岡山地方裁判所 平成2年(ワ)188号 判決 1991年8月26日
原告
井上友二
被告
板野修一
主文
一 被告は原告に対し、金六四万八五六二円及び内金五八万八五六二円に対する昭和六三年一二月一日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決第一項は仮に執行することができる。
事実及び理由
第一請求
被告は原告に対し金三九八万三一四〇円及び内金三六八万三一四〇円に対する昭和六三年一二月一日から支払い済まで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は自動車に追突された自動車の運転者が、民法七〇九条、自賠法三条により損害賠償を請求した事件である。
一 争いのない事実
昭和六三年一一月三〇日午後九時四〇分頃、倉敷市二日市七三二番地先路上において、原告運転の普通乗用自動車に被告運転の普通乗用自動車が追突した。被告には前方注視義務違反等の過失があり、被告は右加害車両の保有者である。
二 争点
被告は、入院の必要性、因果関係、後遺障害及び損害額を争う外、原告にシートベルト不着用の損害額減額事由があること及び原告に一一九万二二〇〇円支払つたから、損益相殺されるべきだと主張している。
第三争点に対する判断
一 原告の症状固定と治療経過について
証拠(甲五ないし一一、乙一ないし六、送付嘱託に基づく回答書、原告)によれば、次の事実が認められる。
1 原告は本件事故直後梶木病院で頸椎捻挫、左膝関節打撲症と診断されたが、レントゲン検査では異常が認められず、鎮静剤投与、局所療法を受け、入院の必要がないとのことであつたので、同病院には二日間通院した。
2 事故の翌日の同年一二月一日原告はおおもと病院に転院し、頸部痛、左膝痛を訴え、温熱療法、低周波による治療を受け、ここでもレントゲン検査を受けたが、異常は認められなかつた。原告はその後岡山済生会総合病院に四日間通院し、整形外科及び脳神経外科で診断を受けたが、いずれも入院の必要がないとのことであつた。しかし原告の症状は改善されず、原告の希望により、同月一〇日おおもと病院に入院した。
3 原告は同病院に平成元年二月二四日まで七七日間入院したが、同病院では頸椎ボリネツクを着用し、投薬、注射、温熱療法、低周波、頸部牽引、湿布等の治療がなされたが、原告にはレントゲン、頭部、頸椎CTの異常はなく、自覚的症状(主訴)は頸部痛、頸部圧迫感、頭部痛、左膝関節痛であつたが、右症状は入院中一進一退の状況で、原告は一二月二三日には外泊し、更に同月三〇日から翌平成元年一月三日まで外泊し、同月五日には頸椎ボリネツクを中止したこと、原告はその後は外出や自室に居ないことが多くなり、外泊も再三にわたつたが、外泊したため症状が悪化するようなことはなく、同月二五日には医者から退院を勧告されるに至り、その後も二回退院を勧められたため、原告は同年二月二四日に退院した。
4 その後原告は同月二五日から同年一一月二七日まで(実治療日数一一八日間)同病院に通院し、同様の治療を受け、同年三月一四日から物療だけになつたが、原告の症状には変化はなく、同月三一日には仕事を始める旨医師に述べている。
5 おおもと病院の医師による原告の自賠責保険後遺障害診断書には、原告の症状固定日が平成元年一一年二七日となつているが、同年二月中頃には、同医師は原告の症状が既に固定していること及び野外の労働には多少支障はあるが就労は可能であると回答している。また原告は、後遺障害認定の手続をしていない。
右認定の原告の治療の内容、経過、医師の意見等の事実に徴すると、原告の症状は、遅くとも退院時である平成元年二月二四日には固定したと認めるのが相当である。
二 損害額(請求額三六八万三一四〇円)
1 治療費
証拠(乙二〇の6)によれば、治療費一五六万八五四五円は被告において支払つたことが認められる。
2 入院雑費 一万四〇〇〇円
前記認定の事実によれば、原告は本件事故直後診察を受けた梶木病院やその後診察を受けた岡山済生会総合病院で入院の必要がないと診断されていること、おおもと病院には本人の希望で昭和六三年一二月一〇日入院したものであること、同月二三日には外泊し、それによる症状の悪化もなかつたことが認められるから、原告の入院期間のうち二週間をもつて本件事故と相当因果関係を認めるのが相当である。
しかして入院雑費は一日当たり一〇〇〇円と認めるのが相当であるから、その一四日分
3 通院雑費 二万九五〇〇円
原告は平成元年二月二四日までおおもと病院に入院していたことは前記のとおりであり、通院雑費は一日当たり五〇〇円と認めるのが相当であるから、入院前の通院分六日間と前記二週間を越える日から退院日(症状固定日)まで五三日間につき通院雑費の範囲で原告の損害を認めるのが相当である。なお症状固定日以後の通院雑費は相当因果関係にある損害とは認められない。
4 休業損害 九三万七二六二円
前記認定の事実によれば、原告は本件事故後症状固定日まで休業したことが認められるところ、原告は休業損害は月額四〇万円を下らないと主張する。
証拠(甲一二、原告)によれば、原告は本件事故当時石工として株式会社岡本重機建設に勤務していたほか、アルバイト収入があつたことが認められるが、同会社作成の休業損害証明書(甲一二)は、税金等の控除がされていないうえ、原告の供述とも相違するので信用できず、またアルバイト収入の額を認めるに足りる証拠はない。
原告は本件事故当時三〇歳であつたから、昭和六三年度の賃金センサス産業計全労働者の同年齢の年収は三九三万六七〇〇円であることが認められるので、これに基づいて計算すると、休業損害は九三万七二六二円となる。
5 後遺障害による逸失利益
原告は、一四級相当の後遺障害がある旨主張するが、前記認定の原告の症状からすると、原告主張の後遺障害があるとは認められない。
6 慰藉料 八〇万円
被告が見舞金として三三万円支払つている(甲二〇、原告)こと、本件事故当時被告は酒気を帯びていた(甲一六、一七)こと及び前記認定の諸般の事情を考慮すると、八〇万円が相当である。
三 損害額の減額事由
被告は、原告は本件事故当時シートベルト不着用であつたから、損害額を減額すべきだと主張するが、本件事故は追突事故であり、シートベルト不着用により原告の損害が増加したことを認める証拠はないから、被告の右主張は採用しない。
四 損害の填補 一一九万二二〇〇円
証拠(甲二〇の1ないし6)によれば、被告は休業損害、交通費の名目で一一九万二二〇〇円支払つたことが認められるから、これを控除すると、被告が原告に対して賠償すべき損害額は五八万八五六二円となる。
五 弁護士費用 六万円
本件事故と相当因果関係にある弁護士費用は六万円が相当である。
(裁判官 將積良子)