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岡山地方裁判所 平成3年(ヲ)53号 決定 1991年3月11日

異議申立人(債務者) 甲野花子

代理人弁護士 藤浪秀一

相手方(債権者) 乙田株式会社

右代表者代表取締役 乙山春夫

主文

本件異議申立を却下する。

理由

一  申立の趣旨及び理由

別紙のとおりである。

2 当裁判所の判断

(1)  一件記録によると、相手方が申立人に対する岡山地方裁判所倉敷支部昭和五九年(ワ)第四九号事件の執行力ある判決正本に基づき、平成三年一月二三日別紙物件目録記載の動産(以下、「本件動産」という。)に対して強制執行がなされたことが明らかである。

(2)  そこで、本件動産が民事執行法一三一条一号の差押禁止動産に該当するかどうか判断する。

①  一件記録によると、申立人の家族は夫婦と長女(小学三年)、二女(幼稚園年長組)の四人家族であり、申立人の夫は平成二年四月九日午前一〇時当裁判所において破産宣告を受け、現在その手続が進行中である。申立人の家庭の生活状況は、夫が丙川株式会社に勤務し、申立人はパート勤務をしている。申立人らの収入は、夫の給料の手取りが月収約一六万円で、ボーナスが年間約六〇万円であり、申立人のパート収入が月収約五万円で、合計すると月収約二六万円となり、毎月の支出は二三万円となっている。現在の住居は申立人の夫の勤務先の丙川株式会社が借り上げている鉄筋コンクリート四階建アパート二階を社宅として転借りしており、その広さは3DKで、和室二間、居間一間、食堂(いずれも六畳間)等がある。なお、家賃は月額六万円で夫の給料から天引きされている。また、申立人は相手方に対し、前記債務の弁済をしたことがない。

②  本件差押時における申立人所有の動産は、本件動産の外に、和タンス一点、水屋一点、ベビーダンス一点、ドレッサー一点、軽自動車(ダイハツミラ)一台、電気洗濯機一台、電気掃除機一点、カラーテレビ一台、電気冷蔵庫一台、クーラー一台、食卓(椅子四脚付)一組、掛時計一台、オーブントースター一台、衣類、ガスレンジ一台、流し台一台があり、執行官は、申立人の希望を入れ、本件動産を差し押さえたものである。

(3)  ところで、差押禁止動産として債務者等の生活に欠くことができない動産とは、現在の一般人の生活水準をも考慮したうえで、具体的事情に応じて債務者の生活状況を加味して判断すべきであり、単に生活必需品であるからといって直ちに民事執行法一三一条一号にいう「欠くことのできない」物とはいえず、また、動産執行が間接強制の手段としての意味を持つこと、差押禁止物件の範囲をあまり広く認めることは、他に適当な強制手段をもたない我が国の強制執行法の制度では、債務者を保護しようとするあまり、債権者の権利の実現を不能としてしまうおそれがあることを考慮する必要がある。

(4)  そこで、上記観点から本件動産について検討するに、申立人の生活状況は前記のとおりであり、本件動産が生活に必要であることは窺えるも、これが生活に必要不可欠のものであるものとはいえないこと、執行官は、差押対象動産としてタンス類に関しては、申立人の生活状況を考慮して、和タンス及び水屋の差押をしなかったこと、申立人は相手方に対して、前記債務につき、未だ弁済したことがないこと、なお、動産執行において、例外を除いて、タンス類は差押禁止動産とされずに差押がなされていることは裁判所に顕著な事実であること、以上の点を考慮すると、本件動産は民事執行法一三一条一号にいう差押禁止動産に該当しないというべきである。

なお、対象動産の評価額が低廉であることは、差押禁止動産の判断とは必ずしも一致しないものというべきである。

(5)  以上より、申立人の本件執行異議は理由がないから却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 玉越義雄)

<以下省略>

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