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岡山地方裁判所 平成10年(ワ)144号 判決 2000年4月06日

原告

山本賢二

被告

浅村美紀子

主文

一  被告は、原告に対し、金二七七三万六二六〇円及びこれに対する平成八年一月四日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、これを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四  この判決の一項は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

本件は、原告が被告に対し、訴外山本カズエ(以下「訴外カズエ」という。)が平成八年一月四日岡山県赤磐郡山陽町内の県道上で発生した交通事故(以下「本件事故」という。)で受けた傷害により、主位的に死亡したことによる訴外カズエ及び原告の損害につき、予備的に訴外カズエに後遺障害等級第一級の障害が残ったことによる訴外カズエ及び原告の損害につき、被告による事故車両の運行供用及び不法行為を原因として、主位的に損害賠償金五四三二万七〇〇〇円、予備的に損害賠償金五五三四万九五〇〇円の一部五四三二万七〇〇〇円、及びいずれも各金員に対する事故の日である前同日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求である。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠・弁論の全趣旨によって容易に認められる事実

1(交通事故の発生)

本件事故の内容は、左記のとおりである。

(ア)  平成八年一月四日午後七時三〇分ころ

(イ)  岡山県赤磐郡山陽町西中一〇八四番地の一先県道上

(ウ)  被告運転の普通乗用自動車(以下「被告車」という。)が道路を歩行中の訴外カズエ(大正二年八月一七日生まれ)を跳ね飛ばし、脳挫傷等の傷害を負わせたもの。

2(被告の責任原因)

被告は、事故当時、被告車を保有し、自己のため運行の用に供していたのであるから、自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、及び事故現場において前方を十分注視して進行すべき注意義務を怠った過失があるので、民法七〇九条に基づき、本件事故によって生じた損害につき、訴外カズエ及び原告に対し損害賠償責任がある。

3(訴外カズエの死亡とその相続関係)

(一) 訴外カズエは、事故当日、赤磐郡医師会病院に収容され、治療を受けていたが、平成八年一一月二四日死亡した。

(二) 原告は、訴外カズエの相続人である。

4(損害の填補)

本件事故で訴外カズエの受けた損害の一部を填補するため、被告の加入している損害保険(三井海上火災保険株式会社)から次のとおり保険金が支払われた。

(ア)  治療費(支払先・赤磐郡医師会病院)一〇八万二〇四五円

(イ)  入院雑費(支払先・原告) 五〇万九七一八円

二  争点

1(本件事故による傷害と死亡の因果関係)

訴外カズエの死亡は本件事故で受けた傷害によるものか否か。本件事故で受けた傷害と死亡の間に因果関係があるとしても、右傷害の訴外カズエの死亡に対する影響の程度からして、その寄与割合は五割の限度に限定されるべきか否か。

2(損害の内容)

(一)  訴外カズエが次の損害を受けたか否か。

(1) 入院雑費

(主位的主張)

訴外カズエが事故日から死亡日までの三二六日間入院治療を受けたことにより一日当たり一五〇〇円の割合による入院雑費四八万九〇〇〇円を要したもの。

(予備的主張)

訴外カズエが事故日から症状固定日までの一八〇日間入院治療を受けたことにより一日当たり一五〇〇円の割合による入院雑費二七万〇〇〇〇円を要したもの。

(2) 入院付添費

(主位的主張)

訴外カズエが前記三二六日間入院治療を受けたことにより一日当たり六〇〇〇円の割合による近親者の入院付添費一九五万六〇〇〇円を要したもの。

(予備的主張)

訴外カズエが前記一八〇日間入院治療を受けたことにより一日当たり六〇〇〇円の割合による近親者の入院付添費一〇八万〇〇〇〇円を要したもの。

(3) 休業損害

(主位的主張)

訴外カズエは、事故当時八二歳の健康な女子であり、原告及びその家族と同居し、家事労働に従事していたが、前記三二六日の入院期間中、家事労働に従事できなかったものであり、これを金銭で評価すると、平均賃金年額三二九万四二〇〇円を基礎として算出した一日当たり九〇二五円の割合による二九四万二〇〇〇円の休業損害を受けたもの。

(予備的主張)

訴外カズエは、事故当時八二歳の健康な女子であり、原告及びその家族と同居し、家事労働に従事していたが、前記一八〇日の入院期間中、家事労働に従事できなかったものであり、これを金銭で評価すると、平均賃金年額三二九万四二〇〇円を基礎として算出した一日当たり九〇二五円の割合による一六二万四五〇〇円の休業損害を受けたもの。

(4) 逸失利益

(ア) 家事労働分

(主位的主張)

訴外カズエは、事故当時八二歳の健康な女子であり、その平均余命九年の約二分の一に当たる八七歳までの五年間にわたり家事労働に従事することができたものであり、これを金銭で評価すると、平均賃金年額三二九万四二〇〇円から生活費相当分四〇パーセントを控除して得た金額に右の五年に対応する新ホフマン係数四・三六四を乗じて中間利息を控除して得られる利益八六二万五〇〇〇円を逸失したもの。

(予備的主張)

訴外カズエは、事故当時八二歳の健康な女子であり、その平均余命九年の約二分の一に当たる八七歳までの五年間にわたり家事労働に従事することができたものであり、これを金銭で評価すると、平均賃金年額三二九万四二〇〇円に右の五年に対応する新ホフマン係数四・三六四を乗じて中間利息を控除して得られる利益一四三七万五〇〇〇円を逸失したもの。

(イ) 年金収入分

(主位的主張)

訴外カズエは、事故当時、年間八二万七九〇〇円の年金収入を得ていたものであるから、右年金収入額から生活費相当分四〇パーセントを控除して得た金額にその平均余命九年に対応する新ホフマン係数七・二七八を乗じて中間利息を控除して得られる利益三六一万五〇〇〇円を逸失したもの。

(5) 慰藉料

(ア) 傷害分

(主位的主張)

訴外カズエが事故後死亡するまで本件事故で受けた傷害の治療のため一一か月間入院治療を余儀なくされたことによる精神的苦痛を慰藉するための金員三五〇万〇〇〇〇円

(予備的主張)

訴外カズエが事故後症状が固定するまで本件事故で受けた傷害の治療のため六か月間入院治療を余儀なくされたことによる精神的苦痛を慰藉するための金員三〇〇万〇〇〇〇円

(イ) 死亡・後遺障害分

(主位的主張)

訴外カズエが本件事故によって死亡を余儀なくされたことによる精神的苦痛を慰藉するための金員二〇〇〇万〇〇〇〇円

(予備的主張)

訴外カズエが本件事故によって後遺障害等級第一級の後遺障害の残ったことによる精神的苦痛を慰藉するための金員三〇〇〇万〇〇〇〇円

(二)  原告が次の損害を受けたか否か。

(1) 慰謝料(主位的主張)

原告が母である訴外カズエが死亡したことによって受けた精神的苦痛を慰藉するための金員五〇〇万〇〇〇〇円

(2) 葬儀費用等(主位的主張)

(ア) 葬儀費用 一二五万一四〇四円

(イ) お布施料 五〇万〇〇〇〇円

(ウ) 墓石建立費 一三〇万〇〇〇〇円

(エ) 計 三〇五万一四〇四円

原告は、訴外カズエの葬儀を執り行い、墓石を建立したことにより前記費用を含む三三〇万〇〇〇〇円以上を出捐し、少なくとも同額の損害を受けたもの。

(3) 弁護士費用

(主位的主張)

被告が訴外カズエ及び原告の損害につき任意の支払いに応じないために原告が弁護士に訴訟の提起追行を委任したことによる費用であって、認容額のおおむね一〇パーセントに当たる四九〇万〇〇〇〇円

(予備的主張)

被告が訴外カズエ及び原告の損害につき任意の支払いに応じないために原告が弁護士に訴訟の提起追行を委任したことによる費用であって、認容額のおおむね一〇パーセントに当たる五〇〇万〇〇〇〇円

第三争点に対する判断

一  本件事故による傷害と死亡との因果関係について

甲第五ないし第八号証、第二一号証、第二二号証、第三四号証、第三五号証、乙第四号証、第六号証、鑑定人浅利正二の鑑定の結果によると、<1>訴外カズエは、事故当時八一歳であったが、平成八年一月四日午後七時三〇分ころ道路左端を歩行中、後方から時速約三〇キロメートルの速度で進行してきた被告車左前部によって左前方路外まで跳ね飛ばされ、脳挫傷、右肩胛骨骨折、肋骨骨折、骨盤骨折、骨盤内大量出血の傷害を負ったことから、赤磐郡医師会病院に収容され、一〇か月余にわたり治療を受けたこと、<2>その間、訴外カズエは、骨盤内における大量出血のため輸血を受けるとともに、経口摂取ができないため高カロリー補液の胃に対する直接補給を受けるなどの集中治療を継続的に受けたが、数か月にわたり、意識障害が遷延化し、その間肺炎併発による高熱の持続、さらには高血圧状態の持続といった経過を経て、全身状態が悪化するうち、同年一〇月三一日併発した脳内出血のため呼吸停止・心停止を来し、以来重篤な状態となり、同年一一月二四日午後〇時〇一分心不全のため死亡したこと、<3>特に意識障害の遷延化についてみると、訴外カズエが受けた傷害の内容・程度は、大量出血を伴う骨盤骨折を中心とする重度の多発外傷であり、事故後四・五時間は清明であった意識レベルも、大量出血による約一〇時間に及ぶ低血圧のためその後低下して意識不明の状態に陥っており、以後輸血等の措置によって血圧の上昇とともに一時期的に呼び掛けに応答し、開眼するまでに回復したものの、顕著な改善を見ないまま、再び意識レベルが低下し、その後は高血圧状態の持続が加わるなか、脳内出血を併発するという経過を経て脳死状態となったものであること、<4>訴外カズエの主治医は、本件事故で受けた傷害の治療の過程で生じた右の脳内出血が直接の死因であるけれども、右の脳内出血自体右の傷害とは無関係に発症した高血圧によるものであることを理由に、右の傷害と死亡の間に因果関係が全くないと判断しているのに対し、鑑定人は、大量出血を伴う骨盤骨折等の多重外傷に起因する血圧低下が継続し、プレショック状態となったところ、本件事故による軽度の脳内出血のほか高齢による脳実質萎縮・多発性小脳梗塞もあって、不可逆的な脳実質の機能低下を招いたところ、これが原因となって数か月にわたる遷延性意識障害をもたらすとともに、その間における意識障害によって引き起こされた全身状態の不良が原因となって肺炎による高熱症状さらには高血圧症状を併発し、これが持続したことにより頭蓋内圧を亢進させる一方、右の頭蓋内圧の亢進により全身状態をさらに悪化させるという相乗作用を生じ、次第に重篤な状態へと推移していったものであり、このような背景事情の下で、頻回にわたり収縮期二〇〇mmHg拡張期一〇〇mmHgといった高血圧状態を示していたため、遂には広範囲にわたるびまん性のくも膜下出血を起こしたことにより同年一〇月三一日呼吸停止・心停止を経て脳死状態に移行し、同年一一月二四日心停止により死亡するに至ったものであるので、本件事故で受けた傷害と訴外カズエの死亡との間には密接な関係がある、医学的にあえていうならば本件事故による傷害が訴外カズエの死亡に与えた原因比率は八〇パーセント程度であると判断していること、が認められる。

右の認定事実によると、主治医の判断は、訴外カズエの死因が本件事故とは無関係に発生した脳内出血によるものであるとするものであり、右の判断が訴外カズエの治療行為を直接担当した医師の意見であることからすると、無視し難いものがあるといわざるを得ないけれども、その医学的根拠は明らかでないといってよいところ、鑑定人の指摘するように、訴外カズエが本件事故によって骨盤骨折を中心とする重度の多重外傷を受けたことは明らかであり、とりわけ、骨盤内大量出血による長時間の血圧低下のためプレショック状態にまで陥った結果、不可逆的な脳実質の機能低下が引き起こされ、このため意識障害が数か月という長期にわたり継続したことにより全身状態の悪化が招来されたことは容易に首肯しうるところであり、その間において全身状態不良のため肺炎を併発したことによる高熱症状の持続さらには脳循環不全による高血圧症状の持続が頭蓋内圧の亢進を促進し、これがさらなる全身状態の重篤化に寄与することによって頭蓋内圧の亢進を促進するという相乗作用が重要な素地となって脳内出血を引き起こしたことから、脳死状態となり、訴外カズエの死亡がもたらされたものと推認することは、訴外カズエが受傷直後のプレショック状態を脱した後も一一か月にわたりほとんど症状の改善が認められないまま死亡したという前記経過からみて、十分に可能であるというべきである。訴外カズエが受傷当時八一歳という高齢であり、脳実質萎縮・多発性小脳梗塞が右の脳実質の障害を促進する要因の一つとして働いたことは鑑定人の認めるところであるが、脳実質萎縮・多発性小脳梗塞がその内容・程度からして重要な要因であったとは認め難いことからするならば、右の疾患の存在は、本件事故による傷害と死亡の間に相当因果関係を肯定する上で何ら障害となる事情ではないというべきである。また、右の要因が存在するため、医学的には本件事故で受けた傷害の死亡に対する原因比率が八〇パーセント程度であるとみられるとしても、法的判断である因果関係の判断に当たり、右の事情のゆえに相当因果関係の存在につき割合的に認定するのが相当であるということはできない。

二  訴外カズエの損害の内容について

1  訴外カズエが本件事故によって受けた損害の内容は以下のとおりである。

(一) 入院雑費

訴外カズエは、本件事故によって傷害のため赤磐郡医師会病院に三二六日間入院治療を受けたことにより入院雑費を要したことが明らかであるといってよく、その額は一日当たり一三〇〇円の割合による三二六日分合計四二万三八〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(二) 入院付添費

原告本人尋問の結果によると、訴外カズエの前記入院期間中、訴外カズエの子である原告、その妻ことみ、ことみの父及び姉が付添いをしたというのであるが、原告において自認するように、原告及びその妻のいずれも仕事を持つ身であり、入院期間中二四時間付添看護に当たったものではなく、平日は勤務終了後に付添看護をし、土曜日及び日曜日に半日程度付添看護したものであり(原告自身、その間に交通事故のため入院している。)、また、原告の妻の姉及び父にあっては、甲第二七及び第二八号証から明らかなように、両名とも愛媛県宇和島市に居住している者であり、訴外カズエの全入院期間中付添看護に当たったものとは到底認め難く、その付添看護の具体的態様が明らかでないというほかないことからすると、入院付添費は、一日当たり二〇〇〇円の割合による三二六日分合計六五万二〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害と認めるのが相当である。

(三) 休業損害

甲第二二号証、第三五号証、乙第六号証によると、訴外カズエは、事故当時八一歳の高齢であり、越宗病院で週一日デイサービスを、月二回リハビリをそれぞれ受けていたところ、本件事故に遭う約二年前より老人性痴呆症状に加え、夜間徘徊が出現しており、事故当夜も寒冷期の夜間であるにもかかわらず、一人で自宅からかなり離れた場所を歩行していたことからすると、原告本人が述べるように、訴外カズエは、事故当時散歩していたものではなく、看護記録の記載のとおり、事故当日午後六時四〇分ころ自宅を出て現場付近道路を徘徊中本件事故に遭遇したものと認められ(前記鑑定では、訴外カズエには事故前から脳循環不全の存在したことが指摘されている。)、右の認定事実からすると、原告主張のように、訴外カズエが健康な女子であって、食事を準備するなど、家事労働に従事していたとは認め難く、右主張に沿う趣旨を含む甲第一二ないし第一五号証、乙第四号証、原告本人尋問の尋問結果もたやすく採用することができず、他に右主張を認めるに足りる証拠はない。そうすると、訴外カズエは、事故当時、金銭評価の可能な労働に従事していたものではないから、その入院期間中休業による損害が発生したということはできない。

(四) 逸失利益

前記のとおり、訴外カズエは、事故当時八一歳の高齢であって、老人性痴呆症状もあり、金銭評価の可能な労働に従事していたものではないから、本件事故によって死亡したことにより得べかりし利益を喪失したということはできない。しかし、甲第二〇号証によると、訴外カズエは、国民年金年額四九万八七〇〇円、厚生年金年額二八万七〇〇〇円、厚生年金基金四万二二〇〇円合計八二万七九〇〇円の年金を受給していたことが認められるところ、平成八年簡易生命表によると、訴外カズエの死亡時の年齢である八二歳の女子の平均余命は八年余であるから、右の平均余命年数八年間における右年金収入金額から生活費実費相当額と認められる八割を控除して得た金額一六万五五八〇円につき得べかりし利益を喪失したということができるところ、右の平均余命年数八年に対応するライプニッツ係数六・四六三二一二七六を乗じて中間利息を控除し、事故時における現価を算出すると、一〇七万〇一七八円となることが計算上明らかである。

(五) 慰藉料

訴外カズエは、前記のとおり脳挫傷、右肩胛骨骨折、肋骨骨折、骨盤骨折、骨盤内大量出血の傷害を負い、直ちに赤磐郡医師会病院に収容され、入院中の同年一〇月三一日併発した脳内出血のため重篤な病態が継続していたが、同年一一月二四日午後〇時〇一分右脳内出血による心不全のため死亡するまで約一〇か月余にわたり入院治療を受けたものであり、訴外カズエの負傷の程度は重傷であって、病院収容後意識不明の状態に陥り、その後も意識がほとんど回復することなく死亡したものであることのほか、訴外カズエの受けた傷害の内容・程度等本件で認められる一切の事情を斟酌するならば、その精神的苦痛を慰藉する金員の額としては二〇〇〇万〇〇〇〇円をもって相当であると認める。

(六) 計

右の(一)ないし(五)の損害の合計額は二二一四万五九七八円となる。

2  訴外カズエの相続人は、その子である原告であるところ、訴外カズエの死亡によりその損害につき原告において損害賠償請求権を相続したものと認める。

三  原告の損害の内容について

1  原告が本件事故によって受けた損害のうち弁護士費用を除くその余の損害の内容は、以下のとおりである。

(一) 慰謝料

原告が母である訴外カズエの死亡によって著しい精神的苦痛を受けたことは推認するに難くなく、これを慰藉する金員は三五〇万〇〇〇〇円をもって相当であると認める。

(二) 葬儀費用等

甲第一六号証の一、五及び七、第一八号証の一及び二、第三二号証の一ないし四、原告本人尋問の結果によると、原告は、訴外カズエの葬儀を執り行い、葬儀会社に対し葬儀費用として一二一万〇二〇四円を支払ったこと、及び、家族墓(「山本家」の墓として建立したもの。)による墓石碑を建立し、その費用として一三〇万〇〇〇〇円を要したことが認められ、右の葬儀会社に対する葬儀費のほかに僧侶に対するお布施料として相当額を負担したものと推認することができ、四十九日忌費用を含めるならば、その総額が三〇〇万〇〇〇〇円を超えるものと認められるが、故人である訴外カズエ及び喪主である原告の社会的地位並びに社会一般における葬儀の実情のほか、建立した墓石碑が訴外カズエの個人墓でなく、家族墓であることなどの事情にかんがみるならば、葬儀費及び墓石碑建立費合計一五〇万〇〇〇〇円の限度で本件事故と相当因果関係のある損害であると認めるのが相当である。

2  右の(一)及び(二)の損害の合計額は五〇〇万〇〇〇〇円となる。

四  損害の填補について

被告が原告に支払うべき損害額は、訴外カズエの損害分と原告固有の損害分を合計するならば二七一四万五九七八円となるところ、被告の加入している損害保険から治療費(支払先・赤磐郡医師会病院)一〇八万二〇四五円と入院雑費(支払先・原告)五〇万九七一八円の支払いを受けているので、このうち、治療費一〇八万二〇四五円は被告において自認する本件請求外の損害である訴外カズエの治療費に対する填補であり、控除すべきでないが、入院雑費五〇万九七一八円は本件請求に係る訴外カズエの入院雑費に対する填補であるから、右の損害額合計から控除すべきものである。

そうすると、原告が被告から支払いを受けるべき損害額は二六六三万六二六〇円である。

五  弁護士費用について

原告は、被告が任意の支払いに応じないため、弁護士に訴訟の提起追行を委任したものであり(当裁判所に顕著な事実である。)、事案の性質・内容及び審理の経過のほか、弁護士費用の損害としての特質にかんがみるならば、弁護士費用は一一〇万〇〇〇〇円をもって本件事故と相当因果関係にある損害と認める。

第四結論

よって、原告の請求は、損害賠償金二七七三万六二六〇円及びこれに対する本件事故の日である平成八年一月四日から支払済みまで民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で正当であるので、これを認容し、その余の部分につき失当であるので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六四条、六一条を、仮執行の宣言につき同法二五九条一項を各適用して(なお、訴訟費用の負担にかかる仮執行の宣言については、その必要を認めない。)、主文のとおり判決する。

(裁判官 渡邉温)

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