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山形簡易裁判所 昭和42年(ろ)37号 判決 1968年1月30日

被告人 佐藤正美

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は被告人は昭和四二年一月二一日午後三時頃米沢市塩井町塩野地内道路上において軽四輪自動車を運転中大型貨物自動車と接触し左側後部を破損した事故を起したのに、事故発生の日時場所等法令の定める事項を直ちに、もよりの警察署の警察官に報告しなかつたものであるというのであつて、

<証拠省略>によれば昭和四二年一月二一日午後三時頃米沢市塩井町塩野地内の幅員約四メートルの道路を被告人が軽四輪自動車を運転し北進した際、石川代右エ門運転の大型ダンプカーが南進して来るのにあい、右大型ダンプカーが積雪等のため左側通行ができない状況であつたので、被告人はすれ違いのため自車を道路右側によせ停車し、右石川においてすれ違い可能とみて発進したが、悪路のためすれ違いの終ろうとする瞬間ダンプが少しく傾いてその荷台の蝶つがいが被告人の自動車に触れ被告人の自動車の後部窓枠附近に物損を生じた(ダンプカーは蝶つがいの塗装剥離の程度で物損と称すべきものは生じなかつた)が、双方共直ちに、事故発生の日時、場所等法令の定める事項をもよりの警察署の警察官に報告しなかつたことが認められる。しかして道路交通法は道路における危険を防止しその他交通の安全と円滑を図るため第七二条第一項に車両等の交通による物の損壊があつたときは当該車両等の運転者は法令の定める事項を警察官に報告すべき旨を定めたのであるから事故を起した者が軽々に事故が軽微であるからとして報告義務がないものと判定することは許されないが、さりとて如何なる事故についても必ず報告義務ありとすることは社会常識にも反する場合もあるので事故の態様、物損の程度その他諸般の状況よりみて警察官に報告する必要のないものと認められるもの、即ち社会的にみて交通安全について極めて軽微な影響あるに過ぎないものについては、法の目的からみて報告義務を負わせないのを相当とする場合もあるべく、事故の態様等によつては事故の当事者双方にその義務を負わせず、その一方にのみ負わせるのが相当である場合もあり得るものと解する。しかして前示各証拠によれば本件物損は被告人の車にのみ生じたことは前認定のとおりで且つ両車の接触について被告人のよけ方に多少の難点があつたとしても故意過失の責むべきものは認められず結局物損については被告人は純然たる被害者の立場にあつたこと、物損は後部窓枠部の幅二糎位のアルミサツシが長さ四糎位もぎ取られ、その後方の板金部分がほぼ三角形に塗装が剥れて凹み、その上部に長さ七糎のものから二、三糎位の幾筋かの線を引いたように塗装が剥れて擦過した痕跡を残したが、運転には支障なく被告人は事故後一〇ケ月余その儘使用しており、物損額については窓枠全部取換えた場合一万二百円を要するも比較的軽微であることが認められこれを前認定の事故の態様を合せ考え本件事故については被告人に報告義務がないものと解するのが相当である。

よつて本件公訴事実は罪とならないから刑事訴訟法第三三六条前段により無罪の言渡をなすべきものとし主文のとおり判決する。

(裁判官 長澤啓太郎)

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