

判示第一の冒頭の事実について

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年四月二三日付供述調書(一九丁のもの)の謄本

一  柴崎恒男の司法警察員に対する昭和六〇年四月二三日付供述調書五通の謄本

判示第一の一及び六の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年五月一〇日付供述調書(一九丁のもの)

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年五月一九日付供述調書(八丁のもの)の謄本

一  岡崎安子の検察官に対する昭和六〇年五月九日付供述調書(三〇丁のもの)の謄本

一  司法警察員作成の昭和六〇年五月七日付検証調書及び同月八日付実況見分調書の各謄本

判示第一の一の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年五月一〇日付(四五丁のもの)及び同月一二日付(「私か当時の寒河江建設事務所長であった平吹所長に」で始まるもの)各供述調書

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年五月一一日付供述調書の謄本

判示第一の二及び三の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年五月一八日付(七〇丁のもの)、同月二〇日付(五丁のもの)及び同月二一日付(一〇丁のもの)各供述調書

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年五月一八日付供述調書の謄本

一  菅原公明及び高橋庄次郎の司法警察員に対する各供述調書の謄本

一  司法警察員作成の昭和六〇年四月二四日付及び同年五月一六日付各写真撮影報告書の謄本

判示第一の三及び四の事実について

一  登記官作成の昭和六〇年四月六日付商業登記簿謄本(楳津建設についてのもの)の写

判示第一の三の事実について

一  楳津泰正の検察官に対する昭和六〇年五月一七日付供述調書(五〇丁のもの)

一  富樫節子(昭和六〇年五月二三日付)、倉田妙子及び村山美香の検察官に対する各供述調書の謄本

判示第一の四及び五の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年四月二三日付、同月二四日付及び同月二五日付各供述調書

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年四月二五日付供述調書の謄本

一  中山久雄の司法警察員に対する昭和六〇年二月六日付供述調書の謄本

一  司法警察員作成の昭和六〇年二月一八日付写真撮影報告書(山代グランドホテルについてのもの)及び同年四月二七日付実況見分調書の各謄本

判示第一の四の事実について

一  楳津泰正の検察官に対する昭和六〇年四月二九日付供述調書(六四丁のもの)

一  富樫節子(昭和六〇年四月一一日付及び同月一三日付)、斎藤道子(同月八日付、同月二一日付及び同月二八日付)、早坂静枝(同月八日付及び同月二七日付)及び築達允皐推(同月二二日付)の検察官に対する各供述調書の謄本

一  本田登及び西川姚子の司法警察員に対する各供述調書の謄本

一  司法警察員作成の昭和六〇年二月一八日付写真撮影報告書(旅館三竹屋についてのもの)の謄本

判示第一の六のものについて

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年五月一二日付供述調書(「私は昭和五八年二月中旬ころ、当時寒河江建設事務所長であった平吹健次郎所長に」で始まるもの)

一  平吹健次郎の検察官に対する昭和六〇年五月一五日付供述調書の謄本

一  高橋鐵雄の司法警察官に対する供述調書の謄本

判示第二の冒頭の事実について

一  被告人の検察官に対する昭和六〇年七月五日付及び同月三〇日付各供述調書

一  検察事務官作成の昭和六〇年八月一日付電話聴取書

判示第二の一ないし三の事実について

一  岡崎安子の検察官に対する昭和六〇年五月九日付(五〇丁のものと五三丁のもの)及び同年七月二三日付(二通)の各供述調書

一  佐竹良子(昭和六〇年七月二四日付の二通)、大江幸喜、佐竹正勝、大泉眞、渡邊正吾、山川敏美及び岩井勝征の検察官に対する各供述調書

一  村越高明作成の上申書

一  検察官作成の昭和六〇年七月二九日付及び同月三〇日付各捜査報告書

一  大蔵事務官作成の間接経費調査書、現場経費調査書、減価償却費調査書、簿外預金等調査書、特殊経費調査書、役員賞与調査書、法人税法上の限度額計算等調査書及び事業税認定損調査書

判示第二の一の事実について

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五六年七月一日から同五七年六月三〇日までの事業年度分のもの)一綴(昭和六〇年押第二四号の四)

判示第二の二の事実について

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五七年七月一日から同五八年六月三〇日までの事業年度分のもの)一綴(昭和六〇年押第二四号の五)

判示第二の三の事実について

一  押収してある法人税確定申告書(昭和五八年七月一日から同五九年六月三〇日までの事業年度分のもの)一綴(昭和六〇年押第二四号の六)

(法令の適用)

被告人伊藤の判示第一の一、二、五及び六の各所為はいずれも刑法一九八条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第一の三及び四の各所為はいずれも刑法六〇条、一九八条、罰金等臨時措置法三条一項一号に、判示第二の各所為はいずれも法人税法一五九条一項に該当し、被告人会社については、その代表者である伊藤謙一のなした判示第二の各所為はいずれも同法一六四条一項、一五九条一項にそれぞれ該当するが、被告人伊藤については、各所定刑中いずれも懲役刑を選択することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、同法四七条本文、一〇条により最も刑及び犯罪の重い判示第二の二の罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で懲役一年六月に、被告人会社については、同法四八条二項により合算した金額の範囲内で罰金一三〇〇万円にそれぞれ処し、被告人伊藤に対し、同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右刑の執行を猶予することとする。

(被告人伊藤の量刑の理由)

本件贈賄は、被告人伊藤が単独又は楳津と共謀のうえ、建設事務所長である平吹に対し、判示の趣旨の下に、約九カ月の間、六回(日時としては四回)にわたり、合計金四三万六二〇六円相当の現金贈与や饗応接待を行なったという事案であり、本件法人税法違反は、会社の利益平準化を図ると共に被告人伊藤個人で自由に支出しうる裏金を捻出するため、判示の方法により所得を秘匿したうえ、三年間にわたり、合計金五一六八万九三〇〇円の法人税を免れたという事案である。

ところで、本件贈賄については、関係各証拠によれば、被告人伊藤は平吹に対し、建設事務所長として四年間在任中、本件以外にも同様な方法で接待を繰り返していたことが認められ、その態様は、公務出張の機会を利用しての現金贈与、温泉地のホテル等での饗応接待やその機会を利用しての現金贈与であって、平吹の公務員としての対面を保ちたいが一方ではその地位を離れて個人的な亨楽をも味わいたいとの心理的な弱点をついた悪質なものであり、また楳津との共謀による犯行においては、被告人伊藤が企画する等主導的な役割を果たしていると認められる。また、本件法人税法違反は、ほ脱税額が高額であり、ほ脱税額の正当税額中に占める罰合も三事業年度を通じて約三二パーセントと高く、捻出した裏金は合計約三〇〇〇万円に達し、その相当部分を被告人伊藤の個人的支出に使用しており、(本件贈賄資金も右裏金から支出された。)さらには、経費の水増し計上のために取引先に虚偽の請求書を作成させ、取引先にも本来不必要な帳簿処理の負担を強いたという悪質なものである。このように、会社または個人的な利益のため、長期にわたりかつ継続的に、平吹に対し賄賂を供与しあるいは法人税を免れ、もって公務員の職務の公正を侵害し、また国民としての納税義務に違背した被告人伊藤の刑事責任は重いといわなければならない。

しかしながら、本贈賄については、賄賂供与額がそれほど高額ではなく、本件法人税法違反については、所得秘匿方法の主たるものはある期の利益を別の期の利益へ振替える帳簿操作であって、架空経費の計上や売上除外といった悪質な方法は少なく、ほ脱税額は重加算税、延滞税と共に全額納入済みである。また、被告人伊藤は本件贈賄の犯行発覚後伊藤建設の役員を辞任する等改悛の情を表わしており、さらに本件犯行を除けば、伊藤建設社長として会社及び地域社会にそれなりの貢献をし、これといった前科もないこと等、同被告人に有利な諸事情もみられるので、被告人伊藤については刑の執行を猶予するのが相当と思科した次第である。

よって主文のとおり判決する。

(裁判所裁判官 渡邊公雄 裁判官 大島哲雄 裁判官 永野圧彦)

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