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岡山地方裁判所 平成2年(行ウ)9号 判決 1994年3月10日

岡山県倉敷市児島味野四丁目四番一三号

原告

大中尊夫こと大中髙

右訴訟代理人弁護士

篠原由宏

篠原芳雄

中野正人

右篠原由宏訴訟復代理人弁護士

細田良一

岡山県倉敷市児島小川五-一

被告

児島税務署長 市川修市

右指定代理人

富岡淳

大北貴

松永楠男

清水博志

小野員義

戸田哲弘

米森英次

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告の原告に対する、昭和六一年三月七日付け、昭和五五年分以降の所得税の青色申告の承認の取消処分(以下「本件青色申告承認取消処分」という。)を取り消す。

2  被告の原告に対する

(一) 昭和六一年三月七日付け、

(1) 原告の昭和五五年分の所得税の更正のうち総所得金額一一一万円、納付すべき税額六万二一〇〇円を超える部分及び同年分の重加算税賦課決定

(2) 原告の昭和五六年分の所得税の更正のうち総所得金額二二九万五一〇〇円、納付すべき税額三七万一一〇〇円を超える部分及び同年分の重加算税賦課決定(ただし、平成二年七月九日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)

(3) 原告の昭和五七年分の所得税の更正のうち総所得金額一六一万七五〇〇円、納付すべき税額一〇万六六〇〇円を超える部分及び同年分の重加算税賦課決定(ただし、平成二年七月九日付け審査裁決により一部取り消された後のもの)

(4) 原告の昭和五八年分の所得税の更正のうち総所得金額五二三万二〇〇円、納付すべき税額一二〇万八三〇〇円を超える部分(ただし、平成二年七月九日付け審査決裁により一部取り消された後のもの)

(二) 昭和六一年一二月四日付けでした原告の昭和六〇年分の所得税の再更正のうち総所得金額四六一万七二二三円、納付すべき税額七万六六八〇円を超える部分及び同年分の過小申告加算税賦課決定

を、取り消す。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は被服製造業を営み、その所得税につき被告から青色申告の承認を受けていた者である。

2  原告は、昭和五五年分ないし昭和五八年分及び昭和六〇年分(以下、「本件係争年分」といい、昭和五五年分ないし昭和五七年分を「本件各年分」という。)の所得税につき、別表二の1ないし5の申告欄(本件各年分については「修正申告」欄、その余の年分については「確定申告」欄)の記載のとおり、青色申告をした。

3  被告は原告に対し、昭和六一年三月七日付けで、所得税法一五〇条一項一号、三号の規定に該当するとの理由で、本件青色申告承認取消処分、原告の本件各年分及び昭和五八年分の所得税につき、別表二の1ないし4の「更正」欄記載のとおり各更正及び各重加算税賦課決定、同年七月三日付けで、昭和六〇年分の所得税につき、別表二の5の「更正」欄記載のとおり更正及び過少申告加算税賦課決定をした。

4  原告は、昭和六一年五月六日付けで、本件青色申告承認取消処分並びに本件各年分、昭和五八年分の所得税の各更正及び各重加算税賦課決定について、別表一及び二の1ないし4の「異議申立」欄記載のとおり異議申立てをした。被告は昭和六一年八月一八日付けで右各表の「異議決定」欄記載のとおり、右申立てを棄却した。原告は右各決定について国税不服審判所長に対し同年九月一七日付けで右各表の「審査請求」欄記載のとおり審査請求した。同所長は平成二年七月九日付けで右各表の「審査裁決」欄記載のとおり裁決をした。(以下、昭和五八年分の所得税の更正処分、昭和五六年分及び昭和五七年分の重加算税賦課決定は、いずれも右裁決による一部取消し後のものをいう。)。

原告は、昭和六一年九月三日付けで、昭和六〇年分の所得税の更正及び過少申告加算税賦課決定について、別表二の5の「異議申立」欄記載のとおり異議申立てをした。被告は昭和六一年一二月四日付けで同表の「再更正」欄記載のとおり再更正(以下、「本件再更正処分」という。)を、同月一一日付けで異議申立ての棄却をした。原告は右決定について国税不服審判所長に対し同年一二月二七日付けで審査請求をした。同所長は平成二年七月九日付けで右審査請求を棄却する裁決をした。

よって、原告は、被告に対し、違法な本件青色申告承認取消処分、本件各年分及び昭和五八年分の各更正処分、本件再更正処分の取消しを求める。

二  請求原因に対する認否

認める。

三  抗弁

1  本件青色申告承認取消処分の違法性

(一) 帳簿書類の不提示と所得税法一五〇条一項一号該当性

(1) 原告は、被告の広島国税局直税部資料調査第二課実査官三嶋至(以下「三嶋実査官」という。)外四名が、昭和六〇年九月一〇日から昭和六一年三月七日付けで本件各処分がなされるまでの間、原告の岡山県倉敷市児島赤崎一丁目五番二九号所在の事業所(以下「児島店」という。)及び大阪市淀川区宮原二丁目二番二一〇号所在の支店(以下「大阪店」という。)において所得税調査(以下「本件調査」という。)をした際、昭和五五年分及び昭和五六年分に係る現金出納日計表(以下「本件現金出納日計表」という。)を、提示せず、また原告が提出した公表帳簿の中に記載された、「別注仕入」勘定や「別注売上」勘定の取引に関する領収書(田川株式会社(以下「田川」という。)との間での公表の掛取引とは別の「上様」及び架空名義を利用した現金による取引(以下「本件仕入れ」という。)を示す。)等の証ひょう書類(以下「本件証ひょう」という。)を保存していなかった。

(2) 原告は、青色申告の承認を受けている者として、本件現金出納日計表を提示し、本件証ひょうを保存する義務がある(所得税法一四八条一項、同法施行規則五六条一項本文、五七条ないし六四条、昭和四二年八月三一日大蔵省告示一一二号(以下「昭和四二年大蔵省告示一一二号」という。所得税施行規則五六条第二項(現行同条一項)ただし書、第五八条第一項及び第六一条第一項の規定に基づき、これらの規定に規定する記録の方法及び記載事項、取引に関する事項並びに科目を定める件))。

右法令にいう、帳簿書類の備付け、記録又は保存とは、単に帳簿書類を物理的に備え付け、記録又は保存することではなく、それを税務署等の当該職員に提示することを含むとみるべきである。

なお右のような制裁としての事実の推認は、事実の擬制に当たるもので、処分時に存在すれば足りるから、原告が昭和六一年六月二一日の異議調査において本件現金出納日計表を提出していても、本件青色申告承認取消処分の効力には影響しない。

(二) 帳簿書類の不実記載と所得税法一五〇条一項三号該当性

(1) 原告は、田川との間の別表三記載のとおりの多額の本件仕入れ(昭和五五年分は一、三〇〇万八、九五八円)を、当初、原告が備え付けていた帳簿書類に記載しなかった。そのため、原告の営業成績の真実を把握することができないばかりか、当該取引のための資金の出入りや当該取引の規模についても充分に把握し得なかった。

右帳簿中の総勘定元帳の「売上」、「仕入」の科目に「別注a/c」として、「外注仕入」勘定や「別注売上」勘定の勘定科目(本件仕入れ)が記載されていたが、これらの取引に関する証ひょう書類は保存されておらず、原告の事業所には、取引月日、表生地の原反名、数量及び金額から当該別注取引と同一の内容を記載したと思われる「出縫賃帳」と題するノート(以下「本件仕入ノート」という。)が保存されていた。三嶋実査官は、原告の学生服用の表生地原反(学生服の主要材料)の仕入先である田川への反面調査によって、原告と田川との間では公表の掛取引とは別に、「上様」及び架空名義を利用した現金による本件仕入れが、昭和五五年三月一八日から昭和五八年二月一五日まで存在することを確認した。

原告が表生地原反(学生服の主要材料)の本件仕入れを帳簿に計上しない代わりに、これに対応する売上をも計上しないでこれを簿外としたことは、単に売上げ、仕入の会計処理上の問題に止まらず、仕入数量に影響を与え、その結果、原材料、仕掛品及び製品等の期末棚卸高にも影響を及ぼし、ひいては差益金額(又は売上原価の額)及びその売上金額に対する比率(差益率又は売上原価率)にも当然変動を生じさせるものであり、適正な損益計算を不可能ないし著しく困難にする。また現金及び預金の各科目の金額が事実のものと異なることになる。

原告は、このような帳簿書類に基づき、昭和五五年分の確定申告において青色申告決算書を作成した際、別注仕入を申告に反映させなかった。

原告は、本件仕入れが昭和五八年二月一六日に発覚したため同日以降に本件仕入れに関して「別注仕入」「別注売上」「別注勘定」の名目の記帳を追加して行った。所得税法は原則として歴年基準を採用しているから、帳簿書類の是正、追加記帳は遅くとも当該事業年度内にされるべきであり、備付け帳簿が青色申告制度の趣旨にかなうような信頼性、誠実性を備えているか否かの判断は、確定申告のときを基準とするから、是正、追加が翌年分以降になることは許されない。

また本件仕入れの事実を隠すために意図的に売上金額を減額するような操作は許されず、後日簿外仕入の事実が発覚した後の追加記帳により修正を加えても帳簿の信頼性は回復しない。

さらに原告が取引の都度、帳簿書類に記載せず、後日これを一括計上したことは、取引の記録の仕方に関する所得税施行規則五七条に違反する。

(2) 原告は、当初から意図的に本件仕入れを備付けの帳簿書類に記載しなかった。原告は、本件仕入れが昭和五八年二月一六日に発覚したため、その後、損益に影響がないよう、本件現金出納日計表等の帳簿書類に本件仕入れを「別注仕入」として計上すると同時に、本件仕入金額と同額の架空売上である「別注売上」を記帳し辻褄を合わせた。右は、原告の帳簿書類の記載事項全体についてその事実性を疑うに足りる相当の理由がある事実というべきであるから、所得税法一五〇条一項三号の青色申告承認取消事由に該当する。

(三) 本件青色申告承認取消処分の理由付記

被告が本件青色申告承認取消処分の通知書に付記した取消理由は、<1>田川から「上様」及び架空名義で材料の現金仕入(昭和五五年分合計額一三〇〇万八九五八円)を行い、これを備付帳簿に記載せず、確定申告にかかる仕入金額に算入していないこと、<2>総勘定元帳及び決算書の作成の計算基礎とする現金出納日計表の提示がなく、右<1>の仕入に関する証票書類の保存がないこと、<3>総勘定元帳の「売上」、「仕入」の科目に「別注a/c」を設け本件仕入れを記帳しているが、これは当局が別に行った調査の結果、本件仕入れが発覚したため、発覚日(昭和五八年二月一六日)以後に追加記帳したものと認められること、<4>本件仕入代金の支払は大阪店の売上を児島店で減額訂正し、その減額訂正した金額(本件売上)を本件仕入代金にあてたとの原告の主張を確認できる記録や書類はなく、減額訂正した事実も認められないこと、というものであり、原告としては右内容を一見すれば、いかなる事実関係に基づいていかなる法規を適用して本件青色申告承認取消処分がなされたかをその記載自体から容易に知ることができるから、本件青色申告承認取消処分の理由付記に違法はない。

2  推計の必要性

次のとおり、原告の本件各年分の帳簿書類は、その記載全体につき正確性、事実性が疑わしく、また原告は売上げの一部を除外し、簿外資産を形成しており、被告は、原告の帳簿書類に基づき売上金額を実額で計算することが不可能であった。

(一) 帳簿書類の記載内容の正確性

(1) 原告は、田川との間で、別表三記載のとおり本件仕入れを行い、その金額は昭和五五年分一三〇〇万八九五八円、昭和五六年分一八〇三万六七四九円、昭和五七年分二〇九四万七六六三円という多額になったにもかかわらず、当初その取引状況を原告が備え付けていた帳簿書類に記載していなかった。そのため、被告は原告の帳簿書類の記載内容全体を信頼できず、これによって原告の営業成績の事実を把握することができなくなり、当該取引のための資金の出入りや当該取引の規模について充分に把握し得なくなった。

原告が異議調査の段階で提示した本件現金出納日計表には、本件仕入れに係る出金と同額の現金入金がカッコ書きで記載されているが、本件仕入れに係る出金がなされた日に同額の売上げに係る入金が存在することはあり得ないから、右日計表に記載された入金額及び日々の残額は常時事実と相違することになる。また原告の原反(表生地)一反当たりの売上金額は、別表五記載のとおり類似同業者の原反一反当たりの売上金額に比較して著しく低額である。

(2) 原告は昭和五五年分及び昭和五六年分の所得税の確定申告の際、かかる帳簿書類に基づいて各年分の青色申告決算書を作成し、本件仕入れを申告に反映させなかった。

(3) 原告は、本件仕入れが昭和五八年二月一六日に発覚したため、関係帳簿書類に同日以降に本件仕入れに関する記帳を追加した。

原告は本件仕入れが発覚したため、損益に影響がないよう本件現金出納日計表に本件仕入れを「別注仕入」として計上すると同時に、本件仕入れ金額と同額の架空売上である「別注売上」を記載し、辻褄を合わせた。原告が当初から記帳している本件現金出納日計表の総売上金額に変形学生服(本件仕入れに係る原反で製造したと原告が主張するものである。以下「学ラン」といい、通常の学生服を単に「学生服」という。)の売上を含めているのであれば、総売上が正当に計上されている限り、単に本件仕入れのみを計上すれば足りるから、本件仕入れに対応する「別注売上」を計上したり、本件仕入れに対応する「別注売上」があることを明示して記帳する必要はない。

また本件調査時において本件仕入れの代金の支払につき、その資金がどこから捻出されたかを明らかにする帳簿書類はなかった。

(4) 所得税法一四八条一項、同法施行規則五六条一項を受けた昭和四八年大蔵省告示によれば、青色申告者はその事業所得を生ずべき業務につき、事業所得の金額が正確に計算できるよう、現金出納帳を備付けてこれに現金取引の年月日、事由、出納先及び金額並びに日々の残高を、整然と、かつ、明瞭に記載し、これを保存しなければならないとされており、原告の場合、現金出納日計表が右告示の現金出納帳に該当するから、現金出納日計表なくして、正規の簿記の方法による処理ができるものではない。

また右規定の趣旨は、日々の残高の記載があれば足りるとするものではなく、これを継続的に算出することによって、帳簿上の現金残高と現実の手持現金有高を照合させて帳簿の正確性を担保しようとするものであるから、現金出納日計表は、各帳簿の基本となり取引全体の記録の正確性を確認するという重要な役割を有しているのであって、これが法定どおりの要件を備えていない場合には、他の帳簿との有機的な関連付けが検証できなくなり、特定の月日分の取引の一部を除外して売上や仕入れを隠ぺいすることも容易となる。原告の現金出納日計表には本件仕入れに関する取引が一括して記載されたのだから、当該現金出納日計表が右規定に従った現金出納帳とはいえない。しかも主要簿である総勘定元帳は、当該現金出納日計表に基づいて複式簿記の方法で記録している以上、総勘定元帳を検討しても、当該現金出納日計表を調査して把握しえた事実関係と同一の事実が把握されるに過ぎない。

(二) 簿外資産の存在及び売上除外の推認

(1) 原告の大阪店での取引においては、素人客(学生客)に対する売上げはすべて現金であり、納品書あるいは領収書は原則として発行せず、大阪店における現金売上が原告の売上の大部分を占めるが、金銭登録機を備え付けていないという原告の営業形態においては、現金売上げが適正であるかは現金出納日計表の現金残高に信憑性があることによって担保されるが、前述のように右日計表の記載には信憑性がないから、その入金額及び日々の現金残高の記載額は常時事実と相違していると推認されるから、簿外資産の存在が推認される。

(2) 別表七記載の広島銀行児島支店及び岡山労働金庫児島支店における原告名義の定期預金(以下「公表外定期預金」という。)、広島銀行児島支店及び中国銀行児島支店における原告の家族及び従業員名義の各財産形成預金(以下「借名預金」という。)並びに中国銀行児島支店における石井一也及び片山晃二名義の各普通預金(以下「仮名預金」という。)は、原告に帰属する預金である。

このうち借名預金は、原告が一括して各名義とも一律五万円を預け入れているのであるが、大阪店においては従業員給料から財産形成預金を天引きして本店に渡していないこと、借名名義の名義人である従業員の中には右借名預金の存在を知らない者がいることや、中国銀行児島支店と広島銀行児島支店のいずれにも借名預金の名義のある者がいるから、原告に帰属する預金である。

仮名預金は、昭和五六年九月三〇日及び同年一二月一日に各一〇〇〇万円、昭和五七年九月三〇日に二〇〇〇万円入金されているが、これは原告自身が預け入れたものであり、「石井」、「片山」の名義が田川との架空名義取引で使われている名義であること、担当銀行員が原告に無断で右預金処理をしたとは考えられないことから、原告に帰属する預金である。

原告の昭和五五年分ないし昭和五七年分の事業主報酬金額(別紙四参照)から公表外定期預金、借名預金及び仮名預金を発生させることは不可能であり、また通常、既に課税済の所得から預金等をする場合に仮装名義や借名名義を使用する必要性はないから、これらの預金は原告に帰属する簿外預金である。

3  推計の合理性

(一) 所得金額の算定方法

被告は右2の事情から、推計の方法による課税を行ったが、その方法は、原告の本件各年分の売上原価を基礎数値とし、後記(二)の類似同業者の平均売上原価率を右売上原価に適用して売上金額を算定する方法とした。

売上原価を推計の基礎数値としたのは、原告が田川から仕入れている原反表地は公表の掛仕入も本件仕入れも大部分がカシミアドスキン(以下「カシドス」という。)であり区別がないこと、本件仕入れ以外の製造原価は学生服の製造に係るものと学ランに係るそれとの区別がされずに原告の公表帳簿に計上されていること、学ランと学生服の製造工程は手断ちと機械裁断の違いはあるがほぼ同じであること、日々の売上計算はほとんどが売溜金方式によって一括計上されているから個々の売上(学生服と学ランの売上)を実額によって算定できないこと等の理由による。

(二) 本件類似同業者の選定

(1) 被告は、次の<1>ないし<5>の基準により、三件の類似同業者を選定した(以下「本件類似同業者」という。)。

<1> 本件各年分を通じて学生服製造業を営んでおり、その年度の中途において、開廃業、休業又は業態の変更をしていない者

<2> 本件各年分を通じて所得税青色申告につき税務署長の承認を受けている法人又は個人

<3> 事業内容は、学ランを主体に製造している者

<4> 本件各年分における売上原価が、原告の確定申告における青色申告決算書記載の売上原価の額に別注仕入の金額を加算した合計額の約二倍と約半分の間にある者

<5> 所得税若しくは法人税の更正又は決定の各処分を受けた者については、国税通則法若しくは行政事件訴訟法の規定による不服申立期間若しくは出訴期間を経過している者又はこれらの不服申立て若しくは訴訟が継続していない者

(2) 右基準は原告の業種、業態、事業規模に合致することを主たる内容とするもので、恣意の介在する余地はなく、資料は正確であるから、客観的な合理性を有する。本件類似同業者はいずれも原告の納税地を所轄する児島税務署管内における同業者である(同業者の平均値による推計の場合、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は、平均値の中に吸収、捨象されるから、それが当該平均値による推定を不合理とする程度に顕著なものでない限り、斟酌する必要はない。)

(3) 一般に原告のような製造業の場合、経済的な競争関係や需給関係に従い、所得金額算定の基礎となる売上金額と必要経費とは同程度の比率を示し、また必要経費のうちでも売上原価の額が売上金額に直接関連する主要な経費であって、その売上原価と売上金額との間に概ね比例的な対応性(相関関係)が強く認められるが、事業規模には比較的影響を受けない。右(1)<1>ないし<5>の基準により抽出された本件類似同業者の売上原価率は、概ね同程度の比率を示しており、右比率を適用した推計方法は合理的である。

4  本件各年分所得税に係る各更正処分

(一) 原告の本件各年分の総所得の金額(別表八参照)

(1) 売上金額

昭和五五年分 三億九四七五万九八五八円

昭和五六年分 三億五七一五万五五五二円

昭和五七年分 三億六五一六万九五六五円

右金額は、後記(2)の売上原価の額を売上金額算定の基礎数値として、後記(3)の本件類似同業者の各年分ごとの平均売上原価率(売上金額に対する売上原価の額の割合の平均値。)で除した額である。

(2) 売上原価の額

昭和五五年分 二億九〇一四万八四九六円

昭和五六年分 二億六五七二万三七三一円

昭和五七年分 二億六八三九万九六三一円

右金額は、昭和五五年分及び昭和五六年分については、原告の確定申告決算書記載の売上原価の額に本件仕入れの金額(別表三参照)を加算した額であり、昭和五七年分については、確定申告における青色申告決算書記載の売上原価の額に三八万六五四〇円を加算(昭和五七年分の確定申告決算書には本件仕入れの金額として二〇五六万一一二三円が含まれていたが、被告が調査した結果、右金額には昭和五七年一一月五日の本件仕入れ金額三八万六五四〇円が含まれていなかった。)した額である。

(3) 本件類似同業者の平均売上原価率(別表九の1ないし3参照)

昭和五五年分 七三・五パーセント

昭和五六年分 七四・四パーセント

昭和五七年分 七三・五パーセント

(4) 必要経費の額

昭和五五年分 五二九六万一〇七五円

昭和五六年分 五一五二万三一二一円

昭和五七年分 六二六五万六六七二円

右金額は、原告の確定申告における青色申告決算書記載の必要経費の額である(但し、本件青色申告承認取消処分に伴い、青色事業専従者給与の額は所得税法五六条の規定により必要経費の額に算入できないため除く。)。

(5) 事業専従者控除額

昭和五五年分 一六〇万円

昭和五六年分 一六〇万円

昭和五七年分 一六〇万円

各年分とも大中明恵、大中孝枝、大中絹子及び大中嘉代治に係るもので、所得税法五七条三項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの)の規定により控除したものである。

(6) 事業所得の金額

昭和五五年分 五〇〇五万〇二八七円

昭和五六年分 三八三〇万八七〇〇円

昭和五七年分 三二五一万三二六二円

右金額は、前記(1)の売上金額から、前記(2)の売上原価の額、前記(4)の必要経費の額、前記(5)の事業専従者控除額を差し引いた額である。

(7) 総所得金額

昭和五五年分 五〇〇五万〇二八七円

昭和五六年分 三八三〇万八七〇〇円

昭和五七年分 三二五一万三二六二円

原告の総所得金額は、前記(6)の事業所得金額と同額である。なお本件青色申告承認取消処分により原告には、租税特別措置法二五条の二(昭和五八年法律第一一号による改正前のもの。みなし法人課税を選択した場合の課税の特例)及び同法二五条の三(平成四年法律第一四号による改正前のもの。青色申告控除)は適用されない。

(二) 以上のとおり、本件各年分の総所得金額は前記(一)(7)のとおりであり、いずれも本件各年分に係る更正処分の総所得金額は、右総所得金額の範囲内である。

5  昭和五八年分の更正処分及び本件再更正処分

(一) 事業所得の金額

原告は、昭和五八年分及び昭和六〇年分の所得税青色申告決算書において、各事業専従者に係る青色事業専従者給与の額の合計額(昭和五八年分は六三四万円、昭和六〇年分は七一七万六〇〇〇円)を必要経費の額に算入している。

しかし、本件青色申告承認取消処分の結果、右各青色事業専従者給与の額は、所得税法五六条(事業から対価をうける親族がある場合の必要経費の特例)により必要経費の額に算入することはできない。右金額をそれぞれの年分の必要経費の額から控除し、右各決算書に従って計算すると、昭和五八年分の事業専従者控除額控除前の所得金額は一四〇二万六七二三円、昭和六〇年分の同金額は、一一七九万三二二三円となる。

したがって、原告の昭和五八年分の事業所得の金額は、一四〇二万六七二三円から所得税法五七条三項(昭和五九年法律第五号による改正前のもの。)による各事業専従者に係る事業専従者控除額一六〇万円を控除した一二四二万六七二三円となり、昭和六〇年分の事業所得金額は同様に各事業専従者に係る事業専従者控除額一八〇万円を控除した九九九万三二二三円となる。

(二) 総所得金額

原告は昭和五八年分及び昭和六〇年分の所得税青色申告決算書において、各事業専従者に係る青色事業専従者給与の額の合計額(昭和五八年分六三四万円、昭和六〇年分七一七万六〇〇〇円)を必要経費の額に算入している。しかし、本件青色申告承認取消処分の結果、右各青色事業専従者給与の額は所得税法五六条により必要経費の額に算入できない。右金額をその各年分の必要経費から控除したうえで各決算書に従って計算すると、事業専従者控除額控除前の所得金額は、昭和五八年が一四〇二万六七二三円、昭和六〇年分が一一七九万三二二三円となる。

したがって、原告の昭和五八年分の事業所得の金額は、一四〇二万六七二三円から各事業専従者に係る事業専従者控除額(昭和五九年法律第五号による改正前の所得税法五七条三項による)一六〇万円を控除した一二四二万六七二三円であり、昭和六〇年分の事業所得は、同じく一一七九万三二二三円から各事業専従者に係る事業専従者控除額(昭和六二年法律第九六号による改正前の所得税法五七条三項による)一八〇万円を控除した九九九万三二二三円である。

なお原告は本件青色申告承認取消処分により、租税特別措置法二五条の二(昭和五九年法律第六号による改正前のもの。みなし法人課税を選択した場合の課税の特例)は適用されないので、給与所得、配当所得は総所得金額には含まれない。

(三) 所得税額

(1) 本件再更正処分の経緯

原告は、昭和六〇年分の所得税の確定申告書に、別表二の5の「確定申告」欄記載の金額を事業所得の金額として記載し児島税務署に提出したが、右確定申告書の源泉徴収税額欄に六二万三二八〇円と記載していた。右税額は、原告(大中被服)が原告自身に給与として支払ったとする六〇〇万円(但し、右金額は事業所得の金額の計算上、必要経費には算入されていない。)に係るものである。

被告は、原告は本件青色申告承認取消処分を受けており青色申告者でないから、各事業専従者に係る青色事業専従者給与の額を必要経費に算入することができないとして別表二の5の「更正」欄のとおり更正処分及び過少申告加算税の賦課決定処分をしたが、その際、誤って右源泉徴収税金額の六二万三二八〇円について原告の確定申告書記載のとおり控除していた。被告は右誤りを是正するため、別表二の5の「再更正」欄記載のとおり再更正処分及び過少申告加算税の賦課決定をした。

(2) 原告の納付すべき所得税額

所得税法上、租税特別措置法二五条の二第三項(昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。みなし法人課税を選択した場合の課税の特例)が適用される場合を除き、納税者が納税者自身に給与を支払い、その支払について所得税の源泉徴収をすべき定めはないので、納税者が納税者に給与を支払っても、所得税法一二〇条一項五号に掲げる源泉徴収税額ということはできない。また右支払が事業主報酬の額として支払われたとしても、原告においては本件青色申告承認取消処分に伴い、右支払について租税特別措置法二五条の二第三項が適用されなくなるから、右事業主報酬の額に係る源泉徴収税額を所得税の額から控除することはできない。

したがって、再更正処分においては当該源泉徴収税額を控除しなかったものであり、原告の昭和六〇年分の納付すべき所得税額は、右昭和六〇年分の事業所得の金額九九九万三二二三円から確定申告に基づく各種所得控除の金額を控除して求めた課税総所得金額を基に算出される所得税額二〇七万六七五〇円から、一〇〇円未満の端数を切り捨てた二〇七万六七〇〇円である。

(四) 以上のとおり、原告の昭和五八年分の総所得金額(事業所得の金額)及び昭和六〇年分の所得税額は、いずれも昭和五八年分の更正処分及び本件再更正処分の金額と同額となるから、右各処分はいずれも適法である。

6  本件各賦課決定処分の適法性

(一) 本件過少申告加算税賦課決定処分

昭和六〇年分所得税にかかる本件更正処分及び本件再更正処分は適法であり、本件青色申告承認取消処分に係る通知書は、昭和六〇年分の申告納税期限までには送達され、受領されているので、原告が過少申告したことについて、国税通則法六五条四項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)に規定する正当な理由がある場合に該当しないから、同条一項に基づいて行われた本件過少申告加算税賦課決定処分は適法である。

(二) 本件各重加算税賦課決定処分

本件各年分の更正処分は適法であるところ、本件青色申告承認取消処分に伴って、<1>必要経費の額から控除された各年分の各事業専従者に係る青色事業専従者給与の額と所得税法五七条三項の規定を適用して新たに必要経費として認められた事業専従者控除額との差額と、<2>租税特別措置法二五条の三第三項三号の適用を受けられないことに伴う部分については、国税通則法六五条四項(昭和五九年法律第五号による改正前の同条二項)に規定する正当な理由がある場合に該当するが、その余の部分については正当な理由がある場合に該当するとは認められない。

しかも、<1>原告が本件仕入れのすべてを上様及び架空名義による現金取引とし、昭和五五年分は一三〇〇万八九五八円、昭和五六年分は一八〇三万六七四九円、昭和五七年分は二〇九四万七六六三円という多額の取引を行うためには仕入資金の出入りを充分に把握し、当該取引の規模についても知っていたこと、<2>昭和五五年分及び昭和五六年分については本件仕入れの記載は可能であったにもかかわらず、現金出納日計表には意図的に記載せず、これを仕入れから除外して当初公表帳簿にはまったく記載しないで、この記帳に基づいて青色申告決算書を作成し、確定申告したこと、<3>本件仕入れが昭和五七年分確定申告段階で発覚したため、本件各年分とも記帳上売上及び仕入れの一部に追加記帳したり、振替伝票の一部を作成するなど事実に反する書類を作成して、ことさら右取引により損益に影響がなかったかのように仮装したこと、<4>被告の調査に対する回答や審査請求においても右のように事実に反する主張をし、事実関係をことさらに隠匿して争ったこと、<5>原告は売上の一部を除外し、除外した所得は架空名義による簿外仕入とした他、原告の家族及び従業員名義の財形貯蓄預金、仮名預金等の簿外預金に預入れるなどしたことから総合的に判断すれば、原告は利益を隠ぺいし課税を回避する目的が当初からあったことが認められ、国税通則法六八条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの。)に該当する。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1(本件青色申告承認取消処分の適法性)について。

(一) 帳簿書類の不提示と所得税法一五〇条一項一号該当性について。

否認する。

(1) 原告は、本件調査において、本件現金出納日計表の提示を拒否したことはない。

原告は、昭和六〇年九月一一日に本件調査担当者の会計帳簿等の提示要求に応じて、常時保存の場所に存在していた会計帳簿等をすべて提示したところ、同日、調査担当者はそれでよいとして、預かり証を交付して当該会計帳簿等を持ち帰った。同月一七日ころ、調査担当者から昭和五五年分及び昭和五六年分の預金出納日計表が提出されていない旨の連絡を受け、同年一〇月二四日に調査担当者から右預かり証を基に説明があり、原告はこの時点で初めて本件現金出納日計表を提出していないことを認識した。

原告は、本件現金出納日計表を、昭和五八年二月中旬ころの児島税務署による調査(以下「前回調査」という。)後に調査当局から返還を受けた後に、調査が終わり使う必要がなかったことから、帳簿等を常時保存していた場所である児島店に戻さずそのまま自宅に持ち帰り、その存在を忘れていた。原告は、たまたま自宅改修工事の際に、これらを物置小屋移転現場で発見し、昭和六一年一月一七日及び同年二月六日に三嶋実査官に右日計表の提出を申し出たが、同実査官は右申し出を拒否した。原告は、更に同月一〇日に調査担当者及びその上司に面接し、未提出となった右事情を説明し、その提出を申し出たが、再度拒否された。

(2) 原告は、本件現金出納日計表を原告の自宅の倉庫に保存していた(帳簿書類は青色申告者の住所地若しくは居住地又はその営む事業に係る事務所、事業所その他これらに準ずるものの所在地に保存すれば足りる(所得税法施行規則六三条))。

仮に右倉庫が右規則に定める保管場所とはいえないとしても、右(1)のように、本件現金出納日計表は、前回調査において調査当局が実査済みであり、その内容は既に確認されたものであるから、その保存場所を失念し、提出が遅れたとしてもやむを得ないものであり、調査に間に合う期間であれば、法の予定する帳簿書類の保存が確認できる。

(3) 被告は、昭和六一年六月一〇日、異議申立ての調査に際し、本件現金出納日計表及び振替伝票の一部を持ち帰った。

また原告は、昭和五五年九月ころから行われた広島国税局資料調査課の東原俊夫主査らによる調査(以下「前々回調査」という。)の際に、昭和五五年分の現金出納日計表を含む帳簿書類のすべてを調査当局に提示してその指導を受けており、当該現金出納日計表の存在とその内容の信憑性は原処分庁は熟知している。

原告は、本件日計表に代わる帳簿書類を提出した。右日計表の一部がなくてもその他の帳簿から所得の把握はでき、その数値は信頼できる(所得税法施行規則六三条によれば、現金出納日計表でなければならないということはなく、日々の取引を記帳したものであれば、伝票等でもよいのであって、現金出納日計表にこだわる理由はない。)。

(二) 帳簿書類の不実記載と所得税法一五〇条一項三号該当性について。

否認する。

(1)イ 原告は、学ランの製造、販売を、特別注文者にのみ卸売りする方法で行い、右は、通常の大量生産方式による学生服とは、受注、生産、販売様式が根本的に異なる。学ランの受注は、卸売りを主体とするため一注文につき五着以上とし、注文主に対し同種ズボン一着をサービス品として提供した。生産は平断ち裁断とし、裁断につき五着を基本とし、全部内工場生産としたため、販売見込で生産することはできず、すべて受注に応じて生産する注文生産とした。

原告が右のように学ランにつき大量生産体制を採れなかった理由は、大阪店の責任者大中清一(以下「清一」という。)が病気であったためと、学ランの表生地が富士紡織製のカシドスという計画生産品であり、右生地確保のためには、得意先の田川に頼んで同社の他社納入予定数の中に割り込み、現金決済によって月三〇反程度を購入するしか方法がなかったことによる。

原告は、田川からの原反の仕入れ自体は、本件仕入れノートにすべて記帳しており、右ノートの数値と田川の台帳の数値とは一致しており、右仕入れを隠ぺい又は仮装したものではない。また田川の原反を用いて製造した学ランの売上は全て原告の売上勘定に計上されており、簿外にはなっていない。本件各年分の本件取引は、すべて振替伝票により処理されている。

ロ 本件仕入れ関係の会計処理は以下のとおりである。

原告は、田川からの本件仕入れに係る原反入手予定数が決まると大阪店に連絡し、大阪店の売上現金から引き出してその日の内に児島店に現金輸送し、右現金をもって即時に田川から本件仕入れに係る原反の購入代金の決済をしていた。そして右本件仕入れ関係の会計処理は、まず大阪店では、児島店に対する勘定(実質は本支店勘定)の借方に原反仕入額、現金勘定の貸方に右同額を計上すると同時に、振替伝票により、備忘的に別注勘定の借方に右同額を、別注売上勘定の貸方に右同額を計上した。一方現金を受け取った児島店では、大阪店に対する勘定(実質は本支店勘定)の貸方に右同額を、現金勘定の借方に右同額を計上すると同時に、振替伝票により忘備的に別注勘定の貸方に右同額を、別注仕入勘定の借方に右同額を計上した。これら計上の金額は、大阪店と児島店間の取引であり、実質本支店勘定である大阪店の児島店に対する勘定と児島店の大阪店に対する勘定は相殺され、現金勘定も別注仕入勘定も借方、貸方同額で差引後は零となり、また別注仕入れ及び別注売上げも備忘的な記帳で金額も同額であり差引後は零となるから、所得には何ら影響を及ぼさない。それゆえ本件仕入れにかかる出金日に、売上にかかる右出金と同額の入金が存在することは何ら不自然ではない。

ハ 本件仕入れが仮名及び上様名義を用いた現金支払の取引であったのは、田川からの要請によるものである。田川の取引先の都合で同社の名前を出さないために、やむなくその支払相当額を児島店の会計帳簿等に相手科目を「仕入」とした「別注勘定」を計上し、同時に大阪店(原告の弟である大中清一が責任者である大阪市内の販売店)において、相手科目を「売上」とした「別注勘定」を計上させ、「仕入」を「売上戻り」に修正経理した。結果的に本件仕入れが売上戻りに計上されたのであり、損益には影響がない。

別注仕入と別注売上を一括同額計上したのは、単なる通過勘定に過ぎないからである。当初原告の利益計上には影響しないことから計上を省略していたが、指導により備忘勘定として別注仕入勘定を計上することとした。帳簿書類のカッコ書は、右勘定を計上するようにとの指導をうける以前のものと区別する意味でカッコ書で記載したのである。

(2) 「別注勘定」は、本件調査時(昭和六〇年九月一〇日)には昭和五五年分ないし昭和五九年分の総勘定元帳にはすべて記帳されており、当初記帳が無かったという瑕疵は、治癒されている。

(3) 原告の本件仕入れの両立経理処理は、前々回調査における広島国税局直税部資料調査課の東原調査官の指導によるものである。学ランの製造は、前記(1)記載の事情があったが、このような仕入れの実態について東原調査官は清一の事情聴取で実態を把握し、早川税理士から相談のあった本件仕入れについて、結果において損益に影響がないことから両立経理処理を指導した。原告は右指導に基づき、昭和五六年五月末には両立経理処理等により記帳経理をし、右調査官も右記帳に基づく確定申告を是認した。その後は右両立経理処理により帳簿記載がなされた。

(4) 原告の売上金は、各年分の会計帳簿等に<1>掛売上と現金売上とは区分して計上し、<2>掛売上は得意先ごとに納品書を作成し、これを得意先元帳に移記して、当該売掛金の入金時に入金の記帳をすると同時に、現金出納日計表の売掛金回収欄へ個別に記帳し、現金売上は、現金出納日計表の現金売上欄に日々合計金額で記帳しており、右記載方法は青色申告承認の要件とされる記載事項を十分に充たしている。

(三) 本件青色申告承認取消処分の理由付記について

争う。

被告は、本件青色申告承認取消処分の理由を同処分の通知書、審査請求にかかる答弁書、同処分にかかる裁決書とで変遷させており、違法である。

また青色申告承認取消処分には、申告書の記載に誤りがある事実や、その根拠となる資料を明示しなければならない。しかし本件において被告が摘示する原告が現金出納日計表の提示に応じなかったとは、利益を隠匿した等の非違事項には該当しないし、それ以外には何ら具体的な非違事項が摘示されず、推認による状況証拠を立てるのみであるから、青色申告承認取消処分に必要な「根拠となる資料の明示」をしていないというべきであり、違法な処分である。

2  抗弁2(推計の必要性)について。

否認する。

原告の総所得金額は、次のとおり実額計算の方法によることが十分可能であるから、推計の必要性はない。

(一) 帳簿書類の記載内容の正確性について

(1) 所得税法一五六条の規定に基づいて事業所得の金額を推計するには、その要件として納税者が帳簿を備え付けていないこと、又は備え付けていても取引の相当部分を記帳していないこと、若しくは記帳に誤りがあることなどが必要であり、かつ当該帳簿により事業所得の金額を実額計算の方法で算定することができない場合に限られるべきである。

原告は、会計帳簿及び提出時期はともかくとして現金出納日計表を備え付けていた。仮に補助簿である現金出納日計表を欠いたとしても、取引の全部を記帳した主帳簿である会計帳簿等で原告の事業所得の計算は十分に可能である。

原告の売上金の会計帳簿等への記帳方法が青色申告承認の要件とされる記載事項を十分に充たしていることは前述のとおりである。

(2) 本件仕入れについて原告は昭和五五年分及び昭和五六年分については本件調査前には会計帳簿等に計上しているからその瑕疵は治癒されており、昭和五七年分については記帳方法を振替伝票から総勘定元帳に直接転記する方法に変更し適正に処理している。

(3) 本件仕入れと売上げを一括かつ同額で計上したのは、これを計上しなくても税務計算上所得金額は変らないからである。

(4) 原告には本件仕入れの裏付けとなる送り状若しくは納品書はないものの、田川に取引ごとの明細の一覧を記帳させた本件仕入れノートがある。右ノートは、本件仕入れの裏付けとなる証ひょう書類としても価値がある。

(5) 原告の原反一反当たりの売上金額が本件類似同業者の原反一反当たりの売上金額と比較して低額であるが、これは原告の学ランの生産額は原告の総生産額の一〇ないし一五パーセント程度であるのに対し、本件類似同業者は学ランのみを大量に生産していた業者であり、学ランの生地が学生服の生地よりはるかに高額であることによる。

(二) 簿外資産の存在及び売上除外の推認について

(1) 公表外預金は、原告の所得の中から貯えた定期預金及び漁業補償金から発生した定期預金であって、事業所得とは無関係である。

(2) 借名預金は従業員が各自の給与の中から預入れた預金であり、従業員の預金である。この借名預金は、原告が知らないうちに従業員が勝手にしたものである。

(3) 中国銀行児島支店の石井一也及び片山晃二名義の仮名預金は、原告のものではない。この仮名預金は、預金獲得競争に追われる銀行員が各期末に、原告の知らないうちに貸付金をたて、その金額を預金に振り替えて、各期の締後に返済処理していたものであり、本件調査がなければ判明しなかったものである。原告は大阪店から児島店へ送金していたが、右送金にあたってこの仮名預金は使用していない。

(4) 原告は多額の簿外現金は所持していないし、預金については預金出納帳を備えその出入りについては適正に記録するとともに、振替伝票を通じ総勘定元帳に記録している銀行預金残高の照合も必要に応じ行っており、残高、送金を確認している。

3  抗弁3(推計の合理性)について。

否認する。

被告が採用した本件類似同業者は、原告の実状や事業規模と著しくかけ離れており非合理的である。

(一) 本件類似同業者は、その高い差益率から原告の事業規模とは著しくかけ離れている。

(二) 本件類似同業者のうち一つの同業者は、昭和五八年分及び昭和五九年分売上高が急速に下落しているし、また一つの同業者は昭和五九年分の売上高が大幅に下落しているほか原告のような家内工業とは比較することが適当でない大規模企業で製造工程及び販売組織等が原告とは全く異なるし、残りの同業者は昭和五九年中に倒産消滅した企業であるから、原告の事業に類似しているとはいえず、製造原価の額の算定方法が原告とは全く異なる。

(三) 同業者については、売上に関しては販売方法、販売品目及び販売規模など、製造に関しては製造方法、製造原価の計算及びその数量など、更に大企業の支援、資金量の優劣、各企業の計算方法等の考慮すべき相違点が多いが、被告は企業自体の格差も考慮せず、同種、同業の名をもって同一視し、混同してその企業独自の計算と判断による利益率を単純平均の方法により算出し、数値が得られない企業は平均化から除外している。

(四) 原告の本件各年分の学ラン生産量の総生産量にしめる割合は、昭和五五年分が七・九パーセント、昭和五六年分が一一・八パーセント、昭和五七年分が一五・八パーセント(学ラン用原反仕入額を総仕入額(但し、製造原価構成分)で除した割合)である。原告は学生服生産の合間に手作業で特別に注文を受けた得意先のみに学ランの製造、販売をしていたため、右程度の割合を計上できるにとどまった。一方本件類似同業者は、学ラン専門の会社であり、学ランブームに便乗して学ランを大量に生産、販売して高収益をあげた業者である。従って原告と本件類似同業者は取り扱う商品の種類や業務内容も異なるのだから、一括して総量のみを比較することは誤りである。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。

理由

一  請求原因について

争いがない。

二  抗弁について。

1  抗弁1(本件青色申告の承認の取消処分の適法性)について。

(一)  帳簿書類の不提示と所得税法一五〇条一項一号該当性について。

(1) 証拠(甲五の2、七の8、一一の1、二二の1ないし8、二五、乙三ないし五、一八、一九、二六、二七、証人早川彰、同三嶋至、原告)によれば、次の事実が認められ、その認定事実に反する証拠は採用しない。

被告は、昭和六〇年九月上旬、三嶋実査官外数名をして原告に対する昭和五五年分から昭和五九年分までの所得税の申告内容についての本件調査を行わせることとした。三嶋実査官は岩森主査とともに大阪店で清一に面接し、質問調査及び確認調査等を行い、同人から昭和五八、九年分前後の納品書、振替伝票等の帳簿を預かった。同じく加藤実査官外二名は児島店で原告に面接し、質問調査及び確認調査を行い、同人から本件仕入れノート等提示のあった年分の帳簿を預かった。

昭和六〇年九月一七日、加藤実査官は児島店で預かった帳簿書類の中に昭和五五年分及び昭和五六年分の現金出納日計表がなかったため、原告に提出するよう連絡した。原告は「全部貸したはずであり、そちらが紛失したのではないか。」と返答したが、加藤実査官は帳簿類を預かった際に交付した預り証を基に未提出であることを説明し、探すように依頼した。

同年一一年七日、三嶋実査官は児島店において原告と同人の顧問税理士である早川彰(以下「早川税理士」という。)に対し、提出された帳簿に記載されていた「別注仕入」の内容、記帳方法等について質問調査をした際、昭和五五年分及び昭和五六年分の現金出納日計表が未提出であることを指摘すると、原告は「あるはずだが見当たらない。持って帰っていないか。」と答えた。

昭和六一年一月一七日、三嶋実査官は児島店において原告に対し右別注仕入等に関し質問調査を実施した際、右現金出納日計表が見つかったかどうか確認すると、原告は「探したが見つからない」旨答えた。

原告は同年二月六日に三嶋実査官に会った際にも右現金出納日計表を提示しなかった。また同月一〇日に原告は早川税理士とともに広島国税局直税部資料調査第二課で事情を説明し、同課長中嶋茂(以下「中嶋課長」という。)、同課本田豊主査(以下「本田主査」という。)、三嶋実査官と面会した際にも、右現金出納日計表を提示せず、同年三月七日付けで本件青色申告承認取消処分がなされるまでの間、昭和五五年、昭和五六年分の現金出納日計表を被告係官に提示しなかった。

原告は本件仕入れにつき田川から受け取った仕切書、荷渡伝票、領収書を焼却等処分し、本件調査時において保存していなかった。

なお原告は、右に関し、抗弁に対する認否1(一)記載のとおり反論し、右主張にそうかのごとき証拠(甲五の2、七の3、一一の1、二四の2、二五、証人早川彰、原告)はある。しかし、まず本件現金出納日計表を昭和六〇年暮れころに倉庫で発見し、昭和六一年一月一七日に三嶋実査官にその提示を申し出たとする点は、原告自身が署名捺印している昭和六一年一月一七日付け聴取書(乙一九)では「探したが分からない」旨答えていることと矛盾する。

次に同年二月一〇日に広島国税局直税部で本件現金出納日計表の提示を申し出たとする点は、当日本件現金出納日計表を持っていっていない(原告自身認めている。)ことと整合しないし、原告から本件現金出納日計表の具体的な話があり提示の申し出があれば、当日同席していた本田主査は当然記憶しているはずであるのに、原告(甲一一の1の2、審査請求時の反論書)によれば、本田主査は昭和六一年六月一〇日に異議申立てに係る調査で児島店に赴いた際に、本件現金出納日計表を提示され、右帳簿のことは何も聞いていないと驚いたというのであり、本田主査の右態度は、同年二月一〇日に具体的には本件現金出納日計表の説明や提示の申し出はされていないことを推認させる。

したがって、原告の右反論は採用できない。

(2) 青色申告者は、所得税法一四八条により、同法施行規則五六条ないし六四条の各規定に従って、青色申告の承認を受けている業務に関する帳簿書類を備付け、記録し、保存しなければならない(その取引に関する帳簿及び記載事項については昭和四二年大蔵省告示一一二号)。右認定のとおり原告が被告係官に提示しなかった本件現金出納日計表は同規則六三条一項一号に、既に焼却等により処分済みであった仕切書、荷渡伝票、領収書は同条一項三号に各該当し、右帳簿、書類は昭和五五年以降の取引に関する帳簿、書類であるから、本件調査時において保存義務がある帳簿、書類であると認められる。

所得税法が定める青色申告承認の制度は、納税者が自ら所得金額及び税額を計算し自主的に申告して納税する申告納税制度のもとにおいて、適正課税を実現するために不可欠な帳簿の正確な記帳を推進する目的で設けられたものであり、適式に帳簿書類を備え付けてこれに取引を忠実に記録し、かつこれを保存する納税者に対して特別の青色申告書による申告を承認し、青色申告書を提出した納税者には納税手続きや所得計算上の特典を与えたものである。したがって、帳簿の備付け、誠実かつ信頼性のある記録及び保存は、青色申告制度の基礎である。

青色申告承認の制度は、当該納税者の帳簿書類について税務署長が税務調査を行うことができることを前提として、その調査により帳簿書類の備付け、記録及び保存が正しく行われていることが確認できた場合にのみ青色申告承認による特典を与えるとの趣旨に基づくものと解され、このことは帳簿書類の備付け、記録又は保存が大蔵省令の定めるところに従って行われていないことが青色申告の承認の却下事由(所得税法一四五条一号)、取消事由(同法一五〇条一号)とされていること、青色申告承認の取消処分の通知書(同条二項)には取消しの処分の基因となった事実を被処分者のおいて具体的に知り得る程度に特定して摘示しなければならないこと、青色申告者の申告した課税標準等について更正することができるのは、原則として帳簿書類を調査し、調査によって課税標準等の計算に誤りがあると認められる場合に限られること(同法一五五条一項)、右更正処分の通知書(同条二項)には、更正をした根拠を帳簿記載以上に信憑性のある資料を摘示することで具体的に明示することを要することに照らし、明らかである。

したがって、所得税法一五〇条一項一号が定める同法一四八条一項所定の備付け等とは、当該納税者が単に物理的に帳簿書類を備え付け、記録又は保存するだけでなく、税務署の当該職員がその提示閲覧を求めた場合にはこれに応じ、当該職員が右帳簿書類を確認できるような状態に置くことを当然に含んでいるものと解すべきであるから、税務署の当該職員から所得税法二三四条の質問検査権に基づき、同法一四八条一項により備付け等を義務づけられている帳簿書類の提示を求められたのに対し、当該納税者において正当な理由なく提示しなかった場合には、所得税法一五〇条一項一号に該当するというべきである。

原告は、本件現金出納日計表は前々回調査で調査が終わり使う必要がなかったことから児島店に戻さず、自宅に持ち帰りその存在を忘れていたと主張する。しかし、証拠(乙一六)によれば、東原調査官は前々回調査について、既に修正申告で是正済みの簿外仕入れの経理処理の仕方について相談を受けたことはあるが、本件現金出納日計表の調査はしていないことが認められ、また前記判示のとおり原告は本件現金出納日計表を所得税法施行規則六三条所定の期間これを税務署の当該職員の提示閲覧に応じうる状態に置いておくことが義務つけられているから、原告の主張を前提にしても、正当な理由があるとはいえない。

また原告は、昭和六一年六月の異議調査時において本件現金出納日計表を提出しているが、本件調査時において提出していない以上、本件青色申告承認取消処分後の提出は右処分の効力には影響しない。

原告は、本件現金出納日計表に代わる帳簿を提出していると主張するが、原告は前記のとおり本件仕入れにつき田川から受け取った仕切書、荷渡伝票、領収書を廃棄しており、また後述するとおり原告の売上の大半は大阪店の現金売上であって、しかも同店にはレジスターを置いていないから、本件仕入れに要する金額は大阪店での日々の現金売上から児島店に送金していたとする原告の主張を前提とする限り、総勘定元帳等の記録の裏付けや記録の不足を補完する帳簿として現金出納日計表が不可欠な書類であるから、他の書類によって代用できる帳簿ではない。

よって、原告が本件調査期間中に本件現金出納日計表を本件調査担当官に提示しなかったことは所得税法一五〇条一項一号に該当する。

また、原告が、本件仕入れにつき田川から受け取った仕切書、荷渡伝票、領収書を焼却等処分し、本件調査時において保存していなかったことは、所得税法一五〇条一項一号に該当する。

(二)  所得税法一五〇条一項三号該当性について。

(1) 証拠(甲七の3、6、二七、三一の1ないし4、三六の1ないし5、四〇の1ないし4、乙五、八の1、2、一二の1ないし3、一五、二〇、二七)によれば、次の事実が認められる。

原告は、児島店において製造した学生服等を大阪店において販売している。大阪店の責任者は清一であった。大阪店での販売形態は素人客(学生が主体)に対する現金売り、業者に対する現金売り、業者に対する掛売りに分かれるが、売上げのほとんどは現金売りであった。大阪店にはレジスターはなく、日々の売上金がある程度たまった時点で、清一は大阪店の諸経費や従業員の給料金額を差し引いた額を銀行に入金していた。

原告は、通常の学生服では大手の企業に太刀打ちできないことから、昭和五一年ころから漫画の題材をヒントに得て、学ランの試作を始めた。昭和五四年になると大手学生服メーカーが学ランの大量生産に踏み切り、業者間の競争が激しくなった。清一の病気の関係で大阪店の営業に支障が出たこともあったが、原告は右競争に勝ち残るべく経営努力し、昭和五七年に入ると学ランの製造、販売は円滑に進むようになった。

原告は、田川との間で、学生服(学ランを含む)の原反を仕入れているが、上様あるいは仮名名義の現金による仕入れ(本件仕入れ)は、昭和五五年三月一八日から昭和五八年二月一五日までで、別表三、四の1ないし4記載のとおりである。田川の現金取引の中で本件仕入れは、一回の取引金額が多額(原告以外の業者は一〇万円未満が多いが、原告は数十万円程度の取引が多い。)であり、そのほとんどが即日払い(他の業者は翌日払いが多い。)である。

原告は、本件仕入れに関連して総勘定元帳、現金出納日計表、振替伝票に、大阪店分においては、<1>別注仕入相当額(本件仕入れ金額と同額である。)の別注売上金額を計上したことを示す仕訳〔(借方)現金勘定(貸方)別注売上勘定〕、<2>別注仕入相当額の現金を児島店に渡したことを示す仕訳〔(借方)児島店に対する別注勘定(貸方)現金勘定〕を記載し、児島店分には<3>別注仕入相当額の現金を大阪店から受け入れたことを示す仕訳〔(借方)現金勘定(貸方)大阪店に対する別注勘定〕、<4>別注仕入を現金で支払ったことを示す仕訳〔(借方)別注仕入勘定(貸方)現金勘定〕を記載している。なお、現金出納日計表、振替伝票は昭和五六年五月一九日以前のものは括弧書きで記載され、同月二〇日以降のものは括弧なしで記載されている。別注仕入の各種帳簿への記載状況は別票一〇記載のとおりである。

(2) 右本件仕入れ及び記帳の関係について、原告は、本件仕入れや本件仕入れにかかる売上げは現実の帳簿に記載しており、帳簿上の別注仕入、別注売上とは異なるもので、別注仕入、別注売上、別注勘定による処理は、本件仕入れ代金を大阪店の現金売上の一部を児島店に送金し、それにより支払っていたため、右処理のため実質的な本支店勘定として記帳したものであって、実質的な損失には影響しないと主張する。

他方、被告は、別注仕入の実態は上様や仮名名義を利用した現金による簿外仕入であり、別注売上は公表帳簿との辻褄をあわせるための架空売上の計上であり、本件仕入れに係る売上は帳簿に計上されていないと主張する。

イ 本件仕入れが仮名及び上様名義であることにつき、原告は、本件仕入れが田川の他社納入予定数の中から現金決済することで原告に納入してもらっていたものであるため、田川が取引先との関係で納入先を明らかにできなかったものである旨主張する。

しかし、証拠(乙三、八の1、2、九)によれば、本件仕入れは、昭和五五年三月一八日から始まり、田川に別件での調査が入り本件仕入れが判明した日の前日である昭和五八年二月一五日まで続いていること、同日一六日以降は大中商店※名義で原告は田川から原反を現金仕入れをしていること、本件仕入れの主な銘柄は一五三cm二、二〇〇カシドスC/#SH2黒(昭和五八年二月初旬からは一五三cm二、七〇〇カシドスC/#SH二七〇黒が増えている。)であるが、右商品は大中商店※名義で現金仕入れをするようになってからも継続して田川から原告へ現金販売され、取引状況に変化がないことが認められるから、本件仕入れの上様あるいは仮名名義による取引形態が田川の事情に基づくものとはいえず、後記ニ(本件仕入れノート関係)認定事実からしても、むしろ原告側の事情であることが推認できる。

ロ 次に、本件仕入れ代金につき、原告は、大阪店での当日の売上金の一部をその日のうちに児島店に送金し本件仕入れ代金に宛てており、大阪店の売上は帳簿に全て計上している旨主張する。

証拠(乙二〇、昭和五五年三月から昭和五六年一二月までの大阪店の現金出納日計表であるが、後記別注勘定分は全月につき、後記日々記帳分は昭和五六年五月分、六月分のみである。)によれば、昭和五五年分及び昭和五六年分の大阪店の現金出納日計表は、別注売上及び別注勘定に関する部分(以下「別注勘定分」という。)は月毎にまとめて一枚に記帳され、その以外の取引に関する部分(以下「日々記帳分」という。)は日々現金出納が記帳されている。

原告主張のとおりに、大阪店での売上金の一部が本件仕入れ代金として児島店に送金され、大阪店での日々の入出金が現金出納日計表の記帳に反映されているのであれば、大阪店の本件仕入れがあった日の日々記帳分の「本日現金残高(翌日へ)」欄記載の金額から本件仕入れ代金が捻出されなければならないから、当該本件仕入れのあった翌日の日々記帳分の「前日現金繰越高」欄記載の金額は、前日の「本日現金残高(翌日へ)」欄記載の金額から当該本件仕入れ代金額を控除した額にならなければならない。

しかし、前記大阪店の現金出納日計表の日々記帳分の「前日現金繰越高」欄記載の金額は、その前日の「本日現金残高(翌日へ)」欄記載の金額と同額である(例えば、昭和五六年六月一〇日は五〇万一、五七八円の本件仕入れがされているから、同日の大阪店の現金出納日計表の日々記帳分の「本日現金残高(翌日へ)」欄記載の四八二万二一五一円から右五〇万一五七八円が支払われているのであれば、翌日である同月一一日の日々記帳分の「前日現金繰越高」は四八二万二一五一円から五〇万一五七八円を控除した四三二万〇五七三円であるはずなのに、右一一日の日々記帳分の「前日現金繰越高」欄記載の金額は前日の「本日現金残高(翌日へ)」欄記載の四八二万二一五一円である。)から、昭和五五年分及び昭和五六年分の大阪店の現金出納日計表の日々記帳分の「本日入金高合計」欄記載の金額(「前日現金繰越高」に当日の実際の入金額を加えた金額)は、大阪店での売上額を正確に反映していないことになる(証拠として大阪店の現金出納日計表の日々記帳分が提出されているのは、昭和五六年五月、六月分のみであるが、証拠(乙二〇)及び弁論の全趣旨によれば、昭和五五年分においても大阪店の現金出納日計表は別注勘定分が月毎に独立して作成されていること、昭和五五年分と昭和五六年分の帳簿の記帳状況は同様であることが認められるから、昭和五五年分の大阪店の現金出納日計表の日々記帳分の「本日入金高合計」欄記載の金額も大阪店での売上額を正確に反映していないものと認められる。)。

このことは、昭和五五年及び昭和五六年大阪店の現金出納日計表の日々記帳分の「本日入金高合計」欄記載の金額に本件仕入れ金額が一切考慮されていないことを示し、例えば昭和五六年六月三〇日(証拠として提出されている日々記帳分の最終日)時点で検討すると、同日の日々記帳分の現金残高一六七万六二四一円は、少なくとも同年五月分の本件仕入れ金額二〇二万四二四七円、同年六月分の一六七万四五九六円を含んでいないから、この本件仕入れ金額を右六月三〇日の現金残高から差し引くと、二〇二万二六〇二円の赤字(証拠(乙二一)によれば、昭和五六年六月三〇日時点での児島店の現金残高は一八七万八六一一円であるから、児島店での手持現金で右大阪店での赤字を填補できるものではない。)となってしまう。このことから明らかなように、大阪店の現金出納日計表に計上されている売上金額は大阪店の実際の売上額の一部に過ぎない。

また証拠(乙二一)によれば、児島店の昭和五五年分及び昭和五六年分の現金出納日計表では、本件仕入れのあった日の日々記帳する部分に別注仕入及び別注勘定該当の記載がされており、大阪店と児島店では別注勘定の記載方法が異なることが認められる。この児島店と大阪店で記載方法が異なる点につき原告から合理的な説明はないが、前記(2)及び右認定事実並びに後記認定の各種帳簿の記載状況等から検討すると、児島店においては本件仕入れに関して当日入金、当日支払の扱いになるため当日の現金残高に影響せず、日々記帳分に別注勘定関係を記載しても、他の記載への影響はないが、大阪店においては日々記帳分に別注勘定分を記帳すると、当日の現金残高に影響し翌日以降全日の記載に影響するため、その矛盾を回避するため月毎に一括して独立して記帳したものと推認される。

ハ 原告は帳簿上の別注勘定による処理は、本件仕入れ代金の送金に伴う実質的な本支店勘定に過ぎない旨主張する。

しかし、そもそも本件仕入れや本件仕入れに係る売上げが正当に帳簿上に計上されているのであれば、仕入代金の送金は原告の損益に影響しないから、わざわざわかりにくい別注勘定による処理をする必要はないはずである。また、証拠(乙一三)によれば、本件仕入れの昭和五八年分(一月一一日から二月一五日)については帳簿上別注勘定による処理はされておらず、店主からの借入金として処理され、その後の本件仕入れ発覚後の同年三月以降の現金仕入についてはそのような処理はされていないことが認められるから、原告の帳簿上も別注勘定による処理は一貫していない。

ニ 原告は、本件仕入れは田川の社員に頼んで仕入の度ごとに本件仕入れノートに全て記帳しており、右ノートの数値は田川の帳簿と一致しているから、右仕入を仮装、隠匿したものでない旨主張し、証拠(乙七、八の1)によれば、本件仕入れノートには昭和五五年三月一八日から昭和五七年一二月二八日までの田川との現金取引が記載されており右記載内容は田川の帳簿と一致していることが認められる。

しかし、本件仕入れは前記(一)(3)認定のとおり昭和五八年二月一五日まで続いているが、原告から昭和五八年分について本件仕入れノートに記載がいなことの合理的説明はないこと、原告は本件仕入れノートの昭和五七年一一月五日の仕入の記載を後日抹消しているが、右仕入に対応する田川の帳簿(乙八の1)の記載を検討すると、仕入名義、仕入品目、仕入数量、仕入額から原告の本件仕入れと認められること、原告は右抹消について合理的説明をしていないが、昭和五七年分の総勘定元帳(乙一二の3)及び振替伝票(乙二九)に同日の本件仕入れの記帳がないことに照らすと、右帳簿の記載と合致するよう本件仕入れノートの右記載を抹消したものと推認できること、本件仕入れノート作成の経緯について原告は、田川からの本件仕入れが当初の上様名義から途中で仮名名義になったことから田川から交付される伝票類は意味がないので、備忘のために本件仕入れノートを別途作成してもらった旨供述するが、前記二2(一)(3)認定のとおり本件仕入れが仮名名義になったのは昭和五五年下旬以降であるのに本件仕入れノートは本件仕入れ当初から記載されていること、田川の原告担当社員は本件ノートをつけていないと税務署係官に供述している(乙九)ことに照らすと、本件仕入れノートが本件仕入れの度ごとに記帳されたものではないことが認められる。

ホ さらに原告の本件仕入れに関する帳簿には以下のような不自然な点が認められる。

<1> 原告の昭和五五年分及び昭和五六年分の大阪店の現金出納日計表の記帳状況は、前記(2)認定のとおりであるが、証拠(甲三一、三六、四〇、乙二〇、二一、二八、二九)によれば、大阪店の現金出納日計表の月毎に作成されている別注勘定の記帳は最下段の線に揃うように記帳させていること、大阪店の現金出納日計表の筆跡は、同店の別注仕入れの振替伝票の筆跡とは異なるが、児島店の振替伝票の筆跡と同一であることが認められるから、大阪店の現金出納日計表は児島店において作成されたものであり、別注勘定分は本件仕入れのあった日に個別に記載されたものではなく、日々記帳分とは別個に少なくとも一月毎にまとめて一括記載されたものである。

<2> 証拠(甲三一、三六、四〇、乙二八、二九)によれば、昭和五五年分ないし昭和五七年分の振替伝票は、児島店及び大阪店において、別注勘定関係とその他の取引とで別個に作成されていること、その他の取引の振替伝票にはチェックした跡がうかがえるが、別注勘定関係の振替伝票にチェックした跡がうかがえないことが認められる。

<3> 証拠(乙二三)によれば、原告は昭和五七年分については別注勘定を現金出納日計表に記載していない。原告はこの点につき二度手間になるので振替伝票から直接総勘定元帳に記載した旨説明するが、他の取引は現金出納日計表に記載し、別注勘定のみを省略する合理的根拠はない。また早川税理士が現金売上が主である原告にとって日々記帳する帳簿として重要な現金出納日計表(総勘定元帳は月毎にまとまった振替伝票や現金出納日計表を資料として早川税理士において作成していた。)への記載の省略を容認していたということも不自然である。したがって現金出納日計表への記帳方法の変遷は不自然である。

<4> 証拠(乙一八)によれば、原告は本件調査当時担当調査官に対し、現金出納日計表には総売上を記載した後に、二本線で別注仕入額を引いた額に訂正した旨説明しており、現金出納日計表の記帳内容の説明が変遷している。また証拠(乙一九)によれば、同じく本件調査当時原告は、本件仕入れ代金を大阪店から中国銀行児島支店に振込送金された売上代金や現金で受領した売上代金又は児島店の手持代金の中から支払っている旨説明しており、本件仕入れ代金の調達方法の説明も変遷している。

ヘ 原告は、本件仕入れの帳簿処理につき昭和五六年五月一九日に早川税理士に指摘され、前々回調査の際の東原調査官の指導により、同日までの帳簿についてはそのころ修正処理し、同日以降分は日々正当に記載したものである旨主張する。

しかしながら、東原調査官の具体的な指導がなかったことは前記1(一)(2)認定のとおりである。また、原告の主張自体、昭和五五年分は正当に記帳していなかったことを前提としているばかりか、証拠(乙二〇、二一)によれば、現金出納日計表では昭和五五年分及び昭和五六年五月一九日までの別注勘定は括弧書きで記載され、同月二〇日以降は括弧なしで別注勘定が記載されていることが認められるものの、前記認定の原告の帳簿書類の不自然さからみれば、原告が昭和五六年五月一九日時点でそれ以前の本件仕入れについては正当に記帳処理し、その後は日々正確に記帳処理したとは認められない。

以上認定したとおり、昭和五五年分における振替伝票及び現金出納日計表には本件仕入れや本件仕入れにかかる売上が正当に計上されていないから、右書類の記載内容を前提にした総勘定元帳の記載も原告の仕入れ、売上げを正確に記帳していないとみるべきである。そして、原告は、昭和五五年分の本件仕入れや本件仕入れにかかる売上げを正当に帳簿に計上せずに確定申告をしているのであるから、各種帳簿書類上の別注仕入、別注売上、別注勘定は、簿外の右取引を隠ぺいするための実態とは異なる仮装記帳であると断ずることができる。

右、原告が昭和五五年分の所得税法一四八条の定める帳簿書類に取引の一部を隠ぺい、仮装して記載した行為は、同法一五〇条一項三号に該当するものというべきである。

(三)  本件青色申告承認取消処分の理由付記について。

証拠(甲三)によれば、被告が本件青色申告承認取消処分の通知書に記載した理由は、抗弁1(三)記載のとおりであることが認められる。

青色申告承認の取消処分の通知書に付記すべき理由は、取消の処分の基因となった具体的事実を被処分者が知りうる程度に特定して摘示すれば足りる。本件において被告が摘示した内容は、所得税法一五〇条一項及び三項に該当する具体的事実を四項目に分けて記載し、処分の基因となった取引、帳簿、科目及びその記帳内容を特定しているから、適法である。

2  抗弁2(推計の必要性)について。

(一)  原告の本件各年分の帳簿書類の記載が、本件仕入れに関連して実額計算に供することができない程度に正確性、真実性が疑わしいことは前記1に説示したとおりである。

(二)  原告の売上の殆どが大阪店での現金売上であり、同店にはレジを設置していないこと、原告に帳簿書類に計上されていない売上が存在する可能性が高いことは前記1(二)(2)ロのとおりである。

また、従業員名義の財産形成預金(以下「財形預金」という。)につき、証拠(乙五、一四、三〇ないし三五)によれば、大阪店に昭和五七年六月三〇日まで勤務していた林延次郎(以下「林」という。)名義で中国銀行児島支店に同年八月分まで月五万円の財形預金がされているが、林は財形預金をしたことはなく、中国銀行児島支店に預金をしたこともないこと、林の昭和五七年当時の給料手取額は約一八ないし二〇万円程度(財形の天引きはない。)であること、大阪店において清一が従業員の給料から差し引くのは、社会保険料と税金であり、支給した従業員の給料から児島店に送金することはなかったこと、昭和五六年四月当時、児島店の従業員であった山田晃、大中佐代子、大門茂の各名義で中国銀行児島支店と広島銀行児島支店に財形預金があり、中国銀行児島支店の右預金は毎月五千円ないし一万円であるが、広島銀行児島支店の右預金は全名義につき毎月五万円であること、中国銀行児島支店及び広島銀行児島支店では原告から右財形預金額を集金していることが認められる。

右認定事実によれば、少なくとも中国銀行児島支店の林名義の財形預金及び広島銀行児島支店の山田晃等名義の財形預金は、名義人本人に帰属するものではなく、原告に帰属する預金であるとみるべきである。

以上のとおり、原告の本件各年分の所得金額の実額を帳簿書類によって把握することはできないことが明らかであるから、推計の方法による課税の必要性が認められる。

3  抗弁3(推計の合理性)について。

(一)  所得金額の算出方法について。

(1) 証拠(乙二、三、一一、証人三嶋至)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、本件各年分の売上原価(昭和五五年分及び昭和五六年分については原告の確定申告における決算書記載の金額に別表三記載の当該年分の本件仕入れ額を加算した額であり、昭和五七年分については原告の確定申告における決算書記載の金額に同年一一月五日の現金仕入分である三八万六、五四〇円を加算した金額)を基礎数値とし、後記2の類似同業者の平均売上原価率を右売上原価に適用して売上金額を算定し、本件各年分の右売上金額から、売上原価、必要経費、事業専従者控除額を差し引いて原告の本件各年分の総所得金額を算出したことが認められる。

(2) 証拠(二、三、一一、証人三嶋至、原告)及び弁論の全趣旨によれば、原告は本件仕入れ以外の売上原価項目については帳簿に計上していたこと、昭和五七年分については原告の確定申告における青色申告決算書記載の売上原価の額には本件仕入れの金額として二、〇五六万一、一二三円が含まれていたが、昭和五七年一一月五日の山本名義の現金仕入三八万六五四〇円が含まれていなかった(右仕入が原告に帰属することについては前記二2(二)(4)認定のとおり)こと、原告が田川から仕入れている原反表地は掛仕入れも本件仕入れを含む現金仕入れもカシドスであり区別がないこと、本件仕入れ以外の製造原価は学生服の製造に係るものと学ランに係るものとで区分がされずに原告の帳簿に計上されていること、学ランと学生服の製造工程は手断ちと機械裁断の違いがあるが、ほぼ同じであること、日々の売上計算はほとんど売溜め方式によって一括計上されており、個々の売上(学生服及び学ランの売上)を実額によって算定できないことが認められるから、被告が採用した売上原価を基礎数値とする右算出方法は合理性が認められる。

(二)  本件類似同業者の選定について

(1) 証拠(乙二、三、証人三嶋至)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、抗弁3(推計の合理性)(二)(1)記載の基準で別表九の1ないし3のとおりの本件類似同業者を選定したことが認められる。

(2) 右本件類似同業者選定の合理性につき、証拠(甲七の3、6、乙三、原告)によれば、原告は、通常の学生服では大手の企業に対抗できず利益が上がらないため、昭和五一年ころから学ランの試作を始めたが、昭和五四年ころから大手学生服メーカーが学ランの大量生産に踏み切ったことから右業者間の競争に勝ち残るべくさらに経営努力をし、昭和五七年に入ると学ランの製造、販売は円滑に進むようになったこと、学ランの需要は昭和五四年から昭和五八年ころにかけて、特に最盛期は昭和五六年夏ころであったことが認められるから、被告が、本件各年分を通して学生服、特に学ランを主体に製造している者を類似同業者選定の基準としたことには合理性が認められる。

また、証拠(乙三、証人三嶋至)によれば、収支の実績の確実さを確保する趣旨で年度途中で開廃業、休業又は業態を変更した者を除外し、資料の正確性を確保する趣旨で青色申告の承認を受けており、更正処分等に関して係争中でない者に限定し、事業規模の類似性を確保する趣旨でいわゆる倍半基準を採用している(なお昭和五七年分の同業者Bに係る売上原価の額が原告の二・五〇倍になっているが、このことで同業者Bの類似性が失われるものとはみとめられない。)ことが認められる。

右認定事実によれば、本件類似同業者は、その業種、業態、事業規模の点で原告と類似性が認められ、さらに本件類似同業者の資料の正確性、類似同業者抽出過程の客観性が認められるから、被告が算定した本件類似同業者の平均売上原価率には合理性が認められる。

本件類似同業者選定の合理性につき原告は、本件仕入れ額と原反の総仕入額から、原告の学ランの生産量は原告の総生産量の一部に過ぎず(昭和五五年分につき七・九パーセント、昭和五六年分につき一一・八パーセント、昭和五七年分につき一五・八パーセント)、他方、本件類似同業者はその売上高の推移からみても学ラン専門の会社であるから比較することはできないと主張する。

しかし、前記認定のとおり掛仕入れに係る原反と本件仕入れに係る原反はほぼ共通しているから、本件仕入れ分のみが学ラン相当分であるとは認められず、また学ランの製造、販売の経緯からは原告は本件各年分当時、学ランの製造、販売を主体にしていたと認められるから、原告の右主張は理由がない。

また、原告は、被告の類似同業者の選定は、原告と類似同業者との販売面、製造面、資金面等考慮すべき多数の相違点を考慮していないと主張する。

しかし、同業者率による推計の方法が、平均値による推計である場合には、同業者間に通常存在する程度の営業条件の差異は捨象されると考えられ、推計課税の性格上、営業条件等の差異が平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものでない限り、推計の合理性が肯定されると解されるところ、原告の主張する種々の相違点は、推測に基づく抽象的な指摘に止まっており、平均値による推計自体を全く不合理ならしめる程度に顕著なものとは認められないから、原告の右主張は理由がない。

4  抗弁4(本件各年分所得税に係る各更正処分)について。

(一)  原告の本件各年分の総所得の金額について

前記認定の事実及び証拠(乙三、証人三嶋至)及び弁論の全趣旨によれば、前記3(一)(1)(2)により算出された原告の売上原価は昭和五五年分が二億九〇一四万八四九六円、昭和五六年分が二億六五七二万三七三一円、昭和五七年分が二億六八三九万九六三一円であること、本件類似同業者の平均売上原価率(いずれも小数点以下四位を切り上げ)は昭和五五年分が七三・五パーセント、昭和五六年が七四・四パーセント、昭和五七年分が七三・五パーセントであること、右売上原価率を適用した原告の売上金額は昭和五五年分が三億九四七五万九八五八円、昭和五六年分が三億五七一五万五五五二円、昭和五七年分が三億六五一六万九五六五円であること、原告には抗弁4(一)(4)、(5)の必要経費及び事業専従者控除額が認められること、前記売上金額から右売上原価、必要経費及び事業専従者控除額を控除すると、原告の事業所得金額(総所得金額)は昭和五五年分が五〇〇五万〇二八七円、昭和五六年分が三八三〇万八七〇〇円、昭和五七年分が三二五一万三二六二円であることが認められる。

(二)  そうすると、別表二の1ないし3の更正欄記載の更正処分の総所得金額は、いずれも右(一)認定の原告の本件各年分の総所得金額の範囲内であるから、推計の必要性、合理性ともに認められる本件各年分に係る各更正処分は適法である。

5  抗弁5(昭和五八年分の更正処分及び昭和五九年分の再更正処分)について。

(一)  証拠(甲一の4、一四の2)及び弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和五八年分及び昭和六〇年分の所得税青色申告において、各事業専従者に係る青色事業専業者給与の額の合計額(昭和五八年分は六三四万円、昭和六〇年分は七一七万六〇〇〇円)を必要経費に算入していることが認められる。

抗弁1について説示したとおり、本件青色申告承認取消処分は適法であるから、原告には所得税法五七条一項の適用はなく、同法五六条により右各青色事業専従者給与の額は必要経費の額に算入せずに、同金額を右各年分の必要経費の額から控除して右各決算書に従って計算する。そうすると、事業専従者控除額控除前の所得金額は、昭和五八年分について別表一一の「原処分額(裁決後)」欄<7>記載の一四〇二万六七二三円になり、昭和六〇年分については別表一二の「再更正処分額」欄<7>記載の一一七九万三二二三円になる。

したがって、原告の昭和五八年分の事業所得の金額は、一四〇二万六七二三円から各事業専従者に係る事業専従者控除額一六〇万円(昭和五九年法律第五号による改正前の所得税五七条三項の適用による一人当たり四〇万円の控除額)を控除した一二四二万六七二三円となり、昭和六〇年分の事業所得の金額は、一一七九万三二二三円から各事業専従者に係る事業専従者控除額一八〇万円(昭和六二年法律第九六号による改正前の同法五七条三項の適用による一人当たり四五万円の控除額)を控除した九九九万三二二三円である(別表一一、一二参照)。

そして、原告に租税特別措置法二五条の二(みなし法人課税を選択した場合の課税の特例、昭和五九年法律第六号による改正前のもの)の適用はないから、昭和五八年分の給与所得一一一万円及び配当所得四一二万二〇〇〇円は総所得金額に含まれず、原告の総所得金額は事業所得と同額の一二四二万六七二三円であり、昭和六〇年分の総所得金額も同様に事業所得と同額の九九九万三二二三円である。

なお、昭和六〇年分の原告の納付すべき所得税額につき、原告は確定申告時に原告自身に対する給与六〇〇万円に係る源泉徴収税額六二万三二八〇円を控除しているが、本件青色申告承認取消処分は適法であるため、租税特別措置法二五条の二第三項(みなし法人課税を選択した場合の課税の特例、昭和六三年法律第一〇九号による改正前のもの。)の適用はないから、右源泉徴収額を所得税の額から控除することはできない(被告は本件再更正処分においてこの点を更正した。)。

よって、昭和六〇年分の原告が納付すべき税額は、同年分の事業所得金額九九九万三二二三円から確定申告に基づく各種所得控除の金額を控除して求めた課税総所得金額を基に算出した所得税額二〇七万六七五〇円から一〇〇円未満の端数を切り捨てた二〇七万六七〇〇円である(別表一二参照)。

(二)  以上のとおり、原告の昭和五八年分の総所得金額(事業所得の金額)及び昭和六〇年分の所得税額は、昭和五八年分の更正処分(平成二年七月九日付け裁決による一部取消後の処分)及び本件再更正処分の右金額と同額になるから、右各処分はいずれも適法である。

6  抗弁6(本件各賦課決定処分の適法性)について

(一)  本件過少申告加算税賦課決定処分について

前記5(一)認定のとおり、昭和六〇年分所得税にかかる本件更正処分及び再更正処分は適法で、証拠(甲三、五の2)によれば本件青色申告承認取消処分に係る通知書は、昭和六〇年分の申告納期限前の昭和六一年三月八日に原告に送達されていることが認められる。原告が過少申告したことについて国税通則法六五条四項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)の規定する「正当な理由」に該当するとの主張、立証はないから、同条一項に基づく本件過少申告加算税賦課決定は適法である。

(二)  本件重加算税賦課決定処分について

前記4のとおり、本件各年分所得税の更正処分は適法であるところ、本件青色申告承認取消処分に伴って、<1>必要経費の額から除外された各年分の各事業専従者に係る青色事業専従者給与の額と所得税法五七条三項の適用により新たに必要経費として認められた事業専従者控除額との差額、<2>租税特別措置法二五条の三第三項三号の適用を受けられないことに伴う部分については、国税通則法六五条四項(昭和五八年分以前については、昭和五九年法律第五号による改正前の同条二項をいう。)に規定する正当な理由があると認められるが、その余の部分については正当な理由があるとは認められない。

さらに原告は、前記1(二)認定のとおり、昭和五五年分ないし昭和五七年分の本件仕入が多額になるにもかかわらず右取引を正確に記帳せず、また大阪店における現金売上額を帳簿から一部除外し、右帳簿に基づいて納税申告していること、後日右仕入及び売上の辻褄を合わせるための帳簿操作を行っていること、原告は簿外資産を有していることが認められるから、原告は昭和五五年分ないし昭和五七年分において、国税通則法六八条一項(昭和六二年法律第九六号による改正前のもの)に規定する課税標準又は税額等の計算の基礎となる事実を隠ぺい又は仮装し、その隠ぺい又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出したというべきである。

よって、本件重加算税賦課決定は適法である。

三  結論

以上のとおり、原告の本件各請求は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 池田亮一 裁判官 吉波佳希 裁判官 遠藤邦彦)

別表一 昭和五五年分以降の青色申告承認取消の経過表

<省略>

別表二の1 課税処分等経過表(昭和五五年分)

<省略>

別表二の2 課税処分等経過表(昭和五六年分)

<省略>

別表二の3 課税処分等経過表(昭和五七年分)

<省略>

別表二の4 課税処分等経過表(昭和五八年分)

<省略>

別表二の5 課税処分等経過表(昭和六〇年分)

<省略>

別表三

<省略>

別表四の1

(昭和55年)

<省略>

別表四の2

(昭和56年)

<省略>

別表四の3

(昭和57年)

<省略>

(昭和57年)

<省略>

別表四の4

(昭和58年)

<省略>

別表五

<省略>

別表六の1

月別月末現金残高一覧表

(児島店)

<省略>

(大阪店)

<省略>

(合計)

<省略>

別表六の2

月別月末現金残高一覧表

(児島店)

<省略>

(大阪店)

<省略>

(合計)

<省略>

別表七

<省略>

別表八

各年分の事業所得金額の算出経過表

<省略>

別表九の1

類似同業者の売上原価率表(昭和五五年分)

<省略>

別表九の2

類似同業者の売上原価率表(昭和五六年分)

<省略>

別表九の3

類似同業者の売上原価率表(昭和五七年分)

<省略>

別表一〇

<省略>

別表一一

昭和五八年分の課税処分表

<省略>

別表一二

昭和六〇年分の課税処分表

<省略>

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