岐阜地方裁判所大垣支部 昭和52年(ワ)18号 判決 1981年7月31日
原告
高木喜代美
ほか一名
被告
垂井町
ほか一名
主文
一 被告衣斐正良は
1 原告高木喜代美に対し、金二、四七三万一、六八九円と、これに対する昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、
2 原告高木とよに対し、金三七四万九、〇〇〇円と、これに対する昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を
それぞれ支払え。
二 原告らの被告衣斐正良に対するその余の請求及び被告垂井町に対する請求を棄却する。
三 訴訟費用は、原告らと被告衣斐正良との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を被告衣斐正良の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告垂井町との間においては、全部原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは連帯して、
(一) 原告高木喜代美に対し、金二、八六二万六、四四九円と、これに対する昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を、
(二) 原告高木とよに対し、金四六四万一、八〇〇円と、これに対する昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による金員を
それぞれ支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
3 仮執行の宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告らの請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告らの負担とする。
第二請求原因
一 事故の発生
原告両名は、次の交通事故により受傷した。
1 日時 昭和五〇年一二月二七日午後五時四〇分ころ
2 場所 岐阜県不破郡垂井町府中六二六の一番地先県道上(通称 梅谷街道)
3 加害車 普通乗用自動車(岐五五ろ二八―一二号)
右運転者 被告 衣斐正良
4 事故態様
(イ) 原告とよは、孫に当る原告喜代美を乗せたリヤカーを挽き、前記県道上を南進(帰宅)中、加害自動車が対向(北進)接近してくるのを認めたので、同車の通過(すれ違い)するまで避譲するため、道路左端に寄り停止していた。
(ロ) 加害自動車は時速五〇キロメートル位のまま、右リヤカーに衝突(自動車右前部をリヤカーの荷台右前部付近に)し、原告とよをその場に転倒させ、原告喜代美をリヤカーごと約六メートル跳ね飛ばして、道路脇傾斜面に転落させた。
5 受傷
(イ) 原告喜代美
右大腿骨々折、右脛骨々折、右尺骨々折、右手挫傷、左臀部挫創、左下腿挫傷、腹部挫傷
(ロ) 原告とよ
脳震盪症、頸椎捻挫傷、右肩、右上腕、右前腕打撲、皮下血腫
二 責任原因
被告らは、次の事由によつて、本件事故に因つて生じた原告らの損害につき、これを連帯して賠償すべき責任がある。
1 被告衣斐正良は民法七〇九条ないし自賠法三条
けだし、同被告は本件加害自動車の保有者にして、かつ、これを運転中、助手席に同乗させていた妻との話に耽り、脇見運転(前方注視義務違反)した過失に因り、本件事故を惹起したものである。(同被告は本件事故について業務上過失傷害被告事件で起訴され、罰金一八万円に処せられた。)
2 被告垂井町は民法七一五条ないし自賠法三条
けだし、同被告は、被告衣斐の使用主であり、かつ、本件事故はその勤務中の一時的所用(勤務中断しての私用)の途次発生したもので、広義での「職務の執行について」といえるし、又、加害自動車について運行供用者の実質、側面を有していたからである。
三 原告喜代美の損害
但し、現時点におけるものに限局し、将来における症状悪化による手術、治療及びそれに伴う慰藉料については請求を保留することとした。
1 積極的損害―計金五四九万〇、五二九円
これが内訳については、入院関係費(入院費、入院中治療費、入院中雑費、入院中付添費、入院中交通費)と、通院関係費(通院治療費、通院中付添費、通院中交通費)に大別できるが、この項目別具体的金額は、別表「積極損害一覧表」記載のとおりである。
なお、別表番号二の入院付添費、同番号六の通院付添費、同番号八の受診付添費は、父茂雄、母サヨ子のそれぞれの休業損害相当額である。
即ち、別表番号二の1の付添費は父茂雄の一ケ月分の給与相当額であり、同番号二の2、同番号八の一日当りの付添費は母サヨ子の昭和五〇年度の年収額金一一一万四、七七〇円を日割計算した平均日額(一一一万四、七七〇円÷三六五日=三、〇五四円)であり、同番号六の一回当りの付添費は母サヨ子の右平均日額の半額(三、〇五四円×1/2=一、五二七円)である。
2 逸失利益―金一、二六四万七、九一〇円
(一) 原告喜代美は本件被害当時七歳四ケ月余の児童であつたので、治療期間中のいわゆる休業損害はないが、後記のとおり後遺症が三ケ所にも存し、自賠責等級表によれば七級に該当することは、明らかである。
又、同級該当者の労働能力喪失率は五六%である。
(二) 後遺障害に因る逸失利益の算定の基礎とされるべき収入金額の認定は、女子高校生以下(幼児を含む)のものについては、原則として口頭弁論終結年度における高校卒女子の初任給の固定方式によるものとされているところである。
(三) しかし、本件口頭弁論終結時での高卒女子の初任給の資料はないので、昭和五三年賃金センサスによつてこれを求めれば、
(イ) きまつて支給する現金給与額は金九万一、二〇〇円
(ロ) 年間賞与その他特別給与額は金一〇万九、二〇〇円であるから、年間の初任給固定収入は、
(91,200×12)+109,200=1,203,600円
となる。
(四) そこで、原告喜代美が高校卒の一八歳から就労可能年数六七歳までの間に得るであろう総収入の現価(被害時点)を求めれば次のとおりである。
(1) 六七歳から七歳を差引いた六〇年に対応するホフマン係数……二七・三五五
(2) 就労の始期までの年数に対応する(一八歳から七歳を差引いた一一年)ホフマン係数……八・五九
(3) 就労可能年数……(六〇年から一一年差引き)……四九年
(4) 右(1)~(3)により適用する係数……一八・七六五
(右二七・三五五から右八・五九を差引くことによる)
(5) 原告喜代美の総収入額は、
(年間収入計)1,203,600円×(ホフマン係数)18,765=22,585,554円
(五) 従つて、原告喜代美は右の五六%に該る
金一、二六四万七、九一〇円
を本件後遺障害に因る労働能力喪失を原因として得べかりし利益を失うことになる。
3 慰藉料 計金一、二〇〇万円
(一) 入院通院に伴う慰藉料 金三〇〇万円
原告喜代美の受傷内容、手術状況、入院回数及び期間並びに年令等にてらすと重傷入院として扱うべきであるところ、
(1) 入院については、本件事故から昭和五二年一二月八日までの間に、
前後三回(三病院)にわたり
通算 二九九日間
(この間手術四回)
(2) 通院については、昭和五一年八月二五日から同五三年一二月二八日までの約二年四ケ月間に、
(イ) 博愛会病院 三四回
(ロ) 西脇接骨院 三八〇回
(ハ) 京都大学付属病院 一回
(ニ) 国立名古屋病院 二回
(ホ) 岐阜大学付属病院 二回
(ヘ) 関ケ原病院 一回
(ト) 杉山病院 六回
計七病院へ、合計四二六回にわたり通院している。
(なお、昭和五四年になつて以後、名古屋大学付属病院で一回、中部労災病院で二回診察を受けているが、いずれも本件審理のためのものであつたから右通院期間に含めない)
結局、重傷入院一〇ケ月と通院二八ケ月間(八五九日間に四二六回通院したので、平均すると一日おきに通つたことになる)となるので、これに見合う慰藉料は控え目にみても金三〇〇万円を下ることはない。
(二) 後遺障害による慰藉料 金九〇〇万円
(1) 原告喜代美の昭和五五年一〇月一五日の鑑定時点における後遺症は、鑑定書によれば
(イ) 右下肢の五・五cm短縮………………八級五号該当
(ロ) 足関節の単なる機能障害…………一二級七号該当
(ハ) 動揺関節を右膝関節に残す………一二級七号該当
の三ケ所に認められる。
(2) 後遺障害等級表の取扱い方法としては、
第一三級以上に該当する身体障害が二以上あるときは、重い方の(本件では八級)身体障害一級を繰上げる。(鑑定人はこれに従つて併合七級該当とされた)。
ただし、それぞれの後遺障害に該当する保険金額の合算額が繰上げ後の後遺障害の保険金額を下廻るときは前記合算額を採用する。
とされている。
(3) 右を本件についてみるとき、
七級該当………金六二七万円
八級該当………金五〇四万円
一二級該当………金一五七万円
であるから重い級を一級繰上げて七級とした場合の額は、八級と一二級二個を合算した額よりも金一九一万円下廻ることが次式により明らかである。
(合算) (7級) <省略>
従つて、本件の場合は右合算額たる金八一八万円が採らるべきである。
(4) 尤も、原告の後遺障害は、右等級表の仕組み(両足の最短差五cm以上では差が設けられていない)から、等級該当には変化がないことになろうが、これから五~六年間(現在一二歳であるところ一七~一八歳までの間)さらに短縮傾向が強まることが考えられるとの鑑定結果であるとし、事実、本件審理中に五cm以上も短縮したことからみてもそのおそれは充分といえる。
ちなみに、昭和五一年一〇月時点では右足の太さが左足にくらべて発育不良で細くはあつたが、長さにおいては左右とも六〇cmづつで差がないとされていたのに四年後の鑑定時点では実に五・五cmもの差が生じ、しかも今後もさらに差がひどくなるとすれば、歩行や起居にも重大な支障となり、加えて右膝の過伸展(反対方向―前方―への反り)二〇度、屈曲(正方向―後方)九〇度(通常人の半分)という極めて憂慮すべき症状であつてみれば、原告に対する慰藉料はいくら控え目にみても金九〇〇万円を下ることはない筈である。原告の深刻な後遺症状、なかんずく今後悪化することがあつても改善される望みに薄いことに改めて正当な評価がなされるべきである。
4 一部弁済
以上のとおり、原告喜代美は被告らに対し本件事故による賠償として合計金三、〇一三万八、四三九円を請求しうべきところ、被告衣斐はこれまでに
入院治療費分の一部に該る
金三一四万四、六七〇円を負担支払い
見舞金名下に、昭和五〇年一二月二八日ころ
金二〇万円を支払い
付添費の一部、入院中雑費の一部内入の趣旨で
金七七万七、三二〇円を支払い
計金四一二万一、九九〇円
を内入弁済しているので、これを控除した残金二、六〇一万六、四四九円を請求する。
四 原告とよの損害
1 積極的損害―計金八〇万五、三八〇円
その内訳は次のとおりである。
(一) 通院治療費 金一一万九、八四〇円
昭和五〇年一二月二七日から同五一年四月二六日まで三六回分
(二) 通院中交通費 金三、六〇〇円
(三) 入院治療費 金六三万五、七四〇円
昭和五一年五月一日から同年七月一六日まで七七日間
(四) 入院中雑費 金四万六、二〇〇円
入院中一日六〇〇円の割合による七七日分
2 慰藉料―計金四一七万二、〇〇〇円
その内訳は次のとおりである。
(一) 入院通院に伴う慰藉料 金一一五万二、〇〇〇円
入院二ケ月半、通院四ケ月という治療経過からみて右金額が相当である。
(二) 後遺障害による慰藉料 金三〇二万円
一上肢の三大関節中の一関節(原告とよの場合は右上肢の三関節と指)に著しい機能障害を残し、一〇級の一〇号に該当するので、右金額が相当である。
3 一部弁済
以上のとおり、原告とよは被告らに対し本件事故による賠償として合計金四九七万七、三八〇円を請求しうべきところ、被告衣斐はこれまでに入院及び通院中の治療費計金七五万五、五八〇円を負担し一部弁済しているので、これを控除した残金四二二万一、八〇〇円を請求する。
五 弁護士費用
本件審理にみられる如く、原告らが被告らに対して賠償請求するについて訴訟によらざるを得なかつたこと、及びそれを遂行することが本人では到底不能であつたこと並びに本件事案の内容、複雑さ(審理に四年近くを要した)に徴し、弁護士費用はそれぞれの請求額の一〇パーセントに該る額をもつて相当とさるべきである。
しかるとき、原告らの弁護士費用は、
原告喜代美について 金二六〇万円
原告とよについて 金四二万円
となる。
六 本訴請求
よつて、請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による)を求める。
第三請求原因に対する被告らの答弁
一 一の1ないし3は認める。一の4のうち原告とよが道路左端で避譲のため停止していたとの点と、原告喜代美をリヤカーごと約六メートル跳ね飛ばして道路脇傾斜面に転落させたとの点は否認し、その余の点は認める。一の5は不知。
二 二の1は認め、2は争う。被告垂井町には以下に述べる通り本件事故による原告らの損害を賠償する責任はない。
被告衣斐は被告垂井町の教育委員会に勤務する事務職員であるが、事故当日年末のため多少の残務もあつて午後五時過ぎまで勤務していたところ、途中で妻が役場に立ち寄り車で送つてくれというので、一時勤務を離れ、妻を自宅へ送るべく自己所有の通勤用自動車で自宅へ向う途中本件事故が発生したもので、同人の職務は勿論運転業務でもなく、右自動車の運転は全く同被告の私的行為であつて垂井町の公務とは到底いえない。従つて、これをいかに広義に解しても垂井町の「職務の執行性や運行供用者性は出てこない。
三 三の1については別表の認否欄に記載のとおり。三の2は認め、3は争い、4の一部弁済は認める。
なお、別表のうち、昭和五一年一二月二二日以降の治療関係員は、原告側及び医療機関のミスに基因する原告喜代美の再骨折に関するもので、本件事故との間に相当因果関係がない。
四 四の1のうち(一)と(二)は不知、(三)と(四)は争う。四の2は争い、3の一部弁済は認める。
五 五は争う
第四被告らの主張
一 過失相殺
原告とよは、リヤカーにかなりの大きさの石を五、六個積み、これに原告喜代美を乗せて挽いていたため、衝突のシヨツクで石が原告喜代美に当つて傷害を大きくしたもので、石と子供を一緒に積載するが如きは非常に危険な行為であり、原告喜代美の傷害の結果については、原告とよもその責任があるから、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。
二 損害の填補
本件事故による損害については、原告らが自認している分以外に、被告衣斐において金一八万四、一二〇円を原告喜代美の治療費として支払つている。
第五証拠〔略〕
理由
第一事故の発生
請求原因一の1ないし3の事実については当事者間に争いがなく、同4の事実については成立に争いのない乙第一ないし第八、第一〇号証により、同5の事実については成立に争いのない甲第一ないし第四、第三六号証により、それぞれ認められる。
第二責任原因
一 被告衣斐の責任
請求原因二の1の事実は当事者間に争いがない。従つて、被告衣斐は民法七〇九条ないし自賠法三条により本件事故による原告らの損害を賠償する責任がある。
二 被告垂井町の責任
成立に争いのない乙第五号証、証人栗田匡毅の証言及び被告衣斐正良の供述を総合すれば、次のような事実が認められる。
(イ) 被告衣斐は被告垂井町の被用者で、事故当時被告垂井町の教育委員会事務局に学校教育課学務係の係長心得として勤務していた、内勤を主とする事務職員であつたこと。
(ロ) 本件加害車両は被告衣斐の所有車両で、平素通勤用に使用していたものであり、被告衣斐が教育委員会事務局に勤務するようになつた昭和四九年一月一日から本件事故発生の日までに本件加害車両を公務のために使用したのは二回程に過ぎないこと。
(ハ) 本件事故当日は土曜日で御用納めの日でもあつたので、本来の勤務時間は午前中までであつたが、被告衣斐は午後四時四五分まで超過勤務を命ぜられて垂井町役場で勤務し、右時間経過後もなお仕事が残つていたので引き続き勤務していたところ、午後五時二〇分ころ、垂井町内の美容院にいた被告衣斐の妻から「自宅まで自動車で送つてほしい」旨の電話があつたので、三〇分程で往復できることから一時仕事を中断して妻を自宅まで送り届けることにし、上司にその旨を話して私用のため一時職場を離れることの許可を得たうえ、本件加害車両に妻を乗せて自宅へ送つて行く途中で本件事故を惹起したものであること。
以上(イ)ないし(ハ)の認定事実から、本件加害車両は被告衣斐の自家用車であり、これを公務のために使用することはごくまれであること、本件事故は私用運転中の事故であること。自動車運転行為は被告衣斐の本来の職務とあまり関係がないこと、が明らかである。
そうだとすれば、被告垂井町には本件事故につき運行供用者責任も使用者責任も認められない。
第三原告喜代美の損害
一1 先ず原告喜代美の再骨折と本件事故との相当因果関係について検討するに、証人高木サヨ子の証言によれば、原告喜代美は昭和五一年一二月二二日便所で転倒し右大腿骨を再骨折した事実が認められるところ、成立に争いのない甲第九ないし第一二号証、証人杉山俊雄、同市川政男の各証言を総合すれば、本件事故で受傷した右大腿骨骨折部位のうち内側半分は骨性癒合していたが、外側半分は骨性癒合せずに軟部組織で結合していたため、転倒などによつて再骨折する危険性があつたこと、本件再骨折部位のうち外側半分は右軟部組織で結合していた部分であること、原告喜代美は本件事故による受傷のため右膝関節に屈曲障害があつて転倒しやすかつたこと、が認められる。
右認定事実によれば、本件再骨折と本件事故との間に相当因果関係を認めることができる。従つて、本件再骨折の治療に要した費用についても被告衣斐に賠償責任がある。
2 次に、別表記載の各損害について順次検討する。
(一) 番号一(入院費・治療費)のうち、1ないし7については当事者間に争いがなく、8ないし11については成立に争いのない甲第九号証及び第二四、第二五、第二九、第五〇、第五一号証の各一、二によつて認められる。
従つて、入院費・治療費の合計は金三三六万九、三八〇円である。
(二) 番号二(入院付添費)のうち、1と2については当事者間に争いがなく、3と4については右(一)に挙示した各証拠並びに証人高木サヨ子の証言及びそれにより真正に成立したと認められる甲第二八号証の一、二によつて認められる。
従つて、入院付添費の合計は金九〇万二、八七二円である。
(三) 番号三(入院中雑費)のうち、番号一の1ないし5の入院期間である計一七七日分の入院雑費(500円×177日=88,500円)については当事者間に争いがなく、番号一の6ないし11の入院期間である計一二二日間につき一日五〇〇円の割合による計六万一、〇〇〇円の入院雑費を要したことは経験則によつて認められる。
従つて、入院雑費の合計は金一四万九、五〇〇円(500円×299日)である。
(四) 番号四(入院中交通費)については、証人高木サヨ子の証言及びこれにより真正に成立したと認められる甲第二六号証の一ないし一四によれば、昭和五一年一月一日から同五二年二月五日までの間、原告喜代美が入退院の際や入院中入浴等に帰宅した際にタクシーを使用しその費用として金三万六、七八〇円を要したことが認められるところ、入院期間、入退院の回数、原告喜代美の年齢等からみて、右程度の交通費は相当な範囲内のものとして認めることができる。
従つて、入院中交通費の合計は金三万六、七八〇円である。
(五) 番号五(通院治療費)のうち、1と2については当事者間に争いがなく、3と4については証人高木サヨ子の証言により真正に成立したと認められる甲第三七ないし第四四号証、第五二ないし第五六号証、第五八ないし第六二号証により認められ、その治療の必要性については証人杉山俊雄の証言によつてこれを認めることができる。
従つて、通院治療費の合計は金二六万三、七四〇円である。
(六) 番号六(通院中付添費)のうち、番号五の1と2の通院に対応する通院中付添費(1,527円×128回=195,456円)については当事者間に争いがなく、番号五の3と4の通院に対応する通院中付添費(1,527円×286回=436,722円)については証人高木サヨ子の証言、原告喜代美の年齢等から、通院付添費は入院付添費の半額である金一、五二七円とするのが相当であると認めることができる。
従つて、通院中付添費の合計は金六三万二、一七八円(1,527円×414回)である。
(七) 番号七(各病院での受診費と交通費)のうち、1ないし5と、13ないし16については当事者間に争いがなく、6と8ないし11については証人高木サヨ子の証言により真正に成立したと認められる甲第四五ないし第四九号証、弁論の全趣旨により真正に成立したと認められる甲第六三ないし第六七号証によつて認められ、その受診の相当性については原告喜代美の受傷の部位・程度及び治療経過からこれを認めることができる。
7と12の交通費についてはこれを証するに足りる証拠がない。
従つて、各病院での受診費の合計は金六万一、五〇九円である。
(八) 番号八(受診付添費)のうち、番号七の1 2 4 13 15の受診に対応する受診付添費(3,054円×5回=15,270円)については当事者間に争いがなく、番号七の6 8ないし11の受診に対応する受診付添費(3,054円×10回=30,540円)については証人高木サヨ子の証言、原告喜代美の年齢等から、一回の受診付添費は母サヨ子の一日の休業損害相当額である金三、〇五四円とするのが相当であると認めることができる。
従つて、受診付添費の合計は金四万五、八一〇円(3,054円×15回)である。
3 よつて、原告喜代美の積極損害の合計は金五四六万一、七六九円である。
二 逸失利益について
請求原因三の2については当事者間に争いがない。
従つて、原告喜代美の後遺障害による将来の逸失利益は金一、二六四万七、九一〇円である。
三 慰藉料について
1 入院通院に伴う慰藉料
本件事故の態様、原告喜代美の年令、傷害の部位・程度、治療経過等の事情を考えあわせると、入院通院に伴う慰藉料額は金二五〇万円とするのが相当であると認められる。
2 後遺障害による慰藉料
鑑定の結果によれば、昭和五五年一〇月一五日の時点において原告喜代美には次の三ケ所に後遺症のあることが認められる。
(イ) 右下肢の五・五cm短縮(右下肢短縮は本件事故により右大腿骨下端の発育軟骨がほぼ閉鎖したことに基因するものであるから、原告喜代美の成長が終る一七、八歳ころまで両足の長短差は拡大することが予想される)
(ロ) 右足関節の単なる機能障害
(ハ) 動揺関節を右膝関節に残す
右後遺症の程度は、自賠法施行令別表に定める後遺障害の等級にあてはめると、(イ)は八級五号に、(ロ)と(ハ)はいずれも一二級七号に各該当すると認められるので、原告喜代美の後遺症は併合七級に該当する後遺障害と認められる。
また、右後遺障害に対する自賠責保険の保険金額は請求原因三の3(二)(3)に記載のとおり、金八一八万円であると認められるところ、原告喜代美の後遺障害による慰藉料額としては右保険金額の八割に相当する金六五四万四、〇〇〇円と認めるのが相当である。
3 よつて、原告喜代美の慰藉料額の合計は金九〇四万四、〇〇〇円である。
四 以上、原告喜代美の本件事故による損害額の合計は金二、七一五万三、六七九円と認められる。
第四原告とよの損害
一 積極的損害について
1 成立に争いのない甲第三二ないし第三五号証によれば、原告とよの治療経過及び治療費は次のとおりであると認められる。
(一) 博愛会病院において右上肢挫傷という傷病名で昭和五〇年一二月二七日から同五一年四月二六日まで計三六回通院治療を受け、その治療費の合計が金一一万九、八四〇円であつたこと。
(二) 養老中央病院において頸部捻挫、腰部症候群という傷病名で、昭和五一年五月一日から同月一一日まで計一一回通院治療を、同年五月一二日から同年七月一六日まで六六日間入院治療を受け、その治療費の合計が金六三万五、七四〇円であつたこと。
(なお、原告高木とよの供述及び成立に争いのない甲第三六号証並びに本件事故の態様を総合して判断すれば、原告とよの右(二)の疾病及び後記認定の後遺症と本件事故との間に相当因果関係を認めることができる。)
2 また、原告とよが右入院期間中一日五〇〇円の割合による合計金三万三、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。
3 原告とよが右通院期間中合計金三、六〇〇円の通院交通費を要したとの事実については、これを証するに足りる証拠がない。
二 慰藉料について
1 本件事故の態様、原告とよの傷害の部位・程度、年令、治療経過(入院六六日、通院四ケ月半)等からみて、入通院に伴う慰藉料額は金一〇〇万円とするのが相当であると認められる。
2 原告とよの供述及び成立に争いのない甲第三六号証によれば、原告とよは後遺症として右上肢の三大関節の機能に著しい障害を残す等の症状が固定(昭和五一年一〇月一九日ころ固定)したことが認められ、右後遺症の程度は自賠法施行令別表の障害等級一〇級一〇号に該当し、その自賠責保険金額は金三〇二万円と認められるところ、原告とよの後遺障害による慰藉料額としては右保険金額の八割に相当する金二四一万六、〇〇〇円と認めるのが相当である。
三 よつて、原告とよの本件事故による損害額の合計は金四二〇万四、五八〇円と認められる。
第五過失相殺の主張について
成立に争いのない乙第六号証及び証人高木勇の証言によれば、原告とよが本件事故時リヤカーに玉石五、六個位を積み、これに原告喜代美を乗せていた事実は認められるが、加害車がリヤカーに衝突した衝撃で右玉石が原告喜代美に当つて傷を大きくしたとの被告ら主張事実を認めるに足りる証拠はない。
よつて、過失相殺の主張は理由がない。
第六一部弁済の主張について
請求原因三の4及び四の3の一部弁済の事実については当事者間に争いがないところ、被告衣斐は原告らの自認する分以外に金一八万四、一二〇円を原告喜代美の治療費として支払つている旨主張するが、これを認めるに足りる証拠はない。
よつて、原告らの前記損害額から右争いのない一部弁済分を差引くと、
原告喜代美の残損害額は金二、三〇三万一、六八九円
原告とよの残損害額は金三四四万九、〇〇〇円
となる。
第七弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、それぞれの認容額等に照らすと、原告らが本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は、原告喜代美につき金一七〇万円、原告とよにつき金三〇万円とするのが相当であると認められる。
第八結論
よつて、被告衣斐は、原告喜代美に対し金二、四七三万一、六八九円と、これに対する本件不法行為の日である昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告とよに対し金三七四万九、〇〇〇円と、これに対する本件不法行為の日である昭和五〇年一二月二七日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、それぞれ支払う義務があり、原告らの本訴請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、被告衣斐に対するその余の請求及び被告垂井町に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 橋本勝利)
積極損害一覧表
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