岐阜地方裁判所 昭和38年(ワ)119号 判決
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〔判決理由〕(三) 右のように本件宅地の賃料が一ケ月金五五〇円となつたのは昭和三一年五月であつて、その後原告が右宅地の地代増額請求を為した昭和三七年一二月二五日に至る迄に既に六年七ケ月を経過しており、その間に地価その他一般の物価や公租公課が著しく高騰していることは公知の事実であるから、その後も引続き前記既存の地代により当事者を拘束することは甚だしく公平に反することが明かであり、原告は本件宅地の賃料増額請求を為し得るものといわねばならない。
(四) よつて次にその増額請求を為し得べき相当額について考察するに鑑定人(省略)の鑑定結果により、本件宅地の昭和三八年一月一日における賃料は坪当り一ケ月金五〇円(二三坪六合八勾では一ケ月金一、一八四円)を相当と認める。尤も右鑑定結果によれば、右宅地の当時の時価は坪当り金六万円(更地価格)、合計金一、四二〇、八〇〇円であるから、之を資本として計算すると、年間収益率は一分を若干下廻るものとなり、一般の資本財の収益に比し低額であるのを免れないことは明かである。併し乍ら本件宅地は昭和二〇年一一月被告が右宅地上の家屋を買受けたのに伴い之を賃借したものであつて、その売買代金中には右借地権設定の対価を含めて之が当事者間に授受されたものと認めるのが相当であるから、茲に右借地権の価格を五〇パーセント(右鑑定意見による)として之を控除すれば、原告昇に帰属すべき資本財としての右宅地所有権の価格は坪当り金三万円と認めるのが相当である。よつて之を基準として算出すると、原告主張に係る右宅地の増額された賃料月額金一、五〇〇円(坪当り六三円余)では年地代金一八、〇〇〇円となり、公租公課七九〇円を控除した年地代手取額金一七、二一〇円の、右宅地(二三坪六合八勾)の地主に帰属する資本財としての所有権価額金七一〇、四〇〇円に対する収益率は年約二分四厘三毛となるのであつて、決して高額とは云いないこと明かである。
ところで現実に約定される地代の額は、その土地を資本財として算出した収益率による理論上の相当地代を基準として之に接近する傾向を示すものであるが、しかも個々の契約における特殊事情や比隣の類地の地代との権衡等諸般の事情をも勘案して決定されるものであつて必ずしも理論的な相当地代に一致するものではなく、殊に継続する賃貸借における地代である場合は、従前の地代決定の要因たる諸種の具体的事情を反映し、その急激な値上は事実上困難であること経験則の示すところである。この事はたとえその土地が地代家賃統制令の適用外のものであつても同様であり、畢竟比隣の類地の地代との権衡を失し、又は従前の地代に比し余りにも高額な地代の決定は容易に実現し難いものというべきである。この意味において郷鑑定人が本件宅地の相当地代を考察するに当り、主として近傍類地の事例を勘案して之を鑑定したことは相当であり、なお本件宅地の従前地代が一ケ月金五五〇円であることを考慮するとき、之を一遽に原告主張の一ケ月金一、五〇〇円に増額することは適当でなく、又いずれも成立に争ない甲第一五、一六号証により認められる如く、昭和三八年度迄四九、四〇〇円であつた本件宅地の固定資産評価額が昭和三九年度より二六七、五〇〇円に増額されていることに鑑みれば、右宅地の地代は今後更に増額されるべきことが予想されるけれども、昭和三八年一月一日現在においては、なお、前記の如く坪当り一ケ月五〇円として合計金一、一八四円とするのを至当と認める。<中略>
(六) 証人(省略)の証言によると、原告昇より右地代増額請求を受けた昭和三八年一月中被告は同原告に対し、近隣の借地の地代を調査した上その約二倍に当る坪当り四〇円なら値上に応ずる旨を答え、その割合による地代を提供したところ、原告は坪当り五〇円を主張してその受領を拒絶したので、同年二月被告は止むなく昭和三八年一月以後の地代として金四〇円の割合による金銭を供託して今日に至つていることが認められる。
(七) ところで右宅地の昭和三八年一月以降の相当地代が坪当り金五〇円、一ケ月金一、一八四円であることは前説示のとおりであるから、被告が為した右坪当り金四〇円の割合による供託は債務の本旨に従つたものでなく、之を有効と云えないことは明かである。
併し乍ら原告昇の賃料増額請求を受けた後、被告が或程度の値上の止むなきことを認め、近隣の借地の地代を調査してその約二倍に当る坪当り四〇円の割合で弁済の提供をしていることに鑑みれば、たとえその金額に不足があつても、被告としては信義則上必要とされる相当の手段を講じて地代の額を調査した上、自己の相当と信ずる金額の支払を提供しているのであつて、後日裁判によりその相当額が確定される以前において之を予知し得ないし、原告自身も客観的な相当地代を上廻る一ケ月金六三円余の割合で支払を求める過大の催告をしていることから見ても、右の措置は被告としてまことに止むを得ない手段であるから、被告の責に帰すべき事由ありということを得ず、之を以て被告に対しその債務履行遅滞の責を帰することはできないのである。
(八) そうすると原告昇が昭和三八年二月八日到達の書面で被告に対し同月一五日限り増額された地代を支払うべき旨を催告した上、その支払なきことを理由として同月二七日到達の書面により右土地賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争ないけれども、之によつては右解除の効力を生じなかつたものといわねばならない。(中略)
右原告は、被告に売却したのは同目録第二記載の家屋のみで、同第四及び第五記載の各建物は同原告が依然その所有権を保有し、右売却に伴つて被告に使用貸したものであると主張し、前掲甲第一、二号証によれば、売買による登記は右目録第二記載の家屋についてのみ為されていることが認められるし、乙第二号証(売渡証書)にも右家屋以外の記載がなく、又甲第四号証には、土地の賃貸借契約も右家屋敷地についてのみ為されているような記載がある。併し乍ら前掲(省略)の証言又び検証の結果により認められるように、もともと右目録第五の建物は炊事場、同第四の建物は便所であつて川瀬いくのが従前より同第二記載の家屋と共に賃借していたものであり、後に同居するに至つた女婿の被告が右家屋を買受けるについては、右の主たる建物に附属する炊事場や便所をも併せて買受けたと認めるのが社会観念上相当であり、従つて右各建物の敷地及びその間に挾まれた庭の部分(之と別紙目録第三の宅地の他の部分とを仕切る板塀の南側)も、右家屋の売買に伴い被告に賃貸されたものと認めるのが相当であつて、たとえ売買の目的として右目録第四及び第五の各建物を書面に記載しなかつたとしても、炊事場や便所は母屋に対し従物たる関係にあるといえるから当事者間の暗黙の合意を認めるに妨げないし、又甲第四号証の敷坪二二坪五合というのも、証人(省略)の証言によれば、当時一九才であつた被告の二男国井和司が目の悪い母国井みさおに頼まれ、借地の範囲について十分の認識なく之を記載したものと認められるので、之等は前記認定を左右するものでなく、なおこの点に関する証人(省略)の証言、原告(省略)本人の供述はたやすく信用し難いので、右原告の主張は採用し難い。(小西高秀)