大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

岐阜地方裁判所多治見支部 昭和63年(ワ)10号 判決 1992年9月04日

主文

一  被告は、原告に対し、金一六五七万九三一五円及び内金一五〇〇万円に対する昭和五三年五月三日から支払済みまで年一八パーセントの割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、組合員に対する資金の貸付、手形割引等を行う組合であり、被告は原告の組合員である。

2  原告は、被告に対し、昭和五二年五月二日、次のとおりの約定で一五〇〇万円を貸し付け渡した。

(1) 返済期日 昭和五三年五月二日

(2) 利息 年10.5パーセント

(3) 遅延損害金 年一八パーセント

3  よって、原告は、被告に対し、貸金元本一五〇〇万円、右一五〇〇万円に対する貸付日である昭和五二年五月二日から返済期限である昭和五三年五月二日まで約定の年10.5パーセントの割合による利息一五七万九三一五円、右一五〇〇万円に対する返済期限の翌日である同月三日から支払済みまで約定の年一八パーセントの割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の事実は否認する。

第三  証拠<省略>

理由

一  請求原因1の事実については、当事者間に争いがない。

二  請求原因2について

1  <書証番号略>、証人大塚長年、同纐纈祝市、同中垣和恵(後記措信しない部分を除く。)、同安藤通広、同伊藤重子(後記措信しない部分を除く。)の各証言、<書証番号略>に弁論の全趣旨を総合すると、以下の事実が認められ、証人中垣和恵、同伊藤重子の各証言、被告本人尋問の結果中右認定に反する部分、<書証番号略>の記載は、後記2のとおり措信できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。

(1)  被告は、訴外佐々紀一(以下、「佐々」という。)から、佐々のために被告が借主となって原告(昭和五〇年四月の合併前は下石信用農業協同組合、以下同じ。)から一〇〇〇万円を借り入れて欲しい旨依頼を受け、これに応じて、昭和五〇年三月三一日、原告に対し、農協取引約定書及び印鑑届を差し入れたうえで、原告から、右約定書に基づく手形貸付の方法により、返済期日を昭和五〇年五月一〇日と定めて、一〇〇〇万円を現金で借りた。この時被告が差し入れた金額一〇〇〇万円の約束手形は、被告振出のものである。

右農協取引約定書には、被告の妻が、被告の承諾の下に被告に代わって、被告の署名をした。

下石信用農業協同組合においては、本件のほかにも、貸付に当たり、貸金を借主の口座に振り込まず、借主に直接現金を交付する方法の取られる場合があった。

(2)  佐々が原告から借入を必要とするが、佐々の原告からの借入がすでに限度枠に達しているため、佐々以外の者の承諾を得て、原告がその者を借主とする貸付をし、佐々が右貸付金を取得して、原告からの借入の目的を実質的に果たすという、いわゆる名義借りによる貸付は、当時原告の貸付中に本件のほかにも相当数存しており、当時の農協幹部の一部は、本件を含めこれら名義借りによる貸付を容認していた。

(3)  被告は、前記(1)の一〇〇〇万円の返済期限を徒過した後の昭和五〇年六月一九日、原告から、手形貸付の方法により、返済期日を昭和五〇年一二月二日と定めて、現金で一五〇〇万円を借り受け、前記一〇〇〇万円の返済に充てた。この時被告が差し入れた金額一五〇〇万円の約束手形も、被告振出のものである。

右約束手形には、被告の妻が、被告の承諾の下に被告に代わって、被告の署名と押印をした。

(4)  被告は、その後、①昭和五〇年一二月一日、②昭和五一年四月二日、③同年七月三日の三回にわたり、被告振出の約束手形で書換をした。

被告は、右①の書換に際し、柏原興産株式会社の振出、被告の裏書、金額一五〇〇万円、振出日昭和五〇年一一月二六日、支払期日昭和五一年三月三一日の約束手形を、担保のために原告に差し入れたが、右約束手形は、昭和五一年四月二日ころ、依頼返却により被告に戻された。

(5)  原告は、昭和五一年一〇月一日の返済期日を経過しても、被告が(4)③の書換による一五〇〇万円の返済をしないので、弁済期限が数か月先となる手形貸付の方法を止め、弁済期限がより長期となりうる証書貸付の方法をとることとし、昭和五二年五月二日、被告に対し、弁済期限を一年先の昭和五三年五月二日、利息を年10.5パーセント、遅延損害金を年一八パーセントと定め、伊藤錦一及び安藤通広を連帯保証人として、一五〇〇万円を現金で貸し渡し、被告は、この現金を(4)③の一五〇〇万円の返済に充てた。

貸付証書には、被告の妻が、被告の承諾の下に被告に代わって、被告の署名と押印をした。

(6)  原告の職員である大塚長年は、昭和五三年以降毎年被告方に赴いて返済を請求したが、被告は、右請求に応じなかった。被告は、応じない理由として、実質上の借主である佐々に請求するようなどと述べたけれども、妻が書いたもので自分は知らないとか、自分は騙されたなどということは、述べていない。原告の他の職員も繰り返し請求に行った。

(7)  原告は、昭和六〇年四月三〇日本訴の請求債権について支払命令の発付を得た後、同年六月四日取り下げたが、これは、佐々が当時原告に対し種々嫌がらせをしたことも、一因となっている。

2  証人中垣和恵の証言、被告本人尋問の結果中前記1の認定に反する部分は、本件の貸付証書である前記<書証番号略>について、被告に関しては、いつどのような機会にその存在を知ったのか、妻の和恵から、説明を受けたのか、受けたとすれば、何時どのような説明を受けたのか、それに対して被告がどのような対応をしたのか、和恵に関しては、自ら被告の氏名を代署し被告の印を押捺していながら、いつどのような機会に代署捺印したのか、貸付証書であることを何故認識しないのか、代署捺印したことを被告に説明したのか、説明したとすれば、何時どのような説明をしたのか、それに対して被告がどのような対応をしたのかという、本件における最も基本的な事実関係について、いずれも不明確かつ不合理な供述しかせず、相互に供述が整合しないなど、この点のみからしても、甚だ信用性に乏しいものであるうえ、本件の基礎となった農協取引約定書である<書証番号略>の作成状況についての供述にも、同様の問題があり、前記1に採用の証拠とも対比して、到底措信できない。

証人伊藤重子の証言中前記1の認定に反する部分も、前記1に採用の証拠に照らし措信できず、<書証番号略>も、弁論の全趣旨に照らして真正に成立したものとは認められるが、前記1(2)、(7)に認定の事実等に鑑みて、措信できない。

三  結論

以上によれば、本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡部信也)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例