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岡山地方裁判所 平成3年(わ)371号 判決 1991年10月28日

本籍

広島県安芸郡倉橋町一八、八五八番地の四

住居

岡山市柳町一丁目四番八号 みのるガーデンビル四〇八号室

会社役員

上瀬博

昭和二四年六月八日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官早川幸延出席のうえ審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金五万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山市内で「鳥好駅前第一支店」などの名称で飲食店三店舗を経営しているものであるが、自己の所得税を免れようと企て、売上金を仮名・借名の預金口座に入金するなどの不正な方法により、その所得を秘匿した上

第一  昭和六二年分の総所得金額が三九七二万二七七七円でこれに対する所得税額は一五六九万六五〇〇円であったにもかかわらず、昭和六三年三月一〇日、岡山市天神町三番二三号所在の所轄岡山東税務署において、同税務署長に対し、昭和六二年分の総所得金額が一二〇〇万円で、これに対する所得税額が二二三万六一〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一三四六万〇四〇〇円を免れ

第二  昭和六三年分の総所得金額が五三〇一万〇一八二円でこれに対する所得税額は二〇五七万八四〇〇円であったにもかかわらず、平成元年三月一三日、前記岡山東税務署において、同税務署長に対し、昭和六三年分の総所得金額が、一二〇〇万円、これに対する所得税額が二〇一万三六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額一八五六万四八〇〇円を免れ

第三  平成元年分の総所得金額が五九一一万三五四一円でこれに対する所得税額は二二九八万五五〇〇円であったにもかかわらず、平成二年三月一日、前記岡山東税務署において、同税務署長に対し、平成元年分の総所得金額が一三〇〇万円でこれに対する所得税額は二三三万七六〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額と右申告税額との差額二〇六四万七九〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

( )内の算用数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の証拠番号を表わす。

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(30ないし33)

一  大蔵事務官作成の調査書二二通(7ないし28)

一  検察事務官作成の電話要旨書(6)

一  押収してある昭和六二年分、昭和六三年分、平成元年分の各所得税の確定申告書及び同年所得税の予定納税額の通知書控六通(平成三年押第六三号の一ないし三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪について懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重をし、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年及び罰金一三〇〇万円に処し、右罰金を完納することができないときは、同法一八条により金五万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、飲食店を営む被告人の三年間にわたる所得税の脱税事犯であって、そのほ脱税額が合計五二六七万円余と多額である上、ほ脱税率も八八・八パーセントと高率である。

しかも、その犯行態様は、売上金については、家族や従業員の借名口座、あるいは仮名口座で預金するなどして隠匿し、また、売上高を把握されないように、正規の売上げや経費を記録する会計帳簿類を作成せず、さらには、仕入先に対し、伝票を上様扱いにする伝票操作を依頼するなどしていたもので、巧妙かつ悪質である。

申告納税制度を採る我が国のような租税制度のもとでは、国民が自己の所得を正直に申告することを前提としているから、不正の手段で所得を隠して税金を逃れることは、国民全体の犠牲において違反者のみが不法の利益を得るもので、極めて反社会性の強い犯罪である。税負担の公平は租税制度上最も重視すべき原則であり、この原則を保つためにも、正直者が馬鹿をみることがあってはならない。

この点からみると、被告人の行為は厳しい非難を免れない。

しかしながら、被告人は、脱税した三年分について修正申告をしたうえ、本税及び重加算税等を全部納付ずみであること、本件を機にこれまでの事業を「有限会社居酒屋ひろし」という会社組織にして、正確な納税申告に努める態勢を整えたこと及び現在の反省状況等を考慮して、主文のとおり量刑した。

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 角田進)

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