大判例

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岡山地方裁判所 平成元年(ワ)513号 判決

原告

藤野則康(X1)

藤野夏恵(X2)

右両名訴訟代理人弁護士

佐々木斉

大石和昭

奥津亘

被告

倉敷市(Y1)

右代表者市長

渡邊行雄

右訴訟代理人弁護士

陶浪保夫

右指定代理人

白神昭一

高吉信雄

中野武士

被告

本州四国連絡橋公団(Y2)

右代表者総裁

加瀬正蔵

右訴訟代理人弁護士

近藤弦之介

香山忠志

鴨崎多久巳

事実及び理由

第三 判断

一  本件事故当時の本件池の設置、管理の主体について

〔証拠略〕によると次の事実が認められる。

1  本件池は、瀬戸中央自動車道の建設に伴い、従前存在していた池が公用廃止になるため、被告公団がその現物補償の代替池として建設したものであり、被告倉敷市の指示により、その構造、安全設備などが決定されて、昭和六二年四月頃完成し、池の鍵三本(斜樋二か所、ハンドル操作一か所)が本件池とともに被告公団から被告倉敷市に引き渡された。しかし、まもなく、漏水箇所が発見されて、被告公団において手直し工事をなし、同年一二月右工事を完了し、その頃倉敷市に本件池を引き渡した。その際、被告公団は前記鍵をマスターキーにして被告倉敷市に引き渡した。その後は本件池は潅漑用に利用され、被告倉敷市が本件池を事実上管理している。

2  被告倉敷市においては、被告公団がした前記漏水箇所の手直し工事が完全であるか否かについては、二年程度経過しないと確認できない、との見解から、本件事故当時は、書類上の移管手続を済ませていなかった(なお、その後前記手直し工事が不完全であったことを認めるに足る証拠はない。)。

右事実関係によると、本件事故当時の本件池の設置、管理者は被告倉敷市というべきである。被告倉敷市は前記移管手続未了を根拠にして、これを否定しているが、前記結論は被告倉敷市の管理が事実上のもので足りると解されるから、前記被告倉敷市の主張は採用することができない。しかして、右事実関係からすれば、被告公団は本件池の設置、管理の主体ではなかったものと認めるのが相当である。

二  本件池の設置、管理の瑕疵について

〔証拠略〕によると次の事実が認められる。

1  本件池は別紙現場見取図及び新平松池断面図記載のとおりの構造となっており、北西側は長さ約四四メートルの堤体部分となっていて、その最上部は幅約四メートルの平地部分、南東側は約二七度の傾斜が池の底に向かって一〇メートル以上続く法面(防護壁ブロック)、北西側は南東側と同程度傾斜の法面となっている。堤体部分の南東側は自然の地形を利用した半円形の斜面となっていて、これらに囲まれた部分に貯水する構造となっている。本件事故当時、幼児の身長を相当上回る程度の水深に及ぶ貯水がなされていた。

2  本件池の前記堤体部分に入る場合の通常の経路は、本件池の北東側にある幅約一・一メートルの山道が堤体の北東端部分と接しているので、右接続部分から堤体に入る形となるが、この部分には本件池に対する進入防止のための防護柵や扉などは設置されていなかった。なお、本件池の北東部の前記山道に沿って本件池への落下防止用設備として約二〇メートルの防護柵が設置されているが、右山道から本件池堤体部分への進入を防止するものとはなっていない。前記山道を下っていくと、三〇〇メートル余り先に当時の原告ら方住居が存在していた。

3  麻美及び幸夫は本件事故当日午後二時頃連れ立って自宅を出て、つくし取りをしていたが、夕方になっても帰ってこなかったので、原告夏恵や関係者らが捜索を始め、同日午後一一時頃、本件池の前記堤体の法面(防護壁ブロック)に滑り跡が発見され、前記水位を下げて捜索したところ、水面下に麻美及び幸夫が溺死しているのが発見されたことから、右両名はつくし取りで遊んでいて、本件池の堤体部分に入り、誤って水面に転落溺死したものと推認される。

4  本件池は山腹にあり、周囲は、畑、竹林、雑木林であり、本件池付近には山道があるに過ぎないが、約二〇〇メートル離れたあたりから人家があり、右山道が人家の集落に通じている。

以上の事実関係によれば、幼児が本件池に遊びにきた場合、誤って、堤体上部の平地部分から貯水部分に通じる法面を滑り落ちる危険があり、特に、幼児の身長を超える深い水深のある貯水状態のときは、溺死事故発生の可能性が高く、このような事故発生を防止するため、前記本件池の堤体の入口部分に進入防止のための防護柵などの設備をなすべきであり、この設備がなされていなかったことは、本件池の設置、管理に瑕疵があるものというべきであって、本件池の危険防止のための安全設備としては、前記山道沿いの防護柵の設置だけでは不十分というべきである。被告倉敷市は、本件池の所在場所からみて、幼児が独力で近付く可能性はない、として、瑕疵の存在を否定するが、前記事実関係からすれば、幼児が独力で本件池に近付く可能性が高いとはいえないけれども、そんなに遠くない地域に人家の集落があることからすれば、その可能性は十分認められ、被告倉敷市の右主張は採用することができない。

三  原告らの過失について

〔証拠略〕によると、本件事故当日は、原告則康は入院中であり、原告夏恵は午後二時頃麻美と幸夫が自宅から遊びにでかけるのを見送ったが、池に近付かないよう注意したものの(もっとも、原告夏恵は、当時、本件池の存在を知らなかったので、一般的な池に対する注意をしたに過ぎなかった。)、その後、夕方まで、麻美と幸夫の行動については注意を払わなかったほか、日ごろから、危険な場所に近付かないよう注意はしていたものの、十分徹底していなかったことが認められ、本件事故の発生については、原告らにおいても、麻美と幸夫の監督が十分でなかった過失が認められる。しかして、前記本件池の瑕疵の内容などの事実関係を併せ考えると、原告らの過失は八割と認めるのが相当である。

四  損害について

1  麻美の逸失利益

前記のとおり、麻美は昭和五七年四月一九日生まれで、本件事故当時六歳であり、本件事故で死亡しなければ、一八歳から六七歳までの四九年間、原告ら主張の一八歳女子の平均賃金月額一二万一一〇〇円(平成元年賃金センサスによると、この額を下回らないことが認められる。)を得られた筈であり、生活費を五割控除して現価を求めると一三三五万九九九四円となり(121,100×12×0.5×18.387)、同額の損害を受けたものと認められるが、前記原告らの過失を斟酌すると、被告倉敷市が賠償すべき額は二六七万円を相当と認める。

2  麻美の慰謝料

本件にあらわれた一切の事情に前記原告らの過失を斟酌すると、被告倉敷市が賠償すべき額は三二〇万円を相当と認める。

3  幸夫の逸失利益

前記のとおり、幸夫は昭和五八年一二月一八日生まれで、本件事故当時五歳であり、本件事故で死亡しなければ、一八歳から六七歳までの四九年間、原告ら主張の一八歳男子の平均賃金月額一三万六八〇〇円(平成元年賃金センサスによると、この額を下回らないことが認められる。)を得られた筈であり、生活費を五割控除して現価を求めると一四七九万四九二〇円となり(136,800×12×0.5×18.025)、同額の損害を受けたものと認められるが、前記原告らの過失を斟酌すると、被告倉敷市が賠償すべき額は二九六万円を相当と認める。

4  幸夫の慰謝料

本件にあらわれた一切の事情に前記原告らの過失を斟酌すると、被告倉敷市が賠償すべき額は三二〇万円を相当と認める。

5  原告らの相続

右1ないし4の合計額は一二〇三万円となるところ、麻美及び幸夫の両親である原告らが各二分の一の六〇一万五〇〇〇円宛を相続したことになる。

6  葬儀費用

原告夏恵の供述と弁論の全趣旨によると、原告らは麻美及び幸夫の葬儀費用として各九〇万円の損害を受けたものと認められるが、前記原告らの逸失を斟酌すると、被告倉敷市が賠償すべき額は、原告らについて各一八万円を相当と認める。

7  弁護士費用

右原告らの損害額及び本訴の経緯に照らし、原告らの弁護士費用の損害は各六二万円が相当と認められる。

五  結論

そうすると、原告らの請求は、被告倉敷市に対し、右損害合計各六八一万五〇〇〇円及びこれに対する本件不法行為の翌日である平成元年三月一七日から完済に至るまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める範囲で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却すべきものである。なお、被告倉敷市の仮執行免脱宣言の申立は相当でないから却下する。

(裁判官 梶本俊明)

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