大判例

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岐阜地方裁判所多治見支部 事件番号不詳 判決

本籍並に住居

多治見市根本九六五番地の一

岐阜電氣通信工事局多治見出張所

技術員

水野隆房

当二十二年

右の者に対する政令第二百一号違反被告事件につき当裁判所は檢察官小西茂、野口豊七関與審理し左の通り判決する。

主文

被告人は無罪。

理由

本件公訴事実は、

「被告人は昭和十六年四月一日名古屋逓信局一宮工務出張所長より臨時工務員を命ぜられ、同十七年三月四日線路工員となり、同十九年六月十六日岐阜電氣通信工事局多治見出張所勤務、同二十二年二月二十八日技術員と改称され線路補修並に拡張工事、オート三輪車の運轉を業務とする公務員であり、しかも同二十一年三月十七日より全逓労働組合岐阜工事局支部多治見協議会靑年部員として其の労働組合の労働運動に從事して來た者であるが今回制定される筈になつて居る國家公務員法に対し、これが改惡反対闘爭及び團体交渉権獲得闘爭、同盟罷業権剥奪反対闘爭の爲め爭議手段として右靑年部所属員渡〓慶次郞等五名にて昭和二十三年九月四日午後五時三十分頃右出張所の監督者の許可を受けずして第二陣となつて、前記職場を抛棄し同月七日迄(同年九月八日休職)職場を離れ、前記の業務の運営能率を阻害したものである」

と謂うにある。

案ずるに昭和二十三年七月三十一日政令第二百一号(以下單に政令という)はその第二條第一項において『公務員は何人といえども同盟罷業又は怠業的行爲をなしその他國又は地方公共團体の業務運営能率を阻害する爭議手段をとつてはならない』と規定している。この規定の主旨が公務員に対する労働爭議権(爭議行爲)の禁止にあることは右文詞により明かである。しかしてその対象となる行爲は公務員が國又は地方公共團体に対して待遇改善その他の要求をなし、その目的を貫徹せんがためになす同盟罷業、怠業的行爲又は公務の運営能率を阻害する行爲である。從つて公務員が法律の改正に対し反対の意思表明をなすが如き行爲は労働爭議とは法的性質を異にするものと解すべきである、即ちかくの如き行爲は單に政府のみを対象としたものではなく、立法機関たる國会、更に一般國民の輿論に訴える行爲とみなすべきであつて、たとえその手段において労働爭議と近似していても、根本において、その法的性質を異にする。從つて公務員が法律改正に反対の意思を表明せんがために職場を離るる行爲の如きは労働爭議とは言えないのであるから、本條第一項の規定並にその罰則を定めた本令第三條の規定を以て問擬すべきではない。

本件においては記録に徴すると、被告人は今回國家公務員法が改正せられて、公務員が團体交渉権、同盟罷業権を奪われてしまつては將來公務員は非常に不利な立場に陥ると思惟し、國家公務員法改正に反対の意思を表明するため昭和二十三年九月四日数名の者と共に職場を離れたことを認めることができる。從つて被告人は給料の増額、待遇の改善、労働條件の改善等を要求し、その目的を実現するが爲めに本件行爲に出たものではないから、労働爭議を公務員に対し禁止した本條第一項の規定に違反したものとは謂い難い。仍て本件は本政令第二條第一項の罪とならずと認め、刑事訴訟法第三百六十二條により無罪の言渡をなすべきものとする。

仍て主文のとおり判決した。

(裁判官 武田確一)

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