大判例

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岐阜地方裁判所 平成4年(行ウ)5号 判決

原告

寺町知正(以下「原告<1>」という。)

(ほか二〇名)

原告<1>を除く原告ら訴訟代理人弁護士

河合良房

安藤友人

鷲見和人

仲松正人

笹田参三

山田秀樹

岸本由起子

冨田武生

矢島潤一郎

山﨑則和

野呂汎

浅井岩根

井口浩治

織田幸二

太田寛

原田彰好

柴田義朗

宮田陸奥男

石塚徹

村松いづみ

籠橋隆明

被告

岐阜県知事 梶原拓

右訴訟代理人弁護士

渡邊一

事実及び理由

第三 争点に対する判断

行政事件訴訟法第九条は、取消訴訟の原告適格について規定する。同条にいう当該処分の取消しを求めるにつき「法律上の利益を有する者」とは、当該処分により自己の権利若しくは法律上保護された利益を侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者をいうものと解すべきところ、当該処分の根拠となる行政法規が、不特定多数者の具体的利益を専ら一般的公益の中に吸収解消させるにとどめず、それが帰属する個々人の個別的利益としてもこれを保護すべきものとする趣旨を含むと解される場合には、このような利益も右にいう法律上保護された利益に当たり、当該処分によりこれを侵害され又は必然的に侵害されるおそれのある者は、当該処分の取消訴訟における原告適格を有するものというべきである。そして、当該行政法規が不特定多数者の具体的利益をそれが帰属する個々人の個別的利益としても保護すべきものとする趣旨を含むか否かは、当該行政法規の趣旨・目的、当該行政法規が当該処分を通して保護しようとしている利益の内容・性質等を考慮して判断すべきである(最高裁判所平成四年九月二二日第三小法廷判決・民集四六巻六号五七一頁)。

そこで、以下右のような見地に立って、原告らが本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有し、原告らに右取消しを求める原告適格があるか否かについて検討する。

森林法第一〇条の二は、開発行為許可制度について定めている。同条第一項本文は、地域森林計画の対象となっている民有林において開発行為をしようとする者は、都道府県知事の許可を受けなければならないと規定し、同条第二項は、都道府県知事は、右許可の申請があった場合において、「当該開発行為をする森林の現に有する土地に関する災害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域において土砂の流出又は崩壊その他の災害を発生させるおそれがあること」(第一号)、「当該開発行為をする森林の現に有する水害の防止の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水害を発生させるおそれがあること」(第一号の二)、「当該開発行為をする森林の現に有する水源のかん養の機能からみて、当該開発行為により当該機能に依存する地域における水の確保に著しい支障を及ぼすおそれがあること」(第二号)、「当該開発行為をする森林の現に有する環境の保全の機能からみて、当該開発行為により当該森林の周辺の地域における環境を著しく悪化させるおそれがあること」(第三号)のいずれにも該当しないと認めるときは、右申請を許可しなければならないと規定している。

ところで、森林法は、その第一条において、同法の目的が「森林計画、保安林その他の森林に関する基本的事項を定めて、森林の保続培養と森林生産力の増進とを図り、もって国土の保全と国民経済の発展とに資すること」にあることを明らかにしているが、同法が個人の権利あるいは具体的利益を直接保護することを目的とするものであるとの趣旨は、右の規定からは読み取ることができない。そして、開発行為許可制度について定める同法第一〇条の二においても、同法の右目的を受けて、第三項で「前項各号の規定の適用につき同項各号に規定する森林の機能を判断するに当たっては、森林の保続培養と森林生産力の増進に留意しなければならない。」と規定して、森林の現に有する災害防止機能、水害防止機能、水源かん養機能及び環境保全機能を判断するに当たっては、森林の保続培養と森林生産力の増進に留意しなければならないとしていること、他方において、第四項で「第一項の許可には、条件を附することができる。」と規定しつつ、第五項で「前項の条件は、森林の現に有する公益的機能を維持するために必要最小限度のものに限り、かつ、その許可を受けた者に不当な義務を課することとなるものであってはならない。」と規定して、同条の許可が公益的観点からなされるべきものであることを明らかにしていることに照らして考えると、開発行為許可制度は、同法が目的としている森林の保続培養及び森林生産力の増進に留意しつつ、災害防止機能、水害防止機能、水源かん養機能及び環境保全機能等森林の現に有する公益的機能の確保を図ることを目的とするものであると考えるのが相当である。

そして、森林法は、保安林については、保安林の指定又は解除に「直接の利害関係を有する者」は森林を保安林として指定すべき旨又は保安林の指定を解除すべき旨を農林水産大臣に申請することができると規定(第二七条第一項)し、また、農林水産大臣が保安林の指定又は解除をしようとする場合には、右「直接の利害関係を有する者」がこれに異議があるときは、意見書を提出し、公開の聴聞手続に参加することができると規定(第二九条、第三〇条、第三二条)しており、保安林制度においては一般的公益と並んで個人の個別的利益をも保護していると解されるのに対し、開発行為許可制度においては右のような規定を置いていないことを併せ考えるならば、同法においては、開発行為の許否は専ら森林が現に有する前掲災害防止機能等の公益的機能の保全の観点からなされるのであって、同法は、前記の保安林の指定及び解除のように同法に明文の規定を置いている場合以外には直接これが帰属する個人の個別的利益を保護するものではないと解するのが相当である。

そうであるとすれば、原告らが個人として有すると主張する権利又は利益は、森林法によって「国土の保全」等の目的が実現されるに伴って生ずる一般的公益が保護される結果として確保される反射的利益にとどまり、これを侵害されるとする原告らは本件許可処分の取消しを求めるにつき法律上の利益を有するとはいえず、原告らには右取消しを求める原告適格がないから、原告らの本件訴えはいずれも不適法というほかはない。

なお、原告らは、椿野開発が被告に提出し、被告が所持する本件開発行為許可申請書類一式の文書提出命令の申立てをしたところ、被告は、右文書のうち、開発区域位置図、現況図及び土地利用計画平面図(乙第二ないし第四号証)を任意に提出した。しかし、以上判示のとおり、原告らに原告適格が認められないから、原告らの原告適格との関係において右文書を取り調べる必要はないし、本件許可処分の違法性を取り調べる必要もない。したがって、右文書は、その「証すべき事実」との関係において取り調べる必要がないものであり、右申立てについてはこれを却下する。

よって、原告らの本件訴えをいずれも却下することとする。

(裁判長裁判官 日高千之 裁判官 鍬田則仁 伊藤繁)

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