岐阜家庭裁判所 昭和49年(少)1295号 決定 1974年10月30日
少年 S・Y(昭三六・三・一三生)
主文
少年に対し強制的措置をとることを許可しない。
少年を岐阜保護観察所の保護観察に付する。
保護観察所長は、少年の保護者R・Yが少年の通学する中学校と協力して少年の健全な育成に役立つ教育体制をとるよう、必要な環境調整の措置を講じられたい。
理由
1 非行事実
少年は未だ一四歳に満たない少年であるが、昭和四八年四月から昭和四九年九月までの間に一六回にわたり現金等の窃盗行為をしたものである。その各触法行為の内容は本件記録中の岐阜県○○児童相談所長の昭和四八年九月二〇日付送致書記載の非行事実、及び○○警察署長作成の昭和四九年一〇月付児童通告書記載の非行事実のとおりであるので、これを引用する。
2 上記事実に適用すべき法条
少年法三条一項二号、刑法二三五条
3 主文決定の理由
本件は岐阜県○○児童相談所長から少年に対して強制的措置が必要であるというので送致されたものであるが、強制的措置を必要とする理由の要旨は、送致書によれば、児童相談所は少年を昭和四五年九月頃から要保護児童としているが、少年には盗癖があり、保護者は義父、母親(但し昭和四九年四月に死亡)とも適切な監護能力を欠くので、昭和四七年一月一三日から同年三月九日まで養護施設○野○童○、同年九月五日から同年一〇月まで教護施設○○学院に収容保護した。しかし、これも、前者は義父・母が引取り方を強く希望したため、後者は少年を法事のため一時帰省させたところ義父が復院を拒否したため、いずれも保護の実をあげることのできぬまま、措置解除の措置をとるほかなかつた。しかし少年はその後も非行を重ね、その習癖化の傾向はますます進んでいくおそれがあるので、この際少年を強制的措置に付するのが適当である、というのである。
よつて審按するに、調査、審判の結果によれば、少年の盗癖はつとに小学校高学年の頃にその候を発し、すでに習癖化の様相を呈しているばかりでなく、唯一の保護者である義父は少年を熱愛してはいるものの、性格面行動面共に問題があり、少年にとつて適当な監護指導を加えうる家庭の態勢になつていない。加えて少年には生活面での躾けにも欠ける点が見受けられるばかりでなく、計算も読み書きも出来ない有様である。これらの点からすると、少年には強制的措置をとることまではともかく、親の意思に反しても教護院に入所せしめることが、少年の今後の社会適応のため有効であることが十分に考えられる。
しかしながら、鑑別結果によれば、少年は知的能力に恵まれない被暗示性大の精薄少年であり、鑑別所入所中でも同室の者に邪魔者扱いされ、殆んど相手にされなかつたようである。しかし、少年が現に通学中の○○中学校は少年の盗癖には手を焼きながらも、少年には同情の念を持ち、指導上種々の工夫をこらしつつ少年を受入れる態勢にあり、級友達も少年をつまはじきすることはなく包容している。このため少年は学校には親和感をもつており、出席状況も良い。これは少年にとつて得がたい好条件だといわなければならない。また、義父は自分の施設経験を引合いに出して少年には自分の轍をふませたくないと収容には絶対反対の構えが強い。こういつた諸般の事情にかんがみると予後の不安はないではないが、今はともかく少年を自宅に置いて周囲から少年及び保護者に注意、指導を加えていく態勢を強化することが得策だと考える。就中必要なことは、少年の家庭環境とくに義父の少年や社会に対する接し方を改善することである。義父が対社会的な面で少年の番犬的立場に終始するならば折角の学校や保護司等の指導もその効果を減殺してしまうだろう。義父に対する強力な働きかけを必要とするゆえんであるが、こうした義父、少年に対する指導は今後とも相当長期間を要することが予想される。よつて少年には強制的措置は許可しないが、相当期間保護観察に付するとともに、保護観察所長をして義父に対する働きかけを通じて少年の家庭環境を調整する環境調整の措置をとらしめることを相当と認め、主文の通り決定する。
少年法二四条一項一号・二項、少年審判規則三七条一項適用
(裁判官 海老沢美広)