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岡山地方裁判所 平成7年(少)500号 決定 1995年3月27日

少年 D・R子(昭50.7.16生)

主文

この事件について少年を保護処分に付さない。

理由

1  本件送致事実の要旨は、「少年は、平成7年2月11日午前9時20分ころ、岡山県久米郡○町○×××番地、D・I方において、祖母A子(当時66才)に対し、殺意をもって、出刃包丁(刃体の長さ約13センチメートル)でその右胸部を一回突き刺し、よって同日午前10時ころ、岡山県津山市○○町××番地、○○病院において、同人を胸部刺創にもとづく胸部大動脈損傷による心タンポナーデにより死亡させ、もって同人を殺害したものである。」というものであり、一件記録によれば、上記事実を認めることができる。

2  少年は、父D・I、母同Y子の長女として生れ、幼少時、父母共働きのため、近くの子供園に預けられたが、特に大病をすることもなく育ち、小中学校を卒業し、学校推薦で平成3年4月、○○商業高校に入学した。高校一年のとき、幻聴、関係妄想などが出現し、精神分裂病と診断され、投薬、カウンセリングを受けるようになったが、被害関係妄想による家庭内暴力が続き、平成5年8月24日から同年10月2日まで、平成6年7月23日から同年8月27日まで、同年10月10日から同年11月19日までそれぞれ医療保護入院となり、退院後も病識に乏しく、投薬、受診にも拒否的で同年12月20日以降、受診も中断され、薬も服用していなかった。本件犯行の原因、動機は全く判らず、少年は犯行後も支離滅裂な供述をくり返すばかりであったため、少年の犯行時の責任能力が問われて、その捜査や鑑定がなされた。

3  検察官より鑑定嘱託を受けた医師○○○○の鑑定によれば、少年は、思考の解体、支離滅裂が症状の前景に表われる解体型の精神分裂病に罹患し、ある現実に対し不合理な妄想着想が存在するかたわら、一方では別の着想に固執するという思考パターンが持続していたところに加え被害関係妄想が出現し、本件犯行の数日前から家族の者に何の理由もなく刃物をもって危害を加えるなどの行動をくり返しているうちに、衝動的に本件犯行に立ち至ったものであり、当時、事物の理非善悪を弁識する能力はなく、またこの弁識に従い行動する能力もない状態であったことが認められる。

また、鑑別結果によると、少年は、思考障害、自我損傷が目立ち、かねてから幻覚、異常体験、夜間に頭の中で人の声が聞こえてくるといった幻聴、誰かに操られている気がするといった作意体験なども認められ、祖母を刺したことについても供述が変転して一貫性がないうえ、自己の行為について理解がなく、本件犯行も病的な精神状態のもとで行われたものであって、少年に対しては、精神医学的な医療措置が相当で保護不適であることが認められる。

4  以上によれば、少年は、本件犯行時、心神喪失の状態にあったものというべきであり、従って保護処分の対象として適格性を欠き保護処分に付することができないというべきである。

なお、少年については岡山少年鑑別所長から岡山県知事に対し、精神保健法26条所定の通報がなされ、指定医の診察の結果、要措置の判断がなされて同法29条の入院措置がとられることとなっている。

よって少年法23条2項に則り主文のとおり決定する。

(裁判官 芥川具正)

〔参考1〕 鑑別結果通知書<省略>

〔参考2〕 意見書<省略>

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