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岡山地方裁判所 平成8年(行ウ)15号 判決 2000年1月26日

甲事件及び乙事件原告(以下「原告」という。)

浅野年彦

右訴訟代理人弁護士

水谷賢

竹内俊一

甲事件及び乙事件被告(以下「被告」という。)

(岡山県船穂町長) 土井博義

右訴訟代理人弁護士

加瀬野忠吉

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第二 事案の概要

一  本件は、船穂町の住民である原告が、船穂町長である被告に対し、

1  甲事件

<1>  船穂町が、随意契約の方法により、川鉄物流株式会社(以下「川鉄物流」という。)との間で締結した有機物供給施設整備事業堆肥プラント設備工事請負契約が、随意契約を制限する地方自治法二三四条及び同法施行令(以下「施行令」という。)一六七条の二第一項に違反し、<2>世界救世教の推奨するEM(ないしEM菌)を利用する堆肥プラントの建設(操業は世界救世教の宗教活動に協力するものであり、右請負契約の締結及びその請負工事代金の支出は、それぞれ憲法二〇条三項、八九条に違反し、<3>EMは何ら経済的有用性はなく、EMの使用を目的とする堆肥プラントも有用性がないので、右契約は公序良俗に反する無効な契約であり(民法九〇条)、右契約に基づく請負工事代金として、当時の船穂町長である被告が船穂町に一億二六六九万円を支出させたのは違法な公金の支出にあたるとして、被告に対し、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づいて、右支出相当額の損害の船穂町への賠償(附帯請求は、訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金)を求め、

2  乙事件

船穂町が、船穂町公民館で、琉球大学比嘉照夫教授(以下「比嘉教授」という。)を講師として開催した講演会及び同時上映した映画が、<1>世界救世教の推奨するEMの効用を宣伝するものであり、右講演会開催及び映画上映のための費用支出は憲法八九条に違反する違法な支出であり、<2>有用性のないEMを利用する堆肥プラントの建設、操業の宣伝を目的とする右講演会の開催及び映画の上映は公益目的を欠くものであるから、右講演会開催及び映画上映のための費用支出は公序良俗に違反する無効な支出であるとして(民法九〇条)、地方自治法二四二条の二第一項四号前段に基づいて、右支出相当額の損害の船穂町への賠償(附帯請求は、訴状送達の日の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金)を求めた事案である。

二  争いのない事実(甲事件及び乙事件共通)

1  当事者

原告は船穂町の住民であり、被告は船穂町長である。

2  請負契約と公金の支出

(一)  船穂町は、川鉄物流との間で、平成七年一二月一四日、随意契約の方法により、船穂町を注文者、川鉄物流を受注者とし、請負工事代金一億二六六九万円で、有機物供給施設整備事業堆肥プラント設備(以下「本件堆肥プラント」という。)の工事請負契約を締結した(以下「本件請負契約」という。)。

本件堆肥プラントは、EM(有用微生物群)を利用して農業残さを有機堆肥ペレットに変えることを目的とする施設であり、現在、その建設工事は完了し、操業中である。

(二)  被告は、平成八年五月二〇日に九七一九万八〇一〇円、平成九年二月六日に二九四九万一九九〇円の合計一億二六六九万円を本件請負契約の請負工事代金として、船穂町の公金から支出した(以下「本件請負代金支出」という。)。

3  講演会及び映画上映と公金の支出

(一)  船穂町は、平成八年五月一〇日、船穂町民会館で、比嘉教授を講師として招いて「循環型社会の構築をめざして」と題する講演会を開催し(以下「本件講演」という。)、同時に「地球交響曲第二番」と題する映画を上映した(以下「本件映画」といい、本件講演と併せて「本件講演会等」という。)。

(二)  被告は、本件講演会等に際し、講演料一六万七〇〇〇円、旅費六万二六二〇円、フィルム借上料九万円、フィルム送料三一〇〇円を船穂町の公金から支出した(以下「本件講演料等支出」という。)。

4  住民監査請求

(一)  原告は、平成八年六月一八日、船穂町監査委員に対し、本件請負代金支出につき監査請求したが、平成八年八月一二日、右監査請求は理由なしとして棄却された。

(二)  原告は、平成九年四月二五日、船穂町監査委員に対し、本件講演料等支出につき監査請求したが、平成九年六月一九日、右監査請求は理由なしとして棄却された。

第三 争点に対する判断

一  前記争いのない事実、証拠(〔証拠略〕)及び弁論の全趣旨によると、次の事実が認められる。

1(一)  「EM」とは、Effective Microorganisms(有効微生物群)の頭文字をとったもので、通性嫌気性菌、乳酸菌、放線菌、酵母菌、糸状菌、光合成細菌の五科一〇属八〇種類以上の微生物を含むものとされ、比嘉教授により開発されたものであるが、その具体的な構成細菌は明らかにはされていないものであり、EM原液製造元は静岡市の自然農法国際研究開発センター事業部EM研究所(所長虎谷久雄)である。

「EMR」とは、株式会社EMリサイクル(以下「EMリサイクル社」という。)が、比嘉教授の指導のもと、農業用のEMを工業利用のために開発した微生物群を入れた液の商品名である。

「救世EM1」は、自然農法国際研究開発センターが開発した微生物土壌改良資材である微生物培養液の商品名であり、その姉妹品には「救世EM2」がある。いずれも、EMボカシの状態にしたうえで、土壌改良材として使用するものである。

「EMボカシ」とは、EMRや救世EM1などに米糠、コーヒーかす、糖蜜その他の「ボカシ」材料といわれるものを用いて混合したもの、あるいはこれをドラム缶等に入れて一定期間発酵させたものである。

(二)  EMは、EMR、救世EM1、EMボカシなどの様々な形で、京都試験農場、茨城県JA瓜連町や全国各地の農家、家庭において土壌改良、生ごみ処理、堆肥製造などに使用され、新聞雑誌等でしばしば取り上げられている。

埼玉県和光市環境課では、一般家庭にEMと専用容器を貸し出し、各家庭で生ごみを発酵させたものを回収して、日立造船株式会社(以下「日立造船」という。)製造の生ごみ堆肥化装置(米糠を主体とした補助剤を混ぜて機械で粉砕し、約一時間乾燥させて含水率一三パーセントのペレットに仕上げるもの。)で堆肥を製造する試みが行われていた。

(三)  EMリサイクル社は、平成三年六月二一日に設立された資本金二三〇〇万円、従業員九名の株式会社であり、本社及び営業事務所は埼玉県上尾市に所在し、主たる技術提携会社はORFA社(スイス)、日立造船、川崎重工業株式会社、川鉄物流であり、うち川鉄物流はEMリサイクル社の国内代理店ともなっている。EMリサイクル社の国内代理店は、川鉄物流の他二三社ある。

EMリサイクル社の販売品内容は、廃棄物再資源化処理プラント「ORFA」、廃棄物固形燃料化プラント「ORFA・RDF」、有機物堆肥化装置「偉力Ⅱ」、生ごみ処理装置「偉力」、有機物発酵槽、有用微生物群「EMR」、生ごみリサイクル関連商品、堆肥「EMRペレット」、畜産飼料添加資材「EFF」、リサイクル関連商品である。

(四)  世界救世教(代表役員松本康嗣)は、岡田茂吉を教祖と仰ぎ、その垂訓を最高神の啓示と信じ、その立教の本義に基づき、教義を広め、儀式行事を行い、信者を教化育成して、世界の人類を救済し、地上天国を建設する使命を有し、本部を包括し、その他右目的を達成するための必要な財務及び業務を行うことをその目的とし、教育事業、社会福祉事業、医療事業、育英事業の他、自然農法による農園経営の事業等を行っているもので、その本部を静岡県熱海市に置いている。

(五)  自然農法国際研究開発センター(理事長松本康嗣)は、静岡県熱海市所在の救世会館内にあり、昭和六〇年に設立され、自然農法の技術体系の確立を目指した研究開発活動、自然農法の思想と技術を広めるための各種研修の実施などの教育活動、自然農法の技術指導とその普及などの普及活動、自然農法の有用資材としてEMの製造と新製品の研究開発に取り組むことを事業内容としている。

右財団の掲げる「自然農法」(「救世自然農法」とも呼ばれる。)は、その創始者が岡田茂吉であり、「自然のあらゆる原理を活用して人間の健康を守る、環境を守る、そして食料を不足なく供給する」「土の本当の力を引き出すと、土が作物を育てる熟練工になり、連作ができて、土が肥料のかたまりになる。化学肥料や農薬なしで経済的な作物栽培ができ、週休三日の楽々天国農業が可能である」とされている。岡田茂吉は、救世自然農法を通じて「病・貧・争を絶無にして地上に天国をつくる」と教え、これを世界に広く普及すべき農法であるとしつつも、自然農法を布教活動の手段にすることを強く戒め、地上天国が完成したら救世教は解散すべしとし、自然農法を宗教団体の独占物としてはならず、全世界に広めることを主張したとされ、自然農法国際研究開発センターも、世界救世教とは一線を画し、「地上天国」という共通の目的に向けて独立した活動を行っていると主張している。

2(一)  被告は、昭和四七年三月、岡山大学大学院(農業土木学専攻)を終了し、昭和四七年四月から平成五年六月まで岡山県職員を務め、平成五年一一月一日から船穂町長の職にある。

被告を町長候補として推薦する後援会「輝く町を作る会」は平成五年七月ころ結成され、被告は、町長に立候補する際も「バイオ技術による船穂町独自のゴミ・廃水処理場」をつくることを公約の一つとして掲げ、平成五年七月から九月の後援会「船穂町の将来を考える」(会長佐々木博一)における後援活動の期間中に、船穂町内の若い主婦から「EMボカシ」について聞き、小中学校の同級生であり有機農業を行っている佐々木博一からEMの利用についての情報を得た。

3  船穂町には、一級河川である高梁川が流れており、丘陵地では、高梁川の水を利用する畑地かんがい施設を整備して、マスカット、スイートピーの栽培が行われ、高梁川の河川敷では、大根、人参等の野菜が栽培されていた。他方で、船穂町は倉敷市水島コンビナートの後背地であり、近年サラリーマン世帯が増加しているため、農薬散布、農業残さの処理、堆肥使用時の臭気が問題となっていた。

農林水産省は、平成四年六月、「新しい食料・農業・農村政策の方向」(新政策プラン)を示し、農業経営の主たる従事者が他産業内の年間労働時間で地域の他産業従事者と遜色のない生涯所得を上げることができる「効率的かつ安定的な経営体」を育成し、これらの経営が農業生産の大宗を担う農業構造を確立することを目標として掲げた。右目標の実現のため、平成五年八月、「農業経営基盤強化促進法」が施行され、同法に基づき、岡山県は「21世紀おかやま農業経営基本指針」を策定した。

これを受けて、船穂町では、平成六年四月ころから環境保全型農業の推進に関する施策の研究を始め、平成七年三月、「農業経営基盤の強化の促進に関する基本的な構想」を策定し、農業の生産性を高め、豊かさとゆとりを実感できる農業経営発展の目標を示し、その中で、環境保全型農業の展開を目指し、環境への負荷軽減に配慮したより効率的な堆肥・防除を推進し、環境保全型農業技術に関する研究開発を進め、農業内残さ等の有機物のリサイクルを推進することとし、その具体化として「岡山県船穂町環境保全型農業推進方針」において、農業生産活動において発生する大根、人参等の農業残さを堆肥化し、農耕土壌の物質分解能力及び有機物の土壌還元等による土づくりと合理的作付け体系とを結びつけることを基本的な考え方とすることを示した。

なお、右の環境保全型の農業の推進に関する施策は、船穂町役場産業課が担当していた。

4  他方、平成五年一二月ころから船穂町内の一般家庭で生ごみのEMボカシによる処理が始められ、平成六年二月、EMについての講習会が開催され、平成六年四月ころから、船穂町役場環境保健課においても、生ごみの分別、減量化を図る方法につき検討されるようになった。

平成六年五月、船穂町の外郭団体である船穂町環境衛生協議会において、ごみ処理におけるEM導入の具体的な検討が始まり、実験的に各家庭で生ごみにEMボカシあえの処理をしてもらうこととし、船穂町環境衛生協議会理事会において、船穂町環境保健課としてEMによる処理方法につき状況を踏まえて良いものであれば積極的に取り上げて行きたいと考えている旨提案し、船穂町議会においても、小野貞彦議員からEMを利用した環境浄化につき提案があった。

さらに、船穂町は、平成六年八月、平成六年から平成一〇年までの「船穂町実施5か年計画[生きがいを創造するまちづくり]」と題するパンフレットにおいて、ゴミ処理システムの充実として「リサイクルによる資源の有効活用を積極的に推進し、ゴミの減量化に努めます。」「生ごみを微生物の力で堆肥にする取組みを推進します。」といったことを施策の一つとして挙げたが、当時、被告としては、具体的にどのような方法で生ごみを微生物の力で堆肥化するかについてまでは検討が及んでいなかった。

ところが、被告は、平成六年九月ころ、農林水産省により環境保全型農業基盤整備事業という補助事業が新しく創設され、平成七年度から各自治体にその補助が実施されるという情報を聞き、家庭内生ごみは植物学的には農業残さと同じ性質のものであることから、家庭内生ごみと農業残さを一体的に処理できないかと考えるようになり、町長選挙の後援活動期間中に若い主婦の間から聞いた「EMボカシ」の実態を早急に調べたところ、船穂町内二二〇〇世帯中約二〇〇世帯がEMボカシを使用していることが判明し、町役場担当課に、検討を指示した。

また、被告自身、家庭でEMの使用による生ごみ処理、EMボカシの使用を実践すべく、EMボカシの液体を台所流し、トイレ、風呂などに使用したところ、流しのぬめり、下水路及びトイレの悪臭がなくなった。

5  平成六年一〇月、被告の指示を受けて、産業課、環境保健課の双方の職員を参加者として、船穂町役場内で農業残さ堆肥化検討会(以下「役場内検討会」という。)が結成され、国の補助事業の対象となることを念頭に置いて、堆肥プラントを建設することにより、農業残さ及び生ごみを堆肥化し、もって堆肥の品質を上げ、かつ農業残さの処理及び生ごみの減量化を図ることにつき検討が行われた。その中で、EMの利用も選択肢の一つとして挙げられるようになり、役場内検討会は、EMを利用して作られた堆肥(EMスーパーアグリ)の成分を分析、確認した。

また、役場内検討会は、平成六年一〇月には、船穂町内に川鉄物流の社宅があることなどから、川鉄物流が野菜くず、生ごみを発酵させて作った堆肥の成分表を入手し、川鉄物流が発酵槽を用いた施設を製造しているという情報も得た。

さらに、役場内検討会は、平成六年一一月、福井県EMワールドを視察し、EMを使用した堆肥プラント設備を製造している業者は、川鉄物流、日立造船、ヤンマー農機株式会社の三社があり、中部ドラム缶工業株式会社のバイオリサイターという小型処理システムも存在するとの情報を得た。

そして、平成六年一一月、岡山県勝田郡勝北町給食センターにおいてバイオリサイターを使用して農業残さ(大根葉)の処理実験を行ったが、バイオリサイターは設備の規模が小さく需要を満たさないこと及び高熱で燻炭化するため製品が安定せず品質が低いことから、バイオリサイターでは農業残さの堆肥化は困難であるとの結論に達した。

平成六年一一月二四日、船穂町役場職員ら四五名は、岡山県井原市のごみ処理施設等につき行政視察を行った。

また、平成六年一一月ころ、フルーツフラワーセンターにおいて、船穂町役場職員立会のもと、川鉄物流によるEMを使用した農業残さ処理、堆肥製造についての講習及びデモンストレーションが行われた。

6  有用微生物には、好気性菌、通性嫌気性菌、両性菌などの多種多様な細菌があるが、役場内検討会において堆肥製造に利用する有用微生物の種類の違いによる堆肥の品質、堆肥製造期間、臭気などの比較検討をしたところ、好気性菌利用の堆肥の場合、堆肥製造期間は三ないし六か月かかり、臭気は強烈なアンモニア臭、肥料成分は原料の窒素系物質がアンモニアガスとして放出されてしまい、空気を十分に入れるために切替しを頻繁にしないと均質な完熟堆肥ができないという難点があり、他方、通性嫌気性菌を利用した場合、臭気は甘酸っぱい乳酸臭があり、生産費が高いという難点があるが、堆肥製造期間は四ないし八日と短く、堆肥成分は原料中の窒素系物質が失われずにそのままの量で合成される上、密閉状況の発酵槽で腐敗菌が発生しないよう水分調整、温度調整を行う結果、均一な完熟堆肥ができることから、右製造期間、臭気、品質の点を重視し、密閉の発酵槽を用いて通性嫌気性菌を利用する方法が好ましいとの結論に至った。密閉の発酵槽を用いるのは、通性嫌気性菌は密閉する方が発酵しやすく、かつ、密閉の発酵槽の中で発酵させれば臭気が外に出ないからであった。

7(一)  川鉄物流は、平成六年九月二六日、川鉄テクノリサーチ株式会社に対して、有機廃棄物の発酵処理・堆肥製造方法及び設備等に関して過去一〇年間の特許状況の調査を依頼し、その結果、検索件数は一一五件あったが、このうち堆肥化のために使用する「菌」に関しての記述があり、川鉄物流の出願予定の特許と競合するおそれのあるもの(六三件)は、好気性菌の使用が明示されているもの(三三件、ただし好気性菌と嫌気性菌を併用し、最終工程が好気発酵のもの二件を含む。)か、その設備構造、発酵方式から好気性菌の使用がうかがわれるもの(三〇件)であり、結局右六三件はすべて好気性菌を用いるものであって、通性嫌気性菌を主体として利用した方法、設備の該当はなかったため、平成六年一二月一六日、有機廃棄物の堆肥製造方法及び設備に関して特許(以下「本件特許」という。)を出願し、右特許出願は、平成八年七月二日に出願公開され、平成八年九月五日、審査請求が行われた。

(二)  本件特許における発明の目的は、有機廃棄物から堆肥を短期間にコスト安で製造できる有機廃棄物の堆肥製造方法及び設備を提供することであり、その構成は、方法に関しては、有機廃棄物の含水率が三〇ないし六〇パーセントとなるよう水分調整材と嫌気性発酵材を混合した後、密閉発酵槽内で四ないし八日で嫌気発酵させて堆肥を製造する方法であり、設備に関しては、<1>粉砕した有機廃棄物の含水率を三〇ないし六〇パーセントに保ち、水分調整材と嫌気性発酵材を混合する混合機、<2>混合した有機廃棄物を四ないし八日で嫌気発酵させる密閉発酵槽、<3>嫌気発酵させた堆肥を造粒する造粒機、<4>造粒した堆肥を乾燥させる乾燥機、<5>乾燥した堆肥を貯蔵する堆肥貯蔵槽、以上の五つの装置を備えた堆肥製造設備であった。

(三)  従来、有機廃棄物から堆肥を製造する方法としては好気性発酵材が利用されることが多かったところ、好気性発酵による堆肥製造の場合、完熟堆肥とするためには好気性発酵期間として数か月もの長期間を要し、空気送風装置や加熱装置を設けて好気発酵を促進することにより右期間を約一か月にまで短縮することは可能であるが、各種装置の装置コストや管理コストが高くなるという問題があった。また、好気発酵による場合、発酵途中でかくはん装置による切替しが必要であるし、好気発酵の途中でアンモニア等の悪臭が発生したり蝿が発生するため、これらを防止するための考慮も必要であった。

(四)  本件特許における発明では、有機廃棄物が嫌気発酵に最適な含水率(三〇ないし六〇パーセント)となるように水分調整材と嫌気性発酵材を混合させたうえで嫌気発酵を行うため、従来のような各種装置を使用しなくても嫌気発酵が著しく促進されて約六日で高品質の堆肥が製造できるようになり、堆肥製造期間が大幅に短縮され、従来のような各種装置を使用しないから、装置コストや管理コストも大幅に低減される上、嫌気性発酵材を使用し密閉発酵槽内で嫌気発酵させるため、アンモニア等の悪臭や蝿の発生の問題も生じなかった。また、有機廃棄物を粉砕器で粉砕した後、混合機で水分調整材と嫌気性発酵材を混合し、密閉発酵槽内で発酵後、堆肥を造粒機で造粒し、乾燥機で乾燥させ、堆肥貯蔵槽に貯蔵し、必要に応じて袋詰機で袋詰めする工程を全自動化することにより、少人数で安全かつ容易に堆肥製造を行うことができた。

さらに、生ごみ(学校給食残さ)の含水率は約七六パーセント、農業残さ(大根葉と人参葉の野菜くず)の含水率は約九〇パーセントであるが、脱水機を付加することにより、必要に応じて脱水機で脱水し(これにより水分調整材及び嫌気性発酵材の使用量を節約できる。)、嫌気性発酵材(含水率約九パーセント)及び水分調整材を混合することにより、混合後の含水率を有機廃棄物等が嫌気発酵するのに最適な含水率である四〇ないし五〇パーセントにすることができるし、密閉発酵槽は、嫌気発酵が進行しやすいように、槽構造により、投入された有機廃棄物等の温度を二五ないし三〇度に保つ保温機能を有していた。

また、嫌気発酵により製造された堆肥を使用しやすいように、造粒機で、例えば粒径四ないし五ミリメートルに造粒することにより、堆肥の商品価値を向上させることができるし、造粒した堆肥を乾燥機で含水率が一〇ないし二〇パーセントになるまで乾燥させることにより、嫌気発酵がさらに進行することを防止し、造粒した堆肥の品質を維持して長期間にわたって保存することが可能であった。

(五)  このようにして製造された堆肥は、窒素全量、リン酸全量、カリ全量のすべてにおいて、日本バーク堆肥協会の好気性発酵による完熟バーク(樹皮)の品質を上回っており、また、有機物含有量(強熱減量)は九〇パーセント以上、炭素率も二〇以下であり、良い堆肥性能を示していた。また、本件特許にかかる発明により製造された堆肥を用いてはつか大根の発芽、生育の確認テストを行ったが生育障害は認められなかった。

(六)  川鉄物流は、本件堆肥プラントの建設工事をするまで、EMを利用した堆肥プラントの建設工事を行ったことはなかった。

8(一)  役場内検討会は、平成七年一月一〇日、堆肥製造に関する過去一〇年間の特許状況について、川鉄物流から、前記特許状況の調査結果のとおりの情報を得て、一一五件の公開特許のうち有機堆肥製造に関するものは一〇件で、一〇件とも「好気性」の明示の記載から、あるいは発酵方法・設備から、いずれも好気性菌を使用したものと判断し、これらの特許にかかる有機堆肥製造については、臭気の発生の有無に関し、使用する微生物の性質と装置の改良点が合致しているか検討できず、また、製造日数も三ないし六か月と長期であるため設置条件となる場所、敷地面積に鑑み船穂町にはなじまないと判断した。

(二)  他方、役場内検討会は、川鉄物流から本件特許の申請中である旨の情報を得て、川鉄物流の有機堆肥製造方法・設備について調査したところ、川鉄物流とEMリサイクル社が協同で出願した堆肥製造プラントは、嫌気性菌であるEMを使用して一週間程度の製造期間での堆肥化が可能であり、密閉型発酵槽使用のため臭気の問題もないと考えられ、船穂町の考える環境問題と保全型農業の推進に合致するものとして適当であると考え、また、川鉄物流が、堆肥プラントにつき特許出願中で、川崎製鉄の運輸部門の関連会社でもあり、船穂町に隣接する岡山県倉敷市水島地区に工場があり、その社宅が船穂町内にあったことから信用できる会社と考えられたことからも、川鉄物流の堆肥プラントによるべきであると判断し、町長、助役の決裁を経た。

(三)  なお、ヤンマー農機株式会社の堆肥製造の方法、設備は燻炭化によるもので、製品の品質が安定せず、また、日立造船のEMボカシを用いた堆肥プラント「偉力Ⅱ」は、発酵槽を整備しておらず、各家庭で既に発酵したものを処理して堆肥化する施設であったため、農業残さ及び生ごみそのものの持ち込みを受け入れて発酵の段階から堆肥プラントで行うには不適当であったため、船穂町としては、これらの業者のプラントは採用できないとの結論に達した。

右の判断にあたって、被告としては、川鉄物流の堆肥プラントは発酵槽が整備されていたし、川鉄物流からすでに発酵槽の整備された堆肥プラントの図面の提出を受け、川鉄物流が特許出願中であるとの認識であったため、日立造船に対し、発酵槽を整備した堆肥プラントの設計を依頼することは考えず、川鉄物流が出願していた特許が発酵槽を持つ点に発明性があるかどうかについては調査はしなかった。

9(一)  平成七年八月四日、船穂町指名委員会審議において、本件堆肥プラントの建設につき契約の方法が検討され、船穂町役場産業課長平松実による説明を受けて、競争入札に付すことは適当ではなく、随意契約の方法によることができるとの決議がされ、同年八月六日、船穂町から川鉄物流に対し、本件堆肥プラントの建設につき見積書の作成が依頼され、同年九月二八日、川鉄物流から船穂町に対し、見積書が提出された。そして、同日、船穂町から岡山県企業局に対し、価格の適正につき見積内容の検討が依頼され、同年一一月七日、岡山県企業局から審査報告が行われ、同年一一月二〇日、町長により船穂町議会(産業建設常任委員会)に対し本件堆肥プラントにつき、EMを利用しての嫌気性発酵プラントシステムの導入が最善と考えられること、そのための製造工程と発酵タンク、乾燥機器類などの諸施設にわたり特許を有している業者は川鉄物流一社のみであること、したがって、同社と随意契約により契約することについて説明が行われた。なお、本件堆肥プラントの設置されている建屋は指名競争入札により契約することとされた。

(二)  平成七年一二月一日、船穂町産業課において本件堆肥プラントを整備することにつき、町長に起工設計の上申書を提出して町長決裁を得た後、同年一二月五日、再度、川鉄物流から正式な見積書の徴収を通知し、同年一二月一一日、川鉄物流から見積書が提出された。同年一二月一四日、船穂町の議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例二条に基づき、予定価格が五〇〇〇万円以上の工事請負契約であることから、船穂町議会の議決を得て、本件堆肥プラント工事を目的として本件請負契約が締結され、川鉄物流は本件堆肥プラントの工事に着手した。

10(一)  船穂町役場職員は、平成七年九月二九日及び一〇月二八日、原告の居住する鶏尾地区住民に対し、本件堆肥プラントの概要説明を行った。

(二)  原告は、平成元年ころから船穂町において農業を始め、現在、マスカット及び養液栽培(水耕栽培)のトマトを栽培する専業農家であるが、平成七年一〇月ないし一二月ころ、船穂町役場職員の訪問を受け、本件堆肥プラントについての説明を受け、船穂町役場職員狩山恭三(以下「狩山」という。)から「救世自然農法とEM技術」と題する書籍を渡された。

右書籍は、自然農法国際研究開発センター普及部が編集、発行しているもので、有用微生物に関する記載と共に、世界救世教及び岡田教組に関する記載もあり、微生物を「神様からのプレゼント」と呼んでいるもので、一般書店では取り扱っておらず、救世EM取扱店でしか入手できないものであった。

狩山は、平成七年八月四日、静岡県熱海市の救世会館で開かれた第一二回有用微生物応用研究大会に他の職員一名と共に公費で参加した際、右書籍を私物として購入し、船穂町内のトマト農家のうち本件堆肥プラントの建設に反対していた原告を含む二軒に、本件堆肥プラントが迷惑施設ではない旨の説明及びトマト栽培の参考として手渡した。

(三)  原告は、平成七年一一月一七日及び平成八年二月九日、船穂町長及び船穂町議会議長に対し、平成七年一一月二九日、岡出県庁農産課に対し、本件堆肥プラントの建設反対の申入れを行った。船穂町役場職員は、平成七年一一月三〇日、一二月四日、一二月六日及び一二月一九日、原告に対し、本件堆肥プラントが迷惑施設ではない旨の説明を行うと共に、平成七年一二月一八日及び平成八年一月五日に鶏尾地区の住民に対し、平成七年一二月一九日及び二三日に土生地区の住民に対し、本件堆肥プラントにつきそれぞれ説明会を行った。

(四)  原告は、平成八年一月一九日、岡山県公害審査会に対し、昭和四六年ころ、船穂町が鶏尾地区に設置した一般廃棄物処理場において、約五〇〇〇平方メートルの土地に約四万立方メートルの農業塩化ビニールや家電などを岡山県の許可を受けずに不法投棄し、野焼きを行っていたことにつき、公害紛争調停を申し立てた。同年二月八日、岡山県公害審査会から船穂町役場環境保健課に調停手続開始の通知が届き、平成九年三月二二日、船穂町は、右処分場の違法性を認め、適法な施設に改善するとともに、本件堆肥プラントから発生する悪臭についても監視委員会を設けるなどの改善策を決めて調停が成立した。

11  本件堆肥プラントは、「船穂町堆肥センター」という名称で、所在地は岡山県浅口郡船穂町大字船穂字土生七〇六八番地の三外であり、敷地面積は四五九七・四七平方メートル、構造及び建築面積は、プラント棟が鉄骨スレート葺(二七四・七七平方メートル)、製造保管庫棟が鉄骨ハウス(一二一・〇七平方メートル)、事務所が木造平屋セメント瓦葺(七五・〇〇平方メートル)である。

プラント自体の構造は、搬入されてきた大根葉、人参葉などの農業残さ及び家庭生ごみがまず投入ホッパーにより粉砕機(一時間あたり〇・二四トン)に投入され、糠状態になるまで小さく破砕された後、混合機(一バッチあたり二八九キログラム)に送られ、そこで微生物パウダー槽(三・八立方メートルのものが一槽)からのEMボカシ及び水分調整材貯蔵槽(三・八立方メートルのものが一槽)からの水分が添加されて発酵に適当な水分約四五パーセントの状態にされた後、通性嫌気性発酵槽(四・八立方メートルのものが四槽)へ運搬されて、約一週間かけて発酵後、造粒機(一時間あたり〇・三二トン)を経て乾燥機(一時間あたり〇・三二トン)にかけられ、製品貯蔵槽(五・八立方メートルのものが一槽)へと運ばれたものを、計量装置及び袋詰機(一袋あたり一〇キログラム)により、計量、袋詰めが行われるというものである。

なお、本件堆肥プラントで製造された堆肥は完熟堆肥として即利用可能なものであり、年間堆肥製造量は、原料が農業残さ二三〇トン及び生ごみボカシあえ七六トンから堆肥化される製品としての有機堆肥一〇〇トンである。

微生物パウダー槽に入れるEMボカシ(微生物パウダー槽に投入する前に「EMR」と「発酵促進パウダー」を混合して作られるものと思われる。)のもととなる「EMR(有用微生物群発酵液)」及び「発酵促進パウダー(ボカシ)」は、EMリサイクル社が製造販売しており、船穂町は、EMリサイクル社の代理店である川鉄物流の営業本部西部営業部から購入していた。

12  本件堆肥プラントは平成八年六月一日から操業を開始し、その製造堆肥は、「テクノペレット」という名称で、船穂町農業協同組合を通じて一般家庭及び農家に対して、平成八年六月一日から平成九年三月までで約三五〇万円分、製造量の約半分が販売され、平成九年四月一日から平成一〇年一月までで、毎月約一〇〇〇袋(一袋あたり一〇キログラム、売価七二〇円)が製造されてほぼ完売しており、平成一〇年度も、一年で約一万袋が売れ、約七〇〇万円の売上げがあった。特に、環境保全、有機農業に関心を抱く農家から、テクノペレットの需要がある。

テクノペレットの成分分析結果は、含有試験においては、水分一三・七パーセント、窒素五・四八パーセント、リン酸四・六九パーセント、カリウム二・四七パーセント、水銀一キログラムあたり〇・〇一ミリグラム(基準値は一キログラムあたり二ミリグラム)、ひ素一キログラムあたり〇・六〇ミリグラム(基準値は一キログラムあたり五〇ミリグラム)、カドミウム一キロあたり〇・一五ミリグラム(基準値は一キロあたり五ミリグラム)であり、溶出試験においては、アルキル水銀化合物、全水銀、カドミウム、鉛、有機リン化合物、六価クロム化合物、シアン化号物、ポリ塩化ビフェニル、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレンは検出せず、ひ素は〇・〇八であり、いずれの試験においても、有害物質は検出されないか、検出されても許容範囲を定める基準値を大きく下回っており、内容的に問題はなく、堆肥として安全なものだった。

13  船穂町では、本件堆肥プラントの導入は、農業残さの適正な処理、生ごみの分別、減量、リサイクルの町民への周知・啓発、高齢者の就労の場の確保(各家庭からの生ごみ回収作業に従事)に貢献したと評価している。

平成八年六月から平成九年三月までの間、約六〇トンの生ごみが本件堆肥プラントに持ち込まれ、船穂町では平成七年から平成八年に人口が三六人増加しているにもかかわらず、西部清掃施設組合(一部事務組合)に持ち込まれる可燃ごみの焼却量は四四トン減少した。その結果、船穂町としては、一トンあたり四万六〇〇〇円(うち一万円は運搬費)かかっていた可燃ごみの焼却費用を六〇トン分節約できたものと評価した。

現在、船穂町内の家庭内の生ごみは、約五〇〇世帯分が分別されて回収され、本件堆肥プラントで処理され、その余のうちの約半分の世帯は自家処理し、その残余の世帯の生ごみは、平成一〇年三月に完成した新しいごみ焼却場で処理されている。

14(一)  役場内検討会においては、EMには発酵、堆肥化の有用性を求めており、土壌改良剤としての有用性は求めていなかったので、EM自体の有用性につき特に問題となったことはなく、世界救世教との関係についても検討したことはなかった。しかし、役場内検討会の構成員においても、遅くとも平成七年末までには、新聞雑誌等により、EMが癌に効くといった噂、その噂の真偽につき議論があること及び世界救世教がEMを推奨していることについての認識はあった。

(二)  本件請負契約締結前の平成七年一〇月二二日発行の比嘉教授著「EM産業革命」と題する書籍においては、EMを使用した本件堆肥プラントが紹介され、佐々木博一の好意的なコメントが記載されていた。

平成九年五月二〇日発行の「地球を救う大変革3・世界に広がるEM技術」と題する比嘉教授の著書の中でも、EMを使用した本件堆肥プラントにつき成果があがっており好評であるとして紹介されていた。

(三)  自然農法国際研究開発センター事業部が監修し、EM情報室が発行する「エコ・ピュア」と題する雑誌の一九九六年三月二〇日号では、EM生ごみ堆肥づくり入門の記事が掲載され、巻末の「EMお問い合わせ先一覧」では、佐々木博一の名があり、また熱海市、京都市の株式会社瑞雲の名があるが、右会社の連絡先は救世会館内となっていた。

「地球を救う大変革・次つぎ実証されるEM効果」と題する比嘉教授の著書の中では、タイ国、ブラジルのEM実践及び販売に関する問い合わせ先として、それぞれ世界救世教タイ国本部、世界救世教ブラジル本部が記載されていた。

15  船穂町は、平成八年五月一〇日、EMを利用した環境浄化についての理解を深めるため、「自然フォーラム21」と題する本件講演会等を開催し、EMの開発者である比嘉教授を講師として「循環型社会の構築をめざして」と題する本件講演が行われ、「地球交響曲第二番」と題する本件映画が上映された。

その目的は、船穂町が現在進めているテクノ・クリーンタウン構想、すなわち大量消費、大量廃棄の生活を見直し、環境への負荷の少ない持続的な発展が可能な循環型社会の実現のため、自然の摂理を踏まえた環境重視の地域づくりの取組みを、行政のみならず町民、民間団体等においても検討し、展開するよう、町民に対し、環境保全について周知、啓発することであった。

16(一)  比嘉教授は、その著書などで、EMボカシを生ごみに加えて寝かした際に溜まる液肥は、風呂場や流しの排水口から流すと悪臭が消え、排水溝内部も浄化され、風呂やプールに入れるとアトピー皮膚炎がなおり、風呂の水は二年間変えなくてもよくなるし、セメントに入れると強度が二倍になる、EMから精製したEMXは末期がんやC型肝炎にも効果が高く、EMを撒いた土の上にムシロを敷いて寝るだけで病気が治るなどと主張していた。

(二)  EMリサイクル社の製造販売する「EMRペレット」は、生ごみをEM発酵処理したものに米糠を混合してペレット化したものであるが、堆肥化熟成が不十分なものであるため、は種、植え付けの二週間以上前に施用しなければ、作物の発育が租害されることがあった。また、各家庭内でEMを使用して生ごみを堆肥化する場合、発酵後でも生ごみの姿形がそのまま残り、見た目では変化がないうえに、密閉状態で発酵させるため、水蒸気が逃げずにべとべとしていて、有機分解が途中段階までしか進行しないため、そのまま畑に施用すると、急速に増殖して苗立枯れを起こす病原菌が増殖するため、施用後三週間以内には種すると苗が枯れるおそれがあり、野外に堆積して好気的二次発酵をさせるか、他の材料と混合してボカシ肥に加工して使用する必要があると考えられていた。

17(一)  日本土壌肥料学会は、微生物資材専門委員会を構成し、「EM」などの微生物資材の評価法に関する議論をしてきたが、平成八年八月二三日、<1>「EM」に関しては科学的な評価の対象になるような研究論文が、開発者からもその他の研究者からも科学誌に発表されていない、<2>第三者がその有効性に関して追認試験を行う場合に必要な科学的なデータや情報、すなわちどのような状態の菌をどのように土壌に施用あるいは堆肥材料に混合すれば効果が現れるのかに関する情報が研究論文として発表されていない、<3>国立、公立の試験研究機関や大学の研究者がこれまでに試みた「EM」に関する研究では、「EM」が自然界の微生物あるいは他の微生物資材より有効であるということを証明できた研究はないとして、現在の「EM」は微生物資材として評価に耐えるものではなく、その有効性は証明されていないと結論されるとの見解を発表した。

(二)  他方、比嘉教授は、「比嘉照夫のすべて」という書物(乙四六)で、インタビューに答える形で、マスコミによるEMバッシングがあったのは、世界救世教が新生派、再建派などに内部分裂し、EM農法を推進する新生派勢力を押さえるために、再生派がEM批判の策略をしたからであり、世界救世教内の内紛に和解が成立したところでEM批判の動きが静かになったと述べ、また、日本土壌肥料学会は、大きな成果をあげているEMの突然の登場に嫉妬して、世界救世教再生派のいいなりになって、EMにつき否定的な見解を示したのだと述べた。

(三)  その一方で、研究者の中には、EMは、比嘉教授の主張する限界突破的技術としての評価は別として、一般微生物資材としての評価についてはそれなりの性能を有しており、日本土壌肥料学会との間で十分な技術論争が行われなかったのは、比嘉教授のミラクル的現象のみを強調する独善的対応及びEM側が生理的生態的観察などによる情報を発信しなかったことによるとする見解を示す者もいた。

二  右事実に基づいて、まず甲事件の争点について判断する。

1  本件請負契約の地方自治法二三四条及び施行令一六七条の二第一項一号違反について

地方自治法二三四条二項は、請負などの契約は政令で定める場合に該当するときに限り随意契約によることができると規定し、これを受けて施行令一六七条の二第一項一号及び施行令別表第三は、随意契約によることのできる一場合として、工事又は製造の請負でその予定価格が都道府県及び指定都市の場合は二五〇万円、市町村(指定都市を除く。)の場合は一三〇万円の範囲内において普通地方公共団体の規定で定める額を超えないものをするときと定めている。さらに、施行令一六七条の二第一項二号は、随意契約によることのできる別の場合として、「不動産の買入れ又は借入れ、普通地方公共団体が必要とする物品の製造、修理、加工又は納入に使用させるため必要な物品の売払いその他の契約でその性質又は目的が競争入札に適さないものをするとき」と定めているところ、締結しようとする契約の具体的な性質又は目的に鑑み、当該契約の相手方となりうる者が複数はおらず、おのずから、当該契約の相手方として要求される条件を満たす唯一の者と契約せざるを得ないような場合は、競争入札によることが不可能な場合として、当然、右の随意契約の方法によることができる場合に含まれる。

ところで、ごみの減量化、堆肥の品質向上による地域農業及び環境の保全を目的として、微生物を利用して生ごみを処理し堆肥を製造するプラントを建設、操業することは、地方公共団体の事務に属するところ(地方自治法二条二項、三項)、具体的な生ごみの処理方法、堆肥の製造方法、使用する微生物の種類、プラントの規模等の決定は多分に政策的事項であり、当該地方公共団体の広範な裁量に委ねられていると解するのが相当である。

本件において、前記一で認定したとおり、船穂町は、河川敷において大根、人参等の野菜の栽培が盛んである一方で、近隣に工業地域を擁するという地理的特徴から、大根葉や人参葉などの農業残さの処理、農薬散布、堆肥使用時の臭気が問題となっており、他方で、生ごみの減量化が問題となっていたという地域的事情から、微生物による生ごみの堆肥化処理を政策検討事項とし、これを一挙に解決すべく、各家庭における堆肥化のための処理が不要で各家庭の負担がなく、回収した生ごみを直接処理でき、堆肥製造期間が短く、臭気問題が発生せず、品質良好な堆肥の製造が可能であるという条件を満たすものとして、通性嫌気性菌を使用した密閉発酵槽による発酵処理方法を選択したものであって、右選択は船穂町としての合理的な裁量の範囲内にあったものと認められる。

そこで、これを受けて役場内検討会では、右条件を満たす発酵処理施設、設備を提供することができる業者を調査したところ、農業残さや生ごみのまま持ち込まれた有機廃棄物を破砕し、臭気問題の生じない密閉発酵槽において嫌気性発酵材を使用して比較的短期間である四ないし八日で嫌気発酵を進行させた後、造粒、乾燥、貯蔵、袋詰めを行うことにより品質良好な堆肥を製造する方法及び設備に関する技術を有し、船穂町の要求する右条件を満たす発酵処理施設、設備を提供できる業者は、右方法及び設備につきEMリサイクル社と共同で特許出願中であった川鉄物流の一業者しかなく、嫌気性発酵材を使用する方法、設備を有すると思われる他の業者である中部ドラム缶工業株式会社、ヤンマー農機株式会社、日立造船のうち、中部ドラム缶株式会社のバイオリサイターは設備が小規模で需要を満たさず、燻炭化により製品が不安定で品質が低いという点で、また、ヤンマー農機株式会社の方法は、バイオリサイター同様、燻炭化するため品質が低いという点で、さらに、日立造船の「偉力Ⅱ」は、発酵槽を備えておらず、各家庭であらかじめ発酵処理を行う必要があるという点でそれぞれ船穂町の要求する前記条件を満たしていなかったものということができる。以上からすると、役場内検討会の主たる情報源が川鉄物流であり、その限りで調査及び検討の際の情報が川鉄物流に若干有利なものであった可能性が窺われないではないが、その点を考慮に入れたとしても、結論としては、船穂町として川鉄物流以外の業者と契約する余地はなかったものと認めることができ、本件請負契約は、競争入札の方法による契約の締結が不可能な場合であると評価できるから、「その性質又は目的が競争入札に適さないものをするとき」に該当すると認められる。

したがって、本件請負契約は、施行令一六七条の二第一項二号により随意契約できる場合にあたるので、同条第一項一号には違反しない。

2  本件請負契約の締結及び本件請負代金支出の憲法二〇条三項、八九条違反について

(一)  憲法は、信教の自由を無条件で保障するとともに二〇条一項後段、三項、八九条において政教分離の原則に基づく規定を設けているところ、右政教分離規定は国家(地方公共団体も含む。以下同じ。)と宗教の分離を制度として保障することにより、間接的に信教の自由の保障を確保しようとするものである。しかし、国家が教育、福祉、文化などに対し助成、援助等の諸施策を実施するに当たり、宗教とのかかわり合いを生じることを免れることはできないから、現実の国家制度として、国家と宗教との完全な分離を実現することは事実上不可能に近く、国家は実際上宗教とある程度かかわり合いを持たざるを得ない。したがって、右憲法の規定は、宗教と何らかのかかわり合いを持つ一切の行為を禁止するものと解するのは相当ではなく、宗教とのかかわり合いを持つ行為の目的及び効果に鑑み、そのかかわり合いが我が国の社会的、文化的諸条件に照らし相当とされる限度を超えるものと認められる場合にこれを許さないとするものであると解すべきである。

右の政教分離原則の意義に照らすと、憲法二〇条三項の宗教的活動とは、およそ国及びその機関の活動で宗教とのかかわり合いを持つすべての行為を指すものではなく、そのかかわり合いが右にいう相当とされる限度を超えるものに限られるというべきであり、当該行為の目的が宗教的意義を持ち、その効果が宗教に対する援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような行為をいうものと解すべきである。そして、ある行為が右にいう宗教的活動に該当するかどうかを検討するに当たっては、当該行為の外形的側面のみにとらわれることなく、当該行為の行われる場所、当該行為に対する一般人の宗教的評価、当該行為者が当該行為を行うについての意図、目的及び宗教的意識の有無、程度、当該行為の一般人に与える効果、影響等、諸般の事情を考慮し、社会通念に従って、客観的に判断されるべきである。

憲法八九条が禁止している公金等の宗教上の組織・団体等のための支出についても、右の政教分離原則の意義に照らし、公金支出行為等における国家と宗教とのかかわり合いが右の相当とされる限度を超えるものをいうものと解すべきであり、これに該当するかどうかを検討するに当たっては、前記と同様の基準によって判断されるべきである(最高裁平成九年四月二日大法廷判決・民集五一巻四号参照)。

(二)  これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件堆肥プラントで生ごみ等の堆肥化処理に使用されるのは、「EMボカシ」と呼ばれる微生物パウダーで、その原料は、船穂町がEMリサイクル社の代理店である川鉄物流から購入するEMRであり、EMRのもととなるEM原液は自然農法国際研究開発センター事業部EM研究所が製造販売し、自然農法国際研究開発センターは、その代表者及び所在地(静岡県熱海市)を世界救世教と同じくする(ただし、同センター事業部EM研究所の所在は静岡市である。)こと、EM関連商品の一部及びEM販売店所在地の一部には「救世」の名称が見受けられること、本件堆肥プラントは自然農法国際研究開発センター理事である比嘉教授の著書で取り上げられ、比嘉教授が開発したEMの宣伝に利用されていること、世界救世教は岡田茂吉を教祖とする宗教団体であり、その事業の一環として自然農法による農園経営を行っていることが認められ、これらの事実からすると、本件堆肥プラントの建設、操業、さらに、本件請負工事契約の締結及び本件請負代金支出は、いずれも宗教とは何らのかかわり合いも有しないものであるということはできない。

しかしながら、前記認定事実によれば、(1)本件堆肥プラント建設及びそのための本件請負契約締結の目的は、農業残さ及び生ごみの微生物処理によりごみ焼却量を減少し、堆肥化して再生利用することによりごみ処理及び農業実践の双方の側面から環境保全を実現することであり、その目的自体に宗教的意味合いはなく、(2)本件堆肥プラント建設の事業者である船穂町としても特定の宗教を推進する意図を持って本件堆肥プラント建設事業を行ったものと認めるに足りる証拠はないし、(3)船穂町が本件堆肥プラントにおける微生物発酵処理にEMRを利用することとしたのは、各家庭における堆肥化のための処理が不要で各家庭の負担がなく、回収した生ごみを直接処理でき、堆肥製造期間が短く、臭気問題が発生せず、品質良好な堆肥の製造が可能であるという点で通性嫌気性菌を利用した嫌気性発酵が船穂町の求めていた堆肥化処理方法・設備の条件に最も合致し、EMRが右堆肥化処理に用いられる通性嫌気性菌として実際に用いられていたからであって、EMRが世界救世教と何らかの関係があることを前提とした上で、世界救世教を援助、助長、促進する目的でしたものとは認められず、さらに(4)船穂町としては、自然農法を世界救世教の推奨するものとして実践することにより「地上天国」を実現させるとか、EMに奇跡的・万能薬的効力があると信じ、世界救世教の推奨する自然農法をEMを用いて実践する意図でしたものとも認められないことからすれば、本件堆肥プラントの建設及びそのための本件請負契約締結の目的はもっぱら世俗的なものであるというべきである。

また、本件堆肥プラントの建設、操業及びそのための本件請負契約締結の効果については、(1)本件請負契約の直接の相手方は、宗教団体ではなく一般の営利企業である川鉄物流であり、その契約内容も本件堆肥プラントを建設することであって、それ自体に宗教的意味合いはなく、本件請負代金支出も、本件請負契約の本件堆肥プラント建設にかかる請負工事代金の弁済として支出されたものにすぎず、(2)本件堆肥プラント自体は、微生物を利用した有機廃棄物処理・堆肥製造施設であり、EMRも右堆肥製造上必要とされる嫌気性微生物群であって、それ自体に宗教的色彩があるものではなく、(3)EMRの入手先の元をたどれば世界救世教と何らかの関わりがあることは否定できないとはいえ、その流通経路に多くの媒体施設、業者が加わっていること及び現にEM自体が世界救世教とは関わりのない多くの人々、施設及び自治体により利用されることにより、社会通念上、また一般人の感覚からすれば、EMと世界救世教の関係は、両者が必ずしも必然的に結びつけて考えられるものではないことがうかがわれるし、(4)EM関連商品の一部に「救世」の名称を付したものがあるとしても、それは一部にすぎず、本件堆肥プラントで使用されるEM関連商品は「救世」の名称が付されたものではないし、(5)比嘉教授の著書で本件堆肥プラントに関する記事があったとしても、EMを利用した堆肥プラントであるという紹介にすぎず、同紹介だけで一般人がこれを読んだ場合に直ちに世界救世教を連想させるものではないし、(6)微生物を利用した堆肥化処理施設において、使用している微生物群がたまたま「EMR」であったからといって、右堆肥化処理施設の事業者が宗教とかかわり合いがあると一般人の多くが感じることはないと考えられることからすれば、その効果も特定の宗教を援助、助長、促進し、他の宗教に圧迫、干渉を加えるものとは認められない。

したがって、本件請負契約の締結及び本件請負代金支出は、宗教とのかかわり合いの程度が、信教の自由の保障の確保との関係で相当とされる限度を超えるものとは認められず、本件請負契約の締結は憲法二〇条三項により禁止される宗教的活動にはあたらないし、同契約の代金支払のための本件請負代金支出は憲法八九条により禁止される宗教上の組織もしくは団体に対する公金支出にはあたらない。

(三)  この点、原告は、世界救世教は新生派と再建派に分裂し、新生派が派閥争いにおいて主導するため、再建派の推奨するMOA農法に対抗して、EMを利用した自然農法を推進しており、EMを利用する本件堆肥プラントの建設は、船穂町を右の派閥争いに巻き込むものである旨主張するが、右主張自体抽象的で当を得ない上、右主張に沿うような事実を認めるに足りる証拠はない。

また、原告は狩山から配布された書籍に世界救世教と関係のある記載があったことを根拠として、船穂町には世界救世教の活動に関与しこれを助長させる意図があったと主張するところ、狩山が町役場の職員として、右書籍がEMを説明した本にすぎないと軽信して内容もよく確認することなくこれを原告に配布したことは、右書籍の配布が本件堆肥プラントの理解を得る目的であったとはいえ、政教分離原則に鑑み必ずしも適切なものとはいえない面もないではない。しかしながら、本件は右の狩山の行為の是非を問うものでないのはもちろんのこと、前記認定の事実によれば、狩山自身においても、右書籍中に世界救世教に関する記載があったことの認識はなかったもので、世界救世教を援助、促進、助長する意図があったとは認められないし、右書籍の配布が原告を含む二人のみの町民に配布されたことからしても、右書籍配布の事実が前記の認定・評価を覆すものではない。

3  本件請負契約と民法九〇条について

前記認定事実によれば、一般家庭及び農家において使用するものとされているEMリサイクル社製造販売のEMRペレットは、堆肥化熟成が不十分であり、埼玉県和光市における一般家庭でのEM使用の発酵処理も堆肥を完成させるものではなく、同市の生ごみ堆肥化装置にかける必要があり、新聞雑誌等で宣伝されている一般家庭で行うものとされているEMによる生ごみの堆肥化処理方法も、密閉発酵を行うため含水率が下がらず、姿かたちも生ごみのままで、直接、堆肥としては使用できないことが認められるが、他方で、本件堆肥プラントは、特別の設備、装置を使用しない一般家庭で行われるEM堆肥化処理とは異なり、農家・家庭内では何ら処理をしない状態の農業残さ・生ごみを搬入・投入後、破砕(糠状態まで)、EMボカシ及び水分調整材の混合による水分調整、嫌気性発酵、造粒、乾燥、貯蓄、計量、袋詰めの過程を経ることにより、含水率、発酵状態、形の点で商品として問題のない堆肥を製造できること、本件堆肥プラントで製造された堆肥「テクノペレット」の成分分析結果は、内容的に問題なく堆肥として安全なものであったこと、平成八年六月の本件堆肥プラント操業開始以来、年間約一〇〇トンの「テクノペレット」が生産されほぼ完売していること、町としては本件堆肥プラントの導入が生ごみの減量、可燃ごみ焼却費用の節約、リサイクルの町民への周知・啓発、高齢者の就労の場の確保に貢献したと評価していることが認められるのであるから、本件堆肥プラントは有用でないとはいえず、本件堆肥プラントに有用性がないことを前提とする原告の主張は理由がない。

この点、原告は、EMにつき否定的な評価をした日本土壌肥料学会の公式見解をもとに、EMは有用性がなく、EMを利用する本件堆肥プラントも有用性がない旨主張するが、船穂町はEMを生ごみの堆肥化補助のため利用しているにすぎず、EM自体を直接土壌改良材として使用しているわけではないので、EM自体の土壌改良材又は堆肥としての性能は本件では直接問題とはならない上、右のとおり現に本件堆肥プラントは一定の効果をあげていることが認められ、EM自体についても、前記認定事実によれば学会でEM批判が強いのは比嘉教授がミラクル的現象を強調しすぎたためであるとの見解もあり、EMの土壌改良材としての性能については研究者の間では賛否両論あることが認められるから、こうした点からも、EMひいては本件堆肥プラントに有用性がないことを前提とする原告の主張は採用できない。

三  次に乙事件の争点について判断する。

1  本件講演料等支出の憲法八九条違反について

前記認定事実によれば、本件講演の講師は比嘉教授であり、比嘉教授はその著書においてEMの利用を推奨していることから、本件講演においてもEMについて言及があったことは十分予想されるが、世界救世教についての言及があったことを認めるに足りる証拠はなく、他方、本件講演会開催の目的は、町民に対する環境保全についての周知、啓発であり、本件講演の目的及び内容が世界救世教の推奨するものとしてEMの効用を宣伝し、もって世界救世教を援助、助長、促進しようとするものと認めるに足りる証拠はないし、本件映画の内容についても、世界救世教を宣伝するなど宗教の援助、助長、促進又は圧迫、干渉等になるような内容を含んでいたと認めるに足りる証拠はないから、本件講演及び本件映画が宗教的宣伝、啓発を含むものであることを前提とする原告の主張は理由がない。

2  本件講演料等支出と民法九〇条について

原告の主張は、本件講演の依頼契約及び本件映画のフィルム賃貸借契約が民法九〇条により無効であると主張するものであるのか、本件講演料等支出自体が同条の趣旨から公序良俗に反する違法なものであると主張するものであるかは必ずしも明らかでないが、そのいずれであったとしても、右1のとおり、本件講演会等開催の目的は、町民に対する環境保全についての周知、啓発であり、同目的がEMを利用した本件堆肥プラントの建設、操業の宣伝であることを認めるに足りる証拠はなく、また、仮に、本件講演会開催の目的が本件堆肥プラントの建設、操業の宣伝であったとしても、前記二3のとおり、本件堆肥プラントに有用性がないということはできない。したがって、本件堆肥プラントの建設、操業が公益目的を欠くものと評価することはできず、また、EMに有用性がないと認めることもできないので、EMないしEMを利用する本件堆肥プラントに有用性がないことを前提とする原告の主張は採用することができない。

四  以上の次第で、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野木等 裁判官 村田斉志 村上誠子)

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