岡山地方裁判所 昭和24年(ヨ)91号 決定
申請人 全日本造船労働組合玉野分会
右代表者 分会長
被申請人 三井造船株式会社
一、主 文
本件申請は之を却下する。
申請費用は申請人の負担とする。
二、申請の趣旨
被申請人が昭和二十四年十二月三日玉野労働基準監督署に届出た、被申請人会社の従業員就業規則変更の効力を停止する。被申請人は昭和二十四年三月一日作成した当時の従業員就業規則を以て其の就業規則としなければならない。
三、事 実
一、被申請人は、其の本店所在地を登記簿上は東京都中央区日本橋室町二丁目一番地の一と記載して居るが、事実上は玉野市玉野十番地に本店を有し、資本金一億四千万円の鋼船の新造修理及び化学機械の製作等を目的とする株式会社であり申請人は全造船労働者を以て組織する全日本造船労働組合所属の組合員中被申請人に雇傭せられて居る労働者を以て組織する労働組合である。
二、被申請人は昭和二十四年三月一日申請人との協議に基き従業員就業規則(以下旧規則と略称する。)を作成し、同規則第九十四条は、「この規則を改正する必要を生じた場合は労働組合との協議によつて行う。」と定めて居る。
三、ところが被申請人は昭和二十四年十一月下旬旧規則改正を企て、申請人と協議することなく大変更を加え、同年十二月三日其の旨所轄玉野労働基準監督署に届出で改正就業規則(以下新規則と略称する。)を以て被申請人の就業規則とするに至つた。
四、しかして被申請人は右変更に当り、昭和二十四年十一月二十六日労働基準法に従い申請人の意見を求め其の囘答を同年十二月一日迄に提出すべき旨一方的通告をした。然し乍ら当時は申請人と被申請人との間には賃上問題に付き正面衝突し闘争状態にあり、申請人組合の執行部は連日奔命に疲れて居た上更に前記旧規則にも違反する通告であり、改正内容も重要部分の全面的改正であるので到底五日間で審議し得るものではなく、且つ被申請人は従来申請人の団体交渉申込にも応じない不誠意な態度を持して居たので、右一方的申込には答えず、同年十二月五日に被申請人に対し、「規則変更は旧規則第九十四条に違反する無効なものである。」旨通告した。
他方被申請人は同月二日申請人に対し「指定の五日内に意見がなかつたから申請人は規則変更を承認しないとみなす。」と通告し、前記の如く規則変更を届出たものである。
五、元来就業規則は企業に於ける自治立法であり、労働基準法は労働者の保護法として、其の作製変更に当つては少く共労働組合の意見を聴かねばならぬ、と定め使用者の恣意専断を禁じて居り、企業は労使双方の努力により運営せられるもの故双方協議納得の上規則を制定するのが民主的であり、規則がよりよく遵守せられる所以である。又一旦就業規則が制定せられた以上労使共之に拘束され、当事者間の労働協約が失効するも独自の存在たる規則が失効するものではない。
六、故に被申請人の本件規則変更は一応労働基準法に定めた手続には従つて居るものの同法は最低の基準に過ぎず就業規則に違反した以上同法第一条第二項、第二条第二項の趣旨からも無効であること明白である。
七、申請人は右理由により規則変更の無効確認の本訴準備中であるが、就業規則は会社の法規として申請人組合員を拘束するので、本案判決確定迄待つ時は申請人に於いて不測著大の損害を生ずる虞があるので就業規則変更の効力停止及び旧規則を以て就業規則としなければならない旨の仮処分を求めるものである。
(立証省略)
四、理 由
先づ管轄に付いて按ずるに、
一、被申請会社の本店所在地は東京都であるが、玉野市に支店を置いて営業を行つて居り、本件は従業員就業規則改正に付いての仮処分申請であつて、就業規則は各事業場に於ける規則であり、本件就業規則も玉野市に存在する事業場に付いての規則であるから、民事訴訟法第九条により右事業場の所在地の当裁判所に管轄がある。
二、疏甲第一号証、第二号証の一、二、第五号証及び尾高瀞、加藤五一の供述を綜合すれば、
被申請会社が昭和二十四年三月一日定めた旧就業規則第九十四条に就業規則を改正する必要を生じた場合は組合との協議によつて行う旨規定してあるに拘わらず、組合に協議を求めることなく、同年十一月二十六日五日間の囘答期限を付して規則変更に付き組合の意見を求め、申請分会は右期限内に被申請会社に意見を述べなかつたので、被申請会社は同年十二月三日所轄玉野労働基準監督署に就業規則変更を之に対し組合が意見を提出しないものとして届出でたこと、当時当事者間は争議状態にあり、其の間の労働協約は同年十月二十九日失効して無協約状態にあつたことが認められる。
三、しかして申請分会は右規則変更は協議を求めなかつた点に於いて就業規則に違反し、結局労働基準法第一条第二項、第二条第二項の趣旨にも反し無効であると主張するので以下此の点に付いて按ずることとする。
四、就業規則は元来職場に於いて秩序を維持する為従業員一般が就業上守るべき規律又は労働条件に関する具体的細目等を定めた規則類の総称である。労働基準法によれば就業規則は法令又は当該事業場に付き適用される労働協約に反してはならず、使用者がその作成変更をしようとする場合は当該事業場に従業する労働者の過半数で組織する労働組合等の意見を聴いた上右意見書を添付して監督行政官庁に届出なければならぬと規定して居る。
右によれば就業規則の作成変更は、使用者の経営権の範囲に属するもので使用者が一方的に規定し得ることを前提とし、労働者の保護を計る為使用者に就業規則の成文化と周知義務を要求すると同時に、労働者の意見を尊重する意味の下に規則の作成変更に付き組合の意見を求めた上監督官庁に届出しめて、法令乃至協約違反のないように国家的監督をなす趣旨と解すべきであろう。
従つて労働者が労働条件を改善し事態を自己に有利に発展せしめる為には組合の争議権をバツクとした団体交渉により使用者をして労働者に有利な労使の共同決定たる労働協約の締結を認めさせ、或いは労働条件の細目等を定める就業規則の作成に付いても組合が参加し得る内容を盛ることが可能であり、右協約を締結すれば爾後使用者は之に拘束され労働条件等に付き規定した協約の所謂規範的部分に違反する使用者の処分は総て無効となることは労働組合法第十六条に明記するところである。
五、本件に付き考えるに、労働協約は既に失効して居り、就業規則に付いては有効期間等の定めがないのでその効力は存続して居るものと認めるべきであるが前記の如き協約と規則の本質並びに其の関連等を綜合考案すれば、旧規則(疏甲第一号証)の前記第九十四条の趣旨は規則改正に付き労働組合との間の円満協調を期する為改正に付き組合と協議を経ることとしたものであつて、労働組合と協議の上でなければ改正出来ないとか又は労働組合と協議なく行つた規則改正は無効であるとする趣旨ではないものと解するを相当とし従つて右条項に違反した本件規則変更は妥当ではないが、之により右変更を無効なものと認むべき理由はなく、前記協議条項に違反した本件規則の改正は之を有効なものと認むべきである。
六、又規則変更に対する意見囘答期限が五日間であつたことは変更の内容が疏甲第二号証の二と旧規則との対照により明な如く労働者に不利と解せられるものであり、且つ当時者間は争議状態であつた本件場合に於いても猶予期間として相当でないと言い難いのみでなく、申請分会に於いては期間内に之に対する期間延長方も協議請求も全然申入れることなく経過し、被申請会社が行政官庁に対し規則変更を届出た後になつて始めて争つた(疏甲第四号証)ものであり、労働基準法に於ても規則変更に付き組合が同意せず反対意見を附した場合であつても其の意見が拘束力を有するものではなく前記の如く組合の意見を尊重する為の手続と解すべき点等を比較考察すれば之を以てするも規則変更が無効となるものと認めることはできない。
七、勿論申請分会主張の如く労働基準法は最低基準を定めたものであり、又就業規則は関係労働者を一般的に拘束する趣旨で法規と称するのが妥当であろうけれ共、此のことは前記認定を覆す論拠とはならない。
八、以上により申請分会の本件申請は理由なきものとして却下し、申請費用に付き民事訴訟法第九十五条、第八十九条を適用し主文の通り決定する。
(裁判官 中島貢 菅納新太郎 辻川利正)