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岡山地方裁判所 平成10年(行ウ)9号 判決 1999年2月09日

原告

株式会社岡山農業公園ドイツの森

右代表者代表取締役

戸川英雄

被告

岡山県知事 石井正弘

右訴訟代理人弁護士

塚本義政

甲元恒也

佐藤洋子

右指定代理人

小倉誠二

中桐幸一

青山勝

渋江忠裕

生口正悟

守屋日出男

稲家誠

赤木一成

杉本盛正

主文

一  原告が平成九年三月二六日付けでした産業廃棄物処理施設設置の許可申請(岡山県東備地方振興局振興部受付第一六九一号)について被告が何らの処分をしないことが違法であることを確認する。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  訴えの利益について

前記第二の事実に加え、〔証拠略〕を総合すると、本件許可申請に係る一連の経緯につき、以下の事実が認められる。なお、争いのない事実も含む。

(1)  原告は、岡山県赤磐郡吉井町平山字小深田一六六二番の三外一四筆の土地に産業廃棄物最終処分場(管理型)を内容とする産業廃棄物処理施設設置を計画し、平成八年二月一九日東備振興局を通じて、被告に対し右の許可申請をしたが、指導要綱に定める事前指導を受けるため同年二月二八日取り下げた上、同年三月八日指導要綱に従い東備振興局に事前計画書を提出した。これに対し、東備振興局は、原告に事前計画書の形式的要件に関わる事項につき繰り返し補正させた後、同年一二月一二日形式的要件が具備されたとして、これを受理し、審査を開始した。その際、東備振興局では、原告に対し、技術的な見地からの審査の結果いかんによっては今後も事前計画書の内容に修正・訂正を求めることがある旨告げた。そして、東備振興局が平成九年二月一七日原告に対しさらなる事前計画書の補正を指示したところ、原告は、それまでの一年間にわたる事前指導を経て、もはや事前指導は必要がなく、直ちに許可申請につき審査を受けることができる状態になったとして、これまでの事前指導を終了させる目的で、同年三月二四日、右の事前計画書を取り下げた。

(2)  そして、原告は、前記のとおり、平成九年三月二六日、被告に宛てた許可申請書を東備振興局に提出し、東備振興局は、同日付けでこれを受け付けたが、原告は、許可申請書提出の際、被告に対し、事前計画書提出後一年以上にわたり事前指導を受け、その間十数回に及んで指示に従い補正を繰り返してきたものであるから、事前指導を打ち切らせてもらった上、行政手続法三二条及び三三条に定める救済を受けたい、もっとも、今後一切行政指導に従わないというものではなく、本件許可申請に対する審査の段階での行政指導には従う意思がある旨表明した。東備振興局は、その後同年三月三一日になって指導要綱に定める事前指導が終了していないため受け付けることができないものであるのに誤って受け付けたことを理由に原告に対して許可申請書を返戻したが、これに対し、原告は、直ちに異議こそ述べなかったものの、同年四月九日、代理人を介して、東備振興局に対し、「先日事前計画書を取り下げたため、許可申請を受理されなかった本件について、再度事前計画書を提出したい。今回は、新規の扱いであるが、内容的には前回のものと同様であるので、審査については継続的にお願いしたい。」と申し入れた。そして、原告は、同年六月四日東備振興局に補正を加えた事前計画書を提出したが、同年七月二二日東備振興局の指示でいったん持ち帰った。その後も、原告と東備振興局の間で事前計画書の提出、返却が繰り返された。

(3)  右の経過を経て、原告は、平成一〇年二月二五日、新たに産業廃棄物処理施設設置の許可申請書を提出した。これに対し、東備振興局は、同年三月一〇日、本件許可申請の場合と同様に、指導要綱に定める事前指導が終了していないことを理由に、右許可申請書を返却した。本件許可申請が、<1>設置の場所岡山県赤磐郡吉井町平山字小深田一六六二番一山林外一四筆四万三七七三平方メートル、<2>施設の種類産業廃棄物最終処分場(管理型)、<3>施設において処理する産業廃棄物の種類汚泥、廃プラスチック、繊維くず、ガラス及び陶磁器くず、鉱さい、建設廃材、前記産業廃棄物を処分するために処理したもの(政令二条一三号廃棄物)、<4>産業廃棄物の埋立地面積二万〇一一四平方メートル及び埋立容量一八万九六五七立方メートル、<5>工事金額三億九九九二万〇〇〇〇円等を内容とするものであるのに対し、右の許可申請は、<1>設置の場所岡山県赤磐郡吉井町平山字小深田一六六二番三山林外一五筆四万一二六〇平方メートル、<2>施設の種類産業廃棄物最終処分場(管理型)、<3>施設において処理する産業廃棄物の種類燃え殻、汚泥、廃プラスチック、紙くず、木くず、繊維くず、金属くず、動植物性残滓、ガラス及び陶磁器くず、鉱さい、建設廃材、ばいじん、ゴムくず、前記産業廃棄物を処分するために処理したもの(政令二条一三号廃棄物)、<4>産業廃棄物の埋立地面積一万八一一九平方メートル及び埋立容量一七万八四〇四立方メートル、<5>工事金額八億七九〇〇万〇〇〇〇円等を内容とするものであり、本件許可申請における産業廃棄物処理施設設置計画に修正変更を加えたものであり、両者は、対象区域、処理する産業廃棄物の種類、埋立地面積、埋立容量、工事金額、処理施設等において差異がある。

以上のとおり認められ、被告は、原告が平成九年三月二六日付けでした本件許可申請及びその後平成一〇年二月二五日付けでした許可申請のいずれについても、指導要綱に定める事前指導の未了を理由に許可申請書を返戻し、何らの処分もしていないため、原告においていずれの許可申請についてもその不作為の違法を確認することを求める訴えを順次提起しているものであるところ、原告は、東備振興局が平成九年三月三一日許可申請書を返戻したのに対し、直ちに異議を述べておらず、右の許可申請書返戻から一年以上経過して本件不作為違法の確認を求める訴えを提起したことが明らかである。しかしながら、原告は、本件許可申請に当たって前記のとおり本件許可申請に対する審査及び処分を求めるため指導要綱に基づく事前指導という方法での行政指導の受入れ拒絶を表明する一方(行政手続法三二条及び三三条に定める救済を求めている。)、本件許可申請に対する審査の段階での行政指導には従う意思がある旨を表明し、同年四月九日には代理人を通じて東備振興局に再度事前計画書を提出する旨表明して審査の継続を求めた上、その後同年六月四日東備振興局に補正を加えた事前計画書を提出しているものであり、その後も事前計画書の提出を繰り返していたことからすると、原告は、右の事前計画書の提出によって被告に対し本件許可申請につきその都度速やかなる審査及び処分を促していたものと認めるのが相当であり、前記のとおり事前計画書を取り下げた上、許可申請書返戻後新たに事前計画書を提出したからといって、右の許可申請書返戻に同意し、本件許可申請を撤回したということはできない。

なお、原告は、右の訴え提起に先立ち本件許可申請における産業廃棄物処理施設設置計画に修正変更を加えた内容による産業廃棄物処理施設設置の許可申請をしているけれども(平成九年三月二六日付け本件許可申請と平成一〇年二月二五日付け許可申請とは、前記認定のとおり、対象区域、処理する産業廃棄物の種類、埋立地面積、埋立容量、工事金額、処理施設等において差異があることに加え、それぞれ時期を異にして許可申請がされたものであるから、法律的に別個の許可申請であることはもちろんである。)、原告において右の許可申請の時点で本件許可申請につき撤回する旨明示の意思表示をした事実が存しない以上、原告が本件許可申請を撤回したということはできない。

そうすると、本件訴えは訴えの対象を欠くものではなく、被告の本案前の主張は採用できない。

二  不作為の違法性について

行政手続法七条によれば、本件許可申請が被告の事務所に到達した以上、他に何らの行為を要件とすることなく、直ちに審査の開始を行うことが被告に義務付けられているにもかかわらず、被告は、許可申請書返戻行為に及び、何らの審査及び処分をしていないのであるから、本件許可申請に対する被告の不作為が存在することは明白である。もっとも、被告は、原告から本件許可申請がなされると、間もなく原告に許可申請書を返戻したものであるけれども、右の行為が本件許可申請に対する応答であるところの行政処分に当たらないことも明白である。けだし、このような許可申請書返戻行為は、許可申請に対する審査義務を回避するために許可申請書の受付自体を拒絶するところの事実上の措置に過ぎないものであって、申請者において直ちにこれを受け入れ、申請を撤回に同意したと認められる事情が存しない限り、行政庁としては行政手続法七条に定める申請に対する応答の義務を免れるものでないというべきであるからである。

ところで、不作為の違法確認の訴えが認容されるためには、<1>行政庁に対し法令に基づく申請権を有する者による申請があったこと、及び、<2>これに対して行政庁が相当の期間内に諾否の応答をしないことが必要である(行政事件訴訟法三条五項参照)。そして、相当期間の経過は、行政庁が当該申請に対する応答行為をするのに通常必要とする期間を経過しているか否かを基準として、通常の期間を経過した場合には、行政庁の不作為は違法となるが、右期間を経過したことにつきこれを正当とする特段の事情があるときは違法であることを免れるというべきであるところ、前記<1>の要件を検討するに、本件許可申請は、法一五条一項に定める産業廃棄物処理施設設置の許可申請であり、原告によって平成九年三月二六日許可申請書が東備振興局に提出されたことにより右<1>の要件を充たしていることは明らかである。また、前記<2>の相当期間の経過の点についても、前記認定によれば、本件許可申請のあった平成九年三月二六日から、本件訴訟の最終口頭弁論期日である平成一〇年一二月八日に至るまでの約一年八か月の長期間にわたり本件許可申請に対する応答が何らされなかったものであるから、本件では相当期間を経過しているといって妨げないところ、被告は、右の期間経過を正当化するに足りる特段の事情につき何ら主張立証しない。

付言すると、原告は、本件許可申請に係る許可申請書が返戻されてから不作為違法確認の訴えが提起されるまでの間本件許可申請の審査を促すため事前計画書の提出を繰り返していたものであり、その発端となった原告の承諾のない許可申請書の返戻行為が違法な措置であることは被告においても認識しえたことからすると、前記のとおり不作為違法確認の訴えが提起されないまま一年以上の期間が経過したからといって、その間被告において本件許可申請につき許否の応答をしなかったことを正当化しうるものではないというべきである。けだし、原告が、東備振興局が行政指導である事前指導を継続中に以後の事前指導を明確に拒絶して本件許可申請に及んだ以上、被告としては、たとえ事前指導がなお必要であると考えたとしても、速やかに関係法令に従い許可申請の内容につき審査した上、許否の処分をすべきものであり、このことは行政手続法三三条の規定の趣旨に照らして極めて明らかであって、それが産業廃棄物処理施設の設置の許否という地域住民の生活環境及び公衆衛生の向上に深く関わる事務であっても変わりはないというべきであるからである。そうであるところ、被告は、前記のとおり、事前指導が終了していないことを理由に許可申請書を返戻したものであり、その後原告が産業廃棄物処理施設設置を巡って被告に対し許可申請を繰り返している事態も(この点は当裁判所に顕著な事実である。)、被告が、行政手続法七条の規定に従い原告の許可申請に対して審査を遂げた上許否の応答をすることなく、許可申請書の返戻を繰り返したことに起因するものであると認められるから、原告に非があるということはできない。

以上のとおり、本件許可申請に係る被告の不作為は違法であるというべきである。

第四 結論

よって、原告の請求は正当であるから、これを認容することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉温 裁判官 酒井良介 石村智)

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