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岡山地方裁判所 平成9年(行ウ)18号 判決 2000年10月11日

原告

天野榮吉(X)

右訴訟代理人弁護士

五木田彬

吉木徹

被告

岡山県西部環境整備施設組合管理者 高木直矢(Y1)

被告

(前笠岡市長) 渡邊嘉久(Y2)

右両名訴訟代理人弁護士

河原太郎

主文

一  本件訴えのうち、被告岡山県西部環境整備施設組合管理者高木直矢に対する請求にかかる部分をいずれも却下する。

二  原告の被告渡邊嘉久に対する請求を棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第三 争点に対する判断

一  争点1(前記第一の一の1の請求にかかる訴えの適法性)について

前記第一の一の1の請求(本件請負契約の取消請求)にかかる訴えは、本件請負契約の締結が、地方自治法二四二条の二第一項二号の「行政処分」に該当するものとしてその取消しを求める住民訴訟として提起されたものであると解される。ここで、「行政処分」とは、行政事件訴訟法三条二項にいう行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為と同義であると解すべきところ、本件請負契約の締結それ自体は、純然たる私法上の契約の性質を有する行為であって、公権力の行使に当たらないことは明らかであり、したがって、本件請負契約の締結は右取消しの対象となりうる「行政処分」であるとは認められない。住民訴訟は、行政事件訴訟法五条の定める民衆訴訟に当たり、同法四二条により、法律の定める場合に限りこれを提起することができるものであるところ、住民訴訟として私法上の契約の取消しを目的とする訴訟を認める法令は存在しないから、前記第一の一の1の請求にかかる訴えは、住民訴訟としては不適法なものである。

また、仮に、右取消請求が、人格権等に基づき本件請負契約の取消しを求める民事訴訟であるとしても、同請求にかかる訴えは、原告の求める判決の態様からして、いわゆる形成の訴えに当たるものと解され、法定の形成要件を備えるものであることを主張して初めてその訴訟物が明らかとなるところ、原告は、何ら特定の形成要件の主張をしておらず、原告の右訴えを民事訴訟上の訴えとして認めるべき法的根拠は何ら認められず、これもまた不適法な訴えといわざるを得ない。

二  争点2(前記第一の一の2の請求にかかる訴えの適法性)について

前記第一の一の2の請求(本件建設工事の差止請求)にかかる訴えは、地方自治法二四二条の二第一項一号の差止請求として提起されたものと解されるが、本件建設工事の施工主体は同工事の受注業者である本件会社であるから、原告が差止めを求める本件建設工事の施工が右地方自治法の差止請求の名宛人である地方自治体の執行機関又は職員の財務会計上の行為に該当するとは認め難く、また、前記争いのない事実6のとおり、本件建設工事は既に完了しているのであって、もはや本件建設工事を差し止める余地はなく、本件建設工事の差し止めを求める訴えの利益は認められないから、いずれにしても前記第一の一の2の請求にかかる訴えは不適法なものである。

なお、右差止請求も、人格権等に基づく民事訴訟と解する余地があるとしても、本件建設工事の完了により訴えの利益が認められないのは右住民訴訟としての差止請求にかかる訴えの場合と同様であるから、そのような訴えとしてもやはり不適法である。

三  争点3(本件請負契約の締結及び本件公金支出の違法性)について

1  違法性判断の枠組みについて

原告は、本件ごみ処理施設が新ガイドラインに違反することをもって、直ちに本件請負契約の締結及び本件公金支出が違法となる旨主張するかのようである。

しかし、新ガイドラインは、ごみ処理施設から排出されるダイオキシンの規制に関し、中長期的な国の施策の基本方針を示したものではあるが、その様式及び趣旨に照らせば、その名の示すとおり「指針」に過ぎないものであって、これ自体が当然に法的拘束力を有するものであるとまでは認められず、これに反するからといって直ちに違法の問題が生じるわけではない。

原告は、本件請負契約の締結及び本件公金支出の違法性の法的根拠として、地方公共団体の事務処理に関する地方自治法二条三項一号、一三項(なお、平成一一年七月一六日法律第八七号による改正〔平成一二年四月一日施行〕によって、同法二条三項一号は特に経過措置の定めもなく削除され、同一三項は同一四項に改められており、右改正後の同法二条一四項の適否が問題となる。)や廃棄物処理法六条の二第二項、同法施行令三条一号イ・ロ、二号に違反し、あるいは同法八条二項一号、同法施行規則附則(平成九年八月二九日厚生省令第六五号)九条二項に実質的に違反すると主張するが、これらの法令は、いずれも抽象的であるか又は具体的であっても現在その適用がないもの(右厚生省令)であり、結局のところ、財務会計上の行為の是正を目的とする住民訴訟制度の趣旨からすれば、本件請負契約の締結及び本件公金支出が違法となるためには、本件ごみ処理施設の建設が新ガイドライン等の国の施策に違反するか、経済的合理性を欠くものか、もし、右の違反や合理性の欠如が認められるのであればその態様や程度等を総合的に斟酌して、本件ごみ処理施設建設のための本件請負契約の締結及び本件公金支出が本件組合の裁量の範囲を超えて著しく合理性を欠き、そのためこれに本件組合の財務会計上、看過し得ない瑕疵が認められることが必要であるというべきである。

以下、このような観点から検討する。

2  本件ごみ処理施設の概要等

前記第二の二の争いのない事実に〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(一)  本件組合は、昭和四二年の設立時から第一期ごみ処理施設建設工事を行い、昭和五〇年には、第二期ごみ処理施設建設工事を行って、一日八時間稼働のストーカ型焼却炉二基から成るごみ処理施設(以下「旧ごみ処理施設」という。)を完成させ、その後、昭和五八年ころから、同施設の修繕を行ってきたが、同施設の焼却炉の耐用年数や処理能力の限界から、平成四年二月には、本件組合の議会で新しいごみ処理施設建設計画の方針検討及び調査測量実施のために予算措置が講じられ、民間企業に一般廃棄物処理基本計画の策定等の業務を委託するなどして新たなごみ処理施設建設の検討を行い、平成六年四月に、本件ごみ処理施設用地を購入した上、同年一〇月には、本件組合の内部にごみ処理施設建設事務局(以下「建設事務局」という。)を設置して本格的に第三期ごみ処理施設建設工事計画の策定を行った。

(二)  建設事務局においては、旧ごみ処理施設でのごみ焼却の適正管理の一つとして、ダイオキシン発生防止のため、旧ガイドラインに基づき、ごみの焼却温度を九〇〇度以上とし、集じん器入口温度を二五〇度から二七〇度まで減温する運用をしていたが、本件ごみ処理施設についても、旧ガイドラインを遵守できるように、炉内温度を八〇〇度から九五〇度に保持し、集じん器入口温度を二〇〇度以下にすることを前提として、本件焼却炉の構造及び設備を検討した。

(三)  ところで、厚生省「ごみ処理施設構造指針」によると、ごみ焼却施設は「連続燃焼式」と「バッチ燃焼式」に大別され、さらに、連続燃焼式は一日二四時間連続稼動の「全連続燃焼式」と一日一六時間稼動の「准連続燃焼式」に分かれる。また、バッチ燃焼式は一日の稼動時間が八時間で、機械化の程度により火格子の一部又は全部を動力によって運転させ、火床の撹拌、灰の搬出などを機械化した「機械化バッチ燃焼式」とそのような形をとっていない「固定火格子燃焼式」とに分けられる。

そして、ダイオキシンの毒性は強く、ごみ処理施設から発生するダイオキシンの削減を図る必要性があるところ、ごみ焼却時のダイオキシンの発生は、完全燃焼させることにより抑制することができるとされているが、焼却炉の立ち上げ・立ち下げ時には燃焼が不安定になりやすく、一般的にダイオキシンの発生が増大することから、立ち上げ・立ち下げ時のダイオキシンの発生防止の見地からは、間欠運転を行うバッチ燃焼式や准連続燃焼式に比して全連続燃焼式の方が望ましい。

(四)  本件ごみ処理施設は、一日八時間稼働の間欠運転を行う処理能力五〇トンの流動床式焼却炉二基(合計処理能力一日一〇〇トン)から成るものであり、本件焼却炉は、全連続炉を採用していない。しかし、連続運転時間が長いほどごみ処理施設としての規模が大きくなることから、本件組合においては、一般廃棄物処理計画及び将来のごみ量の予測に基づき、本件ごみ処理施設のごみ処理量を一日一〇〇トンと決定していたこともあって、右ごみ処理量に見合った運転時間として、一日八時間稼働の施設を選択し、その一方でダイオキシン対策のため、本件焼却炉の燃焼装置の形式につき、ストーカ炉に比して立ち上げ・立ち下げ時におけるダイオキシン発生量の少ない流動床式焼却炉を採用し、固定式バッチ炉に比してダイオキシン発生量の少ない機械化バッチ炉を採用した。そして、その他の仕様については当時の法令及び旧ガイドラインに適合させた上で、新ガイドラインの通知を受け、仕様を一部変更して、反応助剤を吹き込む装置を導入することにより、いったん本件焼却炉内で発生したダイオキシンを吸収して除去することとしてダイオキシンの削減について一定の配慮をしている。

3  本件焼却炉が新ガイドライン上の新設炉にあたるか否か

新ガイドラインでは、明確な規定はないが、「ごみ焼却施設の建設に当たっては、着工から竣工まで二~三年程度かかることから、ここでは、平成五年度以降に稼働した施設を、旧ガイドラインが策定された後に旧ガイドラインに基づいて建設されたものとみなした。」(二頁)とされており、旧ガイドラインが平成二年一二月に策定され、新ガイドラインが平成九年一月に策定されたことを併せ考えると、新ガイドラインの策定から二、三年後以降に稼働を開始する施設を新ガイドラインに基づくものとする趣旨と解される。なお、新ガイドラインの「仮定」の項(五頁)で、焼却炉の耐用年数を二〇年とすれば、二〇一六年(平成二八年)にすべて全連続炉に置き換わるとしていることからすれば、二〇一六年から二〇年前、すなわち一九九七年(平成九年)時点で既に稼働を開始している焼却炉が既設炉であると解されないではない。しかし、同項は、その標題のとおり、ごみの焼却量を一定とし、焼却炉の耐用年数を一律に二〇年とする仮定に基づくものである上、新ガイドライン自体が既設炉につき原則として全連続運転をすることを提言していることからしても、右記載をもって、平成九年時点で既に稼働している焼却炉のみを既設炉とする趣旨とは必ずしも解されない。一般に、ごみ焼却施設の建設が着工から竣工まで数年程度を要することは公知の事実であって、新ガイドラインにおいても、その旨明示し、そのような前提で旧ガイドライン適用炉の範囲を定めているのであるから、かかる新ガイドラインの趣旨を推し進めれば、新ガイドラインの適用される新設炉の範囲についても同様に考えるべきである。

そうすると、前記第二の二の争いのない事実のとおり、新ガイドラインは、平成九年一月に策定され、本件ごみ処理施設は、新ガイドラインが岡山県を通じて本件組合に通知された同年二月の時点において、本件建設工事は、既に開始され、工事設計、プラント設計、現場工事を合わせた全体工事が一五パーセント進捗していたが、完成はしていなかったところ、新ガイドライン策定後二年余り経た平成一一年三月一六日から稼働を始めた本件焼却炉は、新ガイドライン上の新設炉には当たらず、既設炉と解するのが相当である。

新ガイドラインは、その内容のうち、ごみ処理施設の構造・維持管理にかかる部分等も廃棄物処理法上の基準として位置づけることを検討することとしており(三頁)、これを受けた廃棄物処理法施行規則附則(平成九年八月二九日厚生省令第六五号)二条が、廃棄物処理法及び同法施行規則の改正に当たり、既に同法九条の三第一項の届出をしているごみ処理施設等について改正後の規則の規定を適用しないこととしたことも、右解釈を裏付けるものである。

したがって、本件ごみ処理施設は、新ガイドライン上、全連続炉でなければ建設することができないというものではなく、全連続炉への転換までは当然には要請されていない。

4  本件焼却炉を全連続炉に変更することが可能であったか否かについて

(一)  前記第二の二の争いのない事実に〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実を認めることができる。

(1) 本件組合は、平成七年四月、第三期ごみ処理施設建設工事計画を策定し、平成八年六月二七日に実施された指名競争入札の結果、本件会社が本件建設工事を落札し、同年七月一二日、本件組合と本件会社との間で本件請負契約が締結され、本件建設工事は、同月一三日に着工された。

(2) そして、本件建設工事については、入札により受注者が決定する前に基本設計が完了している性能発注方式によって契約がなされ、発注以降は実施設計、施工の段階となる。その後、新ガイドラインが本件組合に通知された平成九年二月時点では、<1>工事設計が六五パーセント、<2>プラント設計が一五パーセント、<3>現場工事が一二パーセント、<4>全体工事(右<1><2><3>の総括)が一五パーセント程度進捗しており、具体的には、焼却炉の製作が始まり、建築確認がなされ、同月下旬にはろ液噴霧ポンプ、混練機、白煙防止用送風機、ごみ汚水ろ過器等が、同年三月二六日には流動床炉(焼却炉本体)が完成し、検査も終了した。

(3) 新ガイドラインの通知を受けた本件組合は、本件会社と協議して反応助剤を吹き込む設備を導入した。

しかし、当時全連続運転炉に設計を変更するためには、本件建設工事の進捗状況等からして、予定どおりの工期で完成することは困難であり、また、これに伴って既に製作をしていた物について本件会社に生じる損害等を清算する必要が生じたり、国からの補助事業を辞退せざるをえなくなるおそれが生じるなど本件組合に相当の負担が求められることとなることが予想された。

また、当時稼働していた第二期工事にかかるごみ焼却炉は老朽化し、処理能力が低下しており、修理費も必要で、本件ごみ処理施設の完成が遅延することによりごみ処理業務に支障が生じる恐れもあった。

(二)  右のとおり、本件焼却炉を全連続炉に変更すること自体は不可能なことではなかったと認められるところ、前記のとおり、一般論としてはダイオキシンの削減の見地から、ごみ処理施設の運転方式としては、全連続炉がより望ましいものである。

しかしながら、現に建設中のごみ焼却施設について、費用の点を無視して、いかに費用がかかっても全連続炉に変更すべきであるとするのは、その額によっては、かえって右変更が原告が主張する地方自治法二条一四項に抵触する可能性もあるし、また、右認定のとおり、工期の遅延により、本件組合のごみ処理業務に支障をきたす可能性があったのであり、さらに、新ガイドラインが、恒久対策の実施に際し、間欠運転の既設炉についても一定の基準値を定めている(八頁表1)ことからすると、費用や地域におけるごみ量、その他種々の条件から考えて全連続炉への転換が容易でない既設炉は、この基準値を守るならば、その存続を許す趣旨であると解され、新ガイドライン自体、間欠運転の既設炉につき、費用負担を無視して全連続炉に転換することまで要請するものではないと解される。

したがって、被告らの主張するように、新ガイドラインが本件組合に通知された時点で全連続炉への転換を実行すれば、工事計画を全く白紙に戻して一からやり直さなければならなかったとまでは認められないが、右転換を現実に実施するか否かは、結局のところ本件組合や被告組合管理者らにおいて、建設費用の増大する額や費用対効果の面、延長される工事期間の長さやこれに伴う不利益の程度等を考慮して決すべきであって、これらは本件組合等の裁量権の範囲に属する問題であったと認められるのであり、前記のような工事の進捗状況からすれば、相当の費用負担の増大や工事期間の延長が予想されたのであるから、被告らが右見直しをしなかったからといって、これをもって直ちに著しい裁量の逸脱があったとはいえない。

5  本件ごみ処理施設から発生するダイオキシンが新ガイドラインの基準値を満たすか否かについて

〔証拠略〕によると、平成一一年三月二六日に稼働中の本件焼却炉二基において、「廃棄物処理におけるダイオキシン類標準分析測定マニュアル」(〔証拠略〕)に依拠して試料採取がなされ、ダイオキシンの排出濃度の測定が行われたこと、右マニュアルによるとダイオキシン類の測定は、「四時間平均を基準とし炉の燃焼状態が安定した時点から、最低一時間以上経過した後に資料採取を開始する。」とされており、法令上も同様の定めがされている(廃棄物処理法八条の三、同法施行規則四条の五第一項三号チ、同条項にいう「厚生大臣の定める方法」として「ダイオキシン類の濃度の算出方法」〔平成一一年三月三日厚生省告示第二三号〕があり、これによると、同名の厚生省告示〔平成九年一二月厚生省告示第二三四号の1〕の定める方法によるものとされ、その(3)イで「廃棄物の燃焼状態が安定した時点から一時間以上経過した後採取を開始し、四時間採取することを原則として、」とされている。)こと、本件ごみ焼却炉から排出される高温のガスは、まずガス冷却室で冷やされた上、ろ過式集じん器に至り、その中のバグフィルターを通じて排ガス中の飛灰・ばい塵を除去され、誘引通風機によって煙突に導かれ、これを通って外部の空気中へ排出されるが、大気中に放出されるダイオキシンの削減が問題である以上、処理の途中であるバグ入口での濃度を問題とするのは相当ではなく、空気中へ排出される煙突の入口での濃度を基準とすべきであること、そうすると、本件焼却炉二基の安定運転時におけるダイオキシンの排出濃度の測定結果は、それぞれ〇・〇六三ナノグラム―TEQ/N立方メートル(A系)、〇・〇二七ナノグラム―TEQ/N立方メートル(B系)であるから、現行の廃棄物処理法、同法施行令及び規制の強化される平成一四年一二月以降の基準値を優に満たすことになり、また、新ガイドラインの「表1恒久対策の基準」(八頁)に照らすと、既設炉の基準値は優にクリアし、最も厳しい全連続炉の新設炉の基準値である〇・一ナノグラム―TEQ/N立方メートルをも満たしていることが認められる。

原告は、新ガイドライン等の趣旨は最もダイオキシン発生量の多い焼却炉の立ち上げ・立ち下げ時の抑制にあるとし、この時点での濃度測定を対象としないのは不当であるなどと批判する。確かに、ダイオキシンの発生抑制の見地からすれば、右批判も理由がないわけではないが、前記の測定方法が法令上も定められたものであること、〔証拠略〕によれば、立ち上げ・立ち下げ時の燃焼は、ごみの量や空気の供給具合等により、その状態が左右されやすく、不安定な状態であることが認められ、このような状態でのダイオキシンの発生量の測定をしても、その数値の信頼性は必ずしも高くないものと思われること、新ガイドラインが既設炉として全連続炉以外の焼却炉の存在も認めていることから、立ち上げ・立ち下げ時に、ある程度ダイオキシンが発生することも許容していると解されるところ、本件焼却炉はストーカ炉に比して立ち上げ時間の短い流動床式焼却炉であり、前記測定の結果基準値を遥かに下回る数値が出ていることから、立ち上げ・立ち下げ時も含めた全体としてダイオキシン排出量が問題視されるほどのレベルには達していないと考えられることからすれば、原告の右批判は当たらない。

したがって、本件ごみ処理施設から発生するダイオキシンは新ガイドラインの基準値を下回るものであると認められる。

6  地元住民の合意について

前記第二の二の争いのない事実に〔証拠略〕を総合すると、本件組合は、本件ごみ処理施設の建設に先立ち、これに隣接する三町五地区で地元住民に対する説明会を実施し、本件ごみ処理施設から排出される煙等の問題についても説明をしたが、その際、住民からは「夜間に煙を出さないように。」などの要望がなされ、最終的にはすべての地区の住民の合意を得た上、本件建設工事に着手していること、また、右説明会の際に、地元住民からダイオキシン問題について質疑がなされ、ダイオキシンの問題があることは、地元住民にも明らかになっていたこと、そして、結果的には地元住民の要望に添う形で八時間運転炉が採用、建設されたことが認められる。

これらの事情からすれば、本件組合が、地元住民の意思を軽視して本件ごみ処理施設の建設を強行したとはいい難い。

7  本件建設工事の費用面での合理性の有無について

前記第二の二の争いのない事実に〔証拠略〕を総合すると、本件ごみ処理施設の建設計画がなされるに至ったのは、昭和五〇年ころに建設されたごみ焼却炉が老朽化し、度々修繕をしなければならず、多額の修繕費を必要とする上、処理能力も劣っていたことからであること、本件ごみ処理施設は、平成一七年度を計画目標年次とし、その計画収集人口、計画一人一日平均排出量(排出原単位)を予測し、計画年間日平均処理量(焼却対象ごみ量)を算出し、これを基礎として、計画月最大変動係数、炉型武、施設の稼働率を考慮し、さらに、既存施設の能力や二炉であれば、一炉が修繕中もごみ処理に支障はなく、また、予想を超えるごみ量にも対応でき、現行の八時間の人員体制では、二四時間の人員体制をとるより、人件費を節約することができ、八時間運転炉を建設する費用は、規模が大きくなる分二四時間運転炉の費用より高いが、人件費も考慮するとかえって八時間炉の方が少ない費用で運転できることなどの施設稼働体制等も勘案してその規模が決定されたこと、加えて、従前、地元住民の一部から夜間の煙の悪臭に対する苦情があり、夜間の煙の問題を解決することが地元住民の同意を得るために必要であったことが認められる。

右事実によれば、単にごみ焼却炉の建設費を比較すれば、八時間運転炉の方が二四時間運転炉に此べて施設の規模は小さくて済む分施設建設費は低額となるとしても、夜間、施設を稼働させることによる人件費の増大も考慮すると全体として必ずしも二四時間運転炉が有利であるとはいえないし、これまでのごみ処理施設と住民との関係等を考慮すると、本件ごみ処理施設の建設は、正当な理由に基づく適正規模のもので、本件組合の裁量の範囲内のものであると認められる。

また、原告は、本件ごみ処理施設の建設費が本件会社の建設した他の同規模施設に比べて不当に高いものであると主張するが、これを認めるに足りる証拠はなく、かえって、本件請負契約の締結が七社による指名競争入札の結果によるものであることからすれば、適正な価格であることが推認できる。

8  まとめ

以上検討したところを総合すると、本件ごみ処理施設は廃棄物処理法等の関係法令に違反するものではないし、現に発生するダイオキシンの量も相当低いレベルに押さえられているなど新ガイドラインの趣旨に十分沿うものであり、その建設は地方公共団体の裁量権の範囲内でなされたものであると認められる。したがって、本件ごみ処理施設の請負代金の支払としてなされた本件公金支出が著しく合理性を欠くとか、あるいは右支出に地方公共団体の財務会計上、看過し得ない瑕疵があるとは認められない。

第四 結論

以上のとおり、原告の本件訴えのうち、被告組合管理者に対する請求(本件請負契約の取消請求及び本件ごみ処理施設建設の差止請求)にかかる部分はいずれも不適法であるから却下し、被告渡邊に対する請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野木等 裁判官 村田斉志 畑口泰成)

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