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岡山地方裁判所 平成9年(ワ)321号 判決 1999年2月16日

原告

株式会社△△興産

右代表者代表取締役

甲野一郎

右訴訟代理人弁護士

田中英一

入江寛

永井一弘

被告

山陽放送株式会社

右代表者代表取締役

石井稔

右訴訟代理人弁護士

田野壽

榎本康浩

被告

西日本放送株式会社

右代表者代表取締役

平井卓也

右訴訟代理人弁護士

近石勤

被告

乙山二郎

右訴訟代理人弁護士

奥津亘

水田美由紀

主文

一  被告らは、原告に対し、各自、金一〇〇万円及びこれに対する平成九年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを一〇分し、その一を被告らの負担とし、その余を原告の負担とする。

四  この判決は、一項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

一  被告らは、原告に対し、各自、金二〇〇〇万円及びこれに対する平成九年一月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告山陽放送株式会社は、原告に対し、別紙一記載のとおりの謝罪広告を、中国四国地方で頒布される朝日新聞、読売新聞、毎日新聞朝刊の社会面広告欄に一回掲載せよ。

三  被告西日本放送株式会社は、原告に対し、別紙二記載のとおりの謝罪広告を、中国四国地方で頒布される朝日新聞、読売新聞、毎日新聞朝刊の社会面広告欄に一回掲載せよ。

四  被告乙山二郎は、原告に対し、別紙三記載のとおりの謝罪広告を、中国四国地方で頒布される朝日新聞、読売新聞、毎日新聞朝刊の社会面広告欄に一回掲載せよ。

第二  事案の概要

本件は、原告が、被告乙山二郎(以下「被告乙山」という。)の発言等を内容とした被告山陽放送株式会社(以下「被告山陽放送」という。)及び被告西日本放送株式会社(以下「被告西日本放送」という。)の各テレビ報道によって社会的名誉及び信用を毀損されたとして、被告らに対し、不法行為に基づいて、慰謝料及び謝罪広告を請求した事案である。

一  前提事実(括弧内にその認定証拠を掲げた事実を除いて、当事者間に争いがない。)

1  (当事者)

(一) 原告は、奈良県御所市に本社を置き、産業廃棄物を含む廃棄物の処理を業とする株式会社であり、奈良県御所市内で産業廃棄物の処分場を営んでいる。

(二) 被告山陽放送は、岡山県岡山市に本社を置き、岡山県・香川県の全域、広島県、愛媛県、兵庫県の一部を放送区域(免許区域)として、広告放送を含む一般放送事業を営む株式会社である(放送区域(免許区域)につき弁論の全趣旨によって認める)。

(三) 被告西日本放送は、香川県高松市に本社を置き、香川県・岡山県の全域、広島県・愛媛県・兵庫県の各一部を免許区域とし、岡山県及び香川県の両県を放送区域として、放送法による一般放送事業を営む株式会社である(放送区域及び免許区域につき弁論の全趣旨によって認める)。

(四) 被告乙山は、岡山県和気郡吉永町(以下「吉永町」という。)の町議会議長の職にあった者である。

2  (本件視察)

平成九年一月一六日、吉永町助役、吉永町議会議員一二名中当時同議会議長であった被告乙山を含む一一名、同議会事務局長、吉永町職員一名の合計一四名からなる視察団(以下「本件視察団」という。)は、原告も出資して設立されたいわゆる第三セクターの株式会社スリーエーが吉永町に産業廃棄物処分場を建設する計画の是非が社会的・政治的に問題となっていることもあり、原告が産業廃棄物の処理業等を営んでいる奈良県御所市(以下「御所市」という。)を訪れ、御所市議会において、原告が同市重阪地区で営む産業廃棄物処分場(以下「本件処分場」という。)について、安川同市議会議長(以下「安川議長」という。)を含む同市議会議員と意見交換し、さらに、同処分場周辺を視察した(以下「本件視察」という。)。被告山陽放送及び被告西日本放送は、それぞれ記者一名、カメラマン一名及び助手一名を本件視察団に同行させて取材を行った(証人原憲一、同苅田實、被告乙山)。

3  (本件各報道)

(一) 被告山陽放送は、平成九年一月一六日午後六時三〇分からのニュース番組「RSKイブニング・ニュース」において、本件視察の際の、原告についての「何点か聞かせていただきましたけど、ちょ、ちょっとまとめていないのであれですけど、結論として信頼できる業者でないいうお話を頂きましたんで」との被告乙山の発言(以下「乙山発言一」という。)及び本件視察に関し「一行は、去年の奈良県の調査で、排水の中から鉛などの有害物質が、県が設けた基準を上回って検出された産業処分場を訪ねました。」とのナレーションを含む別紙四記載の内容のテレビ報道(以下「本件報道一」という。)を放送した(乙一)。

(二) 被告西日本放送は、同月一七日午後五時三〇分からのニュース番組「RNCワイドニュースプラス1」において、本件視察の際の、原告につき「△△興産という会社、社長も含めて信頼できるものではない。いうようなお言葉をいただきましたので、あのう、まあ、本当に、いい話を聞かせてもらったと思っております。」との被告乙山の発言(以下「乙山発言二」という)及び本件視察に関し「基準以上の有害な鉛が検出されて問題となった処分場の排水をみてまわりましたが、議員らは、濁った水やいやな匂いを、実際に体験して、この処分場に問題があることを知り」とのナレーションを含む別紙五記載の内容のテレビ報道(以下「本件報道二」という。)を放送した(丙六の一)。

二  争点

1  (争点1)本件報道一及び二並びに各報道中の乙山発言一及び二が被告らの故意又は過失により原告の名誉及び信用を毀損するものか(請求原因)。

(原告の主張)

(一) 被告西日本放送と被告山陽放送は、原告の処分場から基準値を超えた鉛が検出されたとの報道をしているが、これは明白かつ重大な事実誤認である。確かに平成八年六月ころ、処分場の下流の河川の水の中から奈良県が定めた水質基準値である水一リットル中0.1ミリグラムを上回る0.1三ミリグラムの鉛が検出されたという事実は存在する。

しかしながら、右の鉛が検出された場所は、生活排水のみならず、隣接する奈良県五条市のいわゆる工業団地から流出する排水、処分場の上流に位置する安定型処分場から排出する排水、処分場の隣にある牧場から流出する排水等が複合的に流れている河川であり、鉛が検出されたという水は、それらの混合水である。

そして、その水質の継続的な調査に当たった奈良県衛生研究所の調査によると、その後、同じ場所から鉛が検出されたことはなく、結局、流出源については、因果関係の特定ができず、不明とされている。

なお、原告の処分場から排出される水については、右事件の前後を通じて調査を受けているが、鉛は、一切検出されたことがない。

(二) 地域住民に対するインタビューにより、処分場から耐え難い悪臭が発生している、処分場周辺の樹齢の高い杉の木が処分場の影響で全部枯れてしまっている、処分場からの排水で稲が枯れてしまった等の答えを引き出し、その真偽を確認することなく、軽率にそれが真実であるかのように報道しているが、これらはすべて虚偽である。

(三) 被告西日本放送と被告山陽放送からは、原告に対し処分場の見学や取材をしたいとの申入れは一切されていなかったにもかかわらず、番組の視聴者に対し、あたかも原告が正当になされた取材、見学の申入れを不当に拒否したような印象を与える表現でナレーションを流している。

更に、前記の鉛が検出された場所とは全く異なる処分場直下の水流を写して、その場所から鉛が検出されたとの放送をしている。

(四) 被告乙山は、被告西日本放送及び被告山陽放送の取材活動に同行していることから、右の放送局の取材により報道されるであろう事実が、真実に反し虚偽であることを知り、または、虚偽であるか否かを無謀にも無視して、自己の発言が放送されることを認識しつつ、原告を信頼できない会社であるとの発言をしている。

(五) このように、被告山陽放送及び被告西日本放送が、本件処分場から基準以上の有害な鉛が検出されたという事実、本件処分場の設置が原因で同処分場の周囲の花木や境界に植えてあった杉の木が全部枯れたという事実を、本件報道一及び二のとおり、テレビ放送を通じて公然と摘示しており、被告乙山は、乙山発言一及び二のとおり、テレビ放送を通じて、本件処分場から有害な鉛が検出されたという事実を前提とした否定的な評価を含む事実の摘示をしている。

原告のような産業廃棄物の最終処分業者にとって、廃棄物を適正に処理していること、稼働している処分場が適正に運営されていることが、その名誉及び信用を培うために何よりも重要な要素であるところ、右のとおり被告山陽放送および被告西日本放送が摘示した事実は、原告が廃棄物を適正に処理していないこと、本件処分場が適正に運営されていないことを示す事実であり、これによって原告の企業としての名誉、信用が毀損されることは明らかで、また、乙山発言一及び二は、原告が廃棄物の適正な処理を怠っており、その営む処分場も適正に運営されていないという事実を前提とした発言であり、これも原告の名誉、信用を毀損する事実の摘示である。

一般視聴者が、乙山発言一及び二を含む本件報道一及び二を視聴した場合に、本件処分場から鉛その他の毒物が流出しており、また、本件処分場の存在により近隣の植物が枯れるなどの悪影響を及ぼしているのだという印象、原告が産業廃棄物業者として極めて信頼性の低い業者であるという印象を受けるであろうことは容易に想像でき、これによって原告の企業として保護されるべき名誉が毀損されていることは明らかである。

(六) よって、被告らの本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二は、故意又は少なくとも過失によって、原告の名誉・信用を毀損するものである。

(被告西日本放送の主張)

原告は、御所市に本社を、奈良県奈良市に支社を置き、御所市内で中継保管所や最終処分場等の施設を保有して、廃棄物処理業を営む、資本金一〇〇〇万円の株式会社であるが、その営業活動区域は、目下のところ、主に奈良県、大阪府、兵庫県内であると思われ、被告西日本放送の放送区域は岡山県及び香川県であり、原告の営業活動範囲では本件報道二は放送されていない。

(被告乙山の主張)

(一) 被告乙山は、本件視察の際の御所市議会議員との意見交換において、同市議会議員から次のような報告を受けた。すなわち、本件処分場下流には魚類が一匹もいない、川の色が変わっている、悪臭がする、米ができない等の状況があり、地元からも苦情があったので、その他の処分場も含めて環境特別委員会を設置して調査することとし、本件処分場の視察を申し入れたが原告から拒否されており、原告ははっきり言って信頼のできない会社である、というものであった。被告乙山は、右報告を聞いて、被告山陽放送及び西日本放送の記者のインタビューに対して、乙山発言一及び二のとおりの発言をした。

(二) 右インタビューに対する発言は、予め予定されていた記者会見等における発言とは異なり、突然マイクを向けられて慌ててなされたもので、原告に対する何らかの意図的な報道を念願に置いてなされたものではない。被告乙山は、右発言の前後を通じて、被告山陽放送及び被告西日本放送のいずれの記者とも、本件視察について後にどのような報道をするのか全く話をしていない。被告乙山が右インタビューを受けた段階で、被告山陽放送及び被告西日本放送がどのような内容の取材や報道をするのか、被告乙山は全く知らなかったことであるし、知る方法もなかった。被告乙山は、右インタビューに対し、その直前に御所市議会議員から聞いた原告の評価について素直に語っただけのことである。仮に原告の主張するように本件報道一及び二の内容に何らかの問題があったとしても、被告乙山には関係がない。

2  (争点二)本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二につき、これらが公共の利害に関するもので、専ら公益を図る目的でなされたものであり、真実性の証明あるいは真実と誤信したことについて相当の理由があるといえるか(抗弁)。

(被告山陽放送の主張)

(一) 被告山陽放送の本件報道一は、公共の利害に関するもので、内容において真実であり、かつ、もっぱら公益を図る目的でなされたものであるから、違法性がなく、不法行為にあたらない。

(二) 本件報道の対象は本件視察であったが、右視察は、社会的・政治的課題として大きな関心を集めている、吉永町での産廃処分場設置問題に密接に関連し、社会一般の関心事であるから、公共の利害に関する事実にかかるものである。

被告山陽放送は、報道機関としての使命感から、瀬戸内地方を初めとする環境問題に積極的に取り組んできたもので、右産廃処分場設置問題についても、右報道姿勢から、当初より重大な関心を持って取り上げてきており、本件報道一も、その一環としてなされたものであるから、もっぱら公益目的でなされたことは明らかである。

(三) 本件報道一の内容は、本件視察の事実を客観的に伝えたにすぎず、少なくとも主要な部分において真実である。

奈良県衛生研究所が平成八年三月から同年六月にかけて実施した水質調査で、本件処分場下流の曽我川の排出水から、奈良県の基準を上回る鉛と窒素が検出されたが、右調査地点は、奈良新聞の報道の表現を借りれば、右処分場の「直下」にあたる位置にあること、本件報道一の放送当日の取材においても、安川議長を初めとする同市議会議員らが、右鉛と窒素は本件処分場が原因であるとこぞって証言し、地元住民らも同様の証言をしたことから、右鉛及び窒素はまさに本件処分場から排出されたものであり、本件処分場の排水の中から検出されたものであるというほかない。本件処分場の下流の河川水からは、複数回にわたって奈良県の基準を上回る鉛等が検出されているところ、その採水位置が本件処分場のうち第一処分場から約一キロメートル、第二処分場から約一五〇ないし二〇〇メートルという位置関係から考えても、右鉛等が本件処分場からの排水によるものであるという推定は容易に働く。被告山陽放送独自の調査によっても、右採水位置付近の川底から非常に高い濃度の鉛(一リットルにつき4.55ミリグラム)が検出されており、この鉛は長期間にわたって継続的に排出されたものと考えられるところ、近辺では本件処分場以外にこうした排出をし得る施設は見当たらないのである。

(四) また、本件処分場が原因でその周囲の花木や境界に植えてあった杉の木が全部枯れたという事実の摘示及び乙山発言一を報道した点については、いずれも地元住民ないし被告乙山の発言を客観的に伝えただけのもので、被告山陽放送が摘示したのは、「本件処分場の周囲の花木や境界に植えてあった杉の木が全部枯れた」ないし「原告が信頼できる会社ではない」という事実ではなく、右内容の発言を地元住民ないし被告乙山がしたという客観的事実にすぎない。被告山陽放送は、これらの発言をそのまま流す形で報道している以上、右報道が内容において真実であることは動かしようがない。

乙山発言一は、それ自体も十分な根拠に基づいてなされたもので、被告山陽放送としても、水質悪化、悪臭、農作物ができなくなった等の本件処分場周辺の状況と、本件処分場内への立ち入り調査を全くさせない等の原告の御所市議会への対応についての安川議長の説明が乙山発言一の根拠であるという被告乙山の話を聞き、安川議長からの裏付け取材においても同様の説明を受けた上で、真実性を判断して乙山発言一を報道したもので、高度の信頼性を有する根拠に基づいてなされており、少なくとも被告山陽放送が右発言を真実と信ずるに足る相当な理由があった。

本件処分場近隣の住民の発言についても、安川議長らの右説明との整合性から真実性を判断して右発言を報道したものであり、右発言を真実を信ずるに足る相当な理由があった。

(五) 仮に、前記鉛及び窒素が本件処分場の排水によるものでないとしても、本件報道一は、右の鉛等の検出を前提として、奈良県内の有力地方紙である奈良新聞の報道と、信用のおける公人である安川議長が、吉永町議会特別委屓会の視察という公的な機会に、鉛は本件処分場から出た旨説明したこと、という高度の信頼性を有する根拠に基づいてなされたものであるから、被告山陽放送が本件報道一の内容を真実と信ずるに足りる相当な理由があったのである。

また、本件報道一は、吉永町議会議員の本件視察の状況を伝えるのが目的のニュースであり、速報性が要求されるとともに、一定の問題意識のもとに制作されるのではなく、むしろ客観的事実をそのまま報道することに重点がある。被告山陽放送は、御所市議会議員ら及び吉永町議会議員らという信用のおける公的機関からの当日の取材に基づき、その発言内容の真実性を判断した上で報道したものであり、それ以上発言内容の真実性を厳密に検証してから放送することは、時間的制約から不可能で、これを要求することは右報道目的からして不当である。

(被告西日本放送の主張)

(一) 本件報道二は、公共の利害に関するものであるところ、その内容は少なくとも主要な部分において真実であり、もっぱら公益を図る目的でなされたものであるから、何ら違法性がない。すなわち、次に述べるとおり、本件報道二は、本件視察団一行と御所市議会議員とが産業廃棄物に関する公害問題について意見交換をした直後になされた御所市議会の枢要な地位にある議員のインタビューにおける発言及び本件処分場付近の地元住民のインタビューにおける発言に基づくものである。被告西日本放送は、公害という公共にかかわる問題につき、公共的立場でその問題に取り組んでいる議員の発言内容を真実と信じ、それらの取材事実を客観的に報道したものであり、一部を意図的に強調したとか、また、一部を意図的に省いたとか、事実をゆがめたものではない。

(二) 本件視察は、住民一般の関心を集め、社会的・政治的課題となっている産廃処分場設置という公共の利害に関する事実にかかわるものである。被告西日本放送は、従前環境問題を幅広く取り上げてきていて、本件の産廃処分場問題についても、当初より重大な関心をもって取り上げてきたところであり、本件報道二は、その一環であって、公益目的でなされたものである。

(三) 本件報道二においては、本件処分場の排水の中から基準以上の有害な鉛が検出された旨を報道したが、これは、御所市議会の安川議長の「鉛が検出された」との発言及び地元住民の証言並びに平成八年六月九日に採水した本件処分場下流の河川水から、奈艮県の基準を超える鉛が検証された旨の奈良県衛生研究所長作成の水質検査成績書等により、真実であると信じたからである。右採水の地点は、原告の第一期処分場からは一キロメートル離れた地点ではあるが、原告の第二期処分場からは一五〇メートルから二〇〇メートルの地点であることから、「産廃処分場の排水の中から」との報道が、真実に反し虚偽の報道であると断ずることはできない。原告の管理責任の及ぶ範囲で、湧水管の管理を含む原告の二次処分場における何らかの原因によって下流の河川水で鉛が検出されることとなったのである。

(四) 本件処分場近くの住民の「周囲の花木や境界に植えてあった杉の木が全部枯れた」との発言を報道したが、これは、素朴な住民の実感のこもった自然な訴えであった。産廃処分場から発生するアンモニアガスや硫化水素ガスにより樹木が枯れるということは、科学的根拠のあることであり、杉の木なども見当たらない現況を前にして、住民の発言内容には真実性があると判断したことに責められるべき点はない。

(五) 安川議長の「川に魚が一匹もいなくなった」との発言を報道した点については、現地の川の匂いやトロリとした水の手触りなどから、魚の住めるような川でないことを現認できたもので、このことは、右発言の真実性の裏付けとなった。また、同議長の「米ができない」との発言を報道した点は、奈良県衛生研究所が平成八年三月二一日に本件処分場下流の四カ所の水質を検査したところ、原告の処理場下でアンモニア性窒素と全窒素が基準の三倍以上存在したとの結果を明らかにしており、ここで処理場下とは一次処分場に設置されている水処理施設の直下ということで、つまり放流水(処理水)のことであり、一次処分場の水処理施設で処理した後の水から右窒素が出ているのであって、この過剰な窒素が稲枯れの原因となるということも科学的に根拠のあることであることから、右発言の真実性を認めたことに責められるべき点はない。

(六) 乙山発言二の報道については、吉永町議会議長という公的立場にある者の発言であること、原告は御所市議会の本件処分場視察の申入れを合理的理由なくして拒否したという事実があること等から、この発言の真実性に疑問を持たなかったのである。

(被告乙山の主張)

(一) 本件視察時の御所市議会議員らとの意見交換の際、被告乙山は、安川議長から、公害防止協定は守られず、原告に視察を申し入れたのに断られた等の話を聞いたため、原告は、総合的に信頼できる会社ではないと判断した。主に右説明を行った安川議長は、御所市議会議長という公人の立場にある者であり、そのような公人が吉永町議会内の特別委員会の視察という公的な場においてした発言であるから、その発言に対して被告乙山が信頼を置くことは当然である。

(二) また、右意見交換に同席していた村上御所市議会副議長は、御所市議会の環境問題特別委員会の前委員長であった者で、右特別委員会は、平成八年三月に、御所市内に持ち込まれる産業廃棄物や一般廃棄物の歯止め、違法な野焼きなどに対処するため、御所市議会に設置されたものであり、本件処分場も右特別委員会の活動の対象とされていたので、村上副議長は、いわば御所市議会の環境問題についての第一人者とも言えるのであり、その村上副議長が同席していた場における本件処分場についての発言は、右環境問題の第一人者も承認済みの発言であると受け取られるのが当然である。よって、安川議長の発言に高度の信頼を置いて被告乙山が発言したことには相当の理由がある。

(三) さらに、安川議長の話にあった、原告が御所市議会の視察の申し出を拒絶した件についても、原告が信頼できる会社でないと判断した相当の理由となっている。すなわち、右申し出に対し、原告は、何ら合理的な理由を示すことなく「事業に関わる者以外の立ち入り及び視察等は一切お断り申し上げているところでございます。」と視察を門前払いしている。産廃処分場に関しては、処分場が設置されている地域の住民が現実には最も多大な利害関係を有するのであり、その住民の代表である市議会の視察を門前払いにした点からすれば、誠意のない信頼できない業者であるとの印象を受けたとしてもやむを得ないのである。

(四) 加えて、被告乙山は、本件視察以前の平成八年一二月二日に本件処分場の現場に赴いて、状況を確認しており、自動車のドアを開けたとたんに腐敗臭を感じ、乳白色の川の水を確認しているほか、付近の住民である田中昭三から「ここ二年ほど臭いで本当に困っているのですよ、夜も寝られない、締め切って芳香剤をまいてマスクをして寝るんですよ」という体験談も直接耳にしており、本件処分場の直下ともいえる地域で自らこのような体験をした被告乙山が、これらの臭い等の問題が本件処分場に起因するもので、原告を信頼できない会社であると判断したとしても、何ら不合理な判断とはいえない。

(被告らの主張に対する原告の反論)

(一) 本件処分場下流約一キロメートルの地点の河川水から鉛が検出されたということで、本件処分場の監督官庁である奈良県が調査したが、その結果は、原告の本件処分場の維持管理には特に問題は認められないとのことであった。したがって、本件報道一及び二が「本件処分場の排水の中から鉛などの有害物質が県が設けた基準を上回って検出された」とする点は虚偽である。

(二) 本件報道一及び二の内容の真偽については、被告山陽放送が主張するような他の報道機関の報道自体を無条件に真実と思い込んで後追い報道したことが相当の理由となるはずはなく、被告山陽放送及び被告西日本放送が、公共放送機関に対して期待される通常の取材活動を真摯に行いさえすれば、容易に知り得たはずのことである。すなわち、本件処分場から鉛が流出しているか否かは、産業廃棄物処分場の監督官庁である奈良県環境管理課に問い合わせて裏付け取材をしていさえすれば、事実関係について現在も調査中であること、鉛の検出された場所は本件処分場から相当離れた場所にあり、しかも検出されたのは一度だけであったこと等が簡単に判明したはずであるが、奈良県に対して取材はおろか事実確認すらしていない。

また、処分場周囲の環境の悪化等についても、近隣の住民と称する人間の一方的な発言を軽率に信用したというにすぎず、事実関係の真偽の確認を全くしていない。

そもそも、これらの放送の内容は、原告の事業の遂行にとって極めて重大な影響を及ぼすことが明らかなものである。したがって、公正、中立な報道を目的とするのであれば、放送内容に深刻な利害関係を有する原告に対して何らかの取材の依頼があってしかるべきところ、そのような申し入れは御所市における取材の前にはもちろん、放送する以前には全くなされなかった。

(三) 被告乙山は、当時地方議会の議長という公共的地位にあり、その発言に対する社会的信用性が高いことから、自己の発言の影響力を十分に配慮して発言する必要があったところ、右に述べたように放送局の裏付け取材が極めて杜撰なものであるとの実態をすべて認識した上で、乙山発言一及び二を行っているもので、違法性を阻却すべき事由はない。

3  (争点三)原告の損害と慰謝料額及び謝罪広告の必要性

(原告の主張)

(一) 被告らは、相伴って御所市を訪れており、その際に共通の取材対象に対して取材等を行っている。したがって、被告らは相互に、どのような内容の放送がなされるのかを知っていたか、あるいは容易に知り得たはずである。そして、その取材が十分な裏付け取材をしていない杜撰かつ一方的なものであるということについても、共通の認識を有していた。したがって、被告らは共同して原告の社会的名誉及び信用を毀損したもので、共同不法行為を構成する。

(二) 本件では、中国、四国地方において公共放送機関としての実績を有する被告山陽放送及び被告西日本放送が、内容の共通する放送をしていることから、放送内容の信用性は極めて高いものとなっていて、更に、番組の中に地方議会議長という公職に就くものの発言が含まれていることにより、内容に対する信頼性がより一層高まっており、その結果、被告らが単独で原告の名誉、信用を毀損する放送等を行った場合に比して、名誉、信用の毀損の程度は著しく大きいものとなり、これを回復するためには、慰謝料として被告各自二〇〇〇万円を原告に対して支払うとともに、前記第一請求二ないし四記載のとおりの謝罪広告をそれぞれ一回掲載することを要する。

(被告西日本放送の主張)

仮に、本件報道二につき不法行為が成立するとしても、訂正とお詫びを報道し、原告の名誉及び信用の回復につとめた。すなわち、被告西日本放送は、本件報道二放送直後に原告から事実の確認としかるべき訂正を求められたことから、奈良県生活環境部環境管理課に照会し、その結果、奈良県としては、右照会の時点でも、平成八年六月に本件処分場から約一キロメートル離れた下流の河川水から検出された環境基準一リットル中0.01ミリグラムを超える0.13ミリグラムの鉛及び同年五月に本件処分場直下の湧水口水から水一リットル中0.22ミリグラム検出された鉛の流出源について、調査を続けており、流出源はいくつか考えられるが因果関係が特定できず、結局のところ、本件処分場が原因と断定することはできない、との事実が判明したことから、本件報道二が視聴者に本件処分場から鉛が検出されたかの如き間違った印象を与えたとすれば、倫理上問題なしとしないと判断し、平成九年二月三日午後六時四〇分ころのニュース番組「RNCワイドニュースプラス1」(本件報道二と同時間・同番組)において、別紙六記載の内容をもって、訂正とお詫びの報道をした。

第三  争点に対する判断

一  争点一について

1  それぞれ乙山発言一又は二を含む本件報道一及び二は、いずれもテレビ放送として行われたものであるところ、テレビ放送は、映像及び音声を情報伝達の手段とし、その情報の受け手である視聴者は、流された情報を瞬時にとらえてその内容を判断するものであるから、テレビ放送の内容が何人かの名誉ないし信用を毀損するものであるか否かについては、一般視聴者がその放送を一見した場合に通常受けるであろう印象を基準として、放送において取り上げられた者の社会的評価がその放送によって低下するかどうかを判断すべきである。

2  これを本件についてみると、本件報道一及び二の内容は、本件処分場の排水から奈良県が定めた基準以上の有害な鉛が検出されたという事実、本件処分場の設置が原因で同処分場の周囲の境界に植えてあった杉の木が全部枯れたという事実を、加えて本件報道二においては本件処分場の排水により川に魚が一匹も生存しなくなり、米の生産ができなくなったという事実をも、テレビ放送を通じて公然と摘示するものであり、一般視聴者が右放送を一見した場合に、産業廃棄物の処分等を業とする会社としての原告に対して極めて否定的な印象を抱くことは明らかであり、本件報道一及び二は原告の社会的評価ないし信用を低下させるものであると認められる。

3  また、本件報道一及び二にそれぞれ含まれた乙山発言一及び二は、原告が信頼できない会社であることを、放送会社のインタビューに答える形で述べて、公然と事実を摘示するもので、被告乙山の当時の吉永町議会議長としての社会的地位及びその発言の直接的表現からして、その放送の一般視聴者が、多少の程度の差はあれ原告が信頼できない会社であるとの印象を持つことは避けられず、これもまた原告の社会的評価ないし信用を低下させるものと認められる。

4  被告山陽放送及び被告西日本放送は、本件報道一及び二が、その内容からして、基準違反の鉛の検出という客観的な事実を含む摘示をし、加えて、地方議会議長である被告乙山の発言として原告の社会的信用の直接触れる乙山発言一及び二をそのまま報道しているのであるから、これが放送された場合に、一般視聴者の受ける印象からして原告の社会的評価を低下させるものであることは、右内容からして、当然認識していたものと認められ、仮に、これを認識していなかったとしても、極めて容易に認識し得たはずの認識を欠いたこととなり、被告山陽放送及び被告西日本放送には、本件報道一及び二が原告の名誉ないし信用を毀損することにつき、故意又は重大な過失があったというべきである。

5  また、被告乙山は、放送会社のインタビューに答える形で公然と事実を摘示したのであるから、たとえ具体的な報道内容がどうなるかについては必ずしも予測できないとしても、いずれ自分の発言が報道されることは当然認識していたものと考えられ、この点は被告乙山もその本人尋問において自認するところである。したがって、乙山発言一及び二の表現及び内容が直接的に原告の社会的評価を問題とするものである以上、具体的な報道に多少の編集が加えられるとしても、「原告が信頼できない会社である」との発言内容自体に大きな変更を加えられるはずもなく、右発言が報道されれば、原告の名誉・信用を毀損することとなることは当然に認識していたものと認められ、仮に、これを認識していなかったとしても、極めて容易に認識し得たはずの認識を欠いたこととなり、よって、被告乙山についても、乙山発言一及び二を行うことによって原告の名誉・信用を毀損することについて、故意又は重大な過失があったといわざるを得ない。

6  なお、被告西日本放送は、原告の営業活動範囲と被告西日本放送の放送区域が異なる旨主張しており、これは、右主張をもって、本件報道二によって原告の名誉ないし信用を棄損することはなかったとする趣旨と思われるが、証人谷幸児の証言によれば、原告が産業廃棄物処分場を所有しているのは御所市内だけであるが、右処分場に産業廃棄物を持ち込む業者は岡山県内にもおり、このような意味での原告の営業活動範囲は、被告西日本放送区域である岡山県ないし香川県にも及び得ることが認められるから、被告西日本放送の右主張は理由がない。

二  争点二について

1  証拠(乙三の一ないし七、乙四及び五、乙七ないし一〇、丙七、証人原憲一及び同苅田實)及び弁論の全趣旨によれば、本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二は、吉永町における産業廃棄物処分場設置問題を背景に、被告山陽放送及び被告西日本放送においては、従前から取り組んでいた環境問題の一環として、また、被告乙山としは、右設置問題に直接的にかかわる公人としての行動である本件視察の一環として、それぞれなされたもので、原告が、吉永町に産業廃棄物を建設しようとしている株式会社スリーエーに対して三割の出資をしていることから、被告乙山においては原告の産業廃棄物処分場の実態を調査し、被告山陽放送及び被告西日本放送においては右調査結果を報道してこれを広く知らしめることを目的としていたものと認められ、いずれも、公共の利害に関する事実について専ら公益を図る目的で行われたものと認められる。

2  そこで、前記各事実の摘示について、真実性の証明がなされたか否かについて検討すると、証拠(甲一、丙三の四、丙五、丙七、丁三、証人原憲一、同苅田實及び同谷幸児)によれば、平成八年四月一三日に、本件処分場の最終処分場の下流約一キロメートルの地点の河川水から、水一リットル中0.01ミリグラムとの環境基準は超えないものの、これに近い水一リットル中0.073ミリグラムの鉛が検出されたことから、奈良県が原因の調査を開始し、その過程で、同年五月九日に本件処分場直下の湧水口水から、右基準を超える水一リットル中0.22ミリグラムの鉛が検出され、同年六月九日に本件処分場から約一キロメートル離れた下流の河川水から水一リットル中0.13ミリグラムの鉛が検出されたが、その後、平成八年七月以降は、放流水、湧水、河川水のいずれからも右基準を越える鉛は検出されなかったこと、右調査によれば、本件処分場の廃棄物の下の遮水シートに破損はなかったことが推定され、本件処分場の廃棄物による遮水シートを通じての汚染はなかったといえること、したがって、原告には維持管理基準等廃掃法上の問題はなかったこと、河川水につき問題となった鉛については、原因が本件処分場の遮水シートの下を通る湧水管の堆積物によるものではないかとの予測のもとに原因調査が行われたが、特定することができなかったこと、右の鉛が検出された場所は、生活排水のみならず、隣接する奈良県五条市のいわゆる工業団地から流出する排水、本件処分場の上流に位置する安定型処分場から排出する排水、本件処分場の隣にある牧場から流出する排水等が複合的に流れている河川であり、鉛が検出されたという水は、それらの混合水であることが認められ、右の事実からすれば、結局、本件処分場ないしはその放流水から基準値を上回る鉛が検出された事実を認めることはできない。

被告山陽放送は、右採水地と本件処分場の位置関係等から鉛が本件処分場から排出されたことが推定できる旨主張するが、右認定のとおり、鉛が検出された河川水は他の施設からの排水や生活排水を含む混合水であって、本件処分場の上流ないし近隣にも汚水等を排出する可能性の否定できない施設が存在するのであって、被告山陽放送の主張するような推定は働かない。奈良県の調査によれば、本件処分場の遮水シートに破損がなかったことは、単に原告作成の報告書によってのみ認められたのではなく、原告の確認作業中に奈良県自身が行った目視調査や事情聴取を通じて確認している上、仮に遮水シートに破損があったのであれば、その後も基準値を上回る鉛が継続して検出されてしかるべきところ、平成八年七月以降は一切基準値を上回る鉛は検出されていないのであって、奈良県の右調査結果を覆すに足る証拠は見当たらず、結局、本件報道一及び二における鉛の検出に関する事実の摘示について、真実性の証明はないものといわざるを得ない。

3  本件処分場周辺の境界に植えてあった杉の木が枯れたとの事実の摘示については、証人苅田實の証言及び被告乙山本人尋問の結果によれば、本件処分場周辺の花木が枯れていることを認め得ないではないが、これと本件処分場の設置ないし運営との間に因果関係を認めるに足りる証拠はない。前掲各書証及び証人苅田實の証言によれば、河川水ないし湧水からアンモニア性窒素ないし全窒素が検出されているが、河川水の混合水としての性質は既に述べたとおりであり、湧水は本件処分場の上流から流れて本件処分場の遮水シートの下を通って流れ出るものであり、右アンモニア性窒素ないし全窒素が本件処分場から排出されたものと認めるに足りる証拠はない。

4  乙山発言一及び二については、原告が一般的に信用できない会社であることを認めるに足りる証拠はない。丙第四号証、証人谷幸児の証言及び被告乙山本人尋問の結果によれば、原告が御所市議会等の視察申入れを拒否した事実は認められるが、他方で、右証言によれば、原告と安川議長との間には、本件処分場建設を巡る確執があり、右の視察の申入れとその拒否の背景にそうした特殊な事情が影響していることが窺われるのに対し、原告は、吉永町に対しては視察を歓迎する旨を従前から伝えているところであり、こうした事実を考慮すれば、右視察拒否の事実だけをもって、原告の一般的信用性が低いことを推認することはできない。

5  なお、被告山陽放送は、地元住民及び被告乙山の発言をそのまま放送した点でその内容は真実である旨主張するが、前述のとおり、テレビ放送における名誉ないし信用の毀損の成否は一般視聴者が当該放送を一見した場合に通常受ける印象により判断されるところ、一般視聴者が、特定の発言が存在したとの報道とその発言の内容にかかる事実の報道とを明確に区別しているとは考えられず、発言の内容が事実であるとの印象を持つことによって報道により取り上げられた者の社会的評価が低下することが問題なのであるから、真実性の証言も、発言自体の存否にとどまらず、発言の内容となった事実をも対象とするものと解すべきである。

6  してみると、本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二については、結局、真実性の証明がないことに帰着する。

7  次に、被告らがそれぞれ本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二にかかる事実を真実であると誤信するにつき相当な理由があったか否かについて判断する。

被告山陽放送及び被告西日本放送は、前記河川水から鉛が検出されたことを前提に、主として安川議長の説明及び地元住民の発言を根拠として、前記のとおりの本件処分場からの鉛の排出、同処分場周辺の杉の木枯れの事実を真実と信じた旨主張するが、鉛の排出については、本件処分場の監督官庁である奈良県に確認すれば、当時奈良県が河川水から鉛が検出された原因を調査中であったことが容易に判明したはずである。仮に、右確認に日時を要し、報道の迅速性から、右確認を待つことができなかったとしても、奈良県に右事実関係について確認中である旨の説明を付して報道することも可能であったのであるから、報道の迅速性だけを理由にして全く奈良県に事実確認を行わなかった点を正当化することはできない。

8  なお、被告山陽放送は、平成八年六月二八日付けの奈良新聞の報道をも本件処分場からの鉛の排出を真実と信じた相当の理由の一つとして挙げるが、一般論としても、裏付け調査をせずに他の報道機関の報道をそのまま信ずることが名誉毀損の違法性を阻却する正当の理由とならないことは、報道の正確性がその迅速性と裏腹の関係に立っていることを考えれば、むしろ当然であり、さらに、本件においては、右奈良新聞の報道について、丙第二号証によれば、同報道においては、「本件処分場直下の排水」から基準値以上の鉛が検出された旨を伝えており、本件処分場からないしは本件処分場の排水から直接鉛が検出されたか否かは必ずしも定かでない書きぶりとなっている上、奈良県としては右鉛の検出と本件処分場との間に因果関係があることを断定できないとの立場であることをも、同一の記事の中で併せて報道しており、右報道をもって本件処分場ないしはその排水から鉛が検出されたと判断するのは軽率であり、右報道も相当の理由を基礎付けるものではない。

9  本件処分場周辺の杉の木等が枯れた事実については、何ら科学的根拠の収集がなされたことを認めるに足りる証拠ない。仮に、本件処分場周辺の臭い等から窒素ないしはその化合物により花木が枯れたことが認められるような状況であったとしても、その窒素が本件処分場と如何なる関係にあるのかについては、全く資料がなく、にもかかわらず、被告山陽放送及び被告西日本放送は、本件処分場がその周辺の花木の枯れの原因であることを前提として本件報道一及び二を行っており、この点でも相当の理由は認められない。

10  そもそも、本件において、被告山陽放送及び被告西日本放送は、少なくとも、原告に対して事実確認を求め、あるいは取材を申し入れ、原告に反論の機会を与えていれば、鉛の検出に関して奈良県が調査中である事実等の情報が得られ、本件視察に関する報道を直ちに行うべきか、取りやめるべきか、更なる調査の後に行うべきか、あるいは右報道を行うにしても何らかの註釈を付けるべきか等についての判断材料が得られたはずであるのに、被告山陽放送も被告西日本放送も一切これを行っていない。本件報道一及び二の内容については、鉛の検出にしても、本件報道一及び二より数カ月も以前に検出されていたもので、原告に対して右のような事実確認すら行う時間的余裕もないほど切迫した迅速な報道が求められていたとは到底考えられない。かえって、証人原憲一及び同苅田實の各証言によれば、本件報道一及び二の内容は、被告山陽放送及び被告西日本放送が、吉永町産業廃棄物処分場設置問題として何らかの形で継続的に取り上げてきていた報道テーマの一つとなるべきものであることが認められ、必ずしも即座に報道せずとも、報道価値を失わないものであったと考えられるのである。

11  よって、前記のような奈良県に対する照会、あるいは、少なくとも原告に対する事実確認ないし取材を何ら行わずになされた本件報道一及び二については、その内容が真実であると誤信するにつき相当の理由があったとは認められない。

12  乙山発言一及び二について、被告乙山は、安川議長が、公的な立場で、公的な機会に、環境問題に詳しい村上御所市議会副議長同席の上でなされた発言を信用したことを主たる根拠として、誤信についての相当の理由を主張するが、被告乙山本人尋問の結果によれば、安川議長が原告を信用できない会社であると述べた根拠につき、被告乙山自身、安川議長に特に問い質してはおらず、もちろん安川議長との意見交換後に安川議長の発言の根拠を調査することもしないまま、被告山陽放送及び被告西日本放送の各記者のインタビューに応じたものであることが認められる。

本来、原告という一つの会社に対する総合的な評価として、信用のできない会社であると結論付け、これを公共放送機関のインタビューに答える形で公然と事実を摘示するからには、相当の根拠をもって行ってしかるべきであるから、十分な根拠をもつに至っていない場合には発言を差し控えるべきであり、安川議長らとの意見交換後に唐突にインタビューの形で発言を求められたとしても、必ずしもその場で応答しなければならないものではない上、仮に応答するとしても、とりあえずは当たり障りのない応答をして、後日調査の上、安川議長の発言について十分な裏付けができた段階で内容的に踏み込んだ発言を行うことも可能だったのであり、こうした配慮を欠いた被告乙山の発言は、結局は、安川議長の発言を単に鵜呑みにしてなされたものにすぎず、その内容が信実であると信ずるにつき相当の理由があったとはいえない。

三  争点三について

1  前記のとおり、本件報道一及び二並びに乙山発言一及び二により、原告の名誉ないし信用が毀損されたことが認められるから、原告は無形の損害を被ったというべきであり、右各報道及び発言は同一の機会に取材され、乙山発言一又は二がそれぞれ本件報道一及び二の内容の一部となり、わずか一日の違いで本件報道一及び二がそれぞれ放送されているのであるから、被告らの行為は共同不法行為に当たり、被告らは、各自原告に生じた全損害を賠償する義務がある。

2  なお、丙第六号証の二及び証人苅田實の証言によれば、被告西日本放送主張のお詫びと訂正の報道が平成九年二月三日になされたことが認められるが、右訂正の内容は鉛が検出されたことに関し、これと本件処分場との因果関係が不明であることを報道するに過ぎず、本件報道二において摘示されたその余の事実については触れるところがない上、本件報道二から二週間以上を経てなされているのであって、右お詫びと訂正の報道をもって、本件報道二により原告に生じた損害がすべて填補されたとは認められない。

3  そこで、損害額について検討すると、産業廃棄物の処分等を営む原告にとっては致命的な情報の放送となりうる本件報道一及び二がテレビ放送によりなされ、その放送時間帯は比較的ニュース番組の視聴率が高いと考えられる夕方であったことが認められる一方で、本件において原告に具体的な財産的損害が生じたことを認めるに足りる証拠はなく、また、原告の主たる営業の地域である奈良県周辺と本件報道一及び二の放送区域である岡山県及び香川県とは基本的に重なっていない上、基準を越える鉛の検出に関しては、被告西日本放送により、右のとおりお詫びと訂正の報道が本件報道二と同じ時間帯の同じ番組においてなされていることも認められ、これら本件において認められる一切の事情を考慮すると、原告の被った無形損害に対する賠償としては、被告各自が金一〇〇万円を支払うことをもって相当であると認める。

4  本件において、原告は、金銭賠償に加えて謝罪広告を求めているが、謝罪広告は、名誉毀損によって生じた損害の填補の一環として行われ得るものであるところ、本件においては、具体的な財産的損害の発生が認められる事案ではなく、前示のとおり、原告の主たる営業の地域と本件報道一及び二の放送区域とは重なっておらず、基準を越える鉛の検出に関しては被告西日本放送により訂正報道がなされていることからすれば、原告の名誉ないし信用の毀損については、右のとおり金銭賠償のほかに謝罪広告を命ずる必要性までは認められない。

第四  結論

よって、原告の請求は、被告らに対し、各自金一〇〇万円及びこれに対する平成九年一月一七日(不法行為となる本件報道一の放送された翌日であり、本件報道二の放送された当日である。)から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるから、これを認容し、その余の部分については理由がないからこれを棄却する。

(裁判官村田斉志)

別紙一〜三 謝罪広告<省略>

別紙四 平成九年一月十六日放送「RSKイブニング・ニュース」(午後6時半〜7時)の反訳文<省略>

別紙五 平成九年一月一七日放送「RNCワイドニュースプラス1」(午後5時半〜7時)の反訳文<省略>

別紙六 平成九年二月三日放送「RNCワイドニュースプラス1」(午後5時半〜7時)の反訳文<省略>

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