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岐阜地方裁判所 平成2年(行ウ)9号 判決 1992年9月14日

原告

戸崎孝一

右訴訟代理人弁護士

浦田益之

武藤壽

被告

岐阜労働基準監督署長山田明正

右指定代理人

渡辺隆志

服部勝

村上正己

清水修

杉本利夫

江崎隆雄

竹中良郎

青木新平

小林章男

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一原告の請求

被告が、原告に対して昭和六一年九月三〇日付でした労働者災害補償保険法による障害補償給付に関する処分を取り消す。

第二事案の概要

本件は、鉄工所に勤務し、荷下ろし作業中に尾骨骨折等の業務上傷害を負ったとして、被告に対し、労働者災害補償保険法に基づく障害補償給付を請求した原告が、右請求に対して被告が行った障害補償給付を支給する旨の処分は違法であるとして、右処分の取消を求める行政訴訟である。

一  当事者間に争いのない事実等

1  原告は、(住所略)所在の戸崎鉄工所に勤務していたが、昭和五五年一〇月二四日、同所工場内において、翌日の作業準備のため二トントラックの荷台に乗って積荷を点検して降りるときに、足元のワイヤーロープに足が絡まり、荷台から転落し、下にあったH鋼に臀部(尾骨)を打ち付けるなどして(以下「本件事故」という。)、業務上負傷した(争いがない。)。

2  原告は、直ちに岐阜市茜部新所所在の整形外科城南病院(以下「城南病院」という。)において診察を受けたところ「左膝打撲及び尾骨打撲」と診断され(<証拠略>)、それ以降昭和五六年一一月二八日まで同病院に通院して治療を受け、その後、同月二九日、岐阜県羽島郡笠松町泉一一番地所在の医療法人蘇西厚生会松波病院(以下「松波病院」という。)に転医し、それ以降昭和五七年一月一九日まで同病院に通院して治療を受け、さらに、同月二〇日には岐阜市司町四〇番地所在の岐阜大学医学部附属病院(以下「岐大附属病院」という。)に転医し受診したところ、同病院における検査の結果「尾骨骨折」と診断されたため、それ以降同年二月一三日まで同病院に入院し、その間の同年一月二五日、同病院において尾骨切除の手術(以下「本件手術」という。)を受けるなどの治療を受け、その後も同年七月三〇日までは同病院において、同月三一日以降昭和六〇年一〇月三一日までは松波病院において(<証拠略>)、それぞれ通院して治療を受けた結果、同日、同病院において、症状固定により治癒したとの診断を受けた(書証を掲示した箇所を除き、争いがない。)。

3  しかし、原告には本件事故による受傷による後遺障害が残り、そのため、原告は、椅子に座ることも、あぐら座位もできず、単に正座が数分間可能であるに過ぎないばかりか、立っていると尾部の痛みが増大するなどの症状が残存した(争いがない。)。

4  そこで、原告は、右治癒の後、本件事故による受傷に起因する障害が残存するとして、被告に対し、障害補償給付の請求をしたところ、被告は、昭和六〇年一二月二三日、労働者災害補償保険法施行規則(以下「規則」という。)別表第一障害等級表に定める障害等級(以下「障害等級」という。)第一一級に該当するものと認め、同等級に応ずる障害補償給付を支給する旨の処分をした(争いがない。)。

5  原告は、右決定を不服として、岐阜労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)に対し審査請求をしたところ、同審査官は、昭和六一年九月一〇日、原告の障害の程度は障害等級第九級の七の二に該当するとして、被告の右処分を取り消す旨の決定をしたので、被告は、同月三〇日、新たに障害等級第九級に応ずる額の障害補償給付を支給する旨の処分(以下「本件処分」という。)を行った(争いがない。)。

6  しかし、原告は、なおも本件処分に不服であったので、審査官に対して本件処分に関する審査請求をしたが、昭和六二年三月三〇日、審査官は原告の右審査請求を棄却する旨の決定をした(争いがない。)。

7  そこで、原告は、さらに右決定を不服として、労働保険審査会(以下「審査会」という。)に再審査請求をしたが、平成二年三月三一日、同審査会は原告の再審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決書は同年四月一三日あるいは同月一六日ころ、原告に送達された(争いがない。)。

二  争点

本件事故による原告の業務上受傷の症状固定時における後遺障害の程度及び右後遺障害が障害等級第九級を超える障害等級に該当する障害であるか否か。

(原告の主張)

本件受傷に起因する後遺障害として、原告にはせき柱の変形及び尾部の焼け付くような痛みが残った。そのため、原告は、正座が数分間可能であるものの、椅子に座ることも、あぐら坐位になることもできず、また、立位及び歩行は可能であるものの、それも三〇分ないし一時間が限度であり、その後は横になって休まざるを得ないばかりか、寝るときは仰臥位をとれないので、側臥位あるいは腹臥位をとる必要がある。

これらの原告の症状を前提にすれば、原告の後遺障害にふさわしい障害等級は次のとおりである。

まず、せき柱の変形ないし運動障害については、尾骨を切除したことは障害等級第一一級の五「せき柱の変形を残すもの」に該当し、原告が立位を三〇分ないし一時間しか保持できないことは、体位保持のために常時コルセットの装着を必要とする場合と同視できるから、障害等級第六級の四「せき柱に著しい運動障害を残すもの」に該当するというべきである。

次に、精神障害(疼痛等感覚異常)については、原告の場合、第一に、座って行う仕事はできず、第二に、立仕事もその継続時間は三〇分ないし一時間に限定されている上、その後は横になって休まざるを得ないのであり、この状態は、労働能力が一般人との対比上二分の一以下に低下していると判断せざるを得ない状態であるから、少なくとも障害等級第七級の三「軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当するというべきである。

したがって、原告の障害等級は、障害等級第六級の四あるいは障害等級第六級各号と同程度に該当するか、少なくとも障害等級第七級の三に該当するというべきであるから、被告のした本件処分は違法であり、取り消されるべきである。

(被告の主張)

まず、原告は、本件事故による尾骨骨折のため、岐大附属病院で本件手術を受け、右手術により、尾骨の一部が摘出され、また、尾骨部に縦の手術創瘢痕が残り、尾骨の一部が切除されていることは、X線写真の像からも認められる。したがって、原告の尾骨切除による障害の程度は障害等級第一一級の五「せき柱に変形を残すもの」に該当する。

また、原告は、尾骨部の疼痛によって立位も一時間程度なら可能であるが、それ以上は耐え難い疼痛によって横にならざるを得ないと主張するが、仮にそうであるとしても、右疼痛は、尾骨骨折及び本件手術によって当該部位に発症した器質的な異常の存在が原因であると認められるから、受傷部位の神経症状と考えるのが妥当である。したがって、原告に残存する神経障害の程度は、「局部にがん固な神経症状を残すもの」となり、障害等級第一二級の一二に該当するものである。

そして、右尾骨の疼痛は尾骨骨折ないし尾骨の切除を原因としていると考えられるので、両者を別障害として併合するのは適当ではないため、結局、原告に対する障害等級は、上位の等級である第一一級が相当であるというべきである。

この点、原告は、障害等級第六級が相当である旨主張するが、前述のように、原告の場合は、本件手術により尾骨の一部が三つの塊として摘出され、また、尾骨部に縦の手術創瘢痕が残り、エックス線写真の像からも尾骨の一部が切除されていることが認められるにすぎないから、右障害は、「せき柱に著しい運動障害を残すもの」には該当せず、第六級各号記載のものと同程度のものともいえない。また、すくなくとも障害等級第七級の三に該当するとの原告の主張については、前述のとおり、原告の疼痛の原因は、局部の神経系統の障害であって、神経系統の機能又は精神の障害ではないから失当である。

第三争点に対する判断

一  証拠(<証拠略>)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

1(本件事故による原告の受傷の部位及び受傷の程度)

前述のとおり、原告は、本件事故によって受傷し、城南病院及び松波病院を経て、岐大附属病院に入院し、同病院において尾骨骨折と診断されたが、昭和五七年一月二〇日における同病院への入院時の所見では、仙骨には他覚的な異常はないが、尾骨は変形し、圧痛と叩打痛が認められた。肛門よりの指触診で異常可動性が認められ、エックス線写真では尾骨が左に偏位し、側面像では第二尾骨上方に骨折線を認め、九〇度に屈曲偏位していた。

また、同病院における昭和五七年一月二五日の本件手術の状況及びその際の尾骨骨折の所見は次のとおりであった。すなわち、本件手術は、腰麻酔下に四点支柱フレームを使用して、患者(原告)をして腹臥位とし、肛門の上方五センチメートルの部位から上方へ七センチメートルの皮切りが行われたが、その際、触診上、第一尾骨と第二尾骨との間に明らかな異常可動性が認められた。そこで、骨膜下に剥離後、可動性のある場所が鋭的に切断され、尾骨を鋭的、鈍的に剥離し、三つの塊として摘出された。新たに生じた尾骨の断端面は触診上平滑で軟骨様であった。摘出後、骨片が残存しないこと、残存する尾骨に異常可動性のないこと及び直腸に損傷を加えていなことを確認の上、手術は終了した。本件手術後尾骨部には縦の手術創瘢痕が残ったが、症状固定時にはその部分はよく治癒していた。

2(原告の疼痛について)

本件手術後も原告は尾骨部に疼痛を訴えていたが、右原告の疼痛に対する所見は次のとおりである。

(一)  岐大附属病院松永隆信医師の所見(<証拠略>)

原告の疼痛について、昭和五七年二月一三日の同病院退院時、臥位では尾骨痛がないものの、五分間立っていると鈍痛があり、仰臥位では眠れない状態であった。

同年三月二五日には、一時間三〇分程度立位保持可能となり、四〇〇メートル程度の歩行が可能であった。

同年五月二一日には、一キロメートルの歩行が可能になったが、同年六月一八日には前屈して力を入れると疼痛が増強するということであった。

昭和六一年四月一七日には、仙骨圧痛を認め、とくに尖端部の圧痛が強く、臀部を叩打しても尾骨痛を訴えた。

また、疼痛の程度については、尾骨痛はあるものの、立位などの作業能力は残存している。しかし、座位作業は困難であるため、就労可能な職種は立位作業が主体の職種に限られる。

(二)  松波病院浅井正大医師の所見(<証拠略>)

昭和六〇年一〇月三一日(症状固定時)の原告の疼痛の状況は次のとおりであった。

原告には、知覚障害はないが、手術創瘢痕部の尾骨より仙骨にかけて圧痛があり、創瘢痕周囲に直径五センチメートル程度の範囲で灼熱痛を訴える。尾骨部には常に自発痛があり、立位・座位・仰臥位では疼痛が増強し、そのため座位・仰臥位は不可能である。

(三)  中部労災病院吉田一郎医師の所見(<証拠略>)

原告には、高度の尾骨部痛があり、座位・仰臥位は疼痛のため著しく困難である。

原告の疼痛の程度は、尾骨切除という明確な他覚的所見があり、がん固な神経症状を残すものと言える。既に長期間を経過しており、疼痛の回復は期待できない。

(四)  岐阜労働基準局地方労災医綾仁富弥医師の所見(<証拠略>)

昭和六一年一二月九日の診察時、原告の尾骨部皮膚に縦に長さ五センチメートルの手術創痕があり、圧痛がある。また、切断された尾骨の断端に強い圧痛がある。

3(疼痛の原因について)

原告の疼痛の原因について、岐大附属病院松永隆信医師は、「尾骨骨折によって、その近傍を通る肛門尾骨神経が損傷を受けたか、あるいは骨折治療の過程で生じた瘢痕組織に当該神経が巻き込まれて現在の疼痛を惹起していることが原因と考えられる。」と判断し、また、中部労災病院吉田一郎医師は、「疼痛の原因は尾骨骨折及びこれに対する尾骨切除術等により、手術創周辺の軟部組織及び切除部断端の圧迫により生ずる。」と判断した。

4(原告の自覚症状及び生活状況)

原告の自覚症状及び生活状況は次のとおりである。

(一)  症状固定後も、本件手術をした尾骨部に握りこぶし大の範囲で常時焼け付くような痛みがある。そのため、椅子に座ること及びあぐら座位になることはできず(ただし、正座なら臀部に圧力がかからないように両手で支えれば数分間は可能である。)、また、就寝時も仰臥位の姿勢をとることができない。

(二)  立位は一時間程度は可能であるが、二、三〇分をこえると尾骨部の疼痛が次第に増大し、一時間以上立っていることができず、その場合は横にならないとひどい痛みが翌日まで続く。歩行は最高で一キロメートルが限度である。

(三)  現在、全く就労しておらず、自宅で洗濯機のスイッチを入れる程度の家庭内の雑用をして生活している。食事の時は立ち膝の姿勢であり、排便は和式便所で臀部を浮かした姿勢で普通にでき、排便時の痛みはない。

(四)  天候のよい日は、三〇分程度自宅の周辺を散歩している。また、五分程度(距離にして、五〇〇メートルないし七、八〇〇メートル。)なら、腰を浮かした状態で自転車に乗ることも可能であり、ときおり、自転車で近所に買物に行くこともある。

二  右認定の事実を総合すれば、本件事故による原告の業務上の受傷に基づく後遺障害について次のとおり判断することができる。

まず、原告は、本件事故によって、第二尾骨上方を骨折線とする尾骨骨折が生じたため、岐大附属病院における本件手術によって、骨折した尾骨尖端部を三つの塊として摘出されたのであるから、原告には、他覚的な後遺障害として尾骨部に器質的な異常の存在が認められる。

次に、原告の疼痛に関しては、原告の尾骨部には握りこぶし大の範囲で圧痛(尾骨尖端部は強圧痛)ないし常時焼け付くような痛みが存在すること、そのため、原告は臀部に圧力がかからないように両手で支えた姿勢で正座が数分間可能であるものの、椅子に座ること及びあぐら座位になることはできず、また、就寝時は仰臥位の姿勢をとることができないこと、立位保持は可能であるが、二、三〇分以上立っていると次第に尾骨部の疼痛が増大するため、一時間が限度であること、同様に歩行は一キロメートルが限度であること、自転車に乗ることは可能であるが、五分程度が限度であること、以上の諸症状が後遺障害として認められる。ただし、これらの後遺障害はいずれも、原告の下肢の関節等の可動領域に制限があるためにこれらの体位保持が機能的に不可能であるというものではなく、すべて尾骨部の疼痛に起因するものであって、右疼痛は、尾骨骨折によってその近傍を通る肛門尾骨神経が損傷を受けたことによるものか、あるいは骨折治療の過程で生じた瘢痕組織に当該神径が巻き込まれたことによるものか、それとも尾骨骨折及びこれに対する尾骨切除術等により、手術創周辺の軟部組織及び切除部断端の圧迫によるものかのいずれかであると考えられ、いずれにしても、原告の疼痛は骨折・切除した尾骨部周辺の末梢神経が損傷したかあるいは刺激を受ける結果生ずるものであると認められる。

なお、原告は、立位は最大一時間が限度であり、その後は横にならざるを得ないのであるから、一日の立位保持時間は一時間が限度である(したがって、原告の一日の労働可能時間は一時間が限度である)旨主張し、原告本人尋問の結果及び<証拠略>には右主張に沿う供述部分もある。しかしながら、前記認定のとおり、原告の立位保持による疼痛は時間的経過によって次第に増大していくものであること、また、右疼痛の原因が骨折・切除した尾骨部周辺の末梢神経が損傷したかあるいは刺激を受ける結果生ずるものであることを考慮すると、立位を保持することによって増大した尾骨部の疼痛は、その後、横になるかあるいは立位以外の姿勢をとれば、ある程度の時間の経過によって次第に消退し再び立位保持が可能になるものと判断する余地があり、一時間の立位保持によって横にならざるを得ない程の激しい疼痛が翌日まで消退せずに残存すると認めることはできない。

したがって、原告の労働能力については、座位作業は困難であるが、立位作業の作業能力は相当程度残存しているものというべきである。なお、原告の場合、尾骨部に圧迫等の刺激を与えさえしなければ、屈曲姿勢を保持することは可能であると認められるから、工夫次第では座位作業も不可能ではないと考えられる。

三  そこで、次に、右認定の原告の後遺障害を前提として、それに相応する障害等級について検討する。

まず、尾骨骨折及び骨折部位の切除については、それが、障害等級第一一級の五「せき柱に奇形(変形)を残すもの」に該当することは当事者間に争いがなく、(証拠略)によれば、同障害等級にいう「せき柱の変形」とは、エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼が認められ、せき椎固定術後の運動可動領域が正常可動範囲の二分一程度に達しないもの、又は、三個以上の椎弓切除術を受けたものをいうところ、前述のとおり、原告は本件事故によって、エックス線写真上明らかに尾骨を骨折し、本件手術によって骨折した尾骨の一部を三つの塊として摘出したものであるから、原告の右後遺障害は障害等級第一一級の五「せき柱に奇形(変形)を残すもの」に該当するものと認められる。

次に、原告の尾骨部の疼痛についてであるが、右疼痛は、尾骨骨折ないし骨折部位の切除手術によって生じたものであり、しかもその範囲は尾骨部周辺の握りこぶし大の範囲に限られていること、原告は右疼痛によって椅子に座ることもあぐら座位になることもが(ママ)できず、立位も一時間程度しか保持できないが、それらはいずれも下肢の運動可動領域の制限によるものではなく、疼痛の増大によるものであること、右疼痛の原因は、尾骨骨折によってその近傍を通る肛門尾骨神経が損傷を受けたことによるものか、あるいは骨折治療の過程で生じた瘢痕組織に当該神経が巻き込まれたことによるものか、それとも尾骨骨折及びこれに対する尾骨切除術等により、手術創周辺の軟部組織及び切除部断端の圧迫によるものかのいずれかであると考えられるのであるから、以上の事実を総合すると、結局、原告の尾骨部に残存する疼痛は「局部の神経系統の障害」というべきものであり、「局部にがん固な神経症状を残すもの」として、障害等級第一二級の一二に該当すると考えるのが相当である。

そして、原告の尾骨部の疼痛は、尾骨骨折ないし尾骨の切除から派生したものであるから、両者を別障害として規則一四条三項によるべきではなく、両者を包括して一個の身体障害と評価してその上位等級によることが相当であるから、結局、原告の本件後遺障害に対する障害等級は上位等級である第一一級であるというべきである。

この点、原告は、立位を三〇分ないし一時間しか保持できないことは、常時コルセットの装着を必要とする場合と同視できるから、原告の後遺障害は「せき柱に著しい運動障害を残すもの」として障害等級第六級の四に該当すると主張するが、(証拠略)によれば、障害等級第六級の四の「せき柱に著しい運動障害を残すもの」とは、広範なせき椎圧迫骨折又はせき椎固定術に基づくせき柱の硬直もしくは背部軟部組織の明らかな器質的変化のため、運動可動領域が正常可動範囲の二分の一以上制限されたもの又は常時コルセットの装着を必要とする等著しい過重障害のあるものをいい、また、障害等級第八級の二の「せき柱に運動障害を残すもの」とは、エックス線写真上明らかなせき椎圧迫骨折又は脱臼が認められ、もしくはせき椎固定術に基づくせき柱の硬直又は背部軟部組織の明らかな器質的変化のため、運動可動領域が正常可動範囲のほぼ二分の一にまで制限されたもの、あるいは頭蓋・上位頸椎間の著しい異常可動性が生じたもののいずれかに該当するものをいうが、原告の後遺障害は、尾骨を骨折し、尾骨の一部が切除され、それに起因してせいぜい肛門尾骨神経等の末梢神経が損傷したか刺激を受けているにすぎず、そもそも、せき柱に運動障害が生じているわけではないばかりか、立位を一時間しか保持できないことが、常時コルセットの装着を必要とする場合と同視できるものでないことは明らかであるから、原告の右主張は採用の限りではない。

また、原告の労働能力は一般人との対比上二分の一以下に低下していると判断せざるを得ない状態であるから、少なくとも障害等級第七級の三「軽易な労務以外の労務に服することができないもの」に該当するとの原告の主張については、前述のとおり、そもそも原告の疼痛は「局部の神経系統の障害」によるものであって、「精神の障害」でないことはもちろん「神経系統の機能の障害」ともいえないばかりか、仮に「神経系統の機能の障害」に該当するとしても、前述のとおり、原告は尾骨部の疼痛によって、座位作業は困難であるものの、立位作業能力は相当程度残存していると認められ、また、尾骨の一部が切除されていること及び尾骨部に疼痛があること以外の障害はなんら存しないのであるから、その程度は、せいぜい障害等級第九級の七の二の「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」に該当するに過ぎないから、原告の右主張も採用することはできない。

四  以上のとおり、原告の後遺障害に対する障害等級は第一一級が相当であり、すくなくとも第九級を超えるものではないから、原告の後遺障害に対する障害等級は第九級に該当するとして障害補償給付をすることとした被告の本件処分は適法である。

よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 川端浩 裁判官 青山邦夫 裁判官 東海林保)

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