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岡山地方裁判所 平成7年(わ)90号 判決 1995年7月20日

裁判所書記官

橋本幹夫

本籍

岡山県津山市神戸二二七番地

住居

同市一方一二番地

職業

土木建設業等

中島重信

昭和六年二月一九日生

右の者に対する所得税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官橋本千恵子及び弁護人豊福英彦出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人を懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円に処する。

右罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、被告人を労役場に留置する。

この裁判の確定した日から三年間右懲役刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、岡山県津山市一方一二番地において、「中島建設」の名称で土木建設業を営むとともに、「うどん一番」の名称で飲食業を営むものであるが、自己の所得税を免れようと企て、所得金額に関する正当な収支計算を行わずに、適宜の過少な所得金額を計上するいわゆるつまみ申告を行い、かつ、借名預金を設定するなどの方法により所得を秘匿した上

第一  平成元年分の実際総所得金額が六九〇五万六六七四円、分離課税の短期譲渡所得金額が一九〇四万一二八八円であったにもかかわらず、同二年三月一五日、同市田町六七番地所在の津山税務署において、同税務署長に対し、同元年分の総所得金額が一四九九万七〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得金額が一九〇四万一二八八円で、これらに対する所得税額が一三二五万六八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額三九四〇万二八〇〇円と右申告税額との差額二六一四万六〇〇〇円を免れ

第二  平成二年分の実際総所得金額が九九二三万〇五六七円であったにもかかわらず、同三年三月一一日、前記津山税務署において、同税務署長に対し、同二年分の総所得金額が一六五〇万円で、これらに対する所得金額が二七〇万三二〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四三三九万四五〇〇円と右申告税額との差額四〇六九万一三〇〇円を免れ

第三  平成三年分の実際総所得金額が一億二九四〇万四二七四円、分離課税の短期譲渡所得金額が一三六万〇七七二円であったにもかかわらず、同四年三月五日、前記津山税務署において、同税務署長に対し、同三年分の総所得金額が一九〇一万五〇〇〇円、分離課税の短期譲渡所得金額が、一三六万〇七七二円で、これらに対する所得金額が四二二万四八〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書を提出し、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額五八九八万九五〇〇円と右申告税額との差額五四七六万四七〇〇円を免れ

たものである。

(証拠の標目)

( )内の算用数字は、検察官請求の証拠等関係カード記載の番号を表す。

判示事実全部について

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人の検察官に対する供述調書四通(59ないし62)

一  被告人作成の申述書(63)

一  中島明子(47)、中島榮(48)の検察官に対する各供述調書

一  田村寛(49)、高畑巌(50)、赤坂実(51)、橋本孝二(52)、勝盛正行(53)、岡田輝義(54)、原田明(55)、松本邁(56)の大蔵事務官に対する各質問てん末書

一  大蔵事務官作成の領置てん末書(1)

一  大蔵事務官作成の調査書四二通(5ないし46)

一  大蔵事務官作成の調査事績報告書(58)

一  検察事務官作成の平成七年二月八日付け電話聴取書(57)

判示第一事実について

一  押収してある所得税確定申告書(平成元年分)一綴(平成七年押第四九号の一)

判示第二事実について

一  押収してある所得税確定申告書(平成二年分)一綴(平成七年押第四九号の二)

判示第三事実について

一  押収してある所得税確定申告書(平成三年分)一綴(平成七年押第四九号の三)

(法令の適用)

被告人の判示各所為はいずれも所得税法二三八条一項に該当するところ、判示各罪について懲役刑と罰金刑とを併科し、かつ、情状により同条二項を適用することとし、以上は刑法(平成七年法律第九一号による改正前のものをいう、以下同じ)四五条前段の併合罪であるから、懲役刑については同法四七条本文、一〇条により犯情の最も重い判示第三の罪の刑に法定の加重し、罰金刑については同法四八条二項により各罪所定の罰金額を合算し、その刑期及び金額の範囲内で被告人を懲役一年六月及び罰金三五〇〇万円に処し、右罰金を完済することができないときは、同法一八条により金一〇万円を一日に換算した期間被告人を労役場に留置し、情状により同法二五条一項を適用してこの裁判確定の日から三年間右懲役刑の執行を猶予することとする。

(量刑の理由)

本件は、土木建設業及び飲食業を営む被告人が、平成元年から同三年までの三年分において、所得合計約二億四七一四万円を秘匿して過少申告し、所得税合計約一億二一六〇万円を免れたという所得税の脱税事犯であるところ、そのほ脱税額は高額な上、ほ脱税率も九〇パーセントを超える高率なものである。

しかも、その犯行動機は、自分だけ正直に税金を払うことをばかばかしく思っていたこと、自分の子孫に財産を少しでも多く残してやろうという身勝手極まるもので、全く酌量の余地はない。

犯行態様についても、被告人は、昭和五六年頃に税務調査を受け、約一二〇〇万円を追徴されるとともに、帳簿の整備を指示されたにもかかわらず、何ら改善措置を講じることなく、依然として経理帳簿等の必要な書類を一切残さず、申告の際には、正しい収支計算を行わず、自分勝手に実際の所得金額より低い額を申告(いわゆるつまみ申告)する中で本件犯行に及んだうえ、このつまみ申告によって手許に残った金で、家族や従業員等の名義を利用した借名預金を作り、税務署の目を逃れようとする隠蔽工作を行っており、極めて悪質と言わざるを得ない。

所得に応じて税を負担することは国民の義務であり、申告納税制度は納税者の高い倫理性と正直な申告を前提とするものであって、不正な行為による税のほ脱は国民全体の犠牲において不法な利益を得る社会に対する犯罪というべく、特に本件のごとく高額、高率のほ脱行為は、国民の税に対する不公平感を助長し、善良な国民の納税意欲を減退させるものであって、強い非難を免れない。

これらの事情に照らすと、犯情悪質というべく、被告人の刑事責任には重いものがある。

しかしながら、被告人は、事故の犯行を素直に認めて反省し、本税はすべて、重加算税、延滞税等は一部を納入し、残額については被告人所有の不動産に抵当権を設定し、その納付に努めていること、今回の犯行発覚を機会に税理士を依頼したり、個人会社を法人化する計画を立て、納税意識が向上したと見受けられることを考慮して、主文のとおり量刑した。(求刑 懲役一年六月及び罰金四〇〇〇万円)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 谷岡武教)

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