岡山地方裁判所 平成3年(ワ)521号 判決 1992年6月29日
反訴原告
難波隆
反訴被告
岸本英樹
主文
一 被告は、原告に対し、金二三五万五四七円及び内金二一五万五四七円に対する平成二年五月九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを六分し、その一を被告の、その余を原告の各負担とする。
四 この判決第一項は、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は原告に対し、金一三八七万五六八三円及び内金一二六一万五六八三円に対する平成二年五月九日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件交通事故の発生
(一) 日時 平成二年五月九日午後七時四〇分頃
(二) 場所 岡山市小山三六番地の一先国道上
(三) 加害者 被告
(四) 加害車両 普通乗用自動車(岡五八ひ四九〇五)
(五) 被害者 原告
(六) 被害車両 普通乗用自動車(岡三三な九八七一、以下「原告車両」という。)
(七) 事故態様 前記日時場所において、原告車両が道路右側にある店舗に入るため停車中、被告車両が追突したもの
2 責任
被告は、本件事故の加害車両を所有し、自己のために運行の用に供していたものであるから、自賠法三条に基づき、原告の人的損害を、また本件事故は被告の前側方不注視の過失によるものであるから、民法七〇九条に基づき、原告の物的損害を賠償する責任がある。
3 原告の傷害等
(一) 原告は、本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫等の傷害を受け、事故後二日目の平成二年五月一一日から症状固定日とされるべき平成三年五月二八日まで、治療期間三八三日間、実通院二七九日間の加療を要した。
(二) 原告は、本件事故により項部痛、頸部の回旋より項部に疼痛がはしる等の自覚症状を伴う頸椎部の運動障害を残しており、自賠責保険後遺障害等級八級二号にいう「脊柱に運動障害を残すもの」に該当する後遺障害を負つた。
4 原告の損害
(一) 人的損害 一〇六五万四七一三円
(1) 治療費 一三八万八六〇〇円
原告は、別紙「入通院状況及び治療費明細」の治療費欄記載のとおりの治療費を支払つた。
(2) 通院交通費 一三万九五〇〇円
通院一日につき五〇〇円として、二七九日分。
(3) 休業損害 二四九万五二三二円
原告は、本件事故当時四〇歳の男子であるから、その平均賃金月三九万五三〇〇円、一日にして一万二九九六円、平成二年五月一〇日から平成三年五月二八日まで三八四日間の稼働率五〇パーセントとして、休業損害は二四九万五二三二円となる。
(4) 後遺障害に基づく逸失利益 二八三万一三八一円
原告は、前記症状固定日当時四一歳の男子で、その年齢別平均賃金は月四〇万三〇〇〇円である。
原告の労働能力は、前記後遺障害により、少なくとも症状固定から五年間は、一四パーセント以上低下するとみるのが相当である。
したがつて、右により計算すると、前記後遺障害に基づく逸失利益は二八三万一三八一円となる。
(5) 慰謝料 三八〇万円
原告の傷害、後遺障害を考慮すると、三八〇万円が妥当である。
(二) 物的損害 一九六万〇九七〇円
(1) 修理代 一一二万五九七〇円
原告車両は、本件事故により、リヤーバンパー、テールランプ及びリヤートランク等が破損した。その明細は、別紙「修理費明細」記載のとおりである。
(2) 代車使用料 八三万五〇〇〇円
代車使用料一日につき五〇〇〇円、使用期間、平成二年五月九日から同年一〇月二三日までの一六七日間として、八三万五〇〇〇円となる。なお、原告と被告は、本件事故直後、代車の手配は原告がなし、その使用料は修理完了まで一日につき五〇〇〇円とする旨合意した。
5 弁護士費用 一二六万円
弁護士費用は、前記人的損害と物的損害の合計一二六一万五六八三円の一〇パーセントである一二六万円(一万円未満切捨)が相当である。
よつて、被告は原告に対し、一三八七万五六八三円及び内金一二六一万五六八三円に対する本件事故の日である平成二年五月九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否
1 請求原因1、2の事実は認める。
2 請求原因3の事実のうち、症状固定日が平成三年五月二八日であること、原告の後遺障害が自賠責保険後遺障害等級八級二号に該当することを否認し、通院日及び自覚症状については不知、その余は認める。
3 同4の(一)の(1)ないし(5)の事実はいずれも不知。但し因果関係は争う。
4 請求原因4の(二)の事実のうち、代車使用料について原告と被告の間で合意したことは否認するが、その余は不知。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 本件事故の発生と被告の責任
請求原因1、2の事実は当事者間に争いがないから、被告は原告に対し、原告の被つた人的損害については自賠法三条に基づき、また、物的損害については民法七〇九条に基づき、各賠償をする義務がある。
二 本件事故による原告の受傷内容、治療状況及び症状固定について
原告が本件事故により、頸椎捻挫、腰椎捻挫の傷害を負つたことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第五号証の一ないし六、第七号証、第八号証の一ないし九、乙第一ないし第三号証、第五号証、第一九、第二〇号証、第二四号証、証人三河義弘の証言、原告本人尋問の結果を総合すれば、次の事実が認められる。
1 原告は、本件事故直後、本件事故現場にかけつけた警察官に対し、身体については大丈夫である旨答えたが、二日後、首や腰が痛くなつてきたので、平成二年五月一一日に江原外科胃腸科医院(以下「江原医院」という。)で頸椎捻挫及び腰椎捻挫と診断されたが、原告の症状は軽度で、レントゲン検査においても異常はなく、同日湿布や温熱療法、投薬等の治療を受けた。
2 その後、原告は、江原医院にほぼ毎日のように通院して理学療法等の治療を続け、また、平成二年五月一七日からは医師の指示もないのに、重ねて陵南整骨院にも通院し始め柔道整復師による施術を受けた。原告の症状は頸部、腰部の痛みが主で、時にはめまい、臀部の痛み、指のしびれを訴えたが、右症状はいずれもそれほど強くなく、平成二年七月末日以降は症状は一進一退の状況となり、同様の治療がなされた。原告は江原医院には平成三年一月一二日まで二四七日間(実日数一八九日)、陵南整骨院には平成二年九月一九日まで一二六日間(実日数八三日)通院した。
3 原告は、平成二年一〇月九日、川崎医科大学附属病院(以下「川崎医大」という。)でも診察をしてもらつたが、治療の効果はほとんどなく、川崎医大には平成三年五月二八日まで二三二日間(実日数七日)通院した。
4 平成三年五月二八日当時、原告は頸部の回旋により項部に疼痛がはしる等の自覚症状があつたが、原告にはレントゲン上頸椎の著変は認められず、握力も正常であり、上肢反射、知覚に異常は認められなかつたが、ジヤクソンテストの結果左がプラスで神経根が刺激されやすい状態にあること及び頸部の軽度の運動制限という他覚的所見が認められた。右症状は症状固定日の症状とほぼ同一であつたが、原告は自賠責保険による後遺障害の認定手続はしていない。
右認定の原告の症状、治療の内容、経過等の事実に徴すると、原告の本件事故による傷害は、その症状が一進一退となつた平成二年七月末日から遅くとも二か月を経過した同年九月末日には症状が固定したとみるのが相当である。
三 損害
1 人的損害
(一) 治療費 四七万三六〇円
前記甲第八号証の一ないし五によれば、平成二年五月一一日から症状固定日までの実通院一一三日分の江原医院における治療費は四七万三六〇円であることが認められる。
原告は、前記のとおり、江原医院に通院中の平成二年五月一七日から、同医院の医師の指示がないのに、陵南整骨院に通院をし始め、同年九月一九日まで柔道整復師による施術を受けているが、江原医院には平成三年一月一二日まで通院しているのであるから、陵南整骨院における施術は重複治療が行われたこととなり、その治療費は本件事故と相当因果関係のある支出とはいえない。また川崎医大の治療費は症状固定後のものであるから、認められない。
(二) 通院費 三万一六四〇円
原告は前記のとおり平成二年五月一一日から症状固定日まで、江原医院へ一一三日通院し、その通院費は一日当たりバス一区間の往復料金である二八〇円が相当と認められるから、右通院による費用は三万一六四〇円となる。
(三) 休業損害 四七万五五四七円
成立に争いのない甲第六号証、原告本人尋問の結果によれば、原告は喫茶店経営、家庭用電化製品及び中古自動車の販売、仲介等を業としていること、喫茶店には従業員を雇用しているため、本件事故前原告は主に夜喫茶店で働き、昼は右仲介、販売の仕事に携わつていたこと、原告は、本件事故当時四〇歳の健康な男子で、本件事故後も通院による支障はあつたものの、休業することなく右仕事に従事してきたことが認められるところ、現実収入額及び受傷による減収額についての証明がないので、本件事故後も、少なくとも平成二年度賃金センサス第一巻第一表産業計・企業規模計・学歴計四〇歳ないし四四歳男子労働者の平均年間給与額六〇二万六九〇〇円に匹敵する収入を得ることができたものと推認するのが相当である。
しかし、前記認定のとおりの原告の仕事の内容、受傷の程度、その治療の状況等に照らせば、原告は、本件事故による受傷のため、本件事故の翌日である平成二年五月一〇日から症状固定日まで一四四日間、労働能力の二〇パーセントを失つていたにすぎないと推認するのが相当であるから、原告が本件事故により右期間中に喪失した収入の額は、四七万五五四七円となる。
6,026,900÷365×144×0.2=475,547(円)
(四) 後遺障害による逸失利益
原告は八級相当の後遺障害がある旨主張するが、前記認定の原告の症状及び程度に照らすと、原告には右後遺障害があるとは認められない。
(五) 慰謝料 六〇万円
本件事故による被告の受傷の程度、その治療経過等を考慮すると、慰謝料として六〇万円を認めるのが相当である。
2 物的損害
(一) 修理代 四六万八〇〇〇円
成立に争いのない甲第三及び第四号証の各一、二、乙第一〇号証の一ないし七、原告本人尋問の結果により成立の認められる乙第七号証、証人岸本弘恵及び同入江秀幸の各証言、原告本人尋問の結果によれば、原告車両は、本件事故により、後部バンパー及びトランクが凹損し、また、リヤーガラスの後部から水漏れが生じる状態となつたこと、原告は、原告車両の修理について、被告側の保険会社のアジャスターである入江秀幸と交渉したが、全塗装をするか否かにつき話がつかず、平成二年一〇月中頃、取り敢えず自己の負担で別紙修理費明細2工賃欄記載の作業内容6のうち全塗装に必要なウェザーストリップ交換及び同8の全塗装を除く修理等をなし、四四万三〇〇〇円を支払つたこと、ところが、右修理後も前記水漏れについては改善されず、また、修理部分とそれ以外の部分との間に肉眼で見分けることのできる程度の色の濃淡の違いが生じたことが認められる。
原告は原告車両の全塗装が必要である旨主張するが前掲甲第四号証の二、証人入江秀幸の証言及びこれにより成立の認められる甲第一〇号証、第一一号証の一ないし六、原告本人尋問の結果によると、原告車両を全塗装するには七〇万円かかること、原告車両はいわゆるベンツであるが、原告は原告車両を昭和六一年末頃代金一八〇万円で購入し、本件事故当時原告車両はすでに製造から一一年経過していたこと、本件事故以前すでに原告車両の右リアドアーと右リアフェンダーに色の違いがあつたことが認められるから、かかる原告車両に対し七〇万円の費用をかけてボディーの全塗装を行うことは、原状回復以上の利益を与えることになり妥当とはいえず、部分塗装を前提とした修理費用をもつて本件事故と相当因果関係にある損害と認める。
また証人入江秀幸の証言によれば、ウェザーストリップ交換は全塗装のためだけではなく、リアーガラス後部からの水漏れの修理にも役立つこと及びその交換費用は二万五〇〇〇円であることが認められるから、本件事故による原告車両の修理費用は、前記支払つた四四万三〇〇〇円に右二万五〇〇〇円を加算した四六万八〇〇〇円となる。
(二) 代車使用料 一〇万五〇〇〇円
証人岸本弘恵の証言及び原告本人尋問の結果によれば、本件事故直後被告の母である岸本弘恵と原告との間で、原告車両の代車について代車使用料一日五〇〇〇円として修理完了までの費用を被告が負担する旨の合意が成立したこと、前記修理に必要な期間は三週間であることが認められる。
しかして前記のとおり修理の範囲について折り合いがつかず、現時点においても原告車両は、完全な修理ができていない状況にあるが、それは原告が全塗装を要求し譲らなかつたことに主な原因があるから、原告が代車を使用しなければならない期間としては三週間と認めるのが相当である。
したがつて、代車使用料は一〇万五〇〇〇円となる。
3 弁護士費用 二〇万円
前記のように本件事故による原告の損害が人的損害一五七万七五四七円と物的損害五七万三〇〇〇円の合計二一五万五四七円であることのほか本件訴訟に至る経緯など諸般の事情を考慮すると、被告に負担させるべき弁護士費用は二〇万円と認めるのが相当である。
四 以上述べたとおり、被告は原告に対し二三五万五四七円及び内金二一五万五四七円に対する本件事故の日である平成二年五月九日から支払い済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
よつて、原告の請求は右の限度で正当であるのでこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用につき民事訴訟法八九条、九二条本文を、仮執行宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 將積良子)
入通院状況及び治療費明細
<省略>
修理費明細
1 部品代
<省略>
2 工賃
<省略>