大判例

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岐阜地方裁判所 昭和30年(ワ)341号 判決

岐阜信用金庫

富士火災海上保険株式会社

一、原告多賀と被告との間に昭和二十九年六月三十日原告等主張の如き原告多賀所有の別紙物件を保険の目的として火災保険普通保険約款による保険金一千万円保険料九万九千五百円保険期間昭和二十九年七月一日より昭和三十年七月一日午後四時迄一カ年間とする火災保険契約が締結せられ、更に昭和三十年六月三十日保険料九万二千円保険期間は右保険契約の保険期間の終了する同年七月一日午後四時より引続き一カ年間保険の目的並に保険金は右旧契約と同一なる保険契約が締結せられたこと、保険の目的たる建物等が原告主張の如く焼失し、これにより原告多賀がその主張の如き損害を被つたことは各当事者間に争がない。

二、被告は本件保険契約は合意解除された旨主張しているから、先ずこの点につき判断する。証人の供述、成立に争なき乙証拠を綜合すれば、昭和三十年七月十一日被告会社岐阜南支部長春日井光治が原告多賀を訪れた際、同人と原告多賀代表者加藤勇との間に感情の対立を生じ、遂に同夜電話を以て加藤勇が本件契約を解除する旨通知するに至つたこと、その後春日井光治は加藤勇に対し翻意を求めて対談せんとしたがその機を得ず、やむなく同月二十三日原告多賀の申出に応ずる態度をきめ、書面を以てその旨申送り右書面はその頃原告多賀に到達したこと、従つて本件契約はこの時合意解除せられるに至つたものなることを認定することが出来る。右認定に反する証人加藤しず、同道家鎗次、原告多賀代表者加藤勇の供述は措信しない。原告多賀は本件保険金一千万円の保険契約の外に当時四百万円と二百万円の二口の保険契約が存続しており、被告は右二口の契約については本件保険事故によりその支払をなしながら一通の電話によつて本件契約のみを解除するというが如きは、特段の事由なき限り到底ありえない旨抗争し、当時右二口の保険契約が存続していたことは当事者間に争がないが、前掲証人の供述を綜合すれば、右四百万円と二百万円の保険料の支払方法につき原告多賀と春日井との間に十回払の月賦弁済契約が締結されており、本件契約解除の申出があつた当時においては、既に右二口の保険料の支払は完了し、原告多賀代表者は右の事実を了知していたこと、しかるに本件契約の保険料については第一回の九千二百円の支払が終つたばかりであることを認めることができ、右認定事実に徴するときは、既に保険料の全額払込を終つた契約までも解除するというが如きは原告多賀にとつては何等の必要も利益もないのであるから、原告多賀の右主張は理由がない。次に原告多賀は被告は本件契約を将来に向つて解除しながら、受領保険料全額を返還するというが如きは、被告会社自体としての基本的事実に矛盾する旨抗争するが、原告多賀は春日井との間に本件契約の保険料の支払方法につき十回払の月賦弁済契約を締結していたこと当事者間に争なく、前掲乙第七号証、証人春日井光治(第一回)、同永田邦武の供述を綜合すれば、春日井は原告多賀より第一回の保険料の支払として九千二百円を受領していたが、右金員を被告会社に支払つたのみでは契約の成立が認められないので、右春日井は二万八百円を原告多賀のため被告会社に立替え支払つたこと、しかるに原告多賀代表者と春日井の意見の対立から前認定の如き解除の申出があつたので、春日井は原告多賀より右自己の立替金の返還をうけることは困難であり、やむなく春日井は被告会社名古屋支店に赴き右立替払の事情を打明けたところ、同支店においては本件契約につき未だ再保険の手続がとられていなかつたので、本件契約を初めから存しなかつたものとして処置するに至つたこと、原告多賀の契約解除の申出も右の如き原状回復的解除の申出を含んでいたことを認めることができるから、右原告多賀の主張は理由がない。なお原告多賀は本件契約を解除するについて被告は当事者間はもとより本件保険金請求権に利害関係を有する者に対し適宜の処置をなすべきであるに拘らず、何等の処置をなさず普通郵便に付して本件契約を解除するというが如き又は本件保険事故発生後に保険料を郵便に付して送金するが如きことは到底首肯できない旨抗争するが、前記認定事実に徴し理由なく、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

三、ところで、本件保険契約が前記の如く合意解除されたとしても、右契約に基く保険金請求権が原告金庫の質権の目的となり、又は抵当権者特約条項に基き原告金庫に譲渡されているとすれば、少なくとも原告金庫に対する関係においては、被告は右合意解除を主張し得ないものといわねばならない。而して本件保険契約が昭和二十九年六月三十日締結せられた保険契約の継続契約であり、右旧契約に基く保険金請求権が質権の目的となり又は抵当権者特約条項に基き原告金庫に譲渡せられているとすればその効力は当然本件契約に及び、被告は右合意解除を以て原告金庫に対抗し得ないものといわねばならない。そこで前記昭和二十九年六月三十日締結せられた保険契約に基く保険金請求権が原告金庫主張の如く抵当権者特約条項に基き原告金庫に債権譲渡せられたものか、或いは被告主張の如く質権の目的となつているに過ぎないものかの点はしばらく措き、本件新契約が旧契約の継続契約であるかどうかについて判断する。原告金庫の全立証によるも本件契約が旧契約の継続契約と認めるに足らず、却つて証拠を綜合すれば、保険契約の継続契約の場合においては火災保険普通保険約款の規定に従い契約者より保険申込書をとらず、保険証券の発行をもなさず、保険料の支払に対し継続保険料領収証を発行するのみにて右領収証と従前の保険証券とを以て新保険証券に代える簡易な手続が一般にとられていること、しかるに原告多賀代表者加藤勇から原告多賀の原告金庫に対する債務が四、五、百万円あるが、原告金庫に対しては当時原告多賀及その代表者加藤勇と被告との間に存した二百万円及四百万円の二口合計金六百万円の保険契約上の権利につき担保を設定すればよいから、本件保険契約については担保を設定しない旨述べたので、右契約の勧誘に赴いた春日井は旧契約の継続契約としての手続をとらず新規の手続をとり通常の保険料領収証を発行したことを認めることができ、右認定事実に徴すれば、本件契約は旧契約の継続契約とは認めがたく、新規の契約と解するのが相当である。これに反する証人加藤しず、原告多賀代表者加藤勇の供述は措信しない。尤も前掲乙第七号証の本件火災保険申込書側上部に継なる朱印が押捺されていることが認められるが、証人永田邦武、同春日井光治(第一回)の供述を綜合すれば、右印は新に申込のあつた保険の目的が前契約のそれと同一で、しかもその物件の置かれている周囲の状況が前契約当時と変りがなければ再保険の係において更に慎重なる調査をする必要がないので、その手続を省くために押捺したにすぎず、継続契約を表わすものでないことを認めることができ、他に被告会社内部において特に本件契約を継続契約として取扱つたものと認めるに足る証拠はなく、又抵当権者特約条項の規定上右認定の如き契約を継続契約として取扱うべきであるとする趣旨の規定は窺はれず、前記乙第二号証同第五号証に見られる「継続契約」なる文字も成立に争のない乙第四号証裏面記載の普通保険約款第二十五条と同様に解すべく、これを別異に解すべき理由なく、その他成立に争のない甲第三号証の二に本件契約が旧契約の継続契約なる旨の記載があるが、弁論の全趣旨よりするも右は誤記と認むるの外なく、他に本件契約が旧契約の継続契約であることを認めるに足る証拠はない。

四、以上の理由により本件保険契約は原告多賀との関係においては既に解除せられて居り原告金庫との関係においても本件契約は旧契約の継続契約ではなく新規の契約と認めるの外ないから、原告等と被告との間に旧契約について抵当権者特約条項の合意が存すると旧契約による保険金請求権につき質権が設定せられているとに論なく新規の契約である本件契約にその効力は及ぶべくもなく且つ本件契約につき右の如き抵当権者特約条項の合意又は質権設定の合意ありたることについて何等の主張立証がないから爾余の主張事実について検討するまでもなく原告金庫の本訴請求は失当であるというべきである。そこで原告等の請求はいずれもこれを棄却する。

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