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岐阜地方裁判所御嵩支部 昭和43年(ワ)5号 判決 1970年2月24日

原告

佐合武

ほか一名

被告

佐合勝広

主文

原告らの請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一、当事者双方の求めた裁判

一、原告ら、「被告は原告らに対し各金二五〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月一六日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。」訴訟費用は被告の負担とする。同旨の判決及び仮執行の宣言。

二、被告 主文同旨の判決

第二、当事者双方の主張した事実

一、請求の原因

(一)交通事故の発生

訴外佐合文憲は次の交通事故によつて死亡した。

1発生時 昭和四〇年一一月一六日午前六時四〇分ごろ

2発生場所 岐阜県美濃加茂市下米田町小山一三三番地先の左右の見透しのきかない交差点

3加害車 大型貨物自動車(岐一な二七二三号)(以下被告車という)

運転者 被告

4態様 自動二輪車に乗車中の佐合文憲に接触し、同人をその場に転倒させ頭蓋内出血等の傷害を与えて殆んど即死させた。

(二)責任原因

被告は被告車を所有し自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条により本件交通事故により生じた原告らの損害を賠償する責任がある。

(三)損害

1佐合文憲の喪失した得べかりし利益及び慰藉料並びに原告らによる相続

(1)佐合文憲の喪失した得べかりし利益

(イ)佐合文憲は事故当時岐阜県立西工業高等学校三年に在学中の健康な一八歳の男子であつた。

(ロ)厚生大臣官房統計調査部発表の第二回日本人平均余命年表によれば一八歳の男子の平均余命は五〇・二七年であるから佐合文憲は本件交通事故により死亡しなければ右高等学校を卒業し、少くとも一八歳から五五歳までの三八年間にわたり稼働可能であつたと考えられる。

(ハ)そうして、労働省労働統計調査部作成の昭和四〇年賃金センサスによれば新制高等学校卒全国男子産業労働者の平均月間きまつて支払される現金給与額及び平均年間特別に支払われた現金給与額は別紙のとおりであるので、佐合文憲の一八歳から五五歳までの三八年間の合計収入額は二、四六〇万九、四〇〇円であると考えられるが、右三八年間の同人の生活費の総支出額は右総収入額の五割を超えないと考えられるので、これを控除した一、二三〇万四、七〇〇円が同人の純利益となる。そこでホフマン式計算法によつて年五分の割合による中間利息を控除すると、本件交通事故発生当時の現価は六四七万六、一五七円となる。

(2) 佐合文憲の慰藉料

佐合文憲が本件交通事故により死亡し、その将来を失なつたことによる苦痛は筆舌につくし難く、これをあえて金銭に見積れば同人の慰藉料は二〇〇万円を下らない。

(3)原告らによる佐合文憲の逸失利益請求権及び慰藉料請求権の相続原告佐合武は佐合文憲の父であり、原告佐合志げはその母であり、佐合文憲の死亡により、同人の逸失利益請求権及び慰藉料請求権の各二分の一にあたる四二三万八、〇七八円をそれぞれ相続した。

2原告らの慰藉料

原告らは本件交通事故の発生により最愛の長男を失なつたものでその精神的苦痛は到底金銭をもつて見積り得ないが、あえてこれを見積れば原告らの慰藉料は各自について一〇〇万円を下らない。

(四)結論

よつて、被告に対し、原告らは各五二三万八、〇七八円の損害賠償請求権を有するところ、本訴において内金各二五〇万円及びこれに対する昭和四〇年一一月一六日から各支払するまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二、請求原因に対する認否

請求原因(一)及び(二)項記載の各事実は認めるが同(三)項記載の事実中、佐合文憲が死亡当時、岐阜西工業高校三年在学中で原告らがその両親であることは認め、その余は争う。

三、被告の主張

(一)  免責に関する抗弁

被告は事故現場である交差点直前にさしかかつた際一時停止し、(その進路がやや上り坂であつたがためブレーキを踏まずともクラッチを踏むと停止するのでクラッチの操作により停止した)左右の安全を確認したうえで発進し自動車の運行に関し注意を怠らなかつたのであるが、佐合文憲は、被告が左方の道路から同時に右交差点へ入ろうとしているうえ、被告の進路の幅員が佐合文憲のそれよりも明らかに広いのにこれを無視し、前輪が横ぶれする不良車両を運転して時速約九〇キロメートルの異常な高速で交差点に突入し、被告車の後方右横に激突したもので、同人のこのような無謀運転により本件交通事故は発生したものである。然も被告車には構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたので被告には本件交通事故による損害を賠償すべき責任はない。

(二)  過失相殺の抗弁

仮に被告に本件交通事故による損害賠償責任があるとしても事故発生については右(一)に述べたような原告の過失も寄与しているので、賠償額の算定にあたつてはこれを斟酌すべきである。

(三)  弁済の抗弁

仮に被告に本件交通事故による損害賠償責任があるとしても、被告は原告らに対し一一二万二、〇三〇円(香典五万円を含む)を支払つている。

(四)  相殺の抗弁

仮に被告に本件交通事故による損害賠償責任があるとしても、被告もまた本件交通事故の発生により、その所有する被告車を破損しその修理費に三、五〇〇円を要する損害を蒙つたが右損害は佐合文憲の従つて同人の相続人である原告らの賠償すべきものであるので、被告は昭和四四年七月一日の本件口頭弁論期日において右損害賠償債権の二分の一ずつをもつて、原告らの本訴債権とその対当額において相殺する旨の意思表示をした。

四、抗弁に対する認否

抗弁事実中弁済の抗弁は認める。その余は、被告車に構造上の欠陥も機能上の障害もなかつたとの点を除きいずれも否認する。

第三、証拠関係〔略〕

理由

一、請求原因(一)(二)項記載の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二、そこで被告主張の免責の抗弁について以下判断する。

〔証拠略〕によれば、被告が本件事故現場である交差点(それが左右の見透しのきかない交差点であることは当事者間に争いがない。)を通過しようとして右交差点に差しかかつた際、右地点附近までの被告の進路がやや上り坂であつたため、クラツチの操作により被告車を一瞬停止状態にしたうえ、右方の道路を視たところ、佐合文憲の運転する自動二輪車が交差点の手前約一五米の地点で右交差点に向つて直進して来るのを認めたが、佐合文憲が交差点を通過する前に無事その前方を通過することができ、また佐合文憲において一時停止するものと考えたので、時速約一〇ないし一五粁で進行し、佐合文憲よりも先に右交差点に入りそのまま約二米進行を経続したところ佐合文憲の自動二輪車が自車の右側方に衝突した事実を認めることができる。

右認定事実に徴すれば、本件交差点が見通しのきかない交差点であるうえ、被告に優先通行権がある(被告は佐合文憲よりも先に然も左方の道路から右交差点に進入した)のであるから、本件交通事故はむしろ佐合文憲において右交差点で法律を遵守して、除行或いは一時停止し、かつ右交差点の交通状況を確認する措置を執つたうえ、その進行を継続すべき注意義務があつたにもかかわず漫然相当の高速(と推認し得る。なお被告は佐合文憲の自動二輪車の時速が約九〇粁であつたと主張し、〔証拠略〕によれば本件事故直後右自動二輪車の速度計が九〇粁前後を指していた事実を認め得るが、右が衝突時のシヨツクによるものとの疑いも充分に考え得るので、右を以てしては佐合文憲が時速約九〇粁の異常な高速であつたとは認定し得ない。)で、その進行を継続したために発生したものというべく、被告は本件交差点に差しかかつた際、一時停止し、右方を視て佐合文憲よりも早く交差点を無事通過し得るものと考えて通過したのであるから、本件交通事故の発生につき、被告は自動車の運行に関し注意を怠らなかつたものと云うべきである。

また被告車に構造上の欠陥または機能の障害がなかつたことは原告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなす。

してみると被告は本件交通事故による損害賠償責任を免れ得るものと云うべきである。

三、よつてその余の点を判断するまでもなく、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条、第九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小島裕史)

別表

<省略>

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