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山形家庭裁判所長井出張所 平成3年(家)304号 審判 1993年6月08日

申立人 甲野太郎

主文

申立人が事件本人を養子とすることを許可する。

理由

一  本件申立ての経緯

一件記録、事件本人の実母・甲野デオネシアに対する審問結果及び当裁判所家庭裁判所調査官○○○○作成の調査報告書によれば、以下の事実が認められる。

1  甲野デオネシア(1960年12月8日生。フィリピン名デオネシア・ロペス。以下「デオネシア」という。)は、フィリピン共和国国籍を有する女性であるが、本国在住中、同国籍を有するロナルド・サントス(以下「ロナルド」という。)と知り合って同居を始め、1985年2月25日婚姻届を了した(なお、一件記録によれば、デオネシアとロナルドの婚姻は、同国地方戸籍登録官事務所の婚姻届簿に登録されていることが認められる。)。そして、デオネシアは、同年5月22日同人らの子である事件本人(女児)を出産した。

2  デオネシアとロナルドは、同居後約3ヶ月間、デオネシアの両親らと共に生活していたが、突然家を出てしまい、以後所在不明となっている。

3  申立人は、○○町の結婚相談所の紹介によりデオネシアと結婚することとし、1988年7月10日、フィリピンのセント・ドミニク・パリッシュ教会において同国の方式により挙式婚姻して、同年(昭和63年)7月21日○○町に婚姻届を提出した。デオネシアは、同年7月14日、日本に入国し、外国人登録を行った後、申立人の住所地において地元の工場に勤務しながら平穏な家庭生活を営んでいる。

4  事件本人は、デオネシアが申立人と婚姻し、日本で生活するようになった以降、デオネシアの両親と生活していたが、申立人が事件本人との養子縁組を希望し、またデオネシアも同女との同居を求めていたことから、申立人は、平成3年10月30日当裁判所に本件を申し立てた。なお、事件本人に対する旅券の発行が遅れたため、事件本人は、同4年7月18日にデオネシアの祖母と共に来日した。

その後、事件本人は在留資格を取得して、申立人夫婦のもとで監護養育されることとなり、2学期からは○○町立○○小学校(1学年)に通学を始めた。事件本人の日本語の上達は早く、家庭及び学校生活上大きな問題はない状態で推移している。

二  当裁判所の判断

1  本件は、日本国籍を有する申立人が、フィリピン共和国国籍を有する事件本人との間で養子縁組をしようとする場合であるから、法例20条1項により、養親となる申立人については日本民法が、養子となる事件本人の保護要件についてはフィリピン民法がそれぞれ適用されることになる。

2  申立人は、前記のとおり、住所地に居住する成年者であり、事件本人を養子としてデオネシアと共に生活することを希望していること、デオネシアも、申立人が事件本人の養親となることを同意し、かつ希望していることは、一件記録及びデオネシアに対する審問結果から明らかに認められる。

3  次に、事件本人の保護要件について検討する。

(1)  フイリピン民法184条によれば、外国人がフイリピン国籍を有する未成年者を養子としようとするときは、同民法のほか「児童少年福祉法典」(大統領命令第603号 The Child and Youth Welfare Code, Presidential Decree 603)の規定に従うことになる。

(2)  フイリピン民法188条(2)によれば、養子となる者の実親の同意書が必要とされるところ、事件本人の実母デオネシアの同意があることは前記のとおりであるが、実父ロナルドについてはその所在が不明で、同意を得られない状況にある。

しかし、同条が実親の同意書を要求しているのは、同民法上、未成年者に限り養子とでき(同法183条第2文)、養子縁組の効力として実親の養子に対する親権が終了するものとされていることから(同法189条(2))、親権を失う実親の意思の確実性を担保しようとする趣旨であると考えられる。そして、同法212条によれば、両親の一方が不在(absence)の場合は、現在する他方の親が親権を継続して行使するものと規定されているのであるから、本件の場合、現在する実母デオネシアが単独親権者として同意することにより、同法188条(2)の要件は満たされるものと解するのが相当である。

(3)  次に、児童少年福祉法典25条、36条は、養子縁組は、最低6ヶ月間の試験監護期間を経た後、これによって子の最善の利益が促進されると判断される場合に裁判所によって決定される旨規定している。これは、同法典32条が規定するように、実親の性急な意思決定を防止し、子の利益と福祉を確保する趣旨と解され、わが国の家庭裁判所による審判と同一の性格を有するものと考えられるから、この決定は、法例22条により、わが国の家庭裁判所がフイリピン共和国の管轄裁判所に代行して行うことができるものと解される。

なお、同法典35条第2文には、裁判所が子の利益に最も合致すると認めるときは、職権又は申立てにより、試験監護期間の短縮・免除を認めることができる旨規定されており、この判断も家庭裁判所において行うことができると解されるが、本件については、事件本人の年齢、養親となる申立人の家庭や近隣との適合性を考え、相当期間経過を観察することが相当と考えられる。

一件記録によれば、申立人は、事件本人が来日した平成4年7月18日以降、デオネシアと共に住所地において事件本人を監護養育していること、事件本人は、小学校に通い始めた当初は他の児童からいじめられ、登校を嫌がったこともあったが、その後担任教師の配慮によって問題が解消し、現在では日本語の学習も向上して学校生活に適応していること、事件本人は「花子」と呼ばれ、申立人の家庭、近隣、学校等で格別問題となることはなく生活していること、申立人は、デオネシアと同人との間の子・一郎(平成元年5月16日生)、申立人の実母甲野きみ(73歳)及び弟甲野次郎(45歳)と同居し、○○コンクリート株式会社に勤務しており、経済的に問題はないこと、デオネシアの実母ミランダ・ロペスも事件本人が申立人の養子となることを希望していることがそれぞれ認められるほか、申立人らは、今後とも住所地で生活を続け、事件本人を養育していく意向であり、以上を総合すれば、申立人は事件本人の養親として適格者であると共に、養子縁組を認めることが事件本人の福祉に適うものと認めることができる。

三  結論

以上の事実によれば、本件申立てを許可することが事件本人の最善の利益を促進するものと認めるのが相当である。よって、主文のとおり審判する。

(家庭審判官 石川恭司)

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