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岡山地方裁判所 平成9年(行ウ)1号 判決

原告

X1

(他11名)

原告ら訴訟代理人弁護士

光成卓明

東隆司

近藤幸夫

宇佐美英司

山本勝敏

被告

(岡山県知事) Y1

(他18名)

被告ら評訟代理人弁護士

石川敬之

岡本健二

事実及び理由

第二 事案の概要

二 本案前の争点

本件では、住民訴訟の訴訟要件である監査請求に当たりその対象である財務会計上の行為又は怠る事実(以下「財務会計上の行為等」という。)につきどの程度まで具体的に特定することを要するかという本案前の争点がある。この点に関し、原告らは以下1のとおり主張し、被告らは以下2のとおり主張する。

1  原告らの主張

住民監査請求制度は、住民に地方行政の不正不当を糺させるために監査を求める権能を付与したものであるから、監査の対象である財務会計上の行為等については、地方行政を監視する職責を担う監査委員において調査が可能となる程度に具体的に特定しておれば足りるというべきである。原告らは、平成三年度から平成七年度までの五年間に、a部全体に多数かつ多額の空出張を内容とする出張旅費の不正支給があったと主張して、本件監査請求をしたものであるが、監査請求に当たり、a部所属職員のうち保健婦資格を有する者については、その勤務状況を明らかにするものとして出勤簿以外に保健婦活動日報が作成されており、この日報の場合出勤簿とは異なり日々記入されていたものであるから(出勤簿は年度末にまとめて記載がされていた。)、この日報と出勤簿とを対象することによって出勤簿中に記載された虚偽の出張の有無を客観的に明らかにすることができるものであり、その結果保健婦資格を有する職員に係る虚偽の出張の存在が明らかとなるならば、他の職種の職員についても同様の虚偽出張が存在する推定が成り立つ結果、当該部局の事務担当者から事情を聴取することによって出張旅費の不正支給の実態が明らかとなる旨指摘していたものであるから、監査委員は、原告らの主張に従ってa部所属職員全員に係る出張旅費の不正支給の有無を調査し、判断することが可能であったものであり、少なくとも保健婦資格を有する職員に係る出張旅費の不正支給の有無については極めて容易に調査判断することが可能であったものである。したがって、本件監査請求は、監査委員による調査が可能となる程度に具体的に特定されていたものであって、不適法であるということはできない。これに反して、個々の違法な財務会計上の行為等を他と区別できる程度に特定することを要求するならば、地方行政の不正不当の多くが行政内部における秘密事項であるため、その不正不当に対する監査請求制度の適用を初めから拒否するに等しい結果とならざるを得ないものである。

仮に、監査請求の対象とする財務会計上の行為等の特定に当たって、被告らの主張するように、個別具体的に摘示することが必要であると解したとしても、原告らは、本件監査請求においても出張旅費の請求及び受領手続を悪用した前述の期間におけるa部所属職員全員の出張旅費の支給全部が違法であるとして、その監査を求めるものであり、監査請求の対象は、この意味で人的・期間的に限定されているものであるから、右に述べる個別具体的な摘示を欠くため、監査請求の対象が特定されていないということはできない。

2  被告らの主張

監査請求における対象の特定の程度については、対象となる財務会計上の行為等につき監査委員に対し監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではなく、当該財務会計上の行為等を他と区別して特定できるように個別具体的に摘示することを要し、当該財務会計上の行為等が複数である場合にあっては、その性質及び目的等に照らし、これを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする場合を除き、右の各行為等を他と区別して特定できるように個別具体的に摘示することを要するものである。そして、監査請求書の記載並びにこれに添付された事実を証する書面の記載及び監査請求人が提出したその他の資料を総合しても、監査請求の対象が右の程度に個別具体的に摘示されていないと認められるときは、当該監査請求は請求の特定を欠くものとして不適法であるというべきである。ところが、本件監査請求は、その対象につき右に述べる個別具体的な摘示を欠くため、これが特定されているとは認め難いものである。原告らは、仮に監査請求の対象につき個別具体的に摘示することによりこれを特定することを必要とする立場に立つとしても、本件監査請求は、前述のように人的・期間的にその対象を限定しているため、特定の要件に欠けるものではないと主張するが、原告らは、特定部局における一会計年度中の出張旅費の支給全体を監査請求の対象とした上、その中に含まれる違法な財務会計上の行為等の有無を探索しようとするものであって、特定の要件を満たしているとは到底いえない。

第三 本案前の争点に対する判断

普通地方公共団体の住民が地方自治法第二四二条第一項に定める監査請求を行うに当たっては(住民監査請求制度が当該普通地方公共団体とその長又は委員会、委員若しくは所属職員間において財務会計上の行為等に関し同法第二四二条の二第一項に定める具体的な法律関係の確定を内容とする住民訴訟制度の前置手続としての位置付けを与えられていることにかんがみ、監査請求の対象とする財務会計上の行為等は、他から区別することができる程度に個別具体的に摘示して特定することが必要であり、当該財務会計上の行為等が複数である場合にあっても、右の各行為の性質及び目的等に照らしこれらを一体とみてその違法又は不当性を判断するのを相当とする事情のある場合を除き、当該各行為等を他から区別することができる程度に個別具体的に摘示して特定することが必要であると解するのが相当であって(最高裁判所第三小法廷平成二年六月五日判決・民集四四巻四号七一九ページ参照)、原告ら主張のように、監査請求の対象である財務会計上の行為等につき監査委員に対し監査の端緒を与える程度に特定すれば足りるというものではない。

本件において、原告らが自認するところによれば、原告らは、平成八年一〇月二二日、岡山県監査委員に対し、岡山県a部所属職員全員の平成三年四月一日から平成八年三月三一日までの間における旅費支給に関し違法な公金の支出があるとして監査請求を行ったものであるが、そこでは違法とされる旅費支給に係る出張職員の氏名、出張の目的及び日時場所といった具体的内容は何一つ特定されておらず、所属部局と期間をもって所属職員の出張旅費の支給に関し違法な公金支出がなされている旨包括的網羅的に主張するに過ぎないものであるから、本件監査請求は、対象の特定を欠くことが明らかであり、不適法といわざるを得ないものである。原告らは、本件監査請求が前述の期間におけるa部所属職員全員の旅費支給全部を対象とするものであり、人的・期間的に限定されているから、特定性の要件を満たした適法な監査請求であると主張するが、出張旅費の支給については各支給行為毎にその違法性の有無が問題となるものであり、右期間中における旅費支給のすべてが違法な公金支出に当たるとみるべき事情の存しない以上(この事実自体は原告らも認めるところである。)、適法な旅費支給は当然除外した上で、違法なもののみを監査対象とすべきであることは当然の理であるといってよい。原告ら主張のような特定の仕方による監査請求を認めるならば、事実上財務会計上の行為等の全般にわたって包括的網羅的な監査請求を行うことを許容する結果となり、個別の財務会計上の行為等に係る過誤の是正を通じて普通地方公共団体における財務行政の適正な運営を確保しようとした住民監査請求制度の目的から逸脱することとならざるを得ないものである。したがって、本件監査請求に係る出張旅費の支給について原告ら主張のような人的・期間的限定がなされているからといって、その対象が特定されているとは到底いえないものである。さらに、原告らは、本件監査請求では、a部所属職員の旅費支給手続のあり方そのものに問題があるため、出張旅費の支給全体を対象とするものであり、請求の特定に欠けるものでないとも主張するけれども、個々の旅費支給手続と離れて支給手続そのものを問題としたところで個別の財務会計上の行為である旅費支給における違法性の有無を確定することができるわけではなく、それゆえ違法な旅費支給を特定する必要性がなくなるというものでもないから、右の主張も理由がなく、採用の限りでない。

そうすると、本件訴えは、前提となる監査請求自体がその対象の特定を欠くため不適法として却下された結果、訴訟要件である監査請求を経ていない不適法な訴えであって、補正の余地のないものであるから、いずれも却下を免れない。

(裁判長裁判官 渡邉温 裁判官 酒井良介 石村智)

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