岡山地方裁判所 平成9年(ワ)667号・平9年(ワ)713号・平9年(ワ)789号・平9年(ワ)877号・平10年(ワ)923号 判決
主文
一 第六六七号、第七一三号、第七八九号、第八七七号事件原告及び第九二三号事件原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は、第六六七号、第七一三号、第七八九号、第八七七号事件原告及び第九二三号事件原告の連帯負担とする。
事実及び理由
第一請求
本件は、第六六七号、第七一三号、第七八九号、第八七七号事件原告すなわち原告X1社が、次の一のとおり、第九二三号事件原告すなわち原告X2が、次の二のとおり、各該当事件被告に対し、各該当事件被告との間に締結した保険契約に基づき、平成九年一月九日ころ発生した訴外F(以下「訴外F」という。)の死亡を原因とする保険金及びこれに対する該当事件被告において保険金の支払いを拒絶した日以降における民事法定利率年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める請求である。
一 原告X1社
1 第六六七号事件
被告は、原告に対し、金一億〇〇〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成九年六月一七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 第七一三号事件
被告は、原告に対し、金五〇〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成九年四月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 第七八九号事件
被告は、原告に対し、金二三〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成九年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 第八七七号事件
被告は、原告に対し、金八〇〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成九年八月二八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告X2
第九二三号事件
被告は、原告に対し、金三〇〇万〇〇〇〇円及びこれに対する平成九年七月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 争いのない事実並びに証拠によって容易に認めることができる事実(乙イ第二号証、第三号証、第五号証、乙ロ第一一号証の一ないし七、乙ハ第一号証、第三号証、乙ニ第一号証、第二号証、第五ないし第八号証、第一〇号証)
1 原告外一名と被告ら間の保険契約の存在
(一) 第六六七号事件
ア 契約日 平成四年七月七日
保険の種類 定期保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告大同生命保険相互会社(以下「被告大同生命」という。)
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 主契約 一億〇〇〇〇万〇〇〇〇円
災害割増特約 五〇〇〇万〇〇〇〇円
イ 契約日 平成元年五月一日
保険の種類 定期保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告大同生命
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 主契約 七〇〇〇万〇〇〇〇円
災害割増特約 五〇〇〇万〇〇〇〇円
ただし、アの保険契約は、訴外株式会社aが被告大同生命との間に昭和六〇年一二月一日同会社を死亡保険金受取人として締結した保険契約を変更したもの。
(二) 第七一三号事件
契約日 昭和五九年一一月一日
保険の種類 平準定期保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告アメリカン・ライフ・インシュアランス・カンパニー(以下「被告アメリカン・ライフ」という。)
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 主契約 五〇〇〇万〇〇〇〇円
傷害特約 一〇〇〇万〇〇〇〇円
災害死亡給付特約 四〇〇〇万〇〇〇〇円
(三) 第七八九号事件
契約日 昭和六〇年三月一三日
保険の種類 終身保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告住友生命保険相互会社(以下「被告住友生命」という。)
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 主契約 二一〇万五三〇〇円
定期保険特約 二八〇〇万〇〇〇〇円
災害割増特約 二〇〇〇万〇〇〇〇円
傷害特約 三〇〇万〇〇〇〇円
(四) 第八七七号事件
ア 契約日 平成元年五月一日
保険の種類 普通傷害保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告エイアイユー・インシュアランス・カンパニー(以下「被告エイアイユー」という。)
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 五〇〇〇万〇〇〇〇円
イ 契約日 平成元年五月一日
保険の種類 普通傷害保険
保険契約者 原告X1社
保険者 被告エイアイユー
被保険者 訴外F
死亡保険金受取人 原告X1社
死亡保険金額 三〇〇〇万〇〇〇〇円
(五) 第九二三号事件
契約日 昭和五五年二月一日
保険の種類 終身保険
保険契約者 岡山しんきん友の会
保険者 被告住友生命
被保険者 訴外F
保険金受取人 原告X2
保険金額 死亡保険金 三〇〇万〇〇〇〇円
災害死亡保険金 三〇〇万〇〇〇〇円
2 支払事由及び免責事由に関する保険約款の存在
(一) 原告X1社及び訴外岡山しんきん友の会と被告大同生命、被告アメリカン・ライフ及び被告住友生命との間の生命保険契約における前項の災害割増特約、傷害特約、災害死亡給付特約に関する保険約款には、右の各保険金の支払事由として、不慮の事故すなわち被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に受けた傷害のため死亡した場合に保険金を支払う旨規定され、他方、免責事由として、被保険者の故意又は重過失、犯罪行為、精神障害又は泥酔を原因とする事故等によって支払事由に該当したとき、保険金を支払わない旨規定されている。
(二) 原告X1社と被告エイアイユーとの間の普通傷害保険契約における保険約款には、右の保険金の支払事由として、不慮の事故すなわち被保険者が急激かつ偶然な外来の事故によってその身体に受けた傷害のため死亡した場合に保険金を支払う旨規定され、他方、免責事由として、被保険者の故意、自殺行為・犯罪行為・闘争行為、精神障害又は泥酔を原因とする事故等によって支払事由に該当したとき、保険金を支払わない旨規定されている。
3 被保険者の死亡
訴外Fは、平成九年一月七日夕刻家人に行き先を告げないまま、滞在先の広島県甲奴郡<以下省略>訴外G(以下「訴外G」という。)方を出たまま、所在不明となり、同月一一日午前一一時ころ同所<以下省略>b教会から数十メートル離れた山林傾斜面の笹藪の中で凍死体で発見された。
4 原告らによる保険金の支払請求
(一) 原告X1社
(1) 原告X1社は、被告大同生命に対して保険金の支払請求をしたが、被告大同生命は、平成九年六月一七日付け書面で訴外Fの死亡が不慮の事故によるものとは認められないとして、その支払いを拒絶した。
(2) 原告X1社は、被告アメリカン・ライフに対して保険金の支払請求をしたが、被告アメリカン・ライフは、平成九年四月二二日付け書面で訴外Fの死亡が不慮の事故によるものとは認められないとして、その支払いを拒絶した。
(3) 原告X1社は、被告住友生命に対して保険金の支払請求をしたが、被告住友生命は、平成九年七月二九日付け書面で訴外Fの死亡が不慮の事故によるものとは認められないとして、その支払いを拒絶した。
(4) 原告X1社は、被告エイアイユーに対して保険金の支払請求をしたが、被告エイアイユーは、平成九年八月二八日付け書面で訴外Fの死亡が不慮の事故によるものとは認められないとして、その支払いを拒絶した。
(二) 原告X2
原告X2は、被告住友生命に対して保険金の支払請求をしたが、被告住友生命は、平成九年七月二九日付け書面で訴外Fの死亡が不慮の事故によるものとは認められないとして、その支払いを拒絶した。
二 争点
1 訴外Fの死亡が保険約款に定める支払事由である不慮の事故すなわち急激かつ偶然な外来の事故によるものか否か。
(一) 原告らの主張
訴外Fが山道が分岐した点に近い笹藪の中で頭部を下に向けて横たわる姿勢で死亡しているのを発見されており、覚悟の自殺の場所としては不自然な笹藪の中であったことなど、遺体発見現場及び遺体の状況等からすると、訴外Fは、平成九年一月七日夕刻滞在先のG方を出た時期からそれほど経過しない時期に遺体発見現場の山道に至り、同所が急傾斜で積雪のため滑りやすくなっていたため滑って転倒し、そのまま意識を失ったため、凍死したものと推認されるから、不慮の事故によって死亡したものである。訴外Fが生前実家で年末年始を実家でのんびり過ごしていたこと、訴外Fが代表者である原告X1社がおりからの経済不況のため経営不振に陥っていたとはいえ、大口債権者の協力により債務の支払い猶予を得て資金繰りが好転し、債権者に対する返済も始めるようになっていたこと、訴外F個人としても負債総額は多いが、残った不動産を賃貸してその賃料で負債を返済しており、減額になったとはいっても年額二四〇〇万円の役員報酬を受け取っていたことからすると、被告らの主張する状況が自殺に結びつく事情であるとは認め難い。
(二) 被告らの主張
訴外Fの遺体には外傷等が一切なく、遺体発見現場に滑ったと見られる痕跡がなく、また、同所が軟弱な地盤であり、山道と笹藪の高低差や笹藪が緩衝材の役割を果たすと考えられる状況からすると、およそ転倒したとか転倒によって意識を喪失したとは到底認められない。訴外Fは、経営する原告X1社の経営不振に加え、当時暴力団員風の人物から高級外車を取り上げられた上に多額の金銭の支払いを要求され、追い込みを掛けられていたため、抑鬱状態にあったものであり、このため当時精神安定剤エチカーム錠を服用していたものであって、現場で大量のエチカーム錠が発見されており、しかも、ジャンバーを脱いだ上それが腰部に掛けられていたことからすると、ウイスキーを用いて精神安定剤を服用し、覚悟の自殺を図った結果凍死したものであり、その死亡は、不慮の事故によって引き起こされたものに該当しない。
2 仮に訴外Fの死亡が不慮の事故によるものであるとして、それが訴外Fの重過失に基づくものであるか否か。
(一) 原告らの主張
訴外Fは、正月に実家に近い裏山で雪見酒と洒落て歩くうち、急斜面の山道でぬかるみのため滑って転倒したものであるから、重過失には当たらない。
(二) 被告らの主張(被告エイアイユーを除く。)
訴外Fは、原告X1社の経営不振から事業意欲を喪失し、厭世観等にとらわれ、実家に帰宅する心情にもなれないまま裏山を彷徨した挙げ句、ウイスキーを飲んで遺体発見現場で野宿同様に睡眠した結果、夜間の冷え込みにより凍死したものであり、仮に故意でないとしても、その死亡は訴外Fの重大な過失によって引き起こされたものである。
第三争点に対する判断
争点1(訴外Fの死亡が不慮の事故によるものか否か)について
1 甲第一号証、第四号証の一ないし三〇、第五号証、第六号証、第八号証、第一〇ないし第一二号証、第一六号証、第一七号証、第一九ないし第二七号証、第二九号証、第三〇号証、乙ロ第一二号証の一及び二(ただし、後記認定に反する部分を除く。)、第一三号証、乙ニ第二号証、第四ないし第七号証、第一三号証、第一五号証、第一六号証、第一九ないし第二一号証、第二二号証の一及び二、第二四号証、第二五号証の一及び二、証人H、同X2、同I及び同Jの各証言(ただし、いずれも後記認定に反する部分を除く。)、広島地方検察庁福山支部検察官に対する調査嘱託の結果並びに弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。なお、争いのない事実も含む。
(一) 訴外Fは、昭和二一年○月○日生まれの死亡時五〇歳の男子であり(妻X2と長男K、二男Lの二子がある。)、印刷製版材料・機器類の販売等を業とする原告X1社の代表者であるほか、関連会社aの代表者でもあったが、代表者である原告X1社が数年来売上げ不振と放漫経営のため経営状態が悪化し、平成八年三月期の決算では約二億七八〇〇万円に上る多額の累積欠損金があり、金融機関を含む主要債権者による経営管理下にあっただけでなく(岡山市民信用組合に対して五億四八〇〇万円、六桜商事株式会社に対して三億五〇〇〇万円、コニカ株式会社に対して八五〇〇万円の各債務を負担していた。)、原告X1社が多額の貸付をしていた関連会社aも平成九年一一月期で八三〇〇万円を超える損失があり、平成八年六月に解散しており、このような状況の下で個人的にも一億八〇〇〇万円を超える多額の負債があるため、所有不動産を一部売却することにより負債の整理を実行していた。
(二) また、訴外Fは、事業経営が悪化していただけでなく、平成八年一二月二三日には自宅に押し掛けた暴力団員とみられるMら複数の人物から厳しい債権の取立てを受け、高級外車二台を引き上げられたほか、「○○」なる会社の買取りを要求され、その場で右会社の買取り代金名目で二〇〇〇万円を支払う約束をさせられた上(金策の目処もなかったものと認められる。)、翌二四日の支払いを迫られていたことから、夫婦で警察に相談に出かけ、その勧めで自宅を離れ、警察関連施設で二日宿泊し、さらに二六日からは同人にとって故郷で実家のある広島県下のc町に逃避し、その間訴外Gやその弟であるN宅で都合二週間近く過ごした。その間、訴外Fは、従前帰省した際のように外出することを避け、部屋に閉じ籠もってビール類を飲みながら過ごす日々であり、新年一月七日になっても岡山の自宅に帰宅し、出社しようとしないため、妻X2が迎えに訴外G方を訪れたところ、それから間もない夕刻になって妻を始め、家人に行先を告げないまま突然姿を隠し、四日後に実家からほど遠くない裏山の笹藪の中で裏山の畑にゴミを捨てにきた訴外Gの妻Hによって遺体となって発見された。前記Mらは、訴外Fが郷里に逃避した後も、年初から原告X1社に押し掛け、訴外Fが死亡したことを知るまで連日にわたりその所在を突き止めるため終日事務所内に居座った。前記Mらとの間では、後に原告X2がMに対し五〇〇万円、O外一名に六三〇万円を支払うことで示談解決した。
(三) 訴外Fは、当時精神的心理的に追いつめられた状態にあり、当時医師から処方された精神安定剤を服用しており、遺体の着衣のポケットには神経症、鬱病等による不安、緊張、抑鬱、睡眠障害等に効用のあるエチカーム錠剤三二〇錠があり、このうち、何錠か判明しないが服用した形跡があり、なお、未使用の錠剤が遺体周辺に落下していた。エチカーム錠(神経症、鬱病の場合、通常一日三ミリグラムを三回に分けて服用する。)は、健康人の場合強力な鎮静・催眠作用がある精神安定剤であり、アルコール類と併用することによって相互に作用が増強することがあるとされている。また、現場には遺体から数メートル離れた地点に容量の約八割が残ったウイスキー瓶(一〇〇〇ミリリットル)が残されていた。
(四) 遺体が発見された場所は、訴外Fが祖母及び叔父によって養育され、高校時代まで過ごしたc町内の実家近くの裏山の中腹にある笹藪の傾斜面であり、同所からd川で隔てられた実家を間近に見下ろすことができるが、年初の寒冷期で当時積雪があり、夜間であれば人が近づかない細い勾配の急な山道の分岐点から少し離れた笹藪の中であり、近くには何枚か畑があるが、訴外Fの遺体が所在不明になってから丸四日近く経過して発見されていることから明らかなように、夜間はもちろん昼間であっても年初の場合あまり近づかない場所であった。
(五) 遺体に骨折はもちろん、創傷、打撲、擦過痕、皮下出血や着衣の乱れ・汚れがなく(もっとも、左足の靴は、身体から脱し、左足付近にあった。)、心臓血及び髄液が遺体から採取され、検査されているが、脳卒中、心臓麻痺その他の急死を引き起こす病気疾患の形跡も認められなかった。血液中からは一ミリリットル当たり約〇・一七ミリグラムのアルコールが検出されているが、薬物は検出されていない。しかし、エチカーム錠の成分は、そのほとんどが尿糞便中に二四時間以内に排出されるものであり、訴外Fが入眠中に凍死しており、服用から凍死まで相当長時間経過しているとみられることからすると、遺体から薬物を検出できなかったとしても、精神安定剤を服用していないということはできない。現場には人が争った形跡もなく、山道に対して遺体のあった笹藪は山道の分岐点から少し入った笹藪の中であり、笹藪が山道よりも一メートル足らず低い関係にあるが、遺体は笹藪のなかにその一部が隠れる状況で頭部を斜面下に向けた仰向けの姿勢で発見されており、腰部には脱いだジャンバーが掛けられた状態にあったことからも、山道を歩いていた際に何らかの原因で転倒したことによって笹藪の中に倒れ込んだものとは認め難く(一月七日も一月八日も降雪があったが、積雪に足を滑らした痕跡が山道に残されていない。)、仮に転倒したとしても、現場は笹藪が密生し、積雪も数センチあるため意識喪失の原因となる衝撃を受け得る地面状況になかった。着衣、所持品等の中に遺書とみられるものはなかった。
(六) 訴外Fの死因は、警察及び医師によって凍死であると判断された。その死亡時期は、検死を行った警察官や医師によって遺体の直腸温度及び外気温や死後硬直の状況から、死後四八時間以上経過しており、推定死亡日は平成九年一月九日とされた。c町では、いずれも九時現在において一月七日一八センチメートル、一月八日一二センチメートル、一月九日八センチメートルの降雪があり、c町周辺にある世羅町、庄原市、府中市では右の三日間にわたり最低気温が氷点下以下を記録した。
(七) 原告X1社は、既に代表者訴外Fの死亡によって三億六〇〇〇万円を超える保険金収入を得ただけでなく、本件訴訟における保険金請求が認容されるならば、その総額二億五三〇〇万円であり、合計額六億一三〇〇万円の巨額の保険金を取得することとなる。
2 以上のとおり認められ、前掲各証拠中右認定に反する部分は採用せず、他に右認定を左右するに足りる証拠はないところ、右の(一)ないし(七)の事実、とりわけ、訴外Fの広島県下の実家への帰省が暴力団員らしい人物から厳しい債権取立てを受けての逃避行であった上、妻が帰宅を促すために訪れてから間もない、夜間のため冷え込みの厳しくなる年初の夕刻に家人に行き先も告げず、帰省先の実家から姿を消し、積雪のある中を右の実家を見下ろすことのできる裏山の中腹に赴くという不審な行動をしている事実、右の裏山の中腹にある笹藪の中で四日後に遺体となって発見されているが、現場にも遺体にも転倒事故等の災害に遭遇したことをうかがわせる痕跡が残されておらず、かえって、遺体が人目に気づきにくい笹藪の中にあって、脱いだジャンパーが下半身にかけるように置かれていた事実、及び、数年来訴外Fの経営する原告X1社が多額の繰越欠損金を抱えて債権者による管理下にあったところ、原告X1社では訴外Fを被保険者とする巨額の保険契約を多数締結しており、現にその半額以上が原告X1社に支払われている事実を総合勘案するならば、遺書類はないものの、厭世観と保険金取得のため、郷里の実家の裏山でウイスキーを飲んだ上、アルコール類との相乗薬理作用で睡眠効果の高まる精神安定剤を服用することにより自殺を図ったところ、入眠中降雪のある寒冷期における夜間の冷込みのため凍死した疑いが濃厚であって、原告らの主張するように、訴外Fが遺体発見現場付近の山道で積雪のため転倒した際意識を喪失したことによりそのまま凍死するという不慮の事故によって死亡したと推認することは、遺体に残されたアルコール分の残留程度からして、睡眠作用を持つ精神安定剤を服用していない単なる酩酊であったならば、夜間に次第に加わる冷込みによって覚醒することが十分想定されることからしても、困難であるというべきである。したがって、訴外Fの死亡が保険金の支払事由である不慮の事故すなわち急激かつ偶然な外来の事故によるものであるとは認め難く、原告らの被告らに対する保険金請求はいずれも請求原因の証明がないことに帰するというべきである。
第四結論
よって、原告らの請求は、いずれも理由がないので、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六五条一項、六一条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邉温)