岡山地方裁判所 平成2年(ワ)479号 判決 1991年10月15日
原告(反訴被告)
中野秀樹
被告(反訴原告)
橋本晃明
主文
一 本訴原告(反訴被告)の本訴被告(反訴原告)に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務は、金一二四万八六四二円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を超えて存在しないことを確認する。
二 本訴原告(反訴被告)は、本訴被告(反訴原告)に対し、金一二四八万八六四二円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
三 本訴原告(反訴被告)及び本訴被告(反訴原告)のその余の請求を棄却する。
四 訴訟費用は本訴反訴を通じてこれを三分し、その二を本訴原告(反訴被告)の、その余を本訴被告(反訴原告)の各負担とする。
五 この判決は二項に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
(本訴)
一 請求の趣旨
1 原告の被告に対する別紙記載の交通事故に基づく損害賠償債務金は存在しないことを確認する。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
(反訴)
一 請求の趣旨
1 反訴被告は、反訴原告に対し、金一九三四万六七三六円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は反訴被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 反訴原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は反訴原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 本訴請求原因
1 本訴原告(反訴被告、以下単に原告という。)は別紙記載の交通事故(以下本件事故という。)を惹起した。
2 本訴被告(反訴原告、以下単に被告という。)は本件事故により股関節脱臼骨折等の傷害を受けたが、原告は被告に対し、すでに相当額の金員の支払いをなした。したがつて、本件事故に基づく原告の被告に対する損害賠償義務はもはや存在しない。しかるに、被告は原告に対し、反訴請求の趣旨記載の金員の支払いを求めている。
二 本訴請求原因に対する認否
1 請求原因1記載の事実は認める。
2 同2は争う。
三 本訴抗弁及び反訴請求原因(以下、本訴抗弁という。)
1 原告は本件事故を惹起した。
2 原告は、本件事故につき自動車損害賠償保障法三条及び民法七〇九条の責任を負う。
3 被告は、本件事故により傷害を負い、次の損害を受けた。
ア 治療費 金七万八九四〇円
イ 入院雑費 金二六万七八〇〇円
ウ 付添看護費等 金五四万三八六〇円
昭和六三年一一月二三日から平成元年二月一日までの七一日間の付添費(一日五〇〇〇円)及び付添人たる被告の実母の交通費(一日二六六〇円)。
エ 休業損害 金七〇九万二〇〇円
昭和六三年一一月二二日から症状固定時期である平成二年六月二九日までの五八五日間につき、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表産業計三五歳全労働者の平均収入により計算。
オ 逸失利益 金一一一六万五九三六円
被告は自賠責後遺障害等級一二級七号の認定を受けている。労働能力一四パーセント喪失、新ホフマン係数一八・〇二九として計算。
カ 傷害慰謝料 金三〇〇万円
キ 後遺症慰謝料 金三〇〇万円
ク 弁護士費用 金一五〇万円
4 被告は、原告の加入する保険会社から金七三〇万円の支払いを受けた。
5 よつて、被告は、原告に対し、被告の損害額金二六六四万六七三六円から既受取金七三〇万円を控除した残金一九三四万六七三六円及びこれに対する本件事故日である昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
四 本訴抗弁に対する認否
1 本訴抗弁の1については、事故の態様を争い、その余は認める。
2 同の2は認める。
3 同の3は争う。
4 同の4は認める。ただし、原告の支払金額は、治療費を除き金七三二万二九三八円である。
5 同の5は争う。
五 本訴再抗弁及び反訴抗弁
本件事故は、深夜交通量の少ない交差点における、原告運転の右折車と被告運転の直進車の出会い頭の衝突事故であり、被告車は制限速度を超過して進行していた。被告には本件事故につき二〇パーセントの過失があるので、過失相殺をするべきである。
六 本訴再抗弁及び反訴抗弁に対する認否
争う。本件事故における原告の過失は大きく、原告の過失を一〇〇パーセントとみるべきである。
第三証拠
本件記録中の証書目録及び証人等目録記載のとおりであるからこれを引用する。
理由
一 本件事故の発生及び原告の責任については当事者間に争いがなく、原告は民法七〇九条及び自動車損害賠償保障法三条に基づき、被告に生じた損害を賠償する責任がある。
二 被告の傷害と治療経過
成立に争いのない甲六ないし一三号証、一四号証の一ないし四、一五ないし二六号証、三〇ないし三三号証、三四号証の一、二、三五号証の一、二、三六号証の一、二、三七ないし四二号証、四三号証の一、二、四四号証、四五号証、四六号証の一ないし三六、四七号証、四八号証、五四号証、被告本人尋問の結果によると、被告は本件事故により右股関節脱臼骨折、右膝打撲傷等の傷害を受け、昭和六三年一一月二三日医療法人社団光生病院に入院し、同病院に平成元年六月一六日まで入院(入院日数二〇六日)して治療を受けたこと、同病院を退院後は医療法人自由会橋本病院に平成元年六月一九日から平成二年六月二八日まで通院し(実通院日数は一七九日)、同月二九日に症状が固定したとの診断がなされていること、被告については自賠責後遺障害等級一二級の認定を受けたことが認められる。
原告は、症状固定の時期がもつと早期とされるべきである旨主張するが、前掲甲二三ないし二六号証、五四号証及び被告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によると、被告の右股関節脱臼骨折は比較的早期に整復されているが、平成元年一二月の段階では関節可動域の減少に対する運動療法や大腿四頭筋強化のための治療が行われているし、被告の傷害は大腿骨骨頚無腐性壊死の危険性を有する傷害であつて、そのためには一定の経過観察が必要であること等の事情が認められ、これらの事情を斟酌すると症状固定時期を平成二年六月二九日とした医師の診断には合理性があるというべきであつて、原告の前記主張は採用できない。
三 被告の損害(弁護士費用を除く。)
1 治療費
成立に争いのない乙五号証によると被告は本件事故に基づく治療費として金七万九四八〇円を自ら支払つていることが認められる。
2 入院にともなう損害
(1) 入院雑費
被告が本件事故に基づく治療のため二〇六日間入院していたことは前認定のとおりであり、弁論の全趣旨によれば、この間の入院雑費としては一日一〇〇〇円を基準とし、金二〇万六〇〇〇円をもつて本件事故と相当因果関係のある損害と認める。
(2) 付添看護費、看護人の交通費
成立に争いのない乙一、二号証、被告本人尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、被告はその入院中の昭和六三年一一月二三日から平成元年二月一日までの七一日間医師の指示によつて被告の母親の付添看護を受けたこと、その間同女は被告の住居に宿泊し被告の入院する病院に通い、そのための交通費として一日当たり金二六六〇円を支出したことが認められ、以上によれば、入院付添費として一日四〇〇〇円を基準とした金額と支出交通費の合計額を損害として認めるのが相当と考えられる。したがつて、金四七万二八六〇円をもつて損害とする。
3 休業損害
成立に争いのない甲二七ないし二九号証及び被告本人尋問の結果によると、被告は昭和六三年三月から産業廃棄物処理の業務を営んでいたことが認められるところ、二で判示した被告の傷害の程度、治療経過、被告の業務内容(体力を要する作業)及び担当医師の判断(前掲甲五四号証)を斟酌すると、事故時からその症状固定時期までの間(五八五日間)被告の稼働は困難であつたと認められるから、その間の休業損害を認めるべきである。その際、基礎とする被告の収入は、賃金センサス昭和六三年第一巻第一表産業計の三五歳から三九歳までの全労働者の平均年収金四四二万三八〇〇円として計算し、金七〇九万二〇〇円をもつて休業損害とする(四四二万三八〇〇÷三六五×五八五)のが相当である。
4 入通院慰謝料
入院日数(二〇六日)、通院日数(実日数一七九日)に、前認定の傷害の程度、治療経過に鑑みると、入通院慰謝料は金二五〇万円をもつて相当とする。
5 逸失利益
被告は自賠責後遺障害等級一二級の認定を受けていることは前認定のとおりである。したがつて、逸失利益は金一一一六万五九三六円となる(労働能力一四パーセント喪失、前記平均年収金四四二万三八〇〇円、症状固定時三七歳の新ホフマン係数一八・〇二九として計算する。四四二万三八〇〇×〇・一四×一八・〇二九)。
6 後遺症慰謝料
被告の後遺症の程度その他本件に現れた諸般の事情を斟酌すると後遺症慰謝料は金二〇〇万円をもつて相当とする。
7 以上を総合すると、本件事故に起因する被告の損害は合計金二三五一万四四七六円となる。
四 過失相殺
成立に争いのない甲一ないし五号証、原告及び被告各本人尋問の結果によると、本件事故の発生経過に関し次の事実が認められる。すなわち、本件事故現場は、南北を結ぶ道路(片側二車線で中央分離帯のある道路、以下南北道路という。)と東西を結ぶ道路(東西に走る新幹線の高架下の左右にあり、左側(南側)は西向きの二車線、右側(北側)は西向きの二車線と東向きの一車線がある道路、以下、新幹線高架下右側を走る道路を東西道路という。)の交差点である。この交差点には信号機が設置されており、南北道路が赤色点滅信号、東西道路が黄色点滅信号となつていた。原告は、南北道路を南から北に向かつて進行し、前記交差点にさしかかり、同交差点手前で一時停止したのち発進し、時速一〇キロメートル程度の速度で交差点を右折しようとした。その際、原告は東西道路を東向きの一方通行道路と誤信し、東西道路の左側車線ないし中央車線に進行するように、いわゆる早回りの形で右折を開始した。被告は、東西道路を東から西に向かつて時速約六〇キロメートルの速度で進行し(制限速度時速四〇キロメートル)、同交差点にさしかかり、徐行することなく同交差点を進行しようとしていたところ、少なくとも自車の約二〇メートル前方(スリツプ痕が衝突位置から一三・七メートルあるし、被告は原告車が衝突位置の約五・八メートル前にあつた時点で原告車を発覚している。)に原告車を発見し、急制動をとつたが間に合わず、被告車の右前部と原告車の右前部が衝突した。以上の事実が認められる。
以上の経過に鑑みると、原告には一時停止義務違反があるうえ、いわゆる早回り右折の違反が、被告には制限速度違反(約二〇キロメートル超)と注意義務違反があることになり、これらの事情を斟酌すると、過失の割合は原告八〇パーセント、被告が二〇パーセントとみることができる。
五 損益相殺
成立に争いのない甲五〇号証の一ないし三及び五一号証並びに弁論の全趣旨によると、原告の契約している保険会社から金七三二万二九三八円が被告に対して支払われたことが認められる(保険会社が直接支払つた治療費を除く。)。
六 結論
1 以上によると、原告が負担すべき損害額(弁護士費用を除く。)は、金二三五一万四四七六円の八〇パーセントに当たる金一八八一万一五八〇円から、既払金七三二万二九三八円を控除した残金一一四八万八六四二円となる。
また、本件事案に照らすと、被告が原告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は金一〇〇万円と認めるのが相当である。
結局反訴請求は、金一二四八万八六四二円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員の支払いを求める限度において理由がある。
2 他方、本訴請求は、原告の被告に対する本件事故による損害賠償義務が、金一二四八万八六四二円及びこれに対する昭和六三年一一月二二日から完済まで年五分の割合による金員を超えては存在しないことの確認を求める限度で理由がある。
よつて、本訴請求及び反訴請求とも前記の理由のある限度でこれを認容し、その余の本訴請求及び反訴請求は理由がないので棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 山名学)
本件交通事故の表示
一 日時 昭和六三年一一月二二日午後一一時五〇分頃
二 場所 岡山市花尻ききよう町一七―一〇四先道路上
三 反訴被告
(原告)車両 普通乗用自動車(岡五八ち五八〇〇)
四 反訴原告
(被告)車両 普通貨物自動車(岡山四一き一一七四)
五 事故態様 前記日時場所において、反訴被告(原告)運転車両と反訴原告(被告)運転車両が出会頭に衝突したものである。