岡山地方裁判所 平成8年(ワ)698号 判決 1997年4月24日
原告
檜尾玲兒
被告
山外芳伸
主文
一 被告は、原告に対し、金五七万八一一三円及び内金四七万八一一三円に対する平成五年七月三一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを五分し、その二を被告の、その余を原告の負担とする。
四 この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告は、原告に対し、金二五〇万円及びこれに対する平成五年七月三一日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 交通事故(以下「本件事故」という)
日時 平成五年七月三一日午後〇時四五分頃
場所 岡山市今谷五九八番地先路上
加害車両 普通乗用自動車(神戸五三ら三三六)
右運転者 被告
被害車両 原動機付自転車(岡山市え五三三八一)
右運転者 原告
態様 交差点において被害車両と加害車両とが出会頭衝突したもの
2 責任
被告は、本件事故について自賠法三条(運行供用者責任)及び民法七〇九条(前方不注視及び安全速度進行義務違反の過失)の責任を負う。
3 権利侵害
原告は、本件事故により、左下腿骨開放性骨折、右胸部打撲、右手、左肘及び左手擦過創、左手親指基節骨剥離骨折、左足外傷性関節炎の傷害を負い、宮本整形外科病院に平成五年七月三一日から同年一二月二八日まで入院し、同月二九日から平成六年一月一〇日まで通院し、同月一一日から同年三月一二日まで再入院し、同月一三日から同年五月一九日まで通院し、同月二〇日から同年八月一三日まで再々入院し、同月一四日から平成八年二月二九日まで通院し(以上、入院期間合計二九八日、通院実治療日数合計二二七日)、同日症状固定し、左下腿骨々萎縮及び循環障害等の後遺症を負い、自賠責より後遺障害等級一二級五号の認定を受けた。
なお、本件事故により、物損として被害車両及びヘルメツトを破損した。
4 損害額
<1> 入院雑費 四一万七二〇〇円
<2> 通院交通費 六万八一〇〇円
<3> 後遺症による逸失利益 三〇四万四三九四円
<4> 傷害慰謝料 三三一万〇〇〇〇円
<5> 後遺症慰謝料 二五〇万〇〇〇〇円
<6> 物損 一四万九〇五七円
5 弁護士費用 二〇万〇〇〇〇円
6 結論
よつて、原告は、被告に対し、本件事故によつて原告が被つた損害の内金二五〇万円及びこれに対する本件事故日である平成五年七月三一日から完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める(一部請求)。
二 請求原因に対する認否
請求原因1ないし3は認める。
請求原因4のうち<2>、<5>及び<6>は認め、<1>、<3>及び<4>は否認する。原告の後遺症は、骨盤骨変形による一二級五号相当のものであり、これによつては通常労働能力の低下はきたさないから、後遺症による逸失利益は生じない。
請求原因5は不知。
三 抗弁
1 過失相殺
本件事故は、原告が、一時停止の標識があるにもかかわらず、一時停止を怠り、漫然と右折しようとした過失により惹起したものであるから、原告に七〇パーセントの過失がある。
2 填補
被告は、原告に対し、本件事故の損害賠償金として三四四万円を弁済した。
四 抗弁に対する認否
抗弁1は争う。原告に過失があつたとしても、三〇パーセント程度である。
抗弁2は認める。
第三証拠
本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。
理由
一 交通事故
請求原因1は当事者間に争いがない。
二 責任
請求原因2は当事者間に争いがない。
三 権利侵害
請求原因3は当事者間に争いがない。
四 損害額
1 入院雑費 三八万七四〇〇円
入院雑費は一日一三〇〇円と認めるのが相当であるから、原告の入院期間二九八日分としては三八万七四〇〇円と認めるのが相当である。
2 通院交通費 六万八一〇〇円
請求原因4<2>は当事者間に争いがない。
3 後遺症による逸失利益 三三七万二七二七円
甲第三号証、乙第三号証、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告(症状固定当時五八歳)には、後遺障害として左下腿の膨張、圧痛、歩行による疼痛悪化、左足底の知覚鈍磨(しびれ感)があり、階段を上がることが困難となり、平地でも左足を引きずつて歩き、走ることも正座をすることもできないなどの状態にあつて、日常生活に不自由を感じており、また、事故前に雑役婦として勤務していた老人ホーム「恵風苑」を事実上解雇され、現在は右ホームにパートとして雇われ、週三回従前同様の勤務に就いているが、事故前と同程度には働くことができないでいることが認められる。
右認定事実及び前記三の自賠責認定の後遺障害等級等からすると、原告の労働能力の喪失割合は、労働基準監督局長通牒昭和三二年七月二日基発第五五一号の労働能力喪失率表の障害等級一二級の一四パーセントを下らないものと認めるのが相当である。
次に、原告本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故前、原告は「恵風苑」勤務により月給一四万円と賞与年二回三〇万円ずつの収入(年収二二八万円)が存したことが認められるが、女性としての家事労働等をも加味すると、逸失利益算定のための基礎年収額は、賃金センサス平成七年第一巻第一表女子労働者産業計企業規模計学歴計五五歳ないし五九歳の年間給与額三三一万〇一〇〇円に匹敵するものと認めるのが相当である。したがつて、原告の後遺症逸失利益は年間給与相当額三三一万〇一〇〇円に労働能力喪失割合として〇・一四を乗じ、これに稼働可能年数九年(六七歳から症状固定当時の年齢五八歳を引いたもの)に対応する新ホフマン係数七・二七八を乗じた三三七万二七二七円と認めるのが相当である。
4 傷害慰謝料 三三〇万円
本件事故による受傷の部位、内容、入通院期間等を総合考慮すると、傷害慰謝料は三三〇万円と認めるのが相当である。
5 後遺症慰謝料 二五〇万円
請求原因4<5>は当事者間に争いがない。
6 物損 一四万九〇五七円
請求原因4<6>は当事者間に争いがない。
7 文書費 一万八〇〇〇円
乙第五号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は診断書及び診療報酬明細書の文書料として一万八〇〇〇円の支出をしたことが認められる。
8 合計 九七九万五二八四円
五 過失相殺
甲第一号証の一、二、第五号証の一、二、乙第一、第二号証、原告及び被告の各本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、本件事故現場は百間川南岸土手上の東西に通じる片側一車線の市道(被告車両の走行車線であるため、以下「被告側市道」という)と、南東からの片側一車線の市道(原告車両の走行車線であるため、以下「原告側市道」という)とが交差する信号機の設置されていない変形T字型交差点(以下「本件交差点」という)であること、本件交差点南東角には山林があり、被告側市道を東から走行してきた場合、及び原告側市道を南から走行してきた場合には、相互に見通しが悪いこと、本件交差点の原告側市道からの入り口手前に一時停止の標識があり、北西角にはカーブミラーがある(これにより原告側市道の北進車両と被告側市道の西進車両は相互に見通せる)こと、被告側市道は東から西へ下り坂になつていたこと、本件事故当時交通は閑散としていたこと、被告は自車を運転し、被告側市道を東から西へ時速約六〇キロメートルで直進して本件交差点にさしかかつた際、左方の原告側市道への見通しの悪い交差点であることを認識しながら、減速せずにそのまま通過しようとし、下り坂のため更に加速した状態になつていたところに、原告側市道から本件交差点を右折しようとしていた原告車両を発見し、危険を感じてとつさに急ブレーキをかけたが間に合わず(なお、前方被告側市道の対向車線上に対向車が走行してきていたためハンドルを右には切れなかつた)、本件交差点中央付近で被告車両の車体正面と原告車両の車体右後側面が衝突したこと、一方で、原告は自車を運転し、原告側市道を南から北へ進行し、本件交差点を右折するため一時停止線手前で一時停止をし、交差点北西角のカーブミラーで右方から被告車両が進行してくるのを確認したものの未だ遠距離と考え、右折可能と判断して自車を発進させ交差点内に進入したところ、予想に反して被告車両が急接近し、危険を感じたが、ハンドル及びブレーキ操作をする余裕もなく、衝突してしまつたこと、右衝突により原告は被告車両のボンネツトに乗り上げ被告車両のプロントガラスに衝突し、衝突地点から一五メートル離れた地点に落下したこと、被告車両は衝突地点から一五メートル離れた地点に止まり、原告車両は衝突により転倒して一七メートル離れた地点に止まつたこと、本件交差点には東から西に向けて被告車両の左車輪のスリツプ痕が二四・八メートル、右車輪のスリツプ痕が一五・二メートル残されており、原告車両の転倒痕が一六・三メートルほど存したこと、以上のとおり認められる。
右認定によれば、本件事故については、本件交差点は被告側市道と原告側市道との相互の見通しが悪いのであるから、被告において、原告側市道から進行してくる車両に注意し、安全な速度にまで減速して交差点に進入すべき義務があつたのにこれを怠り、漫然減速することなく下り坂による自然加速のままに進行した過失があると同時に、原告においても、一時停止の上右方被告側市道から進行してくる車両を注視し、その車両との距離関係を正確に把握し安全を確認した上で右折発進すべき注意義務があつたのに、これを怠り、一時停止したのはよかつたものの、漫然カーブミラーに写つた被告車両を見たのみで被告車両がまだ遠方にあるものと速断し、安全確認を欠いたまま右折発進した過失があるものというべきである。
なお、原告本人尋問の結果中には、原告が一時停止して、十分な安全確認の上交差点に進入し右折した旨の部分がある。しかし、カーブミラーのみで正確な距離関係を把握できるとは思えないところであり、原告の予想に反して被告車両が急接近したこと自体が安全確認不足を物語つているものというべきである。
右原告被告双方の過失の内容、道路状況や車両の軽重等を勘案すると、双方の過失割合は、原告を六、被告を四と認めるのが相当である。
したがつて、被告が賠償すべき損害額は、前項の損害合計九七九万五二八四円の一〇分の四にあたる三九一万八一一三円と認定するのが相当である。
六 填補 三四四万円
抗弁2は当事者間に争いがない。
七 弁護士費用
本訴の内容、審理の経緯、認容賠償損害額等に鑑みると、弁護士費用は一〇万円と認めるのが相当である。
八 結論
以上によれば、原告の本訴請求は、被告に対し、前記五の損害賠償額三九一万八一一三円から前記六の填補額三四四万円を控除した残金四七万八一一三円に弁護士費用一〇万円を加えた合計五七万八一一三円及び弁護士費用を除く四七万八一一三円に対する本件事故の日である平成五年七月三一日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから認容し、その余は理由がないから棄却し、訴訟費用の負担は民事訴訟法八九条、九二条を、仮執行宣言について同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 矢延正平)