岡山地方裁判所 平成7年(ワ)272号 判決
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、原告に対し、各自金四七六二万円及びこれに対する平成七年四月一五日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの負担とする、
3 仮執行宣言。
二 請求の趣旨に対する答弁(被告ら)
主文と同旨。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 原告は、ガソリンスタンドの経営等を業とするa株式会社の専務取締役であり、被告らは、いずれも岡山弁護士会に所属する弁護士である。
2 原告が被告らに対し委任するまでの経緯
(一) 原告は、訴外B(以下「B」という。)が所有する別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)の購入を希望していた訴外C(以下「C」という。)から、本件不動産の根抵当権設定登記を抹消するため、右根抵当権者である訴外有限会社b(以下「b社」という。)に対し、抹消の条件を打診するよう依頼された。原告は、知人でb社と関係の深いc組組長と親しい訴外D(以下「D」という。)を通じて、b社に対し、右抹消の条件を打診したところ、金二億円で根抵当権の抹消に応じる旨回答があったため、原告は、これをCに伝え、Cから平成四年四月下旬ころに金二億円を準備する旨回答があったため、Dを通じて、その旨をb社に伝えた。
(二) 同年四月下旬ころ、結局、Cが約束の金二億円が用意できなかったことから、原告とCは、訴外c組組長らから責任を取るよう求められ、Cが、振出日平成四年四月二四日、額面金一億円の約束手形二通(以下「C手形」という。)を振り出し(支払期日は、それぞれ同年六月三〇日と同年九月二一日であった(以下、支払期日が平成四年六月三〇日のものを「C手形○○」、同年九月二一日のものを「C手形△△」という。))、原告が、C手形に裏書の上、同月二五日、Dに交付した。C手形の受取人欄は白地であった。
(三) また、C手形の交付と引換に、原告は、Dから、b社の根抵当権抹消登記手続に必要な書類及びBの長男らが役員となっている訴外株式会社d(以下「d社」という。)及び訴外e有限会社(以下「e社」という。)が振り出し、B及びその長男らが裏書した約束手形一九通(額面合計金二億円。支払期日平成四年一二月一一日等。以下「d社手形」という。)を受領した。
(四) CはC手形を決済できず、いずれも不渡りとなった。
3 原告の被告らに対する委任及び債務不履行
(一) CがC手形○○を決済できなかったことを知った原告は、b社らから責任(ことにC手形の裏書人としての責任)を問われることをおそれ、C手形の回収ないし手形訴訟が起こされたときの対応、原告が受領していたd社手形と根抵当権抹消登記手続に必要な登記関係書類の適切な処理等を被告らに委任することとし、平成四年七月二日、被告らとの間で訴訟委任契約(以下「本件委任契約」という。)を締結するとともに着手金三〇〇万円を支払った。
(二) C手形は、Dに交付された後、第二裏書人として訴外E(以下「E」という。)の署名、押印がされ、同人が最終所持人となった。
(三) Eは、Cと原告を相手方として、当庁に対し、C手形○○については平成四年二一月二八日、同bについては平成五年九月二〇日、いずれも金一億円の支払を求める約束手形金請求訴訟(以下、併せて「本件手形訴訟」という。)を提起し、右各訴訟は、いずれもC、原告の敗訴となり、原告は当該手形判決に対して異議申立をした。右二件の通常訴訟(当庁平成五年(ワ)第四〇七号、同第九八六号。以下、併せて「本件通常訴訟」という。)は併合されたが、平成六年七月二〇日原告がEに対し解決金として金三九〇〇万円(以下「本件和解金」という。)を支払うことで裁判上の和解が成立した。
(四) 被告らの債務不履行
(1) 被告らは、弁護士として原告から受任した委任事務を処理するにつき、善管注意義務を負っており、法律の専門家として法的知識、技術を最大限に活用して委任者の利益になるよう誠実に職務を遂行すべき義務を負っていた。そして、Eから提起された本件手形訴訟においては、一般に振出日や受取人欄が白地のまま振り出される手形が極めて多く、白地未補充のまま手形交換に回されることも珍しくない上、本件の場合は手形面上の記載そのものから見ても手形交換に回された後に受取人欄の記載がなされたことがうかがえるのであるから、手形所持人から手形金請求訴訟を提起された裏書人から委任を受けた弁護士としては、まず、適法な呈示がなされたか否かを調査すべき注意義務があるにもかかわらず、被告らは右義務を尽くさず、本件手形訴訟において、C手形がいずれも受取人欄白地で振り出され、同欄未補充のまま支払呈示がされており、右呈示が無効であって、遡求義務者に対する遡求権を保全する効力を有しないのであるから、原告としては、Eに対して右の点を主張、立証すれば本件手形訴訟において容易に勝訴できたにもかかわらず、これを主張、立証せず、原告の訴訟代理人として当然行うべき訴訟活動を怠った。
よって、原告が本件手形訴訟で敗訴し、結局、本件通常訴訟において本件和解金を支払って和解することを余儀なくされたのは、被告らの右債務不履行に起因する。
(2) 原告は、C手形に裏書した際、Dからd社手形及び本件不動産に関する登記済権利証書、印鑑証明書、登記委任状等を受領していた。原告は、被告らに委任する際、d社手形を被告らに預託したが、被告らはd社手形の支払期日に適法な取立をせずに放置してしまった。従って、その後原告は、Bの長男らに支払期日の訂正及び延期を要請せざるを得なくなり、書換料として合計金二五〇万円を支払った。
(3) 原告は、前記(2)記載の登記関係書類を司法書士に預けていたのであるが、平成四年七月三日、被告らは、Bらからの返還要求に応じて、司法書土に指示して右書類を無条件に返却してしまった。被告らとしては、原告の裏書したC手形がc組組長やb社に渡っていることが明らかなのであるから、右手形の返還と引換であれば登記関係書類を返還するという条件で交渉をなすべきであったにもかかわらず、これを怠った。
4 損害
原告は、被告らの右各債務不履行によって次の損害を被った。
(一) 裁判上の和解でEに支払った解決金三九〇〇万円。
(二) 原告が、右解決金を支払うため、平成六年七月二〇日原告の実兄である訴外Fの自宅に抵当権を設定して訴外四国銀行から借り入れた金四〇〇〇万円(右解決金に抵当権設定費用、当初に支払う利息等を加算したもの)の利息相当分(利率年五・九パーセント、返済期間二年)金四七二万円。
四〇〇〇万円×〇・〇五九×二年=四七二万円
(三) d社手形の支払期日を延期してもらうため、原告が、Bの長男らに支払った書替料として金二五〇万円(平成五年五月二〇日、Bの長男訴外G(以下「G」という。)に金一五〇万円。同年四月一〇日、Bの二男訴外H(以下「H」という。)に金一〇〇万円。)。
(四) 原告は、被告らの前記債務不履行により、Bを相手方とする手形金訴訟を提起せざるを得なくなったところ、右訴訟の着手金八〇万円及び印紙代等の実費金六〇万円の合計金一四〇万円(平成五年七月、訴外I弁護士に依頼。)。
(五) 以上(一)ないし(四)の合計金四七六二万円。
5 よって、原告は、被告らに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求として、各自金四七六二万円及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である平成七年四月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否(被告ら)
1 請求原因1は認める。
2(一) 同2(一)ないし(三)のうち、Bの長男らがd社及びe社の役員であることは認め、その余は不知。
(二) 同2(四)は認める。
3(一) 同3(一)のうち、原告が、平成四年七月二日、被告らとの間で本件委任契約を締結し、着手金三〇〇万円を支払ったことは認め、原告が、C手形の回収ないし手形訴訟が起こされたときの対応、原告が受領していたd社手形と根抵当権抹消登記手続に必要な登記関係書類の適切な処理等を被告らに委任することとした事実は否認し、その余は不知。
被告らが、原告から委任を受けたのは、不渡りとなったC手形○○及び不渡りとなる可能性の高かったC手形△△の回収のための交渉と訴訟となった場合の対応のみである。
(二) 同3(二)は不知。
(三) 同3(三)は認める。
(四)(1) 同3(四)(1)のうち、被告らが、手形所持人により手形金請求訴訟を提起された裏書人から委任を受けた弁護士として、訴訟上当然なすべき主張、立証を怠ったこと、及び原告が本件手形訴訟で敗訴し、本件通常訴訟において本件和解金を支払って和解することを余儀なくされたのは、被告らの債務不履行に起因することは否認し、その余は認める。
被告らは、C手形の手形要件について調査義務を尽くしており、善管注意義務違反は存在しない。
(2) 同3(四)(2)のうち、原告が、被告らに委任する際、d社手形を被告らに預託したが、被告らが右手形の支払期日に適法な取立をせずに放置してしまったこと、従って、その後原告は、G、Hに支払期日の訂正及び延期を要請せざるを得なくなり、書換料として合計金二五〇万円を支払ったことは否認し、その余は不知。
(3) 同3(四)(3)は否認する。
4 同4は否認する。
三 抗弁
1 帰責事由の不存在及び損害の減額
本件手形訴訟及び本件通常訴訟において、被告らが、C手形の支払呈示の際に受取人欄が白地であったことを主張、立証しても、原告には、Cの主たる債務についての民事上の保証責任を追及される可能性が高く、これを否定するのは困難であったこと、b社は暴力団が関与する会社であり、強硬な取立などが予想され、手形要件の欠缺の主張、立証では、最終的な紛争解決に至る可能性が小さかったことなどから、仮に、支払呈示の際の受取人欄白地を主張、立証したとしても、原告は、C手形に関し、相当の金員の支払わなければならなかったのであり、被告らには帰責事由が存在せず、かつ原告において支払った本件和解金等の金員は損害にはならない。
2 損害の回収(損害てん補)
原告は、本件通常訴訟係属中に、本件不動産のうち六筆の土地について、d社手形の一部を原因とする手形債権を被保全権利として仮差押決定を受け、これを基礎に、本件不動産の売却代金から金一五〇〇万円の支払を受け、本件和解金の一部を回収した。
3 損益相殺(弁護士報酬)
本件手形訴訟及び本件通常訴訟において、原告が勝訴すれば、被告らは、金一〇〇〇万円(金二億円×〇・〇五)の弁護士報酬を原告から受けることができたはずであり、本件通常訴訟が和解で終了したことにより、原告は右支払を免れたから、原告が損害額として主張する本件和解金からこれを差し引くべきである。
四 抗弁に対する認否
1 抗弁1は否認する。
2 同2のうち、原告が、本件通常訴訟係属中に、本件不動産のうち六筆の土地について、d社手形の一部を原因とする手形債権を被保全権利として仮差押決定を受け、これを基礎に、本件不動産の売却代金から金一五〇〇万円の支払を受けた事実は認め、その余は否認する。右金員は、原告のBに対する別の債権の支払として受領したものである。
3 同3は否認する
五 被告Y2補助参加人の主張
被告らの主張と同様である。
第三証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録及び証人等目録のとおりであるから、これらの各記載を引用する。
理由
一 請求原因1は当事者間に争いがない。
二 同2について
1 同2(一)ないし(三)のうち、Gらがd社及びe社の役員であること及び同2(四)は当事者間に争いがない。
2 同2(一)ないし(三)のその余の事実については、右争いのない事実及び証拠(甲三、四、七ないし一二、二〇、二二の一ないし二二の一八、乙一ないし一六、二〇ないし三三、四四の一ないし四四の一五、四七、四八、五二ないし五四、六四、八〇、原告本人(第四、五回本件口頭弁論期日。以下「原告本人」という。)、被告Y2(以下「被告Y2」という。)、弁論の全趣旨)によれば、次の事実が認められる。
(一) 平成四年三月ころ、Bは合計金一〇億円余に及ぶ同人やGらの負債を整理するため、本件不動産を売却することとし、Cに購入を勧めた。Cは、根抵当権抹消のため、根抵当権者らの意向を確認する必要があったところ、知人の訴外J(以下「J」という。)を介して、原審に対し、根抵当権者であるb社がいくらで根抵当権の抹消登記手続に応じてくれるかを打診してほしい旨要請した。これは、原告が、Jと同業者であり、b社と関係の深いc組組長と親しいDを知っていたことによるものであった。
(二) 原告は、Jの右依頼に応じて知人のDに問い合わせたところ、b社の根抵当権極度額は金二億五〇〇〇万円であるが、金二億円で根抵当権の抹消登記手続に応じるとの回答があった。原告がJに右回答を伝えたところ、平成四年四月上旬、Cから同月二三日に金二億円を準備するからその旨b社に伝えてくれとの連絡があった。原告は、Dに対し、一日猶予をみて同月二四日に準備できるとb社に伝えるよう連絡したものの、同月二四日になってもCは金二億円を準備できなかった。
(三) 同月二四日、Cが右金二億円を準備することができなかったため、同日夜、原告とCは、c組組長に岡山市内のスナックに呼び出されて詰問され、原告も責任を取るように求められた。そこで、Cは、振出日平成四年四月二四日のC手形を振り出した。支払期日は、同年六月三〇日(C手形○○)と同年九月二一日(C手形△△)であった。原告は、C手形に裏書の上、同月二五日、Dに交付したが、受取人欄は白地であった。
また、C手形の交付と引換に、原告は、Dからb社の根抵当権抹消登記手続に必要な書類及びd社手形を受領した。
3 以上の事実によれば、請求原因2(一)ないし(三)のうち、Gらがd社及びe社の役員であること以外の事実も、これを認めることができる。
三1(一) 同3(一)のうち、原告が、平成四年七月二日被告らとの間で訴訟委任契約を締結し、着手金三〇〇万円を支払ったことは当事者間に争いがない。
(二) 同3(一)のその余の事実は、証拠(甲一、二、二〇、二二の一ないし二二の一八、乙六四、七二、八〇、原告本人、被告Y2、弁論の全趣旨)によれば、右訴訟委任契約の内容として、被告らが、原告から委任を受けたのは、不渡りとなったC手形○○及び不渡りとなる可能性の高かったC手形△△の回収のための交渉と訴訟となった場合の対応のみであることが認められ、同3(二)のその余の事実はその限りで認められる。本件全証拠によっても、原告が、被告らに対し、原告が受領していたd社手形と根抵当権抹消登記手続に必要な登記関係書類の適切な処理等までを依頼した事実は、これを認めるに足りない。
2 同3(二)は証拠(甲三、四、二〇、乙二〇、四三、原告本人、弁論の全趣旨)により認められる。
3 同3(三)は当事者間に争いがない。
4 同3(四)(1)について検討する。
(一) 本件では、被告らが、原告との間で締結した本件委任契約に基づき、手形所持人から手形金請求訴訟を提起された裏書人である原告から委任を受けた弁護士として、本件手形訴訟及び本件通常訴訟で当然なすべき主張、立証を怠ったか否かが問題となる。
(二) 前記二及び三1ないし3の争いのない事実及び認定した事実に加え、証拠(甲一ないし五、六の一、六の二、二〇、乙一七ないし二〇、三六、四〇ないし四三、四九、六四、七三の一、七三の二、八〇、証人K、原告本人、被告Y2)によれば、次の事実が認められる。
(1) 被告らが原告と本件委任契約を締結した前後は、主に被告Y2が委任事務を遂行しており、本件について具体的に原告からの聴き取りを行ったのも被告Y2であった。その際、C手形については、受取人欄が白地で振り出されたことも聴き取っていた。また、本件は、暴力団の関与がうかがわれる事案であること等から、C手形を所持しているとみられるb社側に対して積極的に交渉を持ち込むより、相手方の出方をうかがって対応することが依頼者である原告にとって有利な解決が図れるとの判断の上、本件手形訴訟が提起されるまでは、相手方であるb社に対しては、必ずしも積極的な行動は起こさなかった。
(2) 平成四年一二月二二日、原告は、被告Y2が預かっていたd社手形の取立を相談するため、被告Y2の事務所を訪れたが、d社手形の支払期日が経過していたことから、原告はこれらを持ち帰った。その後、被告Y2は、C手形が取立に回されているかどうかを確認しておこうと考え、右同日、支払場所である岡山信用金庫奉還町支店に電話をかけ、手形交換関係の担当者である訴外K(以下「K」という。)に対し、C手形の内容を伝え、この手形が取立に回っているかどうか、回っているとして手形要件が具備されているかどうかの調査を依頼した。同日、被告Y2が、回答を聞くために再びKに電話をしたところ、C手形の手形要件は欠けていなかった旨の回答を受けた。その際、被告Y2は、Kから持出銀行が広島総合銀行中央町支店であることも聴いて、あらためて右中央町支店に電話をかけて同様の調査を依頼したが、同支店では分からないとの回答であった。
(3) 被告Y2は、右調査の結果に加え、本件には手形にある程度詳しいと思われる暴力団の関与がうかがわれることから、C手形は適法に支払呈示が行われたものと判断し、その後、弁護士会を通じての照会等さらに詳しい調査は行わなかった。
(4) その後、本件手形訴訟が相次いで提起され、審理が行われ、被告らは、原告(本件手形訴訟においては被告)の代理人として、右訴訟の原告Eの主張するC手形の支払呈示の事実について不知と答弁し、相被告となったCの代理人は、同様の答弁をするとともに、受取人欄を白地で振り出した旨を主張した。本件手形訴訟では、法廷においてC手形が取り調べられ、右各手形判決においては、C手形等が証拠に挙げられて、C手形の支払呈示が適法と認められた。
(5) 本件手形訴訟の手形判決が言い渡され、異議申立の後に本件通常訴訟として係属し、原告は、Eとの間で本件和解金三九〇〇万円を支払うこと等を内容とする和解を成立させた。
(三) 証人Kは、右認定事実に反し、被告Y2に受取人欄が白地のままであった旨回答したと証書するが、前掲各証拠に照らせば、証人Kの右証言部分は、不自然かつ不合理であって、にわかには信用できず、その他右認定に反する証拠は信用できない。
(四) 前記(二)の認定事実によれば、被告らは、C手形の受取人欄の補充について、本件手形訴訟が提起される前に調査を行っており、さらに、本件が手形に詳しいと思われる暴力団の関与がうかがわれる事案であったこと、C手形の振出及び裏書の経緯からすれば、結果的には、原告に対する民事上の保証責任が追及される可能性もあったと考えられる事案であったことなどを考慮すると、被告Y2の前記(二)の調査によって、C手形の受取人欄の補充に関する調査義務は尽くされていると考えられる。
原告は、さらに進んで弁護士会を通じての照会等による確認が必要であった旨主張する。なるほど、被告らが、より確実に調査義務を遂行するための手段としては、原告主張のような方法も十分考えられ、そのような方法を採ることが望ましいとも考えられるが、弁護士が委任事務を遂行するに当たり、いかなる方法によってこれを達成するかについては、事案に応じ、弁護士の裁量により定まるものと解するのが相当であって、本件における右のような事情の下では、被告らが前記の調査で足りると判断したことが右裁量の限度を超えたものとは認めることができず、弁護士会を通じての照会等まで行わなければ直ちに善管注意義務としての調査義務に違反するとまでは認められない。また、原告は、支払呈示期間後に受取人欄が補充されたことは手形面上明らかであるから、被告らがこれを看過したのは調査義務違反に相当する旨主張するが、証拠(甲三、四)によっても、原告主張の点が一見して明らかであるとまでは認められないし、本件手形訴訟においては、C手形を法廷で現に取り調べた上で、裁判所が適法な支払呈示があったものと認定しているのであるから、右看過があったからといって、被告らに調査義務違反があったとまでは認められない。
(五) その他本件全証拠によっても、原告の主張する被告らの善管注意義務違反の事実を認めるに足りない。
5 同3(四)(2)は、前記三1(二)の認定によれば、これを認めることができず、その他本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。
6 同3(四)(3)は、本件全証拠によっても、これを認めるに足りない。
7 よって、請求原因3(四)はいずれも認められない。
四 以上の事実によれば、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 小森田恵樹)
<以下省略>